そして、私の知るアリアは豹変した。
「みんなー、待ったー? 待たせてごめんねー。よし、じゃあ盛り上がっていくよー!」
完璧な容姿に完璧な愛嬌、演技、歌、ダンス、トーク、すべてにおいて「千条アリア」は完璧なアイドルだった。
唯一、時間にルーズという欠点があったが、それすら巧妙にファンを魅了した。
「――でし、た。はい、これでアンコールまで終わりました。みんな、今日はありがとう。
私はまだデビューしたばっかりなのに、こんなに集まってもらえてうれしいです。これならメッセも遠くないかな。
じゃあ――またね!」
「アリアちゃん、今日もすごかったですね」
ライブのあと、一度アリアと別行動を取っていた私の前に「オズ」が現れた。
彼女は私がはじめに担当すると決められたアイドル。「オズ」は芸名だ。
落ち着いた雰囲気と、若いながら歌を中心にした確かな実力で売り出している。
「オズちゃんお疲れさま。わざわざ来たの?」
「はい。お疲れ様です。今日のスケジュールは終わってちょうど近くにいたので来ました。
アリアちゃんはまだですか?」
「アリアなら――」
「プロデューサーさん、戻りました。あ、オズちゃん、こんばんは」
「わー、アリアちゃんこんばんは!」
仲睦まじく笑いあい、挨拶を交わすオズとアリア。二人はユニットという形ではないためライバルという関係に近いが、互いの性格もあって関係はとても友好的だ。
「わざわざ来てくれたの?」
「スケジュールが終わったから寄っただけだよ。でもちょっと見ただけでもすっごい元気もらっちゃった。
ね、次のコラボがもっと楽しみになったよ。がんばろうね!」
「えへへ、そうだね。がんばろう!」
二人はユニットではないが、同じ事務所で同時にデビューしたアイドルとして、公には結びつけて考えられることが多かったし、
事務所もそれに乗って二人を一緒に活動させることが多かった。
二人とも歌唱力に秀でていたから、二人のCDを出せば新人アイドルとしては異常なほどに売れた。
すでに3回目となる次のコラボも、これまで以上のファンが待ち望む大きなイベントとなる。
――そののちに、アリアはまた引きこもりエルフに戻った。
彼女がデビューして1年。私と会ってから2回目の夏が訪れていた。
その夜、帰宅するとアリアはテレビでオズのPVを見ていた。
楽しむでも、羨むでも、蔑むでもなく、無表情に、朗らかに歌うオズの姿を瞳に映していた。
「ただいま、アリア。ごはんはもう食べた?」
「ううん。用意はした」
キッチンを見るとポトフが作られていた。パンも出されている。これを食べようということなのだろう。
「ありがと。じゃあ着替えてくるから……あ、そうだ、オズちゃんと選んだお土産があるから、それも食べようね」
アイドルをする前と変わったこととして、彼女が料理やそのほかの家事をすることが増えたというのがある。
アリアの作る料理はそつなく、素朴においしい。引きこもりなので自分から買い物に行ったりはしないが、私が買っておいた食材を見て、時に思いもよらぬレシピを調べてきて料理をする。
「このポテト、すごくおいしく茹で上がってるね。普通のポテトだったと思うんだけど……アリアに料理してもらうとやっぱり食材の味が変わるよ」
「……」
彼女は無言だ。メインディッシュのあと、お土産のお菓子を食べているときも、まるで空気をかじっているかのように表情の変化がない。
「そういえばオズちゃんが、最近アリアからチャットの返事がどんどんなくなっているって心配してたよ」
「……そう」
アリアの返事は素っ気ない。
しかし、食事の片づけをしているときに彼女は私に言った。
「鞠莉は、私がオズに返事をした方が良いと思っている?」
「う、うん、まあ」
「どうして?」
「どうしてって……オズちゃんとか、まあ他の人とも、仲良くしてほしいから?」
「……無駄だよ」
私はアリアの言葉の意味がわからず、じっと彼女を見た。
アリアは私の視線に気づいてか、静かに続けた。
「だって、みんなそのうち死んでしまうじゃない」
「アリア……そんなこと……」
言わないで、という言葉は私の口から出なかった。代わりに、別の言葉が出た。
「……寂しいの?」
「そう思ったことはあったよ」
私の問いを、彼女はあっさりと認めるように言った。
「800年前まではそう感じていたと思う。でも、それからは何も感じなくなった。何も感じないようになった」
「アリア……」
「こういう私だから、やっぱり人間に求められるようなアイドルには慣れないなって、今日考えていたの」
それだけ言って、彼女は自分の部屋に引っ込んだ。
――アリアちゃんと普段どんなお話をしているんですか?
今日、オズに尋ねられた。
「うーん、特には……」
「あの、それ本気で言ってますか?」
実際そうなので私は頷くしかなかった。私は少し迷ったが、アリアについて少し話すことにした。
「アリアって、実はすごい無口なんだよ。だから、話もこれといってしないかな……。
あの子、ゲームとか好きだけど、私は一緒にするわけでもないし」
「……プロデューサーさん!」
「は、はい!」
急にオズが強い態度を見せたので、私は驚いて姿勢を正した。
「もっとアリアちゃんと話してください!」
「で、でも」
「でも、じゃないです! プロデューサーさんがそんななあなあだから、アリアちゃんもどうしたらいいかわからなくなっているんじゃないんですか?」
「私がなあなあだから……?」
「ちゃんと、アリアちゃんのことを待っているとか、好きとか、どうしてほしいとか、話してますか? 話してないですよね?
何となく好きだけど、ただ眺めているだけじゃ……相手には伝わりませんよ」