夏と刀と無限の空   作:吉良/飛鳥

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千冬姉の猿真似だと?……良い度胸してんじゃねぇか銀髪チビBy一夏     お義姉さんの猿真似とか、流石に見過ごせないわBy刀奈      まぁ、所詮は猿真似でしかないけどねBy簪


Episode21『偽りの戦乙女を滅殺、抹殺、瞬獄殺!』

一夏と刀奈の息の合ったコンビネーションを喰らい、シールドエネルギーが一桁までに減少したラウラの機体に突如起きた異変――機体がドロドロになってラウラを取り込み、直後に現役時代の千冬の愛機であった暮桜に姿を変えたと言うのは、明らかに異常事態と言えるだろう。

突然の事に、観客席の生徒や教師、企業からやって来た観戦者達もざわついている様だ。

 

 

「アレは……一体何が起きたの?」

 

「彼女の機体のワンオフアビリティーでしょうか?」

 

「だとしたら、可成り悪趣味なワンオフだと言わざるを得ないな……」

 

「違う……アレは隊長の機体のワンオフアビリティー等ではない!」

 

 

客席でその光景を見た一夏チームの面々は其れをラウラの機体のワンオフアビリティーだと思ったみたいだが、ラウラと同じドイツの出身であるクラリッサは、ラウラの機体に何が起きた『アレ』が何であるのかを看破した様だ。

だが、看破したクラリッサの声は何処となく震えているように感じる……普段は冷静な彼女が若干動揺しているのを見ると、ラウラの機体の『アレ』は相当危険極まりないモノなのだろう。

 

 

「ワンオフじゃない?だったらアレは一体なんなのかな?」

 

「……ヴァルキリートレースシステム。

 過去のモンド・グロッソ優勝者の動きを再現するシステムだ――搭乗者の操縦技術や身体能力等を度外視して、無理矢理に再現すると言うね。」

 

「そんな!と言う事は、つまり今の彼女は……!!」

 

「織斑先生と同じと言う訳!?」

 

 

ヴァルキリートレースシステム……其れがラウラの機体に変化を齎した物の正体だったようだ。過去のモンド・グロッソ優勝者の動きを再現するとは、グリフィンの言う様に『現役時代の千冬』と同じになると言う事だ。

これを自在に使いこなす事が出来れば、其れは正に最強と言えるだろう。

 

 

「あぁ、其の通りだ。

 だが其れは搭乗者に掛かる負担が半端な物ではなく、特に隊長の場合は教官と比べて体格も身体能力も圧倒的に劣る上に、既に一夏と刀奈の攻撃でダメージを受けている……そんな状態で教官の動きを模倣したら、最悪の場合死んでしまうぞ。」

 

「えぇ、其れって流石にヤバいんじゃ!?」

 

「何でそんなモンを搭載してんのよアイツの機体は!?」

 

「其れが分からない……あまりにも搭乗者が危険に晒されると言う事で、システムの開発と研究は中止され、関連データも全て破棄された筈。其れも隊長の機体が完成する前にだ。」

 

 

だが、其れは余りにも危険な代物だった為、ラウラの機体が完成する前に開発と研究は中止になって、データも全て破棄されたと筈だと言う――であるのならば如何してラウラの機体が其のシステムを起動しているのか?

 

 

「誰かが後付けで、彼女にバレないように外部からインストールした。そう考えるのが妥当だろうね。

 もっと言うのならば、今日まで其のシステムが起動しなかった事を考えると、インストールされたのはごく最近――極端な事を言うのなら、今日の試合前の最終機体チェックの時にインストールされたと考える事も出来るね。」

 

 

其れはロランが予想してくれた。

確かに、ラウラが学園に来てから一度たりとも此のシステムが起動した事はない……発動条件があるにしても、一度も起動の兆しすらなかったと言うのは些か不自然だろう。

となれば、ロランの推測は、あながち間違いではないと言えるのだ……尤もそうだったとして、誰が何の目的でやったのかと言う謎が残るが。

 

 

「試合前の最終機体チェック?……だがシステムのデータは既に……開発者も横領の罪で逮捕されて今は塀の中……まさか軍の外部に研究を受け継いだ者が居たと言うのか?

 そして何食わぬ顔で隊長の機体の整備班の人間として軍にやって来たと……クソッ、軍内部のデータを全て破棄したからと言って、外部には残ってる可能性を如何して考えなかった!……となると、犯人は班長か。隊長の機体整備の最終チェックをするのは班長だからな。

 済まないが、私はアレを隊長の機体にインストールした奴を捕まえに行く!システムの起動を見届けるまでが目的だとしたら、未だ学園島内に居る筈だから。」

 

 

ロランの予想を聞いたクラリッサは席を立ち、システムをインストールした犯人を捕まえに行ってしまった。

 

 

「クラリッサ!……行ってしまいましたか。……私達は如何しましょう?」

 

「ヴィシュヌは織斑先生と会長さんに今の話を伝えておくれ。

 私とグリフィン、コメット姉妹は何かあった時の為に何時でも観客の避難誘導が出来るようにしておこう。」

 

「ん、了解だ。」

 

「OK!」

 

「分かったわ。」

 

 

残されたヴィシュヌ、ロラン、グリフィンとコメット姉妹も、それぞれの役割を決めて何か起きた場合に備え、選手の控室に居た円夏と簪と乱も、何時でも出撃出来るように準備を整えているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏と刀と無限の空 Episode21

『偽りの戦乙女を滅殺、抹殺、瞬獄殺!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暮桜――現役時代の千冬の愛機であり、彼女を二度もモンド・グロッソで頂点に導いた正に最強のIS。

再現された存在であるとは言え、そんなモノが目の前に現れたら大抵の場合は驚き、そして委縮してしまうだろう――其れが世にも不気味な方法で現れ、カラーリングもおどろおどろしい黒であれば尚更だ。

 

 

「暮桜?何だそりゃ、第二形態の心算かよ?

 敗北ギリギリで第二形態に変身するとか普通は有り得ねぇんだけどな……第二形態に変身するってのは、大抵第一形態のHPが0になった後なんだぜ?」

 

「言っても無駄よ一夏。多分聞こえてないわ。

 恐らくだけどあのおチビちゃん、機体に取り込まれて自我を喪失してると思うから。」

 

「その心は?」

 

「機体がドロドロに溶けて彼女を取り込んだ……で、そうなる前に獣の様な叫び声を上げていたでしょ?

 如何考えても、意識はあっても自我は喪失してると見て間違い無いわ――今は未だ動いていないけれど、動き出したら間違いなく、私達に襲い掛かって来ると思うわよ?」

 

「成程……ま、だからと言って予定が変わる訳じゃないか。アイツをぶっ倒す事に変わりはない訳だからな。」

 

 

だがしかし、一夏も刀奈も委縮するどころか余裕綽々と言った感じだ。――確かにラウラの機体が暮桜に変化した事には驚きはしたが、一夏と刀奈のやる事に何か変わりがある訳ではないのだから委縮する理由はない。

予想外の事が起きたとは言え、一夏も刀奈もやる事は『ラウラ・ボーデヴィッヒを叩きのめす』だけなのだから。

まぁ、こんな会話をしながらも。一夏は居合の構えを取り、刀奈も槍を構えてラウラの出方を伺っているのだから微塵も隙は無い訳だが。

 

 

『おおお、織斑君!更識さん!正義君!!異常事態です!今すぐ試合を中止してピットに戻って下さい!!』

 

 

そんな中、一夏と刀奈と、序に陽彩に山田先生から通信が入る……陽彩の方は刀奈の分身を必死こいて相手してるので聞こえているかは可成り疑問であるけれどね。否、間違いなく通信に耳を傾けてる余裕なんぞあるまいな。

 

 

「山田先生?……悪いんすけど其れ無理です。」

 

「間違いなく私と一夏は敵と認識されてると思いますので、私達がピットに戻ったら、其れを追ってきて大惨事になっちゃうかもなので。」

 

『えぇ!?で、でもそんな得体の知れない機体の相手なんて!しかも、その姿は暮桜ですよ!?』

 

「分かってますって。でも大丈夫です。

 アレが織斑先生が操ってる本物の暮桜ならガチでヤバいでしょうけど、姿だけ真似た偽物じゃ俺達の敵じゃないですから……其れに、あの銀髪チビを叩きのめすってのは変わらないんで。」

 

「そんな訳で、私達はアレを叩きのめしますので。……と言うか織斑先生は如何したんですか?」

 

『先輩は『用事が出来た。此処を頼む』って言って蓮杖さんと何処かに行っちゃったんですよ~~!!』

 

「……相変わらず貧乏くじっスね?此処まで来ると何かに呪われてるんじゃないかって疑いたくなりますよ……山田先生、良ければ良い神社紹介しましょうか?

 其処でお祓いして貰ったら良いですよ。」

 

 

山田先生(以下真耶と表記)から、『ピットに戻れ』と言われた一夏と刀奈だが、『自分達は敵と認識されているだろうから其れは出来ない』と伝え、あくまでもラウラと戦う姿勢は崩さない。

千冬と夏姫は真耶が居る場所から何処かに行ってしまったとの事だが、ヴィシュヌからの連絡を受けて、ラウラの機体にシステムをインストールした下手人を捕らえに行ったのだろう……世界最強と生徒最強にロックオンされた下手人はハイクを詠む準備をしておいた方が良いかも知れない。

 

 

『是非とも教えてください……って、そうじゃなくて!!』

 

「大丈夫です……俺と刀奈を信じて下さい山田先生。織斑先生の猿真似なんぞに負ける程、俺達は軟じゃないんで。」

 

「先生はもしもの時の為に何時でも動けるようにしておいて下さい……そんな『もしも』は絶対に訪れませんけど。」

 

『織斑君、更識さん……分かりました。

 でも、此れだけは約束してください。此れ以上は危険だと思ったら逃げて、必ず無事に戻って来る事です!!』

 

「「了解!!」」

 

 

真耶は何とかピットに戻そうとするも、一夏と刀奈の意志は堅く譲らない……その意志の堅さに真耶の方が折れ、『必ず無事に戻って来る事』を厳命し、この場を二人に任せる事にした。……この時点で陽彩が完全に真耶に忘れられてるのはある意味でお約束と言えるのかもな。

 

 

「さてと……俺達と山田先生の話が終わるまで待っててくれたのか?自我を無くして理性が吹っ飛んじまったと思ったが、意外と冷静だったりするのか?

 ま、どっちでも良いが、テメェはとことん俺を怒らせるのが趣味らしいな?……ヴィシュヌとグリフィンに大怪我させたってだけでもハラワタ煮えくり返ってるってのに今度は千冬姉の猿真似か?……千冬姉の強さを穢してんじゃねぇぞ、このクソチビが。」

 

「貴女がお義姉さんの真似をするなんて、烏滸がましいにも程があるわ。身の程を知りなさいな!」

 

「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 

 

真耶との通信を終え、一夏と刀奈がラウラに言葉を発した次の瞬間、ラウラが咆哮を上げて突撃して来た。

イグニッションブーストよりも更に早いその突撃は、現役時代の千冬が得意とし、今でも千冬以外には使う事が出来ないと言われている『オメガイグニッションブースト』に可成り近いモノがある。

並のIS乗りだったら見切る事は出来なかっただろうが、一夏と刀奈は並のIS乗りではない――刀奈は日本の国家代表の中でも『最強』と称されているし、一夏はその最強と互角以上の戦いが出来る実力者なのだから、『本物に限りなく近い偽物』を見切る位は雑作もない事だ。

 

 

「猿真似が私達に通じると思ってるの?」

 

「調子こいてんじゃねぇぞコラァ!」

 

 

一夏と刀奈は左右に分かれると、逆にイグニッションブーストで近付くと同時に、一夏は居合を、刀奈は勢いの乗った突きを繰り出してラウラの機体の装甲を削り落とす――が、削り落とされた装甲はゲル状になってラウラと融合し装甲を再生する。まるでセルや魔人ブウを思わせるレベルの再生力と言えるだろう。

 

 

「ぶっ壊しても再生するって、T-1000型ターミネーターかよコイツ?」

 

「此れは、一撃で装甲全てを破壊するか、或いは機体に取り込まれたパイロットを完全に壊すか、パイロットが意識を取り戻すか……パイロットを無理矢理ISから引きずり出すかしない限り止まりそうにないわね。」

 

「上等、やってやるぜ。」

 

 

再生能力のある敵と言うのは厄介極まりないが、だからと言って一夏も刀奈も諦めるなんて事はしない……相手は、所詮最強の模倣でしかないのだから諦めると言う選択肢はハナッから存在してないのだ。

 

 

「だぁ~、やっと終わったぜ!……で、どんな状況だ此れ?」

 

 

で、此処で陽彩が参戦。

可成り苦戦したが、刀奈の分身五十体を何とか倒してこっちに来たって訳だ……まぁ、人並み以上の身体能力とガンダムエクシアを与えられておきながら、刀奈の分身にやられましたとか流石に無様過ぎるからね。……専用機がエクシアじゃなかったら瞬殺されてただろうけど。

 

 

「正義?生きてたのかお前?」

 

「分身を百体にした方が良かったかしら?」

 

「生きてたよ!そんで空恐ろしい事言うんじゃねぇ!触れたら爆発する分身五十体って、俺じゃなかったら普通にゲームオーバーだったからな!!」

 

 

一夏と刀奈に言われた事に突っ込みつつ、しかし陽彩は内心では漸く原作にある事件が起きた事にほくそ笑んでいた……『暴走したラウラを華麗に助け出してラウラを俺の嫁にして、俺の評価も一気に急上昇だ』とか考えてるのだろう。マジで下衆だなコイツ。

其れはさておき、一夏と刀奈は陽彩に何が起きたのかをラウラとの戦闘を行いながらも一応説明してやった。

陽彩が何をするかは分からなくとも、今の状況がどんなモノであるかは伝えておいてやろうと思ったのだ……一応ラウラのタッグパートナーでもあった訳だし。

 

 

「つまり理由は分からないけどラウラは自分の機体に取り込まれたって事か……」

 

「そう言うこった……ま、俺も刀奈もアイツをぶっ倒す心算だったから、アイツが機体に取り込まれたとか割と如何でも良い事だけどな。」

 

「あの子はちょっとやり過ぎたから、キッチリお仕置きをしてあげないとだからね。」

 

 

原作知識でラウラの暴走は知っていた陽彩だが、其の後で聞いた一夏と刀奈のセリフには思わず背筋が凍る思いがした……原作だとこの時点では刀奈は登場していないから兎も角として、一夏のセリフは原作の一夏ではあり得ないモノだったからだ。

 

 

「ぶっ倒すって……助けないのかよ!?」

 

「はぁ?何で俺がアイツを助けなきゃならねぇんだよ?

 機体に取り込まれたアイツがどうなっちまうのかは知らないが、俺の大切な人を傷付け、千冬姉の強さを穢したアイツを助ける義理も義務もない……俺にとってあの銀髪チビはぶっ倒すべき敵でしかねぇんだよ。」

 

「そうなのよね。

 立場を入れ替えて考えてみなさい正義君?彼女が貴女の婚約者達に重傷を負わせた相手だとしたら、果たして助ける気が起きるかしら?『人を助けるのに理由は要らない』とは言うけれどね、『敵を助ける理由は何処にも無い』のよ。」

 

 

だが、一夏と刀奈に言われた事が正論過ぎた為、陽彩は閉口するしか無かったが、同時に『一夏がこんな奴の筈がない』と言う極めて自分勝手な考えも浮かび上がっていた。

陽彩の中には『一夏はこうあるべきだ』と言う固定概念があったため、VTSに捕らわれたラウラを助けずに倒そうとする一夏が信じられなかったのだろう――だがしかし、現実問題として初対面でイキナリ喧嘩を売って来て、更に己の大切な人を傷付けた輩を態々助けるなんてのは、度を過ぎたお人好しを通り越した只の馬鹿やろうでしかない。この一夏と刀奈の反応の方が普通なのだ。

 

 

「ま、お前がアイツを助けたいってんなら好きにしな……尤も、この戦いに割り込む事が出来ればだけどな。」

 

「怪我をしたくないなら大人しく其処で見ていなさい。」

 

 

其れだけ言うと、『これ以上言う事はない』とばかりに、一夏と刀奈は再び目の前のラウラとの戦いに全ての意識を向け、見事なコンビネーションでラウラを攻撃して行く。

一夏の斬撃にラウラが反応すれば、空いた所に刀奈の突きが炸裂し、其方に意識を向ければ今度は一夏からの斬り上げが入る。更に、ラウラの方から攻撃を仕掛ければ一夏の鞘当てのカウンターが炸裂し、追撃に刀奈の柄打ちが入る。

もしも相手が本物の千冬であったのならばこうはならず、一夏と刀奈のコンビネーションにも対応し、寧ろ圧倒してしまうかもしれないだろう――だが、相手はヴァルキリートレースシステムで千冬の動きを再現した『だけ』のラウラだ。

あくまで動きを再現しているだけであって、千冬が戦ってる訳ではない。中身のない真似でしかない訳だ。

一夏も刀奈もその程度の相手に後れを取るIS乗りではないし、何よりも日々鍛え続けて来た力が、模倣の力に負ける筈がない――『模倣は模倣であり、修練の積み重ねの末に得た力の前には容易く地金を曝す』とは正にその通りだろう。

 

 

「千冬姉を真似てるだけあって、クソ力だけはあるみたいだな?……尤も、其れでも本物の千冬姉のバカ力には遠く及ばねぇけど、な!!」

 

「再生する装甲は厄介だけど、関節は装甲で守れないわよね?」

 

 

振り下ろされた一撃を一夏が弾くと同時に、刀奈がラウラの右腕を極めてからの逆一本背負いで投げ飛ばす!この一連の流れにも一切の無駄がなく、芸術的であると言っても過言ではない、正に完全無欠のコンビネーションだ。

腕を極められた状態で投げられたラウラは、如何やら肘の関節が外れてしまったらしく、肘から下がブラ~ンと垂れ下がってしまったが、其処は機体がパワーアシストで補助して無理に動くようにする……既に折れている左腕と同様にだ。

 

 

「両腕イカレタってのにまだやるってのか?ったく、マジでバーサーカーだな?

 此れは、弩デカい一発でブッ飛ばすしかなさそうだ……刀奈、何秒稼げば良い?」

 

「そうね……二十五秒。いえ、二十秒稼いでくれれば充分よ。」

 

「二十秒か……楽勝だな。」

 

 

両腕がイカレテも尚戦い続けようとするラウラに対し、一夏と刀奈は最大の一撃を炸裂させるべく準備を進める。

此れまでコンビネーションで戦っていたのから一転、一夏だけがラウラと戦い、刀奈はその周りを飛び回り始めたのだ……此れには観客の多くが頭を捻る事になったのだが、ロランとヴィシュヌとグリフィンは何かに気付いた顔をしていたのは、一夏のパートナー故の事だろう。

 

 

「如何した銀髪チビ!千冬姉の真似事までしてその程度かよ?

 俺が気に入らないからぶっ倒すんだろ?やってみろよ……強さの本質ってモノを何も分かってねぇお前じゃ一生掛かっても無理だと思うがな!!」

 

「―――――――!!」

 

 

刀奈が最大の一撃を放つ為の時間稼ぎをする一夏だったが、其れでも攻撃は苛烈極まりない。居合からの鞘打ちで疑似二刀流状態になると、ラウラに反撃を許さない位の連続攻撃を行い、時折蹴り技も織り交ぜながら圧倒する。

当然ラウラも此れに応戦するが、負傷した腕では完全に捌く事など出来ずに攻撃を喰らってしまう……至近距離での蹴り上げからの踵落としのコンボは見事にクリーンヒットしたしね。――此れでも未だ倒れないとか、ヴァルキリートレースシステムが恐ろし過ぎるわ。

 

 

「準備完了!行くわよ一夏!」

 

「おっしゃ!ブチかませ刀奈!!」

 

「喰らいなさい……クリアパッション!!!」

 

 

そして此処で刀奈の準備が完了し、必殺の一撃が炸裂!!ラウラの周囲で大爆発が起き、ラウラを呑み込んだのだ。

此れが刀奈が準備していた『弩デカい』一撃、『クリアパッション』だ。紅龍騎の能力である『ナノミストの精製能力』を使ってラウラの周囲に水蒸気を大量に発生させ、其れを一気に爆発させて『水蒸気爆発』を発生させたのである。

ラウラと戦っていた一夏も巻き込まれたんじゃないかと思うだろうが、刀奈の『準備完了』を聞いた瞬間に、イグニッションブースト+リミット・オーバーを使って超速離脱していたのでマッタク問題はなかった。

 

吹き飛ばされても即座に装甲が再生するとは言え、水蒸気爆発を目一杯喰らわされては堪ったモノではない……ラウラの機体の装甲はクリアパッションによって広範囲に飛び散ってしまったのだから。

それでもまだ動こうとするのは大したモノと言えなくもないが、既にチェックメイトだ。

 

 

「コイツで終いだ銀髪チビ……我流剣技、無名・零!!」

 

 

一夏が鋭い踏み込みから薙ぎ払う様な袈裟斬りを叩き込み、装甲を斬り飛ばす。

斬り飛ばされた装甲の中からはラウラの肩から上が姿を現す……目を閉じているのを見る限りラウラは完全に意識が無いのだろう。

まぁ、其れは其れとして、装甲が再生する前に残りの装甲も斬り飛ばそうと一夏は二撃目を放とうと……

 

 

「ラウラァ!!」

 

「「!!」」

 

 

した所で陽彩が割って入った。

露出したラウラを掴むと、其のまま機体から引き釣り出したのだ……並のISでは到底無理な芸当ではあるが、エクシアのパワーを持ってすれば其れも可能だったと言う事なのだろう。……エクシアはパワーよりもスピードのイメージがあるけどな。

 

 

「助けたいなら好きにしろとは言ったが……まさか本当に助けちまうとはな。」

 

「身の程を知らないお馬鹿さんかと思ったけど、意外とガッツはあるみたいね?」

 

 

予想外の事ではあったが、ラウラを機体から引き剥がした陽彩に、一夏と刀奈は少しばかり感心していた――何かにつけて一夏に勝負を挑んではその度に返り討ちを喰らっているので、『力量差を見極められないアホか?』と思っていたのだが、自分のタッグパートナーを助ける事は出来るのだと思ったのだ。

尤も陽彩は、『ラウラを助けて俺の嫁にする』って言うテメェの下半身の欲望を満たす為に張り切っただけなのだが……ある意味で陽彩は、『最も雄としての本能に忠実な男』と言えるのかもしれない。絶対に見習いたくないが。

 

 

「G……Gaaaaa……ghyyyyyyyyy……」

 

 

だが、ラウラが引き摺り出されても偽暮桜は飛び散った装甲を集めて姿を再構築して戦おうとする……此処まで来るとヴァルキリートレースシステムってのがドレだけイカレタ代物なのかと思える。

パイロットが居なくなっても動くとか其れもう只のホラーだろ?パイロットが居ないのに動く機体ってポルターガイストかってんだ。

 

 

「パイロットの銀髪チビは引っこ抜いたってのにしつこい奴だ……大人しく死んどけ!」

 

「往生際が悪い子は、お姉さん好きじゃないわよ?」

 

 

その偽暮桜を一夏の神速の居合と、刀奈の光速の連続突きが襲い、再構築しようとした装甲は今度こそ粉々に破壊され、次の瞬間には半壊状態となったラウラの機体へとその姿を変えた。

半壊状態であるとは言えコアは無事なようなので修理すれば問題なく使用出来るだろう……半壊状態であるので修理には時間が掛かるだろうが。

ともあれ、此れでヴァルキリートレースシステムの暴走が引き起こした一件は幕を閉じたと言えるだろう。

 

 

「俺の……勝ちだ。」

 

「貴女じゃ、燃えないわ。」

 

 

でもって、最後は機体を解除した一夏と刀奈の勝利のポーズ!

右の拳を高々と突き上げた一夏と、胸元で腕を組みながら口元を扇子で隠した刀奈の姿は対照的でありながらも何処かマッチしていた……まぁ、イケメンと美少女の組み合わせは如何やったって絵になるんだけどね。

因みに、見事にラウラを機体から引き摺り出した陽彩だが、其れまでの一夏と刀奈の戦い方が余りにも見事であった為にあまり注目はされていなかった……まぁコイツに注目するよりも、一夏と刀奈の方に注目するわな普通は。

ラウラを助けたとは言え、其れは一夏と刀奈の攻撃があっての事だからね……其れを考えれば、陽彩に注目しろって言うのがそもそも無理な話な訳だ。

結果陽彩への評価は微上昇だったが、一夏と刀奈はその評価を大きく上昇させる事になったのだった。

 

 

「私達の出番は、結局なかったね……生徒や他のお客さんに何もなくて良かったけど。」

 

「『もしもの時の戦力・要員』の出番がないに越した事はありませんよ。」

 

「だが常に『もしも』の備えをしておくに越した事はない……『備えあれば、憂いなし』だったかな?

 まぁ、一夏と刀奈ならば大丈夫だろうとは思っていたさ……私の心を奪った男性と、同じ男性に心を奪われた同士なのだから。」

 

「ったく、どんな時でもブレないわねロランは?」

 

「其れがロランだからね。」

 

 

一方の観客席ではこんな会話が行われており、

 

 

「あの眼帯チビ、粋がった割には何も出来ず、最後は暴走した挙げ句に叩きのめされるとは……あの程度で良く兄さんに喧嘩を売る気になったモノだ。」

 

「其れには同感。

 と言うか、一夏が一人で戦っても多分圧勝だったのに、其処に刀奈まで加わったら勝てる筈がない……そもそも一夏はクリアパッションから逃げる時以外界王拳使わなかったから、若干舐めプ入ってた気がする。」

 

「舐めプって……あ~~、でも使ってたら間違いなく瞬殺してたわね。」

 

 

控室の方ではこんな会話が行われていたとか。

円夏と簪が可也辛辣だが、兄と姉に喧嘩を売った上に、未来の義姉に大怪我させたラウラに対してボロクソ言いたくなるのも仕方ないっちゃ仕方ないか……取り敢えず陽彩がラウラを助けた事に対して何も言わないのは、別に彼女達にとっては如何でも良い事だからだろうな間違いなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

学園島の一角の森林地帯を一人の少女が走っていた――その顔には必死さと、そして歪んだ笑みが浮かんでいた。

 

 

「ククク……巧く行った。

 システムのデータも採れたし、後はこのデータを欲しがる奴に売り捌いてやれば其れで終いだ。――織斑千冬の動きを完璧に再現出来るシステムならば、必ず欲しがる国や企業はある筈だもの。

 此方の言い値で何ヶ所かに売ってやれば、一生遊んで暮らせる程の金になるわね。」

 

 

彼女こそ、ラウラの機体にヴァルキリートレースシステムをインストールした張本人だ――ラウラの機体の整備班の班長に抜擢された彼女は、学年別タッグトーナメントが行わる今日、ラウラの機体にシステムをインストールしたのだ。

結果は上々でヴァルキリートレースシステムは発動し、千冬の動きを再現する事も確認出来た……映像こそないが充分過ぎるデータは採れたと言えるだろう。

彼女の言う様に千冬の、世界最強の動きを完璧にトレース出来るシステムを欲しがるモノは少なからず居るだろう。そして、其れは相当な額で取り引き出来るのも間違いない……世界最強の力が手に入る訳だからね。

巧く行けば確かに一生遊んで暮らせるだけの金を手にする事は出来るだろう――だが同時に、そうなる為には彼女は一刻も早く学園島から脱出しなければならなかった。

システムが起動したと言う事は、同時にIS学園にとっては異常事態でしかないので、何らかの方法でラウラが鎮圧され機体が解析されるのは分かっていたし、機体が解析されれば何時システムが機体にインストールされたのかも分かってしまう。

そうなればラウラの機体整備の最終チェックを行った彼女がシステムをインストールしたのは直ぐに分かってしまう……だから、そうなる前に彼女は学園島からの脱出を行っていたのだ。

 

 

「機体の解析には数時間掛かるとは言え、早く此処から居なくなるに越した事はないわ。

 今ならモノレールの臨時便に飛び乗る事が出来る……日本本土に到着したら、後は空港から飛行機で高飛びすればそれでお終い。南米やアフリカ辺りで、顔と名前を変えて生活していれば捕まる確率も相当に低くなる……データの取り引きはネットを使ってやれば良いしね。」

 

 

確かに海外へと逃亡し、顔と名前を変えてしまえば見つかる確率は可成り低くなるだろう――実際にアメリカには、脱獄してから名前を変えて、何十年も捕まらなかった人物も存在するからね。

だが其れは全てが巧く行った場合に限るのだ。

 

 

「残念だけど、そうは問屋が卸さないのよね~?」

 

「貴様の様な外道を見過ごす事は出来んのでな?」

 

「!!?」

 

 

何処かから声が聞こえた次の瞬間、彼女は身体を動かす事が出来なくなった。

『何事か?』と思って自分の身体を見てみると、身体が何かによって拘束されていた……無色透明の、よく目を凝らさなければ分からないゲル状の何かにだ。

 

 

「悪いけれど、逃がさないわよ。偽りの戦乙女の製作者さん♪」

 

「悪事が成功した試しはない……諦めるんだな。」

 

「更識刀奈に蓮杖夏姫!?何故お前達が此処に……更識刀奈はまだ試合中の筈だ!!」

 

 

そんな彼女の前に現れた人物を見て、思わず彼女は目を疑った。

目の前に現れたのは、アリーナで試合をしている筈の刀奈と、同じくアリーナの管制室に居る筈の夏姫だったからだ……居る筈のない人物が突然目の前に現れたら其れは驚くわな。

 

 

「ウフフ、私は更識刀奈じゃなくて、蓮杖刀奈……更識刀奈とは似て非なる存在よ。」

 

「アタシは蓮杖夏姫だが、生徒会長の蓮杖夏姫とは異なる存在さ……まぁ、お前には如何でも良い事だがな。――一夏と刀奈の試合をぶち壊しにした報いを、お前には受けて貰うわ。

 己の愚行を、精々悔め。」

 

 

驚く彼女に向かって夏姫が大口径のガバメントを改造したと思われる銃を向けた次の瞬間、彼女の意識は闇に堕ちたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

クラリッサと、ヴィシュヌから連絡を受けた千冬と夏姫はモノレールの駅へと続く道を走っていた……ラウラの機体にヴァルキリートレースシステムをインストールした犯人を確保する為に。

学園島から脱出するには、モノレールを使うかヘリを使うか、港から船を使うかの三択なのだが、逃走用のヘリや船を用意していたら流石に分かるので、脱出方法はモノレール一択なのだ。……逃走経路が完全に割れてる時点で可成りダメだと思うけどね。

クラリッサも千冬も夏姫も足には自信があるので、最低でもモノレールの駅手前までには犯人に追い付く事が出来るだろう……因みに、此の三人の100mのベストタイムは夏姫が十秒ジャスト、クラリッサが9.9秒、千冬に至っては九秒ジャスト。――普通にオリンピック選手なれるな此れ。

 

で、そろそろモノレールの駅に到着する訳だが。

 

 

「此れは……」

 

「一体如何言う事だ?」

 

「既に誰かに成敗されているとは……」

 

 

駅目前の場所に、ラウラの機体にヴァルキリートレースシステムをインストールした犯人が、簀巻きになって転がされていた……夏姫が確認した所、脈もあるし息もしている。ただ眠っているだけだったみたいだが、何故こんな状態になっているのかは謎だった。

 

 

「一体誰が?……ん?此れは……書置きか?」

 

 

犯人の安否を確認した夏姫は、簀巻きに何かが張り付けられているの気付き、其れを剥がして手に取り、張り付けられていたモノに書かれていた事を読む。

 

 

「蓮杖、其れは何だ?」

 

「メモの様だが、何が書かれていたんだ?」

 

「中々に面白い事が書かれていますよ織斑先生、ミス・クラリッサ君。」

 

 

夏姫は其れを千冬に渡し、千冬とクラリッサは其れに目を通す。

其れには、

 

 

 

『愚か者は捕まえておいた。

 コイツの処遇は其方に任せる。まぁ、煮るなり焼くなり好きにするが良い。

 

                                自由と正義の使者より』

 

 

 

と、そう書かれていた。

 

 

「自由と正義の使者とは胡散臭い事この上ないが、隊長機体にアレをインストールした犯人を捕まえてくれた事に感謝すべきか……それと、胡散臭いとは言ったが、そのネーミングは嫌いではない。」

 

「分かるか、ミス・クラリッサ?

 私も此のネーミングは嫌いではない……自由と正義の使者と言う何とも言えない中二感が素晴らしい。」

 

 

で、クラリッサと夏姫は何かを感じ取ってたみたいだった……ヲタのアンテナに『自由と正義の使者』ってのはドストライクで突き刺さったみたいだ。……まぁ、確かに漫画やアニメでありそうな展開ではあったからね此れは。

 

 

「蓮杖もハルフォーフも変な所で意気投合するな。

 取り敢えず、ボーデヴィッヒの機体に妙な物を積み込んだ犯人は確保出来た訳だ……さて、コイツは如何したモノだろうな?」

 

「煮るなり焼くなり好きにしろと書いてあったので、実際に煮てしまうのは如何でしょうか?」

 

「ハルフォーフ、実に面白い提案だが、本当に煮てしまってはコイツは死んでしまうから辞めておこう……コイツには、アレに付いて吐いて貰う事があるからな。

 蓮杖、コイツを地下の『取調室』に連れて行け。」

 

「了解しました織斑先生。」

 

 

其れに突っ込みを入れつつ、千冬は夏姫に犯人を『地下の取調室に連れて行け』と命じ、夏姫は犯人を肩に担いで連れて行く……問題を起こした生徒を取調べる校舎内の『取調室』とは異なる地下の『取調室』は、外部からのテロリストやスパイに対して使われる部屋であり、其処に連れ込まれた者は明日の朝日を拝む事は出来ないとまで言われている場所だ。

そんな場所に連れて行かれた彼女の未来は明るいモノではないだろう……外道には相応の末路が待って居ると言う良い例だっただろう。

 

 

「まさか、こんな事になるとはな……だが、今回の事はボーデヴィッヒにはいい薬になったかも知れんな。」

 

「そうであると良いのですが……此ればかりは、隊長次第ですね。」

 

「そうだな……時にハルフォーフ、お前は一夏のパートナーになったのだったな?……お前から見て如何だ一夏は?」

 

「彼は強い、技も心も……何より、私の生まれとこの目の事を知っても私を選んでくれました――彼に選ばれた私は、とても幸運だと、そう思っています。」

 

「そうか……一夏の事を、頼むぞ?」

 

「はい、勿論です教官……いえ、お義姉さんと呼ぶべきでしょうか?」

 

「……好きにしろ。」

 

 

その場に残った千冬とクラリッサはそんな会話を交わし、次の瞬間には互いに笑いあって居た。――その姿は嘗ての師弟ではなく、既に義姉妹の様だった。

なんにしても此れで、ラウラの機体にヴァルキリートレースシステムをインストールした犯人は確保出来た……此処から先は、生徒会と千冬による取り調べと言う名の何かが待っている彼女には同情を禁じ得ない。……精々、死なない様に頑張ってくれだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 

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