八幡に天の鎖もどき持たせて、シンフォギアに放り込んでみた   作:シャルルヤ·ハプティズム

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ep3 鳥籠のナカで

 

 

 八幡と翼が保護した少女、天羽奏。彼女は、二課本部内の医務室に搬送された。理由は、彼女や衣服に大量に付着していた黒いモノ──ノイズの接触により炭素化した人間である──は、彼女が握っていた手首と関連性が深いと判断され、回収が決まった。

 

 

 あまり知られていないが、炭素化した人間を回収する際には様々な取り決めがある。体の一部や身分の証明に繋がる可能性のあるものが炭素化せずに残った場合や、炭素が人間一人分として判断された場合は、個別に回収しなければならない。

 大半は個人の特定のために研究機関に回されるが、身分証などがそのまま残った場合は、研究機関に回さずに炭素を骨壺に納めて遺族に届けられる場合もある。

 30年前の改正ノイズ対策基本法で明文化されたこのルールは、ノイズ被害者遺族の粘り強い運動の賜物だった。

 

 

 

 八幡は、帰還の車の中で、ぼうっとそんなことを考えていた。天羽奏を抱えていた八幡の体や衣服に付着していた炭素も可能な限り丁重に回収された。地面に落ちていた塵の山を専用の箱に詰める作業に八幡も参加したが、八幡は、回収班がなぜ発狂しないのか不思議で仕方なかった。

 それとも、既に発狂した後なのか······。そこまで考えて、八幡は思考を切り替えた。

 

 

 生存者、天羽奏。今回被害を受けた者の中で、たった11人の生存者の一人。

 八幡は、彼女に会ったことがあった。記憶に残っているのは、3年前の母の告別式に参列していた光景である。父によれば、母親同士がはとこだったはず。

 

 彼女は······、俺の母親姉妹しか親族がいなかったと思うが、どうなるんだろうか。伯母は母の葬儀にも出ないしここ5年は音信不通。叔母は経済基盤こそあれど、未婚だし。だが、下手に親族と一緒にいるより施設に入って環境を一新する方が、辛いことを思い出さなくていいかもしれない。

 

 八幡はそこまで考えて、二課が特機部二と揶揄される理由に、そんなことを仕事にしてる連中だと思われてるのかもしれない、とぼんやりと考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 顔を上げるのが、怖い。目の前に、あの光景が目に浮かぶ。体中から寒気が止まらない。

 

 黒い風、黒い地面、人間の手首。元がなんだったか、どうだったか考えるのが、怖い。

 

 風鳴翼は、二課の仮眠室の隅で縮こまっていた。自分は、国を守護する防人として今日まで厳しい訓練を耐えてきた。だと言うのに、その成果を活かすのが怖い。怖かった。

 

 

「翼ちゃん」

 

 名前を呼ぶ声がして、翼は顔を上げた。自分を呼んだのは、二課のエージェントであり弦十郎の右腕の、緒川慎次。彼は、21世紀まで代々続く忍の家系の出であり、自分が2歳の頃からの付き合いだった。

 去年大学を卒業したばかりだが、忍として培った技術を活かして職務を全うする彼は、既に超一流のエージェントだ。翼の戦闘員としての師匠でもある。

 

「慎次くん······」

 

 緒川は、何も言わずに翼の隣に座った。そのまま、一分か2分ほど無音が続いた。やがて、緒川は呟くように話し出した。

 

「······僕は、翼ちゃんに戦闘技術を叩き込んできたつもりだけど」

 

 緒川は、そこで一度言い淀んで、深呼吸してまた言葉を放った。

 

「無理にそれを使おうだなんて、考えなくていいんだよ」

 

 翼は、鈍器で殴られたような衝撃を覚えた。

 

「え······? 私は、必要ない、の?」

 

 翼の、防人として······刃を研いできた自分のアイデンティティを否定されたようなものだった。緒川は、こうなることも予想出来ていたが迷った末に話すことにした。

 

「こんな······人に自慢出来ないことをしている僕が言うのもなんだけど。僕達はね、戦わないという選択を取ることも出来るんだよ」

 

「じゃあ、私はどうすればいいの!? 私はっ、防人として、今日まで······っ」

 

 言葉尻が弱まっていく。緒川は、子どもに暴力を振るっている感覚さえ覚えたが、ここで辞めるわけにもいかなかった。

 八幡もそうだが、翼も、戦うことに頭を囚われすぎだ。緒川は、翼がシンフォギアを纏った日からずっとそう考えていた。そうしたのは、自分達大人であるという考えが頭から離れず、惨めったらしくて仕方なかった。

 

「この組織として見たら、翼ちゃんには戦って貰わないと困るんだ。シンフォギアに適合した時から翼ちゃんの配属は決まってたからね。でもね······」

 

 翼は、緒川の顔を見上げた。彼は、僅かに悔しさを滲ませていた。小さな翼に、その表情の奥にあるものを読み取れるだけの感受性はまだ育っていなかった。

 

「シンフォギアを、この組織にいることを、大人の言うことに従うことを、戦う理由にしてはいけないよ」

 

「どういう、こと······?」

 

 緒川は、翼の小さな手を自分の両手で包んだ。翼の手は、普通の小学生では有り得ないほど固く、マメだらけだ。

 

「人を助けるために、この組織に居続けることは素晴らしいことだと思う。ただ、翼ちゃんも考えなくちゃいけないんだ」

 

「考える?」

 

「そう。翼ちゃんは防人になるために、今日まで訓練を積んできた。でも、それは翼ちゃんが自分で選んだ道なのかな」

 

「そんなこと······」

 

 翼は、否定出来なかった。小さい頃から、そう言われ続けたのは事実だ。

 

 

 そもそも、風鳴とは国防において強い影響力を持つ一族であった。また、政治家も多く排出している。その風鳴の宗家に生まれた翼、それと弦十郎は、生まれながらにして国防か政治に携わることが決定していた。そういう意味では、忍の家系出身の緒川慎次も似たようなものだったが、だからこそ緒川は翼を諭さなければならなかった。

 

 

「正直言えば、翼ちゃんにはそういう道を歩んで欲しくはないかな。この道は、辛いことだらけだ。今日みたいな日も、この先いっぱい出てくる。組織は秘密にされなくちゃいけないから、感謝を受けることもほとんどない」

 

 改めて想像するだけでも、辛い世界だった。何故子どもがここにいるのか考えたくないというのが、本音だった。

 

 そんな中、俯いたまま翼は呟いた。

 

「慎次、くん。私ね、最近お父様と、あまりお話出来てないんだ······」

 

「······うん」

 

「だから、防人として、頑張ったらまたお父様褒めてくれるんじゃないかなって······。間違いなのかな、これ······」

 

 翼の複雑な家庭環境を頭に浮かべて、次に何を言うべきか緒川は必死に考えた。

 

「······それが、翼ちゃんの戦う理由?」

 

 だが出てきたのは余りにも当たり障りのない言葉。翼は、その質問にはこくんと頷いた。

 緒川は、等身大の女の子の姿を見て、大きな安堵を感じた。等身大で、それでいて強い子だった。緒川は、その強さに気付いて安堵感をかき消されたが、それを表情に出すのをぐっと堪えた。

 

「うん。翼ちゃんの戦う理由は、間違ってないよ。お父さんに褒められたいって思うのは、誰だって当然のことだよ」

 

「慎次くんも······?」

 

 

 顔を上げた翼に、もちろん、と緒川は答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪かったな、慎次」

 

 翼と話し終え、帰るのを見送った緒川に、弦十郎は声をかけた。仮眠室のドアが開いていて、全てではないが通りがかった弦十郎に、2人の会話を聞こえてていた。それが緒川が意図したことかは弦十郎には分からない。

 

「翼ちゃんは······今日はなんとか立ち直りましたが」

 

 端的に言えば、緒川は翼が何を拠り所にしているかを翼に自覚させるために会話していた。カウンセリングの自信はなかったが、なんとかなったと思っている。今回は。

 

「この先も、また同じようなことがあるはずです。無理に奮い起てとは言いませんが、今の翼ちゃんには逃げ道がないんです。司令は······弦十郎さんは、どう考えていますか?」

 

 緒川の問いかけに、弦十郎は言葉を詰まらせた。おそらく父親よりも翼の傍にいた緒川。戦闘技術を教え込むという明確な理由はあったが、それ以上に妹のように可愛がってきた翼を案じていたのも事実だった。

 

「俺は─────」

 

 

 

 結局、緒川が満足出来るだけの答えを、弦十郎は述べられなかった。本心では、弦十郎も翼と同じで、翼には、翼だけでなく八幡にも戦いに身を投じて欲しくはない。だが、そう出来るだけの力を、弦十郎は持ち得なかった。

 

 そう嘆く弦十郎に、一つの報せが届いた。

 

 

 

 先の作戦で救助された少女、天羽奏には、シンフォギアとの適正があった。

 

 

 





 昔から防人防人言われてただろうけど、持て余してた時期くらいあるんじゃないかなっていう妄想。

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