夏と刀と無限の空   作:吉良/飛鳥

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トーナメント後の一息だなBy一夏     ふふ、お疲れ様ね一夏By刀奈      とりま銀髪チビ殺してくるわBy円夏     まって円夏、其れは流石にヤバいBy簪


Episode22『With him after the tournament』

IS学園の地下深くに有る一室……其処は学園長と千冬、そして生徒会長しか知らない極秘中の極秘である部屋だ。――そんな部屋で、一人の少女が椅子に鎖で拘束されていた。

少女はラウラの機体にヴァルキリートレースシステムをインストールした犯人であり、簀巻きにされて転がされていた所を夏姫達に回収され、そしてこの部屋に連行されて椅子に縛り付けられたと言う訳だ……この時点で、もう彼女に逃げ道は無いだろう。

 

 

「……此処は?」

 

「目が覚めたかな?……此処はIS学園の最深部の取調室――いや、拷問部屋と言った方が正しいかな?」

 

「お前は!?……其れに、身体が!!」

 

「あぁ、お前の身体は椅子に鎖で拘束させて貰ったよ……暴れられると面倒なのでね。」

 

 

ヴァルキリートレースシステムをインストールした犯人は目を覚ましたが、直後に己の前で壮絶かつサディスティックな笑みを浮かべている夏姫と、自分が拘束されていると言う事実に、一気に背筋が冷たくなる思いをした。

夏姫の言った『拷問部屋』と言うのも恐怖を大きくした要因だろう……其れが真実であれば、此れからどんな苦痛を味わわされるのか想像も出来ないのだから。

 

 

「拷問なんて、そんな非人道的な事が許される筈が……!」

 

「あぁ、普通はダメだが、生憎とIS学園は一種の治外法権なのでね、君の様な犯罪者に対しての非人道的行為もある程度は容認されるんだ……生徒を守ると言う大義名分もあるしね。

 まぁ、君が素直に知ってる事を全て話せば、生徒を危険な目に遇わせた事への処罰は鉄拳制裁一発程度で済むかもしれん。全ては君次第だ。」

 

 

夏姫の言ってる事は半分以上が嘘だ――如何に治外法権のIS学園とは言え、拷問なんてモノが許される筈もない。要は恐怖心を掻き立てて、自白させようって言う夏姫の演出だ。

一緒に居る虚からメリケンサック(何処から持って来た?)を装着して見せるのも、虚の背後に多種多様な拷問器具が見えるのも恐怖を煽る演出なのだろう。

……焼き印用の鏝やトゲ付き鞭は兎も角、鉄の処女やファラリスの牡牛とか何処から持って来たのか可成り謎である。

 

 

「色々と聞きたい事はあるが……君を拘束したのは一体何者だ?

 監視カメラを確認しても、逃走する君の動きが止まった途端に映像が砂嵐になり、其れが治まると君が簀巻きにされていた……誰に拘束されたんだ君は?」

 

「……悪いが覚えていない。

 思い出そうとすると頭が痛くなる……ただ、女の二人組だった事だけは覚えている。何となくだが、片方は眼鏡を掛けていたような気がするな。」

 

「覚えていない……ならば仕方ないな。」

 

 

手始めに彼女を捉えたのが誰だかを聞いてみた夏姫だったが、答えは『覚えていない』との事だった。

彼女が嘘を吐いている可能性も勿論あったが、自分を捕らえた相手の事を秘匿する必要もないと考え、薬か何かで記憶を消されたのだろうと結論付けた……誰が拘束したのかは気になる所だが、唯一の目撃者である彼女が覚えていないのならば此れ以上の調査は無理と思ったのだろう。

其処からの取り調べは驚く程スムーズに進み、犯行の動機や目的は全て明らかになった……最早逃げる事は出来ないと観念したのだろう。……取り調べをしてる夏姫がメリケンサックを装着した掌を握ったり開いたりしたり、ナイフを弄っていたと言うのも大きいだろうが。

何れにしても取り調べが終わったら、ドイツに送還される日まで、彼女は此処に閉じ込められる事になり、ドイツに戻ったら塀の中だろう……場合によっては二度と外の世界を歩く事は出来ないのかも知れない。

取り敢えず、取り調べが終わった後で、『生徒を危険に晒した事への罰』として、夏姫のメリケンサックナックル一発で痛い思いが済んだ彼女は幸運だったと言えるだろう……もしも、素直に自白しなかったその時は、もっと痛い目に遇っていただろうからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏と刀と無限の空 Episode22

『With him after the tournament』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって学園の医務室。

陽彩によって機体から引っ張り出されたラウラは、意識が無かった事もあり直ぐに医務室に搬送され、バイタルチェックが行われた――意識は無かったが、バイタルは安定していた為、左腕の骨折と右肩の脱臼及びヴァルキリートレースシステムで無理やり動かされて傷めた筋肉の処置をして、今はベッドで眠っている。

意識が無かったのはある意味で幸運と言えよう……意識があったら、肩の関節を入れる時の激痛を味わっただろうから。――アレはマジで痛いからなぁ。

 

 

「……此処は?……ぐ!?なんだ、身体を動かせん……?」

 

 

で、ラウラは目を覚ました訳だが、思う様に身体を動かす事が出来ないようだ――現役時代の千冬の動きを無理やり真似させられて身体に限界を超えた負荷が掛かったんだから、そらまぁ動けなくもなるだろう。おまけに左腕は骨折してる訳だしな。寧ろ、骨折した腕と脱臼した方が、無理やり動かされた事で悪化しなかったのが奇跡的と言えよう。

 

 

「目が覚めたかボーデヴィッヒ?」

 

「教官……」

 

「織斑先生だ。何度言えば分かるマッタク。」

 

 

そんなラウラに声を掛けたのは千冬だ。担任の務めとしてラウラに付き添っていたのだろう……同時に、ラウラが目を覚ましたら今回の事も話さねばならなかったからね。

 

 

「私は何故此処に?試合は、如何なったのでしょう?」

 

「其れを話す前に、お前は何処まで試合の事を覚えている?」

 

「織斑一夏の攻撃を喰らい、シールドエネルギーが残り一桁になった所まで……いえ、その直後に『力が欲しいか?』と問いかけられ、其れに答えた所までは。」

 

「そうか……」

 

 

ラウラが何処まで覚えているのかを聞いた千冬は、アリーナで起こった事を全て話した。

機体が変異して暮桜を模した姿になった事、現役時代の己を模した動きで一夏と刀奈に襲い掛かった事、一夏と刀奈にその状態でも圧倒された事、装甲が剥がれた所で陽彩が機体から引き摺り出して助けた事……そして、機体にはヴァルキリートレースシステムがインストールされていた事までも包み隠さず話した。

 

 

「ヴァルキリートレースシステム……そんなモノが私のレーゲンに?」

 

「ハルフォーフが言うには、整備班の班長がトーナメント開始直前にインストールしたのだろうとの事だった。……犯人は既に捕まえ、学園の地下に放り込んであるがな。

 まぁ、機体の暴走に関しては、そもそもVTSがインストールされていなければ起こらなかった事だからお前に責を問う事は出来ん。敗北寸前で『力』を欲すると言うのは、お前でなくてもしてしまう事だからな。」

 

「は、はぁ……」

 

「だがボーデヴィッヒ、お前は力を求めた結果暴走し、現役時代の私の贋作となったが、しかし一夏と刀奈には一撃も入れる事が出来ずに事実上の敗北を喫した訳だ……軟弱者と詰っていた相手にな。」

 

「…………」

 

 

だが、その後で千冬に言われた事にラウラは閉口するしかなかった。

其れはそうだろう。三年前の第二回モンド・グロッソで起きた誘拐事件で、『一夏が誘拐された』と言う事だけで一夏の事を『軟弱者』と決め付けて喧嘩を売り、一夏を己と戦わせる為にヴィシュヌとグリフィンを(公式試合では失格になる反則技を使って)痛め付けて、そして遂に一夏との戦いを実現させたと言うのに、いざ蓋を開けてみれば自分は一夏に対して何も出来なかったのだから。

試合開始早々に左腕を蹴り折られ、クロスレンジでの戦闘で圧倒され、AICは刀奈とのコンビネーションで破られ、必殺の一撃を喰らいシールドエネルギーを一桁まで減らされた……ヴァルキリートレースシステムが起動しなかったらあの時点で負けていたのだから。

オマケに暴走状態でも完封されたとなれば、完全敗北と言うしかないだろう。

 

 

「ボーデヴィッヒ、力と言うモノは確かに強いが同時に脆いモノだ。

 確かに力が無くては己の目的を達成出来ないのは事実だが、しかし力に固執して力の意味を見失ったら、其れはもう只の暴力であり、暴力なんてのは真の強さには最も遠くにある力だ。

 力と強さは似て非なる事だと言う事を知れ。」

 

「力があるから強いのではないのですか?」

 

「違うな。

 力とは言ってしまえば道具に過ぎん……強さを示す一つの基準ではあるが、強さは力が無くても示す事は可能だからな。――例えば、力の弱い子供が車に轢かれそうになっている犬を助けたとしよう。其れを見た者の多くはこう言うだろう、『車を怖がらずに犬を助けるなんて、なんて強い子なんだ。』とな。」

 

「あ……」

 

「強さは己の力を引き上げてくれるが、力は己の強さを引き上げるモノではないと言う事を覚えておけ。

 力だけで言うのならば私の方が一夏よりも上だが、強さで言うのならば一夏の方が私よりも上だ……特に心の部分はアイツは私よりもずっと強い。

 信じられるか?アイツは誘拐されたとき全く怯えた様子を見せなかったんだそうだ……それどころか『本気でブチ切れた千冬姉よりも怖いものはない』なんて事を言ったらしい――誘拐されて此れだけの余裕をかませる奴が一体どれだけ居るのだろうな。

 私は、一夏が誘拐されたと言う事を聞いてガラにもなく取り乱したと言うのにな……」

 

「…………」

 

「真に強くなりたいのならば、力を求めるよりも確固たる信念を持て、大切なモノを見つけろ。

 何があってもその信念を曲げずに貫き通し、大切なモノを守らんとすれば自ずと強くなっているモノだ……アイツには、其れがあるから強いんだ。」

 

 

力は強さではないと言う事を聞いて、またもラウラは黙るしかなかった。

軟弱者だと思っていた一夏が、実は誘拐されながらも余裕を見せていたと言う事を聞いてショックだったのだろう……そして、同時に自分が如何に思い上がって居たのかを痛感したのかも知れない。

そして、千冬の言葉で自分には確固たる信念も、大切なモノも実はなかったのだと言う事に気付かされた、と言うのもあるのだろう。

 

 

「其れは兎も角、お前は案外負けてホッとしたんじゃないか?」

 

「え?」

 

「お前は力に固執して強さを履き違えた結果、『負けたら終わり』だと思ってたのだろうが、今のお前はとても良い顔をしているぞ?VTSに取り込まれるまでは、まるで誰それ構わずに噛みつく狂犬の様な顔をしていたが今のお前はとても穏やかな顔をしている。

 まるで憑き物が落ちたかのようだ……敗北を知った事で、逆に心に余裕が出来たんじゃないか?」

 

「……そうであるのかも知れません。私は負ける事を誰よりも恐れていたのかも知れませんが、しかし敗北を知った今は自分でも驚く程に心が穏やかです。」

 

 

だがしかし、敗北を知ってラウラは穏やかだった……圧倒的な敗北を知り、あるいは開き直ったのかも知れないが、少なくとも今のラウラには一夏に喧嘩を売った時や、ヴィシュヌとグリフィンを蹂躙した時の様な異常性は感じられない。

まぁ、だからと言ってラウラのやった事が許される訳ではないが。

 

 

「其れで教官、私はどうなるのでしょう?

 クラリッサが織斑一夏のパートナーであるのならば、ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーとグリフィン・レッドラムの一件はドイツに報告されている筈です……私は本国に強制送還されるのでしょうか?」

 

「其れなのだがな……安心しろ、お前がドイツに強制送還されることはない。

 先ず、ギャラクシーとレッドラムはお前との一件は本国には報告せず、機体の損傷は『訓練でやり過ぎた』と言う事にするらしい――何でも、『一夏と刀奈が完膚なきまでに叩きのめしてくれてスッキリした』、『死体蹴りは趣味じゃない』との事でな。

 それから、正義の奴が何を思ったのかお前の事を自分の最後の嫁にすると言いだしてな……意思を確認すると本気との事だったのでな、その事を学園長に伝え、学園長が直々にドイツに伝え、そしてつい先程お前はドイツが公認する正義の婚約者になった。

 此れ等の事によってお前が強制送還される事は無くなった――ドイツとしても、貴重な男性操縦者とのパイプは確保しておきたいだろうからな……奴がお前の何を気に入ったのかは知らんが、奴のおかげでお前は首の皮が繋がった訳だから、感謝しておけ。

 勿論、お前の事を本国に報告しない事にしたギャラクシーとレッドラムにもな。」

 

 

普通に考えればラウラがヴィシュヌとグリフィンにやった事は国際問題に発展しかねない事であり、ヴィシュヌとグリフィンが本国に報告すれば、即座にドイツへの抗議が入り、ドイツとしてもラウラを強制的に国に帰還させただろう。

だが、ヴィシュヌもグリフィンも本国へは『機体の損傷』についての説明をするに留め、ラウラとの一件は報告しない事にしたのと、陽彩がラウラを自身の最後の嫁にすると言った事からラウラがドイツに送還される事は無くなったのだ。

タイとブラジルからの抗議が無ければ、ドイツとしてもラウラを強制帰国させる理由が無いし、一夏には数段劣るとは言え、陽彩が世界的に貴重な『男性IS操縦者』である事に変わりはないので、その嫁を処分する事は出来ない訳だ。

……ドイツは既にクラリッサが一夏のパートナーになっていたのでラウラを切り捨てても良かったのだが、其れをやったら国際社会からバッシングされるのは目に見えていたので、ラウラが陽彩の嫁に選ばれた事で処分を下さなかったのだ。

尚、ヴァルキリートレースシステムに関しては各国からドイツへの非難が出るだろうが、其処はヴァルキリートレースシステムをラウラの機体にインストールした犯人の独断であり、ドイツは国として関与してないと言い、犯人を厳重に処分する事で非難を最小限に止める心算なのだろう。

 

 

「アイツが私を……?」

 

 

でもって其れを聞いたラウラは困惑するも頬を赤らめていた。

陽彩は確かに顔は良いし、訓練中も何度もラウラを上回って見せた……そして、暴走した自分を機体から引き剥がして助け出したと言う話を聞いた上で、更に嫁に選ばれたと言う事を聞いて、ラウラの意識は陽彩に向いてしまったようだ。チョロいにも程があるだろマジで……陽彩のハーレムは何か?頭のネジが何本か吹っ飛んでる奴しか――居ないわな。恐らくヴィシュヌとグリフィンの温情の事など頭に入っちゃいないだろう。

何にしても、此れでラウラも落ちて陽彩チームになったのは間違い無いだろう……即落ちしたラウラの事を、千冬が『ヤレヤレ』と言った感じで見ていた事にラウラが気付く事は無かったけれどね。

 

 

「ところで、トーナメントの方は如何なったのでしょう?」

 

「ヴァルキリートレースシステムの暴走こそあったが、アリーナも壊れていないし観客にも被害はなかったのでそのまま続行した。

 企業からのスカウトも客として来ていたから予定を変更する事も出来んしな――あぁ、お前と正義のタッグはお前の機体が使用不能になった事で棄権扱いとなった。

 なので一夏と更識姉のタッグが二回戦へと駒を進め、そしてそのまま優勝した……円夏と更識妹のタッグの『絶対殺す弾幕』をほぼノーダメージで何とかしてしまうとは、マッタク持って恐ろしい奴等だ。」

 

「あの弾幕をもノーダメージで!?」

 

 

最後に、トーナメントの結果を聞いたラウラは驚愕する事になった……まぁ、円夏と簪の爆殺上等の絶対殺す弾幕をほぼノーダメージで何とかしたとか聞けば、そら驚くわな。

驚くだけじゃなく、『喧嘩を売る相手を間違えた』とも思ってくれれば良いんだが、其れは多分無理だろうな。……陽彩に陥落した時点で、ダメダメだしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、クラリッサはスマートフォンでドイツ軍に連絡を取っていた……普通に国際電話を使っていたら通話料金がエグイ事になってるだろうが、クラリッサが使っているのは軍の秘匿回線なので通話料金はかからないのだ。

 

 

「……以上が本日起きた事ですが、隊長への処分は矢張りなしの方向で?」

 

『そうするしかないだろう大尉。

 被害者である彼女達が被害届を出さないに等しい事をしてくれた上に、二人目の彼が少佐を己のパートナーに選んだのだから……とは言え、流石にお咎めなしとは行かないから、学園が長期休暇に入ったら一度此方に帰国させて特別訓練を受けてもらうがね。』

 

「了解しました。

 して、隊長の機体にVTSをインストールした犯人は如何いたしますか?私が連れ帰るのが妥当かと思いますが……」

 

『其れについては此方から人を寄越すから大尉はそのまま学園に残って少佐の監視を頼む――何時また、今回の様な事を起こさないとも限らないしね。』

 

「監視ですか……了解しました。今後また同じ様な事が有れば、その時は……」

 

 

今日起きた事を、黒兎隊の最高司令官である中将に報告するクラリッサは、其の中で『ラウラを監視するように』と学園に残るように言われていた……確かに、アレだけの事をしたラウラを、今回は処分しないとは言え監視を付けるのは妥当と言えよう。

クラリッサ自身、ラウラが行った蛮行に思う所があったのか、言外に『次は無い』とのニュアンスを含ませていた……顔を合わせたのは今日が初めてだが、彼女もまた刀奈やロランと同様に『同じ男性を愛した同士』を傷付けられた事に無意識の怒りを抱いていたのかも知れない。

 

 

『少佐の事は任せるよ大尉。

 時に、どうだったかね織斑一夏君は?』

 

「彼は私が思っていた以上の実力者でした。

 剣術も体術も、ISの操縦技術も一流の物でした……特に剣術の居合は、恐らくISを使用しない生身の状態で使っても、私が『眼』を解放しなければ見切れないレベルであると思います。

 正直、彼の戦いには見惚れてしまいました。」

 

『そうかそうか、其れは良い事が聞けた……織斑一夏君、会うのが実に楽しみだよ。』

 

「きっと中将殿……父上も気に入ると思います。」

 

『ぐ……不意打ちはズルいぞ大尉――まぁ良い。少佐の監視をしながら、彼との学園生活を楽しみたまえ。』

 

「勿論、そうさせて頂きます。」

 

 

そう言ってクラリッサは通信を終えた……中将の事を『父上』と呼んでいたが、此れは中将がクラリッサの父親であると言う訳でなく、クラリッサが中将を本当の父親の様に慕っていると言う事だろう。――実は中将は、黒兎隊のほぼ全員から『お父様』、『お父さん』とか呼ばれて、部隊のお父さん的立場に落ち着いていたりするんだけどね。……和むわ其れ。

取り敢えずクラリッサはラウラの監視として学園に残る事になった……其れは今頃学園にドイツ軍から通達が入っている事だろう。

 

 

「ハァイ、通信は終わったかしらクラリッサ?」

 

「あぁ、終わったよ刀奈。」

 

 

通信を終えたクラリッサの所にやって来たのは、刀奈を始めとした一夏のパートナーズだ。――刀奈の扇子に『お仕事お疲れ様』って書いてあるのは最早突っ込み不要だろう。マジであの扇子は如何なってるのか謎過ぎるわな。

若しかしたらこの扇子もまた束が作ったモノであるのかも知れない……若干否定出来ないのがなんか悲しいわ。束さんはマジで何でもありだからね。

 

 

「隊長の監視の名目で、私はこのまま学園に残る事になったよ……なので、此れから宜しく頼む。」

 

「あら、そうなの?……と言う事は、学園に一夏の嫁が勢揃いするって事よね?良いわね、最高だわ♪」

 

「そうだね。

 実の事を言うと、君だけがIS学園に居ない事が少しばかり心苦しかったのだよクラリッサ……私達は一夏と毎日のように触れ合えるのに、君は其れをする事が出来なかったのだからね。

 だが、此れからは君も一夏と触れ合う事が出来ると言う訳だ……嗚呼、実に素晴らしい。」

 

「ロラン……ですが一理ありますね。此方こそ宜しくお願いしますねクラリッサ。」

 

「一夏のパートナーが学園に勢揃いってのは確かに良いね♪宜しくねクラリッサ。」

 

 

で、クラリッサが学園に残るって事を聞いた刀奈達は其れを歓迎した。

矢張り一夏を愛する者同士、同じ場所に居たいと言う思いがあったのだろう――だから、一緒に居られる事を喜ばしい事と思ったのだ。そう思えたのは、偏に『一夏からの寵愛を一身に受けたい』と言う考えが無かったからだろう。

『一夏が平等に愛してくれるのならば、その愛を一人占めにするのは一夏への裏切りだ』と思っているのかも知れないが、刀奈達は刀奈達でハーレム要員(って言うのが適当かどうかは分からんので、もっと良い表現有ったら誰か教えて。)としての彼是を理解してると言う事なのだろう。

――此れが陽彩のハーレムだったら『誰が陽彩の一番になるか』で見るに堪えない争いが勃発していただろう。シャルロットだけは、我関せずで漁夫の利を得そうではあるが。腹黒貴公子恐るべし。

 

 

「あぁ、宜しく頼む。

 時にヴィシュヌ、左腕の方は如何だ?」

 

「順調に回復していますが、ギプスが取れるにはもう暫く掛かりそうですね……」

 

「そうか……今、少しだけ痛い思いをすれば左腕をもっと早く治す事が出来ると言ったら如何する?」

 

 

其れは其れとして、クラリッサはヴィシュヌに左腕の容態を聞くと、『少しだけ痛い思いをすればもっと早く治せる』と言う事を提案して来た……其処だけ聞くと此の上なく怪しい何かみたいだが、クラリッサの眼差しは真剣そのものだったからそんな感じはしなかった。

ヴィシュヌも少しばかり考えるが……

 

 

「其れが本当であるのならば、是非ともお願いしたいのですが。」

 

 

矢張り両腕が自由に使えた方が良いと言う事を考え、クラリッサの提案を受ける事にした――少しばかり痛い思いをするとは言え、左腕を踏み折られた時の激痛に比べれは大した事はないと考えたのも大きいだろう。

其れを聞いたクラリッサはヴィシュヌの右腕に張られていた傷の保護テープを剥がすと、治りかけていた傷のカサブタを剥がす……此れは確かに痛いわ。もう少しで治るカサブタを剥がした時の痛みはハンパないからね。

その痛みにヴィシュヌは少しばかり顔を歪めるが、声を出さなかったのは大したモノだと言えるだろう。

カサブタを剥がした場所からは血が出てくるのだが……

 

 

「ん……」

 

「へぁ?クラリッサ!?」

 

 

其処にクラリッサが口を付けたのだ。ヴィシュヌが素っ頓狂な声を上げてしまったのも致し方あるまい……誰だって行き成り傷口に口付けられたら驚くからね。

更にクラリッサは傷口に口を付けただけでなく、傷口に舌を這わせているのだ……傷口を舐められたヴィシュヌから悩まし気な声が出てしまったのは何ともアレではあるが。

 

 

「よし、終わりだ。」

 

「クラリッサ、ヴィシュヌに何をしたの?」

 

「彼女の腕がもっと早く治るようにしたんだ。

 私達アドヴァンストは体内に治療用のナノマシンを宿していてね、そのナノマシンは血液や唾液にも含まれいるので、ヴィシュヌの傷口に私の唾液を塗ってナノマシンを彼女の中に送り込んだんだ。

 このナノマシンの性能はとても良いのでね、後一時間もあればギプスが外せるようになる筈だ。」

 

「何よ其れ、とんでもない性能の治療用のナノマシンね?……ならクラリッサ、此処で一言どうぞ。」

 

「ドイツの科学力は世界一ぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

クラリッサは己の中にある治療用のナノマシンをヴィシュヌに与える為にこんな事をしたらしい……己の唾液を飲ませると言う方法もあったのだが、其処は『一夏よりも先に唇を奪う訳には行かない』と言う思いが働き、除外したのだろう。

で、刀奈から振られたクラリッサは安定のドイツネタを披露していた……其れが出来たのも、クラリッサが極度のヲタだったからなの知れないがな。――時に読者の何割がこのネタ分かるのか若干疑問だわ。

取り敢えず、一夏のパートナーズは息が合ってるみたいだから其れは良いとしよう。

 

 

「良い反応ねクラリッサ。

 其れは其れとして、今日から男子に大浴場が解放されると言う情報をゲットしたわ……だから、これから皆で『良い事』をしに行かない?きっと一夏も喜ぶと思うしね♪」

 

 

でもって刀奈は何やらとっても重要な情報をゲットしてたらしかった……恐らくは山田先生辺りが一夏と陽彩に話をしていたのを偶然聞いただけなのだろうが、しかし、僅かな情報であっても其れが確定情報であれば充分だ。

『良い事』を提案した刀奈の顔には、極上のイタズラを思い付いた悪ガキの如き笑みが浮かんでいた……取り敢えず、一夏は色々と覚悟を決めておくべきかも知れないな。刀奈の提案を聞いた全員が、其れに同意していたのだからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……こんだけの広い風呂を一人占めとか贅沢この上ないよな。」

 

 

大浴場の湯船に浸かりながら一夏は思わずそう漏らした。

トーナメント終了後に、山田先生から『男子に大浴場が解禁されました』と言う事を聞いて、一夏は真っ先に大浴場に来ていたのだ――陽彩と鉢合わせる可能性もあったが、陽彩はラウラを嫁にする事に関する手続きとかで職員室に缶詰め状態なので少なくとも今日は鉢合わせる事は無いだろう。

一夏としてはIS学園に来て初めてとなる風呂であると言えるだろう……普段は自室のシャワーで済ませているので、湯舟に浸かる事などなかったのだから。

汗を流せればシャワーでもスッキリ出来るが、一夏とて日本人なのだから、『ゆっくりと風呂に浸かりたい』と言う気持ちはあったのだ――ゆったりと風呂に浸かると言うのもまた日本の文化だからね。

尚、男子の入浴時間は決められており、男子の使用時間中は入り口に教師が見張りとして着く事になっている……興味本位で中に入ろうとする女子が居ないとは言い切れないからね。

 

因みに、IS学園の大浴場の風呂は、学園島の地下98mから汲み上げられた鉱泉水を温めたお湯が使われており、太古の藻の成分が溶け出した赤茶色が特徴となっている。序にPh7.8と言う超アルカリ水である為、飲用には向かず、飲用の水は島の別の水脈から汲み上げた天然水が使われている。

 

 

「しかしまぁ、此れだけ広い風呂を一人占めってのは贅沢ではあるんだけど、少し落ち着かないな?……かと言って、正義の野郎と一緒とか絶対に嫌だけど。」

 

「なら、私達と一緒なら良いかしら?」

 

「へ?」

 

 

独り言だった心算が、其れに答えが帰って来た事に少しばかり間抜けな声を出して、一夏が振り返ると……

 

 

「ヤッホー、一夏。お風呂満喫してるぅ?やっぱり日本人なら、ゆっくりとお風呂に浸からないとね♪」

 

「ふむ……思ったよりも鍛えられた良い身体をしているな。」

 

「まるで古代ローマの彫刻の様だね?細身の中に確かに存在する逞しさは、正に芸術品だ。」

 

「決して太くないのに確かな力がある……インナーマッスルを鍛えている賜物でしょうか?」

 

「いや、一夏の場合はアウターマッスルもインナーマッスルも両方鍛えてるからじゃない?」

 

「何で私まで……」

 

「そう言うな簪。未来の義兄と裸の付き合いと言うのも悪くないだろう?」

 

 

バスタオル姿の一夏のパートナーズ+円夏&簪の姿があった。

七人の美女のバスタオル姿って、其のまま温泉宿の宣伝ポスターかなんかに使えそうだな。或は入浴剤のパッケージとか、サウナの広告とか、結構使い道があるかも知れん。

 

 

「刀奈!?其れに、ロランとヴィシュヌとグリフィンにクラリッサ!円夏と簪まで!ちょ、何してんだよ!!スコール先生が見張りで居た筈だろ!!」

 

「居たわよ?

 だけど、『一夏の将来の妻になるんだから一緒に入っても問題ないですよね?』って言ったら、『其れなら確かに問題は無いわね。』ってアッサリ入れてくれたのよね♪」

 

「私と簪は、『兄と、将来の義兄だから問題は無いだろう?』と言ったらOKだった。」

 

「スコール先生仕事して!?」

 

 

刀奈達が此処に居る事に驚いた一夏は、どうやって入って来たのかを聞いたが、如何やら監視のスコールが仕事をしていなかった――と言うのは語弊があるだろう。スコールは刀奈達だからこそ許可したのだ……一夏の嫁と妹と将来の義妹ならば別に問題ないと判断したのだろう。

 

実際は大問題だけどな!!!

 

百歩譲ってパートナーズと、妹である円夏は良いとしても、簪はアウトだ。親の再婚で相当に子供の頃に出来た義妹でもなければ基本一緒に風呂に入る機会はないからね?

まぁ、円夏と簪が居れば大浴場で『禁則事項』にはならないだろうけどな。

 

 

「うふふ、安心して一夏。一緒にお風呂に入る事以外の事はしないから。

 実を言うとね、好きになった人と一緒にお風呂に入るのが密かな夢だったのよね……で、今日大浴場が男子にも解放されるって事を知って、その夢を叶える事にしたのよ。――私だけじゃ悪いから、他の皆も一緒にね。」

 

「だったら何で円夏と簪も居るんだ?」

 

「其れは私が久しぶりに兄さんと一緒に風呂に入りたかったからだ!簪は、序に一緒に連れて来た!」

 

「円夏、普通はお前位の歳で兄と一緒に風呂に入りたいとか思わないからな?其れと序で簪を連れて来るんじゃねぇ!そして簪も何で付いて来たんだよ!?」

 

「円夏に押し切られた。」

 

「OK、其処はもう少し抵抗しようね?」

 

 

円夏は大分強引だった模様。

一夏は円夏に突っ込んだモノの、刀奈達が此処に来た理由に突っ込まなかった辺り、刀奈の『密かな夢』を否定する気は無いのだろう……まぁ、好き合ってる男女が一緒に風呂に入るってのは、珍しい事じゃないしね。

 

 

「俺と一緒の風呂なんぞ、別に楽しいモノでもないと思うんだがな?」

 

「ふ、そんな事はないよ一夏。

 愛する相手と同じ空間を共有出来ると言うのは其れだけで幸福な事だ……私達は君と同じ空間を共有したい、其れだけだよ。」

 

「さいですか……まぁ、バスタオルを外さないって約束するなら此れもまたありか。ある意味で、俺にだけ許された特権とも言えるしな。」

 

 

でもって、一夏も割とあっさり此の状況を受け入れる事にしたらしい。

入って来たのが全く知らない相手だったら全力で逃走していただろうが、此処に居るのは己のパートナーズと妹の円夏、そして未来の義妹である簪なのが一夏をある意味で安心させたのかも知れない。

 

 

「そうだ、一夏には伝えておく事が有った。

 隊長の監視と言う事で、私はIS学園に身を置く事になった……ふふ、此れからは一緒に居られるな。」

 

「マジか?そっか、此れからはクラリッサも一緒なのか。其れは嬉しいな……此れでクラリッサにも弁当を作ってやれるからな。」

 

 

一緒に風呂に浸かりながら、クラリッサから『IS学園に居る事になった』と言う事を聞いた一夏は、其れを素直に嬉しいと思っていた……クラリッサにも弁当を作る事が出来ると言うのを喜んでいるのが一夏らしいっちゃらしいけどな。

で、其れを皮切りに皆で風呂に浸かりながらお喋りを楽しんだ――円夏が兄妹だからこそ知り得る子供の頃のエピソードを話し始めた時には、一夏のパートナーズだけでなく簪までもが喰い付いて来たからね……尤も、詳細を語る前に円夏の脳天に一夏の鉄拳が振り下ろされて詳細が語られる事は無かったが。

 

時に此れだけの美女と一緒に風呂となれば、大抵の場合男性は股間の膨張を抑える事が出来ないだろうが、一夏はそうはなっていなかった……一夏が不能と言う訳ではなく、『今は風呂タイム』だと割り切ってるのが大きいだろう。

風呂タイムであるのならば、バスタオル姿であるのは当然の事であるので、其れに欲情する事はないと言う訳だ……其処まで己の感情をコントロールしてるってだけで一夏が半端ないな。

もしも陽彩が同じシチュエーションになったら、間違いなく大浴場で『禁則事項』、『検閲により削除』、『滅びのバーストストリーム!』な事になっただろうからね。

取り敢えず、此のお風呂タイムは一夏とパートナーズの繋がりをより深くしたのは間違い無いだろう……裸の付き合いをした事で、一夏は刀奈以外の四人の事をより愛おしく感じ、刀奈以外の四人も一夏の事をより好きになったのだからね。

 

 

「そんじゃ、髪乾かすから一列に並べ。」

 

 

で、お風呂タイムの最後は、一夏の髪のブロータイムだ。

子供の頃から円夏の髪にドライヤーを掛けていた一夏のブロースキルは、そんじょそこ等のカリスマ美容師なんかを凌駕するレベルであり、その気になれば美容院を開業出来るんじゃないのかってレベルなのだ……コイツ、ドンだけ神に溺愛されるのかマジで気になるわ。

そんな一夏にブローされた刀奈達の髪は、見事な艶を放っているのだった――刀奈の悪戯から始まったお風呂タイムは、取り敢えず良い結果を生んだと言って良いだろう……一夏との仲はより深くなったのだからね。

 

 

一夏達が入浴を終えた後で、陽彩が大浴場を使ったのだが、残念な事に陽彩のパートナーズは一緒に入る事は叶わなかった……陽彩の時の監視官が千冬だったからね。

ある程度はフリーダムなスコールと違い、千冬はメッチャ厳しいから如何なる理由があろうとも男子の使用時間中に女子を中に入れる事を許可はせず、無理やり突破しようとすれば出席簿アタックが炸裂するので、箒達は陽彩の入浴時間に大浴場に突撃出来なかったのだ。

 

監視員の差はあれど、お風呂タイムをパートナーと共有出来た一夏と、共有出来なかった陽彩……たったそれだけの事ではあるが、其処に明確な差があるってのは間違い無いだろう。

神に溺愛された主人公と、神(見習い)の暇潰しで選ばれた主人公(笑)では、『数値の上では1ポイントに過ぎないが、其処には絶対的な差が存在する』って事なのだろうな。

 

何に知れても本日のお風呂タイムが一夏にとって最高の一時だった事は間違い無いだろう――尚、お風呂タイムの後で全員にマッサージをする事になったのはまた別の話だが、そのマッサージもまた刀奈達には大好評だった事も明記しておく。

マッサージを受ける刀奈達の声が何とも艶っぽかったのだが、其れは各自脳内再生するように!――天の声である俺とのお約束だぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 

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