八幡に天の鎖もどき持たせて、シンフォギアに放り込んでみた 作:シャルルヤ·ハプティズム
UAが一万超えました。ありがとうございます!
11月も終わりに差し掛かったある日。奏は、弦十郎に呼び出されていた。
「······なんだよ」
弦十郎の家に呼び出されたあの日から、奏はイマイチ調子が良くなかった。エンジンの調子が上がらない。
「奏君。君が調子が出ない理由、そろそろわかっただろう」
傍から見る誰もがそれに気付いていたが、誰も口に出しはしなかった。
「映画一つ、言葉一つでメンタル崩されたあたしを、笑ってんのか?」
自分の中から湧き上がる、ノイズへの殺意。あの日から、それが鈍くなった。日を追うごとに、それは顕著になりつつある。
「そういうつもりじゃあないさ」
弦十郎が奏の目を見れば、奏は弦十郎から目を逸らした。
「······あんたは。いや、任務行ってるウチにあたしは、自分が情けなくて怖くなった」
両手をぎりりと握りしめて、歯噛みした。歳下にフォローされる自分。歳下に諌められる自分。ちょっと頭が冴れば、そういうものを客観的に見渡せるようになる。
ノイズ憎しで戦っていた奏だが、人間の感情は、元来長続きするようなものではない。風船のように突然膨らんだり破裂したりもするが、反対に萎みもする。長期間同じ感情を維持し続けられる体力を持っている人間などほとんどいない。奏は、その極一部には入れなかった。
最近だと、それがシンフォギアに出力にまで影響を出し初めている。仔細を理解しようとは思わなかったが、了子曰く、シンフォギアの出力には感情も影響するらしい。
「あたしが戦ったあと、荒れてるだろ」
弦十郎は、奏の戦闘を思い浮かべた。周囲の被害を考えない戦いは、ノイズ以上に周囲を攻撃したことも、何度もある。弦十郎は、人的被害が出ない限りは奏が自分で気付くまで待つつもりだったが、奏は、誰かに入れ知恵されて初めて気付いたのだと気付いた。
時は更に遡って11月半ばのこと。
この日も衝動のままに戦っていた奏は、何度目かも分からない、翼と衝突した。
「あの、天羽、さん。今みたいな戦いは······」
「······何だよ」
マトモに言い返す気力も出ない奏は、翼を睨み返した。
この日、4日ぶりの出撃の翼。一方の奏は、タイミングのズレで皆で映画を観た日以来の出撃だった。奏の通っている学校は翼の学校と違い二課の本部から遠いし、八幡のように頻繁にサボっているわけでもないため、昼間の招聘は2人よりも時間がかかるためだ。
翼は覚悟を決めて、どもりながらも自分の意見を叩き付けた。
「······あの、妹さんを失って辛い、のは分かる、けど」
「お前に何が分かるんだ!」
「分からない!」
「あぁ!?」
奏は、自分の気分を逆立たせる翼の物言いに、殺意さえ沸いた。が、翼は今まで以上に怯まなかった。
「分からない、けど······」
「だったらぁッ!」
「けど! そんな感情で戦っても、自分を見失うだけだよ······!」
翼の言葉は、今の奏にはあまりに強烈すぎた。
「見失うって、なんだよ。じゃあ、あたしは、なんなんだよ······。あたしは、もう、これしか······!」
座り込む奏に、翼はそれ以上何も言えなかった。翼は、奏と似たような境遇の人間を知っていたが、そちらにも何も言えていなかった。所詮普通の13歳、今の奏へ何かを語る力は持ちえなかった。
それでも、翼の言葉は、奏を大いに揺すぶった。
「あんたは······あたしは、どうしたらいいんだよ。あたしは破壊するような戦いしか出来ない。わっかんねぇよ!」
ぽろぽろと涙を零す奏の背を、弦十郎はたださすり続けた。弦十郎は、大人として、泣くことの大切さを忘れないよう自分自身へ誓った。
(今は、泣け。涙が自分を守ってくれる)
奏が泣き疲れて、死ぬように眠り込むまで、弦十郎は隣にいた。
12月も下旬に差し掛かった頃。八幡と奏は、2週間前の任務で押収された聖遺物の一部を、公安から引き取るため派遣された調査部の護衛に付いていた。調査部の面子は、前回の任務の時と同じだった。だが、今回は、別室で待機しているのは八幡と奏の2人だけだ。
八幡は、家族以外の女子、それも同年代となんて2人きりになったこともなく、気まずさでいっぱいいっぱいだったが、奏はそんな八幡に気付くこともなく、話し掛けた。
「あの、さ······」
「え、あぁ······」
奏は、言いづらそうに口ごもったが、意を決して話した。
「昨日、あの人······風鳴弦十郎に、聞いたんだ。あんたの母親が、シンフォギアの実験中に、事故死した、こと」
「······あぁ」
八幡は、弦十郎がそれを奏に話したことには驚かなかったが、それを自分に白状したことは予想外だった。
「お前、あたしが憎くないのか? お前から母親を奪ったのは、シンフォギアなんだろ。シンフォギアをありがたがるあたしが、憎くないのか」
「俺は、正直言って······憎いとか、思ったことないな。開発した了子さんが母さんの妹だってのもあるけど。けど、俺が生きてるのも、母さんが命賭けたからだし······。えと、天羽さんとは、あんまり、その、状況が違うっていうか······」
八幡は、奏の自分を見る目にいたたまれなくて、視線を逸らした。全てを言ったわけではないが、意味は伝わった、と思いたい。八幡が再び奏を見れば、彼女はなんというか、安心したような表情をしているように見えた。
「そう、か。なんか、悪いこと聞いたな」
「別に、気にしない、ですけど」
「······じゃあ、もう一つ聞いていいか」
奏は、思い詰めたような表情こそ見せなかったが、さっきの表情よりは少し引き締めていた。
「······比企谷八幡は、何を思って戦ってる?」
「何を思って······。作戦とかそういうことではなく?」
八幡は、奏の言いたいことがフワフワしているように感じたが、奏が首を縦に振ったため、もっと、別のことを聞きたいのだと察した。
「俺は······。歌ってるのが、見たいんだと思う」
「歌ってる?」
「翼が。昔から、翼が、歌ってるのを見てたから······。出来れば、戦いに関係ない所なら、いいけど、流石にそんなことは言ってられない、ですし······」
奏は、小柄の、蒼い髪の少女を思い馳せた。勘がいいというか、人一倍感情に敏感というか、そんな少女だ。シンフォギアをまとっている姿以外で歌っているのを見たことはなかったが、自分が知らないだけかもしれなかった。
「そっか······。ありがとな、話してくれて」
「いや、別にいいですけど······」
そんな時、通信機が鳴った。回線を開けば、引き上げの命令が送られてきた。
「俺達も、撤収しましょう」
「だな」
2人で機材の片付けを始めた時、奏が声を掛けた。
「なぁ、折角腹割って話せたんだしさ、敬語使うの、やめないか?」
「いや、それは······」
「いーよ。あたしは気にしないからさ」
八幡は、俺が気にするんだよ、と思ったが、奏の機嫌が良かったため、その言葉を呑み込んだ。
「え、じゃあ、天羽さん、よろしく······?」
「あぁ、よろしくな、比企谷。あーいや案外、八幡、のが良かったりするか?」
「え、いやそれは流石に」
八幡は急に名前で呼ばれてドキッとした。妹が時々悪口に名前を混ぜてきたりするが、それとは全然違った。
「お? なんだよ初心なやつだな。あたしのことも気楽に奏でいいからさ、仲間なんだしお互いのこと少し知れたんだしさ。もっとフレンドリーに行こうや」
奏は八幡の肩に手を回した。八幡は、奏の素が分かったような気がした。勘違いじゃなければ、だが。
「いや急に言われても」
「ま、無理にとは言わないさ。これからよろしくな」
奏は、心做しか体が軽くなったように感じた。憎しみを捨てることは出来ないが、それでも何か楽になった気がした。
ちゃかちゃか歩き出す奏を、八幡は追いかけた。