インフィニット・ストラトス Re-Boot   作:達田タツ

33 / 36
第二話

▼▼▼

 

 

『UNISOが提供するニュース番組、Our SKY Todayの時間です。ひとつめのニュースは、宇宙から。イギリスが所有する、IS粒子複合構造型物体投射衛星エクスカリバーによる物体投射初試験が成功し――』

 

 モニターでニュース番組が放映されている真下、食事の載ったプレートを目の前に、一夏は幼馴染みから指南を受けていた。一年寮食堂は夕食どき、各テーブルで盛り上がっているが、箒の声を聞き逃さないように箸は止めていた。

 

「いいか、瞬時加速(イグニッション・ブースト)をうまく使いたいという言い分は理解できる。実際、私が副会長と渡り合うために使ったのだからな。だが、基本的な動きもままならない間に、これを活かした戦闘ができるとは思えない。例えばだ、遠距離武装の敵機との位置関係をこうとする」

 

 と、和食のプレートを押しのけた箒は、拳を二つテーブルに載せる。

 

「この距離感の場合は」

 

 距離感?

 

「こう動く」

 

 言いながら右拳が弧を描き、左拳に当たった。

 

「相手の持つ武器が連射能力に優れる場合はこうだ」

 

 拳を離して、近付ける。今度の右拳は、すっと直線に、左拳の斜め前まで移動し、そこから若干の弧を描いて当てられる。

 

「あるいは、狙撃能力に優れた場合はこうなる」

 

 再び拳は離される。次はほんの少し弧を描いて、すっと直線的に短く動き、また弧を描いたと思えば、直線的な動きを経て衝突する。

 

 そうして、箒は満足そうに両の手を膝に置いた。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使わなくとも、相手に肉薄することはこのように可能だ。無論、ある程度の被弾は覚悟せねばならない。使用後の機動力低下という難点を念頭に置けば、通常の機動で接近できる方がよい。だからこそあえて使用するという方法は認めるが、それに頼るのは間違いなのだ。わかったか」

「ああ、そうだな、箒はすごいな」

「う……うむ。いや、濁すな。理解したのか?」

 

『――一〇キロメートルパーセコンドで投射された物資カプセルは、ソーラーセイル推進をISに応用した外部推進技術により増速、軌道変更を行います。無尽蔵ともいえるISコアのエネルギーを活用し、約二ヶ月というごく短期間で火星に到達する見込みです。ISの登場以降鈍化していた月や火星の拠点拡大が期待されています。稼働後初の投射試験が成功したことで、EU各国から賞賛と期待の言葉が寄せられており――』

 

 我々接近戦機が持つ問題は、と箒が続ける。しかしその説明は、身振り手振りと呼ぶにはお粗末で、人差し指を交差させ、テーブルの上で握り拳を右往左往させる程度のもの。

 

 言葉巧みであればまだイメージもできるのだろうが。

 

「ここでぐっと堪えて、ぱっと振り抜く」

 

 一夏は箒の視線にならい、手遊びのようなものを見つめる。

 

「こう動いてしまうと刀を動かせん。だからだいたいこの辺りで、ずがん、ずがん、ずがん、とする」

 

 お母さん指が、もう一方の家族にカチコミを仕掛けた。

 

「あまりに近付き過ぎても良くない。しかしただで離脱はできないから、脚で蹴って離脱しても良い」

 

 お兄さん指も殴り込んでようやく、両家は距離が取られた。あ、それ脚のつもりだったか。じゃあ人差し指はなんだった?

 

「わかったか?」

「嫌なお隣さんだなぁ」

「何を聞いていたのだ!」

 

『――エクスカリバーには三名のパイロットが常駐しています。ISの運用だけでなく、衛星全体の管理や、射出時の管制など、様々な能力に長けた優秀なパイロットが選ばれています。任期は約半年間。全長五○○メートルを超える長大な施設内には、任期中の生活に必要な十分な空間が設けられているとの――』

 

 箒はプレートを引き戻し、冷えてしまったであろう味噌汁を勢いよくすすった。

 

「私が真面目にアドバイスしているというのに、なんだその態度は!」

「聞いてるさ。聞いてるけど」

 

 一夏も自分の食事を継続する。こちらの味噌汁も冷えてしまっている。

 

「けど、なんだ。男ならはっきり言え。文句なら聞くぞ」

「イメージしにくいんだよな」

「お、お前の理解力と想像力、何よりその双方を補う経験が足らんのだ」

 

 それを言われちゃな。

 

『――開発にはルクーゼンブルク公国IS学究団が参加しており、ルクーゼンブルク自治区を国家として承認する国連加盟国の増加も期待されています。今後の運用方針については、地球外基地開発計画参加国の内、IS非保有国を中心に協力体制を整えていきたいとのことでした。世界初のISのサービス化と同時に、宇宙空間における安価な長距離輸送の実現が目前と――』

 

 このまま箒をコーチとして歓迎してよいものか悩み始めたところで、テーブルの端が叩かれる。

 

「よっ。まあだ食べてたのかよ」

 

 如月、深井、高城の三人だった。三人とも、食べ終わったプレートを持っている。

 

「箒から教えを賜っていたんだ」

「おい。茶化しに聞こえたぞ」

「じゃあそのありがたい教えとやら、あたしにも聞かせてもらおうかな」

 

 如月が箒の隣に座り込む。本当に聞くつもりのようで、ポケットから端末を取り出しメモを取る準備を始めた。さぁ言えよ、とでも言いたげに、隣から箒の顔を見上げる。

 

 残る二人が追随しようとして、しかし、全員が頭上のニュースに意識を奪われた。

 

『――未公開の情報も多く、事業化には反対の声もあがっています。続いてのニュースです。すでに今年最もホットなニュースと言える、男性唯一のパイロット織斑一夏さんの存在ですが、さっそく第二の男性パイロットを求めて各国が動き初めております。フランスにおいては、国内の十代を対象に数万人規模で試験を実施。その他の国においても、改めて男子に対する試験が企画されています』

 

 

▼▼▼

 

 

『IS発表当初も、男子に対する試験は多数行われておりましたが、ご周知の通り男性パイロットを見つけるには至りませんでした。織斑一夏さんという先例を参考に、新しい試験内容が――』

 

 職員室でも同じニュース番組が放映されている。

 

 放課後をとっくに過ぎた時間でも、十数名が仕事を続けていた。電話や他部署とのやり取りはなく、会話もなく、黙々と画面に向き合っている。フリックデバイスや、キーボードを使うのみで、ディクテーションなどは仕事内容が漏れてしまうために使用されていない。仮に電話がかかってきたとしても、自身の声を真似たAI音声に返答させるために文字入力デバイスを使っている。

 

 アナウンサーの明瞭な声だけが流れている中、千冬のコーヒーをすする音を皮切りに、隣の山田が話しかけてくる。

 

「見つかるんでしょうか」

「以前実施した試験も、全世界で百万人以上の男子が対象になったと聞いた」

「なんというか、終盤はやけばちな空気もあったので、受けた子はもっと多いでしょう。篠ノ之博士の提言を信じられない学者もいたようですから」

「一例目が出たからといって、すぐに二例目が現れるものか」

「もし見つかったら良い友人になれるといいですね。それとも、一生のライバルでしょうか」

「……ふん」

 

 コーヒーが切れたが、もう少しで区切りを付けられる。三年一組の委員長からもらったあめ玉を口に入れた。今日はストロベリーか。

 

 

 

 

 俺を参考に、ねぇ。

 

「そういや」

 

 と一夏は思い出す。

 

 打鉄を起動させてしまった後、自衛隊の研究施設で問診や血液検査やら受けたが、ほぼ同じ内容の検査を別の施設でも受けていた。二回目に担当した人間は、国連の人間と名乗ったように思う。

 

「それは、つまりどういうことだ?」と高城が疑問を呈す。「自衛隊の検査内容は国連と共有ではないのか」

「そっか。『IS運用協定』だね」

「あー、えっと、なんだった?」

 

 必死に一夏の脳内辞書を捲る。やばい、何が書かれているんだ?

 

「『ISに係る情報の開示・共有』『IS粒子分野研究のための超国家機関設立』『IS安全保障協定に沿わない軍事活動の禁止』だよ。一個目があるから、自衛隊がおりむーくんにした検査って、普通は共有されてるよね? なのにもう一回されたってことが、おかしいね、って」

 

 深井の言葉に高城が頷く。

 

 ISは国連が、保有国を中心にして管理している。学園の運営も元を辿れば国連が行っているし、先生方は国連職員である。そして保有国としてあらゆる協定に批准している以上、情報の共有は当然されているべきなのではないか、という意味だ。

 

 そうか。てっきり俺は、ただの再検査だと。

 

「ISに係る情報、だから共有されなかった、って考えはねえか?」

 

 どういう意味だろう。

 

「だからよ、オリムーにしたのはただの身体検査さ。ISは関係ない」

「関係ないことは無いだろ。俺がISを動かしたから、検査されたんだ」

「実態はそうだろうともさ。映画とかでもよくあるじゃあねえか? 解釈ってやつよ」

「なるほどな」

 

 高城が頷く。

 

「だから、共有の遅延もしくは、そもそも共有されていない可能性があるわけか」

「え? えっと?」

 

 深井も首を傾げる。

 

「オリムーにしたのは単なる身体検査、と仮定したら、報告義務はなくなるってことよ」

「そんなのが通るの?」

「映画じゃあるんだよ、適当に理由付けてさ。血を抜きました、その内五ミリはこの部署、さらにその内二ミリは次のこの部署ってどんどん細分化されて、他が探れない終いの部分が実は超重要、的なよ」

「自衛隊の検査と国連の検査、違いはあったのか?」

 

 思い返すが、目まぐるしく移動を続けたことと、何度も血を抜かれたことぐらいしか思い出せなかった。

 

「その程度で、あんまり覚えていないな」

「血ぃ抜かれまくったから覚えてないんじゃねえかそれ。大丈夫かよ、気付いたらクローン作られてました、とかねえかな」

「勘弁してくれ」

「SF映画の見過ぎではないか、如月」

 

『――アメリカにおいても、再度男子を対象とした大規模試験の実施が各都市で行われます。アメリカIS軍IS粒子技術研究所ブレイン・アナリティクス・インスティテュートより、イノウエ博士にお話を伺いたいと思います。イノウエ博士は脳生理学研究科の博士課程を修了されておりますが、ISと男性の関係に、脳の――』

 

 なんだか難しい話になってきたな。

 

 ニュースが急に馴染み無い単語ばかりになってしまったと同時に、如月が立ち上がってしまう。

 

「おっと、行かねぇと。教えはまたな、マスター・シノノノ」

「何か用事があるのか?」

「おいおい。もうすぐ連休中の外出申請締め切りだぜ」

「ゴールデンウィークか。みんなはどうするんだ」

 

 すべての学園で同時に行われる計画連休は、教員も含めて全員が休暇となり、無人で機能している施設しか稼働しなくなるらしい。ゴールデンウィークに合わせているのは、学園創設時の日本人がそう仕組んだのだと聞いた。

 

 この期間に合わせて、生徒や教員が帰省や旅行を行う。新学期が始まって一ヶ月と少し、新たな環境で疲労を溜める学園の人間に与えられる、最初の休暇。逆に言えば、この連休から先が本格的な学園生活の始まりと言ってもよい。

 

 連休中、外出する場合は行き先や期間等の申請が学園に対し必要だ。影で自衛隊隊員の保護が付く。気になって過ごしにくいんじゃないかと案じたが、先輩方に聞けば、山奥だろうがそれらしき姿を見かけずむしろ不安なぐらいと言っていたので、過度な心配は不要かと思う。

 

「みんな帰省が多いね。私たちは、その前に遊びに行こうと思ってるよ」

「ほぉ、どこに行くんだ?」

「伊勢崎神社だっけ。群馬の。プロペラのお守りがあるんだって」

「群馬まで行くのか」

「そ。その後解散して家に帰るよ」

「いいな」

「でしょ、用務員さんに教えてもらったんだ。二人はどうするの? やっぱり帰省?」

「俺は」

「無論、訓練だ」

 

 箒がプラ製の湯飲みを置いて言う。

 

「ISは稼働時間がものを言う。生徒会に追いつくためには、訓練あるのみだ」

「う、うん……」

 

 深井が怖じ気づく。高城はとくに気にしていない風で、如月は呆れたように腕を組んだ。

 

「おいおい、せっかくの連休だぜ? 甘味でも食いに行ったらいいじゃねえか」

「かん……。否、この男にいま必要なのが訓練なのだ。足を止めるわけにはいかん」

 

 一夏も連休の予定を考えてはいた。だが、有無を言わさない気迫で「腑抜けめ! 訓練だ!」と言われてしまっていた。ISの連続装着時間を少しでも重ねることが強者への一歩なのだ、と箒は頑なである。

 

「そういうことらしい」

 

 そしてゴールデンウィーク明けには、一度真剣勝負をしようという。

 

「熱心だねえ。負けらんねえな、少し早く帰って来るか」

 

 休みなのに、とは一夏も感じたものの、更識副会長との一戦以降、一夏の戦闘に対する学習意欲は上昇傾向にあった。

 

 そもそもISは、何も戦うだけが能ではない。かえって、戦闘能力は副次的なものだ。人体の感覚増幅と絶対防御による、極限環境での活動が主目的。となれば特殊な技能やスーツを要する空間が活躍の場。

 

 宇宙開発、人命救助、土木建築、そういったものだ。実際学園の授業には、土木関係や救急医療に関わるものもある。アリーナのグラウンド整備にも、すぐに慣れそうだ。

 

 ISが戦わねばならない理由は、これ自身の異常性にある。従来兵器をまるで鉄くず同然にしてしまい、ともすれば世界征服すら可能なISを、本気でその用途に悪用しようとする者が現れれば、阻止できるのは同じくISを操る者だけだ。現に、開発者は行方不明である。

 

 一夏は、悪意を以てISを操縦する者たちを知っていた。その事実をみだりに言いふらすことは禁じられているが、作為的に悪用する者が少なからず存在することは、決して忘れない。

 

 自分は、何を何から守れるのか、わからない。それでも姉がそうしてくれたように、自分が大事だと思える者を守るだけの力は欲しい。戦いを学んだ方が、より自在なISの操縦を知られるはず。

 

『弱きを助け強気を挫く』なんてヒーローになりたいわけじゃない。なるつもりもない。勝利のストーリーなんて、誰も決められちゃいないんだ。

 

 とは言ってもな。

 

「息抜きは要るだろ?」

 

 人間だもの。休憩は必要。その後にまた立ち上がればいい。

 

「箒、買い物にでも出かけないか。それに一度家にも帰りたいんだ」

「わ、私と……!? それは、ま、まさか」

 

 箒が湯飲みを倒しそうになる。

 

「ぉん、いいんじゃね」

「なるほどな」

「おー、これって、お誘い? デートの。わぁ」

「そんな浮ついたものではない! さ、里帰りだ……」

「え、篠ノ之さんってそんな動揺するんだね。ふふ、行こ行こ」

 

 にまりとした笑みを隠せていない深井が、二人を連れて自室に戻っていった。

 

 箒の言う通り、里帰りがしたかった。色々目的はあるが、箒が一緒であるのが重要だ。しかし深井の言う通り動揺しているようなので、もしかすると嫌なのかもしれない。

 

「どうだ、箒?」

「そこまで言うなら、随行してやろう。お、お前の護衛も兼ねて……顔が知れているわけであるし……あとは……」

 

 言葉の割に視線が合わない。

 

 小学六年にあがる前、急に箒はいなくなってしまい、つい先日再会を果たした。故郷には帰っていないはず。実家の光景は見て貰いたい。一度くらいその機会を作ってやりたいが、何か気乗りしない理由でもあるのだろうか。

 

「いや、嫌ならいいんだぜ」

「嫌ではない! 行く、行くとも」

「そうか、じゃあ行こう。――ん?」

 

 一夏は、遠くから自分に向けられた視線に気付いた。

 

「……ートしたいのであれば、そう言えば良いものを……」

 

 食堂の端、壁沿いから冷ややかな視線を感じる。眼鏡をかけた生徒がいる。遠い上に光を反射して目は見えないが、顔がこちらを向いている。行き交う生徒たちの合間を縫い、視線が合った! 気がした。

 

 すると彼女はそそくさと壁を離れ、いまとなっては珍しいノートPCを抱え、出口へと向かう。のほほんさんが彼女に挨拶をしているように見えたが、軽い会釈だけを残して去っていった。

 

 好奇の視線にはこの数ヶ月幾度となくさらされてきたが、そのどれとも異なる視線に、一夏は身震いさえ覚えていた。

 

 

▼▼▼

 

 

 学園外、羽田空港第二ターミナル屋上。

 

 つい十日ほど前は普通であったのに、ISで飛べない空を思うと、なぜか寂しさを覚える。離陸していく旅客機が羨ましい。

 

 今日はお休みだ、白式。

 

 ガントレットを撫でるが、声は返ってこない。

 

「しかしなんだって、こんなとこで待ち合わせなんだ」

 

 一緒に学園を出てくれば良かったものを、昨晩遅くに突然、先に行って待っていろと告げられた。帰省する生徒で混雑する地下鉄に、箒の姿はなかった。空港と学園を結ぶ地下鉄は三十分置きには動いているから、それほど待たされることはないだろうが。

 

 次の旅客機が飛んでいき、そして着陸する機もある。あの大きな金属の塊に、何十人もの人が乗って、空を飛び交っている。ISも空を飛ぶ。飛ぶという行為がどれほど特別であるか、気付けば忘れてしまいそうになる。

 

 旅客機は一人が飛ばしているのではない。パイロットは二人、機体を整備する大勢の整備員、もちろん旅客や積み荷がなければ飛び続けることはできない。

 

 ISは一人だ。整備らしい整備をしたこともない。ISで言う整備はデータ上のメンテナンスの問題で、一夏専用で組まれている白式に日常的なチェックは技研から求められていない。

 

 屋上まで上がる前に、パイロットらしき制帽をかぶった職員が歩いているのを見た。航空機パイロットも一人の力ではないが、空を飛ぶのにその手で操縦桿を握っている。彼らと一夏との間には、決定的な差が存在する。それは、仕事であるか否か。

 

 いつの日か仕事としてISに乗るようになった時、ISを誇りにできるだろうか。参考になるのは姉だ。姉の背に憧れるし、誇りだ。

 

 仕事というのが、どんな感覚なのかわからない。経験といってもバイトぐらい。姉はほとんど全ての生徒に慕われており、他の教師からも頼られていて、自衛隊隊員である用務員からの信用も厚いように見えた。

 

 そこに至るまでに、どんな仕事を経てきたのだろうか。単に、大会優勝者であるからという理由では無いように見えるのだ。

 

 まずは、織斑千冬の名を守れるパイロットになる。それが目標だ。

 

「お、おい」

 

 遠慮がちな呼び声。

 

 振り返れば、ようやく到着した箒がいた。ミニスカートに、鎖骨を見せたやや薄手の私服姿。ホワイトとやや濃いめのグレーでシックなカラーチョイスだが、フリルやミニショルダーバッグといい、どちらかというとかわいらしさがある。赤のワンポイントも忘れていない。正直驚いた。

 

「その、待たせたな」

 

 普段の制服とは違う私服姿に落ち着かないのか、箒はもじもじしている。

 

「箒もかわいい格好をするようになったんだなぁ。フリルなんかも似合うぞ」

 

 顔立ち綺麗だしな。千冬姉もこういう格好が似合うだろうか。そもそもこんな私服は持っていない。どうにかして着せる方法はないかな。

 

「行くぞ! うむ」

 

 突然いつもの声音に戻った箒。

 

『女の子と出会ったらまず容姿を褒めること。約束よ』――昔、中国出身の友達から教わった作法である。調子が戻ったようでなにより。

 

「箒、まず俺の家に行っていいか?」

「……ふふ」

「箒?」

「好きにしろ!」

「じゃあそれで。家に置いたままの千冬姉の私服、何着か持っていきたいから、一緒に選んでほしいんだ」

 

 先行く箒の足が止まる。ブーツも似合うな。

 

「なん……だと……?」

 

 まだ真新しい革のつま先がこちらを向く。

 

「そのために、私を連れていくのか?」

 

 

▼▼▼

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。