イリヤを救う為なんだ!   作:大いなる犠牲

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最後の希望

「――残念だったわね」

 

衛宮士郎と別れて暫く、イリヤスフィールは手を引く妹に向けてポツリと呟いた。

 

「うん……でも、パパはこの街の何処かにいるって知ってるから大丈夫ぶ」

 

「――そうね」

 

ぎゅっとその手を強く握り返す彼女に、イリヤはもう帰ろうと言い出せなかった。

 

 

この街に訪れて直ぐの事だ。

元々、あの男が帰らなかったのは何らかの理由があるのだと考えていたイリヤはメイド達に命じて衛宮切嗣を探し出し、自身の前に引き摺り出して、その頭を思いっきり踏みつけてやると黒い感情に支配されていた。

本当は、自分たちが味わった苦痛と同じぐらい、いやそれ以上にぐちゃぐちゃにしてやりたかったが、それはウルが望んでいない。ウルは私よりも六歳年下で、まだ言葉も上手く話せない時から頑張った。

あの子には報われる権利がある筈だ。

姉として、例えそれだけで許せなくともその怒りと憎しみを飲み込んで、家族として戻れる……かと思えばなんだ。

 

あの男はお母様もウルや私も忘れて、見ず知らずの弟と幸せに暮らして……病死しました?

 

ふざけている。

 

『パパを探しにいこう!』

 

冬木市に着いて、いの一番に私の手を引いた彼女。

これではあまりにウルが報われない。せめてあの男に少しばかり家族の温情さえ残っていれば遺言などという手段もあり得たのだろうが、義理の弟である衛宮士郎は私たちの存在すら把握していない正真正銘の一般人。

 

ジリジリと胸の内で、もどかしい気持ちが高まりつつあった。

 

それから数時間ほど、故人を求めて二人は歩いた。

途中、商店街らしい場所に着いて、ウルはこんな所にキリツグが居るわけないと引き返そうとしたけれど、私は魚の形をしたパンから漂う甘い香りに誘われて、彼女の手を引っ張った。

 

『鯛焼き』

 

「ウル、あれ美味しそうじゃない?」

 

「でも、お金ないよ」

 

「ふっ、ふっ、ふっ……お姉ちゃんに任せなさい!」

 

イリヤは得意気に長財布を取り出す。

アインツベルン城で、ジャパンは食文化が発展してと知ってから密かにウルと買い食いする事を計画していた彼女は、予め聖杯戦争の資金として用意された一部をくすねていたのだ。

 

「……でも」

 

「はいっ!」

 

鯛焼きの一つを差し出す。ウルは申し訳なさそうにそれを受けとるがイリヤは知っている。ウルは大の甘味好きであり、更にこの手のびーきゅーグルメは大好物だ。キリツグのことで逸る気持ちもあるのだろう。けれど、肉体的にも精神的にもウルはまだまだ子供だ。

恐る恐る、未知の甘味を口元に近づけて――パクり。

 

「おいしい!」

 

「ほら、お姉ちゃんの言うとおりでしょ!」

 

「うん!」

 

ウルのその笑顔さえあれば私はいくらでも頑張れる。

無条件にそう思った。

 

 

 

けれど、ウルの笑顔ももうすぐお預け。

 

「――今日は、楽しかったね」

 

「そうね」

 

キリツグの事をウルに打ち明けるべきか、最後まで黙っておくべきか、答えは出なかった。

 

『―――お嬢様、そろそろ日が暮れてしまいます』

 

イリヤの耳元に忍ばせていた針金の使い魔がそう告げる。

聖杯戦争はまだ正式には始まっていない。それでも夜になれば闇討ちを企む者がいないと言いきれない。魔術師とは元来目的の為なら手段を選ばない生き物だ。日が沈まぬ内に魔術師が工房で用心するのは最低限の常識と言えるだろう。

 

「ウル、セラの言うことをちゃんと聞いて、寝る前にはちゃんとお薬飲むのよ?」

 

「……ぅぅん。分かった」

 

お爺様との約束により、私は山奥にある屋敷、

ウルはとある一軒家を装った家屋と、拠点を別々にしている。

 

十二歳の妹を異国の地で目の届かない場所に住まわせるなんて、不安で胸が張り裂けそうになるが、ウルのサーヴァントがキャスターだった事が幸いした。

彼女に掛かればただの民家も神代の魔術工房と化すのだから余程の事がない限りは私の屋敷よりも安全だろう。

 

涙目になって名残惜しそうに此方を見つめるウルには後ろ髪引かれる思いがあった。

 

だけど……大丈夫だよ。ウルは私が守るから。

 

 

「――おねえちゃんまたね!」

 

「また明日」

 


 

ウルエ・フォン・アインツベルン

キャスターのマスター

小聖杯の器

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