八幡に天の鎖もどき持たせて、シンフォギアに放り込んでみた 作:シャルルヤ·ハプティズム
ep1
2035年、北海道山間部。
3月になっても雪が解けない北海道の山々。普通なら到底踏み入ることも躊躇われる場所に、その施設はあった。銀世界にとけ込まないその施設は、日本政府が極秘裏に建造したものである。しかし今、その建造物は黒煙を纏っていた。
バチ、バチ、と音を立てながら火の粉が撒き散らされる。天井は瓦礫と化して崩落し、天井だった所からは断線したケーブルが垂れ下がっていた。
そんな、凡そ人のいるべき場所ではない所に、少年────
少年の左目に、『彼』は映った。
長い翠の髪をたなびかせ、この場所に似つかわしくない白き衣。柔らかな笑みを浮かべる、美しい翠の人。彼が現れた瞬間、周囲を取り巻く炎が退いた。少なくとも、八幡はそう認識していた。天使か救世主かにさえ見えた。
彼は八幡の側まで歩み寄ると、薄い唇を開いた。
「君に、生きる意志はあるかい?」
第一話「ウツシヨに楔あり」
2038年、東京。
「ノイズを確認しました。指示をお願いします」
13歳の少年、比企谷八幡はライフルのスコープから、ソレを視認した。
ノイズ。国連指定の認定特異災害。どこからともなく現れる、蛍光色でチープな見た目、大きさも形も多種多様なバケモノ。しかし、ノイズが特異災害である由縁は、神出鬼没さでも大きさでも形でもない。
ノイズは、人間を
もっと具体的に言うと、ノイズと接触した人間は肉体を、服ごと炭素に変化させられるのである。組成分子が丸ごと炭素に変化したという、脅威的な論文まである。
この現象によって、ノイズは認定特異災害にせしめられたのである。
『了解した。八幡、狙撃しろ!』
「はい」
八幡は、20体近くいるノイズの中の一体に照準を合わせ、引き金を引いた。
ノイズには既存の兵器がその威力を発揮しないという特徴もあった。一部の機関で『位相差障壁』と呼ばれるそれは、銃弾や爆弾などの威力を大幅に減少させる。それは日本に留まらず、ノイズを研究する各国でほぼ同じ結論が出ている。
アメリカでは、ノイズが大量に出現した折に完全消滅させるのに核兵器まで投入したほどである。
だが、八幡のライフルから放たれた閃光──ビームは、直撃したノイズをいとも容易く炭素の塵に変えた。
「位相差障壁の無効化を確認。司令!」
八幡に指示を送る赤シャツの偉丈夫、
『了解した。翼!』
『はい!』
インカムから翼と呼ばれた少女の返事が聞こえると同時、空から降り注ぐ無数の短刀がノイズの一群を瞬く間に撃滅した。
『ノイズの反応、消滅しました』
『よし。回収班を送るから、八幡と翼は帰投してくれ』
『「分かりました」』
オペレーターの一人、友里あおいは、コンソールからノイズの反応がなくなったことを報告する。その旨を受けて、弦十郎は撤収命令を出した。
「司令からは、どう見えたんですか?」
『上々だな、
ここは特異災害対策機動部二課。位相差障壁や炭素化を無効化する、『シンフォギア』という対ノイズに特化した試作兵器を運用・研究する政府直轄の特殊部隊である。
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「2人ともお疲れ様〜。シンフォギア、どうだった?」
二課の本部に帰投した年少の戦闘員を迎えた女性、櫻井
八幡の後ろから控えめに顔覗かせる八幡の一つ歳下の少女、風鳴翼は、自身の人見知りに耐えながら答えた。翼は、了子の明るさとおしゃべりに圧倒されるため、少しばかり了子が苦手だった。
「い、いい感じでした······。前よりも動き易かったです。
「位相差障壁問題なさそうだし、翼の攻撃も、前より火力が増強されてたと思いますよ。了子さん」
風鳴翼。彼女は、この組織で唯一のシンフォギアを担うに足るとされた人間である。先程のノイズを一掃した攻撃も、この少女によるものだった。
また、司令である風鳴弦十郎の姪でもあり、この組織では、幼くして弦十郎や了子に次ぐ重要人物である。
「うんうん。これなら制式配備も問題なさそうね。じゃ、2人ともメディカルチェック行くわよ〜」
「「えぇ······」」
「なーに言ってるのよ。帰投後のチェックは義務だって毎回言ってるじゃないの」
翼と八幡の返答に満面の笑みを浮かべた了子は、メディカルチェックを嫌がる2人を、医務室に強引に引っ張っていた。
「······そういや、聞いたか。調査部が『イチイバル』見付けたって話」
チェックが終わり、後は帰るだけになった八幡はおもむろに切り出した。
「······おじ様が就任する直前の、あれ?」
同じく手持ち無沙汰だった翼の疑問に頷く八幡は更に続ける。
「そうそう。クソジジイの失態で盗まれたあれ。裏ルートで転売繰り返されてたんだと」
八幡の言う『イチイバル』とは、翼の操るそれとは別で研究されていたシンフォギアのコアに当たるものである。4年前に何者かの手で盗難に合い、責任を追求された前司令が更迭されている。
「俺がイチイバル使えればなぁ······」
「八幡は『ガングニール』の起動に貢献したし、エンキドゥもあって十分じゃないの?」
『ガングニール』もまた、二課が保有するシンフォギアのコアに当たるものだ。
「使えなきゃ意味ないだろ······」
溜息を吐く八幡に、翼は不満げな視線を送るだけだった。
八幡は、『エンキドゥ』というものを有している。それは3年前の研究所事故の際に起動し、幾度ものゴタゴタの末に八幡の保有が決まった、シンフォギアとは別の······対ノイズに効果ありと目される二課が研究している兵器である。しかし、エンキドゥは実戦投入を可能にする量のエネルギーを維持出来ず、投入が見送られていた。『ガングニール』のシンフォギアも同様である。
その代わりに八幡は、ビームを打てるライフルを片手に、シンフォギアを操る翼の支援を担当することが決定している。翼がシンフォギアで位相差障壁を無効化し、2人でノイズを殲滅する。聞こえはいいが、裏を返せばノイズの位相差障壁の無効化は翼にしか行えない、というのがこの組織の実情だった。
そうやって、喋りながら2人で帰路につこうとした矢先、慌てた様子で了子が呼び止めた。八幡と翼は、了子の表情にただならぬものを見た。
「2人とも、来て!」
司令室に駆け込んだ3人を待ちわびたかのように、弦十郎が話し出す。司令室には、既にオペレーターや諜報員、回収班の班長などが集合していた。
「全員揃ったので説明を始める。30分前、ノイズの大量発生が確認された。場所は長野県皆神山。確認された数は······100体を超えた」
「100体!?」
100を超えるバケモノの出現。弦十郎の発言は司令室をどよめきで満たすには十分だった。ノイズの出現率は、決して高いわけではない。世間では、通り魔に合う方が現実的、と言われるほどだ。先の戦闘では20体近く現れたが、それでも多い方である。それが、100体。観測が始まってから、ノイズが3桁を超す大量出現は、3度しか確認されていない。そして、それは全て日本国外の話である。
皆神山は皆神神社を初めとした観光地であり、例年多くの観光客が訪れている。そして、今日は土曜日。時刻は午前9時。梅雨はとっくに明けている。山頂まで車で登れる山だ。雨が降っていてもほとんどの観光客は引き返さない。
「政府は、この事態を重く受け止めシンフォギアによる介入を決定した」
「待って弦十郎君! 2人のメディカルチェックはさっき終わったばっかなのよ! それに、シンフォギアはまだ実戦投入出来ないはずじゃ······」
了子の発言に、弦十郎は首を横に振った。
「政府は、なんとしてもシンフォギアを投入したいらしい。広木防衛大臣からの通達だ。なにしろ、今さっきシンフォギアの実戦投入が国会で決定したからな。かなり強行的だったらしいが」
「なっ······」
この場にいる誰もが、裏があることに気付いた。試作兵器シンフォギアの開発には巨額の税金が投入されている。金食い虫とバカにされてきたこの兵器の配備賛成派は、今回の対処を手土産に反対派を黙らせたいのだ。
「これが、俺達二課の初任務になる。各自思うところは多いだろうが······本番だ! お前達、気を引き締めてかかれ!」
『はいッ!』
異口同音。予定外の形になってしまったが、組織はずっとこの日のために備えてきた。各々が持ち場につくべく蜘蛛の子を散らすかのようにばっと走り出す。
そんな隊員達を見送りながら、弦十郎は八幡と翼に問いかけた。
「翼、八幡······連戦になるが、行けるな」
緊張感で体を強ばらせながらも、未成年の隊員達は弦十郎に向き直った。
「問題ないです」
「行きます、おじ様!」
2人は、揃って迷いなく告げる。年少の返答に、弦十郎も司令として覚悟を決め直した。
そして、己と彼らへの鼓舞をすべく叫んだ。
「頼んだぞ、お前達ッ!!」
「「はいッ!」」
これが、八幡と翼の長きに渡る戦いの連鎖の始まりだった。
作者のカルデアにはギルもエルキドゥもいないことをここに報告しますorz
あと、感想くだせぇ。
9/9 加筆修正しました。