イリヤを救う為なんだ! 作:大いなる犠牲
イリヤスフィールにとって、ウルは最愛の妹で、
例えこの命がどうなろうとも守りたい希望だった。
「……お母様?」
でも、ウルは私に心を許してくれなかった。
ウルの一番はキリツグで、その胸の温かみに本当の意味で安らげるのはお母様のまま。
―うぅうう゛う゛―
ウルは毎日泣いている。ベットの中や食事の途中で。
ずっと辛そうな顔をして、時には気絶することもあった。リズやセラに聞けば全身の魔術回路を強引に開き、神経に同化させる痛みに耐えられないのだという。
痛覚遮断の魔術を掛けてあげようとしたらお爺様に止められた。「あれの兆候をみるのはお前の為でもあるのだ」……と。
こんなのおかしいって思った。
「……ねぇ、ウル。何か食べないと」
ウルは日に日にやつれていった。キリツグみたいに何にも映さない暗い目になって、ついに食事にも顔を出さなくなり、お爺様に呼ばれて行く時を除けば寝室からめっきり出てこなくなった。
――怖かった。
家族を失い、この孤城で独りぼっちになってしまうのが。
少しでも調整の頻度や負担を減らせないかとお爺様に頼みこんだがキリツグが悪い。キリツグのせいだって言われて受け入れて貰えない。いくら回数を重ねても駄目だった。
「……ちゃんと休みましょう?」
ベットの中で目を見開き、決して眠ろうとしない。
素人目に見ても分かる、ウルはとっくの昔に壊れていた。お母様が居なくなってキリツグが裏切ってからずっと睡眠時間よりも調整と称した拷問の時間が長く続き、
じわり、じわり、と彼女に忍び寄る死の影は目前へと迫っていた。お母様の代わりは私では務まらなかったのだ。
「いやだよ。ウル……」
それでも私はそんな現実を見たくなくて、無理やりベットに寝かせてお母様のように子守唄を歌う。
―……おねえちゃん―
「ッゥ!?どうしたの!」
その日は珍しくウルが顔を上げて、返事をしてくれた。
何も特別なことはない……強いて言えば、キリツグの誕生日だったことぐらい。
久しぶりにその声を聞いたイリヤは顔をパァっと明るくさせて、続けて話そうとするウルの言葉を決して聞き逃さないように耳を澄ました。
――そして
青い顔をして少し痩けた頬を揺らしながらウルは言う。
―どうっして殺、して…くれない…の?―
「――お嬢様、湯浴みの準備が整いました」
ふと、目を開けるとイリヤは安楽椅子に腰掛け分厚い魔導本を膝元に置いていた。どうやら読書に熱中していつの間にか眠っていたらしい。
「……そう」
横にあった書棚に直し立ち上がる。
「ウルの調子はどう?」
絹の擦れる音。
「依然変わりなく」
セラはその衣を丁寧にほどきながら、一時も流れを乱すことなく返答をする。
「薬の備蓄が少なくなったら言ってね」
「はい」
「キャスターが変な動きをすれば、ちゃんと殺してね」
「…………はい」
「セラはあの子のこと嫌い?」
ぴたりと手が止まり、肩に掛ける紐が垂れた。
「……いえ。メイドにそのような不躾な私情など」
「別にいいのよ。ウルのことが好きでも嫌いでも。
あの子に直接害を成すと言うならこの場で殺すけど、私は……
こんなおままごとに付き合ってくれている貴方にはそれなりに感謝しているの」
「ウルエお嬢様は―――」
「うん?」
「いえ。何でもありません」
視線を彷徨わせて逡巡する。
セラは震える手を抑えながらその両肩にタオルケットを被せた。
ウルエはイリヤスフィールのことが―――。