提督が秋雲に部下が卑猥な目に遭う漫画を描かせるような鎮守府で起きた珍事件。
ある日、瑞鶴は加賀の部屋でとあるものを見つけてしまう。そして……
*加賀さんが酷い目に遭います。特殊タグ、絵文字使用。瑞鶴の語りで物語進行。
「五航戦、戦場でくらいシャキッとなさい」
まさか…信じられるはずもない。
「もう少しまともな話は出来ないの?はぁ、程度が知れるわね」
あの冷血鉄仮面青鬼娘こと加賀さんが…。
「戦場で気を抜いたら自分だけでなく味方まで危険な目に遭わすことになるわ。特にあなたは戦場に限らずいつも気が抜けているから尚のことね、しっかりなさい」
あの加賀さんが……。
「五航戦、食事中くらい黙りなさい」
加賀さんが、まさか
罵倒されることが大好きなマゾヒストだったなんて…!
あれはそう、一昨日のことだ。加賀さんに用があって、でも部屋にはいなくて…。ちょっと悪いとは思ったけど、少し待たせてもらおうと部屋に上がらせてもらったのだ。
「はあ、やっぱり部屋もしっかり整頓されてて…加賀さんらしいなぁ」
真面目で気高くて、他人にも厳しいけど、自分自身にはさらに厳しい。それが加賀さんだ。あ、気難しくて、頑固ってのも付け加えとく。
「ちぇっ、つまんないの~」
実を言うと、加賀さんの部屋を訪ねるのはこれが初めてだったので、もしかしたら部屋が汚部屋だったりしないかなと期待していたのだけれど。やはりあの人に限ってそんなことはなかった。
「…ちょっとだけなら」
でもやっぱりそれは悔しい。なんかムカつく。完璧な加賀さんにだってなんか弱点はあるはずだ、そう思って少しだけ部屋を物色してしまったのだが、それがマズかった。
「…あれ、これって秋雲が描いてる奴じゃないの?」
年季の入ったクローゼットの扉を開け、中を見た。いつも加賀さんが着ている服がところ狭しと収納されていたので、加賀さんのいい匂いが香ってまるで抱きしめられているような感覚に陥り、思わずしばらくその余韻に浸ってしまった。そしてなんか無断で部屋を荒らしているのに罪悪感を感じて、もう止めようとした…そんな時、私はクローゼット内の変な隙間に気が付いてしまったのだ。つい数秒前まで止めようと思っていたはずなのに、ゴクリと喉を鳴らして私はその隙間へと手を伸ばし、そこから大きな茶封筒を取り出した。茶封筒は分厚く、意を決して中身を見ると数冊の雑誌のようなものが入っていた。
「へえ、加賀さんも漫画見るんだ……え?」
茶封筒から取り出したものを見て、加賀さんみたいな人が漫画読むんだなんて呑気に思っていたら、強烈な違和感が生じた。あれ、秋雲が描いてるやつって確か…。
「………」
ゴクリと唾をのんだ。秋雲が描いている漫画を加賀さんが読んでいる、それはかなりおかしなことなのだ。少し話は変わるが、実はこの鎮守府では数か月前にとある事件が起きていた。ここの提督さんはあろうことか秋雲に卑猥な内容の漫画を作らせていたのだ。しかもそれがこの鎮守府に所属している娘をそのまんま題材にしたものらしく、かなり内容はエグかったようで…。その娘の姉妹艦が偶然、机の上に漫画が置きっぱなしになっているのを目撃しちゃって、提督さんはボコボコにされたのだ。でも秋雲は特にお咎めなしで、今でも普通に漫画を描いては裏ルートで提督さんに漫画を供給しているとかどうとか…。
「こ、これも…」
手元のどの雑誌を見ても、表紙にはオータムクラウドとある。これはつまり、黒ってこと?
「それに…これって全部加賀さん?というか…!」
茶封筒から取り出した時にすでに強烈な違和感があったのだが、それはそうだろう。だって、全部の表紙に加賀さんが描かれているのだから…!しかも…それだけじゃなくて、これって私!?
「…み、見ていいかな?」
その場に誰も居ないはずなのに胸はドキドキして痛いくらい。何度も室内を見回して、震える指で漫画を捲る。だって加賀さんだけでなく、私まで登場しているのだ…!しかも少なくともここにある漫画その全てに…!少しだけ、少しだけ見るつもりだった。
「だ、だめよ、五航戦…!こんなところで…!」
「ん?加賀さん、そんなこと言っていいの?それに私のことは何て呼ぶんだっけ?」
「あっ///…!ごめんなさいっ///」
「ほらほら、何て呼ぶんだっけ?早くしないと赤城さん来ちゃうんじゃない?」
「んっ///…そ、それはあ♡♡♡」
「あーあ、なんかもうつまんないな~。私はこんなに尽くしてあげてるのに、加賀さんは五航戦としか呼んでくれないんだねぇ」
「ち、違うわ…!呼ぶ、ちゃんと呼ぶから…!」
「…だったら早く呼びなさいよ、この生意気な空母!」
「あ、ああッ♡♡♡!!は、はいぃぃ、ご主人様♡♡♡!!!」
「いつもいつも口うるさいのよ、ダメダメ一航戦のくせに!」
「ごめんなさいッ♡♡♡!!ごめんなさいッ♡♡♡!!」
「………」
私はそっと開いていたページを閉じた。なんでだろう、壁に掛けてある時計の針の音がいつもより鮮明に聞こえてくる気がする。
「…加賀さん」
なぜ私なのだろう…。漫画の中でいつも仏頂面の加賀さんがその表情を歪めて私のことを見ていた。見たこともないくらいのだらしない顔だった。
「…誰かいるの?」
「…五航戦、なにして」
そこで加賀さんの言葉は途切れた。彼女の視線は私の手元にある漫画に注がれていた。
「…あなた、人の部屋で何してッ!」
少し間があいて、加賀さんは叫んだ。顔が赤いのは怒ってるからだろうか、それとも…。
「…うるさいのよ、ダメダメ一航戦」
「…!」
ふと、気が付いたらそんな言葉が出ていた。なんだかんだ言って尊敬出来る、自慢の先輩に向かって私は暴言を吐いた。
「…感じるんでしょ?私に悪口言われると」
「………」
加賀さんは黙っていた。怒っているような、悲しんでいるような、よく分からない表情を浮かべていたけど、いつも無表情の加賀さんばかり見てたからそれは新鮮だった。だから私はずっと見つめていたのに、加賀さんは俯いてしまった。
「…五航戦じゃないでしょう?私のことは何て呼ぶの?」
「………」
どことなく加賀さんの肩が震えているように見えた。そして今まで鮮明に聞こえていた時計の針の音に代わり、加賀さんの激しい息遣いがよく聞こえた。
「加賀さん」
「………」
ようやく顔をもたげた加賀さんの表情に私は見覚えがあった。おかしいな、いつの間に私は漫画の世界に入り込んだのだろう。
「加賀さん、言って?」
「………ぁ」
随分と小さくなってしまった加賀さんの体を抱きしめて、今度は彼女の耳元で囁いた。ピクリと揺れた体はやがて私の体にしっかりと密着してきて、温かさが伝わってきた。
「…ご主人様」
蚊の鳴くような小さな声でそう言った加賀さんを強く抱きしめる。それでもう一度加賀さんの顔を拝もうとしたけど、それは出来なかった。
「…♡」
加賀さんの最後の照れ隠しだろうか、びっくりするくらいの力で抱きしめてくる…それこそ彼女の顔を見れないくらいに。でも、それはそれでいいかもしれない。
「ご主人さまぁ♡♡♡」
もう加賀さんの顔を見なくてもその表情は見れるのだから。