されどまだ王女と王子は生き残っている。
ならばこそ今度こそ守り抜こう。アリステラ王家の一人の騎士として。この幼い新たな主たちを。
よろしくお願いします。
かつては『神童』と謳われた。
最年少でアリステラ王家の近衛騎士隊に選抜され、王家の脅威から守る盾となり、外的を排除する剣となる資格をわずか13歳という年齢で与えられた。
『トリガー』と呼ばれる武器を手に、『副作用』と呼ばれる能力を使って、主を守る覚悟を決めたつもりだった。
それなのに。
あの日。
たった一日で幼い覚悟はあっけなく崩れ去った。
「この度は、近衛騎士としてあるまじき不始末。申し開きようもございません。アリステラ王国も、国王もお守りする事はかなわず。同志たちが王家の為に命を散らす中、私は生き残ってしまいました。申し訳ございません、姫様。どうか今は亡き国王に代わり、罰をお与えください」
明るいブロンド色の髪を結った、まだ幼さが残る端正な顔立ちの少年が一人の少女の前でこうべを垂れている。
ここはアリステラ王国の同盟国である
アリステラ王国は先の戦争で侵略者たちによって滅ぼされた。
軍は壊滅し、近衛隊も犠牲になり、国王も殺され、アリステラ王国はかろうじて王女・王子が二人の生き残りの兵士と共に
だが、それだけだ。
栄華を誇っていた王国は滅亡した。共に鍛えた仲間は戦火に散り、忠誠を誓った仕える主はこの世にいない。
もはや名誉も誇りも残っていなかった。
せめて近衛騎士として責任を取らせてほしいと、少年は平身低頭し、若い王女へと嘆願する。
「——なりません。何故あなたが責を負う必要があるのですか」
しかし王女は罰を与えることをよしとしなかった。
胸に抱きかかえるまだ生まれて間もない王子を一瞥し、目の前の騎士へと言葉をかける。
「あなたは、私とこの子を守り抜けという王命を果たしたのです。罪があるならば罰しましょう。しかしアリステラ王国最後の功績をあげた功労者をどうして裁けましょうか。もしも国王がこの場にいればあなたにはきっと褒章が与えられたことでしょう」
それは少年にとっては何よりの褒章だった。
国王がなくなった今、主君は目の前の少女となる。
その少女から認められ、国王に代わって戦いの功績をたたえられた。
思わず目頭が熱くなるのを感じる。
「何よりも今私たちには真に頼れる相手はもうあなたとミカエルしかいないのです。あなたがこの度の結末を真に悔いているならば、より一層励んでください。——お願いします。我らの
どうか今一度私達の力となって守ってほしい。
王女は目の前の少年——アレン・バトラーへと助力を願った。
アレンも若いが王女はさらに若い11歳だ。本来ならばまだ少女として平穏な暮らしを送っていたはずなのに、王女として振舞おうと努めている。
そんな彼女の願いをどうして断れようか。
「——
アレンは力強くその願いに応じるのだった。
「ありがとう。——では行きましょう。クローニンが林藤や忍田と話をつけているはずです」
再び騎士の協力を得て、王女は新たな道へと歩みだす。
王国は滅んだ。だがまだすべてが終わったわけではない。
王家の血筋は残っており、二人だけとはいえ忠臣も健在だ。
ならば先の光を信じて歩き出そう。
共闘を約束した同盟者たちと共に。
♦
あの誓いから約5年という長い月日が経った。
この世界にわたって大きな戦いもあり街は多大な犠牲を出したが、今はその傷も癒えてきた。
『——アレン先輩、唯我の援護に向かえますか!?』
後輩の焦った声が脳裏に響く。合同防衛任務についている出水の声だ。A級という精鋭部隊の一位に君臨する実力者である。
彼からチームメイトの救援を依頼されたのだが、ブロンドの長髪を後ろで束ねた少年・アレンはその声に首をかしげた。
「唯我君の? あれ、出水君。
『太刀川さんは敵の新型見つけてそっちに突っ込んでいきました!』
「ああなるほど。了解。じゃあ国近。唯我のいる場所を教えてくれ」
『はいはーい。ちょっと待ってねー』
しばらくして唯我がいるマップが眼前に表示された。
案の定、逃げる唯我を追いかけるように二体のトリオン反応が観察できる。
「少しは彼も戦える力を身に着けてもらいたいのだが。——まあ無理か」
唯我もA級の隊員であるとはいえコネで強引に入隊したという事情を持っていた。
そのため他のA級隊員と比べると力の差は歴然だ。下手すれば一つ下のB級隊員と比べても見劣りするだろう。
彼より弱い正規隊員と訓練して少しずつ自信をつけてもらうしかないか。いやしかしそんな都合よくそんな隊員が見つかるだろうか。
そんな的外れな事を考えつつ、アレンはトリガーを起動。すると彼の足元が眩く光り輝き始めた。
「エスクード」
地面からせり上がったのは巨大な壁。
あらゆる攻撃を防ぎきる硬度を誇る盾は、今回は使用者であるアレンを打ち出すカタパルトとして出現した。
すさまじい速度で空中へと打ち出されたアレン。すぐに彼はネイバーから逃げる唯我の姿をとらえた。
「ぎゃああ! 助けて太刀川さん!」
「……出水君。唯我君は太刀川の助けを求めているようだけど、こちらの救援はやめた方が良いかな?」
『そんな事言わないでくださいよ! 太刀川さんが戻る間に絶対あいつ落ちますって!』
「まあそうだよね。仕方がない」
冗談交じりに出水と談笑を交えつつ、アレンは左手に彼の主要武器の一つ・レイガストを起動。身を覆うほどの盾を形成させるとさらにもう一つのトリガーを起動する。
「スラスター」
レイガストのオプショントリガー・スラスターだ。
盾に強大な推進力が生まれ、アレンは一時的に方向転換しながら加速。暫間的な飛行を行い、唯我を襲おうとするモールモッドに接近する。
「唯我君、伏せて」
「えっ。——おわああ!?」
忠告の直後、唯我へと振り下ろそうとしていたモールモッドの足を盾で防いだ。
さらに防御を崩さんともう一本の足が盾を襲うがレイガストを防ぐには至らない。
攻撃を防いだアレンは反撃と言わんばかりに盾をはじき、モールモッドを押し飛ばした。
すると後ろから並んで追ってきたもう一匹のモールモッドもアレンへと狙いを定めたのか突進してくる。
迎え撃つアレンはレイガストを展開したまま、今度は右手に大きな剣である弧月を起動。居合の構えを取り、
「旋空弧月」
弧月のオプショントリガー・旋空が二体のモールモッドを一刀両断した。
♦
任務を終えたアレンはボーダー本部のある部屋へと向かっていた。
上層部の人間と、ごく一部の人間しか知らないその場所は限られたもののみが入室を許可されている特別な場所。
その一人であるアレンは指紋認証を終え、扉を開けるとソファに腰かけている部屋の主へと帰還を告げる。
「ただいま戻りました、瑠花お嬢様」
「あら。早かったわね、アレン」
「おかえりなさい。瑠花ちゃんと待っていたわよ」
「沢村さん。瑠花嬢の身の回りの世話、ありがとうございます」
部屋の中にいたのは彼の主——今はこの世界での生活のために上層部の人間の親戚として改名した忍田瑠花だった。
その隣にはお目付け役兼世話係として滞在していた沢村の姿がある。
沢村や瑠花は従来ならば上官である忍田本部長の補佐を務めているのだが、時間があるときは二人はこうしてこの部屋で時間を共にしているのだ。
二人の前に立つとアレンは小さく会釈する。
「それではアレン。あなたも用意をして。あなたの準備が終わり次第、出発しますよ」
「わかりました。すぐに支度をします。今日の運転は私の方でよろしいでしょうか?」
「ええ。私もついていくから、今日はアレン君にお願いって忍田本部長も言っていたわ」
「承知しました。ではただちに」
運転手が自分の仕事となるとなおの事急がなければならない。
アレンは3分ほどで素早く身支度を整え、身嗜みを直して二人の前に立った。
「お待たせしました。今日は楽しみですね、瑠花お嬢様」
「そうね。先週は会えなかったから二週間ぶりかしら? ——陽太郎も元気にしてくれていると良いのだけれど」
行先は瑠花の弟——今は改名して陽太郎となった彼が住む玉狛支部。
会えない時間が続いていた瑠花は弟との再会に胸を弾ませる。そんな主君の年相応の姿を見て、アレンもつられるように穏やかな笑みを浮かべるのだった。