IS×GUNDAM~シン・アスカ覚醒伝~   作:パクロス

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サブタイトルの一夏は『いちか』ではなくて『ひとなつ』です。なんか上手くいかずすいません……。

今回は第二章で、そしてシャルロッ党員の自分として一番書きたかったところです。やっとタグの一夏×シャルが動き出しますよ、お兄さん。一夏がめっちゃ男になっていますよ、お兄さん。

しかし、今回一夏がこの作品で一番輝いてると思います。反動でシンの影が大分……最後で挽回のチャンスあるからね! シン!


PHASE-11:『鎖』と断ち切る一夏の輝き

 シャルルが転校してきた数日後、IS学園一年一組の教室は再び喧騒に包まれていた。

 

「え~、昨日に続いてですが、また転校生がやってきました」

 

 真耶の若干の戸惑いのある一言――恐らく彼女も困惑しているのだろう――で教室はざわめきに包まれた。短期間でシャルルに引き続き転校生が同じクラスに入ってきたのだ。生徒が驚くのも当然だ。

 シンはそう頭の中で考えつつ、教卓に立つ話の中心の転校生に目を向ける。その容姿は他の生徒と比べると明らかに浮き立っていた。腰近くまでに伸びた綺麗な銀髪、その右目はシンと同じ紅い瞳である。左目は分からない。何故か、それはその左目を無骨な眼帯が覆っているからだ。体は小柄で、その身をIS学園の制服で包んでいるが、その制服はまるで軍服の様なカスタマイズが施されている。

 近寄りがたい雰囲気を纏った少女――恐らくその場の全員が抱いた印象だろうが、シンはそうではなかった。あの佇まい、身のこなし、それは軍に所属していたことのあるシンの直観が彼女は軍人であると告げていた。

 

「……ラウラ、挨拶をしろ」

「はっ、教官」

 

 千冬がその転校生――ラウラという名前の様である――に告げ、そこでこれまで黙っていたラウラが初めて口を開き、千冬に対して敬礼をする。ザフトの敬礼とは異なるドイツの敬礼であるが、その敬礼はシンの目から見ても慣れた動作であった。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」

「了解しました」

 

 そのやり取りの中、シンは新たな疑問を感じた。ラウラは千冬のことを教官と呼んだ。先程の軍人のような動き、敬礼からラウラは恐らく軍人なのだろう。では教官と呼ばれた千冬もラウラと同じ軍に所属していたのだろうか。

 シンがそう考えている内にラウラが挨拶をしようとしている。シンはそれに気づき、意識をラウラに向ける。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 そう簡潔に名乗る転校生、ラウラ・ボーデヴィッヒであるが、あまりに簡潔すぎた。その後に続くであろう紹介の言葉がない。そのまま教室に異様な沈黙が訪れてしまう。

 

「あ、あのぉ、以上……ですか?」

「以上だ」

 

 名前を言った後に訪れた沈黙に耐えきれなくなった真耶が恐る恐る尋ねるが、ラウラはバッサリとそう言い捨てる。それ以上何かを言う気はないようである。真耶は若干涙目、生徒のほとんどは鳩が豆鉄砲を喰らった様な表情になってしまう。その挨拶を見て、入学式での自己紹介の苦労は一体なんだったのだろうか、とシンは思わずそう思ってしまう。

 

「っ! 貴様が…………」

 

 そこで一夏の姿が視界に入ったラウラがその表情を変える。そして一夏の席まで近づくと手を振り上げる。そして…………

 

「っ!」

 

 振り下ろされた右手。しかしそれは一夏の頬に達する前に一夏が右腕を間に割り込ませることで不発に終わった。

 

「いきなり何するんだ!」

「ちっ! 貴様!」

 

 何とかラウラの一撃を防いだ一夏がラウラに怒鳴るが、ラウラは舌打ちをし、今度は空いている左腕を振り上げる。しかしその左腕は振り下ろされる前にシンに掴まれてしまう。

 

「っ!? 貴様は!」

「いい加減にしろ! 何やってんだよ!」

 

 シンを見たラウラは一瞬驚いた表情をする。シンはそれを気にせずラウラに対して非難の怒号を浴びせる。ラウラはシンの腕を振りほどこうとするが、シンは決して離そうとしない。

 

「お前達、いつまでやっている」

 

 しかしその膠着は千冬が割って入ってきたことで唐突に終わった。途端に動きを止めるラウラ。シンも千冬が来るのも見て力を緩める。

 

「それがお前達の挨拶なのか? やり過ぎだ。二人共席に戻れ」

「……分かりました」

「……了解」

 

 千冬の言葉にラウラはすぐに返事を返すなり、シンの腕を乱暴に引きはがし席に座る。シンはまだ不満があったが、逆らっても千冬には無意味なのは分かっているので反論せずすごすごと席に戻る。席に戻る時、シンは後ろの席に座ったラウラと目が合う。その瞬間、ラウラから殺気の混じった視線を飛ばしてくる。シンはそれを無視して席に座るも、意識は後ろに座るラウラに向いていた。

 その様な騒ぎがあったが、その後はいつもと変わらぬHRが始まり、一組はいつもの空気に戻っていくのであった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 時は映って土曜日の午後。土曜日は午前は授業、午後は自由時間となっている。なのでシン達は午後からずっとアリーナにてISの訓練を行っている。ちなみに土曜はアリーナが完全開放になっているので、多くの生徒がシン達と同じく訓練に来ており、大分混んでいる。

 

「ほらほら、一夏! もっと早く動かないと!」

「くっ!」

 

 そんな中、一夏とシャルルは現在簡単な模擬戦を行い、シン、箒、セシリア、鈴の四人は地上にてその様子を見学していた。シャルルのIS『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅢ』が格納領域から展開したアサルトライフル『ヴェント』で一夏を攻撃する。一夏は何とか回避して、瞬時加速でシャルルに急接近、雪片弐型の一撃を与えようとするも、シャルルは慌てず直ぐにガルムと収納、代わりに近接ブレード『ブラッド・スライサー』で受け流す。そのまま一夏の後ろを取ると、今度は両手に以前真耶が使用したミサイルポッド『ドラシェル』を展開、一夏は諸にミサイルを浴びてしまう。その後、一夏のシールドエネルギーがゼロになり、模擬戦はシャルルの勝利で終わった。

 

「くそー、また負けだ…...」

「これで五連敗だな」

「あははは……」

 

 かれこれ五度目の模擬戦で連敗続きの一夏は悔しそうな表情をする。そんな一夏にシャルルは思わず苦笑いをするが、その後今の一夏の弱点を事細かく説明しだした。

 

「何回か戦ってみて分かったんだけど、一夏がシンやオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからだよ」

「そうなのか? 一応理解しているつもりだったんだけど……」

 

 シャルルの説明を一夏は聞きながらも、どこか腑に落ちない表情になる。毎日

 

「うーん、知識として知っているだけって感じかな? 僕と戦った時、もう少し避けられても良かったんだけど」

「う……確かに。瞬時加速も読まれてたな、そういえば」

「一夏のISの近接格闘オンリーだから、より深く射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないよ。特に一夏の瞬時加速って直線的だから反応できなくても弾道予測で攻撃できちゃうからね」

「直線的か……」

「あ、でも瞬時加速中はあんまり無理に軌道を変えたりしない方がいいよ。空気抵抗とか圧力の関係で機体に負荷がかかると、最悪の場合骨折したりするからね」

「なるほど、ね」

 

 シャルルの説明を聞いて一夏はやっと理解したかの様な素振りを見せる。何せ今まで受けた説明はそれはそれは酷いものだった。以下その酷い説明。

 

箒の場合

 

『こう、『ズバー!』っとやってから、『ガキン!』『ドカン!』という感じだ』

 

鈴の場合

 

『なんとなく分かるでしょ? 感覚よ感覚! ……はあ? 何で分かんないのよバカ!』

 

セシリアの場合

 

『防御の時は右半身を斜め上前方へ五度傾けて、回避の時は後方へ二十度反転ですわ』

 

 こんな調子である。セシリアは一見分かりやすい様に見えるが、細かすぎて逆に分からず、箒と鈴に至っては説明にもなっていない。そういう訳で段々行き詰まり出した所に説明の上手いシャルルがやってきたのだ。正に地獄に仏とはこのことである。

 

「まあそこは射撃訓練でもして方が分かりやすいと思うよ。ところで一夏の白式って後付武装(イコライザ)がないんだよね」

「ああ。何回か調べてもらったんだけど、拡張領域(バスロット)が空いてないらしい。だから量子変換(インストール)は無理だって言われた」

 

 ISには拡張領域(バスロット)と呼ばれるデータ領域があり、通常ISは武装をそこに収納するが可能である。それによってISには武装の装備によって動きの妨げになるという事態は起こることはない。しかし一夏の白式は拡張領域こそあるが、その容量が全く空いていない為に後付武装を装備することができないそうだ。

 

「初期装備の近接武装一つしかなくて、射撃武装の一つも使えないなんて、こいつの開発者何考えてるんだ?」

 

 そう呟くのはシン。全領域対応のデスティニーを使うシンからすれば、近接武装しか装備されてない白式は出来損ないの機体にしか見えない様である。

 

「うーん、多分だけど、それって単一仕様能力(ワン・オフ・アビリティー)の方に容量を使ってるからじゃないかな」

「単一仕様能力って………何だっけ?」

「お前がいつも使っているアレだよ。忘れるなよ、お前……」

 

 シャルルはそれに一つの仮説を立てる。一夏はそれを聞いて単一仕様能力のことを思い出そうとして……結局思い出せなかった。シンはそんな一夏に対して呆れた様に言う。

 

「言葉通り、唯一仕様(ワンオフ)特殊能力(アビリティー)だよ。ISと操縦者と最高状態の相性になったときに自然発生する能力のこと」

 

 そんな一夏(馬鹿)にシャルルは相変わらずの笑顔でスラスラと分かりやすい様に答えていく。でも、とシャルルはそこで一夏の白式の特異点を説明する。

 

「でも、普通は第二形態から発現するんだよ。それでも発現しない機体の方が圧倒的に多いから、それ以外の特殊能力を複数の人が使えるようにしたのが第三世代型IS。オルコットさんのブルー・ティアーズと凰さんの衝撃砲がそうだよ」

 

 ちなみにシンのデスティニーの場合、残像を生み出すミラージュ・コロイドがそれに当たるそうである。IS化した際、ミラージュ・コロイドの制御にISのイメージ・インターフェイスが組み込まれたらしく、MSでは仕様上残像を生むだけだったミラージュ・コロイドは本来の姿を消すことが可能になった。最も、当のシンはイメージ・インターフェイスを使いこなせず、今のところ一度も使用できていないのだが。

 

「成程。それで、白式の単一仕様能力っていうとやっぱり『零落白夜』なのか」

 

 一夏はそうシャルルに聞きながら、右手に自身の得物の『雪片弐型』を展開する。

 白式の単一仕様能力――零落白夜。エネルギー性質のものを全て消滅することのできる白式最大の攻撃。成功すれば相手の絶対防御を強制発動、一発逆転の切り札となる。しかし使用には自身のシールドエネルギーを使用する為、諸刃の剣ともいえる仕様である。

 

「白式は第一形態なのに単一仕様能力があのはものすごいことだよ。前例がまず無いからね。しかも、その能力って織斑先生がモンド・グロッソで使っていたISと同じなんだよね?」

「まあそうらしいな。やっぱ姉弟だからかな?」

「それは無いと思うよ。さっきも言ったけど、ISは操縦者との相性も重要だから、意図的に再現できるものじゃないよ」

「うーん……」

 

 ではどういうことなのか。一夏は謎の多い白式に対し思わず唸り声を出す。でも、とそこで鈴が口をはさむ。

 

「そんなの今考えても仕方ないんじゃないの。置いときなさい」

「それより今は射撃訓練の方に集中しろ」

「まあ、そうだろうなぁ……」

 

 鈴とシンの両方に言われて確かに今はその事を考えるより射撃

 

「まあ、その話は置いといて、まず射撃武器の練習をしてみようか。はい、これ」

 

 そういってシャルルは先程の模擬戦でも使用したヴェントを展開、一夏に渡そうとする。それを見て一夏はあれ、と不思議そうな顔をする。

 

「他の奴の武装って使えないんじゃいのか?」

「普通はね。でも使用者が使用承諾(アンロック)すれば登録してある人全員が使えるよ」

 

 シャルルはそう答え、一夏は納得しながらヴェントを受け取る。途端に雪片弐型を手に持つのと全く違う重みをマニピュレーター越しから感じた。ISの補助があるので重さは感じない筈だが、初めてというのもあるのだろうか、一夏は思わず戸惑った様な声を上げる。

 

「か、構えはこんな感じか?」

「脇を締めて。それと左腕はこっち。分かる?」

「あと腰に力を入れとけ」

 

 シャルルとシンの指導を受けながら、一夏は射撃の体勢を整える。その最中、白式に射撃において必要なISのハイパー・センサーのリンクが無かったことが発覚したりと多少手間がかかったが、一応準備が出来た。そして一夏は引き金を引き、一発撃つ。

 

「うおっ!?」

 

 引き金を引いた直後に耳に入る火薬銃特有の炸裂音と、体に響く反動。初めて扱う銃に一夏は驚きの声を出してしまう。

 

「大丈夫か?」

「お、おう。何というか……速いな」

「うん。一夏の瞬時加速も速いけど、弾丸は面積が小さい分抵抗が少ないから遥かに速いんだ。弾道予測さえあっていれば当てられるし、外れても牽制になる。一夏は突撃する時集中しているけど、心のどこかで無意識にブレーキをかけてるんだよ」

「だから簡単に間合いが開くし、あんなに射撃が当たる訳か……」

 

 シャルルの説明にようやく一夏は納得した様に頷く。後ろで箒達がぶつぶつ文句を言っているが気にしないでおこう。その後はそのままシャルルとシンの指導を受けつつ一夏は続けて射撃の訓練に専念する。

 

「そういえばシャルルのISってラファール・リヴァイヴと大分見た目が違うけど、同じ機体なのか?」

 

 ある程度射撃に慣れてきたところで、一夏はふとシャルルにそう問いかける。通常のラファール・リヴァイヴはネイビーカラーに四基の多方向加速推進翼(マルチ・スラスター)が特徴的な機体だ。対してシャルルのISはオレンジカラーで多方向推進翼が背中に一対、中央から二つの翼に分かれ、各アーマーがシェイプアップされ、全体的に機動性が向上している様に見える。他にはマルチウェポンラックとして大型リアスカートが、そこには姿勢制御用のスラスターが装備されている。そして肩部の四枚のシールドは無く、代わりに左腕の装甲と一体化した大型物理シールドが装備されていた。反対に右腕はすっきりした装甲のみでシンプルなものである。

 

「僕の機体は確かにラファール・リヴァイヴだけど、専用機だからかなりいじってあるよ。『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅢ』、これがこの子の名前だよ。基本装備をいくつか外して拡張領域が倍に、それとデュノア社で開発された第三世代兵装が実験的に取り付けられてるよ」

「倍!? そりゃまたすごいな…….少し分けて欲しいな」

 

 一夏は倍と聞いて驚いてしまう。元々ラファール・リヴァイヴは他の第二世代量産ISより多くの後付武装を装備できる機体だ。それがさらに倍の量、基本装備の刀一つだけの一夏からすれば羨ましい限りだろう。しかし大量の武器と搭載したからと言って、それが有利であるとは限らない。先程書いた通り、ISには量子変換があるので武装変更の際動きの妨げにはならないが、それを同時に使える訳ではない。さらに展開時の負荷を考えると、大量の武装を搭載するのはあまり理想的とは言えないものである。先程の第三世代兵装はそれを容易にする何かがあるのか、それともシャルル自身に大量の武装を扱えるだけの何かがあるのか、とシンは考察に入る。

 シンだけではなく後ろのセシリアや鈴も同様のことを考えている様で、二人の表情はイギリスと中国の代表候補生としての顔になっていた。その時、急にアリーナ内の生徒がざわめきだし、場の空気が変わった。

 

「ねえ、あれってもしかして……」

「嘘……ドイツの第三世代型?」

「まだ本国でトライアル段階じゃなかったの?」

 

 その周りの女子の話を聞いてシン達は他の生徒同様、注目の的となっている生徒に目を向ける。

 

「……」

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

「何? あいつ? 転校初日に一夏引っ叩こうとした奴って」

 

 そこには漆黒のIS――恐らくそれが彼女の専用機なのだろう――を纏ったラウラ・ボーデヴィッヒがいた。

 転校初日以来、クラスの誰共つるもうとしない、それどころか会話さえしようとしない。シンとしては別にラウラがどうしようと知ったことではないが、最初の騒動を根に持っているのか、時たまシンに向け、殺気の混じった視線を向けることがあるのでどうにかして欲しいと思っている。それは一夏も同様らしく、昼食時にはどうしたもんかとよく二人で愚痴を言ってたりする。

 

「おい」

 

 突然ラウラがISの開放通信(オープン・チャンネル)でその温かみを感じない冷たい言葉を投げかけてくる。相手は間違いなく一夏とシンのどちらかだろう。

 

「……なんだよ」

 

 一夏が若干気の乗らなそうな声でラウラに返事を返す。

 

「貴様も専用機持ちだそうな。ならば話が早い。私と戦え」

「断る。理由がない」

「貴様には無くても私にはある」

 

 ラウラの言う戦う理由、それに一夏は心当たりがあった。それは第二回IS世界大会『モンド・グロッソ』で起きた出来事だ。決勝戦の当日、一夏は目的も正体も未だ不明の謎の組織に誘拐された。どこかの倉庫に拘束された一夏は数時間後に決勝戦を放り出してやって来た千冬によって救助された。

 決勝戦を放棄した為千冬は二回目の優勝を逃し、独自の情報網で一夏の居場所を特定したドイツ軍から情報を提供してもらった千冬は『借り』を返す為一年程ドイツ軍IS部隊で教官をしていた。ラウラが千冬のことを教官と呼ぶのはその為であろう。その後一年程姿をくらまし、そして突然の引退宣言、現在はこのIS学園で教師をしている。

 

「貴様がいなければ教官は大会二連覇という偉業を成し遂げられた筈だ。だから私は貴様を――貴様の存在を認めない!」

「……」

 

 語気を荒くしてそう告げるラウラ。恐らくラウラは千冬に心酔しているのだろう。だから敬愛すべき千冬の経歴を汚した一夏を憎んでいるのだろう。

 しかしその思いは他ならぬ一夏自身にもある。自分のせいで千冬の二連覇を逃したばかりか、自分を助けるためにドイツに借りを作ってしまう等、姉に大きな負担をかけてしまったことに今でも負い目を感じてしまう。

 

「……また今度な」

 

 そう言い一夏はラウラに背中を向ける。

 

「ふん。ならば――戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

 そう言うな否や、ラウラは右肩に装備されている大型レールガンを機動、一夏に狙いを定め発射する。

 しかしその一撃は白の前に割り込んだオレンジの機影に阻まれた。

 

「っ!」

「……こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようなんて、ドイツの人は随分沸点が低い様だね。ビールだけじゃなくて頭もホットなのかな?」

 

 一夏に着弾する直前にシャルルが射線上に割り込み、左腕のシールドで防ぐ。同時に右腕にアサルトカノン『ガルム』を展開、銃口をラウラに向ける。その動作の切り替えは正に一瞬。互いを睨めつけあう二人を除いたその場の全員がシャルルの武器の展開速度に目を見開いた。この武装の展開速度、これがシャルルのISの大量の武装の搭載の理由なのだろう。

 

「ふんっ! フランスの第二世代(アンティーク)如きで私の前に立ちふさがるとはな」

「未だ量産化の目処が立っていないドイツの第三世代(ルーキー)よりは動けると思うよ」

「俺がいることも忘れるな」

「っ!」

 

 ラウラが気が付いた時、既にシンはビームライフルをラウラに向けていた。これで二対一、数の上で言えばラウラに勝っている。

 

「シン・アスカ……」

「何だよ? 文句があるならはっきり言えよ。後ろからガン飛ばしてきてよ」

「ふん。貴様に分かるものか……『出来損ない』と呼ばれる者の気持ちなど!」

「何?」

 

 ラウラの言うことが分からず眉をひそめるシン。そこで気が付く。ラウラのシンを見る表情はこれまでのものと違っていた。その表情をシンは知っていた。そう、それはナチュラルがコーディネーターを見るときと同じ、妬みと憎しみ、渇望等が混じったものであった。

 硬直するアリーナ内、その深い沈黙を破ったのは今日このアリーナを監督していた教師のスピーカー越しの怒声であった。

 

『そこの生徒! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』

 

「ちっ! ……今日は引くとしよう」

 

 そう言い捨てるなり自身のISを解除し、ラウラはそのままアリーナゲートへ去っていく。ラウラの姿が見えなくなった瞬間、生徒の多くが息を吐き、場の空気が和らぐ。

 

「一夏、大丈夫?」

「ああ、助かったよ。それにしても最後のあれ、なんだ? シン、何か心当たりあるか?」

「いや……俺にもさっぱりだ」

 

 一体ラウラの最後に見せたあの表情は何なのだろうか。シンはそれが分からず、後味の悪い気分になる。今思い返してみると、ラウラがシンのことを嫌悪しているのも疑問がある。数年前の事件が原因である一夏と違い、シンはこの世界に来てまだ数ヶ月しか経っていない。今の時点で少なくともドイツ人に喧嘩を売る様な真似はしていない筈である。

(一体何なんだ……?)

 現状ではあまりに手がかりが少ないこの問題にシンが頭を悩ませるとシャルルは心配するかの様に声をかける。

 

「分からないんだったら今は考えないでおこうよ。それにもうアリーナの閉館時間だし、今日はもうあがろう」

「ん? ああ、そうだな」

 

 シャルルの言葉にシンはふと時刻を確認するともう五時近くになっている。確かに閉館時間が近づいているので、これ以上の訓練は無理だろう。シン達はISを解除してアリーナを出ることにする。

 

「えっと……じゃあ、二人は先に着替えてて」

 

 ここでシャルルは言葉を濁らせる。最初の着替え以降、シャルルはどういう訳か一夏達と着替えようとしないのである。ほとんどの場合が前もってISスーツを着替えて行くか、先に着替え終わってるかのどちらかである。

 

「シャルル、たまには一緒に着替えようぜ」

「え!? い、イヤ、僕はその……」

「つれないこと言うなよ」

 

 そう言ってシャルルの肩を組んで密着する一夏。シャルルの顔が段々赤くなり、もじもじしだす。その様子は十代半ばの男子のそれとはあまり思えないところがある。

 

「大体シャルルはどうして俺達と着替えたがらないんだ?」

「そ、その、えと、あの……」

 

 一夏にそう尋ねられ、シャルルはそれに言葉を詰まらせてしまう。それを見て、やれやれ、と思いながらもシンは一夏の後ろに立ちその首根っこを掴む。

 

「一夏、さっさと行くぞ」

「え? あ、おい!? シン!?」

 

 一夏が言いたげな様子であったが、シンは有無を言わさずに一夏をそのままアリーナの更衣室へと引っ張っていく。

 

「ちょ、シン! いきなり何するんだよ!」

「あのなあ、一夏……あそこ見ろよ」

「へ? あそこって……あぁ……」

 

 引っ張らていく中一夏はシンに抗議の言葉を投げるが、返す言葉でシンに言われて一夏はシンの示した場所を見ると、一夏に対して疑いの目を向ける箒達の姿が。何を疑ってるのか、それは流石の一夏も理解した様だ。

 

「……分かったな」

「お、おう」

「全く……」

 

 シンは思わず溜息をつきながら、一夏を引っ張り更衣室へと戻っていった。一夏もいらぬ誤解を受けたくないため今度は素直に従っていく。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「ああ……疲れた……」

「……おい、一夏」

「ん?」

 

 更衣室で着替える最中、一息ついてそう漏らす一夏にシンは唐突に声をかける。

 

「シャルルに気をつけろよ」

「え?」

 

 突然そのようなことを言われ、一瞬理解できない一夏。そしてその言葉に呆然とする一夏を横目に早々と着替え終わったシンはそのまま先に更衣室を出る。シャルル・デュプレ、この数日で悪い奴ではないと分かった。人のことを思いやれる優しい人間だ。それだけに、彼の行動はどこか違和感を感じさせる。何に、と聞かれるとシンもよく分からない。それだけに何となく心にしこりの様なものを感じてしまう。

 ふと後ろから気配を感じたシンは後ろを振り向く。そこにはシンの影からにゅっと現れる楯無が。

 

「っておわぁっ!?」

「あはは! 驚いた?」

「驚いたもへったくれもないわ! どうやって影から出てきたんだよ!」

「ん~、ノリで?」

「ノリで出られてたまるか! 心臓に悪い!」

 

 影から出てくるという時点でもう世界観がGガ○ダムになりかけているがそこに突っ込む勇者はどこにもいない。シンは一通り突っ込んだ後、深い溜息をつき、思考を切り替える。

 

「で? 何か分かったんですか?」

「そうね。結構大変だったわよ。彼のことを調べるの」

 

 表情をいつもの飄々としたものから真面目なものに変えた楯無がそう言いながら、シンにファイルを投げ渡す。シンはそれを受け取りファイルを開く。そこには何枚かの報告書と、シャルルの写真が入っていた。シャルルのことがどうも気になったシンは楯無に頼んでシャルルについて調査してもらったのだ。

 

「シャルル君の個人データ、これでもかってぐらいにプロテクトが固かったから調べるのにえらい苦労したわ」

 

 楯無のぼやきを適当に流しつつ、シンは報告書を読む。そこにはシャルルの個人データの不審な点などが事細かく書かれていた。

 

「データのいくつかには改竄された後があったわ。それに経歴もフランス代表候補生になるより前のは全てでっち上げの偽物」

「なるほど。シャルルが何者なのかは分からないんですか?」

 

 報告書を見る限りではシャルルのデータに偽りがあることだけしか書かれておらず、シャルルの正体については不明としか書かれていなかった。

 

「駄目ね。そこから先は何も出てこないわ。多分誰かがデータを消したんだわ」

「……そうですか」

「ともかく、シャルル君のことは引き続き調べるつもりよ。シン君も気をつけて。何か分かったら私に報告を」

「分かりました」

 

 楯無はそれじゃあね、と言って廊下を歩いていく。楯無の姿が見えなくなったところでシンは制服からライターを取り出し、報告書の入ったファイルに火をつける。そして報告書が完全に燃えたのを確認してからシンはその場を去って行った。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 自室に戻るなり、シャルルは深い溜息をつく。その眉間には皺がよっていて今彼が不機嫌であることを示している。

 

「はぁ……何怒ってるんだろう、僕……」

 

 再び溜息を付きながらそうシャルルは呟かずにはいられなかった。原因はシャルルでも分かっている。一夏とシンと遅れて更衣室に戻ったシャルルが見たのは真耶と楽しげに話している一夏の姿であった。何でもシフトの調整が整ってもうすぐ男子も浴場が使えるということで、そのことで一夏が大分興奮していた様である。そういえば一夏って三度の飯より風呂好きとか言ってたな、と以前話していたのを思い出すが、シャルルが気にしたのはその事ではなかった。

一夏が異性と親しげに話している、そのことがシャルルの心に荒波を立たせていた。

IS学園が女子校である以上どうしても女子と話す機会が増えるのは自然なことであるが、それがどうしてか気に入らない。

(どうしてなんだろう?)

 一夏は今自分がここにいる目的であり、最終的には一夏を騙す結果となる。その事に罪悪感がないと言えば嘘になるが、しかしこれは『仕事』だと自分に言い聞かせる。

 仕事、そうこれは仕事だ、そうシャルルは自分に言い聞かせる。今までもどんなに後ろめたい事でも『これは仕事だ』と言い聞かせることで冷酷に、そして心の内にある余計な雑念が消してきた。まるで只命じられたことを淡々とこなす『人形』の様に。

『あの日』から今までそうしてきた。

そうして生きてきた。

そうしなければ自分に居場所等無かった。

そうすることが――『あの人』に忠実な『人形』である自分が生きている唯一の価値なのだから。

 なのにどうしてだろう、織斑一夏、彼の存在はシャルルの心をかき乱す。どこまで自分の心を無にしても、彼の存在がどこまでもシャルルの中で残り続け、シャルルの中に埋もれている何かを揺り動かせる。

 

「……シャワーでも浴びよう……」

 

 悶々としていても仕方ないと考えシャルルはタオルと着替えのジャージ、それと替えの下着を手にシャワールームに入る。

 シャワールームに入ってドアに鍵をかけるシャルルだが、その時点でシャルルはまだ気づいていなかった。実はシャルルが部屋に戻る前、昼頃に一夏達が部屋に戻っており、その時にまた一夏が余計なことを言った為に箒が木刀で一夏をボコボコにするという出来事があり、そしてその最中偶然箒の突きがシャワールームのドアに直撃して、鍵が壊れてしまったのである。

 もしその事にシャルルが気づいていれば、その後に起こる事態を回避できたのかもしれない。しかしそれは仮定の話、シャルルはドアの鍵がかかっていないことに気づかぬまま制服を脱ぎ捨て、シャワーのノズルをひねるのであった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「はー、終わった終わった」

 

 職員室を出て、自室に戻る中、一夏は疲れた様な声でそう漏らす。シンが更衣室を出た後、真耶が更衣室に現れて白式の正式な登録に関する手続きで一夏を職員室まで連れて行った。書類は量は多かったが、名前を書くだけのものばかりだったのでそれほど時間はかからなかった。

 

「ただいまー。ってあれ? シャルルがいないな」

 

 自室に戻ると先に帰っていると思ったシャルルが見当たらない。と、シャワールームからシャワーの音が聞こえてくる。どうやらシャワーを浴びている様だ。

(そういえば、ボディーソープが切れてたな。渡しておこう)

 ふと一夏はボディーソープが切れていたのを思い出し、クローゼットから予備のボディーソープを取り出す。そして脱衣所に入り、シャルルにボディーソープを渡そうとする。そこでちょうどシャワールームのドアが開く。ボディーソープが切れてることに気付いたのだろう。

 

「あ、シャルル。ちょうど良かった。これ、替えの…….」

 

 

 

 

 

「……へ? い、いち……か…………?」

 

 

 

 

 

「…………へ?」

 

 しかしシャワールームから出てきたのはシャルルではなく、どこかで見たことのある『女子』だった。

何故ここに女子がシャワーを浴びてるんだ?

あと、シャルルに似ているけどどうしてだ?

あまり予想外の事態に一夏も、そして目の前の少女も固まってしまう。シャワーの音が無駄に大きく聞こえる。

 

「きゃあっ!」

 

 その静寂を破ったのは少女の悲鳴だった。そのまま少女は手で胸を隠しながら、シャワールームの奥に隠れる。その悲鳴で一夏もやっと我に返る。

 

「……え、えっと……」

「……」

「ぼ、ボディーソープ、ここ置いておくから……」

「う、うん……あ、ありがとう……」

 

 少女の返事を聞いてから、一夏は逃げるように脱衣室から出る。そしてドアを出たところで脳が正常に機能し始める。

(今のってシャルル……なのか?)

とりあえず記憶を巻き戻しだす一夏。顔は間違いなくシャルルだ。しかしその下には程よく膨らんだ胸があった。あと先端に桜色の……

 

「って何を考えてるんだ俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 あまり事細かに書くとR-18指定のタグが付きそうな回想が頭に浮かびだしたところで急に恥ずかしさがこみ上げた一夏は思わず壁に頭をガンガンぶつけだす。あまりに強く叩きつけたせいか、床に血だまりが出来始めているが一夏がそのことに気づく様子はない。

 ちょうどその時、鍵のかけていないドアからシンが入ってきた。

 

「おい一夏、鍵開けっ放……な、何やってんだ?」

 

  ちょうどその時、鍵のかけていないドアからシンが入ってきたが額からギャグ漫画の様に血をダラダラ流す一夏を見て固まる。そして恐る恐る一夏に尋ねる。

 

「いや、生命の神秘について深く考察していただけさ」

「おい、頭大丈夫か!? ホント何があったんだ!?」

 

 未だ気が動転しているのか訳の分からんことを口走る一夏。一体何があったのか、多分シンじゃなくてもそう尋ねるだろう。

 

ガチャッ

 

「おいシャルル!? こいつどうしたん、だ……」

「……」

 

 脱衣室のドアが開き、シャルルが出てきた……と思いきやシャルルに似た少女が現れるというシンの思考許容量を大きく超える異常事態が目の前で発生し思わず硬直してしまう。

 

「え~……水をかぶると男でお湯をかぶると女になるのか?」

「いや、ら○ま1/2じゃないからな!?」

 

 かろうじてシンが言えたのはそれだけであった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

あれから一時間後、一同が落ち着いたところで、シャルルは真実を語りだす。父親はデュノア社の社長でシャルルはその娘であること、シャルルが物心着く前に父が母と自分を捨てたこと、そして母亡き後父親の元でIS適正が高かったがためにテストパイロットとして過酷な実験の毎日であったこと、本家宅でボロ雑巾の様に扱われていたこと、そして世界で二人だけの男のIS操縦者であるシンと一夏に接触し白式とデスティニーのデータを入手する様命じられ、そのために性別、そして自身の名前から経歴まで全て偽らされたこと、それは一夏は勿論、C.E.で戦争という過酷な地にいたシンにとっても想像を絶するものであった。

シャルルが全てを語った後、シンと一夏は口を開くことができず部屋の中は沈黙に包まれてしまう。

 

「……その、ごめんね。皆を騙しちゃって」

「あ、いや、いいさ。俺もお前の事疑ってたし、お互い様さ」

「でも、悪いのは僕の方、シンが疑うのは悪くないよ」

「……」

 

 シンとシャルルが話している間、一夏は喋る所かピクリともしない。それがシンには少々不安に感じるが、今はシャルルに聞かなければいけない。無反応な一夏を尻目にシンがシャルルに聞きただす。

 

「……それで、シャルルはどうなるんだ。この後。俺たちはともかく、この先ずっと隠し通せる筈がない。どこかで絶対バレる。その時、シャルルは……」

 

 その言葉を最後まで続けることはシンには出来なかった。シンとてどうなるか分からない訳ではない。只、シャルルの往く未来――その先にあるのが絶望しかないというのを口にしたくないだけであった。

 シャルルはそんな苦しげな表情のシンを見てその先は言わなくていい、と首を横に振り、その続きを繋げる。

 

「うん。よくても刑務所生きは免れないだろうし、どの道こんなことしたんだから、言い逃れは出来ないよ。あ、でもシン達は被害者なんだから気にしないで。事情徴収とかで少し面倒くさいことになっちゃうけど」

「シャルル、もう……」

 

 どこまでも他人のことを思いやり、自身のことはこれ以上ないほど鑑みない、シャルルの言葉は聞く者にとってあまりに悲しく虚しく心に刺さり、シンは思わず未だ続けようとするシャルルを止めようとする。

 しかしシャルルは止めない。まるでこれが自分の最後だと言わんばかりに。

 

「最初からこうなることは分かってたんだ。だから父は僕をここに送ったんだ。シャルル・デュプレは自分の私欲のため性別を偽ってIS学園に不正入学、男子であることを利用し男性IS操縦者である織斑一夏とシン・アスカに接近して両者のISのデータを入手、そのデータを他国IS企業に裏取引しようとしていた……これが筋書き、全てはもう決まっていたことなんだよ。戸籍上父と僕の間には何も無いから、捕まってもとして父に何の不都合は起きないし、デュノア社にも何の被害はない」

「けど! まだ何か手がある筈だ!」

 

 その言葉を遮りシンは必死に言うが、シャルルは首を横に振る。シンはそのシャルルの顔を見てゾッとする。いつもと変わらぬ笑みを浮かべるシャルルだが、その笑みには何の感情も感じられなかった。まるで心の無い『人形』の様な笑みだ。こんな笑いが人に出来ることなのか、思わずシンはそう感じ得ずにはいられなかった。

 

「いいんだ、シン。僕には何も無いんだよ。お母さんが死んだあの日、父に引き取られたあの日から、僕を愛してくれる人も、僕が愛している人も、何も無かったんだ」

「シャルル……」

 

 シンはふと自身の過去を思い出す。家族が死んだあの日、シンは全てを失った。失ったシンがそれでも今を生きてきたのは家族を奪った者達に対する怒り、そして全てを失い呆然としていたシンに「君だけでも助かってよかった……」「……きっとご家族はそう思ってらっしゃるよ」と言ってくれたオーブのあの士官のおかげだと思う。

 しかしシャルルには何も無かった。母親を失い空っぽとなった感情、彼女に救いの手を差し伸べる者もいない。それが彼女を『人形』に変えてしまった。

 

「何も無い、器だけの僕が今まで生きていたのは、父が『人形』としての僕に価値があったから、『人形』としての僕を必要としてたからだ。でも、それももう終わりだ。これでもう僕に何も残っていない……」

 

 その言葉を最後にシャルルは静かにそのエメラルドの美しい瞳を閉じる。只『死』を待つかの様に。

 

 

 

 

 

 

「……ふざけるなよ……」

 

 

 

 

 

 

「えっ……?」

 

 しかしこれまで只シャルルの言葉を聞くだけだった一夏が、かろうじてシャルルとシンに聞こえる程か細い声で呟く。

 一夏のそれで目を閉じたシャルルがハッと顔を上げる。一夏は突然シャルルを両肩を掴むと自身の瞳をシャルルに向ける。その瞳にはがあった。

 

「……そんなんでいいのか? そんな、親に利用されて捨てられる運命なんて……」

「……そうなることが父の望みなら、僕に選ぶ権利なんて――」

「良い訳ないだろ! お前の人生をそんな風に決められて、言い筈ないだろ!」

「っ!!」

 

 一夏に叫ばれ、それまで何も無かったシャルルの表情に何かが現れる。一夏は叫ぶ。今まで溜めてきた心の吐露を撒き散らすかの様に。

 

「親が何だ! 何も無いから何だ! そんな言葉で簡単に自分を決め付けるな! 自分の気持ちを押しつぶすような生き方をするな!」

「で、でも、僕にはもう他の生き方なんて――」

「だったら探せばいい! お前が望む生き方を! そんな……そんな簡単に諦めるなよ!」

「っ!」

 

 そこで一夏は気づく。自分もシャルルも同じだと。親という存在に自身の人生を狂わされたのだと。それでもどこかで親の温もりを求めてしまう、悲しき人間なのだと。

 

「俺はそんな――」

「一夏、落ち着け」

 

 一夏は更に叫ぶが、その直前にシンが一夏の肩を掴みそれを止める。そこで一夏も自分が熱くなりすぎていることに気がつき、一度ベッドに倒れる様に腰掛け、荒くなった息を整える。

 

「……何で一夏は、そんなに僕に構ってくれるの? こんな僕を……?」

 

 時期を見計らって、シンが一夏の様子を見ながら尋ねる。一夏は自分の気持ちを落ち着かせるかの様に少しの間を置いて、呟く様に語る。

 

「……俺も、お前と同じだ」

「……え?」

「俺の両親は、俺と千冬姉を置いてどっか消えちまったんだ」

「あ……」

「……そう、か」

 

 事前に渡された資料に書かれたことを思い出したシャルルが気づくがその理由まで知らなかったのだろう、驚いた表情を見せ、シンも初めて知った一夏の家庭の事情に顔をしかめる。

 そのまま三人の間に沈黙が訪れる。暫くしてそれを一夏が破った。

 

「……あの時、俺はまだ五歳で、千冬姉も中学生で、箒の家にお世話になるまで、色々あった」

 

淡々と過去の思いを告げながら一夏は思い出す。幼い頃、誰もいない部屋の隅で、孤独に心が押しつぶされそうになる自分を。毎晩願い続けた、傍に居て欲しかった温もりを求めていた。

 

「寂しかった。苦しかった。寂しくて、泣いたこともあった。親なしって、馬鹿にされたこともあった。でも、俺には千冬姉と箒達がいた。皆がいたから、俺は俺でいられた」

 

 そして一夏はシャルルの揺れる瞳を見る。シャルルはその瞳――同じ苦しみを持っているから見せられるその悲しみに溢れていたその瞳を見てシャルルは今自分の中で何かが溢れていくのを感じた。

 

「何も無いなんて言うな、シャルル……お前は誰にも優しくて、明るくて……そんな奴に何も無いなんて、俺は思わない! 誰にも思わせない! 思わせてたまるか!」

 

 一夏の言葉、その一つ一つがシャルルが自ら封じ込めてきた心の鎖を砕いていく。希望等ないと思ってきた、絶望が覆い尽くしてきた世界に光をもたらしていく。

 でも、とシャルルは思ってしまう。これ以上は、と思ってしまう。どんなに希望を持っても、最後に訪れるのは絶望しかない、希望等持ってはいけない、その過去の絶望という名の鎖がシャルルを封じ込めようとする。

 

「でも……でもっ! 望んでも! 欲しくても! 僕にはそれが許されない! 父が! 周りがそれを許してくれない!」

 

 

 

 

 

 

「俺がいる!」

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

 その言葉にシャルルは顔を上げる。一夏はためらうこと無くその言葉の続きを言う。

 

「お前がどんなに悲しくても、寂しくても、俺が受け止める!お前の願いを、俺が支えてやる! 叶えてやる!

 

 

 

 

 

 

お前は

 

 

 

 

 

 

 

俺が守る!」

 

 

 

 

 

 

 その言葉がシャルルの心に絡みついた鎖を断ち切った。絶望という名の闇が『一夏』という眩いばかりの希望の光によって消えてゆく。

 目の前が潤んでいく。目尻から何かが零れ落ち、頬を濡らす。それが涙だと、今自分は泣いているのだということに理解できない、今のシャルルの心は

 今は何も考えたくない。

今は只、堪えてきた、耐えてきた、我慢してきたこの思いをぶつけたい。

今の自分には、それを受け止めてくれる一夏(ひと)がいるから。

 シャルルが、その美しき顔を涙でクシャクシャにして数瞬後、一夏は自分の体に何かが抱きつくのを感じ、それがシャルルの小さな体だと理解するのには更に数秒の時間が必要だった。

 

「シャ、シャルル――」

 

 

 

 

 

 

「……あり、がとう……」

 

 

 

 

 

 

 必死で、嗚咽で一杯の喉の奥からその言葉を一夏に告げる。そして嗚咽混じりでありながら、シャルルは一夏に、自分の偽らざるその思いをぶつける。

 

「……寂しかった……

 

……怖かった……

 

本当は僕は……私は認めて欲しかった……『あの人』の子供だって、『あの人』に言って欲しかった!

 

お母さんが死んで……誰かに見てもらいたかった! 私を! だから……だから!」

 

 

 

 

 

 

「それでいいよ」

 

 

 

 

 

 

 気がついたら、一夏はシャルルの体を抱き返していた。そこに気恥かしさは無く、たった一人の少女の願いを受け止める優しさがあった。

 

「っ! イチ、カ……?」

 

「どれだけ叫んでも、泣いてもいい。俺が全部受け止めてやる

 

 

 

 

 

 

 

シャルロット(・・・・・・)……いや

 

 

 

 

 

 

シャル(・・・)

 

 

 

 

 

 

「っ! ……あ……うぅ……」

 

 何故、一夏が自分の本当の名――シャルロットという名前を知っているのか、何故シャルと呼んでくれたのか、そんなことはシャルル――否、シャルロットにはどうでもよかった。只、目の前の少年が自分をシャルルという偽りの少年の名前ではなく、シャルロットという本当の彼女の名前で呼んでくれたことが、この上なく嬉しかった。そのたった一つの、しかし優しさの篭った言葉が、シャルロットの凍りついた心を溶かしていき、心に染み込んでいく。

 

 

 

 

 

 

「うぅ……うっ……ああぁ……あぁあああああああああっ!!」

 

 

 

 

 

 

 シャルロットは泣き叫ぶ。

もう我慢しなくていい、もう泣いたっていい。

その言葉がシャルロットの瞳から積を切った様に涙を流させる。忌まわしき記憶と共に流させていく。

一夏は何も言わず、只自分の腕の中にいる少女の震える心、体を優しく包み込むだけだった。それだけで、シャルロットは満足だった。

 

 

 

 

 

 

 こうして、二人が初めて心を通わせた夜は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

――シャル、ロット……?――

 

――ウン! シャルロット! イイ、ヅライ?――

 

――うぅん、ちょっと……ね――

 

――ソウ……――

 

――ええと……っ! そうだ!

 

 

 

 

 

 

シャル!――

 

 

 

 

 

 

――シャル?――

 

――うん! シャル! そう呼んでいい?――

 

――シャル……ウン! イイヨ! アリガトウ!

 

 

 

 

 

 

イチカ!――

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 一夏とシャルルが互いに心を通わせる一方、シンは静かに二人の部屋から、半ば逃げる様に出ていき、宛も泣くぶらつく内に寮の外庭に出ていた。その心中は苛立ちに満ちていた。

 

「……何が気に入らないんだ、俺は……」

 

 自嘲するかの様に呟き、シンは深い溜息をつく。何故自分が苛立っているのか、その理由をシンは理解しているが、同時にあまり認めたくないものであった。

(守る……か)

 守ると言って守ることが出来なかった自分、あの頃――ベルリンでステラを失った時の苦い記憶が蘇る。ステラを守れずその腕の中で死なせてしまったシンには、一夏の姿が昔の自分と被ってしまい、それがシンの屈折した心を苛立たせてしまう。

 シンがそのやり場の無い苛立ちの矛先をどうすれば、と悶々し、その為目の前に一人の少女が立っていることに気が付くのに遅れてしまう。

 

「……シン・アスカ……」

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

 

 ラウラの姿を認めてシンが僅かに警戒する。ラウラは無表情を貫いたまま、シンを見つめ続ける。昼の件といい、一体自分に何の用があるのか、シンはラウラから視線を離さず、その紅い瞳を細める。

 ふと、ラウラ一歩、また一歩と歩き出す。シンもそれに反応するように足を進める。その静かな動き、しかし二人の間にはまるで侍同士の真剣勝負にも似た緊迫感が存在している。段々と二人が近づき、そして二人がすれ違ったその時、ラウラが口を開く。

 

「シン・アスカ……

 

 

 

 

 

 

私は

 

 

 

 

 

 

お前を倒し

 

 

 

 

 

 

真のコーディネーターに……私はなる」

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 ラウラの放った言葉――『コーディネーター』という単語にシンは思わず息を飲んでしまう。

 何故彼女がその言葉を知っている?

 俺がコーディネーターだと知っているのか?

 それに……

 

真のコーディネーターとは一体……?

 

 

頭の中で幾つも疑問がよぎる。しかしあまりに予想外の事態にシンはその場で立ち尽くしてしまう。暫くして落ち着きを取り戻したシンは後ろを振り返るが、既にそこにラウラはいなかった。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

 

 シンはラウラの名を呟く。その声色には、困惑の感情が孕まれていた。

 




どうも。パクロスです。今度発売のスパロボUXの登場作品が何か色々ツッコミ所満載だと思うパクロスです。

はぁ……書けた……やっと書けた、そしてシャル……ホンマよかったな。
しかし一夏君、上手く書けたかどうかが一番不安ですね。この作品ではシンとのダブル主人公を目指してるんですけど……。
一応この作品での一夏は「親の愛に飢えた少年」というのを主眼に書いていこうと思っているんですよね。親に捨てられたが故に、姉や友の愛は知っていても親からの愛は知らず、それゆえに親からの愛を渇望する、そんなスタンスで書いていきたいんですね。朴念仁という点もそれを元に自分なりの解釈で書いていきたいと思っています。

そして最後にやっちゃった、ラウラコーディネーター疑惑! これはラウラが試験管で生まれた設定とせっかくのSEEDのクロスですから、やってみたいなぁと思ってやっちゃいました。これからもこんな感じでデスティニー要素がゴロゴロ出していく予定でございます。


そんなこんなで今回は一番自信があります。良ければ皆さん、感想をお願いします。普段感想書かない人も良ければどうぞ。何かテンションだだ上がり気味なもんで、(´▽`*)アハハ。
第二章も一番書きたかったところ書き終わったんでそろそろ終わりが見えてきました。これからも皆さんをあっと言わせる様な出来にしたいと思います。それでは。
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