インフィニット・ストラトス2~人と機械の紡ぐ心~   作:サウス零

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EP18 帰還・俺達の絆(ザビアツタ)

ルナ・クレストの丘――。

 

かつて神秘の加護を受けたとされるその聖域は、今やドクターゼロの手によって禍々しい紫の霧と不気味なマシン音に支配されていた。

 

「入り口はこの奥にあります。ここから降下して参りましょう」

 

大型プロペラ機の中で、クルセイダーがモニターの特定のポイントを指し示した。重厚な旋回音とともに機体が滑り込み、指定のポイントへと着陸を果たす。

 

ハッチが開き、眼下を見渡した一同の表情が強張った。

 

洞窟の入り口周辺には、ドクターゼロのロボポン軍団がギチギチと金属音を鳴らし、隙のない陣形で厳重に見張りを固めていたのだ。

 

「うわ……すごい数だよ。どうやって仕掛けようか……」

 

カスタまるが腕を組み、攻略の糸口を探る。

 

その時、後ろに控えていた防衛隊のロボポンたちが一歩前に出た。

 

「ここは我々にお任せを! 奴らの目を引きつけます!」

 

防衛隊ロボポンたちは一斉に飛び出し、軍団の側面に強烈な奇襲を仕掛けた。

 

「敵襲! 敵襲ーッ!」と騒ぎ立つロボポン軍団。

 

敵の注意が完全に逸れたその瞬間を見逃さず、ファルフィード、カスタまる、クルセイダー、

 

そしてロボポン親衛隊は一気に洞窟の奥へと侵入を果たした。

 

 

 

 

入り口を抜けた先は、広大な地下鉱石の発掘現場となっていた。

 

薄暗い洞窟のあちこちで、壁面に埋め込まれた多彩な石や、自ら光を放つ美しい鉱石が輝いている。

 

クルセイダーが移動しながら、静かな声で周囲を説明した。

 

 

 

「このルクーゼンブルク公国からは、実に豊富な鉱石が発掘されるのです。大きく分けて3つの区分に分類されておりましてね」

 

 

 

指を立てながら、クルセイダーは先を急ぐ。

 

「最初の一層目は、石炭や鉄鉱石、銅といった人々の生活を支える鉱石。

 

続く二層目は、アクセサリーなどに加工される美しい宝石類。

 

そして――これから向かう三層目には、特殊なレアメタルが眠っています。我々ロボポンのパーツの材料としても重宝されている特別な金属ですよ」

 

 

 

説明を聞きながら、一行は第一、第二発掘場を素早く突破し、最深部である第三発掘場へと到着した。

 

しかし――そこには、静寂とともに狂気が待ち構えていた。

 

「よくぞ来たな、ファルシオン・エデンシス……私自身、直接会うのを楽しみにしていたよ」

 

 

薄暗い広場の奥。

 

ドクターゼロが不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 

そしてその足元には、捕らわれの身となった王子と王女がその場にいる。

 

「ドクター・ゼロ! これ以上の狼藉はそこまでだ! 王子と王女を放せ!」

 

 

ファルフィードが鋭い声で一歩前に出る。

 

だが、ゼロは鼻で笑い、嘲笑うように手元のスイッチを強く押し込んだ。

 

――ズガアァァァンッ!!

 

発掘場の奥から凄まじい爆発音が響き渡り、大量の岩塩と鉱石が崩れ落ちる。

 

もうもうと立ち込める砂煙の奥から現れたのは、見たこともないほど分厚く重厚な金属の扉だった。

 

「扉……!?」

 

カスタまるが目を見開く。

 

「クルセイダーさん、あの扉は一体……!?」

 

「判りません……。このような扉、私も見たことがありません!」

 

生粋の王国防衛隊長であるクルセイダーですら知らない、未知の建造物。

 

ゼロは狂おしいほどの手応えに肩を揺らし、語り始めた。

 

「クックック……この扉の中にはな、ルクーゼンブルクの『秘宝』と呼ばれる鉱石が眠っているのだ」

 

「秘宝だと……?」

 

「そうだ。とある筋から入手した古文書を解読し、ようやくこの場所を突き止めてね」

 

ファルフィードは眼光を鋭くし、ゼロを睨みつける。

 

「それで……秘宝と呼ばれる鉱石の正体を知ったというわけか?」

 

「大まかにではあるがな……。一言で表すならば――『次元と時間の跳躍』だ」

 

「なっ……!?」

 

ファルフィードとカスタまるに激震が走る。

 

ゼロは嘲笑をさらに深め、二人を指差し挑発した。

 

「未来から来た君たちにとっては、喉から手が出るほど欲しい『とっておきの手がかり』だろう?……さあ、どうする?」

 

己の目的、そして元の時代へと戻る鍵。

 

ゼロの言葉に、ファルフィードは静かに目を閉じ、深く一呼吸を入れた。

 

そして――力強く目を見開き、背の翼を大きく広げる。

 

「勝負だ! ドクター・ゼロ!!!」

 

「ふっ、全軍――攻撃開始せよ!!」

 

ゼロの号令とともに黒の軍団とロボポンたちが一斉に動き出し、第三発掘場は激しい戦火に包まれた……。

 

 

 

 

「私はこの中で待つとしよう……」

 

ドクターゼロは浮遊移動で空中を滑るように進み、未知なる領域を阻む巨大な扉の前へと着地した。

 

その手には、ルクーゼンブルク公国の城で奪い取った二本の鍵が握られている。

 

扉の表面には、不気味に蠢く二つの鍵穴。ゼロがそこに鍵を差し込み、捻り込むと――

 

ガコンッ!

 

重厚で頑丈な鉄の扉が、地鳴りのような音を立てて開け放たれた。

 

「さあ、まずは私の最高傑作たちを倒してみせよ!」

 

ゼロの宣言とともに、奥の空間からドクターゼロ率いるロボポン軍団が津波のように押し寄せてくる。

 

さらにその奥の暗がりから姿を現したのは、異質な威容を放つ四体の幹部ロボポン――。

 

金色の巨躯を誇る「ゴールドン」。

 

腐臭と不気味な気配を纏うゾンビ型「ゾンビーニ」。

 

苛烈な炎を秘めたドラゴン型「ドラゴ」。

 

 

そして――全身を漆黒のペイントで塗りつぶされた、狂気の象徴「ロボゼロ」。

 

 

「黒の軍団」と呼称されるこの最高戦力たちが、開かれた扉の前で圧倒的な絶望として立ちはだかった。

 

第三発掘場は、王国防衛隊とゼロ軍団による全軍総当たりの大激戦へと突入する。

 

だが、純粋な戦力差と圧倒的な数の暴力により、戦況は次第にゼロ軍団優勢へと傾いていった。

 

「シャトルパンチ!!」

 

黒の軍団のリーダー機であるロボゼロの容赦ない一撃が、防衛隊ロボポンを容易く粉砕する。

 

「退避! 退避ーッ!」

 

打つ手を失った防衛隊ロボポンたちが次々と後退を開始した。

 

「逃ガスナ、追撃ー!!!」

 

ロボゼロが機械的な冷徹さで追撃命令を下し、自らも踏み出そうとした――その瞬間。

 

ドッガッ!!

 

背後から叩きつけられた凄まじい衝撃に、ロボゼロの巨体が大きく揺らぐ。

 

「グ……ウ……!?」

 

「へへへへっ! てめぇの弱点なんてお見通しだぜ!」

 

攻撃を仕掛けたのは、味方であるはずのゴールドンだった。その傍らにはドラゴも牙を剥いて控えている。

 

「こんな薄っぺらい装甲じゃ、防御力なんて無ぇと同じだよなァ!」

 

「!?!?!?!?……ゴールドン……ドラゴ……オレハミカタ……」

 

突如として背後から襲いかかってきた味方の行動に、ロボゼロの処理回路は大混乱に陥った。

 

その時、足元から冷たい感触が這い上がってくる。

 

「安心しな~~~~お前は敵にやられたってことにしておいてやるぜ!」

 

腐敗した地表を突き破り、ゾンビーニが這い出してロボゼロの両足をがっちりと掴み留めていた。

 

「そう、名誉の戦死というわけだ」

 

ドラゴが嘲笑いながら凶悪なアゴを開く。

 

「!!?」

 

「さらばだ!!」

 

ドラゴの口から解き放たれた極大の火炎放射が、至近距離からロボゼロを飲み込んだ。

 

【ダメージ! 認識回路破損率60%】

 

「ミカタ……コウゲキ……シナイ……」

 

【認識回路破損率80%・危険!】

 

「テキ……チガウ」

 

【破損率90%・Danger!】

 

「ミカ……タ……イ……ナイ」

 

火炎の超高熱がロボゼロの装甲をドロドロと溶かしていく。

 

ゾンビーニに足止めされ、回避すら許されない。

 

なぜ味方に襲われているのか、その理由すら理解できぬまま、

 

焼き尽くされたボディから光が消え、ロボゼロは静かに機能を停止した。

 

「ドラゴォ~~終わったようだぜ、げへへへへ~」

 

「ふっ、あっけないものだな」

 

この三体は、感情を持たぬ人形のようなロボゼロの存在を以前から酷く嫌悪していた。

 

ゼロ軍団のリーダーとして自分たちの上に君臨し、最強と称されていることに納得がいかず、この乱戦に乗じて裏切りを敢行したのだ。

 

 

「へっへっへっ、これで最強最悪はこの俺だな!!」

 

「何を言う? とどめを刺したのは私ではないか!!」

 

眼前で激闘が続いていることも忘れ、三体は醜い内輪揉めを始める。

 

「んだとオラッ!! てめえ火ィ吐いただけだろーが!!」

 

「貴様こそ背中を殴っただけだろう!!」

 

「おいおいお~い、オレを忘れちゃ困るぜェ~」

 

その言葉を最後に、ゾンビーニの視界が突如として浮き上がった。何者かの巨大な手が、その頭部を容赦なく掴み上げている。

 

「ギャァァァァァァあ!!?」

 

「「ゾンビーニ!?」」

 

驚愕する二体の前で、ゾンビーニの頭部を握り潰したのは――機能停止したはずのロボゼロだった。

 

「テキ、スベテ……テキ!!!」

 

【暴走システム起動 3…2…1…】

 

【ゼロ!!!】

 

理性を完全に失い、破壊の化身と化したロボゼロがゴールドンへと躍りかかる。

 

「AAAAAAAAGH!!!」

 

ロボゼロから放たれた灼熱の炎が瞬く間にゴールドンを包み込み、その上半身を跡形もなく溶かし去った。

 

「なっ……!? と、溶けて無くなった!!?」

 

間髪入れず、ロボゼロの狂気に満ちた眼光がドラゴへと向けられる。

 

「ギャァァァァァァ!!!?」

 

発掘場のさらに奥、モニター越しに事態を見守っていたドクターゼロのもとへ、ロボゼロの暴走が即座に報告された。

 

「あぁ……ドラゴまで……ッ!」

 

凄惨な光景に周囲の部下が悲鳴をあげる中、ドクターゼロだけは冷ややかな笑みを浮かべていた。

 

「フン! バカ者どもが……」

 

この事態――ロボゼロが追い詰められ暴走する可能性など、ドクターゼロにとっては織り込み済みだったのだ。

 

(まあ、いいタイミングで暴走してくれたものだ)

 

ゼロは興味を失ったように背を向けると、冷酷に命じた。

 

「全軍に伝えろ。ロボゼロには近寄るな、と」

 

今のロボゼロは、ただ目の前の生命と存在を破壊し尽くすだけの暴走塊。

 

その命の灯火が、完全に焼き切れて果てるまでは――。

 

(死ぬまでな…。)

 

 

 

「ギャァァァァァァ!!!?」

 

ドラゴの悲鳴は、暴走したロボゼロが解き放った黒紫のエネルギー波によって途中で激しくかき消された。

 

爆風と熱線が発掘場の天井を削り取り、巨大な岩塊が雨のように降り注ぐ。

 

一瞬にして仲間であったはずの幹部三体を屠り去ったロボゼロは、溶けかけた頭部から不気味な赤光を点滅させながら、ぎちぎちと首を曲げた。

 

その狂気に満ちた眼光が向いたのは――ファルフィードたちだった。

 

「みんな、下がれ!!」

 

ファルフィードが叫び、背の翼を叩きつけてカスタまるたちを遮るように前へ躍り出る。

 

「どうなっているの? 味方まで容赦なく打ち倒すなんて……」

 

(あの姿……メモリーに残っている……あれは昔のぼくだ……)

 

冷や汗を流しながら構えをとるカスタまるの心の奥底に、かつての自分自身の姿が重なる。

 

過去の戦いにおいて、ある者の企みによって自らのボディに眠る破壊本能を呼び覚まされたことがあった。

 

その時はファルフィードの命がけの奮戦によって、なんとか正気を取り戻すことができたのだ。

 

(でも、あのぼくはぼくだけど……今のぼくじゃない!!)

 

胸を締め付ける恐怖感を振り払い、カスタまるは一歩前へ踏み出した。

 

「あのロボポンは敵味方の識別機能すら崩壊しています! 今のあれはただの……動く破壊兵器です!」

 

防衛隊ロボポンたちがモニターの解析数値を睨みつけながら、緊迫した声を張り上げる。

 

「接近戦は危険です! 触れられただけで装甲が溶かされます!」

 

「AAAAAAAAGH―――ッ!!」

 

理性を失ったロボゼロが、地響きを立てて突進してきた。そのスピードは先ほどまでとは比べものにならない。

 

あまりの速度に追従できず、ファルフィードの頬を鋭い風圧がかすめる。

 

その異常な様相を目にし、クルセイダーは疑問を抱いた。

 

(……何だ? あのロボポンは……確かハートが無いと聞いていたが……)

 

本来、ロボポンに宿るはずの心「ハート」。それを削ぎ落とされた代わりに莫大な戦闘能力を与えられたはずの機体。

 

(しかし……何なんだ、この……)

 

クルセイダーはロボゼロの姿に、胸を揺さぶる妙な感覚を覚えていた。

 

(悲しみの波動は……)

 

暴走するロボゼロの目元から伝う液体が、まるで流れる涙のように見えたのだ。

 

「くっ……! ガトリングショット!」

 

ファルフィードがすかさずアームパーツを構え、光弾の連射を放つ。

 

だが、暴走状態のロボゼロはダメージを完全に無視し、身を削りながらも一直線にファルフィードの胸元へと鋭い拳を突き出してきた。

 

「しまっ――」

 

「ファルフィード!!」

 

カスタまるが間一髪のところで横から飛び込み、ファルフィードを突き飛ばして難を逃れる。

 

 

直後、ふたりがいた地面はロボゼロの一撃で深く削り取られ、溶岩のように赤くドロドロに溶け落ちていた。

 

「ハァ……ハァ……助かった、カスタまる!」

 

「気にしないで……! 先にあの暴走を止めないと、秘宝の扉どころかこの発掘場全体が崩落するよ!」

 

その時、洞窟の奥から重厚な機械音が響き渡り、扉の向こう側の空間が怪しく輝き始めた。

 

ドクターゼロが秘宝の眠る最最深部へと足を進めるため、扉を閉ざそうとしているのだ。

 

「ドクター・ゼロ……! 逃がすわけには……!」

 

ファルフィードが立ち上がり、腹を括ろうとした――その瞬間。

 

「ガァァァァァァぁ!!!」

 

咆哮とともに襲い来るロボゼロ。

だがその直前、クルセイダーが前に躍り出ると、突撃してくるロボゼロの突き出された腕をがっしりと受け止めた。

 

「私が相手だ……」

 

捉えられたロボゼロは構わず全身から凄まじい爆炎を吹き上げる。

 

「くっ……!!」

 

「クルセイダー!? わざと攻撃を受けるなんて、どうするつもりだ!!」

 

ファルフィードがその暴挙に息をのむ。

 

「情けない話ですが……神の使いを模して作られたわたしが……このロボポンを救うどころか、壊すことしかできないとは……」

 

「何をするんですか!?」

 

カスタまるの叫びに答えるように、クルセイダーはロボゼロを逃がすまいと、さらにその腕に力を込めた。

 

「こんなことをする私を恨みたければ、恨むがいい。呪いたければ呪うといい……」

 

勢いを増す炎が、クルセイダーとロボゼロのボディを同時に激しく侵食し、崩壊させていく。

 

「その呪いはわたしが全て引き受ける……だから、その悲しみは捨ててゆけ」

 

クルセイダーの右腕に、眩いばかりの聖なる光が宿る。

 

「さらばだ……いや……」

 

光が臨界点を突破する。

 

「また会おうっ!!!」

 

クルセイダーの渾身の『ホーリーナックル』がロボゼロの胸部に炸裂した。

 

瞬間、視界を埋め尽くす大爆発が巻き起こる――。

 

しばらくして、激しい煙と爆心地の熱気が引いていく。

 

そこに残されていたのは、完全に機能を停止し大破したロボゼロと、同じく深く傷つき倒れ伏すクルセイダーの姿だった……。

 

 

 

 

 

 

「クルセイダー(さん)!!」

 

ファルフィードとカスタまるが、煙の立ち込める爆心地へなりふり構わず駆け寄る。

 

かつて神の加護を思わせる神聖な輝きを放っていたその蒼い装甲は、今や煤と熱で漆黒に染まり、顔の表情すら判別できないほど痛々しく大破していた。

 

そこへ、洞窟の入り口で待機していた防衛隊の増援が慌ただしく駆けつけてくる。その隊列の中には、エレノアとアルベールの姿もあった。

 

「一体、ここで何があったの……!?」

 

息を飲んで惨状を見つめる二人へ、ファルフィードは言葉を噛み締めながら、起きた出来事の全てを短く告げた。

 

黒の軍団の幹部たちによる醜い裏切り、ロボゼロの悲痛な暴走、そして彼を救うために自らを盾としたクルセイダーの壮絶な覚悟――。

 

「そ、そんな……あまりにも酷すぎる……!」

 

エレノアは声すら震わせ、アルベールは拳を強く握りしめる。

 

仲間ですら使い捨ての道具として利用し、無残に踏みにじるドクター・ゼロの冷酷無比な狼藉に、二人の胸には激しい怒りの炎が燃え上がっていた。

 

「ここからは、俺達の戦いだ」

 

ファルフィードたちは、大破したクルセイダーと機能を停止したロボゼロ、そして無事に救出された王子と王女を後方の防衛隊ロボポンたちへと託した。

 

「頼んだぞ。二人の手当てと、殿下たちの保護を!」

 

「ハッ! ご武運を……!」

 

重厚な頷きを交わし、ファルフィード、カスタまる、エレノア、アルベールの四人は、秘宝の扉のさらに奥――静まり返る巨大な大部屋へと一歩ずつ足を進めた。

 

部屋の最深部。あつらえられた大きなアンティーク調の座椅子に深く腰掛け、不敵な笑みを浮かべた男が待ち構えていた。

 

ドクター・ゼロ――。その周囲には、残されたゼロ軍団の精鋭たちが不気味に蠢いている。

 

「ほう……まさか私の最高傑作まで退けてくるとはね。ん? 誰かと思えば、あの老いぼれの娘と弟子の小僧か。わざわざ死にに舞い戻ってきたのかな?」

 

「ドクター・ゼロ!!」

 

エレノアが前に踏み出し、激昂の声を上げる。

 

「あなたは……あなたはロボポンを、命ある存在を何だと思っているんだ!!?」

 

ゼロは可笑しそうに肩を揺らし、嘲笑を深めた。

 

「『便利な道具』だ……それ以上でもそれ以下でもあるまい。ロボポンがいかに兵器として優れているか、実際私の傑作であるロボゼロが示した通りさ」

 

「あなたって人は……ッ!」

 

あまりの冷血さにアルベールが歯噛みする。だが、ゼロは気にした様子もなく淡々と語り継いだ。

 

 

「まあ、命令実行回路が壊れて暴走し、公国を都合よく破壊してくれたのは思わぬ収穫だったよ。

 

 ロボゼロの設計データは私の中にある……壊れたなら、また新しく作り直せばいいだけの話だ。だが――その前にね」

 

 

ドクター・ゼロの手元、椅子の肘掛けの一部が滑らかにスライドし、隠されていた小さなボタンが現れる。ゼロがそれを迷いなく押し込むと――。

 

 

――ズズズズズズッ……!!

 

 

凄まじい地響きとともに地下の足場が激しく揺れ動き、床面が割れて巨大な「何か」が地上へとせり出してきた。

 

重厚な金属音とともに立ち上がったその巨躯を目にし、ファルフィードとカスタまるの眼光が跳ね上がる。

 

「レクス・グラビタティオ……!?」

 

「な、何でここに……!?」

 

それはかつて二人が死闘を繰り広げた強敵、ノワール・ドゥ・ム・ザーンが操っていた超大型メカ『レクス・グラビタティオ』と瓜二つの姿をしていた。

 

「クックック……奴からデータを譲り受けてね。さすがに未来の技術が詰め込まれた機体だ、今の私の技術だけでは完全には再現しきれなかったがね……」

 

言いきるや否や、せり出したメカの頭部コクピットへと吸い込まれるようにドクター・ゼロが乗り込む。

 

直後、胸部と両眼に禍々しい赤光が宿り、未知の重力波とともに地を揺るがす雄たけびが轟いた。

 

 

『命名は――【グラビ・レクスタ】。性能はあのロボゼロを遥かに凌駕する! さあ、絶望の宴を始めようか!!』

 

 

超巨大ロボポンの圧迫感が押し寄せる中、ファルフィードはエレノアとアルベールを背後へ庇うように手をかざした。

 

「二人とも、後ろへ下がっていてくれ! ここからは危険すぎる!」

 

「ファルフィード……!」

 

「任せてください。僕たちがアイツの野望をここで止めて見せます!」

 

すかさずカスタまるがファルフィードの隣へ並び立ち、強く頷いて構えを取る。

 

「行くぜ、カスタまる!!」

 

「うんっ!!」

 

交わした視線の先に輝くのは、決して折れることのない二人の「絆」。

未来と過去をかけた最終決戦の火蓋が、いま切って落とされた――!

 

 

「ハァッ!!」

 

ファルフィードの背の翼が青白いエネルギーを噴き上げ、巨躯を誇るグラビ・レクスタの眼前に肉薄する。

 

空中からの死角を突いた鋭い一撃が、グラビ・レクスタの装甲に深い閃光の軌跡を刻み込んだ。

 

「続いてぼくの番だ!」

 

間髪入れず、地面を蹴ったカスタまるが直線的な高速機動で滑り込む。懐深くへと潜り込み、威力を凝縮させた連撃を腹部メカニズムへ叩きつけた。

 

「――グ……オォッ!?」

 

激しい衝撃と火花が散り、グラビ・レクスタの巨体がわずかに後退する。

 

序盤の立ち上がりは、息の合った連携を見せるファルフィードとカスタまるが完全に主導権を握っているかに思えた。

 

だが――コックピットの中で、ドクター・ゼロは歪んだ笑みを消してはいなかった。

 

「フン……威勢が良いのは最初だけだ。未来の技術を使ったこのグラビ・レクスタの『真の恐怖』……存分に味わうがいい!」

 

ゼロが操縦レバーを押し込むと、グラビ・レクスタの胸部ジェネレーターが不吉な黒紫の光を放ち始める。

 

「【ワームグレイバー】!!」

 

グラビ・レクスタのアームパーツから放たれたのは、空間そのものを歪める黒い重力波だった。

 

「なに……!? 身体が……重っ……!?」

 

突如として全身を襲う数倍から数十倍の重力負荷。空中にいたファルフィードは翼を叩くことすら許されず、

 

まるで目に見えない巨足に踏みつけられたかのように地表へと叩きつけられた。

 

「くっ……動けない……!?」

 

地上を走っていたカスタまるもまた、強烈な重力の檻に捕らわれ、膝を激しく突き崩してしまう。

 

「クックック……逃げ場などないぞ! 潰れろ、【グラビブレイド】!!」

 

巨腕に生やした巨大な重力光線剣『グラビブレイド』が狂暴な音を立てて起動する。

 

漆黒の刃が地を薙ぎ払うたび、周囲の岩盤が超重力によって爆破されたかのように圧砕されていった。

 

「ガトリング……ショットッ!!」

 

ファルフィードは重力に抗って必死にアームを掲げ、牽制の光弾を放つ。

 

しかし、グラビ・レクスタが纏う強固な重力障壁によって、弾丸は届く前にことごとく軌道を曲げられ、明当外れの方向へと弾かれてしまう。

 

圧倒的な密度の重力攻撃と、空間ごと押し潰す圧倒的なパワー。

 

連戦の疲労も重なり、ふたりの体力は急速に削られていった。

 

息は荒くなり、装甲の隙間からは小さな火花が散る。明確な不利――追い詰められているのは、完全にファルフィードたちの方だった。

 

「終わりだ、ハエどもめ!! 地の底へ消え去るといい!!」

 

ドクター・ゼロが絶叫し、グラビ・レクスタの全身の重力機関が臨界点を超えて輝く。

 

「滅びよ―――【グラビティ・フォール】!!!」

 

天地を揺るがすほどの極大重力波が広場全体を丸ごと呑み込んだ。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁッ!!!?」

 

「ウワャァァァァァッ!?」

 

防ぐことすら許されない絶大な衝撃波に叩き付けられ、ふたりの身体は弾丸のような勢いで吹き飛ばされた。

激しく発掘場の岩壁へと衝突し、大量の瓦礫とともに崩れ落ちる。

 

もうもうと立ち込める砂煙の中、ふたりの荒い息遣いと、冷たく響くグラビ・レクスタの機械足音だけが空しく響いていた――。

 

 

 

「ショウ! ロボまる!!」

 

絶望的な爆煙の中、後方に控えていたエレノアとアルベールが二人のもとへ必死に駆け寄る。

 

「これで応急処置を!!」

 

アルベールが手にした高機能リペアキットを素早く展開し、倒れ伏す二人の損傷部へ緊急修復液を噴射した。

 

粒子が装甲の亀裂を塞ぎ、途切れかけていたメインフレームの輝きが取り戻されていく。

 

「大丈夫ですか……!?」

 

「ああ……なんとか持ちこたえた」

 

「ありがとうございます……助かった……」

 

ファルフィードとカスタまるは荒い息を整えながら身体を起こした。だが、依然として目の前に立ちはだかるグラビ・レクスタの超重力障壁を破る術は見出せない。

 

その時――緊張の走る戦場に、場違いなほどの澄んだ光が走った。

 

「あっ……!」

 

光の発振源は、エレノアが握りしめるワイヤレスマイクだった。

 

「マイクが……光ってる……?」

 

「うん……わかるの。このマイクに秘められた『二つ目の歌』が、今……解放された!」

 

その言葉を聞いた瞬間、ファルフィードの瞳に強い閃光が宿る。

 

彼は即座に変形機構を起動し、ビークルモードから本来の姿である【ファルシオン】へと姿を変えた。

 

「エレ、その歌……いけるか?」

 

「うん。でも、グリフィードから降りて本当に大丈夫なの……!?」

 

「ああ。俺の勘が正しければ……あいつへの逆転に繋がる『道』が見える。そいつがあれば、一気に決められる!」

 

エレノアはファルシオンの眼差しに宿る迷いのない信頼を感じ取り、強く頷いた。

 

「……わかったわ!」

 

エレノアはその場から一歩身を引くと、戦火の渦中で静かに両目を閉じた。

 

直後、荒涼とした洞窟の空間に美しいメロディが響き渡り始める。

 

 

それはかつてノワールとデビクロウとの死闘の際に耳にしたものとは一線を画す、胸を打つような高揚感に満ちた旋律だった。

 

――【SING A SONG-LINK SYSTEM(歌声同期機構)】起動――

 

Sing a Song 『What's a Hero』

 

システム起動を知らせるシグナル音とともに、エレノアの透き通った歌声が洞窟全体へと広がり、戦場を満たしていく。

 

怒り撃つ あの宇宙へ

失うものはない 取り戻すはPride

 

「何だ……? 妙な歌など歌いおって……ッ!」

 

大部屋の奥から迫り来るドクター・ゼロとグラビ・レクスタ。

 

ゼロは歌声に激しい不快感と疑念を抱きながらも、容赦なく超重力波による圧殺攻撃を解き放った。

 

遍く次元を 駆け抜けて 駆け抜けて

Who’s that man?

 

しかし――次の瞬間、ゼロは己の目を疑った。

 

What’s that crime?

 

重力波の必滅の檻を、

ファルシオンは掠めるような極限の紙一重で軽々と回避してみせたのだ。

 

What’s that shame?

先ほどまで彼らを苦しめていた超重力が、

まるで歌声の波長によって打ち消されているかのように、

ファルシオンの機動力は増していった。

 

To that rage… Round and round

 

 

「馬鹿な……!? 重力障壁を……かすめながら突破してくるだと!?」

 

What’s that crime?

 

一転して翻弄されるグラビ・レクスタ。形勢の逆転にドクター・ゼロの顔が驚愕に歪む。

 

What’s that shame?

 

(歌だ……あの娘の歌声に、何かのカラクリが……!?)

 

To that rage… Round and round

 

ゼロがその異常な現象のカラクリに気づきかけた、まさにその時――。

 

 

Zenith...

 

Energy...

 

Unlimited...

 

Surge...

 

READY!!

 

ファルシオンの体内ジェネレーターが極限突破の咆哮を上げ、神聖なる黄金の粒子が全身から解き放たれる。

 

 

I’ll take nothing!!!!!!!

 

 

 

 

「【ZEUS】……発動ッ!!!!」

 

 

 

 

ファルシオンの切り札『ZEUSシステム』が完全起動を果たした!

その動きはグラビ・レクスタを完全に奔走している。

 

Hero What’s a Hero

 

「カスタまる! 一気に行くぞ!!」

「うんっ!!」

 

時を越えてまた再び立ち上がれ

 

まずはカスタまるが先に仕掛ける。

鋭い体当たりを仕掛け、間髪入れずに連撃パンチを叩き込むと――

 

Hero What’s a Hero

 

「【ハイパーフェニックス・ナックル】―――ッ!!!」

 

炎を纏ったカスタまるの拳が、不死鳥を象った巨大な爆炎の波動となって解き放たれる。

 

振り向かない覚悟を胸に

 

直撃を受けたグラビ・レクスタの巨躯が、あまりの衝撃に宙へと大きく浮き上がった。

 

Hero What’s a Hero

 

畳みかけるように、ファルシオンが超高速の跳躍で追撃に移る!

 

誰もが持つ「人」の誇りと

 

「極(きょく)!!」

 

閃光を纏った左拳の激震が、グラビ・レクスタの装甲を粉砕する!

 

「真(しん)!!」

 

旋回した右拳の熾烈なアッパーカットが、メカの頭部を的確に穿ち抜く!

 

共に生きる

 

 

「天・零(てん・れい)・けぇぇぇん―――っ!!!」

 

 

背部のブースターを限界まで全開させ、超質量の一撃を天井へ向けて叩きつける!

 

為の歌を

 

 

グラビ・レクスタの巨大な機体は弾丸と化し、洞窟の岩盤天井へと激突して地鳴りのような爆音を響かせた――!

 

 

 

天井へ叩きつけられたグラビ・レクスタの巨躯は、激しいスパークと黒煙を撒き散らしながら、地表へと容赦なく激突した。

 

――ドオォォォォンッ!!

 

発掘場の岩盤を叩き割るような激しい響きとともに、超大型メカの全身から不気味な赤光が消えていく。

 

主要ジェネレーターが次々と誘爆を起こし、強固だった装甲は原型を留めぬほどボロボロに引き裂かれていた。

 

完全なる撃破――グラビ・レクスタは今度こそ完全に大破したのだった。

 

「はぁ……はぁ……っ」

 

ファルシオンの全身を包んでいた黄金の粒子が静かに霧散し、限界突破状態であった【ZEUSシステム】が自動解除される。

 

それと同時に彼もまた元の姿へと戻り、肩を大きく上下させた。

 

隣に立つカスタまるの身体からも凄まじい熱気が引き、戦闘形態の解かれた彼は、いつもの『ロボまる』の姿へと戻る。

 

「や……やったわ……! 私たちの勝ちよ!!」

 

「ショウ! ロボまる!!」

 

強敵の撃破を目にし、胸を打つ歓喜に震えるエレノアとアルベールが、歓声を上げながら二人のもとへ駆け寄ってきた。

 

お互いの無事を確かめ合い、過酷な激闘を乗り越えた安堵の笑みが一同の顔に広がる。

 

――だが、その平穏は一瞬にして打ち砕かれた。

 

ズズ……ズズズズズッ……!!

 

「ッ!? なんだ……地響き……!?」

 

足元から伝わる不穏な振動に、アルベールが息をのむ。

 

「クッ……クク……ハハハハハッ!!」

 

大破したグラビ・レクスタの崩れたコクピットの瓦礫の隙間から、血と煤に塗れたドクター・ゼロが這い出していた。その瞳には狂気に満ちた執念の炎が燃え盛っている。

 

「ただで帰すものか……! 私の野望を阻んだお前たちも……このルクーゼンブルクの『秘宝』も……全て地の底へ葬り去ってやる!!」

 

ゼロが手にした起動スイッチを、最期の力を振り絞って強く押し込む。

 

 

――ドカァァァァァンッ!!

 

 

 

発掘場の随所に仕掛けられていた爆薬が一斉に起爆し、空前絶後の爆発音が洞窟全体を揺らし始めた。

 

「しまった、自爆装置か!!」

 

「皆、走れ! ここが崩れるぞ!!」

 

ファルシオンの叫びとともに、天井から巨大な落石が雨のように降り注ぎ始める。

 

長年の発掘で空洞化していた地下構造は、連鎖的な爆発に耐え切れず急速に崩壊へ向かっていた。

 

「ショウ、急いで!!」

 

「早くこちらへ!!」

 

前方を走るファルシオン、エレノア、アルベールの背中を追いかけ、ロボまるも必死に脚を動かす。

 

だがその時――崩れ落ちる岩石の間で、地面に転がっていたひとつの鉱石が、ロボまるの視界の端をかすめた。

 

(……え? いま、何か……?)

 

壊れた岩塩と土砂の隙間で、その鉱石はまるで生きているかのように、一瞬だけ異質な、どこか切なくも温かい光を放った気がしたのだ。

 

「これ……っ!?」

 

直感に突き動かされたロボまるは、反射的に足を止めると、瓦礫の中に手を伸ばしてその鉱石を力強く握りしめた。

 

「ロボまる! 何をしている、早くしろ!!」

 

「いま行くよ!!」

 

収納ポケットへと鉱石をねじ込み、ロボまるはすぐさまファルシオンたちの後を追って猛ダッシュを開始する。

 

背後では絶え間ない爆風と落石が迫り、ドクター・ゼロの狂気の手招きのように空間全体が瓦礫の山へと呑み込まれていく。

 

一瞬の遅れが死を意味する極限の状況の中、四人は崩落の波を紙一重でかわし続け、光の差し込む地上への出口へと飛び込んだ。

 

――ドォォォォン……ッ!!

 

直後、彼らが逃げ出した洞窟の入り口が凄まじい土砂崩れによって完全に塞がれる。

 

もうもうと立ち込める砂煙の中、一同は地面に倒れ込みながら荒い息を吐いた。

 

多くの犠牲と傷痕を残しながらも、彼らは辛うじて死地からの脱出を果たしたのだった。

 

 

 

ルナ・クレストの丘での死闘、そしてドクター・ゼロによる爆破からの決死の脱出から一週間――。

 

幾多の傷を負ったスポロ博士の研究所には、久しぶりに穏やかな時間が流れていた。

 

作業場では、将とロボまるが工具を手に真剣な表情で向き合っている。

 

二人が手掛けに当たっているのは、かつての戦いで大破し、沈黙を守り続けていたもう一つのメイルギアビークル「バハムート・チェイサー」の修理だった。

 

「よし……メイン回路のバイパス接続、完了だ」

 

将が汗を拭いながらドライバーを置く。

 

「やったね将! これでシステムの復旧率が80%まで戻ったね!」

 

ロボまるが嬉しそうに頷き、パーツの整理を始めようとしたその時――ストレージボックスの隅に押し込まれていた小さな金属ケースが目に入った。

 

「あ……! しまった、これ入れてるのすっかり忘れてた……!」

 

「ん? なんだそれ?」

 

将が首をかしげると、ロボまるはケースを開け、中に収められた不規則な形状の結晶を取り出した。

 

それは壊れた岩塩と土砂の隙間から滑り込み、あの激しい崩壊の中でロボまるが寸前のところで掴み取ったあの鉱石だった。

 

「ルナ・クレストの洞窟が崩れる時に見つけたんだ。なんか……すごく不思議な光を放ってた気がして」

 

「ほう……どれ、見せてごらん」

 

いつの間にか作業場へ入ってきていたスポロ博士が、眼鏡の奥の目を光らせてその鉱石を覗き込んだ。

 

だが次の瞬間、スポロ博士の表情が凍りついた。

 

「っ……!? こ、これは……!!」

 

「博士? どうしたんですか?」

 

将とロボまるが驚いて顔を見合わせる。普段は朗らかなスポロ博士が、その鉱石を手にとり、指先を小さく震わせているのだ。

 

その時、研究所の通信モニターがピピッと電子音を鳴らし、画面にロゼンダの姿が映し出された。

 

『二人とも、そこにいたのね! ちょうど良かったわ、ルクーゼンブルク公国から特使の兵士が迎えに来ているわよ』

 

「迎え……? 何の用だ?」

 

『ルクーゼンブルク公国の国王陛下……レオポルド・トワイライト・ルクーゼンブルク様からよ。

 

 ドクター・ゼロの脅威から王子と王女を救い出し、公国を救ってくれたお礼をしたいんですって』

 

 

 

――ルクーゼンブルク公国・城閣。

 

重厚な石造りの回廊を抜け、将、ロボまる、エレノア、アルベール、ロゼンダ、そしてスポロ博士の六人は、絢爛豪華な謁見の間へと踏み入った。

 

赤絨毯の先、玉座には威厳に満ちた佇まいの国王レオポルドと、温かい笑みを浮かべる王妃の姿。

 

その傍らには、皇太子の青年、そしてあの洞窟から助け出された幼い王子と王女が並んで立っていた。

 

 

「よくぞ参った、勇敢なる異邦の戦士たちよ」

 

国王レオポルドが重厚な声を響かせる。

 

 

「我が愛しき子らを救い出し、悪名高きドクター・ゼロの野望を打ち砕いてくれたこと、公国を代表して深く感謝する」

 

 

「ありがとうございます。ですが、俺たちだけの力ではありません。王国防衛隊やクルセイダーたちの覚悟があったからこそです」

 

 

 

将が深々と礼を執り、謙虚に言葉を返す。

 

「ふむ……謙虚な姿勢、実に見事だ。公国の復旧も着実に進んでおる。

 

 そこでだ、我が国を救ってくれたそなたらに、望むだけの褒美や名誉を与えたいと考えておるのだが……何か希望はあるか?」

 

問いかけを受けた将は、隣のロボまる、そしてスポロ博士と視線を交わした。

 

「……僭越ながら、ひとつお伺いしたいことがございます。ドクター・ゼロが執着していた、

 

 ルクーゼンブルクの『秘宝』と呼ばれていた鉱石……その正体を教えていただけないでしょうか」

  

 

その言葉が出た瞬間、謁見の間に静寂が訪れた。

 

国王は静かに目を閉じ、威厳ある表情のまま固まる。ロボまるはそっと懐からあの鉱石を取り出し、差し出してみせた。

 

 

「あの洞窟の奥で、僕が拾ったこの鉱石のことです」

 

 

国王レオポルドはゆっくりと息を吐き出すと、真剣な眼差しで差し出された輝きを見つめ、静かに語り始めた。

 

「……そなたの持つその輝き、それこそが公国に伝わる古代の遺産――『時結晶(タイム・クリスタル)』と呼ばれる特殊な結晶石なのだ」

 

「時結晶……!」

 

将とロボまるが息をのむ。

 

 

「我がルクーゼンブルク公国は小さな島国に過ぎぬが、その山地の奥深くには、人々の暮らしや技術を支える多種多様な鉱石が豊富に埋まっておる」

 

 

その言葉に、ロボまるの脳裏にルナ・クレストの丘でクルセイダーが語っていた説明が蘇った。

 

 

(『第一層は生活を支える鉱石、二層目は宝石類、そして三層目には特別なレアメタルが眠っている……』)

 

 

まさにあの教えの通り、この地は特別な鉱石の宝庫だったのだ。王の言葉はさらに続いた。

 

 

「公国の研究機関で詳しく調べた結果、この時結晶は、世で知られる時間結晶の構造とはまったく異なった、未知のエネルギーと特性を持つことが判明したのだよ」

 

 

「……ええ、それだけではないぞ」

 

 

横からスポロ博士が神妙な面持ちで口を開いた。

 

 

「この『時結晶』は……ロボポンにとって最も重要なパーツであり、心の象徴でもある『ハート』の主原料そのものなのじゃ」

 

「ハートの原料……!?」

 

思いもよらない事実に、将とロボまるは目を見張った。

 

「うむ。だが、時結晶のかけら程度であれば公国のあちこちで稀に発掘されるものの……

 

 『ハート』の生成に耐えうるほど純度が高く、十分な大きさを誇る時結晶が存在するのは、あのルナ・クレストの丘の深層部だけでな」

 

王は痛ましい面持ちで首を振る。

 

「しかし、先日のドクター・ゼロによる暴走と自爆によって、発掘現場の最深部は完全に崩壊してしまった……。現状では、そこから直接採取することは不可能なのだ」

 

重苦しい静寂が謁見の間を包み込む。自分たちの時代へ戻る手がかり、

 

そしてロボポンの『ハート』の鍵となる時結晶をどうやって手に入れればよいのか――全員が思考を巡らせる中、

 

エレノアがふと顎に手を当て、何かを思い出したように声を上げた。

 

「ねえ……待って。もしかして、発掘現場の入り口って『あそこ』ひとつだけじゃなかったんじゃないかしら?」

 

「なに……? それはどういう意味だ、エレノア?」

 

将が問い返すと、国王レオポルドが驚いたように頷いた。

 

「……ふむ、鋭いな。実は、あの洞窟は数年前に最初に見つかった際、自然に形成された巨大な空洞として存在していたのだ。その最深部で時結晶が発見されたのだが……そのあまりの危険性と価値ゆえ、存在を秘匿するために『封印の扉』を建造した」

 

王はかつての記憶を辿るように遠くを見つめる。

 

「それから数年後、公国の調査隊がまったく別のルートから新たな洞窟の入り口を発見し、鉱石の発掘作業を始めたのだ。しかし……そちらのルートから掘り進められたのは第三層までであり、封印の扉がある時結晶の深層部へは直接繋がっておらぬのよ」

 

「だったら……!」

 

エレノアの瞳が希望の光で輝いた。

 

「第三層から、直接その深層部に向かって新しく穴を掘り進めてみたらどうかしら!?」

 

「なっ……!?」

 

突飛とも思える提案に、国王は思わず困惑の表情を浮かべた。

 

「た、確かにそのルートであれば安全面はある程度保持できるやもしれぬが……今のアレを新たに掘り起こすには、圧倒的に資材も機材も不足しておるのだ。何より、復旧作業に全ロボポンを動員している現状、作業効率を分散させるわけにはいかん……」

 

希望が途絶えかけたその時、王の傍らに控えていた皇太子が「ハッ」と息を呑み、前へ進み出た。

 

「父上……! そういえば以前、発掘隊から『見慣れない空間』についての報告を受けておりました!」

 

「見慣れない空間だと……?」

 

「はい。第二発掘場の片隅で、当時作業員たちが妙な小部屋のような空間を見つけていたのです。当時は特に変わったものもなく、単なる空洞として放置され、いずれ作業員の休息場にする予定だったのですが……ドクター・ゼロの騒動が起きて計画が立ち消えになっておりました」

 

「第二発掘場の小部屋……! もしかしたらそこが、深層部への抜け道になっているかもしれないってことね!?」

 

エレノアの言葉に、一同の顔に一気に活気が戻った。

 

「よし……! 案ずるより産むが易しだ。博士、皆、すぐに行ってみよう!」

 

将の威勢の良い呼びかけに、ロボまるも力強く頷いた。こうして一同は一刻の猶予も惜しむように、再びルナ・クレストの地下発掘現場へと向かうのだった――。

 

 

公国城閣を後にした一行は、皇太子の案内のもと、再びルナ・クレストの地下発掘現場へと足を踏み入れた。

 

先日の自爆による崩落の痕跡が痛々しく残るものの、王国防衛隊と警備兵による警戒と復旧作業が進められており、地下特有の静けさと緊迫感が漂っている。

 

一行が第二発掘場へと到着すると、各所に配置された警備兵たちが即座に敬礼を捧げた。

 

「皇太子殿下! この先は崩落の恐れもあり、危険ですが……」

 

「構わない。彼らは我が国の恩人であり、重要な調査のために来てもらった。通してくれ」

 

皇太子の毅然とした言葉に警備兵は深く頷き、封鎖されていた奥の通路を解いて道をあけた。

 

警備兵たちの協力を得て、一行は地下特有の湿った空気のなかを迷いなく奥へと進んでゆく。

 

やがて辿り着いたのは、第二発掘場の片隅――薄暗い岩壁の隙間にひっそりと佇む、小さな部屋だった。

 

 

 

「こ、これは……」

 

将が息をのんで呟く。

 

一同が脚を踏み入れたその部屋の奥には、ドクター・ゼロの自爆による不穏な振動で最近になって崩れ落ちたと思われる、大きな破砕孔が開いていた。

 

その暗がりの中からは、洞窟の湿った風とは異なる、どこか神秘的でひんやりとした空気が流れ出してきている。

 

「気をつけて進もう。足元が悪い上に、暗くて視界が効かない」

 

将の警戒を呼びかける声に、全員が真剣な面持ちで頷いた。

 

懐中電灯の光を前方に向けながら、一同は慎重に岩の割れ目へと滑り込む。

 

そこは、人間が一人通り抜けるのがやっとの長く細い天然の洞窟通路だった。

 

ゴツゴツとした岩肌に肩をすぼめながら、暗闇の中を滑り落ちないよう一歩一歩踏みしめてゆく。

 

静寂の中、自分たちの足音と荒い息遣いだけが洞窟内に低く響く。

 

どれほど進んだだろうか――不意に、通路の先から遮るもののない淡く幻想的な光が漏れ聞こえるかのように差し込んできた。

 

「見て! 奥が明るくなっているわ!」

 

エレノアが指差し、一同は歩調を速める。

 

狭い通路を通り抜けた瞬間、彼らの視界は一気に開けた。

 

そこは第一、第二発掘場を遥かに凌ぐ、どこまでも広大な未踏の大部屋だった。

 

「すごい……なんて綺麗な場所なんだ……」

 

ロボまるが思わず歓声を上げる。

 

広間の真ん中には、まるで何千年もかけて隆起したかのような巨大な岩石の山が鎮座していた。

 

そしてその頂点から、夜空の月のように優しく美しい淡い光が、空間全体へとゆらゆらと漂い広げられている。

 

「あの光の源は……山の上だ!」

 

アルベールが叫び、一同は吸い寄せられるように岩山を登り、その頂へと急いだ。

 

頂点に辿り着いた彼らを待ち受けていたのは、天をつくように屹立する一本の巨大な結晶の柱だった。

 

まるで透き通るような青と紫の光を静かに解き放ち、その周囲の空気すらも清らかに浄化しているかのようだ。

 

「博士、これは……!」

 

将に促され、スポロ博士は震える手でレンズを覗き込み、ポータブルアナライザーの数値を柱にかざした。

 

「おお……おおおっ! なんということじゃ……! 成分波形が完全に一致しておる! この柱全体が、ロボまるが拾ったあの『時結晶』そのものなのじゃ!!」

 

「柱全体が時結晶……!? これだけあれば、元の時代に戻るエネルギーどころか、無数のロボポンに『ハート』を与えることだってできるじゃないか!」

 

歓喜の声が爆発する。長かった戦いと模索の末に辿り着いた本物の『秘宝』。一同の顔に、この上ない希望の笑みが溢れ出した。

 

「よし! さっそく必要な分だけでも削り出そう!」

 

アルベールが作業用の小型削岩機を構え、結晶の表面へ刃を当てようとした――その時である。

 

ブオン……ッ!

 

ほんの少しの振動を与えただけで、巨大な時結晶の柱が不気味な重低音を響かせ、激しく明滅し始めた。

 

同時に、洞窟の天井からパラパラと小さな岩屑が降り注ぎ、地鳴りのような嫌な振動が足元を襲う。

 

「待て! 削るな!!」

 

スポロ博士が悲鳴のような大声を上げた。

 

「な、なんだ!? 一体どうしたんだよ博士!」

 

「この時結晶は、この地下大部屋全体の地盤を強力なエネルギー磁場によって支えておる『構造柱』そのものなのじゃ!

 

 不用心に削岩して傷をつければ、結晶内に蓄積されたエネルギーが一気に暴走し、この洞窟全体が跡形もなく完全に崩落してしまうぞ!!」

 

「そ、そんな!?」

 

「くっ……! 目の前にこんなに大量の時結晶があるのに、手を出せないなんて……!」

 

目の前の希望が一転して手出しできない絶望へと変わり、将は歯噛みした。手詰まりの重苦しい空気が、再び一同を包み込もうとした――その瞬間。

 

ピカッ……!

 

ロボまるのストレージボックスから、あの時拾った小さな時結晶が、共鳴するように強く眩い光を帯び始めた。

 

「わ……っ!? 鉱石が急に……!」

 

驚くロボまるの手から離れ、小さな時結晶は空中へと浮き上がると、まるで意志を持っているかのように一筋の帯状の光の軌跡を伸ばしてみせた。

 

その光の筋は、巨大な結晶の柱を通り越し、大部屋のさらに暗い隅の岩壁へとまっすぐに伸びてゆく。

 

まるで「こちらへ来い」と導いているかのように――。

 

「ロボまるの時結晶が、道を示している……?」

 

「行ってみよう!」

 

将を筆頭に、一同は伸びた光の筋を追って広間の隅へと駆け寄った。

 

するとその時――光の先端が当たった岩壁の上部から、カラン、ガラガラッ……と何かが砕け落ちる涼やかな音が響いた。

 

「あっ! 何かが落ちてきたぞ!」

 

光の差し込む足元を改めると、そこには崩れ落ちた岩肌の隙間から転がり出た、拳ほどもある大きさの結晶体が二つ、静かに淡い光を放ちながら転がっていた。

 

スポロ博士が急いでそれを拾い上げ、解析器を当てる。

 

「これは……! 巨大な柱のエネルギー共鳴によって自然に剥離し、そこに溜まっていた純粋な『時結晶』のかけらじゃ! 柱本体を傷つけることなく、完全に独立した状態で手に入ったぞ!」

 

「やった……! 本当に時結晶だ!!」

 

「よかった……! これで、これで一歩前へ進めるね、将!」

 

ロボまるが飛び上がって喜び、将もまた力強くロボまるの肩を抱きしめた。

 

暗闇を照らす二つの時結晶の輝きを囲み、エレノアもアルベールも、ロゼンダも満面の笑みを浮かべる。

 

導かれるように手に入れた幸運な獲得に、一同は大きな喜びと確かな手応えをかみ締めるのだった。

 

 

 

無事に二つの時結晶を獲得した一行は、激しい冒険の舞台となった地下発掘場を後にし、再びルクーゼンブルク公国の城へと帰還した。

 

絢爛豪華な謁見の間。玉座に座す国王レオポルドの前で、皇太子が事の顛末と吉報を恭しく報告する。

 

「父上、奇跡が起きました。崩落の危険を冒すことなく、無傷の時結晶を二つ獲得することに成功いたしました!」

 

「なに……! 本当か!」

 

報告を受けた国王は思わず玉座から立ち上がり、その表情を歓喜に染めた。

 

「おお……素晴らしい! ドクター・ゼロの脅威を退けたばかりか、公国の宝たる結晶をもたらしてくれるとは。異邦の勇者たちよ、改めて心より感謝するぞ!」

 

喜びを爆発させる国王だったが、ふと表情をきりりと引き締め、顎に手を当てて思案を巡らせ始めた。

 

「……しかし、となれば急がねばならぬな。深層部への抜け道が存在することが分かった以上、あの発掘場の入り口を放置しておくわけにはいかん。

 

 悪意ある者が再び侵入せぬよう、厳重な封印と警戒態勢が必要だ」

 

国王の懸念に、皇太子は力強く頷いて前へ進み出た。

 

「お任せください、父上。直ちに国家予算の再編成を行い、あの小部屋の通路を含めた新たな『封印の扉』の建造プランを立てるよう、建設部隊に命じます。二度と過ちは繰り返させません」

 

「うむ、頼んだぞ」

 

王親子の頼もしいやり取りを見届けた後、一同の視線はテーブルの上に置かれた二つの時結晶へと向けられた。

 

公国の安全が確保されつつある今、次に立ちはだかるのは――この二つの時結晶をどう扱えば、将とロボまるを元の時代へ送り返せるのか、という問題だった。

 

「さて……問題はこの時結晶じゃな」

 

スポロ博士が眼鏡の位置を正しながら結晶を覗き込む。

 

「時結晶が時空を越えるエネルギーの鍵であることは間違いないが、ただ持っているだけでは元の時代へは戻れん。何か強大な『跳躍のきっかけ』が必要になる」

 

「跳躍のきっかけ……」

 

将は腕を組み、ふと思いついたように隣に立つエレノアへと視線を向けた。

 

「なぁエレノア。君のワイヤレスマイクに秘められた歌のことだけど……確か『三つ目の歌』が存在するんだろ? それには一体どんな効果があるんだ?」

 

グラビ・レクスタとの死闘の際、二つ目の歌が解放され、ファルシオンの能力を極限まで引き出した。

 

ならば、残された三つ目の歌こそが、時空を越える鍵なのではないかと考えたのだ。

 

問いかけられたエレノアは、大事そうに抱えていたマイクを見つめ、少し困ったように眉を下げた。

 

「うーん……メロディや曲自体は頭の中に浮かんできているの。でも……その歌がどんな力を持っていて、どういう状況になれば発動できるのかまでは、私にも分からないのよ……」

 

「曲は分かっているのに、発動条件が分からないのか……」

 

アルベールも首をかしげる。

 

「うーむ、実に不便なもんじゃのう」

 

スポロ博士が肩をすくめ、やれやれと首を振った。

 

「せめて発動条件のヒントぐらい、ひとつでいいから欲しいもんじゃわい。それさえ分かれば、わしの科学力で何とかサポートもできるんじゃが……」

 

元の時代へ帰るための決定的な手がかりを目の前にしながら、あと一歩のところで届かない。

 

「どんな状況で発動するんだろう……」

 

「何か特別な合図でもあるのかな……?」

 

謁見の間に集まった全員が、腕を組んだり腕を交差させたりしながら、「うん、うん」と唸って真剣に考え込んでしまう。

 

重苦しくも静かな思考の時間だけが流れていき――全員の思考が完全に行き詰まった、その時だった。

 

 

 

ピピピッ――! ピピピッ――!

 

静寂を破り、将の左腕に装着された『サモン・ガントレット』から、聞いたこともない緊急通信アラートがけたたましく鳴り響いた。

 

「うわっ!? なんだ、急にガントレットが……!?」

 

将が驚いて腕を持ち上げると、ガントレットの表示部から眩い光線が照射され、空中へと立体的な空間モニターが滑らかに展開された。

 

ノイズが走る画面の中に映し出されたのは――なんと、どこか見覚えのある大人の女性の姿だった。

 

「えっ……!? ロゼ……!?」

 

将が声を上げる。

 

だが、画面に映る女性は今のロゼンダよりも少し大人びており、落ち着いた知的な雰囲気を纏っていた。

 

何よりおかしいのは、本物のロゼンダは今、将たちのすぐ隣で目を丸くして立ち尽くしているのだ。

 

「ええっ!? な、なんで私が画面の中に映ってるの!? 私、ここにいるわよ!?」

 

混乱する一同に向かって、モニターの中の女性は優しく微笑み、静かに語りかけた。

 

「驚かせてごめんなさいね。……そう、私は30年後の『ロゼンダ』よ」

 

「さんじゅうねんごの……ロゼンダさん!?」

 

ロボまるが叫び、将も目を白黒させる。それはまさに、将とロボまるが元いた時代にいる「現代のロゼンダ」本人だったのだ。

 

「どうして……どうして30年後のロゼと、この時代のガントレットの通信がつながるんだ!?」

 

将の問いかけに、未来のロゼンダは頷きながら画面越しに語り継ぐ。

 

「あなたたちが今、手に入れた『二つの時結晶』……その存在が未来のこちら側と共鳴し、強い時空の繋がりを作り出したのよ」

 

「時結晶が……未来と繋がった!?」

 

「ええ。あなたたちが手にした二つの時結晶は、ただの鉱石じゃないわ。それは対となる性質を持った特別な結晶――

 

 ひとつが過去から未来へ進むための『時超結晶(じちょうけっしょう)』。そしてもうひとつが、未来から過去へ戻るための『時戻結晶(じれいけっしょう)』よ」

 

未来のロゼンダの説明に、スポロ博士が身を乗り出してモニターを凝視する。

 

「ほう……! 対となる時結晶じゃと!? では、その二つの力を合致させれば……!」

 

「そうよ、スポロ博士。この二つの時結晶の力を解放することで、時代を隔てる『時空ゲート』を作り出すことができるの」

 

「時空ゲート……! それがあれば、僕たちは元の時代へ帰れるんだね!?」

 

喜ぶロボまるだったが、未来のロゼンダは真剣な眼差しで「でもね」と言葉を続けた。

 

「ゲートを作るには、段階を踏む必要があるわ。まず『時超結晶』のエネルギーを使って、

 

 時空を繋ぐベースとなるゲートシステムを構築するの。と言っても、難しい建造物はいらないわ。対象が通り抜けられる『門』の形をした枠組みがあれば十分よ」

 

「門……城の門や、さっきの封印の扉のような枠組みがあればいいってことか!」

 

アルベールが納得したように声を上げる。

 

「そして……ここからが一番重要よ。ゲートの枠組みを準備したら、その前で『三つ目の歌』を捧げるの。

 

 ……それも、現在と過去の歌姫が完全にシンクロするように歌い合わせることで、初めて時を越える本物の空間が生まれるわ」

 

「現在と過去の歌姫が……シンクロ……?」

 

将は隣に立つエレノアを見つめた。

 

「過去の歌姫は……エレノアだ。でも、未来側の歌姫は一体誰が……?」

 

問いかける将に対し、画面の中の未来のロゼンダは、少し誇らしげに胸を張って微笑んだ。

 

「もちろん、私よ」

 

「ええええっ!? ロゼンダさんが歌うの!?」

 

まさかの返答に、現在のロゼンダ自身も「私が未来で歌姫に……!?」と口ぐちを挟んで絶句する。

 

「時を越える歌はね、単に上手く歌えば発動するわけじゃないの。

 

現在、過去、未来――いずれの時代においても『繋がり』が極めて大きい者同士が共鳴し合って、初めて真の力が解放されるのよ。

 

……私とエレノアだからこそ、今ここで時代を超えて歌をシンクロさせることができるの」

 

未来のロゼンダの言葉には、長い年月を経ても変わらない強い絆と確信が満ちていた。

 

「仕組みは理解できたわ……! 歌姫同士の共鳴が、時空を開く最後の鍵なのね!」

 

エレノアがマイクを強く握りしめ、力強く頷く。

 

「ええ。だから将、ロボまる、みんな……まずは『時超結晶』を使って、時空ゲートのベースを作ることから始めてちょうだい!」

 

未来からの決定的な導きを受け、行き詰まっていた一同の瞳に再び情熱の炎が燃え上がった。

 

「よし……やるべきことが見えたぞ! ロゼ、ありがとう!」

 

「待ってるわよ、将、ロボまる。……絶対に、元の時代へ帰ってきなさい!」

 

パッとノイズが走り、空間モニターが静かに消える。

 

謁見の間に残された一同は、お互いに顔を見合わせると、迷いのない力強い頷きを交わしたのだった。

 

 

未来のロゼンダから時空ゲートの仕組みと作戦を聞かされた一行は、早速行動を開始した。

 

建造の舞台となったのは研究所の裏庭。

 

アルベールが緻密な設計図を引き、ルナ・クレストで大破した「封印の扉」の特殊な素材を再利用することで、

 

頑丈なゲートの枠組みが組み上がっていく。完成したばかりの数体のロボポンたちも力仕事を買い出て、現場は熱気と活気に包まれた。

 

 

数日後――。

 

「遂に完成だ!!」

 

アルベールの晴れやかな宣言が響き渡り、作業を見守っていた一同から「ワッ!」と歓声が上がった。

 

 

 

 

その日は無理をせずしっかりと身体を休め、いよいよ時空ゲートを起動する決戦の朝を迎える。

 

将がサモン・ガントレットを素早く操作すると、空中へ滑らかに空間モニターが展開された。

 

『待っていたわ、将』

 

画面の向こうでは、未来のロゼンダが変わらぬ落ち着いた笑みを浮かべて待機していた。

 

「よし、早速始めましょう」

 

合図に応じ、エレノアとロゼンダがそれぞれの時代でゲートの前に立つ。

 

『シング・ア・ソングシステム……起動……』

 

 

電子音声と共に、

 

 

――【SING A SONG-LINK SYSTEM(歌声同期機構)】――

 

 

が始動した。

 

 

Sing a Song 『For little tail』

 

 

 

時空ゲートの頂点に設置された「時超結晶」が眩い輝きを放ち、光の粒子が周囲へと散布される。

 

 

舞い散る光はエレノアの身体を優しく包み込み、まるで光の渦となってゆっくりと旋回を始めた。

 

空に浮かぶ雲に乗って

終わることのない旅へ行こう

 

 

時を同じくして未来の世界――。

 

揺れる風になって眠る月の夜は

煌めく星になってあなたを見つめてる

 

大人になったロゼンダもエレノアとお揃いのワイヤレスマイクを身に着け、力強く、そして温かな歌声を奏で始める。

 

闇のとばり静けさの中始まる

忘れかけた夢追いかけて行く旅

 

二人の歌姫が紡ぐ旋律は、時代と時空の壁を越えて交互に美しく交差し、溶け合っていく。

 

ザビアツタ 時を越えて

ザビアツタ 時を越えて

 

ザビアツタ 熱く燃えて

ザビアツタ 熱く燃えて

 

遥かかなた…

地平線に…

 

やがて歌が最高のクライマックス(ピーク)を迎え、静かに余韻を残して歌い終えた。

 

ザビアツタ 時を越えて

ザビアツタ 時を越えて

 

ザビアツタ 熱く燃えて

ザビアツタ 熱く燃えて

 

 

今燃え上がるあの朝日のように

今燃え上がるあの朝日のように

 

「ふぅ……っ」

 

エレノアがホッと安堵の息を漏らす。

 

 

その瞬間、時空ゲートの門の先には、渦巻く異次元空間が確固たる道となって固定されたのだった。

 

 

 

そして――ついに訪れた、切なくも温かい別れの時。

 

「エレ、アル、ロゼ、スポロ博士。未来でまた逢おう!!」

 

 

絆を確かめ合うように最後の言葉と挨拶を交わした将とロボまるは、

相棒であるバハムートチェイサーとグリフィード・ガルーダに乗り込み、

光り輝く時空ゲートへと飛び込んでいった。

 

眩い光のトンネルを抜け、二人が辿り着いたのは深い森の中だった。

 

すぐ近くには、静かに佇む木造建築の一軒家が見える。

 

「……おかえりなさい」

 

二人を出迎えたのは、30年の時を経て気品ある大人へと成長したロゼンダだった。

 

 

そしてその傍らには、もう一人の人物――。

 

「30年ぶり……あなたにとってはつい最近のことだと思うがな……」

 

深みを増した声で微笑む、成長したアルベールの姿があった。

 

だが……そこにいるはずのエレノアの姿だけが見当たらない。

 

「エレノアは……? エレノアはどこにいるんだ?」

 

尋ねる将に対し、アルベールとロゼンダは悲しげに視線を落とし、沈黙してしまう。

 

重苦しい空気の中、一軒家のドアが開き、スポロ博士が姿を現した。

 

 

スポロの手に握られていたのは、一通の手紙だった。

 

静かに渡された手紙に目を通す将。

 

そこには、エレノアからの切切たる思いが綴られていた。

 

 

自身が重い病に侵されていること。将たちが現代に戻ってきた頃には、

もう生きて会うことは叶わないであろうこと。

 

そして、別れから数年間後、「ある目的」のために2体のロボポンを修復し、

 

新たな「IS(インフィニット・ストラトス)のアーマー」を設計していたことが書かれていた。

 

ロボポンの修復は完了したが、再稼働などの最終仕上げとISの設計図をアルベールたちに託したこと。

 

もう何もしてあげられない自分に代わって、これがアルベールたちの助けになることを願っていると――。

 

 

 

「全部、エレノアが自分で考えて決めた結果じゃ……」

 

「……あの子、私たちに何も相談してくれなかったのよ」

 

 

スポロとロゼンダは、溢れ出る涙を堪えるように胸を痛めて呟く。

 

 

「将、私はエレノアから託されたこの『IS』を必ず完成させる」

 

「ワシもフランスに同行して、アルベールを手伝うことにするわい」

 

 

二人の強い意志と誓いの言葉に、将は静かに、しかしまっすぐな目で頷いた。

 

 

話題は、将たちが向かうべき「現代のIS学園」の状況へと移る。

 

スポロ博士によると、学園は修学旅行中に謎の組織「亡国機業(ファントム・タスク)」からの襲撃を受けたという。

 

激闘の末に戦闘自体は何とか退けたものの、

代表候補生の一人がスパイであることが発覚し、

もう一人の代表候補生が亡国機業側へ寝返ってしまったらしい。

 

さらに追い打ちをかけるように、

宇宙から未確認生物を含んだ隕石が地球へと接近しているという危機的情報が入っていた。

 

将とロボまるは急ぎ学園へと合流し、未確認生物の迎撃任務に向かうことが決まった。

 

 

大空を切り裂き、日本のIS学園を目指して飛行する将とロボまる。

疾風を切る音の中、将の脳裏には出発直前にアルベールから掛けられた一言がリフレインしていた。

 

(『私たちの娘を……よろしく頼む……』)

 

首をかしげながら通信を入れてくるロボまる。

 

「アルベールさん、あんなこと言ってたけど……一体誰のことなんだろう?」

 

「……一人いるだろ。あいつらと同じ『苗字』を持ってる奴がさ」

 

「あ……あーーーーーっ!! そうだったーっ!!」

 

『シャルロット・デュノア』――。

 

その名を思い浮かべた瞬間、ロボまるの頭の中で、シャルロットの面影とどこか重なるエレノアの笑顔が鮮明に結びついた。

 

「はあ、帰ってきたら一体どうなることやら……」

 

呆れ交じりにぼやく将に、ロボまるも「本当だよねぇ……」と深々と同意するのだった。

 

進路を一路、日本のIS学園へ。

 

激動の現代へと戻ってきた二人を、更なる大波乱が待ち受けている予感がしていた――。

 

NEXT…

 

 

 

 




NEXT

無事に帰還した将とロボまる。

早速、待っていたのは宇宙からの侵略者の到来。

対抗できるのはIS、学園は戦力を集結することになった。

そして、集まってくるメンバーが個性的なパイロットばかり……

果たして、将達とはどのような出会いが待っているのだろうか……

NEXT EP19「邂逅・俺達のアーキタイプ・ブレイカー・始り」
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