「あ、テーネシアさん!」
「……どうかしたのか、緑谷」
読んでいたロシア文学の書物を閉じ私に尋ねてきた天然パーマの緑髪の少年の方を向く。
緑谷出久。ヒーローの事なら大体の事を知っている重度のヒーローオタク。あまり話すことはない隣の席の住人だ。
「アルフィアさんは高校をどこに行くつもりなんですか?」
「私は雄英高校のヒーロー科に受験するつもりだ」
私の宣言に周りはどよめく。
雄英高校。ナンバーワンヒーロー『オールマイト』や『エンデヴァー』と言ったトップクラスのヒーローを数多く輩出した名門の中の名門。
そのヒーロー科の受験は国内最難関であり、僅か四十人の枠を数百人が奪いあう。無論、私は落ちるつもりはない。
「じ、実を言うと、僕も……」
「……正気か?お前は……」
緑谷出久はこの超常社会において数少ない無個性。そんなやつがヒーロー科に受ける?それで合格……まあ、極めて難しいだろう。
「ハッ!テメェが行けるわけがねぇだろクソナード!」
「か、かっちゃん……!そ、それは……」
「テメェは無個性なんだからよぉ!!」
「……煩いぞ、爆豪」
緑谷に容赦のない言葉を言う少年に注意する。
爆豪勝己。緑谷の幼なじみで上昇志向の強いヒーロー志望の少年。『爆破』と言う類を見ない強力な個性を使い、本人の戦闘センスも高い。どちらかと言うと、私に近い天才タイプの人間だ。
「あぁ!?邪魔するんじゃねぇよ非対称女!」
「……だから、煩いと言っている」
爆豪の爆発の勢いを利用した拳を難なく掌を合わせ受け流し体勢をずらし転ばせる。
「お前は弱い。能力が、ではなく精神がと言う意味で」
「なっ……!?」
「おおよそ、無個性の幼なじみがいたために無駄に自尊心を高め傲慢になったのだろう」
「死ねぇ!」
再び放たれた爆発を難なく回避しながら放った裏拳が頬を捉える。
「がっ!?」
「だから、こうも簡単にやられる。相手を自分よりも格下だと思っている、それを傲慢と言わずに何と言う」
机を見込みながら転がる爆豪を冷徹に見ながら言葉の刃を放つ。
この男の戦闘センスには目に見はるものがある。こと、戦闘だけならそこら辺の適当なサイドキックに匹敵するかもしれない。
だが、それでは力不足。ヒーローは戦争屋ではない、あくまで公僕だ。実力は勿論、容姿、性格等のものが必要。爆豪は実力は高いが攻撃的な性格と容姿をしているため、プラスよりもマイナスの方が上回っている。
「その性格を変えれないのなら―――ヒーロー、諦めたらどうだ?弱者を見下すだけの雑魚が、ヒーローになれるとは思うな」
「テメェ!!」
「もういい。―――失せろ」
怒り狂いながら個性を発動させる爆豪に一呼吸で近付き頭を掴み床に叩きつけ、気絶させる。
やはり、この手の人間には実力行使が最も手っ取り早いし効率が良い。だが―――やはり、雑音が出てしまうか。
「て、テーネシアさん……」
「私は夢を否定するつもりはない。なれるように頑張れ、緑谷」
驚く緑谷を応援すると私は進路希望の紙を机から取り出しね教て室を出る。
私とて、ヒーロー志望。誰かの夢を応援するのは当然だ。
(だが、爆豪の性格はこの程度で変えれる程柔ではない)
あの男は厄介な事に精神そのものは捻れている癖にその強度は頑強。強者からの意見を素直に聞くほどあの男は素直ではない。
あの男を変えれる存在は……より大きな存在か、強くなった弱者か。それを行えるのは、緑谷ぐらいか。あいつなら、それが出来るかもしれない。
爆豪の奏でる音は―――聞くに絶えないのに大きな音量の雑音だ。つい、本気で魔法を撃ちたくなる。
「頑張れ、緑谷出久」
夢を追いかけている限り私は、お前を応援しよう。