IS×GUNDAM~シン・アスカ覚醒伝~   作:パクロス

16 / 22
/(^o^)\ナンテコッタイ
書いてた奴がいきなり消えやがった……チクショー
という訳でお楽しみに(どういうわけだ)


PHASE-12:すれ違い、揺れ動く心

 暗く、深い闇が少女にまとわりつく。闇が少女の自由を奪い取り、肌に触れる闇の冷たさが少女の身体を、心を冷やす。それに不快感は無い。その闇――運命という名の少女に絡みついたその闇は生まれた時から少女と一つであった。

少女の名はラウラ・ボーデヴィッヒ。人の形をしていながら、人ならざる者、そう彼女は彼女を生みだした者達に見なされていた。

 彼女、そして彼女と生まれを同じくする同種(・・・・・)は、生まれた時から運命を定められていた。『失敗作』としてこの世に生を受けた彼女達は戦うための道具としての運命を定められていた。生まれた時には50はいただろう、彼女の同種(・・・・・)も今では15にまで減ってしまった。誰もが抜け出せない運命という闇にその身を沈めていく。ラウラもその一人だった。

 

 

 

 

 

 

その闇から忽然と現れた、あの男に会うまでは。

 その男――白いマント、無機質な銀の仮面で自身を覆い隠した男がラウラに語る。

 

 

 

 

 

 

――それが君の『運命』だと言うのなら、運命に抗うのだ。絶望するのは、それからだ――

 

 

 

 

 

 

 そのたった一つの言葉が、運命を受け入れるだけだったラウラを突き動かした。深く沈んだ、暗く冷たい闇の中でラウラを必死で抗わせた。それが彼女を生き永らえさせた。

 ラウラ・ボーデヴィッヒは抗い続ける。

運命から逃れるため、ひたすら抗い続ける。

そのために彼女は誓う。

 

シン・アスカ

 

彼女に『運命』という闇を負わせた者

 

 

 

 

 

 

『光』を

 

 

 

 

 

 

倒す。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 様々なこと、あまりに衝撃的な出来事が連続して起きた次の日の朝、今日も今日とてIS学園一年一組の教室は騒がしい。特に今はこの学園に三人しかいない男子に関するニュースが女子達の注目となっている。

 

「ほ、本当なのっ!? ガセじゃないよねっ!?」

 

 話を聞いていた鈴が思わずそのニュースを持ち込んだ女子生徒に詰め寄る。その女子はその反応に満足するかのように満面の笑みを浮かべると繰り返すようにその場の全員に言う。

 

「モチのロン! 月末の学年別トーナメントで優勝したら男子一人と交際出来るんだって!」

『な、何だってぇっ!?』

「す、すごいじゃなイカ!」

「す、素晴らしいでゲソ!」

 

 男子三人の内の一人と交際が出来るという、魅力あふれる景品にその場の女子一同が驚愕を顕にする。……二名程妙なのがいたがそこはあえてスルーする。

 一組の女子がその話題に黄色い悲鳴を上げているのを、ちょうど登校してきた一夏とシャルル改めシャルロットは不思議そうに見つめる。

 

「どうしたんだろ?」

「さあ……」

 

 一夏の問いかけにシャルロットは若干腫れの残る目元を擦りながら返す。

 

「鈴、どうしたんだ? 皆してそんな騒いで?」

 

 ちょうど鈴が話の輪の中にいたのを認めた一夏が後ろから声をかけると、噂の一人が来ていたことに固まっていた一同が驚いて思わず一夏を見てしまう。

 

「な、何でもないよ! ね、皆!」

『うんうん』

「そうか? まあいいや。行こうぜ、シャル」

「あ、うん」

 

 ややリアクションがオーバー過ぎるが、一夏の方は特に気にする様子もなくシャルロットと共に自分達の席に着こうとする。それと同時に教室のドアが開き、シンが姿を現す。

 

「あ、アスカ君! おはよう……」

「……応。どうした?」

「いや、それはこっちの台詞だよ。どうしたんだ、疲れた顔して」

 

 一夏の言葉に女子がシンの顔を見返す。言われてみると確かに今のシンの顔は大分酷いものだ。目の下にはうっすらと隈が出来ており、更に元々白い肌がさらに青白くなっており、思わず病気と思えてしまう程である。鈴も心配してかシンに駆け寄ってくる。

 

「大丈夫なのアンタ? どこか体悪いの?」

「いや、只の寝不足だよ。問題ない」

「そうか? あんま無理するなよ」

 

 一夏の気遣いに軽く返事を返すシンだが、いつもと違うその様子に一夏と鈴、シャルロットだけでなく一組全員が気にかけてしまう。

 

「諸君、おはよう」

 

 騒々しい教室の中、その中でもはっきり聞こえる声に全員が声の主を見てしまう。ラウラ・ボーデヴィッヒ――転校して数日しか経っていないが、誰とも積極的に話そうともせず、クラスで孤立気味な少女である。その彼女が突然おはよう、と言ったことに全員が驚いてしまう。一体どう言う心境の変化なのか、恐らく全員が同じことを思っただろう。しかしその理由は次のやり取りで理解してしまう。

 

「……」

 

シンとラウラの間で無言のやり取り、暫くしてラウラが軽く鼻を鳴らすと、真っ直ぐ自分の机に向かっていく。

 

「……何かあったのか? ラウラと」

「……別に。何でも……」

 

 そう否定するシンだが、先のやり取りとシンが答えるまでの微妙な間がラウラとの間で何かあったことを全員に教えていた。

 しかしシンはそれきり何も言わず、一抹の不安を一同に残したままHRを迎えていった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 それから数日後、一夏とシャルロットの二人はISアリーナに向かっていた。もうすぐ学年別トーナメントも近いため自然一夏も今まで以上に訓練に励んでいる。

 

「そういえばシンは?」

「あいつは先にピット行ってる。新装備が届いたからそれの微調整だって」

「そう……大丈夫かな、シン」

「最近上の空だよなぁ、アイツ」

 

 一夏とシャルロットはここ数日のシンの様子を思い出し、心配気な表情を浮かべる。シャルロットが自分の正体を明かした翌日から、シンの様子が可笑しくなっているのは、一組全員が気にしていた。授業はずっと上の空で毎回ことごとく千冬の出席簿の餌食となり、授業以外でも何か思いつめている様な表情を浮かべていることが多くなっている。一夏達もシンが心配で何度か話しかけてみたが、大丈夫だと、疲れ気味な顔で言われるところである。

 

「何か僕達でしてあげられること無いかな……」

「どうだろうな……自分のこととか全然話したがらないからな」

 

 一夏がそう言ってから、一夏はシャルルを安心させるかの様に笑いかける。

 

「心配するなよ。アイツだってその内話してくれるさ、きっと」

「……うん。そうだね」

 

 その言葉でシャルロットも。そして一夏の顔を見つめてフフ、と軽く笑う。一夏はそのシャルロットの笑みに思わず男としての本能が揺さぶられてしまう。先日の一件でシャルロットが女と分かってからというものの、これまでも気になってしまっていたシャルロットの女の仕草に一夏は度々落ち着かない気持ちになってしまっていた。

 

「な、何だよ? ニヤニヤして」

「ううん。一夏ってやっぱり優しいなって思って」

「優しい? そうか? 別にこれくらい普通だと思うけど」

 

 一夏は自分のことをそうだと思ったことは一度も無かった。只当たり前のこと、それをやってきただけである。しかしシャルロットは違う、と言う。

 

「本当に優しくなかったら、こんな僕のこと助けようなんて思わないよ」

「あ……」

「優しそうに見えても僕のことを本気であんなに気にかけてくれる人、いなかった……そんな僕にあんなことを言ってくれる人、今までいなかったから、嬉しかった」

 

 そう言って一夏に向けて微笑む姿は以前のものとは違い、心の底から喜んでいる様に見える。その姿に一夏は自分の頬が紅潮していっていることを知覚してしまう。

 

「ありがとう、一夏。一夏がいたから……一夏の優しさが『僕』を『私』に戻してくれたんだよ。だから……ありがとう!」

「お、おう……その……、こちらこそ、どうも……」

 

 その感情の篭った言葉から来る気恥かしさとシャルロットの女の子としての笑顔に思春期の男子として一夏はむず痒い気持ちになってしまい、頬をポリポリとかく。恥ずかしく感じる反面嬉しくもあるそのシャルロットの言葉と微笑みに一夏は自分の気持ちを持て余してしまう。

甘酸っぱい青春を感じさせる光景、それを破ったのは突如通路にまで響く轟音とアリーナ全体に響いたのではないかと思える程の振動であった。

 

「な、何だ!? 今のは!?」

「アリーナの方から聞こえたよ!」

 

 一夏はシャルロットに目を向ける。シャルロットの瞳は先程の優しい瞳から引き締まった鋭い光を灯していた。それは一夏も同様でシャルロットが一夏に顔を向けるのと同時に一夏とシャルロットはそれで互いの気持ちが同じだと認める。

 

「行こう!」

「うん!」

 

 一夏がシャルロットにそう鋭く言い駆け出す。シャルロットもそれに追う様についていく。そうして二人は状況を確認するためにISアリーナの観客席に向けて駆け出していく。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 一方、シンは一夏が話した通り、一足早くアリーナ内のビットにてデスティニー用に開発された武装のセッティング作業に勤しんでいた。ビットのデスティニーがされているスペースにいるのは現在デスティニーに乗り込んでいるシンとそれを見つめる千冬、それにこのIS学園において希少な存在――男が三人。ヴィーノ、ヨウラン、マッドの三人だ。

 

「どうだ、シン?」

「……はい、FCSリンクもセッティングも問題ありません」

「? 元気がないな、どうした?」

「いえ、何でも……」

 

 やや反応が遅れて返事をするシンに何かを感じとったマッドがシンを心配する様に様子を伺うが、シンは言葉を濁して逃げ込む様に作業に専念する。そんなシンを怪訝そうに見つめるマッドだが、ちょうど目の前の中空投影モニターに『complete』と言う文字が映るのを認めてそちらに意識を戻す。

 

「っと、こっちは完了したぞ、シン」

「こっちもOSのセッティングとFCSリンク、終わりました」

「そうか、じゃあ細かい仕様の説明するぞ」

 

 マッドはパネルを操作しシンの前に中空モニターを展開させる。中空モニターには今回新たに追加された武装――『RSG-22α イーグルストライク』『SGW-12Z ファルコンショット』が映されていた。

 

「ダブレン社製のIS用ライフルとショットガンをデスティニーの馬力に合わせて口径と弾頭を変更した奴だ。元のより威力は大分上がっているが、その分反動はデカいだろうが、まあ問題ないだろう」

「へえ……」

 

 マッドの説明を聞きながらシンはたった今量子変換(インストール)されたイーグルストライクとファルコンショットを両手に握らせ、具合を確かめる。『イーグルストライク』はプルパップ式の独特の形状のアサルトライフルで銃身下部にはグレネードランチャーが取り付けられている、中距離向きのライフルである。もう一つのショットガン『ファルコンショット』は通常より一回り大きめの銃身が特徴と言える。

 

「で、もう一つの格闘武装なんだが……」

 

 そう言いかけてマッドは言葉を濁すが、その理由はシンにもよく分かる。今回製造された追加武装はヴィーノとヨウランが共同で製作したものである。射撃武装は元から改修するだけなので問題はない。そう射撃武装は。問題は格闘武装の方である。

 

「まあ、見た目はともかく――」

「おい! おやっさん! これのデザインのどこが悪いんだよ! メチャカッコイーじゃん!」

「やかましい! 造るんなら真面目に造らんかい!」

「どこの世紀末の武器だよ、これ……」

 

 恐らくこのデザインにした張本人であろうヨウランがマッドに猛抗議するが、その抗議に同意する人間はそういないだろう、とシンは右手に持ったそれ――『CWB-001 斬機刀』を半ば呆れた目で見る。

 その見た目は一言で言えば『悪趣味』といえる。機械も断ち切るという意味で付けたのだろう『斬機刀』という名前とは裏腹に大分粗雑な造りである。骨を削り出した様な刀身に峰に当たる部分には肉食獣の牙の様なパーツが何本も取り付けられている。極めつけは柄の頭が骸骨の様なデザインになっている所である。

 

「畜生! おやっさんにはこのカッコよさが分からないのかよ!? シンなら分かるだろ!? このワイルドな野性味あふれるカッコよさ!!」

「あー……そうだな、確かに厨二臭い(カッコイイ)な」

 

 棒読みかつ皮肉をこの上なく込めてシンが言うが、テンションが色々壊れ気味なヨウランが気づく様子は全くないようである。アホ度MAXなヨウランに思わず一同溜息をつかずにはいられなかった。

 

「まあ、外見はともかく性能は中々だから、実戦では問題ないがな」

「とりあえず使い方教えるからシンちょっと待ってて」

「ハハハハ! 俺達が編み出した数々の特殊能力、その目に焼き付けるがいい!」

「はいはい」

 

 ヴィーノとアホ度1000%のヨウランの説明にシンが(主にヨウランに対し)呆れ気味にだが。その様子を見ながらマッドは苦笑する。

 

「すいませんね、織斑少佐。うちのバカどもが騒いでしまいまして」

「構わん。騒がしいのはIS学園(ここ)も対して変わらん」

 

 そう言って千冬が目を向けた先にはシン達以外の珍しい男の姿に黄色い悲鳴を上げている女子の姿があった。

 

「ハハハ……どこも同じってことですか」

「そういうことだ」

 

 騒ぎすぎだ馬鹿者共、と千冬がため息をつきながら呟くのを横目でみながらマッドは世界最強と名高い女傑の面白い一面が見れて楽しげな表情を浮かべる。

 

「少佐、シンの追加武装の受領書にサインをお願いします。あと学園で使用するISの消耗材と交換品、それと弾薬各種のも」

「ん? 学園のISの資材の受領は一週間後の筈では?」

「折角でしたのでシンのと一緒に持ってきました」

「成程な。……しかし、どうも慣れんな、その『少佐』というのは」

 

 受領書にサインを書きながら、千冬は国連軍特務隊特務少佐という自身の階級の呼び名に顔をしかめる。

 ISが世に出て10年、その間にIS関連の法律及び国家間の条約等は整いつつある。アラスカ条約しかり各国の国家代表しかり。国連軍もその一つである。尚、IS学園はその性質上国連管轄下となっており、勤務する職員は全て国連軍特務隊所属となっている。教職員の中には現役軍人もいるので二重軍籍を持つ人間もいるわけである。そういった事情と千冬がIS学園において非常事態における最高責任者の任についているので特務少佐という階級になっているのである。

 

「まあ、少佐と言っても形式上のものですし、そこまで気にせんでいいと思いますがね」

「そうだろうが……ん? おい、エイプス。この『デュートリオン・システム』は何だ?」

「え? あ、しまった……そっちに紛れてたか……」

「何だこれは?」

「ええ、まあ、C.E.の技術で外部からのエネルギー供給が可能な――」

 

 マッドが説明を始めたその時、アリーナ全体を強い衝撃と轟音が襲いだした。幸い振動は直ぐに収まりピット内の被害はゼロであったが、それでも今の振動にピット内にいた少数の生徒は狼狽え、悲鳴を上げてしまう。

 

「落ち着け! 大したものではない」

 

 流石世界最強の威厳とも言うべきか、悲鳴を上げた生徒達は落ち着きを取り戻していった。ISという世界中の兵器の頂点に立つ機体を扱う以上、この程度のことはよくあることである。そのためピット内にいた生徒も二年生以上は特に騒ぐことなく冷静でいた。

 

「全く、どこの馬鹿共だ……」

「方向からしてISフィールド上でしたが……」

 

 マッドがそう言ってパネルを操作し空間投影モニターにISフィールドの映像を映し出す。そこに映っていたものにシンは思わず目を見張ってしまう。

 

「なっ!?」

「……ラウラ……?」

 

 千冬が普段の教師としてのと異なる声を呟くが、シンがそれに気づくことなく、モニターを食いつく様に見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

一夏とシャルルが見たのは、ISフィールドの中央に降り立つラウラと、対照に脇に追い詰められているセシリアと鈴の姿であった。二機共所々装甲が砕け、スパークを発している等状況は圧倒的に不利である。

 

「箒!」

 

 一夏達と同じだろう、この騒動を聞きつけてやってきた箒の姿を見つけて一夏が声をかける。

 

「っ! 一夏か!」

「一体何が!? 何でセシリアと鈴がラウラと!?」

「私もつい先程ここに来たのでよく分からないのだが……」

 

 言葉を濁す箒を尻目に一夏がフィールド上に目を戻すと、セシリアと鈴がそれぞれの得物を手に反撃の手を繰り出す。

 

「喰らえっ!」

 

 鈴の強い意志と共に両肩の非固定浮遊部位、第三世代兵装『龍砲』が圧縮された空間の弾を撃ちだす。

 

「無駄だ……」

 

 しかしラウラの言葉と共に伸ばされた右手――その掌の水晶体が輝くと着弾直前だった衝撃砲を消滅させてしまう。

 

「ちっ、こうまで相性が悪いと――」

「鈴さん、お下がりください!」

 

 鈴が言い終わる前にセシリアが強く叫び、同時にスターライトMk-Ⅳをアサルトモードで連射する。三本のバレルから連続で放たれる低出力だが実弾と比べれば高威力のレーザーの嵐にラウラも回避運動を取る。鈴はその隙に距離を取ると、再び龍砲による砲撃を行う。セシリアの鈴による射撃の嵐、しかしラウラはそれを苦にも思わせない動きで回避し続ける。

 

「ふぅん、この程度で代表候補生とは笑わせるな……」

「まだまだでしてよ!」

 

 ラウラの侮蔑にセシリアが言い返すと共に非固定浮遊部位のビットを全基射出、スパイクモードでラウラに向け突撃させる。

 

「無駄だ。その程度の仕上がりでこのシュヴァルツェア・レーゲンに敵うと思うな」

 

 ラウラは冷たいその眼差しでビットをいとも簡単に捉えると再び掌の水晶体が輝き、ビットの動きを止めてしまう。先の衝撃砲を止めたのもこの水晶体の働きによるものの様である。動きを止めたビットをラウラはそのまま握りつぶし、ビットを只の金属の塊に変えてしまう。

 

「っ! ですが動きは止まりましてよ!」

「それは貴様もだ」

「何を……っ!?」

 

 ビットを破壊し、硬直したその瞬間を狙い、スターライトMk-Ⅳをライフルモードにするセシリアだが、脚部に何かが絡みつくのを知覚した直後、それによって地面に引きずり落とされる。痛みに耐えつつセシリアが脚部を見ると、それはシュヴァルツェア・レーゲンの腕部から射出されたワイアーブレードであった。両腕から射出されたそれは、セシリアと鈴、それぞれに絡みつき二人の動きを封じていた。

 

「……」

 

 しかしラウラはそれだけで終わらせようとしない。ワイアーブレードから高圧電流を放出し、セシリア、鈴に数十万ボルトの苦しみを与える。

 

「「きゃああああああああああっ!!!!」」

「セシリア! 鈴!」

「不味いよ! このままじゃっ!」

 

 シャルルが言うまでもなく、このままでは二人のISのシールドエネルギーは機体維持警告域を超え、操縦者生命危険域へと突入していく。今はかろうじて操縦者保護機能が二人を守っているが、このままでは文字通り二人の生命に関わっていく。

 ラウラもそのことは知っているだろうが、その手を休める様子はない。初めから二人の生命等何も思っていない戦い方である。一夏は自分でも内側で怒りが湧き上がっていくのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 そしてラウラがその口元を歪に、あざ笑うかの様な表情を浮かべた時、一夏はキレた。

 

 

 

 

 

 

「てめえええええええええええっ!!!!」

 

 一夏が怒りに吠える様に叫び、白式を展開する。その手には既に雪片弐型が握られていた。単一能力『零落白夜』を始動、ISフィールドと観客席を隔てるエネルギーフィールドを切り裂き、そのまま観客席を飛び越え、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一気にラウラに斬りかかる。

 

「ふぅん……つまらん」

 

 しかし一夏の突撃はラウラからすれば猪の突進と変わらぬものであった。瞬時に一夏の動きを見切ると、再び掌の水晶体によって一夏の動きを阻害する。

 

「くっ! 二人を放せっ!」

「心配するな。奴が来れば離してやる……だがお前だけは……っ!」

 

 ラウラがその紅い瞳に暗い、憎悪の炎を灯すと、右肩部の大型レールガンを一夏に向ける。

 

「……くっ!」

「これで……っ!」

 

 レールガンの砲口に死の光が満ち放たれようとした、その時、ラウラは何かに気がつく素振りを見せ回避行動を取る。呆気に取られるのも一瞬の内、一夏も同じ様にその場から離れる。直後、ラウラと一夏のいた場に爆音と共に何かが突き刺さる。

 それは巨大な剣であった。まるで巨大な骨から削り出された、太古より伝わりし大剣、大剣でありながら槍のように長さの柄を持つそれが刃先を大地に突き刺されていた。

 突然の出来事に皆が唖然とする中、ビット内カタパルトから射出された機体がISフィールドに降り立つ。悪魔の如き赤い翼、体を縁取る緑の燐光、目元に光る血涙の如きライン、シン・アスカが駆けるデスティニーである。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

「ふふっ……ようやく現れたか、シン・アスカ……」

 

 ISフィールド上に野太い脚部をつけたシンがその大剣――『斬機刀』を手に取る。その瞳は皆がよく知る、怒りに満ち溢れた瞳であった。

 

「シンっ!」

「……一夏、鈴とセシリアを連れてビットに戻ってろ。邪魔だ」

「お、おいっ! シン――」

「一夏。今はオルコットさんと凰さんの方が先だよ」

「シャル……分かった、シン」

 

 シャルロットに言われ、一夏も冷静さを取り戻したか、シンに言われた通り、セシリアと鈴をシャルロットと二人で抱え、ビットに戻る。シンはビットに四人が戻るのを認めてから目の前の少女――自身と同種(・・・・・)かもしれない少女を睨めつける。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……っ!!」

「遅かったではないか……もう少し早く来るものだと思ってたがな」

「なんでっ! こんな真似をっ!?」

 

 シンの吠えるような問いかけにラウラは鼻で笑うと、

 

「全ては貴様と戦うためさ」

「な、に……?」

「貴様の大事なお仲間とやらを潰せば、貴様は直ぐにでも私を潰しにかかってくると思ったから、それを実践したまでだ」

「俺と戦うためだけにこんな真似にか……?」

「ふぅん、無理に戦わせても貴様は本気を出すまい。全力の貴様を……怒りで力の全てを出した貴様を倒してこそ! 私は『出来損ない』ではなく、真のコーディネーターとなり得るのだ!」

 

 ラウラは愉悦に満ちた、悪魔の様な笑みでシンを睨む。そこにセシリアと鈴を蹂躙したことに対する後悔も後ろめたさも何も無かった。

 

「そんな……そんなことの為にセシリアを!

 

 

 

 

 

 

鈴を傷つけたのかよっ!!

 

 

 

 

 

 

アンタはっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

「ふぅん。貴様と戦うためなら、あのような雑魚の一匹や二匹、潰そうが構わんさ」

 

 

 

 

 

 

 ラウラのその物言いは

 

 

 

 

 

 

シンの怒りにニトロをブチ込むのに等しい行為であった。

 

 

 

 

 

 

「あんたって人はぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 シンが怒り、それに呼応するかの様にデスティニーのエンジンが唸り、出力を上げる。

シンが駆ける。その両手に握るは斬機刀、それを加速と同時に振り上げ、ラウラの頭上目掛けて思い切り振り下ろす。デスティニーのハイパワーと斬刃刀の重量を合わせたその重い一撃をラウラは展開した近接複合格闘槍『アクスト・スピアー』で迎え撃つ。

斬機刀の分厚い刃とアクスト・スピアーの先端部の斧刃が交錯し、衝撃波が辺り一帯を襲う。そして互いの得物はそれぞれの運動エネルギーが反発することで弾かれる。

その攻防が幾度続いたか、ラウラの表情には既に余裕は無く、逆に焦りが見え隠れし始めた。

(ちっ! あのデカさで軽々と振り回す等どうなっている!?)

 ラウラは知らないが、それが斬機刀最大の特徴である。その重量を以て相手を叩き斬るのをコンセプトとした本武装だが、この手の武装にはよくある、その重量故に動きが鈍重になってしまうという難点を抱えている。それを解消するため、ISのPICを応用した力場によって質量を軽減、それによってこの手の格闘武装の難点である取り回しの悪さの解消に成功したのである。斬機刀を開発したヨウラン及びヴィーノの最高傑作と言ってもいい。

 

「おぅりゃあっ!!!!」

 

 シンが斬機刀を勢い良く振り下ろす。ラウラが咄嗟に回避運動を取るが、対象を失った斬機刀はISフィールドの大地を叩き砕く。

 

「ちっ! このっ!!」

 

 目の前の相手の予想のつかない攻撃に舌打ちするラウラは左肩非固定浮遊部位のミサイルポッドから十数発ものミサイルを発射する。

 

「でぃやっ!!」

 

 シンは斬機刀を大振りで振り回し、猛烈な風圧による気流の嵐を巻き起こす。高性能AIを持たない単純な誘導システムだけのミサイルはこの気流に飲まれ、互いにぶつかり爆発してしまう。爆発によって爆煙が巻き上がり、シンとラウラ、二人の視界を封じ込める。

 しかしシンは止まらない。斬機刀の柄を伸ばし巨大な槍へとその姿を変えると、それをラウラに向けて投擲する。

 

「どおぅりゃあっ!!!!」

「くっ!?」

 

 爆煙を切り裂くかのごとく斬機刀が投げ飛ばされる。高速で飛来するラウラは回避することが出来ず、レールガンを犠牲にせざるを得なかった。

 

「このっ――」

「今だっ!!」

「っ!?」

 

 気がつけばラウラがレールガンを破壊されたことに気を取られた一瞬の内に、シンはヴォワチュール・リュミエールを展開、堕天使とも呼べる紅い翼を背にラウラをインファイトの領域に入り込めた。

 

「なっ!? しまっ――」

 

 あまりにも一瞬の出来事にラウラが呆然とする中、シンはラウラのアクスト・スピアーを手刀で叩き落とし、そのままシュヴァルツェア・レーゲンのマニピュレーターにデスティニーのマニピュレーターを絡ませる。それが示すのはただ一つだとラウラは気づく。シュヴァルツェア・レーゲンのAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)同様掌に装備されているデスティニーの武装を。

 

 

 

 

 

 

――パルマ・フィオキーナ始動――

 

 

 

 

 

 

 瞬間、ラウラのマニピュレーターを荷電粒子によるビームの光が包み込む。そしてデスティニーとシュヴァルツェア・レーゲンの二機を爆煙が襲いかかる。

 

「くっ! くそっ!」

「ちいっ!」

 

 暫くしてシンのデスティニーとラウラのシュヴァルツェア・レーゲンが爆煙の中から姿を現し、ISフィールドに着地するが、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンは両腕部マニピュレーターが破損していた。

 

「これでもう両手の妙なモンは使えないなっ!!」

「貴様ぁ……舐めるなっ!!」

 

 AIC及びマニピュレーターが使用不能になってもなお戦意を燃やすラウラは両腕部に残ったプラズマブレードを抜き放ち、シンに斬りかかる。シンも弾かれた斬機刀に代わりアロンダイトを展開し、そのビーム刃をラウラに向ける。

 

「うおおおおおおおおおっ!!!!」

「はあああああああああっ!!!!」

 

 シンとラウラ、二人の雄叫びが重なり合い、ISフィールド上で二機の刃が切り結ぼうとしたその時、一つの影が二機の間に割って入った。

 

「そこまでにしろ。馬鹿者共」

「「っ!?」」

 

 騒動に介入したのは千冬だった。ISも使用せず生身でIS同士がぶつかり合う危険な場所に入り、両者の得物を打鉄用近接ブレード二振りで受け止めた。ISの補助無しでIS用の武装を扱う所か、その状態で二機のISの攻撃を捌ききるのは流石世界最強と言うべきか、はたまた人外と言うべきか、判断に迷うところである。

 

「模擬戦だと言うのならそれはそれで構わん。が、アリーナまで破壊されては教師として黙認しかねん。決着を付けるのなら学年別トーナメントの時につけろ。いいな?」

 

 教師である千冬に言われてはシンもラウラも反論のしようがない。二人共互いを睨めつけながらそれぞれ同意の言葉を述べると、千冬はそれを認め、ISアリーナ全体に響かんばかりの鋭い声で宣言する。

 

「学年別トーナメントまで一切の私闘は禁ずる。以上!」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 ISアリーナで起きたラウラとシン達の私闘から二時間後、セシリアと鈴は怪我の治療を終えてそれぞれベッドに横たわっていた。幸い怪我は打撲だけで済んだのだが、二人共その表情は晴れない。

ブルー・ティアーズ、甲龍は二機共先の戦闘でダメージレベルCと深刻な損傷を負い、そのことを報告に保健室に来た真耶の口からトーナメントの参加不可を言い渡されてしまった。イギリス、中国の代表候補生且つ専用気持ちである二人が自身の力を見せられる晴れ舞台に出れないことが表情を暗くしている一因を作っているが、軍属とは言え代表候補生であり専用気持ちと立場が同じラウラに手も足も出せなかった、その事実が二人を打ちのめしていた。セシリアと鈴を見舞いに来たシン達も気が重く、保健室全体を暗い空気が包む。

 最初に口を開いたのは一夏だった。

 

「……ふざけるなよっ! あんなことして、何が楽しいんだっ!」

「一夏……」

「……」

 

 一夏の怒りに震える声にシャルロットが気遣う様に一夏を見る。しかし一夏はそれに気づかず自分の中であふれる怒りを吐き出す様に叫ぶ。

 

「只の模擬戦なら兎も角、何もあそこまで! セシリアと鈴にこんな怪我させてまでする必要があったのかよっ!!」

 

 一夏は誰にぶつければいいのか分からないその怒りを吐く。一夏は真っ直ぐで心から人を思いやれる優しい人間だ。それ故にラウラのあの行動は一夏にとって許せないものであった。

 怒る一夏を見ながら、シンは一夏の怒りの言葉を聞く度、自分の中の罪悪感が膨れ上がっていくのを感じた。

 ラウラがあのような行動を取ったのは俺のせいだ。

 俺を倒す、只それだけの為に鈴達を傷つけた。

 それらがシンの心を苦しめる。同時にシンは今程コーディネイターである自分が憎く思えた。何故ラウラはシンがコーディネイターだと知っているのか、また何故ラウラは『真のコーディネイター』になると言ったのか、未だ分からずじまいである。しかし、事の全てはシンがコーディネイターであることに行き着いてしまう。

 

「……俺のせいだ」

「シン?」

 

 シンの小さな、それこそ呟く様な言葉に鈴が気づき声をかける。しかしシンは鈴に構わず言葉を続ける。

 

「俺のせいでラウラはあんなことをしたんだ」

「どういうことだ? それは――」

「いや、違う……俺なんかがいたから全てが狂いだしているのかもしれない……」

 

 時折シンは考えてしまう。自分はここにいていいのだろうか、と。その思いはこの平和な世界で過ごしていく内に強くなっていく。

一夏達は戦争を知らない。愛する人をたった一発の弾丸で失うことも、逆に人を殺し、その返り血を浴びて生き延びることも無い、そんな世界で彼らは生きている。そんな世界に自分はいていいのだろうか。地に汚れたこの手で彼らの住む世界を汚しているのではないのか。それはシンの枷だった。戦争で人の生命を奪い、殺してきたシンに課せられた枷であった。

 

「俺はここにいちゃいけない――」

「馬鹿言うな、シン!!!!」

「っ!?」

 

 しかしシンの言葉は一夏によって遮られる。これにはシンだけでは無く保健室にいた一同も驚いてしまった。普段の一夏は皆のことを心配したり、真剣に考えて相談したりすることはあったが、ここまで感情を露わにして強く言ったことは無かった。一同の驚きを他所に一夏は言う。

 

「ラウラとお前の間で何かあったかどうか、知らないけど、だからってお前がそれに責任感じる必要なんてどこにもないだろう!!」

「一夏……」

 

 

 

「シン……何か私達に隠しているでしょ……?」

「っ!? そ、それは……」

「何かあるんだったら言ってよ!! 少しはアタシ達に言いなさいよ!!」

「そうだ! いつも一人で抱え込みやがって! 俺達がそんなに頼りないのかよ!」

「全く……これだから殿方は……」

「僕達がいるんだからね、シン」

 

 鈴に続いて一夏、更にセシリアとシャルロットにまで言われ、シンは思わずたじろいでしまうが、同時にああ、そうか、と気づく。

 俺にはこいつらがいたんだった。

俺を支えてくれる仲間達が。

 それに気づいた瞬間、今までシンの内でくすぶっていた心が軽くなった様に感じた。この世界に自分の居場所があるのか、それはまだ分からない。しかし彼らとなら探し出せる、そんな思いがシンに宿りだした。

 思いつめていた心が軽くなり、シンは思わず口元が緩む。それを見て皆にも笑顔が戻る。

 

「もう二度とそんなこと言うなよ、シン」

「悪かったな。心配かけて」

 

 ニヤリと笑いながらシンは一夏にそう返し、改めて思う。

例え何があろうと、俺は前に進む。運命で、自由でも、正義でも無い。俺の意志で、俺は前に進む。

先程の沈んだ空気は無くなり、穏やかな空気になったが、どこからともなく地鳴りに似た音が響き霧散してしまう。

 

「な、何だ?」

「地震……?」

「いや、どんどん近づいてきているぞ」

 

 シン達はその正体不明の何かが近づいてくることにどよめくが、そんなことはお構いなしとばかりに振動は近づいてくる。そして保健室の扉の前にまで来て止まったと思いきや、扉の向こうから何やら妙な声が聞こえる。

 

『ステンバーイ……ステンバーイ……』

「どこのSAS隊員だよ……」

 

 以前楯無に無理やり視聴させられたアニメを思い出しながらシンが思わず呟くが、声は更に続く。

 

『……ゴー!」

 

謎の掛け声と共に扉が吹き飛び(どう見てもクレイモアで吹き飛ばした様な感じである)、そこから文字通りなだれ込む様に女子が入ってきた。一人ギリースーツを着た毛むくじゃらなのがいるが気にしてはいけない。

 

「織斑君!!」

「デュプレ君!!」

「アスカ君!!」

 

 入ってきた、というより突入してきた女子達はシン達を見つけると、大量に入ってきて人口密度が凄まじいことになっている保健室の中で驚く程機敏な動きでシン達を包囲すると、三人を取り合うかの様に手を伸ばし始めた。女子達のあまりの形相にシン達もたじろいでしまう。

 

「な、何だ!?」

「み、皆どうしたの!?」

「怖えよお前ら!! ゾンビかよ!?」

 

 男子三人の言葉が通じたか、そこでようやく全員落ち着き、その内の一人が「これ!!」と言いながらシン達に一枚の紙を渡す。

 

「何だそりゃ?」

「えっとぉ……『今月開催する学年別トーナメントは、より実戦的な模擬戦闘を行う為、二人組での参加とする。尚、ペアが出来なかった者については抽選でペアを組むものとする。締切は――』」

「ああっ!!もうそこまででいいからっ!!」

「私と組もう! 織斑君!!」

「お願い! デュプレ君!!」

「私とペアになって! アスカ君!!」

 

 そして再び始まる伸び上がる手の数々。早い話が彼女達は男子とペアになりたい為にここまで押し寄せてきた訳である。

 しかしここで一つの問題が発生する。シャルロットである。ペアとなる以上、その女子と接する時間はどうしても増えてしまう。そうなるとシャルロットが女子と組むのは

 故に一夏の取った行動は早かった。

 

「あー、ゴメン。俺もうシャルと組むことにしたんだ。なあシャル?」

「う、うん! そうなんだ。皆、ゴメンね」

 

 それを聞いた瞬間、女子の中からあぁ、残念がる声が所々から上がるが、一夏とシャルロットは思わず胸を撫で下ろす。しかし女子達はそれで諦めた様子は無く代わりに最後に残った男子に全員が一斉に目を付け出す。

 

「お、おい! 何だよお前ら! その目は!」

 

 標的が一人に絞られたことによって、女子達は一斉にシンに集まり始めた。シンは必死に逃げようとするが、既に周りは女子が包囲してしまってどこにも逃げ場が無い。

 女子達から発せられる異様な空気にシンは冷や汗をダラダラ流し、思わず後ずさる。

 

「シンく~ん、いいでしょ?」

「私と組んだら絶対優勝だよ~」

「アスカく~ん」

「シンく~ん」

「あわわわわ……」

 

 そうシンに囁きながらどんどんシンに詰め寄り始める女子達。その様子に思わず身の危険を感じたシンは、突然とんでもない行動に出た。

 

「アイ・キャン・フラーーーーーイ!!!!」

『何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!』

 

 謎の叫びと共にシンは最後に残された脱出口――窓に足をかけて飛び出した。ちなみにIS学園の保健室は三階なので約10mからの大ジャンプとなる。ネタが危ない気がするがこの作品のシンは別に多元世界から来たわけではないので大丈夫だろう。

 ともあれISを部分展開しながら地面に着地したシンはそのまま脱兎のごとく逃げ出した。

 

「あぁ! 逃げた!」

「皆の衆、追えぇっ!!」

『Move out!!』

 

 シンが逃げたと見るや否や、女子達はシンを追いかけようと一斉に保健室から出ていき、保健室に残ったメンバーの間で妙な静寂感が残った。

 

「なんだったんだ……?」

「さあ……」

 

 一夏がそう漏らし、シャルロットがそれに曖昧な返事を返す。ともあれ、シンに幸あれと合掌する一夏であった。

 

「……」

「? どうした? 鈴」

「別に……」

 

 ふと、鈴からの視線を感じた一夏が鈴に声をかける。ジト目で一夏を見ていた鈴はプイ、と一夏から視線を逸らすと、ボソッと呟く様に言う。

 

「只随分とデュプレと仲良くなったみたいだなぁって思っただけよ。シャル、なんて言ってさ」

「っ!? そ、そうか……?」

 

 鈴の言葉に一夏は思わずギクッとなる。それに反応するかの様にセシリアが補足する。

 

「そういえばこの頃随分とデュプレさんとべったりでしたわね」

「まさかアンタ達……」

「ち、違うぞ! 別にそういうのじゃないぞ! 数少ない男なんだから仲良くなるのは当然だろ! 同部屋だしな! な、シャル!」

「う、うん! そ、そうだよ! アハハハハ……」

 

 必死に弁明する一夏とシャルロットだが、鈴とセシリアは訝しげな目を緩めようとせず、結局二人の疑惑の目は一夏とシャルロットが保健室から退室するまで続いたのであった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 学生寮にある自分の部屋のドアが荒々しく閉まるのを認めて、千冬は一つ溜息をつき、気がつけば皺のよっていた眉間を指先で解す。

 久々に疲れた、と千冬は感じた。疲れと言っても身体の疲れではない。元々頑丈に出来ているこの体(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、身体の不調等生まれてこの方数える程しかない。疲れたのは精神(こころ)の方だった。

 突然寮長である千冬の部屋に訪れたシンに何事か、と訪ねた千冬だが、自分がこの世界に来る前からコーディネイターを知っていたのか、そう聞かれた時、日頃冷静な千冬も一瞬顔に出てしまった。聞けばラウラとの間で一問答があったと聞き、あの少女もか、と千冬は改めてあの男(・・・・・)の業によってどれだけの人間の人生が狂わされたのだろうかと思わずにはいられなかった。

 コーディネイター、その言葉をシンの口から聞いた時、何という因果だろうか、そう思ってしまった。その存在によってどれほどの人間が人生を狂わされたのか計り知れない。それは千冬、そして一夏もそうである。

 そして千冬は話す。ラウラという少女の出生を。ラウラという存在の悲劇を。

全てを話し終えた時、シンは怒りに震えていた。そして千冬に自分の憤りを全て吐き出すと、そのまま荒々しく部屋を出て行ったのである。

シンが怒るのも当然だ。ラウラは『出来損ない』としてこの世に生を受けたのだ。『完成体』がいたばかりに彼女は生まれてから今までの人生を狂わされたのだ。

ではその罪は誰が受けるのか。

彼女を生みだした者達か。

『完成体』を生みだした者か。

それとも『完成体』がその罪を受けるべきなのか。

迷いが千冬の心をかき乱す。

罪の意識が千冬を苦しめる。

 それが千冬が生まれて今まで課せらてきた枷であった。

 シンが千冬の部屋を出て暫くして、千冬はノロノロと緩慢な動きで机の引き出しの中を漁る。目当てのものはすぐに出てきた。フォトスタンドに入った一枚の写真、千冬はそれを愛おしげに触れる。写真にはまだ幼い頃の千冬、そして生まれて間もない一夏、そして一夏を抱きかかえる女性と男性の姿があった。それは今はもう存在しない家族の姿だ。千冬はそれを見ながら、男性の顔を見る。一夏に似た顔立ちのその男は今もなお、調整された者(コーディネイター)という姿に形を変えて千冬を苦しめる。

 

「あなたが私を生んで二十四年……何故私を『生みだした』? そして何故一夏にまで……? ラウラという悲劇を造ってまで何故あなたは私を生み出したんだ……

 

 

 

 

 

 

父さん」

 

 千冬のその呟きはしかし、聞き止める者がいないその呟きは寮長室に虚しく木霊するだけであった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 シャルロットとああでもない、こうでもない、と試行錯誤を繰り返しながら一夏はノートにゴチャゴチャと図形を描く。

 夕食後から延々と続いているこの作業は、学年別トーナメントにおける二人のフォーメーションの構築作業であった。トーナメントが二人一組のペアで行われる以上、フォーメーションの構築は必須である。特に一夏の白式とシャルロットのラファール・リヴァイヴは機体コンセプトが真逆な為尚更であった。

 

「それで僕は一夏の援護、相手の二機が動けない様に牽制させておく……」

「でもそれだとシャルの負担が……」

「白式は単一仕様能力(ワン・オフ・アビリティー)が鍵だからね。確実に相手に当てる為には僕が援護する必要があるよ」

「成程……」

 

 シャルロットの説明に一夏は頷きつつノートに必要事項とフォーメーションの簡易図を書き込んでいく。シャルロットは真剣に書き込んでいる一夏を見ている内に不思議な気持ちになっていた。

 少し前まで自分の未来なんてもう何も無い、そう思っていたのが嘘の様であった。これも目の前の少年のお陰だと思うと、シャルロットは自分の心臓が高鳴っているのを感じてしまう。

(いつもお日様みたいに笑ってる一夏もいいけど、こういう顔した一夏もカッコイイな……)

 もっと一夏を見てみたい、シャルロットの心は気がつけば一夏のことばかりを考えていた。今だけではない。こうして一夏を見つめていると、一夏のことばかりを考えてしまう。一夏ともっと一緒にいたい。一夏ともっと触れ合いたい。もっと一夏と……。

 シャルロットの心が一夏のことで埋め尽くされていると、目の前の一夏が困った様な表情をし始める。

 

「えと、シャル? あー……顔が近いんだけど……」

「ふえ?」

 

 一夏に指摘され、気がつけば自分と一夏の距離が5cmもないことにシャルロットはようやく気づき、慌てて一夏と距離を取る。

(あ、あんなに近くに一夏が……き、キスできそうな……ってバカバカ!! 何考えてるの僕っ!?)

 あまりの突拍子のない自分の行動にシャルロットは恥ずかしさで死にそうだった。一夏を方を恐る恐る見ると一夏も顔を真っ赤にして自分を見ていて、二人共思わず顔を逸らしてしまう。

 

「ご、ごめんね! あ、あんなに近くまで寄っちゃって! い、嫌だったよね?」

「い、いや……嫌……じゃないけど……」

「え?」

「い、いや! なんでもない!」

 

 そのまま一夏とシャルロットの間で気まずい空気が流れ、どちらが言ったのかもう寝ようか、という言葉で固まっていた二人はやっとベッドに入った。

 しかしベッドに入ってもシャルロットは中々寝付けなかった。もう30分程立っているのに未だに心臓がドキドキと高鳴りを続けている。ふと一夏の方を見ると一夏は既に眠りに入った様で、向かい側のベッドから規則正しい寝息が聞こえてくる。それを聞いている内にシャルロットの心も穏やかになってくる。

(……一夏と一緒にいるとなんだろう……気持ちいい、のかな……?)

 何となくそう思ったシャルロットはベッドから静かに下り、一夏を起こさない様に静かに一夏の寝顔を覗く。普段はコロコロと表情が変わるその顔も今は静かにその瞳を下ろしている。シャルロットは安らかに眠る一夏を見つめ、心が落ち着いてくる。そして愛おしくなってくる。目の前の、優しくシャルロットを包み込んでくれるこの少年のことが。

(ありがとう……)

 思わず心の中で呟いたシャルロットはベッドに戻ろうとする。その時、一夏の声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「行かないで……」

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 寝言なのだろうか、とシャルロットは一夏の寝顔を再び覗き……その目尻に涙が浮かんでいることに気づいた。夢を見ているのだろうか、一夏は苦しげに呟く。その呟きはあまりに儚く、か細く、幼い子供の様だった。

 

 

 

 

 

 

「寂しいよ……

 

 

 

 

 

 

どこにも置いていかないで……

 

 

 

 

 

 

僕を一人にしないで……

 

 

 

 

 

 

母さん……」

 

 

 

 

 

 

「一夏……」

 

 シャルロットは織斑一夏という少年の本当の姿を見た気がした。一夏もまた、心の底で親の姿を求め続けている。裏切られても尚、親の愛を求めているのだ。

 シャルロットは、一夏に顔を寄せる。そこには先程の恥ずかしさは無かった。

 

「大丈夫だよ、一夏。僕がいる。僕がいるから、安心して、一夏」

 

 そう一夏の耳元で囁くシャルロットは聖母の様に優しい顔をしていた。そうしていると一夏の苦しげな表情は和らぎ、再び元の安らかな眠りについた。シャルロットは一夏を見つめ、最後に一夏にむけてその言葉を囁いた。

 

 

 

 

 

 

「お休み、一夏。いい夢を」

 

 

 

 

 

 

 そうして、最後にシャルロットは一夏の額に優しく、母が子にする様に口づけを落とすと、自分のベッドに戻り、眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 それぞれの心が揺れ動き、それぞれが次なる戦いの準備を進める。

 

 

 

 

 

 そしてその日、学年別トーナメントの日が訪れた。

 




どうも。パクロスです。最近『ハリーポッター』の放送が楽しみになってるパクロスです。

二週間経ってやっと最新話が完成しました。あぁ~……前回のが前半部にじファン閉鎖ってかガンダム関連アウトになった時期に作ったやつなんで、実質一年ぶりの完全新作です。正直うまく書けてるか心配なところです。

今回はまた大量に伏線張り巡らした感じな回です。ラウラのコーディネイター疑惑も対して解き明かされてないのに今度は千冬に怪しい伏線張って、更に『!?』な感じの仮面野郎も登場で、これ全部無事回収できるかな……と不安です。

今回のIS解説はラウラのシュヴァルツェア・レーゲンとデスティニーの新武装です。
レーゲンはレールガンを固定化、んでもって左背部に非固定浮遊部位でミサイルポッドが装備です。AICですけど原作じゃどこにどう装備されてるかよく分かんない感じだったんで、掌部水晶体とデスティニーに似た感じにしてみました。ワイアーブレードですけど腕部に装備させて、そっちの部分には電流流せるようにしてあります。これで胸にリアクターついたら……ハイスイマセン、『アイアンマン2』観てやりたくなっちゃいました。
デスティニーの新装備、今回格闘武装『斬機刀』がお披露目です。まだ機能がいくつかあるんですけど今回は威力の程を。とりあえずバカでかい刀がウリです。槍みたいに投げつけたりもしますし、それを踏み台にウイングクロス……ハイスイマセン、『マジンカイザーSKL』観てヤッちゃいました(字が違う)。こんなんで大丈夫か……(ネタ的な意味で)。と、とりあえずお楽しみに。

最後に一夏が涙を流すシーンですけど、パクロス的にやってみたかった一夏の姿でもあります。原作の一夏は(今後の原作の流れがどうなるか不明ですけど)自分の弱さを涙ながらに見せるってのがなかったと思いました。それで今回、一夏には自分の心の弱さを涙という形で見せてみたわけです。親という心の弱さを持つ一夏、それがこれからどういう成長を見せていくのか、シン同様皆さん見ていてください。

というわけで今回はこれで終了です。次回は少し時間かかると思いますので首を長くして待っていてください。皆さんの感想を待っています。
さて次回はようやくの学年別トーナメント!暗躍する影とか原作より早く(かつ大分ヤバめになって)登場の連中に加えてオリジナル展開と色々考えています。どうぞお楽しみに。
ではまた次回。
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