IS×GUNDAM~シン・アスカ覚醒伝~   作:パクロス

10 / 22
明けましておめでとうございます。相変わらず更新がクソ遅いこの作品ですが、今年も一年宜しくお願いします。
では新年最初の投稿『PHASE-07:資格者の胎動』始まります。休みなので連続投稿できるようにしたいなあ……


PHASE-07:資格者の胎動

 ISアリーナは混沌たる状況と化していた。先の謎のアンノウンの襲撃から始まり、今アリーナ上空に突如発生した空間の歪みから一夏達にとって未知なる敵、しかしシンにとって見慣れた存在――人型機動兵器MSが地に降り立っていた。サイズこそ3mクラスまで縮小されているが、その外見に大きな変化はない。そして空にはシンにとってあまりに因縁の多い忌まわしき敵、フリーダムが浮遊していた。

 

「フリーダム!!!!」

 

 腕を組みシン達に人型に近い特徴的なツインアイを向けるフリーダムをにらめつけ、シンは叫ぶ。フリーダムはそれに反応せず、只彼らを見下ろしているだけである。その傲慢とも取れる態度にシンの怒りの感情はさらに上昇する。

 

「アスカさん、これは一体……」

 

 と、ここで突然の来襲のショックから立ち直ったセシリアがフリーダムやザクの存在を知るシンに問いただそうとする。しかし今のシンの耳にその声は全く入ってこない。

 

「お前ら……一体何者なんだ?」

『…………』

 

 ふと一夏がフリーダムに対し口を開くが、一夏の問いにフリーダムは答える素振りを見せない。

 代わりに返ってきたのはフリーダムが示した右腕を振り下ろす動作、そしてザクに向け放たれた言葉であった。

 

 

『噛ミ……砕ケ……』

「っ!?」

 

フリーダムが突如放った言葉――というよりは脳に直接伝わる様なもの――にシンは思わずアロンダイトを握り直し全神経を警戒させる。そしてそれは正しい判断であった。

 次の瞬間、その命令に従ったザクがビームライフルを、バックパックのミサイルを、オルトロスをシン達に向け立て続けに撃つ。

 

「ぐぅっ!!」

「うわっ!!」

「「キャァァ!!」」

 

 あまりに密度のある攻撃の嵐にシン、一夏、セシリア、鈴は悲鳴を上げてしまう。尚も降り注がれる攻撃の中、シンは上空のフリーダムに目を向ける。フリーダムは何も動かず、腕を組み傍観しているだけであった。

 

――ニヤッ――

 

「っ!」

 

 フリーダムのカメラアイ、精密パーツの集合体であるそれがまるで生き物の瞳の様に細まり、それが自分達を嘲笑しているかの様に見えたシンはとうとう心の底にグツグツとマグマの様に煮えたぎらせていた怒りを爆発させた。

 

こいつはいつもこうして高みに立ち、また……

 

「また……

 

 

俺から……

 

 

全てを奪うつもりかよ、

 

 

あんたは!!!!」

 

 その言葉と同時にシンは最大加速で飛び立つ。狙いはフリーダム。それを阻害せんとザクが攻撃をシンに集中させる。

 

「邪魔を、するなぁっ!!!!」

 

 ビームとミサイルの入り混じった激しい弾幕がシンに襲いかかるも、シンは止まらない。即座にビームライフルで狙いを定め、瞬く間に三機のザクを撃ち落とす。さらにビームライフルを収納すると、今度は先程使用したアバレストとその予備のマガジンを展開し、ザクに向け投げつける。それに対応しようと攻撃の手を緩めている隙を狙い、シンは非固定浮遊部位のCIWSを一斉射する。人に対して撃つのならたちまち肉切れに変えてしまうそれを浴びせられた165mm特殊弾頭が装填されたアバレストとマガジンはその場で大爆発を起こす。それに巻き込まれ、ザク四機が大破、五機が腕部や脚部を失い、行動不能、もしくは戦闘力の低下となる。

 

「フリーダム!!!!」

 

 一気にフリーダムの元までヴォアチュール・リュミエールで肉薄したシンはデスティニーのアロンダイトを展開、フリーダムの頭上に思い切り振り下ろす。フリーダムはそれに対し、腰のビームサーベルを引き抜きその重い一撃を防ぐ。そのまま重心をずらし、受け流す。受け流されたことで一瞬体勢を崩したシンにフリーダムはビームサーベルを振るう。

 

「させるかっ!!」

 

 シンはそれに左手にフラッシュエッジを引き抜くことで防ぐ。その状態で暫く膠着が続くと、弾かれる様に二機が離れる。一瞬の間の後、再び二機の機影は交錯する。

 戦いはまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

「シン!!」

 

 フリーダムとシンの戦いが始まったのを目で確認した一夏は援護に向かおうとするが、残ったザクが一夏を留めようと攻撃する。

 

「っ!! くそ!!」

 

 咄嗟に体をかがめることで放たれたビームの一撃を回避した一夏。ザクはビームライフルを左手に持ち帰ると、左肩のスパイク付シールドからせり出した柄を右手で握り抜き放つ。シールドから抜かれた武器――ビームトマホークを構え、一夏に斬りつけようとする。

 

「ぐぅっ!!」

 

 ビームトマホークが白式の装甲に食い込む寸前、一夏は雪片でトマホークの一撃を受け止める。そのまま一夏とザクは鍔迫り合いになる。

 

『世界……破界……虚無ヘ……誘イシ……』

「っ!? また声が!! 一体何なんだ!?」

 

 再び脳に直接届くかの様に発せられた声に一夏は戸惑うが、目の前のザクはそんな一夏に構わずトマホークを強引に押し込もうとする。ISこそが兵器の頂点と言えるこの世界においてこのザクのパワーは驚愕のものである。しかし、今の一夏にそのことを考える余裕などなく、只目の前の敵を倒すことだけである。

 

「くっ……この!!」

 

 パワーで押すザクに対し一夏は体に染み込んだ剣道の経験から刃の向きを変え、相手の得物を受け流す。ザクはそれに対応できず態勢を崩してしまい、一夏はその隙を逃さず返す刀でがら空きのザクの背部に一撃を叩き込む。雪片弐型の刃によって両断されたザクはスパークが走った後に爆発を起こした。

 

「どうだっ!? 俺だって――」

「一夏!」

「っ!?」

 

 ザクの爆発をバックに一夏は威勢のいい啖呵を切るが、それに割り込む様にはいった鈴の叫びで左右のザクが両手のビームライフルを一夏に向けていることに気づいた。避けようとするも既に左右のザクのビームライフルの銃口にビームの光が充填され、今にも放たれようとする。

 

「「一夏(織斑さん)!!」」

 

 正に撃ち込まれる寸前、セシリアと鈴が叫び、同時に二人の得物であるスター・ライトMk-Ⅳと衝撃砲が放たれる。レーザーは一夏と鍔迫り合いになっているザクの頭部を消し炭に変え、鈴の衝撃砲がザクを吹き飛ばす。

 

「織斑さん、大丈夫ですか!?」

「バカ! ちゃんと周りをよく見なさい!」

「ご、ごめん! 二人共!」

 

 二人にそう謝った一夏。そしてザクの猛攻に回避行動に専念することで対処する。近接武装しかない白式は距離を取られた場合手も足も出せない。敵の懐に入れば手はあるが、ザクが放つビームとミサイルの嵐の中それは難しい。

 それにしても、と一夏は口にする。

 

「こいつらは一体……」

「IS……なのですか?」

 

 一夏の言葉を聞いたセシリアが同意する様に言葉を繋ぐ。初めはISだと思った一夏達だったが、明らかにISとは異なる。PICではなくバーニアを用いた機動、マウント式の武装等幾つかISとは異なる部分が存在する。

 ISに似たこの敵は一体……一夏達が疑問に感じた時、何かが地面に衝突する音が響く。音の聞こえた方向に一夏達が顔を向ければ、地面に仰向けに倒れたフリーダムと、その上に馬乗りで押さえつける、憤怒の形相のシンがいた。

 

 

 

 戦闘から数十秒、その短時間に上空ではサーベルとソードが交錯することで生じたスパークの輝きが数え切れない程見えた。フリーダムは巧みにビームサーベルを扱う。シンのデスティニーはアロンダイトを力任せに振るい強引に捌く。その勢いのままシンは叩き斬るかの様にアロンダイトを振るうもフリーダムはサーベルで受け流す。その攻防がその短時間の間に幾度となく続き、攻守が変わることはあっても均衡が崩れる様子は無い。

 ここで流れが変わる。フリーダムは突然右手のビームサーベルを投げつける。

 

「!」

 

 シンは一瞬虚をつかれるもそれをアロンダイトで弾くが、空いた右手にビームライフルを持ち変えたフリーダムがビームを連射する。慌ててビームシールドで防ぐも、距離を詰められ先程の流れる様な動きではなく棍棒の様にサーベルを叩きつける。

 

『…………』

「この……調子に、乗るな!」

 

 サーベルを防いでいるビームシールドを強引に押し返す。フリーダムはそれに抵抗せず押し出される。シンは間髪入れずにビームライフルを展開、フリーダムに狙いを定める。しかし敵はこちらより一足早かった。コマの様にくるくると回転しながらもフリーダムはビームを放ち、それはビームが発射される直前のデスティニーのライフルを貫き爆散させる。

 

「ぐぅっ!!」

 

 爆発の衝撃に苦悶の声を上げながら耐えるシン。

 強い。

 このままではやられる。

 あんな奴に。

 俺から何もかも奪い、遥か高みに、まるで神にでもなったかの様に力を振るうあいつに。

 爆風からフリーダムが躍り出る。そしてとどめをささんとばかりにビームサーベルを突き出す。

 ふざけるな……

 ふざ……けるな……!

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 シンの内何かが弾けた。そしていつものあの感覚――全てがより鮮烈に感じられるあの感覚が全身を駆け巡る。

 フリーダムがビームサーベルをシンの胸に突き出すが、今のシンには止まって見えるほど遅く感じた。その一撃を僅かに体を逸らし避ける。さらそこから突き出された左腕を掴むと思い切り上空へと投げ飛ばす。フリーダムはその状態でもビームライフルを放つが、シンはヴォアチュール・リュミエールを発動、一撃、二撃と軽々と避ける。そしてフリーダムに近づくと腹部を右手で掴む。

 

『!?』

 

 フリーダムはそこから逃れようと必死にもがくがパワーならこっちが上だ。シンはフリーダムの腹部に右手のマニピュレーターを装甲等無視するかのようにめり込ませ最大出力で地上へと加速する。

 地面に減速せずに突っ込みフリーダムを叩きつける。衝突時の衝撃によるダメージでフリーダムの各部からスパークが走る。それはシンにも言えることで、右腕が今まで忘れていた分を思い出したかの様に痛み出す。

 

「ぐぅ!! ……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 しかしシンはその痛みを無視しさらなる追撃をかけようと傷ついた右腕を酷使する。

 

――パルマ・フィオキーナ、発動――

 

 右腕から放出されたビームの一撃がフリーダムに直撃する。フリーダムが抵抗するかの様に手を伸ばすが、シンは構わずにパルマ・フィオキーナを撃ち込み続ける。

 

一撃

 

二擊!

 

三擊!!

 

四擊!!!

 

そして何撃目になるだろうか、フリーダムはその動きを止め糸が切れたかの様に地面に倒れ込む。

 

「はぁっ!! ……はぁっ!!」

 

 完全に動きを止めたフリーダムを目にしながら、しかし因縁の宿敵に打ち勝ったことへの感慨に浸る様子も無く、シンは残ったザクに未だ闘志の消えぬ紅い瞳を向ける。その瞳には理性の光等既に消え、只敵を噛み砕く獣の目となっていた。

 

『…………』

 

 フリーダムが倒されてもなおシン達にその銃口を向けるザクを相手にシンはアロンダイトを構え直す。

まだだ。

敵はまだ残っている。

その事実がシンの心を震い立たせ、限界を通り越している体から力を振り絞らせる。

 

「う

 

 

 

O

 

おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 獣の様な咆哮を上げ、シンがザクに突貫する。そして振り上げたアロンダイトの光刃がザクに触れようとしたその時

 

 

 

 

 何かが突き刺さる鈍い音と共に、シンの胸から鮮血が迸った。

 

「……え?」

 

 一瞬何が起きたのか理解出来なかった。只、何かが自身の体を貫いたことは何となくだが理解出来た。シンは違和感のある胸を見ると、そこには後ろから伸びた細長い棘の様なものが突き刺さりドクドクと血が流れだしていた。

 

「ガハッ!!!!」

 

 次の瞬間、シンは大量の血を吐き出してしまう。そして意識の混濁と息切れ、全身を駆け巡る不快感がシンを襲い片膝を着かせる。

 

「ぐぅ……な、何だ……今のは……!?」

 

 朦朧とする意識の中、シンはハイパーセンサーで後ろを確認する。しかしそこには信じられないもの――倒した筈のフリーダムが起き上がる姿――が起こりハイパーセンサー越しにシンの思考に入っていった。

 

「な、に……!!」

 

 シンは思わず驚きの声を上げる。そこにはゆっくりとした緩慢な動きで起き上がるフリーダムの姿があった。その腹部はシンのデスティニーが放ったパルマ・フィオキーナによって深く抉られ、とても動ける様な状態で無いのにも関わらずに、だ。シンは胸に突き刺さっている棘の先を目で追うと、フリーダムの指先に辿り着いた。しかしその指先は機械的なものでは無く、生物的なものと化していた。

 再びアリーナに響くその音と共に、シンの体をフリーダムの伸長した棘の様な指が突き刺さる。

 

「ぐああああああああっ!!!!」

「シン! ……っ!!」

 

シンは悲痛な叫びを上げ、デスティニーの白灰色の装甲を貫かれた所から流れ出るシンの血とデスティニーのオイルが混ざり合い汚す。一夏はシンを救うべく駆けつけようとするがその前をザクがビームトマホークで切りかかり牽制する。

 

『…………』

 

 初めは抵抗したシンの体も時と共にその力が失われる。そしてフリーダムはシンを見つめるその黄色のカメラアイを禍々しい赤に光らせると、右腕を大きく振り上げシンを上空に投げ飛ばす。既に抵抗する力も残されていないシンは上空高く投げ飛ばされ

 

 

 

 

 フリーダムの腕が野太い生物的な蔦の様な形状になりながら伸び、シンの体を貫き、その胴に巨大な空洞を生み出した。

「っ!?……ぐあああああああああああああああああ!!!!」

その痛みに耐えきれずシンはアリーナに響かんばかりの絶叫を上げる。その間にもシンの体に突き刺さる野太い蔦に似た何かがシンの体に喰い込む。それを見ていたフリーダムはその最中、まるで興味をなくしたかの様な素振りを見せ、シンをアリーナの壁際へ投げ飛ばす。

 そしてアリーナに数瞬の静寂が訪れ、一夏達はその一部始終に声を出せずにいた。

 

「う、嘘だろ……」

「そんな……」

「シン……」

 

 そう呟く一夏達の声には、目の前の出来事を信じることが出来ない色が含まれていた。

 しかし煙が晴れた先には体中を貫かれ

そこから流れる血と穴だらけでボロボロになった装甲から流れるオイルに汚れ

赤い翼をもがれ倒れたシンの姿があった。

あの赤い燃える様な印象の瞳は何も映さず、只虚ろに見開かれているだけだった。

まるで死んだかの様に見開かれていた。

そのあまりに酷い姿のシンを目の当たりにし一夏達は呆然としてしまう。

 

 

 

 

『アキラ……メヨ……』

「っ!?」

 

 突然声に一夏達は我に返り、後ろを振り返ればまるで見下すかの様にフリーダムが一夏達を見ていた。そのフリーダムのカメラアイが再び光ると、それまで一夏達の前を立ちふさがっていた六機のザクが一斉にフリーダムの周りに集まる。フリーダムの周りをザクが囲む。するとフリーダムの足元か光の線が走り、そこに魔法陣にも似た円陣を組む。

その円陣が一瞬強く光り出すと同時にそれは起きた。

ザクが痙攣するかの様な動きを見せると蝋人形の様に溶け出し、円陣に吸い込まれる。吸い込まれた所から中央のフリーダムのもとへ赤い光が円陣の紋様に従い走る。中央にその光が集まると、フリーダムはその姿を変容していった。無機質な装甲はメキメキと言う音と共に昆虫の甲殻を連想させるディテールとなり、天使の様な青い八枚の翼は蝙蝠の様な生物的なものとなる。サイズも3mから8mと倍近くに膨れ上がり、その姿はC.E.でシンが相対したあの『異形』に酷似していた。

 

『絶望二身ヲ委ネ、世界ノ静寂ノ礎トナルガイイ。ソレガ本来有ルベキ理ダ』

 

「「…………」」

 

 異形の言葉に何も言えずにいるセシリアと鈴。異形から発せられる威圧感、そして圧倒的な強さを前に感じる絶望が彼女達の体を縛り付けてしまう。

 しかしその中、一人だけ絶望にうちひがれずに立ち向かおうとする者がいた。一夏だ。一夏は異形に向き合うと、雪片弐型に強く握り締める。その切っ先は震えており、誰が見ても目の前の異形を相手に恐怖で震えているのは明白だ。

 

『愚カナ。無謀ト言ウベキ「五月蝿い!」ム?』

「俺は皆を守るって、その為に強くなるって決めたんだ! だから俺はここで死ぬつもりは無い!!」

 

 そういう一夏の瞳は未だ消える闘志が燃え盛っていた。そう、一夏は未だ諦めようとしない。皆を守りたい、そのために生き残って見せる、その一夏の強い意志が一夏を諦めさせようとする異形からの威圧感を押しのけている。

異形が一歩、また一歩と近づいてゆく。と、一夏の前にセシリアと鈴が現れる。 二人の瞳もまた一夏同様闘志に満ちだしていた。

 

「何そんなへっぴり腰でカッコつけてんのよ、一夏?」

「わたくしもまだ死ぬ気はありませんでしてよ」

「鈴……セシリア……」

 

 

『ナラバ……ソノ光ヨリノ生マレシ破滅ノ力ニ犯サレ、朽チルガイイ!』

 

「「「ッ!!!!」」」

 

 異形が言葉を発し、胸のクリスタルパーツが光る。そしてそこから放たれた光線が一夏達を包み込んだ。

 

 

 

 

ここは……俺は一体……?

 

 目が覚めたシンはぼんやりと頭に浮かべる。暫くの間、その状態で居続ける。何分経ったか、回りだした頭でシンは今自分がいる場所を確認し、思わず今その地が映る自身の目が可笑しくなったのではと疑ってしまう。

 そこはかつてシンが愛する者を失い、初めて己の無力さを知り力を求め始めた地――オーブであった。辺りは戦いの跡が深く残ったままであり、所々でMSや艦船からの砲撃による残火が燃え続けていた。しかし奇妙なことにそこには人一人としていなかった。否、人だけではない。まるで時が止まっているかのようにそこには何一つとして音というものが抜け落ちていた。

 

「……やっと起きたか」

 

「っ!」

 

 不気味なまでの静寂の中、突然後ろから聞こえてきた声にシンは思わず後ろを振り返り身構え、そこにいた人物の姿に。荒れ果てた大地に墓標の様に突き刺さるM1アストレイの頭部ブレードアンテナ――そこに寄りかかっている一人の男がいた。185cm程はあるだろう長身、服装も奇妙で、特殊部隊が使用する様なスーツの上に黒いロングコートを着ている。そのコートは左腕の袖は肘から先は無く、代わりに西洋の甲冑に似たプロテクターに覆われている。全身が黒ずくめの中唯一肌が露出しているその顔立ちは白く、黒い髪の中に対照的な金のメッシュが印象的である。そして何よりもその男を印象づけるのはその瞳である。シンと同じその紅き瞳には、思わず魅了してしまう程強い『意志』を感じさせていた。

 

「そう身構えるな。俺は何もしないぞ」

 

 シンの険しい表情を見て、男は苦笑しながらで手をひらひらさせながら言う。相手の余りに緊迫感のない声にシンは気が抜けてしまう。

 しかしなんだろう、そうシンは思ってしまう。初めて会った相手というのに目の前の男を昔から知っている様な気がする。男の性格や癖、全てをこと細かく知っている様な気がする。まるで……

 

「自分自身を見てる気分だ、といったところか?」

 

「っ!?」

 

 自分が考えていたことを先に言われ、シンは驚いてしまう。一方の男はそんなシンが可笑しかったのか意地の悪い笑みを浮かべ言葉を続ける。

 

「まあ、正しいと言えば正しいし、間違ってると言えば間違ってもいる、と言ったところだ」

 

「え?」

 

 正しいのか間違ってるのか曖昧な返事に困惑するシン。一体どういうことなのか、詳しく聞こうとした所を男が口を開き遮られてしまう。

 

「で、お前はここで何をやってるんだ?」

 

「え? いや、俺は……!? そうだ! 一夏は! オルコット、凰は! 無事なのか!? 何であそこにフリーダムが……そもそもここは一体!? 何で俺はここに――オーブにいるんだ!?」

 

 男に言葉にシンは自身の先の現状を思い出し、先ほどから何一つ解決していない疑問を積が切れた様に目の前の男に浴びせかける。しかし男は何も答えず、ポツポツとつぶやくだけである。

 

「ふぅん、一夏にオルコット、凰、か。それがお前の移ろいた『世界』の人間か……」

「おい! 答えろよ! ……!?」

 

 答える様子がないのか、その男の態度に苛立ちを隠せないシンが怒声をかける。

 しかし次に男に目を向けられた瞬間、その奥に強いものを込めた瞳を前にシンの怒声は小さなものとなっていった。男は軽く溜息をつくと、唐突にシンに問いかける。

 

 

 

 

「お前は何故守りたいと願う、その心を偽る?」

 

 

 

 

と。

 

「え?」

 

 そう、シンは答えるしかなかった。

訳が分からない。

何故俺が偽っているというんだ?

俺のどこに嘘があるのだ?

様々な言葉が脳裏に浮かぶも、それらは全て口に出る前に泡の様にシンの内で消えてしまう。そうなってしまう理由は一つしかない。しかしシンはそれを口に出来ない。したら最後、シンの中で何かが壊れてしまいそうで、それが怖い。

しかし、男はそのシンの心の内を知ってか知らぬか、その瞳を向けたままその言葉を紡ぐ。

 

「恐れか、愛する者を失う苦しみ、痛み……

 

 

その恐怖に怯え、

 

 

だったら守る者がいなければいい。その考えがお前に偽りの心を作らせている……違うか?」

 

 男の言葉の一つ一つがシンの心を深く抉る。男の言うことは全て真実であった。

 シン・アスカ。かつて家族を失い、もう失わないため、守るために力を得た者。しかし守るべき者はいなく、只我武者羅に力を振るうだけであった少年。戦いの最中、彼は見つけた。守る者――戦争の道具として扱われ続けた儚げな少女を。彼女に出会ったその時、シンは今度こそ守ると誓った。しかしそれは叶わず、かつて家族を奪った蒼き堕天使に再び失った。二度と失わないと決めた少女を。

その絶望、それこそがシンの心を偽りの思いと憎しみで塗りつぶしていった。

だから、シンという少年は恐れ、一夏を、箒を、セシリアを、鈴を、自身に近づく者達を遠ざけようとする。失う、その二文字を恐るが故に。

シンは答えられない。何も。彼の心は絶望と言う闇に押しつぶされそうであった。

 

「……分からない。どうしたらいいのか、分からない……」

 

 かろうじてそれだけを言うシン。男はそれを聞いてふぅん、と相槌を打つ。シンの言葉は続く。

 

「俺は……俺は一体どうすればいいんだ? 何も出来ない……誰ひとり守れず、只人を傷つけるだけ……こんな……こんな俺に一体何をしろって言うんだ!! アンタは!!」

 

 掠れるような言葉はやがて悲痛な叫びとなって、シンの言葉となる。もう分からない。自分が何がしたいのか、自分の進む道が。

 男は叫ぶシンに向けただ一つだけ言葉を放つ。

 

「俺はお前に言うことは何もない。全てお前が決めることだ」

 

 けど俺には、とシンは漏らし、顔を地に伏せる。自分の進む未来、それが暗い闇に覆われる様な錯覚に陥る。

 しかし、と男は漏らし、続けてシンに向け放つ。

 

「只……お前が何もしなければ、さらなる絶望がお前は喰らいに来るぞ」

「……何だ、それは?」

 

 男の言葉にシンはかろうじて反応し、顔を上げる。男はシンの瞳――暗く濁った絶望の瞳を覗き込み言い放つ。

 

「お前に見せてやる。『世界』が絶望に喰われる瞬間、『破界』の刻を」

 

 そして男は右手をシンに向け、その手をシンの前でかざす。瞬間、シンの中で何かが起きた。

 

「っ!? ぐぁっ!? ……な、何だ、これは!?」

 

 最初に起きたのは平衡感覚の喪失、そして訪れる目の痛み。やがてシンは自分の内側からナニカが湧き上がってくるのを知覚した。そして湧き上がってきたナニカは目の先に到達したのを感じた時

 

シンは

 

 

 

 

「……ここ、は……?」

 

 気づけば、先程の未知の感覚は収まっていた。痛みは消え、視界も元通りに見えるようになっていた。しかし、シンの瞳に映ったのは先程の光景ではなく、正しく『世界の終焉』ともいえる場所であった。

 

「なんだよ、ここは……」

 

 太陽はドス黒い曇り空に覆い尽くされ、地は破壊され尽くされた廃墟とその残骸で埋め尽くされていた。吸う空気は灰に満ち思わず噎せてしまいそう、シンは想像を絶するその光景に呆然としてしまう。

 折れてしまいそうな心を必死に支え、シンは震える足で前に進もうとする。目の前に映るものはいくら歩いても変わらぬ廃墟に瓦礫の山、しかしその内にシンはこの景色に見覚えがあることに気づき、愕然とする。

 

「そんな……真逆……」

 

 信じたくない、その思いがシンを支配する。しかし、足元に転がっていたプレートに刻まれた紋章がそれに気づいたシンの僅かな願いを打ち砕く。そこに刻まれていたのは今シンが戦っていた場所――IS学園、その校章であった。

 シンがその事実に呆然としている、その最中、後ろが爆発の爆音が衝撃と共にシンを襲う。

 

「っ!? 一体何が……っ!? あれはっ!」

 

 シンが目を向けた先――空を覆い尽くす暗雲の中で光が弾発的に発生し、その光を背景に二つの影が切り結んでいた。一体はそのシルエットからISだと判別できるそれは日本刀に似た剣を、もう一体――ISというよりMSに近い形状の機体は両刃の剣を手に離れては近づき、互いの得物で切りつけ合っていた。

 しかし既にISの方は満身創痍だというのは両者の動きから容易に想像できた。そして僅かな拮抗もすぐに崩され、MSに似た機体が振り下ろした剣がISの刀ごと切り裂く。そしてそのままそのISの胴に蹴りを叩き込む。地に堕ちるIS。そしてシンは、そのISがシンにいつもまとわりつくあの男(・・・・・)の機体であることに気づいてしまった。

 

「一夏っ!」

 

 シンは思わずそのIS――白式の操縦者である織斑一夏の名を叫び、一夏が墜落した場所――シン達がよく使う第二アリーナへと走った。

 第二アリーナも他と変わらず崩壊した姿を晒していた。シンは砕かれたアリーナの壁から中に入り、一夏を探す。すると、見つけた。純白の装甲は黒ずみ所々が砕け、折れた刀――雪片弐型を手にする一夏が。しかし白式同様、一夏も体中傷だらけであった。

 

「く、くそぉ……」

「一夏! 逃げろ!」

 

 傷の痛みに耐えながら一夏は空を見上げる。シンはたまらず一夏に向けて叫ぶが、一夏はシンの言葉に気づく様子がない。

 

「一夏! 早くしろ! 早く――っ!?」

 

 再びシンは叫ぼうとするが、その途中で何かが起きたのか突然声が出なくなってしまう。突然のことにシンが戸惑う中、雲から先の影が現れ、一気にアリーナに降り立つ。そこでシンはようやく相手の姿を見ることができた。

 その機体はシンの予想に違わずMSであった。しかしその形状はシンの知るMSと大分異なっていた。全体的に生物的なラインの黒いボディに背には鋭角なウイングスラスター、各部には用途不明の大小様々な紅い宝玉が散りばめられ、頭部はデスティニーに酷似した顔に後頭部に向かう様に伸びた角と、幾らかMSらしき特徴こそあれ、その姿はMSとは大きく逸脱していた。

 シンがその異形の機体を見る中、一夏はいきり立つ様にその機体に向けて叫ぶ。

 

「何なんだ……何なんだよ! お前は!」

『何を言おうとするのか思えば、その様な事か……』

 

 一夏の叫びに反応するかのように、そのMSモドキから言葉が発せられる。機械越しだからかやや聞き取りづらいものの、その言葉は期待はずれだと言わんばかりのものであった。

 

『まあいい。これで達成される。奴らとの『契約』が。これでまた一つ……』

 

 MSモドキの操縦者――そう言うべきは定かではないが――は全く意味の通じないことを口にすると、左腕部を左に向ける。すると何もない空間から突如『穴』が開きそこにその腕を入れる。暫くしてそこから腕を引き抜くと、その手には一人の少女が握られていた。

 

「っ!? ……お前ぇ! 彼女を放せ!」」

 

 その少女を見た瞬間、一夏は激昂し、MSモドキに向け加速し、折れた雪片の先端を向けようとする。

 

『まずは君には大人しくしてもらおう』

 

 しかしMSモドキの操縦者はそう言うなり右腕を一夏に向ける。その右手の平、そこから光が一夏に向け放たれ、一夏に直撃する。直後、一夏の体を何かの魔法陣の様なものが拘束する。

 

「うぐっ!? 何だこれは!?」

 

 突然動きを封じられた一夏は必死に抵抗するが、円陣は一夏の抵抗をものともせず一夏を封じ込める。その間にもMSモドキはさらなる手を打とうとしていた。

 

『さて……ここに全てが整った!

 

『破界の使徒』

 

『破界の女神』

 

この一対を生贄に虚無の世より召喚せよ!

 

『破界の扉』!』

 

 その言葉と共に左手の少女が一夏に向け投げられる。同時に右腕の宝玉が外れ、紅い刀身の華奢な剣が現れる。

 

「っ!? ○○○――っ!?」

 

 一夏がその少女の名――声を出すことができないシンに届かなかった――を呼ぶ。それとMSモドキが握る剣が少女と一夏を突き刺したのは同時であった。

 二人の体から流れる血が地を汚していく。そして二人の血が交わる時、それは起きた。

 

空に亀裂が走り

 

そこに巨大な穴を生み出す

 

そしてその空洞に

 

人が

 

動物が

 

自然が

 

大地が

 

何もかもが吸い込まれてゆく

 

そしてその巨大な穴は自身も吸い込んでゆき

 

「うぅ……うゎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

世界が消滅した。

 

 

 

 

 気がつけばシンは先程の場所――戦火に焼かれたオーブに戻っていた。しかしシンの瞳にはあの光景――全ての存在が消えてゆく光景が頭から離れずにいた。

 

「いまのは、一体……」

「今のは数多ある未来の内の一つ……『可能性の世界』だ」

 

 切れ切れの息でかろうじてそれを口にしたシンの目の前に再びあの男が現れ、シンの問いに対し答えを告げる。続けて男は言う。

 

「今のが現実のものとなるか、それは俺にも分からない。世界はあの光景の通り消えることはないかもしれない」

 

 男の言葉をシンは只聞くばかりであった。可能性の未来、そう男は言った。確かに未来がそうなると決まった訳では無い。あの様に世界が消滅することなど無いのかもしれない。そもそもあんな常識を逸脱した様なこと、起きる筈がない。そうシンの理性が告げている。

 しかしシンはそれを受け入れることが出来ない。何故なら起きる起きないに関わらずあの光景――一夏が突き殺された、あの光景が今現実で起きかけているかもしれないのだ。

 誰かが、あの強大な異形を倒さねば一夏達は――。千冬達は身動きが取れず、外からの救援も間に合うかどうか分からない。誰かが、一夏達を救わねば。

 

「さて、どうする?

 

今お前に訪れる死という永遠の平穏を受け入れるか

 

生というさらなる修羅の道を進み、その先にある混沌たる世界へ向かうか」

 

 男の言葉と共に世界が変わる。それまでのいた空間が全て無くなり、シンの足元に黒い靄がまとわりつき、足元から上に上がっていく。恐怖なく、むしろ今まで感じた痛みや苦しみが消えていく。シンはそれが『死』なのだと朧げに感じた。そして男とシンの間に鏡が現れる。そこには現実で起きているもの――異形を相手に必死で戦う一夏達が映されていた。その刃はボロボロでありながら、雄叫びを上げ異形に斬りかかる一夏、ブルー・ティアーズは全て破壊されているものの、スター・ライトMk-Ⅳで必死に援護の射撃をするセシリア、そして刀身が砕けた双天牙月の代わりに二丁のサブマシンガンと両肩の衝撃砲で異形の動きを封じ込めようとする鈴。

 

「……選べというのか? 俺に?」

 

 シンは男に問いかける。男はそれにただ頷き、それから何も言わなくなる。ここから先は自分で決めろということなのだろう。

 シンは目を閉じる。その表情に焦りはない。もう死の靄がシンを覆いつくそうとしている。

人は死を受け入れた時が最も安らかな時だという。だからだろうか、死を望んでいたシンの心は平穏に満ちていた。しかし、シンを選ぶ。その答えを。その『意志』を。

 

「……俺は……俺は……」

 

 そう呟くシンの内側にはもう会うことが出来ない者――マユ、そしてステラの姿が現れる。かつて失った、シンが愛する者。

そして一夏達が現れる。今を生き、そして死の淵に沈みかけている者達。

シンは願った。

もう失わない。

皆を守る。

そして欲した。

力を。

 

そしてシンは

 

愛する者を失った悲しみから堕ちた獣は

 

 

 

 

再び願う。

 

力を。

 

もう失わないために。そして誰にも失わせないため。例えどんな苦難があろうと、守る、その『意志』を持ち、シンは告げる。

 

「俺は、戦う。もう失わないために。もう誰にも失わせないために、俺は戦う!」

 

 そう言い放つシンの瞳には、新たな『意志』が込められた、闘志の炎が灯っていた。

 そしてシンは目の前の鏡を触れる。その瞬間、鏡から光が放たれ、シンを覆う靄をかき消す。

 男はふっ、と笑い、シンの瞳に自身の瞳を合わせ告げる。

「ならば、呼び起こそう。お前が持つ力を、全てを制する『資格者』の力を」

 

 男の言葉と共に、男の瞳――シンと同じ紅い瞳の奥に紋様が浮かぶ。それと呼応するようにシンの瞳が熱くなる。しかし先と違い痛みはない。

 

「これは……」

 

 シンはこの未知なる感覚に戸惑いながらも、全身から力が湧き上がるのを感じた。そして男に目を向けると、男は言う。

 

「行ってきな、シン・アスカ。お前の望むままに、お前の『意志』のままに」

 

 それを最後に男は消える。しかしシンはそれに動じることなく、握られた右拳を開く。そこにはシンの力――デスティニーが握られていた。シンはそれを天に向け掲げ叫ぶ。

 

シンの力を。

 

「行くぞ! デスティニー!」

 

 その瞬間、シンの体を光が包み込み

 

――クオリファイア因子の増大を確認――

 

――クオリファイア因子、一定値を突破――

 

――クオリファイア因子増幅炉、始動、最大稼働(フルドライブ)――

 

 シン・アスカの覚醒が始まった。

 

 

 

 

 異形が光線を放つ。一夏はそれを回避するが余波で生じた熱によって白式の装甲が僅かに溶解する。

 

「くぅっ!!」

「一夏さん!もっと動いて下さい! それでは敵の的でしてよ!」

「お、おう!」

 

 気が付けば名前で呼んでいるセシリアに言われ一夏はそう謝罪するが、果たしてこの調子で避け続けられるか。既に一夏はボロボロの状態だ。見ればセシリアも鈴も似た様な状態である。

 

『ブルワァハハハッ!!!! クゥタバルガイィッ!! 愚カナル者ノ末裔達ヨォ!!』

 

 異形が不気味な笑いをしながら次々と死の砲撃を撒き散らし、近づく者をその野太い豪腕と鋭い爪でなぎ払い、切り裂く。その言葉は先の途切れとぎれであったものと違い、はっきりと聞き取れる程になっていた。

 異形の戦闘が始まりどれほど経過したのだろう。その間一夏達は何度か異形に攻撃を与えたが、そのどの攻撃も異形に大した損傷を与えることが出来ず、異形が持つ自己回復の力で全て徒労に終わっている。

 再び異形が光線を放つ。そしてその先にいるのは鈴であった。

 

「っ! 鈴、避けろ!」

「っ!? しまっ……キャアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 一瞬反応の遅れてしまった鈴はそれでも回避しようと甲龍のスラスターを最大にするが、光線を避けきれず装甲が溶解し、さらにスラスターが暴発し墜落してしまう。

 

「鈴!!」

 

 それを見た一夏は鈴の元へと駆けつける。幸い、鈴自身に負傷は無く、一夏は思わず安心し、それが異形への警戒心を解いてしまう結果となってしまった。

 

「鈴!! 大丈夫か!? 今助けるぞ!」

「う、うん……っ! 一夏、後ろ!!」

「っ!?」

 

 一夏が気づいた時には既に遅く、異形の胸のクリスタルパーツから光線が放たれ、真っ直ぐに一夏と鈴へと向かってきた。

 嫌にその光線が遅く感じる。一秒が数分までに延ばされたような感覚の中、一夏はじっと光線を見つめる。その瞳は初めは絶望、しかし次に生への渇望が映し出されていた

 ここで俺は死ぬのか? こんな所で、まだ何もやってもいないのに。こんなところで……。死んでたまるか……! 死んで……

 

「死んで……たまるかあああああああああああああ!!!!」

 

 瞬間、一夏の内で何かが弾けた。その瞳には光彩が失われ、そして一夏の瞳に映るもの全ての動きがとても緩慢に感じる。光線は今も尚一夏と鈴に向かって飛んできている。一夏はそれをじっと見つめながら、雪片弐型を上段に構える。一瞬一夏の瞳に菱形を四つ合わせた様な紋様が浮かぶ。途端に雪片弐型の刀身を零落白夜のそれと明らかに違う緑色の光が包み込む。そして……

 

「どおおおおおおりゃああああああああああああ!!!!」

 

 光線が一夏へ到達しようとした瞬間、一夏は雪片を振り下ろす。そして振り下ろされた雪片の一撃はなんと、文字通り異形の光線を切り裂いた。

 

「なっ!?」

「何ですって!?」

 

 その有り得ない光景に鈴とセシリアは目を見張ってしまう。驚いたのはセシリアと鈴だけでは無く、光線を放った異形もその動きから動揺しているのが手に取る様に分かった。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

『ヌウ!!』

 

 一夏はそのまま白式のスラスターで加速し、一気に異形の懐に飛び込もうとする。異形はそれを阻止しようとつ続けざまに光線を放つものの一夏にはかすりもしない。今の一夏には光線の射線が手に通るに分かり、またどこを通れば当たらないのが感覚で分かる。そして異形の目の前に到達し勢いよく雪片弐型を振るい、異形の胸をクリスタルパーツに傷をつけた。

 

『グオオオオオオォ!!!!!』

「っ!!!! ……もう一撃ぃ!!」

 

 異形が呻き声を上げる。はこれまで一度も傷つくことのなかった異形の体に確かなダメージを与えた。それに僅かながら希望を見いだした一夏は続けて異形に一太刀を入れる。

 

『小癪ナァ!!!!』

「ぐあっ!!」

「「一夏さん!!」」

 

 しかし反撃もそこまでであった。異形がその巨大な右腕で離脱しようとした一夏を掴み拘束してしまう。

 

『迂闊ナリィ……マサカ貴様ガ資格ノ因子ヲモチウシ者ダトハ……予想外デアッタァ』

「うぅ……し、資格者……? 何を言って……?」

『貴様ガ知ル必要ナドォ……ヌァイイ!! 知ラヌママ朽チ果テヨオォ!! 進化ヲ極メシ者、ソシテ我ラガガイィ!!』

 

 一夏の問いに異形は答える気はなく、代わりに一夏を掴むその腕に力を込めだした。

 

「ぐあああああああああ!!!!」

 

 全身の骨が軋む音が響き、一夏はその苦痛に絶叫する。このままでは一夏の体は潰されてしまう。

 そこに轟音共に異形の体に見えない砲撃が直撃する。

 

「っ!!」

『ム?』

「一夏を離しなさい! この化物!」

 

 全くダメージを受けた様子の無い異形が砲撃が飛ばされた方向に目を向ける。

 それは鈴の甲龍の衝撃砲の砲撃であった。スラスターを破損した鈴は地面に足を下しながら続けて衝撃砲を異形に向けて連射する。しかし異形にとってそれはいくら喰らっても効果は無い。

 

『邪魔ダ。共ニ消エ失セロォ!!』

 

 鈴を邪魔に感じたのか、異形は一夏を掴んでいる右腕を振りかぶると鈴に向けて投げ飛ばす。

 

「うわっ!!」

「っ!! きゃっ!」

 

それに気づいた鈴は避けようとするするが既に遅く、諸に一夏と激突し、転がってしまう。

 

「つう……!」

 

 痛みで一瞬目を閉じた鈴が目を開いた時、異形がその巨体から想像できない程の速度で一夏と鈴に迫る。その右腕は一夏と鈴を切り裂かんと構えられていた。

 

『朽チ果テエェイ!!』

 

 一夏と鈴が間合いに入り、異形はその鋭い爪を振り下ろす。一夏と鈴、二人のわずかな生命を刈り取るため。

 『死』、その単語が鈴の脳裏をよぎる。鈴は思わず目をつぶり、死への恐怖から逃れようとする。

 振り下ろされた異形のその腕は鈴の小さな体を切り裂こうとする。

 

 しかし、その時は訪れなかった。

 

 一瞬身構えていた鈴は何が起きたのか理解 できずきつく閉じていた目を開き、顔を上げる。そこにはあと数センチで一夏と鈴にその爪が届く、その所で動きを止めている異形の姿があった。いや、動こうと必死になっているが、何かがそれを阻害している、とでも 言うべき状態であった。

 

「何が起きたの……」

 

 鈴がそう呟くが誰もそれに答えるものはいない。 と、その時、鈴の後ろ、そこから緑色の光が放たれているのを感じた。我に返った 鈴が後ろを向く。

 

そこには

 

全身を幻想的な緑色の光に包まれ

 

神々しさを感じさせる姿の

 

シン・アスカがいた。

 

「……もう、誰も……」

 

 シンは口を開き、今まで閉じていた目を開く。その瞳――光彩の消えた赤い瞳には資格者(クオリファイア)の覚醒の証でもある菱形を四つ合わせた様な紋様が描かれていた。

 

「もう誰も……失わせはしない!!!!」

 

 シンがそう言い切ると同時に全身を包んでいた緑色の光は消え去り、全身のクリアパーツから強い光を放つISデスティニーを纏った姿で現れる。先程の損傷の跡は無く、またシン自身傷のあとが消えていた。そしてシンの髪――あの黒い髪は今や眩いばかりの金色に輝いていた。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 シンが獣の唸り声を上げ、誰も知覚出来ない程の速度で異形の懐に飛び込む。反応の遅れた異形はシンを野太い腕で振り払おうとするが、シンの繰り出す拳によって反撃出来ずにいる。

そう、只の拳である。だと言うのに、そこから繰り出される一撃一撃はそれまで一夏の雪片の一撃を除き一度も傷つくことのなかった異形の装甲をいとも簡単に打ち砕く。

 

『グオオオオオ……調子二ィ、ヌオォルナァ!!!!』

 

 しかし異形も只一方的に攻撃を受けるだけではない。腕を振り上げ、シンの頭目掛けて振り下ろす。

 

「「「シン(さん)」」」

 

 下された腕がアリーナの地面を砕いた瞬間、一夏、セシリア、鈴が同時に叫ぶ。誰もが異形がその腕を上げた瞬間砕けた地面に潰されたシンの姿を想像してしまう。

 

「なっ!?」

「いない!?」

「一体どこに!?」

 

 しかしそこにその様なシンの姿等無かった。では一体どこに、その場にいた全員がそう思った時、ハイパーセンサーが上空より飛来するISあり、との報告が入る。異形も気づいたか頭部を上に向ける。この状況で考えられる存在は一しかない。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 シンが再び叫びなが、高速で降下する。その右腕にはアトンダイトが握られていた。

 シンと異形が交錯した次の瞬間切り裂く音がアリーナに響き、異形の足は胴体から切り離されていた。

 

『グウッ!! オノォレェェェェ!! 資格者ガアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 しかし異形はその状態でも器用に体勢を保ち続ける。そして両手を突き出すとその爪は鋭く伸び、シンの体を貫こうとした。

 

「うらぁっ!!」

 

 しかしシンはそれに対し左手を大きく振るう。それだけで突風が巻き起こり、それによって異形の鋭利な指先は突き刺さる寸前で両断されてしまった。

そして間髪入れず、アロンダイトを両手に握ると思い切り地面に叩きつける。瞬間、地面に亀裂が走り異形の周りを囲み、異形の周辺の地盤を崩れ落とす。

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオ!?』

 

 これには異形もバランスを保てず、大きく仰け反る。シンはデスティニーの脚力だけ飛び上がると、その異形目掛けてアロンダイトを振り下ろす。

 

「これで、終わりだあああああああああああああああああ!!!!」

 

 シンの振るったアロンダイトの一撃は異形の頭部がら股下まで真っ直ぐ切り下ろした。

 そして異形の胸にあるクリスタルパーツを真っ二つに切り裂いた。

 

『ブゥゥゥゥルァァァァァァァァァァッ!!!!』

 

 瞬間、切り裂かれたクリスタルから靄の様な光が辺り一帯広がり、霧散した。異形は動きを止めると石像の様な色合いに変わると、所々からひび割れ始める。崩壊を遂げる中、異形はその頭部をシンに向ける。

 

「資格者ァ……我ラヲォ……倒シタ所デェ……コノ長キニ渡ル戦ィ、終ワリハセェェェン!!!! 我ラガ滅ビル時コソ世界ノ終焉ノ時ィィィィィ!!!!」

 

その言葉を最後に異形の身体がガラガラという音と共に崩壊する。そして後に残ったのは岩石の様な残骸に埋もれたフリーダムとザクの残骸だけだった。

 

「終わった……のか?」

 

 静寂に包まれたアリーナに一夏の声が響いてゆく。それを皮切りに全員の緊張が途切れる。同時に、シンも。

 

「「「っ!? シン(さん)!?」」」

 

 シンの体が倒れそうに揺れ、一夏達は思わず叫ぶ。しかしシンはその場で倒れてしまう。

 

「シン!! シン!! 起きて!! 目を覚まして!!」

 

 ISを解除した鈴が走り、シンに駆け寄る。そして上体を起こし、シンの名前を呼び続けるが、シンが答える様子はない。まるで死んでしまったかのようにその瞳を閉じている。

 

「おいシン! しっかりしろ!」

「シンさん! 起きて下さい!」

 

「シン!! ねえ、起きてよ!! シン!!

 

シン!!」

 

 シンは何も言わず、只アリーナに鈴の叫び声だけが虚しく響くだけだった。

 

 




どうも。パクロスです。冬コミでISの新装版の情報を聞いてウハウハなパクロスです。

新装版絵師が変わるそうですけど皆さんどうですかね? 私的には一夏以外は特に違和感がなかったんですが……何か巷では「バカ野郎! 箒の胸はもっとビックバンなんなんだよ!」とどこぞの穴掘り野郎レベルの会話が聞こえてきますが。とりあえずシャルが可愛いんだったらこの世は全て良し(待て)

今回はやっと第一章の山場という訳で文章量が半端ないです。何か20944文字というとんでもない文字数が見えるんですが……。ちなみにこれ、にじファン時代に投稿した時データが一回吹っ飛んで、うろ覚えの記憶で徹夜で作り直したんで読み返すとうわぁ、なあにこれとAIBOも裸足で逃げ出したくなるような棒読みをしてしまうレベルだったんで相当な書き直しがありましたね。
とりあえず今回の衝撃展開の説明をはじめますと。
はじめにフリーダムをはじめとするMSですが、C.E.のMSと違い3~5mのパワードスーツみたいなサイズになっています。で気になる性能ですが、多分ISを除いてはIS世界で最強クラスだと思います。大体MS10機でIS1機に相当すると考えてください。しかもこれからうじゃうじゃ出るのでシン達がどう立ち向かうのか大きな見所になると思います。
続けて二度目の登場となった異形ですが……喋り方がもろ若○さんやねんと思った人、手をあげなさい。完全に○本さん意識して書きました。すいません……。スパロボOGのアニメ見ててアインストの声聞いてたら自然と……。
続けてこの作品の一夏のポジションですが、はっきり言って色々と複雑なものになっていると思います。例えば一夏の父親は○○だとか、一夏は実は○○だとか、一夏はこの世界における○○だとか、ネタバレしたらえらいことになるようなことばかりです。こればっかりは今の段階では何も公開できません。今後の展開にこうご期待! といつものパターンですね、もう。
最後にシンが発動した力――クオリファイアですが、これはこの作品の根幹を握っていると言ってもおかしくないです。戦闘中に使用した能力なんてまだ所の口、本領を発揮したら相当えらいことになりますね、これ。なので暫くこの力ははっきりと説明せず、話の所々でチラっと出る程度にしときます。
何だかんだで大した説明になっていなくてすいません。感想、質問受け付けていますのでどうぞ皆さん宜しく。ではまた次回!
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