アヴァン
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ある笑顔はカメラのフラッシュの中にあった。数十のレンズが望んでいる笑みでありながら彼の顔は、しかし作為的ではなかった。まるで夢が叶ったその人のようである、と誰かが写真を見て呟く。彼の顔と名を知らない人は、今やもうこの大地にはいないであろうほどに、国の垣根を越えあらゆるメディアに笑顔はあった。
うらやましい、と世の男たちは妬む。
信じられない、と世の女たちは訝しむ。
彼の存在は巨大であった。羨望が、邪推が行き交う中、いつも渦中にあるのは笑顔の写真だった。
その笑顔は晴天を仰ぐかのようだった。まるで夢を叶えた後の人間が見せるそれだ。陽光の如く世界へ行き渡る笑顔を見た者は、様々に想いを馳せていった。自分も同じようになれるだろうか、同じ笑顔で笑えるだろうか。こう考える子どもが地球のどこかにはいるかもしれない。そして空を見上げるだろう。
フラッシュの中の少年はまだ、少年とそう呼べる年であった。その身でいったいどんな夢を叶えたというのだろう。写真には、常に『IS』という二文字が付き添った。正式名称をインフィニット・ストラトス。現行の技術を凌駕する、世界を変える力を持っていた。その力を一種の夢というならば、彼はきっと手にしたのだ。
そう、ISは女性のみが扱えるはずであった。数多の機関による研究を経ても尚、千古不易の事実として続くだろうとされてきた。解明されないこの事実に男たちは嘆き、女たちは喜んだ。しかし、ISが知れ渡って以来たった八年という短い時間で、例外はここに現れた。
血液採取による染色体検査、整形履歴、公的機関による精査が彼に対し行われてきたが、どの結果を見ても紛れもない男であった。男でありながらISを起動した彼は、その時より、ISに包まれて生きることを運命付けられた。
だが、彼が望む夢とイコールだろうか。笑顔は、果たして叶えた者のそれなのだろうか。否、ISは手段に過ぎない。ISはそこに存在するだけでは何も意味を持たない。事物に意味を持たせてやれるのは、いつだって人間の意志だ。
織斑一夏、彼は夢の力を手にし、晴れ晴れと笑顔を湛えている。彼の心に宿る意志こそが、ISという力を行使できる唯一の動力源。あの晴れ渡る空を行くために。誰かが見上げる空を渡るために。
果てなく広がる大空は、ISを持つ者の前に物言わずただ横臥する。
蒼穹の下で、世界を変える手段を手にした織斑一夏の人生は、新たな門出を迎えた。
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