――ここはどこなのだろう............――
シンは一人、暗闇の中を歩き続けていた。その身にはザフトのエースの証でもある赤いパイロットスーツを纏い、手には同じくザフト支給の拳銃が握られていた。
身体が痛い............
いつからこうして歩いているんだろう............
出口はどこだ? 敵は?
何度もそのような疑問が頭をよぎるもすぐに霧散する。そしてどれほど歩き続けたのか、シンの耳にあの懐かしい、あの少女の声が聞こえた。
――……シン――
シンの側に気が付けばかつて彼が守ろうとし、守れなかった少女がいた。
――ステラ............?――
どうしたの? ステラ
だめだよ............君はこんなところへ来ちゃ
そういうシンに対してステラはシンが見たかったあの優しい笑顔を浮かべて言った。
――だいじょうぶ――
――ちょっとだけ会いに来た............――
ちょっとだけ? ちょっとだけなのか?
――うん............いまはね............――
............今は?
ステラのその言葉を聞き思わず繰り返すシン。ステラは言葉を紡いでいく。
――でも............またあした............――
明日?
――うん! あした! ステラ............きのう(...)をもらったの、やっと――
――だから............シンとはまたあした!――
ステラはそう言い終わると浮かび上がりシンの横を通り過ぎてゆく。
ステラ............?
シンは不思議そうにステラの名を呼びその小さな手を握ろうとするが、なぜかつかむことができない。
ステラはどんどん遠ざかる。そしてその声も小さく聞こえなくなっていく。
――あした............ね――
――あした.........――
それを最後にシンの視界が白く輝く。シンは輝くそれに手を伸ばし............
目覚めたシンがまず最初に感じたのは背中に感じるベッドの感触であった。そして目を開き周りを見渡せば白を基調とした部屋と壁際の薬と思われるビンを収納した棚が目に入った。そして鼻につく独特の薬品臭から多分ここは医務室だろうと推測する。どうやら保険医の先生はいない様だ。現在の状況を把握したシンの耳に医務室の扉が開く音が入ってくる。多分先生だと思ったシンが目を向けるが、そこにいたのは意外な人物だった。
「「あっ」」
目の前の少女――鈴を見てシンは思わずそう漏らす。一方の鈴は驚いたのか、口をパクパクしている。
何でここにいるんだ?
鈴を見てシンがまず思った疑問はそれだ。見たところ、シン以外だれもいないこの医務室に一体何の用なのか。
「............何か用でも「あ、あんた! ケガないの!? だ、大丈夫!?」............じゃあ静かにしてくれ。筋肉痛がヤバい............」
鈴の大声のせいか全身にものすごい痛みが走り、ピクピクと痙攣するシン。鈴はごめんと謝りながら、ホッとした表情で「良かった............」と口にする。
「もしかして............俺の見舞いに来たのか?」
「っ!? だ、誰があんたの為にお見舞いに来なきゃならないよ! 一夏! そう、一夏のお見舞いよ!」
「……一夏?」
余計なことを聞いたのか、鈴が思い切り喚きだす。再び体に響いて顰め面をするシンは横のベッドをカーテンが覆っていることに気づきカーテンを開く。そこには静かに眠ってる一夏がいた。
「あんたが倒れた後、一夏も倒れちゃって。肋骨数本折れてるって」
「そうだったのか」
「そうよ。あんたもあんたで急に倒れるんだし、それに……」
それに、と言った所で言葉が途切れてしまう。そのまま鈴は俯き黙ってしまう。いつものハツラツとした印象と違う様子の鈴にシンが声をかけようとした時、鈴が再び口を開く。しかしその口調は先程と打って替わって沈んだものだった。
「……った……」
「え?」
「……怖かった……あの時、一夏が殺されかけた時、あの化物があたしを襲いかかった時……あんたが……体中突き刺された時……すごく、怖かった……」
「……」
そんな鈴にシンは何も言わず只黙って聞き続ける。今まで我慢していたものが溢れてきたのか、鈴の吐露は続く。その瞳には涙が見えていた。
「父さんと母さんが離婚して、一夏とも離れ離れになってすごく嫌だった……あたしの好きな人が目の前からいなくなって悲しかった……だから、もう大事な人がいなくなっちゃうなんて、嫌ぁ……」
最後の言葉はもはや掠れて僅かしか聞き取れなかった。医務室には鈴のすすり泣く、それだけが響いていた。シンは俺のガラじゃないな、これ、と思いながら鈴の目尻の涙を伸ばした指の先で拭う。
「え?」
「それでいいよ。誰だって、家族とか、好きな人がいなくなるのは悲しいさ」
優しく目尻を撫でられたことに鈴が驚く一方、シンは自分でも内心驚く程静かな声で鈴に話していた。
「お前の父さん、生きてんのか?」
「い、生きてるわよ。勝手に殺さないでよ」
「……だったら大丈夫だろ。
「……」
そのシンの表情――どことなく悲しげな笑みとどこか含みのある台詞に朧げに察した鈴は僅かに逡巡するが、それを振り払い口を開く。
「ねえ、あんた、家族は――」
「……二年前に俺以外全員……」
「……ごめん」
鈴は俯き謝罪の言葉を述べる。シンはそれにいいよ、と返し医務室の真っ白な天井に目を向ける。その瞳に映るのはかつての光景――爆風に吹き飛ばされ惨たらしい死を迎えた妹のマユと両親であった。
「俺は……怖かったんだ」
「え?」
シンのその突然の告白に鈴は思わず戸惑いの声を上げる。シンは続ける。自身の心を、その弱さを。
「俺の家族が死んだとき……俺は何も出来なかった……家族を守れず只討った連中を見上げることしか出来なかった」
思い返すはあの時味わった『世界』という中での自身の無力さ。そして力無きがために失ってしまった大事なもの。
「だから……あれから俺は力を求め続けた。誰も失うことのない、守るための力を」
一人となったシンが宛も無く進んだ道、それは自らの信念を貫くために民を犠牲にした祖国を離れ、宇宙に生える人工の大地、そこで戦う道。
そして手に入れた。力を。『衝動』という名を冠した、シンだけの力を。
「けど……俺が手にした力は結局戦いの中で見つけた守りたい者を守れなかった……守れなかったんだ」
そう言いシンの瞳が潤む。シンが手にした力は彼が戦いの中で見つけたもの――金色の髪の幼き少女、それを守ることは出来なかった。
自身の腕の中で少女がその息を引き取った時、シンの心は焼かれた。愛する者を失った悲しみに、苦しみに、憎しみに。
「一夏も、お前もいい奴だ。俺も分かってる。でも……っ! 俺はっ! もう誰も失いたくない! もう、誰かが俺の目の前に死んでく姿を見たくない!」
「……シン……」
体が痛むにも関わらず次第に強くなるシンの叫び。鈴はシンのその心の痛みに耐えるシンの表情を只見つめることしかできない。
鈴は何も言えなかった。何も出来なかった。励ましも、慰めの言葉も言う事が出来なかった。シンのあまりに壮絶で、あまりに悲しい過去、それに誰も失ったことのない鈴に口を挟むことが出来なかった。
「ごめん……」
「ううん……アタシこそ……アンタがそんな苦しいのに全然知らなくて」
「……」
そのまま俯くシンを見て、鈴は初めてシン・アスカという少年の姿を見たと感じた。ぶっきらぼうで人を遠ざけようとする反面、心の中では誰よりも周りの人々の幸せを求めている。そのために自身が傷つこうとも。そんな不器用な生き方しかできない奴だからだろう、鈴は自身の内側である気持ちが芽生えていくのを感じた。
そして鈴はその気持ちをシンに伝える。シンのため、只それだけのために。
「……シン、自分だけで何もかも守ろうとなんてしないで」
「……え?」
「アタシは代表候補生よ! 自分の身ぐらい自分でどうにか出来るわよ!」
「それはどういう――」
鈴の言いたいことが分からないシンはその意図を聞こうとするが、それをはねのけるかの如くの勢いで鈴が話し出す。
「セシリアだってそう! 一夏だっていつもはあんなだけどホントは強いのよ! アンタが必死に守ろうとしなくたってね!」
「お前、何を――」
「~~~~! あ~! もう! だから~!
アンタは、アタシが守ってあげるって言ってんの!」
「……守、る?」
守る、そう言われたことにシンは一瞬呆然としてしまう。鈴はそうよ、と一区切り入れてさらにせきを切った様に巻き上げる。
「一人でボロボロになってまで戦われて、アタシ達はなに? ぼーっと突っ立ってろって言うの! ふざけんじゃないわよ! そんなことされて嬉しくもないわよ!」
「アンタが守りたいものの一つや二つ、アタシが代わりに守ってあげるわよ! アンタもね、一人で抱え込んでボロボロになるぐらいだったら、アタシ達に少し守らせなさい! それぐらいアタシ達のことを信じなさいよ!」
「……」
守る、自分からそう言う事は何度もあったが、誰かからそう言われたことは無かった。初めてのことにシンは思わず呆然とする。一方の鈴は言い終わってから今更の様に自分の言ったことが恥ずかしかったのか、あー、うー、と顔を赤らめながらオロオロとうろたえだしていた。
すとん、と胸の中で今まで押さえ込んできたものが抜け落ちた気がした。シンはそう感じ、そしてやっと理解した。
自分は今まで誰かを失うことに怯えて皆を拒絶してきた。その癖目の前の人々を一人で守ろうと戦ってきた。でも、違う。自分一人の力等たかが知れている。だから皆を、仲間を信じ、共に戦えばいいんだ。自分の中の恐怖、それに怯え拒絶するのではなく、仲間と共に受け入れなければいけなかった。
拒絶するのではなく受け入れる。只それだけの話だったのだ。
「……ハハッ……なんだそりゃ」
「う、うるさいわよ! 大体アンタはね――」
「ありがとう」
「え?」
シンから言われた感謝の言葉、それに気恥かしさを必死に隠そうとしていた鈴は思わず虚をつかれた表情になってしまう。
「俺を受け入れてくれて。俺を守ってくれて」
「え、あ、そんなこと……」
礼を言った訳を告げるシンに鈴は思わずうろたえてしまう。そんな鈴を見ながらシンは自身の今の偽らざる気持ちを言葉にする。
ステラを失ってからずっと戦火の中にい続けたシンにとってこんなに心が安らいだのは久しぶりであった。そんな気持ちにさせてくれたのは目の前の少女のたった一つの言葉『守る』それだった。だからシンは再び口にする。一度失い求めることに絶望したもの、その言葉を。
「お前が俺のことを守ってくれるなら、俺にも言わせてくれ、鈴……
お前は、俺が守る」
「…………」
そう告げるシンの表情は今まであったどこか陰のあるものでは無く、正しく一人の『男』の顔であった。その顔で守ると言われた鈴は自身の頬が熱くなるのを止められなかった。
(ちょ、ちょっと何なの!? いきなり何恥ずかしいこと言ってんのコイツ!? てか何でこんなにドキドキしてんのアタシの心臓!?)
心の中で瞬く間に混乱状態に陥った鈴は何とか心を落ち着かせようとするが、今だ冷めぬ頬とシンにも聞こえているのではないかと思わず錯覚してしまう程の心臓の高鳴りがそれを許してくれない。
そんな鈴の様子を知って知らずか、シンはすっと右手を鈴に差し出す。
「俺に守らせてくれ。お前を」
シンがそう言い、優しい笑みを浮かべる。暫くしてから赤くなった頬を隠すように俯いた鈴がシンの手に自身の手を伸ばす。
「そ、その……宜しく……」
夕方の医務室、夕日で出来た二つが重なった時、そこに一つの絆が生まれた。
数日後、無事退院したシンはその直後待ち構える様に医務室の前に立っていた千冬に引きずられる様な形で連れさられ、IS学園で関係者以外立ち入り禁止とされている薄暗い通路を歩いていた。
「……あの、織斑先生、どこに向かってるのかそろそろ教えてくれませんか?」
「まあもう少し待て。これが最後だ」
既に何度目となる会話を繰り返しながらシンと千冬はエレベーターに乗り込む。エレベーターの扉が閉まると同時に千冬はスーツの内側からカードを取出し、よく見なければ見逃してしまいそうなところにあるスロットに差し込む。暫くしてエレベーターが下に降りていく。エレベーターが降りていく最中、千冬はシンに声をかける。
「アスカ、これから見るものは機密事項だ。他の人間には口外するな。情報の漏洩が発覚した場合は……分かるな?」
「っ! ……分かりました」
恐らくは身柄の拘束だとかそういう類のことだろう。大体理解したシンは肯定の言葉を口にする。そうしている内にエレベーターが停止し、扉が開く。シンが足を踏み入れると、そこは最低限の照明しか点灯されず全体的に薄暗く、各所に置かれているディスプレイの光がより鮮明に見える。
「ここは……」
「IS学園の地下特別区画、教員も一部の人間しか立ち入りを許可されていない場所だ」
シンの疑問に千冬がそう答える。そしてディスプレイの一つで作業を行う人物――真耶に声をかける。
「山田先生、その後どうだ? 何か分かったか?」
「あ、織斑先生。いえ、やはり今のところ初期の調査で判明したこと以外何も……」
「あの、何の話ですか?」
話がつかめないシンが千冬と真耶に問いかける。そこで初めてシンに目を向けた真耶がああ、ごめんなさい、と言うとキーボードの上で指を動かし操作し、部屋の中央にライトが当てられる。そこにあるものを見てシンは一瞬息を飲んでしまう。
「なんでこいつが……」
シンの目の前に飛び込んだもの――それはシンにとって複雑な感情を抱かせるものであった。ボロボロになった装甲、露出したケーブル類、バラバラになったせいでいくつか足りない部分もあるがそこには先の戦闘でシンと激しい戦いを繰り広げていた敵――フリーダムの残骸が中央の金属製の台の上に置かれていた。
そしてフリーダムの横の台にはザクが置かれていた。こちらは頭部が破壊されている以外は特に損傷は見当たらない状態で置かれており、機体各部はケーブルで繋がれていた
「この機体はあの後、アリーナに残った残骸を回収したものだ。一応元の形に並べてみたが、あくまで形だけだ。機能していない」
「あれからずっと調査を進めてはいますけど、最初の調査で得られた以上のことは判明していませんね」
「............」
シンは千冬と真耶の説明を聞きつつ目の前のフリーダムをじっと見つめる。機能を停止したフリーダムは動く様子はない。
「さて、アスカ。お前はこいつのことを知っているようだが?」
「............」
千冬のその言葉でシンは自分がここに呼ばれた理由を理解した。考えてみればそうなるのは当然だろう。現在この機体の調査が進んでいない今、他に手がかりになるものといえばフリーダムのことを知っているようであるシンになる。シンは少し考える素振りを見せて、千冬達にフリーダムのことを説明した。
「こいつらはフリーダムとザク。両方ともC.E.のMSで、フリーダムは俺の……敵です」
「フリーダム……ザク……」
「これがMS……あれ? でも以前アスカ君から聞いた話では……」
うなずきかけたところで真耶がシンも疑問に思っていたことを口にする。シンの知るMSは約18mの巨体を持つ人型兵器だ。対してこのフリーダムとザクは大きさが3mとかなりサイズダウンジングがされている。細かく見るとフリーダムはともかくミネルバで何度も見たルナマリアやレイのザクとは細部が大きく異なっているのである。そして何よりもMSと異なる点がある。
「あの巨大化、あれは一体なんだ?」
「それは俺にも分かりません。あんなもん、俺は見たことありませんし、そもそもあんな技術、C.E.じゃ聞いたこともありませんし」
「ふむ............ザクの方はお前はどれぐらい知っている?」
「二機ともザフト製……俺が向こうで所属していた軍の機体ですからデータは見たことありますしザクは何度か使ったことがあるのでフリーダムより細かくは知っています」
「ふむ............」
シンの答えに千冬は低いうなり声をあげる。そして暫く何かを考える素振りを見せる。
「アスカ、あとでこの二機に関する詳細なデータを私に提出しろ。今後また同じ事態が発生した際の参考に使う」
「了解」
「それから、この後お前は生徒会に向かえ」
「はぃ……ん? 生徒会?」
素直に返事をしようとしたところでシンは明らかにこの流れで可笑しい単語に戸惑いの声を上げてしまう。こういう状況に生徒会が関与することなのか、シンの中でその様な疑問が出てくる。そんなシンの疑問に気づいたか千冬が説明を加える。
「そうだ。今後のことも鑑みてお前はを生徒会の所属にすることになった。更識のやつも了承している。あとで挨拶と今後の打ち合わせをしておけ」
一応理解はしたものの一部の教師しか関与していないこの件に何故生徒会が関与できるのかという疑問は残る。と、千冬がシンに顔を向け、含みのある妖艶な笑みを浮かべた。
「言っておくが、ここの生徒会は普通の生徒会とは大分違うぞ。特に生徒会長は、な。うっかりすると喰われるぞ」
千冬の言葉を理解したのはそれから随分先になり、後にシンはそのことを後悔したそうだとか。
地下での千冬との話を終えたシンは地上に上がり早速生徒会に向かって歩いていた。その最中、シンは対抗戦で起きた一連の出来事を自分なりに考察していた。フリーダム、ザク、あの『異形』、そしてISとなった自分の愛機デスティニー。現在シンの中で最も不可思議に思えるのはデスティニーである。
(そもそもデスティニーにはおかしな点が多かったな……)
ジブラルタル基地でデュランダルから授与されたデスティニーであるが、整備の際整備士にも機密だとかで接触禁止されていた部分があったりと謎の多い機体であった。そしてこの世界に辿り着いた際に起こったISとの融合、そして対抗戦で起きた謎の力。
一体デスティニーにはどんな秘密があるのだろうか、議長は何で俺にそこまで特殊な機体を託したのか、疑問がつきることはない。
そこまで考えていると、気が付けばシンは生徒会室の前にたどり着いていた。
「っと、ここか............っ!?」
突然後ろから殺気のようなものを感じたシンは慌てて後ろを向くが、そこには何もいない。
「なんだ、今のは「フハハハハハハハ! 甘いぞ、シン・アスカ!」っ!?」
今度はどこからともなく若い女性の笑い声(やや口調がおかしいが)が廊下に響き渡り、シンは驚いてしまう。そして周りを見渡すも、先程同様やはり誰もいない。
「私はここだぁっ!!!!」
「って、何いいいっ!?」
と、ここで再び声が聞こえると同時に天井から突如、IS学園の制服に三色に彩られた怪しさ満点のマスクをかぶった女が現れ、そのまま天井に逆さまの状態でぶら下がりシンの目の前に現れたではないか。シンはあまりに(色々と)ぶっ飛んだ光景に思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「あ、あんたは一体なんなんだ!!」
「私の名前はシュバルツ・シュベスター! 見ての通りネオ・ロシアのISファイターだ!」
「いや知らねえし! てかなんだよ、ネオ・ロシアって!」
シンは色々と突っ込みどころのある紹介に半ギレ状態で突っ込む。というかホントなんだよ、ネオ・ロシアって。そもそもなんでロシアなのに名前がドイツ語なのだか。そんなシンと恐らく読者も思うだろうツッコミを無視しシュバルツ・シュベスターの話は続く。
「シン・アスカよ! この私、シュバルツ・シュベスターが貴様にISファイトを申し込む! そして「会長、そんなところで何しているんですかー? 早く降りて持ってきてくださーい!」............」
やや気まずい空気が廊下に漂う。どうしていいやらと判断に困ったシンはとりあえず逆さまにぶら下がったまま(頭に血が上って辛くないのだろうか)固まっている『会長』と呼ばれた女に声をかけることにする。
「えっと、降りたらどうですか?」
「............」
シンに言われた『会長』は何も言わずに天井から足を離し綺麗に床に着地する。しかしその顔はマスク越しでも分かるぐらい暗い。先程の偉そうな態度はどこにいったのやら。
「……とりあえず、ついてきて」
「あ、はい」
『会長』の言葉に頷きシンは『会長』の後ろをついていく。別に従わなくても良かったのだが流石にこの状況でその選択は相手の何か大事なものを傷つけそうだったのでやめておく。そして『会長』がドアノブを回し重厚な扉を開ける。部屋に足を進めると、なるほど、千冬のいう通り、ここの生徒会は普通のと随分違うようだ。内装からして大分豪華なものである。
「あ、お帰りなさい。会長」
「……うんただいま、虚。あとせっかくカッコよく登場したのに水差さないで……」
「知りません、そんなこと」
「う~~~~」
「............」
入って早々こんな会話にシンはどう会話に入ればいいか迷ってしまう。と、ここで『会長』が今までかぶっていた変態マスクを外す。はずしたその顔は青い髪に綺麗な顔立ちであった。
「さて、では改めまして。ようこそシン・アスカ君。生徒会へ。私は更識楯無。この学園の生徒会長よ」
「はあ、どうも。シン・アスカです」
『会長』――楯無の挨拶にシンは気の抜けた返事をしながら差し出された手を握り、握手する。正直最初のインパクトが強すぎたせいか、至極真面目な挨拶に違和感を感じてしまう。
次に楯無の横に虚と呼ばれた女性が立つ。胸元のリボンから判断するに三年生のようだ。
「初めまして、シン・アスカさん。私は布仏虚。生徒会の会計をやらせていただいております」
「あ、はい。よろしく............ん? 布仏?」
どこかで聞いたことのある苗字にシンは思い出そうと皺を寄せる。そうしていると楯無がああ、と納得したかのような表情を浮かべる。
「アスカ君の知ってる布仏って本音ちゃんのことでしょ?」
「え? あ、はい。そうです」
「あの子ならそこよ」
そういって楯無が示す先――生徒会室の中央のこれまた値の張りそうなテーブルにつっぷして寝ている本音の姿が。
「んー............あ、アッスーだー。やっほー」
半分寝ぼけ気味の本音がシンの姿を見て起き上がり眠たげな声で挨拶する。
「あの子は知ってると思うけど君のクラスメイトの布仏本音。生徒会の書記担当ね」
「あいつ書記かよ……」
楯無から本音の担当を聞いてシンは半ば呆れ気味な声で返事をしてしまう。普段からぼーっとしている彼女に書記とは完全に人選を間違えている、とシンは若干本音に失礼な感想を抱いてしまう。
そんなシンの言葉に気づいてか楯無が答える。
「あー大丈夫。あの子は基本仕事しないから別に業務に支障はないわ」
「いや、それでいいのかよ……」
「その代わり君には書記補佐の仕事やってもらうから。まあ補佐って言っても実質書記の仕事全部やってもらうから」
そんなら書記の担当をシンに回してもいい気がするが気にしないでおこう。何はともあれ自己紹介が終わったところで楯無が本題に移る。
「さて、ではシン・アスカ君。君にはこれからこの生徒会に所属してもらうわ。またあの敵が来襲してきたときに備えて対処法などを先生方と交えて検討していくわ」
「言われなくてもそのつもりですけど……何で生徒会が? 普通生徒会ってそこまで関わるものですか?」
そこまで話が進んだところでシンは、先程から感じていた疑問を楯無に振ってみる。それに対して楯無はすぐにその答えを教えてくれた。
「まあ、それは生徒会というより私たちの家だから、ってところかしら?」
「どういうことですか?」
「暗部って分かる?」
楯無からの問題にシンは首を横に振って答えると楯無が暗部についての説明を始める。
「暗部っていうのは裏工作を専門に行う部隊のことで更識家は昔から対暗部用暗部として活動している訳。ちなみに私はその更識家の第十七代当主。虚達布仏家は代々更識家に仕えてる間柄というわけ。」
「ふーん。スパイみたいなもんですか?」
「まあ、そうとってもらっても構わないわ。お姉さんとしては『バットマン』とか『みんな大好きマクミラン大尉!』って言ってくれた方がいいんだけどね」
「いやそんなこと言われても。てかさっきからなんですかそのチョイス?」
先程のシュバルツネタといいこの人は一体なんなんだろうか。そうシンが思っていると横から虚が耳打ちしてきた。
(ごめんなさいね。お嬢様、昔からアニメとかゲームが好きなものですから)
(な、なるほど............)
虚の話を聞き、シンが若干ひきながらも返事をする。確かに奥にある『生徒会長』と書かれた会長席にはいくつかの書類と資料に紛れてあちこちにアニメのフィギュアが置いてある。会長席が他の備品と同じく高級感を出しているだけに違和感がすさまじい。後ろの壁を見れば資料と一緒に『武神装甲ダイゼンガー』と書かれたどこかで見たことのあるポスターが貼られている。
「まあ、そういう訳だからこれから宜しくね、アスカ君」
「宜しくお願いします、アスカさん」
「宜しくー、アッスー」
その場にいる三人が其々そう改めて挨拶をする。それにシンが返事をすると楯無がさて、と声を出し部屋に備え付けの冷蔵庫からケーキの入った箱を取り出した。
「では今から『シン・アスカ君生徒会役員就任パーティー』を始めます! 今日は無礼講じゃー!」
「おー!」
「え? え?」
突然楯無が開催しだしたパーティーにシンは面食らってしまう。そうしている間にも虚が紅茶を入れ、本音がテーブルクロスを敷いていく。その準備がやけに速いので一瞬こっちの方が本命だったのでは、と思ってしまう程だ。
「では開催!」
「いえーい!」
「え? お、おー……」
そうしている内に始まったパーティーにシンは思わず間の抜けた返事で返してしまう。
「さあさあアスカ君、まずは虚の紅茶でも飲みなさいよ。虚の入れる紅茶は世界一よ」
「はあ、じゃあいただきます」
楯無に急かされシンは虚の入れた紅茶を一口口にする。途端に紅茶の良い香りが広がり旨味が舌に伝わっていく。あまり味を気にしないシンでも美味しいと思える味だ。
「美味いですね」
「でしょでしょ? じゃ次はケーキでもどうぞ。私が作ったんだから味は保証するわ」
「はあ。でもいいんですか? 俺なんかの為にわざわざ............」
シンがそう言うと楯無がまあまあ、と相槌を打ちつつ返事を返す。
「こういうのは皆でやるのが一番よ! あなたも十二分に楽しみなさい!」
「まあ、会長はこういう人ですから」
「はあ……」
楯無の言葉に続ける様な形で虚が答え、シンは曖昧な返事を返す。
(最近は楽しむなんて無かったからな……)
C.E.ではずっと激闘続きで何かを楽しむ余裕も無く、この世界に来てからもまた色々ありすぎてその様な余裕も無かった。何よりシンの心情が何かを楽しむなんて気分にならなかったことも大きい。
(ま、悪くはないかな)
シンはそう思いながら、紅茶に口をつけた。
ちなみにその後のパーティだがやたらテンションがハイになった楯無がシンに自身の豊満な胸を押し付けたり、調子に乗って脱ぎだしたりしてと、シンの精神をガリガリと削られることとなった。
「あ~……疲れた」
二時間程してようやく楯無の過剰極まりないスキンシップから解放されたシンはフラフラした足取りで帰路についていた。シンだけならともかく虚にまでそれをかけてくるから困る。特にいきなり「虚だ~い好き!」といってキスしだした時は流石の虚も顔を真っ赤にしたものである。
そんなことを思い出しながらシンは寮までの道を歩いていると、道の脇のベンチに座って空を眺めている見知った人物に気がつき思わず声をかける。
「ん? 鈴? 何やってんだ、そこで?」
「っ!? ……き、急に声かけないでよ! ビックリするでしょ!」
「はいはい」
相変わらずの態度の鈴にシンは適当な返事をしながら鈴の隣に座る。医務室のことがあってから前より仲は良くなったが、それでもちょっとしたことですぐ口喧嘩に移ってしまうのはもはや二人の性分としか言い様がない状態である。
鈴の隣に座ったシンは鈴を見る。
「何?」
「いや。……空、見るの好きなのか?」
「ん……まあ、好きかな」
そういって鈴は再び夜の空に目を向ける。隣に座るシンは同じ様に空を見上げる。かつて、別の世界ではそこで暮らし、戦っていたその場所に。
「……父さんと母さんがね」
「……ん」
暫くしてポツリと語りだした鈴にシンは相槌をうって続きを促す。
「離婚して、その後IS適正が高かったから代表候補生育成コースに入ったの。正直初めは毎日キツくてね、何でこんなことやってんだろって毎晩泣いてたの」
候補生とはいえその道は険しい。特に鈴は僅か一年で候補生になったのだから血反吐を吐く様な日々だったのだろう。シンも思わずアカデミーに入ったばかりで慣れない訓練の厳しい時期を思い出す。
「そういう時、よくこうして空を見てたんだ。夜空の星とか見てると自分がすごくちっちゃな存在に思えてきて、そしたら次の日も頑張れる、そんな気がしてくるの」
「……空、ね」
「アンタは好き? こうして空を見るの」
その問いを答えるのに少し時間を要した。空。宇宙。そこであった二年程の出来事を思い出す。
「どうだろ……あそこで色々なもの、無くしたからあまりいい思い出がないな」
「何それ? 宇宙に住んでました、って感じだけど」
「っと、何でもない」
少し感傷に浸ってたからか、うっかりC.E.の頃のことを口にしてしまう。怪訝そうに見る鈴にそう返す。
「まあでも、お前と一緒に見るこの空は、悪くないかな」
「っ!? い、いきなり何言ってんの!?」
「へ? 何がって何が?」
直後に慌てた様に返す鈴にシンは訳が分からないように返すが、それが余計に鈴の機嫌を損ねた様で、いきなりシンの頬をつねり出す鈴。
「イテテテテテテ!!」
「アンタのその天然なところがすっごく腹立つんだけど!」
「何がだよ! 何が!」
知らないわよ!、と鈴は返しそのままつねり続ける。その後は毎度恒例のやたらレベルの低い口喧嘩に入る二人。しかしその様子はまるでじゃれあい猫の様だったりなかったり。そして二人の表情も怒っていながらもどこか満ち足りているかのようであった。
そうして二人の夜は過ぎていくのであった。
マユ............ステラ............レイ............俺はこの世界で俺なりに生きてみるよ。お前たちの分も背負って生きてみるよ。
どうも。パクロスです。遊戯王の二次を書こうと思ってるパクロスです。
ストーリーは5D'sで「氷結界」デッキを使う主人公が遊戯王の(色々可笑しい)ノリで遊星達とわいわいやるストーリーですけど、そもそもそれ書くんならこっちさっさと書けって話ですよね、はい。
というわけでやっと第一章終了です。この後サイドストーリーをはさんで第二章突入です。やったぜお前ら、ようやくシャルが登場だ!
今回は医務室のストーリーでホント手間取りました。他の部分はあとがき書いている一時間前に修正終わったというのに……。只修正前は鈴の言葉にシンが泣くというやつでシンが何か女々しい感じになってたんで、今回は少し男らしくシンを書き直して、鈴はヒロインっぽくしてみました。どうですかね。ただ、これで一夏の出番が完全に消えちまった。一夏ぇ……。
次に我らがたっちゃんこと楯無登場……で、どうしてこうなった(キャラ的な意味で)。シリアスが終了した途端このノリだよ……。多分これからこんな変態上級生がどんどん出てくると思うので皆さんお楽しみに(笑)
次は度々シンに話しかける謎の人物にスポットを当てます。そこらへんは完全にオリジナルストーリーの上、本編と関連性が無い感じになってますけど、宜しくお願いします。
ではまた次回をお楽しみに。ではでは。