次の日の夜、私はアリアが話すのを待っていたが……晩ごはんを食べ終わってお風呂に入った後も彼女は何も言わなかった。
「アリア。なんか話があるんじゃなかったっけ?」
「あー、うん」
ついに私から切り出すと、アリアは表情を変えず、自然な様子で頷いた。
「ごめん。まだ考えてた」
まだ考えてた?
「えっと……明日にする?」私の提案に、彼女は首を横に振った。
「ううん。今話す」
彼女がそう言うので、私が食卓に座ると、彼女は私の前に座り、いつものように感情を窺わせない面立ちで私を見た。
「アリアね、アイドルになろうか考えたんだ」
「……え?」
それはあらゆる意味で私に驚きをもたらす言葉だった。
「でも、やっぱり無理かなと思って」
「ちょっと待って」
私はアリアが話すのを遮って、少し考える。
この無表情なエルフがアイドルと言い出すのは意外なところだ。
しかしそれとうらはらに、はじめに彼女がアイドルにならないかと考えたのは私だ。
彼女とはじめて会った時のこと。あの灼熱の駅前広場で。
魔法で存在感を隠していたアリアだが、私が気付いた彼女は眩い陽光の中にあってなお確かな存在感を放っているように見えた。
それはアイドルとして必要な素質。スポットライトと、多くのファンの熱気の中で、燦然と輝くカリスマ。
しかしその提案は却下されたし、この一年間、無口なアリアと暮らしているとすっかりその自然体の彼女に慣れてしまって、アイドルにしようとかは考えなくなった。
「……どうして、いま急に?」
考え終わった私から、アリアに問いかけた。
すると彼女はどこか憤ったような表情で答えた。
「だって、鞠莉はこれから帰ってこれない日が増えるのでしょう?」
「うん、そうかも?」
「鞠莉といられる時間は限られるのに、それがさらに減るなんて、困るの」
「アリア、でも……」
「でも?」
おそらくアリアの問題としていることは、私との時間だ。
しかし無口なエルフがアイドルに適しているか以前に、彼女がアイドルになったところでその問題は解決しない。私は別のアイドルのプロデューサーになるのだから、当面は彼女の担当をすることはできない。
一方で、アリアが私との時間にこだわることも少し意外だった。いや、そもそも私はアリアがここに居続ける理由を知らない。一年前、彼女に声をかけたのは私だが、私の家に来ると言ったのは彼女だ。
「……だいたい言いたいことはわかるよ」
そう言ってアリアは立ち上がり、威圧するように私を見下ろして言った。
「でも、私は決めたよ。むしろ、鞠莉のその態度でね。見てなさい、あなたが望んだ完璧なアイドルになってあげる」