夏と刀と無限の空   作:吉良/飛鳥

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コイツは新章開幕かな?By一夏     多分、そうだと思うわBy刀奈


Episode58『ちょっとした日常と急転直下と……!!』

更識ワールドカンパニーの『研究開発ラボ』にて、南風野吏こと篠ノ之束は光学ディスプレイと睨めっこしながらも手元のコンソールをブラインドタッチして、新たなプログラムを構築していく。

新たなプログラムの構築と言うのは、普通ならば専門のチームを組んで其れなりの期間を持ってやるモノなのだが、現在束が構築しているプログラムは、ISに関わっている一流のエンジニアやプログラマーが見ても理解出来ないモノなので、チームを組むよりも束が一人で構築した方が遥かに効率が良いのである……伊達に『天災』、『正義のマッドサイエンティスト』を名乗ってる訳ではないのだ彼女は。

とは言え、このラボには他の職員もおり、新たな機体やOSの開発も行われている。

 

 

「南風野主任、其れは一体何のプログラムです?見てもサッパリ分からんのですが……」

 

「此れ?此れはね、『ISの訓練シミュレーター』のプログラムだよ。」

 

 

束が何のプログラムを構築してるのか気になった職員が尋ねると、『ISの訓練シミュレーターのプログラムだ』と答えてくれた。答えながらも、束の視線はディスプレイに釘付けであり、コンソールを叩く手も止まっては居ないが。

 

 

「訓練シミュレーター……何だってそんなモノを?」

 

「主にIS学園で使って貰おうかと思ってさ。

 IS学園にある訓練機は、生徒数に対して絶対的に数が足りなくて、専用機を持ってない生徒が訓練機を使ってトレーニングしようとしても、結局は早い者勝ちになってるのが現状なんだよね?一応、同じ生徒は二日連続で使えないって言うルールはあるにしてもさ。

 そうなると、最悪在学中に授業以外では実際にISを使った事がないって子も出て来るでしょ?其れって、学園生活を送る上でのトンデモナイ不公平だと思うんだよ吏さんは……だ・か・ら、実際にISに乗ってるのと同じ感覚で訓練出来るシミュレーターを作ろうと思ってね。

 いや~~、前々から考えてはいた事だったんだけど、『実際にISを動かしてる感覚』って言うのを、如何すればシミュレーターで再現するかに試行錯誤してて、最近になって漸くその方法を思い付いたんだよね。」

 

 

シミュレーターの開発は、如何やらIS学園の生徒の事を考えての事だった様だ――確かにIS学園に在籍している専用機を持たない生徒と訓練機の比率は、凡そ50:1であり、五十人に一人しか訓練機を使う事は出来ないのである。

『訓練機を増やせば?』と言う意見もあるだろうが、訓練機を増やすと今度は保管が難しくなる……学園の訓練機は、生徒が持ち逃げしたり、外部からの人間に盗まれないように、待機状態に出来ない設定になっている為、如何しても保管場所が確保出来ないのである。

『実際にISを動かしている感覚で使えるシミュレータ』にも、設置・保管場所の問題はあるが、一度設置さえしてしまえば、使用する際に訓練機と違って一々持ち出す必要もなければ、使用後に初期化する必要もないので、あればあったに越した事はないのである。序にシミュレーターならば、新たな訓練機を用意するよりもずっと低価格なので、コスト面でもメリットがあるのだ。

 

 

「しかし主任、飛行機や電車のシミュレーターと違って、ISの場合、特にISバトルの訓練ともなると『実際にISを動かす感覚』ってのは無理があるんじゃないですか?

 飛行機や電車なら、操縦桿とか各種レバー、ペダルの操作ですけど、ISの場合は身体全体動かす訳ですから。」

 

「うん、普通のシミュレーターの感覚で作ったらまず無理。だから、ISに搭載されてる『電脳ダイブ機能』を利用する。

 電脳ダイブで、電脳空間に作った仮想フィールドを使えば、実際にISを動かすのと同じ訓練が出来るし、専用機持ちはシミュレーターを使用前に専用機を登録しておけば電脳空間でも問題なく使える様になるしね。」

 

 

シミュレーターの開発に於いて最大の問題である『実際にISを動かしている感覚』に関しては、ISに搭載されている『電脳ダイブ機能』を応用する事でクリア。

電脳ダイブ機能は、スペースシャトルや宇宙ステーションだけに限らず、電車や飛行機、企業の大容量ホストコンピューターにバグや不具合が発生した場合に、外部からの修理ではなく、ISを介して直接電脳世界にアクセスしてバグや不具合を修正する為の機能だ――此れは特に、飛行機等が自動操縦中に不具合を起こした際に有効だと言えるだろう。

 

 

「シミュレーター装置其の物は完成してるから、後はこのプログラムを完成させてインストールすれば、シミュレーターのβ版は完成!

 後は、実際に使って貰って不具合や改善点を使用者からヒアリングして、改善点を修正すればOK!テストプレイは、優秀なパイロットにお願いしたいから……此処はいっ君の嫁ちゃん達にお願いしようかな♪」

 

 

完全完成にはまだ時間が掛かる様だが、此のシミュレーターが完成したら、IS学園だけでなく世界中のISバトル競技者が欲しがるだろう――IS競技者にとって、トレーニング場所の確保と言うのは中々に頭を悩ませる問題でもあるのだから。……極端な話、ISは陸上競技と違って公園なんかを使ってのトレーニングが出来ず、専用のトレーニング場所が必要になるからだ。

しかも、トレーニング場所には広さも要求されるので、ISが普及した現在であってもISバトル競技者が気軽にトレーニング出来る施設は各国とも数える程度しか用意出来ていないのが現状なのだ……宇宙開発や、防災機関のIS操縦者は、所属機関に専用のトレーニング場所が用意されているから問題ないが。

なので、完成すれば画期的なシミュレーターになるのは間違いないが、此のシミュレーターのβ版がちょっとした事件を引き起こす事になるとは、開発者である束ですら予想していなかっただろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏と刀と無限の空 Episode58

『ちょっとした日常と急転直下と……!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園のある日の放課後。

訓練用の第三アリーナでは、紅龍騎を纏った刀奈と、学園の訓練機である打鉄を纏った静寐が模擬戦を行っていた……否、厳密に言うのであれば、模擬戦形式での『防御&回避訓練』が行われていた。

刀奈が攻撃し、静寐は十分間防御と回避を行い、制限時間内にシールドエネルギーが50%を切らなかったらクリアとなり次のステップに進むと言うモノだ。

 

 

「く……!」

 

「あら、今のを防ぐだなんて中々やるじゃない静寐ちゃん?でも、私の攻撃は槍だけじゃないのよ?」

 

「!!」

 

 

イグニッションブーストからの高速突きを、何とか打鉄の近接ブレード『葵』で防いだ静寐だが、其処に間髪入れずに刀奈の回し蹴りが襲い掛かる!『最強の女子高生』の称号を持つ刀奈の回し蹴りはあまりにも速く、高速突きをガードした直後の静寐ではガードも回避も間に合わないだろう。

 

 

「なら!!」

 

 

だが、蹴りのインパクトの瞬間に静寐は打鉄のスラスターを吹かす事で自ら横に飛ぶ事で回し蹴りのダメージを軽減し、シールドエネルギーの減少も最小限にしたのである……無論、刀奈は手加減をしているのだが、専用機を持たない一般生徒が学園の訓練機で、専用機持ちの国家代表の攻撃を既に五分以上防御と回避を行って、シールドエネルギーの残量60%以上あると言うのは驚異的だと言えるだろう。

 

 

「自ら飛んでダメージを最小限に抑えるだなんて、思った以上にやるじゃない……代表候補生になれるレベルだわ。なら、此れには耐えられる?」

 

 

自ら飛んでダメージを軽減した静寐を追うと、刀奈は十八番である『高速連続突き』を炸裂させるが、静寐は其れを葵とシールドを使ってギリギリではあるが何とか防御する……完全には防御し切れず、多少の被弾はしてしまったが、其れでもシールドエネルギーはまだ50%以上残っているのでゲームオーバーではない。

連続突き後に放たれた前蹴りはダッキングで躱し、其処から派生した踵落としはサイドロールで回避、更に其処に降り下ろされた左腕のビームブレードの攻撃を、何とまさかの白刃取り!

『ビームブレードを白刃取りできるのか?』と言うなかれ。ISならば出来るのだ!そもそもにして、ISは宇宙空間での活動を前提としたパワードスーツなので、宇宙空間に飛び交っている太陽風やガンマ線と言ったエネルギーに対する防御機能が備わっており、その防御機能のおかげで、対ビーム処理を施しておかなければ物理干渉出来ないビームエッジでも白刃取りは出来るのだ……尤も、ISバトルに於いてはシールドエネルギーを僅かに消費するのだが。

 

 

「タイムオーバー!其処まで!!」

 

 

此処で一夏がタイムオーバーを告げて訓練は終了。タイムオーバーが告げられた時点の打鉄のシールドエネルギーは残り52%……ギリギリではあるが、静寐は課題をクリア出来た訳だ。

尤も、訓練を終えた後で、刀奈はマダマダ余裕があるのに対し、静寐は息が上がって居るので、其処は一般生徒と国家代表の差が現われている訳だが。

 

 

「はぁ、はぁ……一週間掛かって、やっと第三段階目クリア出来た……で、でも今日は此れ以上は無理……もう、立ち上がる気力もないよ。」

 

 

訓練を終えて、機体を解除した静寐はその場に大の字に……文字通り精魂尽き果てたと言った所なのだろう。――まぁ、日本の国家代表のナンバー2である刀奈を相手にしての訓練だったのだから当然と言えば当然かも知れないが。

 

 

「寧ろ一週間でクリア出来た事に驚きよ静寐ちゃん?一夏だって、レベル3をクリア出来るようになるのに一カ月掛ったのに……」

 

「刀奈、お前俺の時は全然手加減してなかったと思うんだけど、その件について。」

 

「あら、自分の彼氏に手加減が必要かしら?」

 

「いや、必要ないけどさ……だからと言って手加減無用だった俺と比べられるってのは些か納得出来ない部分が有る訳なんですが、その辺は如何よ?俺としては納得いく説明を求めるぜ!!」

 

「其れはね……貴方を愛していたからよ一夏。愛していたからこそ、つい厳しくなってしまったのよ。」

 

「そうか、あの厳しさは俺への愛の裏返しだったのか……って、んな訳ねーだろ!刀奈だけじゃなくて、簪も円夏も割と本気で俺の事殺しに来てたよなぁ!?其のお陰で俺は強くなれたとは言え、裁判起こしたら勝てるレベルのヤバさだったよなあの訓練は!?」

 

「「「……えへ♪」」」

 

「笑って誤魔化すんじゃねぇ!って言いたい所だけど、嫁と妹と将来の義妹の笑顔にはもう何も言えないです!!」

 

 

此処でちょっとした漫才が始まってしまったのだが、此のノリの良さもまた一夏が学園で人気と人望を得るに至っている要因でもあった……ISバトルに於いては射撃以外には不得手がなく、ISを使わない生身での格闘技も強く、家事スキルも限界突破している上に容姿は極上のイケメンと来たら、普通は声を掛けるのも躊躇ってしまうモノだが、一夏は気さくでノリも良いので、女子の『イケメンの壁』のレベルを大幅に下げ、その結果として四組のみならず、他のクラスの生徒からも慕われているのだ――チート特典で一組を掌握した陽彩とは、まず此処が違うだろう。其の一組の生徒も、半分は陽彩に見切りを付けて己の本来の目標を思い出して、遅ればせながら自分を高めているのだが。

 

 

「でも、実際大したモノだと思うぜ鷹月さん?手加減してたとは言え、刀奈の攻撃を十分間受けてシールドエネルギーが50%以上残ってたってのはマジ驚きだぜ。」

 

「はぁ、はぁ……此れ位出来ないと、円夏のパートナーとして恥ずかしいからね。」

 

 

其れは其れとして、静寐の急激なレベルアップは、円夏と交際するようになったと言うのも大きいみたいだ……百合カップルではあるが、『好きな人の前では、無様な姿を晒したくない』と言う思いが、静寐のやる気に火を点け、更には眠っていた潜在能力をも覚醒させるに至ったのだろう。

円夏と交際し始めてから、静寐は此れまで以上に一夏チームの訓練に参加するようになっていて、其れによって底力が底上げされていたのだが、更には潜在能力が覚醒したとなれば、一般生徒の中では静寐は頭一つ抜きん出た存在と言っても過言ではないだろう。

 

 

「嬉しい事を言ってくれるじゃないか静寐?刀奈を相手にお前は良くやったよ……寧ろ誇れ、国家代表の攻撃を十分間耐え切ったと言う事にな。」

 

「円夏……うん、そうする。」

 

 

其れだけ言うと、静寐は何時の間にか膝枕をしていた円夏に頭を預けてると、其のまま目を閉じてターンエンド……如何に手加減をしていたとは言っても、国家代表の攻撃を十分もの間、防御または回避し続けると言うのは、肉体的にも精神的にも蓄積する疲労は相当なモノで、円夏に膝枕された静寐が秒で眠りに落ちてしまうのも当然と言えば当然だろう。

……手加減なしの刀奈を相手に、ほぼ毎日同じ訓練を十セットも熟していた中学時代の一夏は大分人間辞めてる訳だが、此れもまた『織斑の血』なのか?大企業の重役であると言う事以外は、至って普通の人類である両親から、何故に千冬や一夏みたいな人外の身体能力持った子供が生まれたのか謎である。突然変異だと言われても納得出来てしまうだろう。

円夏は身体能力は千冬と一夏に比べると辛うじて人間レベルかも知れないが、ビット兵器を大量操作しながら自分も動くって言う、一般人なら脳味噌が破裂しそうな事やるしね。……やっぱり千冬、一夏、円夏の三人は方向性は違えども大分人間じゃない気がするな。

 

 

「しかし、凄いな彼女は?専用機を持っていない一年生の中では、可成り実力が高いとは思っていたけれど、手加減をしていたとは言え十分間も刀奈の攻撃を耐えただけでなくシールドエネルギーを50%以上残すとは……」

 

「防御・回避訓練のレベル1は『十分間でシールドエネルギー残り10%以上』、レベル2が『残り30%以上』、レベル3が今回の『残り50%以上』ですか……となると、レベル4は『残り70%以上』で、レベル5が『残り90%以上』ですね?」

 

「その通りだぜヴィシュヌ。そしてレベルマックスは『刀奈、円夏、簪の三人を相手に十分間防御と回避に専念してシールドエネルギー残り50%以上』だ。」

 

「待って一夏、其れクリア出来る未来が見えない。寧ろ、殆ど負けイベントじゃないの其れ!?」

 

「負けイベントと言うよりは、負けが許されるイベントと言うのが正しいかしら?けどね、一夏は三ヶ月でクリアしたわよグリフィン?」

 

「矢張り君は凄いな一夏……刀奈と簪と円夏の三人を相手にした防御・回避訓練を僅か三カ月でクリアしてしまうとは……」

 

「まぁ、流石にあの時はガチで『死』を感じたけどな……十回目位までは、何度か綺麗なお花畑がある川の向こうで死んだ爺ちゃんと婆ちゃんが手を振ってたぜ。」

 

「一夏、良く生きていたな?」

 

 

静寐も短期間で可成り急成長したのだが、一夏はその上を行っていた……手加減なしの刀奈と簪と円夏の三人を十分間相手にして、シールドエネルギーを50%以上残せとか無理ゲーでしかない。てか、リアルに三途の川を見て来たとか言うのは、今だから笑って話せるが、当時は笑い事ではなかっただろう……当時の一夏は果たして何度医務室に運び込まれたのだろうか少し気になるモノだな。

そして、三途の川を見た分だけ一夏は強くなった訳で……死に掛けてから復活するとパワーアップするとかサイヤ人かコイツは?……一夏の怒りが限界突破したら冗談抜きで金髪碧眼になるかもしれんな。

 

 

「でも、本当に凄いわよ静寐ちゃんは……今、会社が新型機を開発してるから、彼女をテストパイロットとして推薦してみようかしら?きっと良い線行くと思うのよね。」

 

「其れは良いアイディアだと思うよ刀奈。ウチの会社が新規開発してるのは『近接戦闘よりの万能型』だったから、静寐にはピッタリだから。」

 

 

そして、静寐のあずかり知らない所で『更識ワールドカンパニー』が開発している新型機のテストパイロットになると言う話が更識姉妹の間で進められていた……彼女の実力ならばテストパイロットも見事に務められるだろうけどね。

若しかしたら、更識ワールドカンパニーに五人目となる企業代表が生まれるかも知れないな。

因みに、静寐の戦闘スタイルは簪の言うように『近接寄りの万能型』なのだが、此れは静寐が訓練機を使用した際、ラファール・リヴァイブよりも打鉄の時の方が動きが良く、また防御・回避訓練時には遠距離攻撃に対してよりも近距離攻撃に対しての防御・回避が得意であったからだ。――まぁ、この辺は攻撃訓練を行うようになればより詳しく分かるだろう。

 

 

「アリーナの使用時間は未だあるから……今度は俺の相手をしてくれよ刀奈。」

 

「私を御指名とは、嬉しい事を言ってくれるじゃない一夏?

 良いわ……存分に満足させてあ・げ・る。心行くまで思い切り戦いましょう。」

 

「ふ、そう来なくちゃな!最近、少しばかり暴れ足りなくて欲求不満気味だったんでな、悪いが本気で行かせて貰うぜ……満足させてくれよ?」

 

 

でもって、今度はアリーナの使用時間ギリギリまで一夏と刀奈の模擬戦が行われる事になったのだが、一夏も刀奈もガチで一切の手加減なしでの戦いを行い、剣術と槍術と体術のぶつかり合いに始まり、刀奈が大量の分身を作り出せば一夏はビームダガーで其れを破壊し、其のまま大量のビームダガーを投擲すると、刀奈はビームマシンガンとビームブーメランで迎撃し、互いにイグニッションブーストを使い、一夏は居合を、刀奈は突進突きを繰り出して再び近距離での凄まじい乱撃戦に持ち込む。

一夏がリミットオーバーを使っていない辺り、まだ模擬戦だと言う意識は残っているみたいだが、どちらも一歩も退かない激しい戦いを繰り広げた結果、およそ十分弱で互いにシールドエネルギーがエンプティーになって機体が解除されると言う結果に。

普通ならば此処で引き分けとなるのだが、何と一夏と刀奈は『機体の解除なんざ関係あるか』とばかりに、今度は其処から生身の格闘戦に移行し、先ずはドラゴンボール張りの打撃の応酬に始まり、一夏が刀奈を見事なブリッジのジャーマンスープレックスで投げれば、受け身を取った刀奈がカウンターの所謂『へそで投げる』バックドロップを炸裂させ、刀奈が一夏をコブラツイストに極めれば、一夏は其れをすり抜けて卍固めを極め、その状態から刀奈が強引に投げてダウンを奪うと、一夏は刀奈の足を払ってダウンさせてグラウンドの攻防となり、一夏が刀奈に膝十字固めを極めて、刀奈は一夏にアキレス腱固めを極めていると言う状況に……どちらの技も完璧に極まっているので、このまま続ければ可成りヤバい事になるだろう。

 

 

「其処まで!この勝負、引き分けとする!」

 

 

此処で、クラリッサが模擬戦を終了させて一夏と刀奈も漸く技を解いたのだが、その息は完全に上がっており、お互いに相手が先にギブアップするまで可成り我慢していたのは明らかであり、足へのダメージも大きかったらしく、試合後は少しの間自力では立てなくなっていた。……模擬戦であっても手加減不要で行うと、トンデモナイ結果になってしまうようだ――尤も、機体が解除されても戦い続けるなんてのは、一夏と刀奈だけだろうけどな。

一夏と刀奈は、恋人同士であるが同時に、互いに『負けたくない』と言う思いがとても強い、強過ぎるので此処までの事になるのだろう……ヴィシュヌ、ロラン、グリフィン、クラリッサの四人も『負けたくない』と言う思いはあるモノの、機体が解除されてからも戦うって事は先ずない……尤も、同時にシールドエネルギーが尽きると言う事が自体が早々ある事ではないのだが。

まぁ、今回の一件は一夏も刀奈も久々の引き分けだったので、生身でのリアルファイトの方にまで発展してしまったのかもしれない……負けん気が強いからと言っても、生身でのリアルファイトにまで発展すると言うのは、ある意味で凄い事なのだがな。

 

 

そんな訳で放課後の訓練を終えた一行は、静寐が目を覚ますのを待ち、目を覚ましたらシャワーで汗を流し、そして食堂で夕食を楽しんだ。――静寐が訓練に参加した日は、訓練に参加したメンツで夕食を摂るのがお馴染みになっていたりするのだ。賑やかな夕飯ってのも良いモノなので、此れは此れで全然ありだろう。

因みに今夜の夕食のメニューは、一夏が『カツ丼の特盛+焼肉定食のおかずだけ』、刀奈が『天婦羅肉うどん大盛り+唐揚げ定食のおかずだけ』、ヴィシュヌが『海鮮焼きビーフン大盛り+アジフライ定食のおかずだけ』、グリフィンが『ステーキ丼極盛り+焼肉定食、ハンバーグ定食、唐揚げ定食、トンカツ定食のおかずだけ』、クラリッサが『オムハヤシ大盛り+ミックスフライ定食のおかずだけ』と言うオーダだった。

円夏は『牛丼定食大盛り』で、簪は『カツ丼定食大盛り』で、静寐は『生姜焼き定食大盛り』だった事を考えると可成りのボリュームだが、此れだけの量を食べても全てトレーニングで消費又は、トレーニングで失われたエネルギーの補充になっている此のメンバーはハンパないわなマジで。

 

 

「おばちゃん、カツ丼おかわり!!」

 

「はいよ!!」

 

 

更に一夏はカツ丼のおかわりまで……『食欲があるのは元気の証』と言うが、一夏はものの見事に其れを体現していると言えるだろうな。

 

そして、そんなこんなな夕食時を楽しんだその後は、バスタイムなのだが……

 

 

「この光景にも、すっかり慣れちまったよな俺……スコール先生、仕事して下さいマジで。いや、刀奈達以外の女子は入ってこないから仕事してるのか……?」

 

 

今日も今日とて、一夏が居る大浴場には嫁ズの姿が……監視役であるスコールが何も言わずに嫁ズを通しているので、『教師公認』と言う事で問題はないのかもしれないが、最初は兎も角今では一夏も此れにもすっかり慣れてしまった様だ。慣れとは何とも恐ろしいモノである。感覚がマヒしているとも言うな。

 

 

「そうね、私達以外の女子が入って来る事はないから仕事はしてるわよスコール先生は♪」

 

「其れに、君も私達と一緒に入るのは嫌ではないのだろう?将来的には此処に子供も加わる事になるんだ、其の予行練習さ。」

 

「あ~~~……そう言えば、卒業したら結婚するんだったな?

 そうなると、家如何しよう?今の俺の家じゃ全員で済むには狭いよな?将来的に子供が出来る事も考えると最低十一人だからなぁ……増築するにしたって増築スペースないし、かと言って土地買って家も建てるほどの貯金はないぜ?」

 

「何となくだけど、束博士に頼んだら、新しい家建てる土地を用意してくれるどころか、私達が暮らす為の新居を用意してくれるような気がする。」

 

「確かに、束博士ならばやり兼ねませんね……果たしてあの人に不可能はあるのでしょうか?」

 

「恐らく、彼女に不可能な事など存在しないだろうな。」

 

 

そして風呂に浸かりながら、将来の事について話しているのだから大概ではあるが、このバスタイムもまた一夏も嫁ズも楽しい時間であり存分に満喫しているようである……で、風呂から上った後は、一夏が全員の髪をブローしてやり、それが終わったら売店でビン牛乳を購入して飲むまでがバスタイムのワンセット。

バスタイムが終わったら、今度は寮のロビーにあるフリースペースで、就寝時間になるまでトランプやウノと言ったゲームをして楽しみ、就寝時間になったら夫々の部屋に戻り、ベッドに入って今日一日の疲れを癒すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後の日曜日、織斑兄妹、更識姉妹、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、クラリッサ、そして静寐の姿は、更識ワールドカンパニーにあった。

此れは、昨日土曜日に束から『今度の日曜に会社に来てくれるかな?』とのメールが入ったからだ……静寐も一緒なのは、更識ワールドカンパニーの新型機のテストパイロットとして円夏が連れて来たのだ。

 

 

「此処が更識ワールドカンパニーの本社……!」

 

「そりゃまあ、初めて見れば驚くよなぁ……そもそもにして、高速の表示板に『更識』って出てる時点で相当だしなぁ?世界中探しても、そんな会社此処しかないんじゃないのか?つか、絶対ないよ。」

 

 

その静寐は更識ワールドカンパニー本社の規模に驚いていた……よもやこれだけの規模の企業が日本国内に存在していたとは思わなかったのだろう――更識ワールドカンパニーは、度々雑誌になんかに取り上げられてはいるモノの、会社の規模なんかは取り上げられた事がないので、『世界的な大企業』だと言う事は知っていても、実際の会社の規模と敷地面積がドレ位かは知らない人の方が多いので、静寐の此の反応は当然と言えば当然と言えるだろう。

 

 

「やぁやぁ、待ってたよ皆!よく来てくれたね♪」

 

 

一行を迎えてくれたのは『南風野吏』に扮した束だ。

一夏の嫁ズには、実は正体を明かしているのだが、更識ワールドカンパニーでも南風野吏=篠ノ之束だと言う事を知っているのは極少数なので、基本的に完全に一人になる時以外は変装を解かずに生活しているのである。

 

 

「ま、直接呼び出されましたからね。そんで吏さん、今日はどんな用事で?」

 

「一つはいっ君達の機体の整備と、機体のデータとフラグメントの確認。

 んで、もう一つはいっ君の嫁ちゃん達に、吏さんが開発したIS訓練用シミュレーターのテストプレイをお願いしたいって事だね――まぁ、イレギュラーとして新型機のテストパイロットも付いて来ちゃったけど、マドちゃんが連れてきたなら問題ないでしょ♪」

 

「ん?私、静寐を連れて行くと言ったっけか?」

 

「チッチッチ……マドちゃんが何も言わずとも、吏さんはお見通しなのさ!」

 

 

……束の前では、個人情報保護法とかそんな物はマッタク持って意味をなさないモノであるらしい。何だって、『連れて行く』って連絡をしていない静寐の事を知っているのかもう意味が分からん。『だって束さんだから』で済んでしまう所が中々に厄介であると同時に、納得出来てしまうのが問題なのかもしれないが。

本気でこの世紀の大天才にして大天災に出来ない事って何かあるんでしょうかね?若しもあるんだとしたら、一体それは何なのか是非とも教えて欲しいモノである。

『神の世界』にアクセスしてしまった彼女には、本気で出来ない事はないのかもしれないけどね。

 

 

それはさて置き、束の用件を聞いた一行は、先ずは刀奈、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、クラリッサの五人が専用機の整備とデータとフラグメントの確認を終えてからシミュレーターのテストプレイに向かい、続いて一夏、円夏、簪が専用機の整備とデータとフラグメントの確認に移っていた。

 

 

「ふむふむ……マドちゃんとカンちゃんの機体フラグメントは可成り良い感じになってるけど、いっ君の方は可成り独特だね?

 機体が二次移行してるって事を考えても、此れだけ独特なフラグメントは吏さんも初めて見るかな?……しかも、機体とのシンクロ率も極めて高いってのもスッゴク興味深いね?

 嫁ちゃん達の機体とのシンクロ率は94~96%で、此れでも驚異的な数値なんだけど、いっ君と銀龍騎のシンクロ率は脅威の99.99%と来てるからね。」

 

「ほぼ100%って事ですか……其れってやっぱり凄い事なんですか?」

 

「凄いなんてもんじゃないよいっ君!機体とのシンクロ率は、此れまで現役時代の織斑千冬の98%が最高だって言われてたのに、君は其れを上回ってるんだよ!」

 

「え……俺、千冬姉越えてんの?」

 

「余裕で越えてるね。彼女がブリュンヒルデなら、いっ君はジークフリートかな?」

 

 

その確認を行った事で、一夏は現役時代の千冬をも凌駕するレベルで機体とシンクロしている事が判明……『ほぼ100%のフォーナイン』と言われている、99.99%と言うシンクロ率には束も相当驚いたようだ。

愚直なまでに己を鍛え続けていた一夏は、何時の間にか現役時代の千冬をも越えるほどに機体とのシンクロ率を上げていたのだ……となると、今の一夏と千冬がISバトルで戦ったら、一夏の方に分があると言う事になるだろう。

身体能力は略互角だが、千冬が暮桜を使ったとしても機体性能に差が有る上に、機体とのシンクロ率も一夏の方が高いとなれば、如何に千冬が人外レベルの実力を持っているとは言え一夏に勝つのは難しいかも知れないだろう……一夏も、大分人間辞めてるレベルの実力を身に付けている訳だからね。

 

 

「ジークフリート、ね。俺にはそんな英雄よりも、歴史に埋もれた剣客の方が合ってますよ。俺は英雄ってよりも、どっちかって言うとダークヒーローですからね。」

 

「うんうん、そうだね。

 勧善懲悪の正義のヒーローよりも、闇に生きて闇に潜む表の法では裁けない悪人を狩るダークヒーローの方がいっ君には合ってるよ♪……いっその事、銀龍騎の装甲を黒にして『黒龍騎』に改名する?」

 

「いや、其れは無しの方向で。俺は今のこいつを気に入ってますから。」

 

 

取り敢えず、銀龍騎は銀龍騎のままで居られるようだ。

その後、今度は静寐を連れて新型機があるラボまで行き、其処で静寐が新型機のテストパイロットを務めてデータ採りとかに協力したのだが、その際の静寐の実力には束も舌を巻いていた。

射撃には若干の難があるモノの、近接ブレードを使ってのターゲットアタックに関しては『三分間で三百三十個撃破』と言う記録を出してくれたのだ――此れは一夏が叩き出しだ『三分間で五百個撃破』、刀奈が叩き出した『三分間で四百四十個撃破』に次ぐ記録だったりするのである。

 

 

「いんや~~、凄いね君!予想以上の結果だったよ!!まさか、此処までのデータが採れるとは思ってなかったから、吏さん的には『嬉しい誤算だった』って言う所かな?よもやこれ程の原石が眠っていただなんて、此れはマドちゃんに感謝だね!

 其れでだ、私は君の事を気に入ちゃったから、この新型機の量産体制が整ったら、一機を君専用にカスタマイズしてプレゼントしてあげる。君には、君専用の専用機を持つに値する力がある、少なくとも私はそう思ったからね。」

 

「えぇ、私に専用機って……そんなに凄かったんですか今のって!?」

 

「あぁ、確かに鷹月さんの動きは見事だったぜ。

 其れと、吏さんはお世辞で人を褒める事は絶対にしないから、此れは素直に喜んでいいと思う。」

 

「流石は静寐だな。私もテストパイロットとして推薦した者として鼻が高いぞ♪努力を続けた結果だな。」

 

「近接戦闘なら、私と円夏以上。此のまま鍛えれば、何れは国家代表にもなれると思う。」

 

「其れなら、私を鍛えてくれた皆に感謝しないとだよね。」

 

 

その結果に満足したか、束はこの新型機の量産体制が整ったら、其の内の一機を静寐用にカスタマイズしてプレゼントしてあげるとまで言ってくれた……此れは、新たな専用機持ちが学園に誕生するのは略間違いないだろう。

そしてその後、静寐のパーソナルデータを採る為に、束は新型機を纏った静寐に様々な課題を与えて行ったのだった――そして、静寐も其れをほぼクリアし、束の新たな『お気に入り』になったようである。

束のお気に入りになったと言うのは、もう人生安泰と言っても良いだろう。束に気に入られたら、絶対に何があっても不利益を被る事はない訳だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

静寐が新型機のテストパイロットを務めていた頃、刀奈、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、クラリッサの五人は、束が開発したISシミュレータのテストプレイを、自機の登録をしてから行っていた。

テストプレイとは言え、手は抜きたくなかったので専用機の登録をしたのだろう。

 

そのテストプレイでは、『電脳ダイブで電脳空間の仮想空間でISバトル』を行って居るのだが、このバトルは刀奈が無敗で勝利を力ずくで捥ぎ取っていた――刀奈以外の一夏の嫁ズが刀奈よりも弱いのではなく、刀奈が異常なまでに強いのである。特にヴィシュヌに対しては炎に水と言う事で圧倒的に有利だったようだ。

挙げ句の果てには、試合形式がバトルロイヤルになり、全員から狙われてしまったのだが、其れも分身を生み出して対処してしまい問題ナッシング!中学時代から一夏のトレーニングに付き合って来た刀奈は、実力面で頭一つ抜きん出ているのだろう。

現役時軍人であるクラリッサですら敵わない刀奈の実力は如何程であるのか……最強JKの名は伊達ではないのだ。

 

 

「さて、其れじゃあソロソロお終いにしましょうか?」

 

「そうだね、そうしよう。」

 

 

テストプレイヤーとしての仕事を終えてシミュレーターから出ようとしたその時に異変に気付いた――シミュレーターは停止せず、電脳空間からのログアウトが出来なくなってしまったのだ。

 

 

「え?ログアウト出来ない?そんな、如何してログアウト出来ないの!?ロラン、そっちは如何!?」

 

「ダメだ、私もログアウト出来ない……あまり考えたくない事ではあるが、如何やら私達は電脳空間に囚われてしまったのかもしれない……試作品故の不具合と言うモノなのかと思うが、私達はきっと帰還出来る筈さ。

 この異常事態は現実世界の方でも確認しているだろうし、そうならばきっと一夏が助けに来てくれるだろうからね。」

 

「そうね、一夏ならきっと、いえ確実に、助けに来てくれるわ……少なくとも、私はそう信じてるわ。」

 

「私も信じていますよ?」

 

「勿論私もだよ。」

 

「先に電脳世界で待っているよ一夏……必ず、私達を迎えに来てね?」

 

 

緊急事態用の強制ログアウトを試してみてもログアウトは出来ず、シミュレーターは異常な演算処理を続けている……明らかに異常事態だ。

シミュレーターの暴走に巻き込まれながらも、一夏が必ず助け来てくれると信じている彼女達の一夏への信頼はマジで半端なモノではないが、電脳世界の仮想空間が真っ白になった次の瞬間、彼女達の意識は其処でプツリと切れた。

 

そして、シミュレーターのモニタリングを行っていたスタッフから『緊急事態が起きた』との連絡が束に入り、其れを聞いた一夏達が駆け付けると、其処にはシミュレーターの中で、電脳ダイブ用のヘッドギアを装着したままの状態で意識を失っている刀奈達の姿があったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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