八幡に天の鎖もどき持たせて、シンフォギアに放り込んでみた   作:シャルルヤ·ハプティズム

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 閲覧ありがとうね!(天才並感)




ep6 天女降臨

 

 

 2038年、7月。

 

 

 ドン。ドン。ドン。

 

 

 八幡は、朝早くから二課の射撃場でライフルのスコープを覗き込んでいた。フォニックゲインは二課の貯蓄に余裕がないため、ライフルは実銃でAD兵器はおやすみだ。

 

「ふぅ······」

 

 一息ついて銃を降ろせば、おつかれだねと声が聞こえて横を見た。

 

「エンキドゥ」

 

 振り向けば、八幡の手にも乗りそうな小さな人形のような人影が、八幡の目線の高さをふよふよと浮いていた。

 

 エンキドゥ。彼または彼女は、一言で言うと自意識を持つ聖遺物である。ギルガメシュ叙事詩に出てくる同名の存在と同一だとされているが、それは割愛。日本政府が確認している中で、唯一自己の確立が確認されている聖遺物だ。

 彼の本体は八幡の体内にあるが、時折、こうして八幡が目視出来る場所に仮初の体を作って出てくるのだ。

 

「君、今日もサボりかい? 」

 

「うるさい。学校行くよりかは有意義だろ」

 

 ライフルのスコープを覗き直した八幡は、ぶっきらぼうに呟いた。

 

「もったいないなぁ」

 

 家庭柄や、こういった他人においそれと言えない組織に参加している八幡は、学校を割と頻繁に休む。そのうえコミュニケーションが得意でもなく周囲から孤立している八幡は、更にサボりを重ねて出席日数はカツカツだ。二課にいれば、暇を持て余した食堂のスタッフや了子などが勉強を教えてくれるため、尚更行きたくない。

 

 尤も、エンキドゥからすれば、現代日本社会の最たる魅力は教育機関だとさえ思えるため、八幡が自分から不利益を被りに行っているように見えるのだが。とはいえ、八幡の抱える多くのコンプレックスも理解している以上、同情もする。

 

「全く······可哀想な子どもだ」

 

「誰がっ!」

 

 八幡がライフルごと振り向けば、既にそこにエンキドゥはいなかった。仮初の体を構成するフォニックゲインごと、八幡の体内に戻ったのだ。

 

 

「クソッ!」

 

 ドン、という音が響いた。

 

 

 苛立ちを隠せない八幡の銃弾は、的に掠りもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2038年、8月。

 

 

 リハビリも完了間近になる天羽奏は、病院のロビーの端で、ぼうっとテレビを眺めていた。昨日の今頃は、見舞いに来ていた学校の友人がいたが、今日は迎え盆である。友人は軒並み、親と一緒に里帰りだ。見舞いなどいようはずもない。

 

「皆帰省してんのに、あたしは何やってんだろうなぁ······」

 

 奏は、もう少しで退院のところまで回復していたが、自分の家に帰る気も起きなかった。いくら妹だったからって、骨壷と一緒に里帰りなんて願い下げだ。発狂しろと言っているようなものだ。

 

 

 そんな日だった。

 

「天羽奏さん、であってるだろうか」

 

 奏を訪ねた男がいた。まるで知らない人のはずなのに、何故か待ちわびていたような錯覚をした。

 

 病院の窓には夕日が差し込んでいて、空には紫色が顔を覗かせていた。

 

 

 

 喉が乾いた。

 

 

 

 

 

 

 2038年、9月4日。

 

 

「紹介しよう。天羽奏君。第3号聖遺物、ガングニールの装者候補者だ」

 

「天羽奏です、よろしくお願いします」

 

 

 奏が頭を下げれば、周りから拍手が起きる。緒川は、複雑な思いで周りに同調していた。一緒に拍手している同僚達も、自分と同じような思いを抱えているだろう。

 ────戦闘員が歳下、それも未成年ばかりのこの現状。複雑なシステムで稼働するはずのシンフォギアが、それを十全に理解出来ないであろう年頃の子どもにしか扱えない。

 緒川は、思考を切り替えた。どのみち、天羽奏の戦闘指南役は弦十郎の指示により自分になるだろう。権力に逆らえない以上、生き残る術を可能な限り叩き込む以外の方法が、思い浮かばなかった。

 

 

 

 

 八幡は、天羽奏を見て、あまりにもギラついたその目にすくんでいた。自分が最後に見舞いに行ったのは10日ほど前だが、その時はもっと諦観に支配されていた。厭世的、とも感じていた。それが今や野生の獣もかくや、というほどだ。人の皮を被った肉食獣か何かだとさえ思えた。

 

「───ここが食堂で······」

 

 新人である奏へ、二課施設内の案内を任されてしまったが、奏に苦手意識を持ってしまった八幡は、すぐにでもこの場から逃げ出したかった。せめて翼がいれば、と思ったが引っ込み思案であまり戦力にならなそうだ。

 

「ここが開発室。隣が整備室で、シンフォギアの管理も───」

 

「······へぇ」

 

 奏が、小さく呟いた。相槌ではない。明らかに関心の向き方が違う。

 八幡は、今まで相槌を打つだけだった奏が、一瞬だけ生の反応を見せたため、息が詰まった。率直に言って、帰りたい。

 

「なぁ、ここ入れないのか?」

 

「え。······えっと」

 

 奏が開発室の扉を指差した。覗くぐらいなら良さそうとも思ったが、許可は取っていない。そんな時、開発室の中から了子が顔を出した。

 

「貴女が天羽奏ちゃんね?」

 

「そうだけど」

 

「中、見学してく?」

 

「ホントか?」

 

 騒がないでねと了子が言えば、しめたという顔をして奏は中に入って言った。

 

「はぁぁー······」

 

 扉が閉まると、八幡は盛大なため息を吐いた。

 

「おつかれさま。疲れたでしょ」

 

「······まぁ、それなりに」

 

 一応の強がりを見せてはみるが、11年来の了子にはバレバレだ。付き合いの長さでいえば緒川や弦十郎以上なのだから、当然なのだが。

 

 ───慣れないことはするべきじゃないな。

 

「あの人、あんな目してなかったでしょ」

 

「私は今日会ったばっかりなんだから知らないわよ。あの子が退院する少し前に、弦十郎君が会いに行ったらしいけど······」

 

「司令が?」

 

「らしいわ」

 

 スカウトを自分達に任せておいて、結局直接説得したのかと勘ぐった。それは実際当たりで、弦十郎は、一人で奏に面会しに行っている。

 ダラダラやっていた自分達に業を煮やしたのかもしれないが、器量と寛容さで二課を引っ張っているあの男がやることとも思いにくかったが。

 

「それと、データ採取用の2()()()あるじゃない? あれを奏ちゃん用にチューンしろって上から言われたらしいのよ。役人って、ホントに現場のこと考えないのよね······」

 

「じゃあ俺のやつが試験用になるんすか」

 

 八幡がそう訊けば、了子は首を横に振った。

 

「そういうわけでもないみたい」

 

 了子は、八幡の耳に顔を近付けて呟いた。件の仔細は、シンフォギアの開発主任である了子の知るところでもなかった。

 

「それと、ここだけの話、奏ちゃん、適合係数が低いのよね。ギリギリなのよ」

 

 適合係数とは、シンフォギアのコア······つまり聖遺物の相性である。これが足りないと、シンフォギアを戦闘レベルに足るだけのフォニックゲインを生成(或いは維持)出来ないのだ。

 ただし、八幡がガングニールの戦闘レベルを維持出来ないのは適合係数が理由ではない。

 

「それが?」

 

「『LiNKER』って覚えてる? あれの研究を再開しろって命令まで出たらしいわ」

 

「マジですか。てか、被検体どっから引っ張ってくる気なんです?」

 

「······弦十郎君、教えてくれなかったわ」

 

 

 了子の顔に、僅かな寂しさが射し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことを思い出しながら、八幡は眼下の光景を見ていた。

 

「これだ、この力だ! ノイズを駆逐する絶対の力! ようやく手に入れた、あたしの力!」

 

 強化ガラス越しに吼える天羽奏。彼女は、シンフォギア・ガングニールを装着(モノに)した。

 

 

 

 2039年6月。

 

 天羽奏は、妹の一周忌を目前にして屍が降り積もる地獄に身を投じた。

 

 

 

 

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