夏と刀と無限の空   作:吉良/飛鳥

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タイと言えば何?By一夏     ムエタイの帝王サガットBy刀奈      あんなムエタイ選手は実在しませんよ……Byヴィシュヌ


Episode34『交際報告Ⅲ~Round3はタイランド~』

ブラジルでグリフィンの家族と、グリフィンが良く手伝いに行っていた孤児院への挨拶を終えた一夏はグリフィンとの一夜を終えた翌朝、レッドラム家での朝食を摂っていたのだが、その際にエリオから『昨日はお楽しみだったみてぇだな?』と言われて、グレート・ムタの毒霧宜しくコーヒーを吹き出してしまった。

『何で知ってんだ?』とも思ったが、考えてみれば昨日グリフィンは来客用のコテージに行ってた訳であり、そのコテージに居たのは一夏なのだから、つまりそう言う事があったのだろうって考えるのはある意味で当然だろう……南米特有のラテンの血がそうさせるのかも知れないが。

だが、驚きはしたモノの別段隠す事でもないので一夏はエリオの問いを肯定した……普通ならば隠すのかも知れないが、真に愛する相手と交わる事に恥ずべき事等ないと一夏は考えているので、迷わず肯定したのだ。……まぁ、確かに愛する人とやったからと言って、其れは恥ずかしい事ではないな。

まぁ、オブラートに包まずに聞いたエリオには、ミシェルのラリアットが炸裂した訳だが……如何やらブラジル女性は腕っぷしも相当に強いようだ。――と言う事は、ブラジルの既婚男性は大抵の場合妻の尻に敷かれているのだろう。

 

其れは兎も角として、朝食を終えた一夏はグリフィンと共にリオデジャネイロ国際空港に向かい、一夏が次の目的地であるタイへの渡航手続きを済ませると、ターミナル前のロビーで抱擁と、触れるだけのキスをして一夏はタイ行きの便に搭乗してブラジルを発ったのだった。

 

ブラジルとタイの時差は十時間であり、そしてタイの方がブラジルよりも進んでいる……一夏がブラジルを発ったのは午前九時なのだが、その時タイは夜の十九時と言う事になる。

更に、ブラジルからタイへのフライト時間はドイツ~ブラジル間の凡そ十二時間の倍になる凡そ二十四時間と言うトンデモない長丁場なのだ……つまり、一夏がタイに着くのは、タイでは翌日の十九時になる訳だ。

 

 

「束さんが作ってくれた時差ボケ防止薬が無かったら、可成りキツかったかもな……まぁ、此れのお蔭で時差ボケを気にせずに旅行出来るんだから束さんには感謝しかないよな。

 帰国したら、お礼に束さんの大好物の杏仁豆腐を作って差し入れるか。……只の杏仁豆腐ってのも味気ないから、夏が旬のフルーツをトッピングするか。」

 

 

尤もその長丁場のフライトでも一夏は退屈する事は無い。

そもそも束が作った時差ボケ防止薬のおかげで時差ボケとは無縁なので機内でも時差調節をする事なく好きな様に過ごせるのだ……世界旅行で時差ボケを気にせずに機内で好きな事が出来るってのは、ある意味で最高の贅沢と言えるかもしれない。

一夏のスマホには旅行前に簪に教えて貰ったアニメや特撮やゲームがインストールされているので、それ等を使えば長時間のフライトでも退屈だけはしないだろうからな……一夏も絶賛ゲームを堪能してるみたいだからね。

 

 

「オンラインで乱入して来たから腕に自信があるのかとも思ったら、大した事ないか……その程度で、俺のザンギに勝とうなんぞ千万年早いぜ!!ザンギの吸い込み舐めんなよ?特にZERO3のファイナルの吸い込みと無敵は異常だからな!!」

 

 

如何やらプレイているのはストゼロ3だったみたいだが、確かにZERO3のザンギは凶悪であり、一夏は『足払いすかしスクリューファイナル』(小足払いにキャンセルしてスクリューパイルドライバーを投げミスして、投げミス動作中にファイナルアトミックバスターを入力して相手の反撃を強引に吸い込む高等テクニック)で乱入相手をKO!!……ZERO3のザンギは間違いなく最強キャラだわ。

 

とまぁ、こんな感じでフライト時間も一夏は満喫していた。ゲームだけでなく、仮面ライダーの映画や、Fateの映画を見たりしてね。

そして当然のごとくビジネスクラスだったので機内サービスも最高で、機内食も可成り満足の行くモノだった……その機内食を食べながら『肉に掛かってる此のソース、材料は何だ?』とか考えてるのが一夏らしいと言えばらしいのかも知れないが。

兎に角、今回の旅の中では最長となるフライトも、ストレスフリーで楽しむ事が出来た様だ。

 

 

「ビジネスクラスを手配してくれた千冬姉にも感謝だよな……お礼にペアでの温泉旅行でもプレゼントするか。」

 

 

そんなフライトを楽しめるのも、全てはビジネスクラスを手配してくれた千冬のおかげなので、それに対しての礼も一夏は確りと考えている様だった……只の温泉旅行ではなく、『ペア』と言うのが非常に大事な部分だろう。

姉が弟の事を思っているように、弟は弟で姉の事を考えているらしい……姉の恋路をちょっぴり応援してもきっと罰は当たるまいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏と刀と無限の空 Episode34

『交際報告Ⅲ~Round3はタイランド~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな快適な空の旅だったのだが、タイのスワンナプーム国際空港に到着したのは予定の十九時ではなく、一時間遅れの二十時だった。

これは別に機体トラブルが発生して何処かの空港に緊急着陸して乗客が別便に乗り換えたとかではなく、単純に予定航路が悪天候だったので大きく迂回したからである……悪天候の中を突っ切って乗客を危険に晒す訳にも行かんしね。

 

 

「まさかの悪天候で延着とはな……ヴィシュヌに連絡入れておいて良かったぜ。」

 

 

一夏はと言うと、如何やら機内アナウンスで『到着が遅れる』との事を聞いてすぐにヴィシュヌに連絡を入れていたらしい……予定時刻を過ぎても未だ到着していないってのは待ってる側に心配させてしまうから、此れは当然と言えるだろう。

とは言え、時間通りに着いていた所で、本日一夏はホテル泊まりであり、ヴィシュヌと実際に会うのは明日になるので延着はそれ程問題ではなかったりするのだ。

『十九時着ならそんなに遅くないからヴィシュヌの家に行けばいいじゃん』と思うかもしれないが、丸一日のフライトを終えてインターバル無しってのは如何に一夏がタフでも厳しいモノがあるのと、一夏は知らされていないが、其れをやるとヴィシュヌは事前に刀奈を除いた嫁ズで決めておいた『今回の旅行期間中、一夏と過ごす時間は一泊二日』と言う嫁協定に違反する事になってしまうのだ。なので、ヴィシュヌが迎えに来るのは明日って訳だ。

誰か一人が一夏と過ごす時間が多くならないように、嫁ズは嫁ズで考えているって訳だ……学園の寮に関しては、『男性操縦者重婚法成立前の刀奈の既得権』と言う事になっているが、其れも二学期には変わって居るかも知れない。

男は嫁全員を平等に、嫁ズは抜け駆けしない、此れが一夫多妻が成功する秘訣だろう。そもそも、嫁さんを『第○○婦人』と言うのが失礼だろって話だしね。

 

 

「にしても、ブラジルが冬でも暖かかったとは言え、流石にタイは暑いな?乾季ほどじゃないとは言え、夜でも20℃超えてるとはな……ブラジル出発する時に薄着になっといて正解だったぜ。」

 

 

七月のタイは雨季であり、一日の間に短時間のスコールが何度も起きる事があるのだが、気温は平均して30℃を超えると言う、蒸し暑い季節でもある……その辺は若干日本に似てると言えなくもないだろう。日本よりも赤道に近いので日差しはより強いが。

取り敢えず一夏は空港ホテルの一室を借りて長旅の疲れを癒すのだった。

 

 

「申し訳ありません、当ホテルはもう満室でして……」

 

「……アイルビーバック。」

 

 

同じ頃、護衛のT-はっぴゃっ君は宿を取れずにいた……コイツはアンドロイドなので別にホテルが取れずとも問題あるまい。だって寝る必要ない訳だしね。

 

 

 

 

そんでもって翌日。

タップリ寝て長旅の疲れを癒した一夏は、ホテルのレストランでタイの代表的な軽食であるパートンコー(タイ風揚げパン)とトーッマン・プラー(タイ風薩摩揚げ)で朝食を済ませるとホテルのロビーでヴィシュヌを待っていた。

一夏としてはブラジルの時と同様に外に出て待っていた方がヴィシュヌも見付け易いだろうと思っていたのだが、ヴィシュヌから『ホテルのロビーで待ってて下さい』と念を押されたのでロビーで待っているのだ。

 

 

「朝ノ山が無敗の十連勝か……此のまま全勝優勝決めてくれたら横綱確定だから頑張ってくれよ?稀勢の里以来の日本人横綱を期待してるんだから。」

 

 

ヴィシュヌを待っている間、一夏はスマホでスポーツ情報を閲覧しているらしい……野球やサッカーだけじゃなく、相撲までチェックしてるとは中々だ。まぁ、一夏だけじゃなく、実は嫁ズも相撲好きだったりするんだけどね。

推し力士は夫々居るのだが、グリフィンの押しが魁聖なのは仕方ないよね。だってブラジル出身だし。……って、其れは別に如何でも良い事だな。

 

 

「一夏、お待たせしました。」

 

「いや、そんなに待ってないぜヴィシュヌ……」

 

 

スマホでスポーツ情報を見ていた一夏の元に、ヴィシュヌが現れた訳だが、そのヴィシュヌに一夏は目を奪われてしまった。

ヴィシュヌがIS学園で着用しているような私服ではなく、タイの民族衣装である『シワーライ』を纏っていたからだ――パーシンと呼ばれる巻きスカートに、スアーと呼ばれるブラウスを合わせ、サバイと言う肩掛けをかけているのだが、肩掛けは片方の肩だけなのでもう片方の肩は丸見えなのだ。

此の片方の肩だけが露出していると言うのが、何とも言えないセクシーさとエロチズムを演出しているのだが、其処にヴィシュヌの芸術品の如きしなやかなダイナマイトボディと、エキゾチックな褐色肌がプラスされたら破壊力は計り知れないだろう。

 

 

「どうかしましたか?」

 

「いや……その服、めっちゃ似合ってるぜヴィシュヌ。」

 

「そうですか?なら良かったです。母に頼んで見繕って貰った甲斐がありました。」

 

 

なので、一夏は普通に褒めるのだが、褒められて少し照れ気味のヴィシュヌが何とも言えない……並の男だったら、このヴィシュヌに一撃で魅了されて日本が世界に誇っちゃいけない特攻をかましていたかもしれないが、一夏はそんな事はせずにヴィシュヌの手を取るに留める。一夏はどんな時でも紳士なのだろう。

 

空港ホテルを後にした一夏とヴィシュヌは空港を出て市街地に。これからヴィシュヌの実家に向かう事になるのだが……

 

 

「一夏、折角なので最近出来たタイ独特の移動手段を使いませんか?」

 

「独特の移動手段って、なに?」

 

「此れです。」

 

『パオーン!!』

 

「……ゾウ?」

 

「ゾウです。

 観光客向けに始めたゾウタクシーです。ゾウの背に乗って移動する事なんて中々体験出来る事ではないので、近年のタイでは観光客に大人気なんですよ。序に言うと、ゾウが排出するのは糞だけなので、地球環境にも優しいです。糞は何れ分解されますし。」

 

「究極のエコタクシーだな。」

 

 

ヴィシュヌが移動手段として提案して来たのは、ここ最近観光客に人気のゾウタクシーだった。

ゾウに乗って移動出来ると言う事で観光客に大人気のコンテンツだったのだが、ゾウタクシーはエコと言う事で観光客だけでなくタイ国民も普通に使用している極めてポピュラーな公共交通手段だったりするのだ。(あくまでもこの世界ではの話だが。)

ゾウと言うとゆっくり動くイメージだが、実はあの巨体でマックススピードは40Km/hに達するので、移動手段としては意外と優れているだけでなく、ゾウの巨体が歩けば其れだけで周りの車が避けるので渋滞も関係ないのだ。

そんな訳で、物珍しさもあり一夏とヴィシュヌはゾウタクシーで移動する事に……『梯子でも使って乗るのか?』と思ったら、ゾウの方が膝を折って乗り易くしてくれたのだから大したモノだ。タイに居るゾウは、アジアゾウだから体高も其処まで高くないので、膝を折ってくれれば高校生位の体格なら乗るのは難しくないのだ。

 

 

「行き先は?」

 

「ガーネシアムエタイ道場までお願いします。」

 

「あれ?ヴィシュヌの家に行くんじゃないのか?」

 

「私の家ですよ?実は、母がムエタイ道場を経営していて自宅とは別に、庭に道場を併設しているんです。

 過去には母の道場からチャンピオンが誕生した事もあるので、タイではソコソコ名の知れた道場だったりします……母の現役時代の『人間凶器』と言う二つ名も道場の名が知られている要因になってる気はしますが。」

 

 

ヴィシュヌの家に行くと思っていた一夏は、行き先がムエタイ道場だった事に疑問を持ったが、そのムエタイ道場が実はヴィシュヌの実家だと言うのだ。

其れだけでも驚きだが、その道場からチャンピオンも誕生していると言うのだからより驚きだろう……『人間凶器』と言う二つ名は若干気になるモノの、ヴィシュヌの母親はムエタイの指導者として可成り優秀なのだろう。

母親から指導を受けて来たヴィシュヌも可成り強く、IS学園の古武術部では一夏、刀奈、グリフィンと共に『古武術部四天王』に数えらえれており、立ち技オンリーで打撃限定ならばヴィシュヌの右に出る者は居なかったりするのだ。

 

そんで、ゾウの背に揺られる事およそ十五分で目的地に到着し、運賃を払ってゾウから降りて道場に向かって行った。ヴィシュヌが言うには、『今の時間は、道場で指導をしている』らしいので、母屋ではなく道場の方に行ったと言う訳だ。

 

 

「せい!いやー!!」

 

「うおりゃぁぁぁ!!」

 

「拳が避けられたら肘でフォローするのを忘れない!ハイキックを打つ時は、相手に膝蹴りを意識させて二択を迫る!ハイキックが空振りしたら踵落としで隙をフォローするように!」

 

 

道場の中に入ると、練習生達が夫々トレーニングをしていた。

筋力トレーニングに勤しむ者、サンドバック打ちに集中している者、縄跳びで体重をコントロールしている者、リング上でスパーリングを行っている者等々、未来のムエタイチャンピオンを目指す若者達が真剣にトレーニングを行っていた。

そんな若者達の中で実戦形式のスパーリングを行ってる者達に檄を飛ばしながら指導しているポニーテールの女性がヴィシュヌの母なのだろう……ヴィシュヌと良く似ているが、ヴィシュヌと比べると男勝りで勝気な印象を受ける女性だ。

 

 

「お母さん、只今戻りました。」

 

「おかえりヴィシュヌ。其方の方が?」

 

「はい、彼が織斑一夏。私の交際相手にして将来の夫となる人です。」

 

「初めまして、織斑一夏です。ヴィシュヌと交際させて頂いてます!っと、此れ土産です。良かったらどうぞ。」

 

「此れはご丁寧に。ふむ、中々の好青年って感じだね?

 アタシはガーネシア・アル・ギャラクシー、ヴィシュヌの母親です。宜しくね、一夏君。」

 

 

その女性――ガーネシアにヴィシュヌが一夏を紹介し、一夏が自己紹介して手土産を渡すと、ガーネシアも其れを受け取って自己紹介をした後に握手をする……先ずは好感触と言った感じだろう。

道場に居た野郎共はヴィシュヌが言った事に激反応してトレーニングの手が止まったモノの、ガーネシアに『コラ、休んでるんじゃないよ!』と一喝されると、即トレーニングを再開した……だが、此れは間違いなく一悶着ありそうだな。

 

 

「貴方の事は知ってるし、男性操縦者重婚法も知ってるけど、まさかヴィシュヌが選ばれるとは思ってもみなかったよ……この子の何処が良かったのでしょう?

 こう言っては何ですけど、アタシのせいとは言えヴィシュヌはそんじょそこ等の男よりも腕が立つし、生真面目なのは良いんだけど少しばかり面白みに欠ける所があるんじゃないかと思うのだけれど?」

 

「何処って……そんなの全部に決まってるじゃないですか。

 並の男より強いなんてのは、そもそも俺の姉が世界最強って呼ばれてるんで問題じゃないですし、生真面目だけど面白みに欠けるなんて事はないですよ?生真面目故の天然ボケかましてくれる事もありますし。」

 

「天然ボケ、かましてますか私?」

 

「ヴィシュヌ自身は真剣にやってるだけなんだろうけど、ヨガのお手本とか割と普通にビックリ人間的な事になってる場合があるからな?スゲェとは思うけどさ。」

 

「あらあら、親である私でも知らない一面を知ってるみたいね?」

 

 

自己紹介が終わったら、今度は『ヴィシュヌの何処が良かったのか?』と言う問いが飛んで来たが、其れに怯む事無く一夏は其れは愚問だと言わんばかりに、ヴィシュヌの全てが良かったのだと言い切って見せた。

並の男よりも強いなんてのは、一夏からしたら姉の千冬のおかげで今更であるし、ヴィシュヌの事は真面目ではあるが面白みに欠けるとは思っていない……と言うか、割とはっちゃけてる刀奈とロラン、肉限定で無限に食せるんじゃないかと思えるグリフィン、ガチオタのクラリッサと他の面子が割と強烈な個性の持ち主なので、ヴィシュヌは此れ位の方がバランスが取れてるとも言えるのだ。寧ろヴィシュヌまでぶっ飛んだキャラだったら深刻な突っ込み不足に陥っていただろう。

 

 

「其れでヴィシュヌ、貴女は一夏君の何処が良かったの?」

 

「整った容姿をしているとは思いましたが、其れ以上に彼の内面と強さ、自分で決めた事には一切妥協しないでトコトンやる姿勢に惹かれたと言いましょうか?

 其れに加えて決定打になったのが、私が大怪我をした時に、その原因となった相手に対して本気で怒ってくれたのを見て、『大切にされてるんだな』と実感して一気にと言う感じです。」

 

 

ヴィシュヌの方も、ガーネシアに聞かれた事に戸惑う事なく答える。

ラウラに一方的にやられたのは苦い記憶ではあるのだが、同時に一夏に助けられ、その姿を見て己の中にあった一夏への感情が友情から愛情へと変わったのを自覚した記憶でもあるので、色んな意味で忘れる事の出来ない出来事だと言えるのだ。だからこそ、こうもハッキリ言う事が出来るのだろうけどね。

 

 

「成程……あなた達は相思相愛で間違いないようね?なら安心しました。

 織斑一夏君、貴方にならヴィシュヌを任せられると確信しました。ヴィシュヌの事を、どうか宜しくおねがいしますね?」

 

「はい。ヴィシュヌは必ず幸せにします。」

 

「一夏……堂々と言ってくれるのは嬉しいのですが、流石に少し恥ずかしいです。」

 

「あら、照れる事は無いでしょう?其れよりもヴィシュヌ、貴女も一夏君に幸せにして貰うだけじゃなく、彼を幸せにして上げなさい?」

 

「はい、勿論ですお母さん。」

 

 

取り敢えず挨拶は巧く行ったらしい。

『父親への挨拶は良いのか?』と思うだろうが、ヴィシュヌの父親はヴィシュヌが物心付く前に事故で他界しているのだ……なので、母親であるガーネシアに認められればOKなのだ。

でもって、ガーネシアが『宜しく頼むよ?』と言った事で、一夏とヴィシュヌは親公認の仲になったのである。……矢張り母親ってのは父親よりもハードルが幾分低いのかも知れん。ドイツもブラジルも親父のハードルは高くなかったから分からんけど。

 

 

「って、待てーい!男連れて来たと思ったら、結婚の挨拶って聞いてねぇ!つーか認めねぇ!!」

 

 

が、しかし道場の紅一点であるヴィシュヌに思いを寄せている男性は少なくなく、そんな男性諸氏からしたらヴィシュヌが彼氏を連れて来たって事だけで緊急事態と言う訳だ……コイツ等からしたら自分のアイドルが何処の馬の骨とも知らない野郎に奪われたのと同じだからね。

……可成りの被害妄想だと思うが、其れは言うだけ無駄だろう。

 

 

「いや、何でお前に認められないといけないんだ?

 そもそも、お前誰だよ?俺とヴィシュヌはお互いに好き合ってるし、ガーネシアさんも俺達の仲を認めてくれたんだ――部外者であるお前が口を挟む事じゃないと思うんだが、如何思うヴィシュヌ?」

 

「マッタク持って同意ですね。私が誰と付き合おうと、貴方には関係ないのではないでしょうか?」

 

「ウグ……其れは、確かにそうだけど。」

 

 

先陣を切った練習生だったが、一夏とヴィシュヌに見事にやり込められてしまった……其れだけなら未だしも、高嶺の花であるヴィシュヌにバッサリ切って落とさたってのは可成り堪えるだろう。序に一夏もヴィシュヌも言ってる事正論だしね。

 

 

「だからと言って、『はいそうですか』って簡単に退き下がる事が出来るかぁ!

 お前がヴィシュヌちゃんに相応しい奴か、俺が吟味してやるぜ!さぁ、リングに上がれ!!」

 

「ブラジルでは無事に終わったけど、こっちではそうも行かない訳な。

 良いぜ、やってやるよ。その代わり、俺が勝ったら二度と俺とヴィシュの関係に口を出すなよ?其れが条件だぜ。」

 

「んな事は分かってる!負けたら潔く認めてやる!」

 

 

やはり起こってしまった厄介事。

ドイツの黒兎隊の時は女の子のヤキモチとも取れたが、今回は其れとは訳が違う――野郎の本気なのだ。

此のまま無視、と言う事は出来ないだろうし口で言った分かる相手でもなさそうなので、一夏は勝負を受ける事を決めてリングイン……の前に荷物の中からオープンフィンガーグローブを取り出す。ブラジルで万が一バーリ・トゥードな展開になったときの為に持って来ていたのだ……バイオレンスな展開を考えて用意していたと言うのは果たして準備が良いと言うのか若干謎だが。

 

 

「一夏……」

 

「大丈夫。負けないから安心しろって。」

 

 

少し心配そうなヴィシュヌにサムズアップして答えると、一夏は靴とシャツを脱ぎ、オープンフィンガーグローブを付けて準備完了。相手が素足にグローブなので、其れに合わせた感じだ。

と同時にシャツを脱ぎ捨てて顕わになった上半身に、ガーネシアは思わず感嘆の声を漏らした……一夏は細身で、普段はIS学園の制服を着ているから分かり辛いのだが、実は一夏の身体は1mmの無駄もなく絞り込まれており、見る人が見れば途轍もない鍛錬を行って来た事が分かるのである。

『究極の細マッチョ』とも言える一夏の身体は、謂わば全身が速筋と遅筋の双方の利点のみを併せ持つ筋肉で構成されていると言っても過言ではないだろう。

 

 

「流石にリング上で喧嘩をさせる訳には行かないから、ルールは決めますよ?

 時間無制限、判定無し。立ち技で攻撃方法は打撃のみ。金的と目潰しは当然禁止。三回ダウンするか十カウント以内に立ち上がれなかったら負け。此れ以上試合続行不可能と判断した場合は、アタシがリング内にタオルを投げ入れます。

 赤のタオルは一夏君が、青のタオルはジョー君が試合続行不可能になった場合に投げ入れられるので覚えておいて下さい。質問はありますか?」

 

「いや、無いです。」

 

「俺も大丈夫っす!」

 

 

ガーネシアからルールを聞いた一夏と、ジョーと呼ばれた少年は互いに向き合って構える。ジョーの方はボクシングに似た構えだがガードポジションをやや高めにしたムエタイらしいスタイルであるのに対し、一夏は右手を顎の下辺りで構え、左手は脇を絞めて構えてジョーに対しやや斜めに向き合う独特のスタイルだ。

準備が出来たのを確認すると、ガーネシアが試合開始のゴングを打ち鳴らす!

 

先に動いたのはジョー。一足飛びで一夏に接近すると拳を繰り出し、其れが避けられると間髪入れずに蹴りを放つ。そして其れだけではなく、時には肘や膝で攻撃を行い猛ラッシュを掛ける。

拳脚一体の猛攻こそがムエタイの真髄であり、身体の最も固い部分である肘と膝まで繰り出されるのだから密着状態でも有効打を与える事が出来る。手数の多さと打撃の種類ではムエタイに適う格闘技は無いとまで言われているのだ。

 

 

「クソ、当たらないだと!?」

 

「速い、けど遅いな。」

 

 

だが、その猛ラッシュを一夏は悉く避ける。スウェーバック、ダッキング、ステップとありとあらゆる方法で不意打ち気味に出された肘や膝までも華麗に回避!回避の能力値が255に達しているレベルだ。

何故一夏がこうも避け続ける事が出来るのか?其れは一夏が言った『速い、けど遅い』と言うのが答えだ。

ジョーの攻撃は確かに速く鋭い上に矢継ぎ早に繰り出されるので普通は回避するのは困難でガードの比重が大きくなるのだが、一夏は古武術部で此れよりもずっと速く鋭いヴィシュヌの猛攻を経験しているので、避けるのに難は無かったりする――序に言うとヴィシュヌの攻撃には速さと鋭さに加えてしなやかさもプラスされて居るので、避けるのが難しかったりする。ジョーの攻撃が棒での攻撃とするなら、ヴィシュヌの攻撃は鞭と言った感じだ。

 

攻撃するジョーと避ける一夏、そんな状況が二分程続いた所で、一夏が遂に反撃に出た。

ジョーのストレートを初めてガードすると、次の一撃が来るよりも早くリングを蹴って飛び蹴りを繰り出したのだ――完璧なタイミングのカウンター故に、ジョーは防御も回避も出来ずに其れを喰らってしまった。ダウンしないで踏み止まったのは見事だが。

だが、一夏の攻撃は其処で止まらず、着地と同時にローキックを繰り出すと裏拳×2→ボディブロー→肘打ち→蹴り上げのコンボを叩き込む……うん、FinalFightのガイのコンボだ此れ。此れを喰らっても倒れないジョーは可成りタフだと言えるだろうが。

 

 

「ぐが、舐めるなぁ!!」

 

「舐めちゃいないぜ?お前は強いが、生憎と俺は身内が人外なせいでお前レベルの強さじゃ驚かないんだ……でもって、俺自身も身体をイジメまくってるから余程の相手じゃない限り負ける気がしないだけだ。」

 

「クソォォ!!」

 

 

一夏のコンボを耐えたジョーは再び殴り掛かってくるが、一夏は其れをダッキングで避けると、低い姿勢から抉り込むようなアッパーを放ち、その腕を振り下ろしてエルボーを叩き込むと、ストレート→ボディブロー→百裂脚→連続パンチのコンボをぶちかまし、連続パンチの最後は強烈なフックを決めた所にトドメのジャンピングアッパーカット、所謂『昇龍拳』を決め、この猛攻を喰らったジョーは遂にダウン!

そしてただダウンしただけでなく、完全に気を失って居る様だ……一夏の最後の昇龍拳は見事に顎を打ち抜いてジョーの意識を刈り取ったと言う事だろう。

其れを確認したガーネシアは青のタオルを投げ入れて試合を終わらせ、一夏のTKO勝ちを宣言する――と同時にヴィシュヌがリングに上がって一夏に抱き付いた。

一夏の勝利を信じてはいたが、ジョーはこの道場でも最強の練習生だったので万が一と言う事を考えて居ただけに、一夏が勝った事に安堵したのだろう……一夏も一夏でヴィシュヌの事を優しく抱き留めてやったもんだから道場の野郎共は此処で完全敗北を悟っただろう。

一夏とヴィシュヌの愛と言う名の絆は、自分達が何をした所で綻ばせる事すら出来ないと言う事にな……此度の厄介事も、一夏は己の力で解決した訳だ。

因みに、ヴィシュヌは『一夏が居なくとも、私は貴方達と付き合う事は無かったと思いますよ?私より弱い人に興味はありませんので』と言ってキッチリとトドメを刺していた……自分の思い人に喧嘩を売ったってのは許せなかったらしい。

だがまぁ、このヴィシュヌの一言が練習生達のハートに火を点け、より強くなろうとトレーニングに勤しむ事になったのだから悪い事ではなかっただろう――尚、目を覚ましたジョーは、素直に負けを認め、そして一夏の事を認めて『ヴィシュヌちゃんを頼む』と言っていた。厄介事をぶちかましてくれたが、勝負の結果にはイチャモンを付ける奴ではなかった様だ……陽彩のような奴だったら絶対にイチャモンを付けて来ただろうがな。

ちょっとした厄介事は有ったモノの、タイでの報告も巧く行ったと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

道場での一件の後、一夏はヴィシュヌの案内で観光を楽しんだ。

観光ガイドに載ってる名所から、知る人ぞ知る穴場まで……その穴場に、ストⅡシリーズのベガステージのモデルとなった場所があったのには一夏も驚いた。あの独特な銅像と鐘が実在してるとは誰も思わなかったからな。その場に旅行客と思われるベガのコスプレをした人が居たのは御愛嬌と言ったところか。

その他、タイの仏教寺院では一夏は虎が飼育されている事に驚き、ランチタイムには『本場のタイ料理には、実はパクチーはそれ程使われてない』と言う事を知り、ちょっとショックを受けていた……どこぞのラーメン屋で『カラシビ鬼増しパクチー増し』で頼むと丼の上は葉っぱと粉しか見えなくなるらしいが、其処までパクチーをふんだんに使うのは日本独自の食の超進化だと言って良いだろう。

 

そして観光を終えた一夏とヴィシュヌは家に戻り、今度はディナータイムだ。

この日のディナーはガーネシアが多少の手伝いをしたとは言え全てヴィシュヌが作ったモノだった……女の子たる者、自分の手料理を彼氏に振る舞いたいって思うのは当然の心理だろう。

ディナーに並んだのは、タイ米を使った炒飯、鶏肉と野菜のタイ風炒めモノ、世界三大スープに数えられるトムヤムクン、タイ風の生春巻きとタイ料理のフルコースと言った感じであり、味の方も一級品だった。一夏が『このレベルなら店が出せるな』と言っていたので、ヴィシュヌの料理の腕前は相当に高いと言えるだろう。

……尤も一夏は、そのヴィシュヌを遥かに凌駕する料理スキルがあるんだけどね――マジでコイツ超人じゃないかって疑いたくなるわ。

マジで一夏は何モンなのか?少なくともナニモンではない!絶対にない!!

 

そんな最高のディナータイムだったのだが、其れが終わるとガーネシアは『ムエタイ協会での会合がある』と言って出掛けてしまった……つまり、今現在この家には一夏とヴィシュヌが二人きりなのだ。

一つ屋根の下に若い男女が二人きり……何も起きない筈がないだろう。

 

 

「ふぅ……サッパリしたぜ。」

 

「其れは良かったです。」

 

 

一夏はシャワーを浴びてサッパリして宛がわれた部屋に戻ると、其処にはヴィシュヌが居た……其れだけならば特に問題はないのだが、何とヴィシュヌはバスローブだけを纏った状態でベッドに腰かけていたのだ。

 

 

「ヴィシュヌ!?お前、何してんの!?」

 

「貴方を待っていたんですよ一夏……その、こんな事を言うのはふしだらかも知れませんが、私に貴方の証を刻んでくれますか?……私が貴方のモノであると言う証を下さい。」

 

「……良いのか?俺は、そうなったら止まれないぜ?」

 

「良いんです……貴方の証を私に下さい。」

 

「分かった。……でも此れはお前に言われたからするんじゃない。俺がしたいからするんだ……お前に刻んでやるよ、俺の証をな。」

 

「はい、刻んで下さい。」

 

 

でもって、ヴィシュヌの思いを聞いた一夏は、ヴィシュヌを優しくベッドに横たわらせると、バスローブの帯を解いてその肢体を顕わにする……芸術品とも言える肢体のヴィシュヌに一夏は目を奪われるが、軽く笑みを浮かべると愛撫を開始してヴィシュヌを愛する。……此れまでの経験で前戯の彼是を学んだ一夏は、S○Xにおいても最高のテクニックを発揮出来るのだ。

でもって、女性の方にも『愛されている』と言う実感を与えるってんだから本気で凄すぎる……此れもまた陽彩とは違うだろう。陽彩は、女性を生処理の道具としか見てない部分があるから、そもそも比べるのが間違ってるかも知れないけどね。

 

 

「一夏……貴方は私の魂の半身です――愛しています。」

 

「其れは俺もだぜヴィシュヌ……愛してるよ。」

 

 

この上なく愛し合った一夏とヴィシュヌは最後に軽く口付けを交すと、其のまま夢の世界へと旅立って行った……まぁ、今回の事で一夏とヴィシュヌは身体も心も繋がったと言って良いだろう。

やはり愛し合ってる二人が心も体も繋がったってのは最強だろう……愛と絆ってのは最強だからね。

そして、翌日にはタイ政府が『織斑一夏とヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーの婚約』を世界に向けて発表し、ヴィシュヌは四人目となる一夏の婚約者として認知される事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏が嫁の家族達に挨拶旅行をしていた頃、陽彩達は千冬の地獄の訓練を強制的に受ける事になっており、今日も今日とて訓練のカテゴリーを逸脱したとしか言いようのないトンデモ訓練が行われていたのだが……

 

 

「この程度か……つまらんな。少なくとも織斑兄ならば私に一太刀入れたぞ?」

 

「アイツが?……クソが、負けられるかよ!!!」

 

 

陽彩チームはグロッキーに……其れでも陽彩は一夏を引き合いに出された事でやる気が湧いて来たみたいだが、やる気だけで実力差を覆す事は出来ず、逆に千冬の一撃を喰らってノックアウト!!

見習い神にチートな身体能力を貰った陽彩だが、天然バグキャラの千冬に勝つ事は出来なかったらしい……そして、この日もまた千冬に散々鍛えらえれた陽彩達は今日も今日とて死んだように眠っていたらしい。

……ま、精々臨海学校での己の軽率な行動を反省して顧みると良いだろう――其れで、コイツ等が改心するとは微塵も思えないけどね。ま、『所詮クズは、クズなのだ』、って事かもしれないけどな。

 

其れは兎も角、ヴィシュヌの親への挨拶が巧く行って、そして最終的にはヴィシュヌと結ばれたのだから、タイでのミッションもパーフェクトコンプリートしたと言って良いだろう。流石は一夏である……てか、結構な強行軍でも疲れた様子すらないのが凄過ぎるわな。

何にせよ、一夏は今回の旅行を楽しんでいるみたいなので、外野が何かを言う事もないだろう。

 

 

「おはようヴィシュヌ、朝だぜ?」

 

「へ?あの、一夏……」

 

「如何した」

 

「ごめんなさい、恥ずかしくて、顔見れないです。」

 

 

そんでもって、朝には何とも初々しい反応をしてくれたヴィシュヌがマジ萌えであり、一夏が背後から抱きしめてしまったのも無理はないだろう――とは言え、直ぐに何時もの空気になったので、一夏とヴィシュヌの愛は本物だと言えよう。愛が本物でなければこんな事は出来ないからね。

 

 

「恥ずかしがる事もないだろ?」

 

「一夏……ん……」

 

 

少しばかり不安が残るヴィシュヌに、一夏は軽くキスを落とすと、其れだけでヴィシュヌは大人しくなってしまった……マッタクもって、一夏の力はドレだけ計り知れないモノがあるのか分かったモノじゃないだろう。

一つだけ確実に言える事は、一夏とヴィシュヌの仲も此れまでよりより深く強いモノになったと言う事だ……少しくすぐったい朝も、二人にとっては大事な時間だったみたいだからな。

一悶着はあったが、今回の挨拶旅行も成功だと言って良いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 

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