八幡に天の鎖もどき持たせて、シンフォギアに放り込んでみた 作:シャルルヤ·ハプティズム
先に申しておきますと、このSSにウルトラマンは出ません(もちろんその登場人物も)。
「あの、おじ様、これは······?」
翼は、奏の目を見ないようにしながら弦十郎に問いかけた。目の前には、旧作のDVDの山がある。弦十郎が観るのも集めるのも趣味なのは知っていたが、巻き込まれたのは初めてだ。
「奏君が入って、戦闘班は3人になったんだ。ここ最近忙しかったが、ようやく休みを取れてな。親睦会といこうじゃないか」
「必要かよ、それ」
朗らかに笑う弦十郎と懐疑的な奏を他所に、翼と八幡は、山のラインナップを見た。弦十郎はアクションモノの映画にやたら造詣が深いが、今回はジャッキー・チェンの映画が多かった。
親睦会で観るならジブリとかのがよくね。などと言いかけたが、八幡は口を噤んだ。
「ま、息抜きだとでも思ってくれればいいさ。それで、何が観たい?」
「······じゃあこれで」
弦十郎の突飛さに折れた奏は、山の一番上にあったケースを引っ掴んだ。
「『香港警察』か! 中々いいチョイスだと思うぞ」
八幡は、弦十郎の白々しさを見てもう何も言うまいと決めた。香港警察は彼が三指に入れるほど好きな映画である。この男、無駄に抜かりなかった。
「どうだった。奏君」
「いや·······普通に面白かったけどさ。これが何の役に立つんだよ」
弦十郎に毒気を抜かれた奏は呆れたような目で弦十郎を見つめ返す。
「役に······か。俺は映画は好きだが、必ずしも何かの役に立つとは思ってないさ。言っちまえば、所詮は娯楽物だからな。だが、楽しかっただろう?」
八幡は、奏からふつふつと怒りが湧き上がってくるのを感じた。
「何が言いたいんだよ、あんた。あんたらと一緒に映画観てさ、あたしにどうしろって? あたしを任務だってって呼び出したのはあんただろ」
奏は、首に掛けたシンフォギアのペンダントを握りしめた。奏が歌えば、それだけでこのシアタールームは戦場に様変わりするだろう。
「そうカッカするな。······そうだな、俺が、映画を観るのが今日の任務だと言ったら、お前はどうする?」
「あたしに接待しろってか。冗談じゃない。
ノイズを殺す力をやる。その力で、あたしはあんたに協力する。ギブアンドテイクの話だったろ」
爆発寸前の奏を前に弦十郎は首を振った。
「······ったくよ。どうしてそう頭が固いんだ」
弦十郎は立ち上がり、奏を見下ろした。頭二つ分近くの身長差があっても、奏の気迫は弦十郎のそれに圧されはしなかった。八幡や翼にはその光景が、狂犬と睨み合っているように見えたが、弦十郎は流石に違った。
「着いてこい」
弦十郎が部屋を後にし、奏は殺気立ったままそれに続いた。
八幡と翼が扉の隙間から覗き込む中、弦十郎と奏は、弦十郎の道場で向かい合っていた。
「この道場はな、俺用に防音設備と耐衝撃を限界まで強化してあってな。おかげで、風通しは悪くなっちまったが······ここなら、邪魔は入らないぞ」
「そこまで言うんだ。これ使って構わないよな」
「ああ」
「······ッ!」
奏は、首に提げたペンダントを引きちぎった。奏は、脅しのつもりで言っただけだが、弦十郎が頷いたことで後に引けなくなり追い詰められるようにシンフォギアをまとった。
「本気で来い」
弦十郎のファイティングポーズを取る。奏は、真っ直ぐに弦十郎に突っ込んだ。
「······おおアアアッ!」
奏は二課の寮の、自室に逃げ帰るように駆け込んだ。
シンフォギアは、人間がノイズとの戦闘に耐えられるようにする一種のパワードスーツだ。それを使っても、弦十郎には、まるで歯が立たなかった。コテンパンにされて、弦十郎の家から逃げるように飛び出した。
─────なんなんだよ。全部全部全部全部全部!
「クソが······ッ!」
どれだけ叫ぼうが泣き喚こうが、自分の声がただただ室内に響くだけだった。
「弦十郎さん、今日のなんだったんですか」
奏が帰ってその後。八幡は、こっそり弦十郎に、今日の突飛な行動を聞きに行った。弦十郎は、奏が走り去った方向を見たままボソリと言った。
「······八幡。お前は、彼女を見てどう思った」
何度も聞かれた問いかけ。だが八幡には、今までとは少しだけ違う感触があった。
「なんて言うんですかね······。他にぶつける場所がないっていうか······。てかこれも、弦十郎さんの考え通りか?」
「ハッハッハ、どうだかな」
弦十郎は、笑うだけだった。
12月。夜も戌の刻を跨いだ頃。奏は、八幡や調査部の幾人かと一緒に、名古屋のホテルの一室で命令を待っていた。と言っても、ノイズ対策で待機している人間など待ちぼうけ食らっているだけな方がいいに決まっているのだが。
「公安の連中、上手くやれてますかね······」
呟いたのは、調査部で緒川の次に若い女の調査官。
「奴らだってプロだろ。ウチの調査部からも選りすぐりを出してるしな。上手くやってくれるさ」
そう言ったのは、調査部のNo.2であり今回の臨時部隊の長も務める男だった。彼は八幡を呼んだ。
「比企谷君。天羽さん、大丈夫なんだろうね?」
彼が小声で呟くと、八幡は頷いた。
「司令から、周囲を気にして戦えって命令が出てるんですよ。司令の言うことは割と素直に聞いてるんで、多分」
「了解だ。こっちも兜の緒を締めていこう」
「はい」
この部屋では、展開している公安警察官やそれに混じる二課の調査部の様子を知ることは出来ない。ノイズが出てこない限りは文字通りの待ちぼうけなのだ。それでも、税金で動いている彼らは億が一を考慮するのが常だった。
交代ごうたいで命令用の通信機に齧り付いては僅かに仮眠を取ってを繰り返しての深夜3時。
通信機が鳴った。
「ノイズが来た······」
「おい!」
奏は歌い、シンフォギアを纏ったかと思えば、窓を開けて飛び出していってしまった。
「比企谷君は彼女を止めろ! 他はノイズを見張れ!」
リーダーの指示が飛ぶと同時に、八幡も窓から飛び出した。
(あっちはどうなった! 天羽は、結局勝手に動くし!)
八幡は、全速力で奏を追う。今回の任務にあたり、シンフォギアは暗闇に紛れるようにカラーリングを暗色に変更してはいるが、シンフォギア自体夜闇に紛れて戦うというタイプのものではない。
八幡が奏の背中を視界に収めると同時、十字路でノイズと鉢合わせした。
(こんなとこに!)
AD兵器を引き抜くが、位相差障壁の無効化の効力が弱いためか、ビームは僅かに形を崩しただけで、ノイズは八幡に向かってきた。
「チ······!」
八幡がエンキドゥを出そうとしたその瞬間。
「こんな所にぃっ!」
ノイズが真っ二つになった。やったのは奏だ。肩には、ガングニールのメインウェポンでもある大槍を掛けている。
奏の背後を見れば、ノイズだったと思しき砂の山が幾つか出来ていた。ただし、周辺には目立った損傷はない。
「え······」
八幡が目の前の光景に驚いていれば、奏が八幡に話し掛けた。
「あのおっさ······司令に聞いたけど。お前、普段してる義眼今日は付けてないんだろ。そんなんでノイズ戦に出るのかよ」
「そりゃ、任務だし······」
八幡がそう言えば、奏は悲しい目をして黒一色の海を見た。
「······そうかい」
奏はポツリと呟いて、歩き出した。
「あ······」
八幡が伸ばしかけた手は、何処にも届かなかった。
奏の戦いの甲斐もあってか、公安と二課の共同という異例の任務は、聖遺物の押収と関連人物全員の逮捕が実現した。