イリヤを救う為なんだ!   作:大いなる犠牲

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黒聖杯

「お嬢様、ランサーの零基が消失したと今朝方、聖堂教会から通達がありました」

 

「……そう」

 

「そして、リズを通してイリヤお嬢様に確認を取った所……聖杯は回収していないと」

 

突如、嫌な空気になった。

セラの目は細められ、疑りの目が向けられている。

朝食を終え、優雅に紅茶を楽しんでいたキャスターはその形の良い眉を歪めて息を吐いた。

 

「昨晩はどちらへ?」

 

「家に居たわ。昨日届いたパソコンを一日中いじくっていたから少し眠いの」

 

少し隈のある瞼を擦ってウルは欠伸を漏らした。

 

 

「貴方というお方は――」

 

「言っておくけど、私は何もしていないわよ?」

 

キャスターは先んじて言葉に出した。

 

一世紀以上の年の差のあるイリヤスフィールに出し抜かれたアハト翁唯一の采配は、水と油とも言うべき怠け者のウルと堅物のセラを同伴にさせた事だろう。

 

「何なら令呪で確認しても構わないわ。

私はマスターに掛けられたギアスに干渉はしていませんし、ランサーと衝突した覚えはありません」

 

イリヤスフィールが小聖杯の器として完成するのは彼女自身は勿論、アインツベルン総意の悲願。仮にも器としての機能を持つウルと云えど、その完成度は前作のアイリスフィール・フォン・アインツベルンに及ぶも並ばない。

真作を前にしてウルという劣化品が小聖杯として機能するのはアインツベルンの誰にとっても面白くないのだ。

 

もう片方のメイド……確か、リズベットと言ったか。

あのマイペースさなら、ウルとの付き合い方ももう少し緩和出きるのだが、この女――セラはダメだ。

 

キャスターはアインツベルンにいる間、小聖杯の製造についてかなり詳しく調べ回ったが、最終的にガワである人体を破壊して黄金の器を顕現させる小聖杯の特性として、サーヴァントの零基を回収するごとに身体機能は失われていく。

人の業をこれ以上ないほど煮詰めた残酷な製法だが、重要なのは身体機能が失われていくと云うこと。

 

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器として産まれても、アハト翁はそうあるように調整していないのだ。

だから、彼女がランサーの零基を取り込んでいない事をセラは知っている。

 

「分かりました。今回の件は彼女に免じて不問に致しましょう」

 

マスターも素直に心当たりがないと言えば良いのに何故はぐらかすように立ち回るのか。

……キャスターは二人の仲の悪さに項垂れる。

 

昨夜、ウルが私を連れてこの家を離れた事は事実だ。

だがランサーの件には一切関わっていない。片っ端から他の陣営と接触し一戦交えていたランサーの脱落は恐らくは他の陣営によるものだろう。

ヘラクレスに叩きのめされたセイバーのマスターの精神に干渉し、何やら少し話し込んでいたようだが、今回の事件とは全く関係ない内容だと思う。

 

 

……しかし、奇妙な話だ。消滅したランサーの零基は何処へ行ったというのか、少しだけ探ってみようかとキャスターは思案する。

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