八幡に天の鎖もどき持たせて、シンフォギアに放り込んでみた 作:シャルルヤ·ハプティズム
私の考える奏×翼はこう、というのを詰め込んだつもりです。百合のつもりはありません。
「うおぉらあぁぁっ!」
奏の大槍が横薙ぎに振るわれれば、ノイズは瞬く間に塵と化す。
「順調順調ぉッ!」
ガングニールに竜巻を纏わせると、それを放出。地面に平行する竜巻は、渦を巻きながらノイズを食らい尽くして、尽くした後ぶわっと音を立てて霧消した。
あと少しで殲滅完了というところで、奏の通信機に八幡からの通信が入る。
『翼の方のノイズの一部が、群れから離れてシェルターの方に向かってる。俺はそっちに先回りするから、天羽は自力で追いかけてきてくれ』
「はい、よ!」
最後の一匹を蹴りぬいた奏は、移動を開始した。
周辺の建物には、ほとんど損壊がなかった。
翼は、最近奏の様子が変わってきていることに気が付いた。態度が軟化したというか、以前は常に苛立ちを振りまいていたのが、最近はイライラしていない日があるように、思った。
先日の戦闘では、普段自分がしてばっかりのフォローを、その時は奏が翼にやった。以前とは見違えたようで、周りの被害も考えられるようになってきたらしい。ここまでしていたら、どれだけ鈍い人間でも気付くだろう。
八幡にそれを聞いたが、八幡は口下手な上に屁理屈を捏ねるので、状況を知らない翼は逆に困惑した。八幡が、翼が歌っているのを見るのが好きだとのたまったなどと、当の本人に言えるわけがないとお茶を濁そうとして適当なことを言ったからである。
そんなこんなを経て、翼は、奏を訪ねようと意を決した。
教えてもらった奏の住所に、四苦八苦して辿り着いた翼は、深呼吸してベルを鳴らした。
奏は、二課の職員寮に特例で部屋をもらったと聞く。実家暮らしの自分とは何もかもが違うなと、今開けまーすと聞こえてきたドアを見つめて思った。
「お、来たね」
「お邪魔、します」
出迎えた奏は、赤いセーターに黒いスキニーで、室内外の気温差にぶるぶる震えながら、入んなよと翼を招き入れた。
「お茶淹れるけど、温かいやつのがいいだろ?」
「あ、うん···」
「ちょっと待っててな」
暖房がガンガンに効いた部屋でベージュのコートを脱いだ翼は、尖りの欠片もない雰囲気に困惑しつつ、奏の部屋を見渡した。
奏の部屋は、シンプルにこだわっているのか、あまり女の子らしさがなかった。リビングのテーブルやソファ、その上に一つだけ乗っかっているクッションなどもシックな色で統一されており、年頃らしさがないというか、本人の雰囲気とはどことなくずれたような感覚を覚えた。人は見かけによらないものだ。ただ、掃除が行き届いている点は捨てられない病の翼も見習うべきだと思った。
暫くきょろきょろしていた翼だったが、湯気を昇らせる湯のみを二つお盆に乗せて戻ってきた奏に気付いて、居住まいを正した。
「熱いから気をつけな?」
「······いただきます」
翼は、熱々のお茶に少しだけ口をつけた。
同時刻。特異災害対策機動部二課。
八幡は、この日も二課に詰めていた。シンフォギアの制式配備に向けた、追加の試験のテスターだからだ。
『シンフォギア・コンデンサーモード、試験開始』
「了解。コンデンサーモード、起動」
掌に乗っかった赤いペンダントが、光とエネルギーを放出しながら槍を形作る。光が収まれば、そこには奏の振るうものと色以外が同じ槍が握られていた。
AD兵器とシンフォギアの運用データからのフィードバック。シンフォギアをコンデンサーに貯めたフォニックゲインだけで動かせるのかというだけの実験だ。兵器である以上、ある程度は使用条件のハードルは下げなくてはならない。
「コンデンサーモード起動成功、仮想敵との戦闘開始します」
八幡は、訓練室の各所に置かれたノイズの姿形をしたハリボテを順番に破壊していく。八幡は、奏のように苛烈さをノイズにぶつけることはないが、兵器の試験ともなれば流石に力みもした。
『試験終了。お疲れ様でした』
八幡が標的を半分ほど破壊した頃、フォニックゲインの貯蔵が尽きて、シンフォギアが解除された。試験はそれで終了した。稼働時間は僅か2分。実戦投入が出来るレベルではなかった。
残ったハリボテを見て、消化不良な八幡は嫌悪感のままに、一つを殴り壊した。
「······天羽さんにね。お話したいことがあるん、だけど」
翼は本題を切り出した。奏は、うん、とだけ言って続きを待った。
「最近、天羽さんなんか変わったなぁ、って思うの。明るくなったって言うか······」
湯のみを手の中でくるくると回しながら、翼はそっと奏を見る。
「そうか? まぁでも、最近、変わったなって言われるようになったかもな」
うーん? と呟きながら、奏は指で前髪をくるくるといじった。
「あの、それでね? 私と友達になって欲しいっていうか」
「友達? いいけど」
「ほんとに!?」
身を乗り出した翼は、冷めたお茶が残っている湯のみをひっくり返した。
「わぁっ!?」
「おいおい大丈夫かよ。火傷とか······」
ふきんで翼の服を叩く奏は、あわあわしながらハンカチでお茶を拭く翼がおかしくて、ぷっと笑った。
「八幡」
「了子さん」
了子は、汗を流すためにシャワールームに向かう八幡を、訓練室の外で待っていた。あとの仕事は、データの整理など自分でなくても出来ることしかない。周りに押し付けたとも言う。
「随分と勇んだんじゃない?」
スポドリを飲みながら、八幡は不満げに了子を見る。了子はその視線を意に介さなかった。
「······最近、天羽の調子が上がってきたでしょ」
ノイズと白兵戦を繰り広げる翼や奏を、ライフル片手に支援する八幡。男ならとか言うつもりはないが、自分がずっと後ろにいることに我慢出来るような人間ではない。翼は、女で、歳下で······尚更そう思わされた。
そんな奏は、調子が上がってきたのか、翼の打ち漏らしを攻撃するなど、以前には見られなかった余裕を見せるようになった。本人が無理にやっているだけかもしれなかったが、翼の隣でそれをやられると、翼の後ろにいる自分がなおいっそう情けなくなる。
そんな風に愚痴る八幡に、了子は言い放つ。
「八幡。周囲の環境が、勝手に味方してくれることなんて無いのよ」
今の二課では、奏の戦闘力の向上と視野の拡大から、大きな期待が寄せられていた。翼と奏を主軸に据えた新しい計画が持ち上がっているという話もある。
八幡には、今の所そういう話はない。コンデンサーモードも、最初は奏をテスター候補にしていたと聞いている。
「んなこと、言われなくても分かってますよ······」
八幡は、自分が握っていたガングニールを思い出した。奏の槍が白に金、赤であるのに対して、八幡の槍は、グレーに金、赤のカラーリングだった。それに、金の部分は奏のそれよりもくすんでいるように見えた。
「分かってないわよ。コンデンサーモードだろうがシンフォギアがあんな色になるのは、八幡が、分からなくなってるからよ」
八幡のガングニールは、試験にあたってカラーリングの設定が初期化されたばかりだった。シンフォギアは、カラーリングを固定に設定しない限りは、所有者、その感覚や精神状態によって色合いが変化する特性をもつ。
「色が何だって言うんすか。あんなの、何色でも同じでしょ」
「聖遺物のフォニックゲインの放出量が感情に左右される以上、コアにそれを持つシンフォギアだって無関係じゃないのよ」
項垂れる八幡を見て、了子はそれ以上講釈を宣うのはやめた。八幡に時間がない、ということはよく知っている。
はぁ、と溜息を吐き、八幡の顔を両手で引っ掴んだ。
「一つ言うならね、八幡。環境は勝手に味方してくれないけど。味方にすることは出来るのよ」
「······実験に参加し続けろってことですか」
了子は八幡の顔を手放し、開発室に戻る支度を始めた。
「そんなの、八幡の自由じゃない。私は、参加してた方がいいと思うけどね? 確実に言えるのは、実戦投入に漕ぎ着けるかはテスターの頑張りも含まれてるってことね」
じゃあ私は戻るわと、了子は言いたいことを言いきったのかスタスタと行ってしまった。八幡は、了子が歩いていく姿を、ただ見つめていた。
「その、ごめんなさい······」
翼はしずしずと謝った。奏は、そこまでしょんぼりされるていても困るため、どうしようかと考えた。
「いいっていいって。それより、どうして友達なんて、改まってすることでもないだろ?」
「その、私、友達いないからどうしていいか分からなくて······。最近の天羽さんとならお話とか、出来るかな、って」
翼の友達いない発言に内心驚いて、憐れ比企谷強く生きろ、と思ったが口に出しはしなかった。
「意外だな。可愛いし歌好きだっていうし、友達なんていくらでもいると思ってたよ」
「かわ······かどうかは置いといて、私が好きなの、演歌だから、周りと合わなくて······」
「演歌、演歌かぁ······。演歌はあたしらの年代には奧深すぎるな······」
奏は特別演歌に思い入れがあるわけではない。親もそうだったので、まるで親しみがない。友達もだいたいそうだ。
「そうだな······。あたしにさ、演歌、教えてくれよ。友達くらいいくらでもなってやるからさ」
奏は、翼の頭はポンポンしながら、八幡の言葉を思い出した。あいつがそこまで拘る翼の歌というのも、気になってきた。
「うん······」
嬉しそうに頷いたのを見た奏は、旺盛な好奇心のままに切り出した。
「そだ。あんたの好きな歌、少しでいいから歌ってみてくれよ」
「わかった」
すーはーと深呼吸しながら立ち上がりスマホから音楽を流す翼を見て、お、こいつ雰囲気あるなと奏は思った。
(お、織田光子か。それならあたしも知ってるな)
「舞い、上がる······葉桜に」
(え、上手くね?)
中1とは思えないこぶしの効き具合、透き通った歌声、そして何より本当に楽しそうに歌う翼。奏は暫くこの日を忘れられなそうだと、歌声に圧倒されながら思った。
もちろん、ノリノリで歌っていた翼はそんなこと知る由もなかった。
「今日はありがとう、天羽さん」
寮の入口で奏に見送られる翼は、存分に歌ったおかげか、来た時のようにオドオドはしていなかった。むしろスッキリさえしている。
「またいつでも来なよ。友達なんだからさ」
「うん」
花のような笑みを浮かべて頷く翼が仔犬に見えて、頭をわしゃわしゃ。
「わっ! 天羽さん!」
「ごめんごめんつい。そうそう、その天羽さんっての止めにしよう。もっと気軽に呼んでくれて構わないからさ」
でも、と言う翼に、奏は笑う。
「別に2つしか離れてないんだから。それにあたしも、翼、って呼びたいしさ。大人の方と2人揃って風鳴さん、じゃ区別も出来ないだろ?」
それっぽい理由を述べる奏に、翼は流された。こういうことに知恵を働かせるのは、奏自身嫌いではない。
「じゃあ、奏?」
「いいね、それでいこう。翼」
今度はもっと演歌教えてくれよな。最後にそう言って翼を見送った奏は、軽い足取りで戻っていった。