愚痴はともかくしてPHASE-09始まるよー!
PHASE-09:暗躍する影、フランスより現れし女神
ロシア連邦ウクライナ、極寒の地の山奥、人の手によって出来た人工の洞窟の中は今、銃声や弾が人肉を引きちぎる音、その他破壊音で充満していた。
ライフルから発せられる重厚な発射音と同時にその銃口の先にいた数人のゲリラ兵が全身から血を吹き出しながら掘り出されてから舗装されることなく剥き出しとなっている地面に倒れる。そしてゲリラが死守していた通りを国連のマークを肩につけた屈強な兵士達が駆け抜ける。その光景は至る所で見られていた。
『C2N1死亡6、制圧2』
『F1クリア』
『F2S3死亡3、制圧6』
国連の特殊制圧部隊――彼らが耳元に付ける通信機から次々と制圧完了を知らせる声が聞こえてくる。そのままこのゲリラ掃討戦も終了するかと思われたが、全てが順調にいかないのが世の常である。
『こちらラブレンチ1、C1E3に地図に載っていない坑道があります。バリを張って立て籠っている残りの連中が抵抗中、援護を』
『
その通信越しの会話から数分後、銃弾の応酬が続くC1E3区画に不格好な装甲で固めた2m50cm程の巨人――
MGが出力を上げ坑道の中を突入する。MGの存在に気づいたゲリラ兵がライフルを一斉に撃つが、MGの強固な装甲がそれをことごとく弾き返す。そしてその勢いのままバリケードを崩し、破壊されたバリケード同様吹き飛ばされたゲリラ兵を過剰とも言える両腕に固定されている大口径ガトリングガンの斉射で一掃する。
『ブロンゾ1制圧完了、これより内部に進行する』
報告を終えたブロンゾ1というコールサインのMGのパイロットは坑道の入口で待機していたラヴレンチ1に合図を出し坑道の先にあった小部屋に入っていく。幾つかのコンテナと何かの作業をしていたらしく、あちこちにスパナやレンチといった道具が落ちていた。ブロンゾ1はMGに搭載されている心音センサーで周囲を確認、敵勢力がいないことを確認したところでラヴレンチ1に合図を出し、暑苦しいMGの防護メットを上にスライドさせて無精ひげの生えた顔を外気にさらしほっと一息つく。
「これで全部か?」
「さあな。そう祈りたいところだがな」
「自爆装置でも仕掛けられたりしてな」
「ハハハ、よせよ。ホントにあったら……っ!」
ラヴレンチ1と冗談混じりの会話を交えながらブロンゾ1は周囲を見渡し……そこで部屋の奥に潜むように鎮座されているソレを見て言葉を失う。
「ん? どうしたんだ?」
「……おい、これ見てみろよ」
「何だ……っ!? ……道理で連中、必死でここ守ってた訳だ」
様子の可笑しいブロンゾ1に気づいたラヴレンチ1が声をかけるが、パイロットの視線の先にある物を見て同様の状態になる。
そこにあったのはMGに似た機体であった。しかし無骨なデザインのMGと異なり、そのデザインはより洗練されたものであった。機体色はスカイブルー、肩部にスパイク付きのアーマーがあり、前腕部には給弾方式が不明の五連式マシンガンが装備されていた。さらに背部を見てみるとウイングがあり、この機体が飛行能力を持つことを示していた。
「こんなモン、一体どこのどいつが造ったんだ?」
「到底こんな所で作れんとは思えんが……こちらブロンゾ1、C1E3の坑道の奥にてMGに似た機動兵器を発見、指示を……っ!?」
互いに感想を漏らしつつブロンゾ1が報告を行う。しかしその途中に目の前で起きたことに気がつき、驚きに満ちた表情になる。
目の前に鎮座していたそのMGモドキが低い、唸り声に似た低い音を響かせる。そして全身が震えたと同時に、その頭部のバイザーの中心を赤い光が宿る。足が大地を踏みしめた瞬間、目の前の光景が現実の物だと二人はようやく認識する。
「う、うわっ!!」
「こいつっ!!」
『ブロンゾ1、どうした? 応答せよ。ブロンゾ1』
通信機から聞こえる声に返すことを忘れ、二人は目の前で動き出すMGモドキに向けライフルとガトリングガンを連射する。しかしMGモドキはそれをモノともせず、両腕のマシンガンを二人に向け、その銃口から
「ビ、ビームだとっ!?」
どちらが言ったのか、思わずそう叫んだ数秒後、壁面に血糊がへばりつき、辺りには肉が焼ける匂いが充満した。
それから1分後、山の一部から爆薬による爆発が起こり、そこから一体の機体が飛び出した。
~~~~~~~~~
「くそっ! 何で国連の連中がここにっ!?」
思いつく限りの悪態を付きながらそのMGモドキ――
マズイことになってしまった、と男は呟く。この機体――もしかしたらISに匹敵するのでは、と思わせる程のスペックを持つこのMSを無償で渡してくれた彼らの後援者にこのことがバレてしまったら、例え生き延びても後に待つのは破滅である。それ程の財力と権力を持っているのだ。彼らの後援者は。
これからどうするのか、目の前のことより先のことを思案していた男は自分の前に滑るような速度で現れた一体の機影に驚いてしまった。
鋼の流線型の装甲
背部非固定浮遊部位には鎧武者の肩に付ける『袖』に似た装甲と一体化している高機動型であることを指し示すスラスター
そのフォルムは日本の古代の鎧武者
その機体はの名は――
「う、打鉄……」
その機体――ISJX―001『則宗』は背部のスラスターを吹かし、一気に間合を詰めると、いつの間にか展開していた一振りの刀を居合切りの様に抜き放つ。次の瞬間MSはその翼を切り落とされロシアの雪の大地の中に墜落していった。
「全く……難儀なものだ……」
顔を隠すためのバイザーを格納し、ロシアの冷たい風にウェーブのかかった黒髪をなびかせる。そして則宗の操縦者、西條葵は深い溜息をついた。
~~~~~~~~~
作戦終了から数時間後、人員や各種装備等を積んだトレーラー数台がウクライナの地を次々と離れていく中、一台の大型車両のみがその場に留まっていた。
その車両内――備え付けのコンピューターや通信機材が所狭しと搭載されあまり居心地の良くない車内にて年配の男――師星壇が目の前で作業を続ける癖っ毛のある栗毛の若い職員――草薙玲二に思わずぼやく。
「しかし面倒だな。ここ最近」
「そうですね。この一ヶ月でもう六件目ですね。いい加減休みたい所なんですけど……」
「んなこと言ったってIS持ってんの、うちのチームだけだろ。こいつらの相手出来るの、他にいるか?」
ここ最近の絶え間無い出動に愚痴を言う玲二にその反対の席で資料を整理する知己的な印象を与える男――黒崎悠哉が返す。
「そんなこと言ったって――」
それでも尚愚痴を漏らそうとする玲二だが、それを遮る形で自動扉が開き、そこから男物のスーツに身を包んだ若い女性――西條葵がトレンチコートを着ながら入ってくる。
「諸君、状況は?」
「ああ、西條少佐、お疲れ様です」
葵の姿を認めた悠哉はそう返事を返すと、コンピューターを操作し中空モニターを葵の前に投影させる。
「歩兵隊とMG隊は撤収完了、後の始末はロシアに任せます」
「青鼻の痕跡は?」
「パーツ類は全て押収しました。やられたレチル二曹とパドム少尉はゲリラが仕掛けたトラップにかかったことにします。青鼻が開けた穴はその時の余波でってことで」
「ふむ……」
優秀な自分の部下の報告を聞きながら葵は手にしたコーヒーを口にする。いくらISの操縦者保護機能があるといってもロシアの氷点下の空気は体に堪える。熱を持ったコーヒーを胃に流し込み、体温が上昇していくのを知覚している葵に壇が声をかける。
「青鼻に乗ってた奴はどうなりました?」
「墜落の衝撃で肋骨を折ってはいるが大事ではないさ」
壇にそう答え、葵は目の前の中空モニターを操作する。そこには今回以外の作戦で鹵獲したMSが映し出されていた。
「MGとは比較にならん性能のパワードスーツ……」
「この一ヶ月で六件目、捉えた数は9機……既に量産体制は整っている、ということですかな?」
「ああ。そして実戦データの収集も兼ねてゲリラに回しているのだろうな」
「でも妙じゃありませんか? わざわざゲリラに回してデータ取りなんて」
「自分達で取ればいい話じゃないんですか?」
葵と壇の話が続く中、ふと疑問に思った若手の二人が口を挟む。
「データ取りのためのテストをするとなると軍の許可がいる。造った連中は軍に知られたくなかったのだろう。造ったのは恐らく民間軍需産業、ISにも匹敵するだろうこの戦力、今の軍に売り込むより自分達の独自戦力として活用するつもりなのだろうな」
「今軍に売り込んでもIS派閥と反IS派閥の衝突で生産ラインに乗るのは数年後になるでしょうし」
「「ははぁ……」」
僅かな情報の中からここまで推測してしまう自分の上司と年配の先輩の読みの深さに玲二と悠哉は思わず感嘆の声を漏らす。
ともあれ、とそこで葵は一度言葉を切り、話を切り替える。
「ISが世に出て10年目、男性操縦者の出現からこの騒ぎ……この分ではまた世界が大きく動き出すな……」
そう言う葵の黒く澄んだ瞳は中空モニターに映し出される二つの画像――白式を纏う織斑一夏とデスティニーを駆るシン・アスカの姿を見つめていた。
~~~~~~~~~
第二章:破界の使徒と女神の巡り逢い
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子供の頃の記憶は小学生より昔のものが無かった。千冬姉に聞いてもあまり教えて貰えず、何故か千冬姉は少し悲しい顔をする。多分俺達の両親のことなんだろうと、幼いながらもなんとなく気付いた俺はそれからあまり聞こうとしなかった。
写真も残っていない。千冬姉が捨てたのか、そもそもそんなもの無かったのか。そんなものだったから昔の記憶なんてこれっぽっちも無い。まあ、子供の頃の記憶なんて15にもなれば皆大体忘れてるもんだし、大した記憶もないだろうと思って、段々そのことを気にしなくなっていった。
でも、時々夢を見る。どこか――周りの景色から見て多分外国だろう――の公園で、小さい女の子が泣いてた。俺は地面に倒れていた。体のあちこちが痛くて、顔には爪で引っかかれたような傷がついてた。
「ゴメンなさい……ゴメンなさい……私の、私のせいで……」
女の子が泣きながら謝ってくる。そんなに泣かないでほしい。俺は君を守りたかったのだから。俺は君を守れたのだから。だから彼女に言った。
「……泣かないで」
「……え?」
言われた女の子は驚いた顔をする。可愛い、と幼かった俺は何となく思った。でも泣いてるより笑った方がもっと可愛いだろうなと思った俺は彼女に笑いかけ、こう言った。
「大丈夫。君は僕が――」
「……またあの夢か……」
気が付けばもう朝だった。いつも夢は俺が何か言う前に覚めてしまう。そして訪れる既視感。一体あの夢はなんなのだろうといつも俺は気になってしまう。
部屋のカーテンを開くと、太陽の光が薄暗かった部屋を明るくする。
「……」
胸に残るもやもやとした感覚。でも少しすればすぐ忘れるだろうと思い、俺――織斑一夏は今日という日を過ごすのであった。
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「で?」
「でって?」
「いきなり何だ?」
赤みがかった茶髪の少年――五反田弾の言葉に一夏とシンの二人は怪訝そうな表情で聞き返す。
六月最初の日曜日、シンと一夏は現在弾の家にいた。本来なら一夏は家の様子を見た後一人で行くつもりだったのだが、一夏がシンにその話をしたところ午後から外に用事があるがそれまで暇なので、ということで一緒に行くことになったのである。
「女の園の話だよ。いい思いしてるんだろ?」
「いい思いってなあ……」
「特にそんなもの無いぞ」
弾からの質問に互いに顔を見合わせた一夏とシンは素直な感想を述べる。それを聞いて弾が不服そうな顔をするが一夏もシンも他に答えようがない。
確かに女子は多いので弾が望む出会いはあるだろうが、それ以上に大量の女子の中男子が二人だけという状況がきつい、というのが現在IS学園在籍中の二人の共通意見である。
「嘘つくな嘘を。一夏、お前のメール見てるけど楽園じゃねえか。招待券ないのか? ねえ無いの? あるんでしょ? あるに違いないわよね? あるのにくれないなんて酷いじゃないの?」
「気持ち悪い」
「地獄に落ちろ」
「ひでえ」
何故か途中からオカマ口調になっている弾に一夏とシンは容赦ない一言を浴びせる。弾がぼやくが実際そうなので他に言い様が無い。
そうして高校生三人組が部屋の中でゲームに興じながらダラダラと過ごしていると、突然思い切りドアが蹴り破られ、弾の部屋に一人の少女が入ってくる。五反田蘭、中学三年生の弾の妹である。
「お兄! さっきからお昼出来たって言ってんでしょ! さっさと食べに……っ!?」
弾に対して大声で怒鳴りちらす蘭であったが、一夏の姿を視界にとらえた途端その声は小さなものになっていく。
「い、一夏さん!?」
「お! 久しぶり。邪魔してるぞ」
そして一夏がいることに驚いてか、声を荒げる蘭。一方の一夏はそんな蘭と対照的に普通に返事をする。ちなみにシンのことは目に入っていない様でシンに対して何の反応も示さない。
「蘭、お前なあ、ノックぐらいしろよ。恥知らずな女だと思われ……っ!?」
(何で一夏さんが来てるって言ってくれないの!)
(あ、あれ? 言ってなかったっけ? アハハハハ……)
弾がそう言いかけたところで、射殺さんとばかりに蘭が弾を睨めつけ、弾は気のせいかどんどん縮んでいってる様に見える。そして何も言わなくても伝わるこのやり取り、これだけでこの兄弟の上下関係が丸分かりである。
再度蘭は弾を視線だけで射殺せてしまえそうな感じで睨めつけると、今の恰好を一夏に見られるのが恥ずかしいのか、そそくさと部屋を出る。ちなみに今の蘭はショートパンツにタンクトップとラフな格好である。と、顔だけドアから出し一夏に言う。
「あ、あの、よかったら一夏さんもお昼どうぞまだ、ですよね?」
「お、いただくよ。ありがとう」
「い、いえ……」
それを最後に蘭がドアから離れパタンと閉まる。そこから暫く静寂が訪れるが、それを破ったのはシンの妙に哀愁の漂う一言だった。
「俺のこと無視だったけど……」
「ごめん。うちの妹、一夏のことになると周りが見えなくなって……」
「……」
「……」
そして二人は同時に溜息。何に対してかは敢えて言うまい。そんな中、一夏はそれにしても、と口にする。
「蘭ともかれこれ三年の付き合いになるけど、まだ俺に心を開いてくれないのかねぇ」
「は?」
「いや、だってよそよそしいだろ。今もさっさと部屋から出て行ったし」
「「……」」
一夏のその台詞にシンと弾は暫く沈黙していると、はあ、と再び二人同時に溜息をつく。何に対しては言うまでもない。
「? 何だよ?」
「いやー、なんというか、お前はわざとやっているのかと思うときがあるぜ」
「初めて会った俺でも分かるのにお前は……」
「?」
「まあ、分からないんだったらいいんだ。うん。俺もこんなに歳の近い弟はいらん」
何はともあれ昼飯だということなので三人は部屋から出る。そして裏口から一度表に出てから店の入口に入っていく。
一見面倒に感じるこの構造だが、弾曰く私生活に商売が入らない、とのことらしい。両親が研究者であったシンにはあまりピンとこない話だが、自営業を営む家の人間がそう言うのだからそうなのだろうと納得させる。
「うげ」
「どうした?」
突然弾が妙な声を出す。気になったシンは弾の視線の先を見る。そこにはシン達の昼食が用意されてるテーブルが一台。そしてシン達より先に先客――蘭が座って待っていた。
「何? 何か問題でもあるの? あるならお兄一人外で食べたら」
「聞いたか一夏、シン。今の優しさに溢れた言葉。お兄ちゃん、泣いちゃうぞ」
「知るか。早く座れ」
そう言ってわざわざ涙を流すふりまでする弾。はっきり言って気持ち悪い。シンは短くそう言い放ち、さっさと席に着く。
「まあまあ。別に四人で食べてもいいだろ。それより他のお客さんもいるし、早いとこ座ろうぜ」
「そうよバカ兄。さっさと座んなさいよ」
「へいへい……」
全員に言われ弾はテーブルの余った席に座る。蘭の隣に弾、弾と蘭の向かい側にシンと一夏といった具合である。全員が座ったところで蘭が口を開く。
「あの、一夏さん。その、隣に座ってる人は……?」
「やっと気づいてもらえたよ……」
今まで何も言われなかったのがこらえたのかシンが涙ぐんだ様な声をだす。それに一夏がまあまあ、となだめ蘭に紹介する。
「まあまあ。蘭は初めて会うよな。シン・アスカ。俺と同じ男のIS操縦者だよ」
「え!? そうなんですか?」
男のIS操縦者と聞いて蘭が驚きの声を上げる。
「ああ。よろしくな」
「は、はあ」
そう言って手を差し出すシンに蘭はおっかなびっくりと言った様子で握る。まあよくよく考えれば目の前に世界で二人しかいない男のIS操縦者、それが二人ともいるのだ。蘭でなくてもこうなるだろう。
「そういえば蘭」
「は、はひ!?」
いきなり一夏に声をかけられて驚いたのだろう、蘭が素っ頓狂な声を出してしまう。一夏はそれに何も言わず言葉を続ける。
「着替えたの? どっか出かける予定?」
「あ、いえ、これは、その、ですね」
一夏に言われしどろもどろになる蘭。普通は気づいてもいいのだがそこは一夏、少しも気づいていないようだ。と、分かったと言わんばかりの勢いで答える。
「分かった! デートだろ!」
「違います!」
テーブルを叩いて即座に否定する蘭。というか好きな男に他の男とデートすると思われるのは言われた本人としては溜まったものではないだろう。シンと弾は「またこいつは……」と漏らす。
「ご、ごめん」
「あ、いえ……と、とにかく、違います」
「違うっつーか、むしろ兄としては違って欲しくもないんだがな。何せお前そんなに気合いの入ったおしゃれするの数か月に一回(ベキッ!)……! ……!」
そう言いかける弾だが、次の瞬間弾の顔面を蘭のアイアンクローが襲い掛かる。その速さ、正に神速と言えるほどのものだった。それにシンと一夏が「「っ!?!?」」と吹き出しが出てきそうな表情で驚いてしまう。
「……! ……!」
「(コクコクコク!)」
そして兄妹間で行われる謎のやり取り。シンは兄弟と言っても自分とマユとは大違いだな、と思ってしまった。
「おい、食わねえんなら下げるぞガキ共」
「く、食います食います」
そう言って現れたのはこの食堂の大将である五反田厳。弾達の祖父だ。八十を超える高齢だがその体は筋骨隆々、また熱気に焼けたその腕は浅黒く全く年齢を感じさせない。
「「「「いただきます」」」」
「おう食え。赤目の兄ちゃんもしっかり食えよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
全員がそう言い、厳は満足げに頷く。そして初めて来たシンにそう言うと、厨房に戻って再び料理を作り始める。
そしてそれぞれが厳の作った名物料理『豪華野菜炒め』を食べ始めて暫くすると弾が会話を振り出す。
「で、一夏。鈴と、えーと、誰だっけ? ファースト幼馴染? と再会したんだって?」
「ああ、箒な」
「ホウキ…………? 誰ですか?」
「俺のファースト幼馴染」
「ちなみにセカンドは鈴」
「どうでもいいけどそのファーストとかセカンドとかどうにかしろよ……」
「............」
至極どうでもよさげにシンがぼやくのを他所に蘭はわずかに表情を強張らせている。そんな蘭に一夏がさらに余計な一言を言ってしまう。
「そうそう、その箒と同じ部屋だったんだよ。まあ今は……」
「「な、なんだってーーー!?」」
その一夏の発言に蘭と弾が素っ頓狂な声を上げてしまう。シンは「言いやがったよこいつ……」と頭を抑える。
「そ、そんな……一夏さんが他の女性と……」
「でもおかしいだろ! 普通シンと同じ部屋だろ! 部屋決めた奴に文句言ってやる!」
蘭は呆然と、そして弾は思春期真っ盛りの男子からすれば羨ましいことこの上ない状況の中にいる一夏を恨むかの如くの表情でそれぞれ文句を言う。弾の言う事は最もだが、シンの場合出自が普通ではなかったので監視の意味を込めて個室だったりする訳である。そんな蘭と弾にシンが一言。
「じゃ文句言えば? 決めたの織斑先生らしいけど」
瞬間、弾がその動きを止め、そして一言。
「……うん。やっぱ止めとくわ」
五反田弾。基本的に誰が相手でもその立場は低いようである。しかし蘭の方はまだ納得していないのか難しい顔をしている。と、その時蘭は何か決心したかの様な表情になる。
「決めました
私も来年IS学園を受験します。」
瞬間、弾が立ち上がり一言――
「おま! いきなり何言って(ガン!)……」
――言いかけたところで厨房からバカでかい中華鍋が飛来、弾の後頭部に諸に直撃した。会えなく弾は地面に転げ落ちあえなく沈没、中華鍋がグワングワンと音を出しながら転がっていた。そんな弾を全員が無視しながら話を進める。
「でも蘭の学校って大学までエスカレーター式のお嬢様学校だろ?」
「大丈夫です。私の成績なら余裕です」
「でもIS学園に推薦ないぞ」
「そこで転がっている兄と違って筆記でも余裕です」
事実なのでしょうがないが弾、散々な言われ様である。そこでやっと弾が復活して這い上がり、シンに半ばすがる様に尋ねてくる。
「でもよお、シン。IS学園って実技あるよな? な?」
「あるらしいよ。IS機動試験ってのがあって、適正の無い奴はそこで落とされるぞ」
「らしいって、お前受けなかったのか? 俺は受けたけど」
シンの言い方に疑問を感じた一夏がシンに聞く。
「俺はちょっと特殊だったんでな、試験の方式も全部違ったらしい」
「ふーん」
シンの答えに満足したのか一夏は何も言わない。と、話が脱線していた。蘭が無言でポケットから何か紙切れを出し、それを三人に見せる。それを読んだ弾が段々と青ざめていく。
「IS簡易適正試験……判定A……おいおい……」
「問題は既に解決済みです」
確かに簡易とはいえこの結果なら実技では問題ないだろう。そこまで言って蘭がもじもじすると、一夏に恐る恐る問いかける。
「で、ですので……い、一夏さんにはぜひ先輩としてご指導を……」
「ああ、いいぜ」
「ほ、本当ですか!?」
「応! 大船に乗ったつもりでいろよ!」
「泥船の間違いだろ……」
「これで受からなかったらどうすんだよ……」
一夏の快い承諾の言葉に蘭は思わず笑顔を咲し出す。シンと弾がその脇でボソッと呟くが浮かれている蘭の耳には全く届いていない様子である。
「や、約束ですよ!? 絶対、絶対ですからね!」
「お、おう」
あまりに念を押してくるので若干一夏も引き気味だが当の蘭には関係ないようで完全に舞い上がっておりその顔は至福に満ち溢れていた。
「では、そういうことですので。ごちそうさま」
そう言って話をまとめると一足早く食べ終わった蘭は食器を下げに席を立った。そして先程同様に訪れる沈黙。と、今度は弾が口を開く。
「……一夏、一年以内に彼女作れ」
「は?」
「は、じゃねえよ! すぐ作れ!一年、いや今月中に! シンも何とかしてこの馬鹿に彼女作らせろ!」
「だぁ! もううっとおしい! んなことに何で俺が付き合わなきゃ……」
弾はそう言いながら一夏に詰め寄り、更にはシンにまで懇願しだす。面倒事はゴメンだとばかりにシンが払いのけるが、弾の後ろをゆったりと、やたら恐怖心を煽る歩き方で迫る少女を見て思わず言葉を失う。
「……お兄」
食器を下げに行った蘭が戻ってきていた。そこでようやく後ろにいる嵐の前兆の様な様相の蘭に気づいた弾が冷や汗をた垂れながしながら振り向く。
「お、おおおおおおおう。なななななんだ?」
完全にビビりまくりの弾が震える声で答える。その顔には冷や汗でびっしり。それが伝わってきたのか一夏とシンにも冷や汗が流れだす。
『余 計 ナ コ ト ヲ ス ル ナ』
何も言っていない。しかし目が確実にそう言っていた。そのあまりの迫力にシン、一夏、弾の三人は思わずその場で凍り付いてしまう。
「あ、では一夏さん。失礼します。それとシンさん」
「な、なんだ?」
突然自分の名を呼ばれたシンが戦々恐々と言った感じで答える。
「もしIS学園に受かりましたら、その時は宜しくお願いします」
丁寧に言う蘭。しかしその目はそうは言っていなかった。おそらくこう言っているだろう。
『ア ン タ モ 余 計 ナ コ ト ヲ ス ル ナ』
これを前にして余計なことを言えるシンではなかった。
「お、おう。分かった」
「はい、ではこれで」
そう言って蘭はその場を離れる。後には三人が固まったままの状態である。暫くして、弾が一言。
「……俺、もうどうすればいいか分からないよ……」
「まあ……頑張れとしか言いようがないな」
「……蘭、何であんなに怒ってたんだ? 俺の飯の方が量が多かったのがそんなに嫌だったのかな?」
「「お前もう黙ってろ!!!!」」
~~~~~~~~~
一夏と弾と別れたシンはバイクで約一時間した所にある国際IS委員会管轄の研究所に向かってバイクを走らせていた。
ちなみに現在シンが乗っているバイクは国際IS委員会からの給料で購入したものだ。一応シンの所属は国際IS委員会のIS操縦者ということになっている。貴重なIS、それも異世界の技術の塊ともいえるデスティニーの操縦者ということからか、国際IS委員会からは結構な給料をもらっている。それに加えIS学園が学費、電気代、高熱費他諸々が無料ということもあって気が付いたら少し値の張るバイクも買えるぐらいまで貯まっていたという訳であある。ちなみに免許証は元々C.E.でもバイクを転がしてたことと、歳が16で免許ととれる年齢だったので入学前に直ぐに会得できた。
それはともかく、暫くしてからようやく目的地の研究所に到着した。シンは研究所の駐車場にバイクを停め、研究所へ入っていく。
「シーーンーー! 会いたかったぜ……っ!?「ヨウラン五月蠅い」……おおう、相変わらずの挨拶なこって……」
随分久しぶりの友人、ヨウラン・ケントの挨拶代りの抱擁にシンは顔面に蹴り一発で返す。そのヨウランの横をヴィーノ・デュプレが何時もと変わらぬぼほんわかした表情でシンとヨウランのやり取りを見ている。
「てかいきなり抱きつこうとするな」
「やだなーに、その態度? お姉さん、シンがそんな態度で悲しいわ」
「気持ち悪い」
「地獄に落ちろ」
「ひでえ」
何故かオカマ口調になるヨウランにシンとヴィーノが容赦ない言葉を浴びせる。というか弾と同じ様な会話してたな、と先程の弾とのやり取りを思い出す。ヨウランと弾、この二人が一緒にいたら何かカオスなことになりそうだ。
「そういえばシン、学校はどう? 楽しい?」
「まあそこそこ、な」
「てことはハーレム生活満喫中ってことか? この野郎! この人格交換機で今すぐ変われ! 俺にもハーレム味わらせろ!」
「……」
もう突っ込む気力も失せた、とシンは内心そう呟く。
そうしてグダグダした会話をヨウラン達と繰り返していると、後ろから声をかけられる。
「シン! もう来ていたか!」
「あ、コートニーさん!」
声をかけた人物――コートニー・ヒエロニムスに気付いたシンはそう返事をする。
コートニー・ヒエロニムス。C.E.ではZGMF―X42S『カオス』のテストパイロットを努め、尚且つセカンドシリーズ開発スタッフでもあった彼だが、この世界ではでは技術者としてその名をはせ、アメリカの第一世代IS『ストライク・アーツ』を設計、開発したことで有名ある。数年前から国際IS委員会所属のIS技術者となり、現在はデスティニー開発チームの主任を務めている。
「よう、シン。元気にしていたか?」
「マット主任、お久しぶりです!」
続いて現れたのはシンのデスティニーの整備主任のマット・エイプスである。シンの挨拶に久しぶりだな、と答えるとヨウランとヴィーノをギロリ、と睨めつける。それにヨウランとヴィーノがゲゲッ、といった表情になる。
「さっきから姿が見えないと思ったら、こんなところでサボってたのか」
「えー、いやー、その……」
「ちょっとこの間搬入された新型サーボモーターを見に行こうと……」
慌ててこの場を乗り切る言い訳を取り繕う二人。しかし、マットの前にそのような言い訳は通じないようである。
「言い訳してる暇あんなら仕事に戻らんか!」
「「す、すいませーん!」」
マットの怒鳴り声に慌てて仕事場へ戻る二人。
「ったく……」
「はは……さてシン、今日来てもらったのはあるものを見てほしいからだ」
「あるもの……ですか?」
あるものと聞き、それが何なのか疑問に思ったシンがそう聞き返す。コートニーは軽くうなずくと通路を歩き始めマットもそれに続く。ついてこいということなのだろう、シンはコートニーとマットの後をついていく。通路を抜け、この研究所の整備室に入る。中はIS学園の整備室の二倍ほどの面積があり、そこをいくつかの大型機材やら研究用のISやらが置かれている。
「そういえば前にシンが話してくれていたミーティア、だっけ?」
「あ、はい!」
「君から聞いたミーティアのコンセプトや武装を自分なりにアレンジしてみたデスティニー専用パッケージの設計図を引いてみたんだが見てもらえないか?」
コートニーはそう前振りをして携帯端末から中空投影モニターを展開させる。そこに映る設計図は確かにミーティアに似たパッケージであった。
両腕には大型ビーム砲を装備し、脚部を覆う形で大型ブースターが追加され、デスティニーの特徴というべき紅い翼状の非固定浮遊部位はミサイルポッドとビーム砲塔を横付けされいた。他にも各部に追加装甲等が付加され、ミーティアのパッケージ版とも言える出来であった。
「へぇ! すごいですねこれ! これなら確かにいけますね!」
「まぁ、まだ未完成だけどな。今の状態だとISの機動性を殺す結果になるだろうし、威力はそのままに各種武装の小型化、追加スラスターの高性能化をしなくては。他にも課題が……」
コートニーのミーティアの修正点の説明は長くエレベーターの前に到着した所でようやくコートニーが話を止める。三人がエレベーターに乗り込むとコートニーは先のとは別のIDカードを取出し、よく見ないと分からないところにあるスロットに差し込むとエレベーターが動きだす。それを見てシンは千冬に連れられた地下特別区画を思い出す。
やがてエレベーターが止まり、ドアが開く。そこは研究室のようだが、照明は絞られ、やはり以前の地下特別区画をどうしても思い出してしまう。
「さて、シン。今回君に来てもらったのはこの機体について君の意見を聞きたいからだ」
コートニーのその言葉から始まる。次にコートニーは部屋の壁に取り付けられているレバーを下す。すると部屋のいくつかのスポットライトが光り、ライトの先にある機体を照らす。
「っ!?」
照明の強い光に一瞬目を細めたシンは次の瞬間目に入ってきた機体に驚きの声を上げてしまう。青いカラーリングにザクと似通ったデザイン、右腕に装備された鞭のようなパーツと左腕のシールドとその姿はまさしくシンの知るMS、ZGMF-2000 グフ・イグナイテッドである。
「先日のIS学園を襲撃した機体と似ていてな、君はこの機体のことについて知っているそうだから是非」
「成程……」
今回呼び出されたのはこれが理由か、シンは納得する。そしてコートニーにグフに関する機体説明を行う。ザクと比べると知っているのは各種武装や簡単なスペックぐらいであり、コートニーが調べれば直ぐに解析出来る程度のものだがそれでもコートニーは満足気に聞いてくれていた。そして説明が終わった所でシンは先程から気になっていた疑問を尋ねる
「この機体は一体どこで? 背部ウイングユニットが半壊しているんですが……」
「先日ロシアのウクライナの反主流派ゲリラの制圧作戦の際鹵獲したものだ。情報部が捉えた情報を元に制圧部隊を送り込んだところドンピシャだった訳だ」
しかしだな、とここでマットが口をはさむ。
「こいつは中々の代物だ。ISには及ばないが、それでもスペック比はMGと比べ物にならないレベルだ。こいつと遭遇したMG3機があっさりやられちまった訳だしな」
「何より、これが量産機であるということだ。もしこれの高性能機が出るようなことがあればISでも対処しきれるかどうか……」
ISを用いなければ対処できない敵、それはこの世界においては重要な意味を持つ。恐らくこの世界においてこのMSはISを除けば最強の兵器であるだろう。おまけに数が制限されている上にアラスカ条約によってISの軍事使用が制限されている。その中でこのMSの襲撃は今後の軍事バランスを大きく変動させるかもしれない。
「何にせよこれだけで終わりだと思えないな。MS、こいつはこれからの時代を大きく動かす、そんな予感がしてくるよ」
そう言ってコートニーは目の前のグフを見つめる。彼の目にはそのグフが一体どう見えているのだろうか。機能を停止したグフはただ光を失ったモノアイを虚空に向けているだけだった。
~~~~~~~~~
その後、シンはコートニー達と今後の対応とシンの知る限りのMSの性能の解説、そしてデスティニーの微調整と整備を行い、IS学園に戻ってきた。自室でシャワーを浴びる中、シンは今日起きたことを整理した。
(MS……か)
まさか異世界でもMSに出くわすとは思っていなかったのだろう。シンの胸中は複雑なものだ。とはいえこの世界のMSに関する情報が圧倒的に少ない現状ではどれだけ考えても推測の域を出ない。MSについては今は保留にしておこう。それより現在重要なのはデスティニーの機体コンディションだ。
(エンジン出力が相変わらず上がらないな……今の状態じゃ長期戦は無理だな)
シャワールームから出たシンはタオルで水滴を落としながら、洗面台に置いてある自身のIS『デスティニー』、その待機形態であるフェイスバッジを手に取る。その姿は対抗戦以前にあったひび割れは消えている。
この世界に来たときにISとなったシンのデスティニーだが、その性能はMSのときと比べれば格段に落ちている。その元凶はデスティニーのハイパーデュートリオンエンジンの出力不足だ。元々大破した状態であったからなのか、ハイパーデュートリオンの出力が本来のデスティニーの10%以下にまで落ちている。デスティニー等の核エンジン搭載機は核エンジンがあってその強力な火力を扱えるだけにこれは中々手痛い状態である。現在ビーム兵器の出力の調整などで補っているものの、それでも武器をフルに活用させれば十分でエネルギー切れに陥ってしまうのが現状だ。
「どうしたものか……」
思わずそう漏らすシン。そしてふと胸を見ると、そこには以前よりも色濃く大きくなっている緑色の痣があった。
(結局なんなんだろうな、これ?)
そう思ったシンは同時に対抗戦の際に起きたデスティニーの謎の機能を思い出す。今日のデスティニーの調整の際に機体チェックをしてもらったが相変わらずいくつかの機能は不明のままだった。
一体デスティニーとはなんなのか。ここ最近何度も疑問に感じていることを考え始める。と、ここでシンは何かを感じた。
(ドアの前に誰かいる?)
何故か知らないがその様な気がする。そう感じたシンはドアを開いた。
「……なんだ、鈴か」
「な、なんだって何よ! ていうかいきなりドア開けないでよ! びっくりするじゃないの!」
ドアの前に立っていたのは鈴だった。ちょうどノックしようとしていたのだろうその右手は上がったままでいきなりドアが開き驚いてしまっている。思わずそう漏らすシンだったが、鈴はそれが腹立ったのか会って早々怒鳴りちらす。
「へいへい。で、何の用だ?」
半分呆れ気味に答えるシン。そして何か用なのかと聞くと途端に鈴は視線を泳がせ、あー、えーと、と中々要件を言おうとしない。少しその状態が続くとようやく口に出す。
「こ、これから夕飯食べにいく予定だったのよ。で、たまたま、たまたまよ、あんたの部屋の前通ったから誘おうとしただけよ! ありがたく思いなさいよね!」
妙にたまたまを強調したりとおかしなところが多かったが、時計を見ればちょうど7時だ。これから食べにいくとするか。とりあえず行くと言ったシンは部屋着のタンクトップにジャージ姿で財布を持って出かける。
「にしても何であたしがドアの前にいるって分かったのよ? あんたってエスパー?」
「いやー、俺もよく分かんないだよな」
最近はどうも第六感とか勘のようなものが研ぎ澄まされてきているように感じる。そのことはシンも不思議に思うところだ。
「まあ、別にどうってことはないだろう」
「あるわよ。あたしがさっき驚いたじゃないのよ」
「なんだそれ……」
そうしている内に食堂に到着した。食堂は既に大勢の女子生徒で埋まっていた。そこはいつもと変わりないが、奥の席で何やら十数名が円陣を組んでいるのが妙に目立つ。
「何だあれ?」
「さあ? トランプでもやってんじゃないの?」
とはいえその割に盛り上がり方がトランプをやってもあれほどのものにはならなそうな感じだ。黄色い声が次々と聞こえてくる。あれが俗に言うY談というやつだろうか。
「シン」
「ん? ああ」
気が付くともう頼んだ料理が出てきていた。シンは慌ててトレーを取る。ちなみに今日の二人の夕飯はケバブだ。空いてるテーブルを見つけ二人は座る。
「あたし水取ってくる」
「あ、じゃ俺のも頼めるか?」
「いいよ」
そう言って鈴は水を取りに席を立つ。その後ろ姿をシンはボーと見つめる。最初の頃と比べると大分変わったなぁ、としみじみ感じていた。最初の第一印象が二人共最悪だっただけにその思いはひとしおである。と、そこに女子の一人が声をかけてきた。よく見ると先程テーブルで騒いでいたメンバーの一人だ。
入学当初にあった出来事もあり、女子から敬遠されていたシンだが、クラス対抗戦の一連の件を一夏や鈴が(箝口令に触れない形であるが)周りに教えたりしていたこともあり大分改善されている。最もそれが理由というより、シンと鈴がほぼ毎日の様に繰り返している痴話喧嘩を目の当たりにしている内に、今までシンが纏っていた人を寄せ付けない雰囲気が一気に霧散してしまったことが一番の理由であるが。
「あー! アスカ君だ!」
「え、うそ!? どこ!?」
「ねえねえ、あの噂ってほん――もが!」
一人が何か言いかけたところを即座に他の女子が押さえつける。しかし噂のところはしっかりシンの耳に入っていた。
「噂って何だ?」
「う、うん!? なんのことかな!?」
「ひ、人の噂も365日って言うよね!」
正しくは75日である。ともあれ何か隠しているようだ。そのことを聞こうとシンが女子に近づこうとする。
「あ、お風呂入りに行こう!」
「じゃ私は早く寝よう!」
「しまった! 今日ゲッ○ーロボの再放送やる日だ!」
しかしその前に女子たちは即座に撤退していった。というか最後のゲッター○ボは一体なんなのだろうか。シンは訳も分からずキョトン「としてしまう。と、そこに水を取りに行った鈴が戻ってきた。
「どうしたの?」
「さあ……噂がどうのとか言ってたけど……」
「ふーん……ってアアーーー! なんでケバブにチリソースぶっかけてんのよ!?」
ケバブにチリソースをかけているシンに鈴が思わず絶叫する。それに対してシンは不思議そうに鈴を見る。
「え? ケバブと言えばチリソースだろ?」
「信じらんない……ケバブにチリソースなんて……ケバブの冒涜よ! 普通ヨーグルトソースをかけるのが常識でしょ!」
よくは分からないがどうやらそういうやってはいけないものがあるようだ。とはいえシンもそこまで言われてカチンときたかケバブにさらにチリソースをかけながら言い返す
「いいだろ! 俺が何かけようが俺の勝手だろ!」
そう言って思い切りケバブにかじりつきうまそうな顔を鈴に向けるシン。かなり大人気ない。そんなシンに鈴はとうとう堪忍袋の緒が切れた様だ。
「こんのお……冗談は頭だけにしなさい! この海藻頭!」
「んだとてめえ! この絶壁ボディー!!」
もはや売り言葉に買い言葉。しかしそんな二人に反応する者は誰もいない。
対抗戦以降いくらか距離の縮まった二人だが、今度はどうでもいい些細なことで喧嘩するようになっていた。始めは皆止めに入ったが、気が付くと誰も止めようとしなくなっていた。大体喧嘩すれば「ああ、またあの二人か」といった具合となってしまった。結局その喧嘩は千冬が出てくるまで続くのであった。
こうして夜は過ぎていくのであった。
~~~~~~~~~
<その頃のC.E.>
虎
「へくしょい!」
ダコスタ
「隊長、風邪ですか?」
虎
「うーん、ひょっとして誰かが僕のカッコいい噂をしてるんじゃないかな?」
ダコスタ
「知りませんよそんなこと…………ってなんですか、それ?」
虎
「ケバブだよ、ケ・バ・ブ。アフリカにいた時よく食べたじゃないの」
ダコスタ
「そういえばそうでしたね。チリソースをかけるのが美味いです……あ」
虎
「……ほぉ、ダコスタ君。君、以前はヨーグルトソースが美味いとか言ってなかったっけ?」
ダコスタ
「あ、あの、いえ、それは……」
虎
「どうやら君には実力を以って叩き込まなければいけないようだね。ケバブとヨーグルトの組み合わせの素晴らしさを……」
ダコスタ
「あの、自分はこれから用事が(ガシャン!)え!? 何で手錠!? うわちょ、ちょー!
ギャーーーーーーーーー!!!!」
~~~~~~~~~
何やら変な夢を見た気が……
月曜の朝、妙な夢から一日が始まったシンは一組の教室へ着いた。教室に入ると何やら騒がしい。
「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」
「え? そう? ハヅキのってデザインだけって感じしない?」
「そのデザインがいいの!」
「私は性能的に見てミューレイのがいいかなぁ。特にスムーズモデル」
「あー、あれねー。モノはいいけど、高いじゃん」
どうやらISスーツについて話しているようだ。皆片手にISスーツのカタログを持ちながらこれがいいあれがいいと話している。
ISスーツとはIS展開時に身にまとうフィットスーツのことである。これを着ることで肌表面の微弱な電位差検知、操縦者の動きをダイレクトに各部位へ伝達することで、非着用時に比べると反応速度が上がるそうである。またISスーツは耐久性にも優れ、小口径拳銃弾なら衝撃まで防げないが止めることが可能である。
ここでシンがいることに気付いた本音が相変わらず間延びした声でかけてくる。
「あー、アッスーだー。おはよー」
「おう。おはよう」
「あ、アスカ君。アスカ君のISスーツってどこのやつ? 見たことないタイプだけど」
「ああ。あれはうちの開発チームが作った特注品だよ」
そう答えるシン。ちなみにデザインはシンがこの世界に来ていた時に着ていたザフトのパイロットスーツを参考にしているそうである。なおシンのISスーツにはそのパイロットスーツの技術が一部使われてるらしいが、正直どこにどう使われているのか分からないのでそこまで気にはしていないところである。
そうしていると、一夏が教室に入ってきた。
「あ、織斑君。ねえねえ、織斑君のISスーツってどこの?」
「え? ISスーツ? 俺のは特注品だって。確かイングリッド社のストレートアームモデルをどこかのラボが男用に直したんだって」
日頃の勉強が身に付いたのか、そんな質問にも一夏は難なく答えられた。そのままISスーツ談義が続くかと思ったら、それは教室に千冬と真耶が入ってきたことで中断される。
「諸君、おはよう」
『お、おはようございます』
途端に話声が消え去り、一斉に全員が千冬に挨拶する。この統率のとれた行動、これが他の教師だったらこうも綺麗にいかないだろう。
「今日から本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学園指定のものを使用するので忘れないようにな。忘れた者は代わりに学園指定の水着で訓練を受けてもらう。それも忘れた者は…………まあ下着で構わんだろう」
さらっと最後に飛とんでもないことを口にする千冬。例年ならともかく今年は男子が二人いるのだからそういう発言はどうにかして欲しい。まあ言ったところで出席簿なのは目に見えているので男子二人とも何も言わないでいる。
「では山田先生、ホームルームを」
「はい」
連絡事項を言い終えた千冬がホームルームを真耶に任せる。そして始まるホームルームだが今日はいつもと違う出だしから始まった。
「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!」
「え……」
『えええええええええ!?』
瞬間教室は驚きの声で満たされる。鈴のときと違い何の噂もないのにそのような話が出たのだ。驚くのも無理はない。それはシンも同じだが少し違うようだ。
(転入生……そういえばこの間会長が言ってたな)
生徒会員になってからは色々な情報が手に入る。それこそ、トイレの水詰まりというどうでもいいものから、今後のイベントに関する詳細な情報まで。転入生の話も先日楯無がシンと本音に対しそういう話をしていた。
「失礼します」
そうしている内に噂の転校生が教室に入ってくる。しかしその転校生を見た瞬間ざわめきが止まる。
何故か?
それはその転校生が男だからだ。
「シャルル・デュプレです。宜しくお願いします」
その少年――シャルル・デュプレは挨拶すると一夏と目が合う。
そして一夏に向けて優しい笑みを浮かべた。
一夏はその優しい笑みに見惚れ、
何故か、時折夢に見るあの少女を思い出した。
こうして破界の使徒と破界の姫君は出会った。この二人の出会いが一体物語をどう動かすのか、それは誰にも分からない。
どうも。パクロスです。最近「壬生義士伝」という本を読んでる最中のパクロスです。
今回から第二章突入!ということで大判振る舞いの18416字でございます(自分でもビックリ)!序盤からいきなり新キャラ登場!さらに我らが女神!シャルのご登場!さあさあこれから如何に!
……と、まあテンション上がりっぱなしなパクロスでございます。こちらで修正版を書き直してやっと第二章に入ったわけですし。それにシャル!あ~!我らがキューピット、シャルロット!私は君が出てくるこの時を待っていたーーー!!
……ぜぇぜぇ、どうもすいません。シャルでテンションヒートアップしてしまいました。はい。
まあ、何はともあれもうすぐ書き溜めてた分は消化するところです。そろそろ新規に書き始める所存でございます。
ではこれからも文章力向上目指して邁進していきます。ではまた次回。