八幡に天の鎖もどき持たせて、シンフォギアに放り込んでみた 作:シャルルヤ·ハプティズム
改めて思うけど、ノイズって全国規模で見るとそこそこ出るんだな。
八幡は、日本刀型の武器を片手に一騎当千する翼を援護をしながら、そう考えた。
天羽奏の救出から6日が経った。散発的に発生するノイズを狩りながら過ごす特異災害対策機動部は、シンフォギアを駆使して迅速な対応を取る。だが、実戦投入可能なシンフォギアは一機しかない。
八幡は、年下の背中を見る自分に、複雑な思いを抱えている。この3年間、ずっと。
『シンフォギア・ガングニール、起動実験開始します』
一年前、八幡は、北欧神話の主神の手により猛威を示したという彼の槍、その破片と対峙していた。
シンフォギアのコアとなるもの。それは、古来より神話や伝承、民話などで伝えられる無双の一振り。或いは、人々に恐怖や死を振り撒いた魔の結集体。はたまた大蛇や怪鳥、竜のような怪物退治の逸話にてそれらの血肉を啜ったもの。それらを総称して、現代では『聖遺物』と呼ぶ。
特殊な波動を当てると爆発的にエネルギーを放出するそれらが、シンフォギアという兵器のジェネレーターである。このエネルギーが、ノイズの接触から装着者を保護する防御壁や、ノイズの位相差障壁を無効化する機能の実現を可能にする。
ここにあるガングニールは欠片······つまり、何らかの要因で破損した、槍の一部であったが、それでも兵器の機関として採用されるには十分だった。聖遺物とは、そういう代物なのである。もちろん、それは机上の話だ。
『八幡、今までのように、自由に
「やってみます」
弦十郎の指示の下、八幡はガングニールのシンフォギアを手に取った。聖遺物を起動させる特殊な波動、それは『歌』である。誰でもいいというわけでもないが、聖遺物には歌を歌うことが起動に必要である、とされている。
そして、八幡はガングニールの起動を可能にする人間として、組織に参加していた。参加に当たって様々な思惑に絡みつかれてはいたものの、ガングニールが八幡の組織内での存在意義と言っても過言ではなかった。
「─────♪」
声変わりが始まったばかりのハスキーボイスが、実験室に満ちる。別室から指示を出す弦十郎やオペレーター、モニターに徹する翼が、その光景を遠隔で観察した。
『フォニックゲイン、起動予想値の70%に到達。71、72······』
聖遺物が放出するエネルギーを、フォニックゲインと言う。名前は近年に付けられたため、聖遺物製造当時のこのエネルギーの名前は定かではない。
『78%に到達。司令、増幅が止まりました』
『モニターを続けろ。八幡、もう暫く歌い続けてくれ』
画面の中の八幡は、歌を中断することなく首だけ動かした。
「了子さん。ガングニールの実戦投入、やっぱ出来ないんですか?」
起動は出来たでしょ。翼のシンフォギアのメンテナンスを行う了子に、八幡は不満げに呟いた。
シンフォギアの投入が国会に承認されてからというもの、了子はシンフォギアにかかりっきりだ。もう一週間は家に帰れていない。
「無理だって言ってるでしょ? 八幡じゃフォニックゲインの放出量、戦闘レベルを維持出来ないんだから」
「それは何度も言われましたけど······」
シンフォギアのコア、ガングニールの起動を成功させた八幡は、稼働実験の際、ガングニールでノイズ戦による試験にも参加した。しかし、戦闘を開始して間もなく、フォニックゲインの放出量が急激に低下、翼に殿を任せて撤退という不甲斐ない結果に終わっている。
「対策、というか、別の形で使えないかは考えてるわ。起動出来た以上遊ばせておくのはもったいないもの」
パソコンから八幡に目を移した了子は、不満さを隠し切れない子どもを見た。
「······気持ちは分かるけど。フォニックゲインの放出量があの程度じゃあ、八幡じゃガングニールを扱いきれないわよ。適材適所って言葉、知ってるでしょ?」
了子が口調を強めて言うと、八幡は押し黙った。正論を言われればそうなるしかない。
「そりゃ、そうですけど······」
了子は、八幡の性格が戦闘向きではないとしみじみ感じたが、その感覚を押し殺した。
「私達は神様でもなんでもないんだから、出来ることを探すしかないのよ」
了子はパソコンに向き直った。翼のシンフォギアは想定より
15%ほど装着者への負荷が大きい。OSを見直さないと、と集中力を全開にする了子を見て、渋々と八幡は整備室を出た。
「出来ること、ね······」
八幡は、普段から携帯しているAD兵器の拳銃を懐から引き抜いた。整備班から返却されたそれを見て、八幡はため息をこぼした。
(こんなおもちゃみたいなやつで、何が出来るんだか)
自分の目的の達成には余りにも物足りない。シンフォギアでも全く足りない。エンキドゥが万全に使えるようになっても足りなそうだ。そういう予感がしていた。
ストレスを少しでも吐き出そうと射撃場に向かおうとして、後ろから僅かに気配を感じて振り返った。
「緒川さん」
八幡に感じ取れるギリギリの気配で、緒川は立っていた。こういう曲芸地味たことが出来ることで、八幡は畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
「比企谷八幡君」
そんな緒川が自分のフルネームを呼ぶのは久しぶりだ。緒川が自分のフルネームを口にする時は、誰かに聞かれたくない時だ。
「お疲れ様です」
「緒川さんも。お帰りですか」
「はい」
「じゃ、また明日」
「えぇ。また明日」
二課の本部から離れた路地裏まで移動した八幡は、
「スカウト、ねぇ······」
何で緒川が、これをそんなたいそうに隠そうとしたのか八幡は分からなかった。もしかしたらシンフォギア配備反対派に悟られたくないのかもしれない。
八幡は、コンビニで買ったライターでメモ紙に火を着ける。メモ紙が9割がた燃えたところで踏み消して、八幡は路地裏を出た。