闇の書自動防衛プログラム『ナハトヴァール』
リィンフォース「撃ち貫け」
・・・・・・
スタッフわざとやってるんか?
固く閉ざされた瞳を、ラウラはゆっくりと開く。どれだけの時間そうしていたのか、瞳はラウラは思う様に開かず、そして重かった。ラウラの視界に最初に飛び込んだのは眩い輝きであった。目がなれ光量の調節が効く様になりようやく自分がどこにいるのか辺りを見渡し、ラウラは今自分がいる、光に溢れた幻想的な空間に見とれてしまう。
「ここは……私は一体……?」
自分の知る世界とはあまりに異なる景色にラウラは戸惑う様な表情を見せる。彼女が知っている『世界』とは人の欲望と悪意が満ち溢れる世界、そして彼女が生まれ、育った闇の世界だけである。そして今いるこの空間はそのどれとも当てはまらない。天も地も存在しない世界の中、ラウラは不安になる。自分は生きているのか、ひょっとして自分はもう死んでしまったのか、そう思ってしまう。
――怖がらなくていい……ここにお前を脅かす者はいない……――
どこかから聞こえるその言葉にラウラは思わず周りを見直す。見つけた。ラウラの上から光り輝く空間の中でも特に強い光を放つ球体が降り立ち、そしてラウラの目の前で人の形へと変わる。
流れる様な金髪に整った顔立ち、赤いどこかの制服を身にまとった少年の姿にラウラは一瞬あの仮面の男の姿とかぶらせてしまうが、目の前の少年には仮面の男の様な非人間的な気配はなく、むしろ人を安心させる様な温かさを持っていた。
「お前は……一体……?」
ラウラのその問いに少年は答えず、只笑みを返すだけである。しかしその笑みは氷の様なラウラの心をも溶かしてしまう程優しいものだった。
毒気を抜かれる思いのラウラに少年は優しく言う。それはラウラの耳を通してではなく、直接頭に伝わるなものだった。
――ここを去れば、ここでのことをお前は忘れるだろう……それでも、心に留めておいてくれ……あいつのことを守ってやってくれ――
少年の言う『アイツ』、ラウラには不思議とそれが誰のことを指しているのかが理解できた。自分と同じ紅い瞳を持つ、出来損ないのラウラと違う、コーディネイターのあの少年。
少年は言葉をつなぐ。そこにはあの少年に対する確かな思いが篭っていた。
――お前にもよく分かるだろう……アイツは真っ直ぐな奴だ。どんなに世界に裏切られようとも、何度でも立ち上がり、自分の願いの為に戦い続けようとする。でも、アイツの心はもろい……アイツの真っ直ぐで、優しい心を守ってやってくれ……俺はもう、アイツの為に何もしてやれないから……――
少年は最後に少し悲しげな表情を浮かべると、ラウラに背を向け、歩き出す。その姿は光に包まれる。そしてその少年を掴もうとその腕を伸ばすラウラもまた、光に包まれた。
~~~~~~~~~
深いまどろみから覚め、ラウラが目を覚ました時、時刻はあの戦いから数時間が経ち、日は地平線へとその姿を沈めようとしていた。
痛む体を強引に起こし周囲を確認する。部屋を仕切るカーテンと何台かのベッド、壁際の戸棚に収納されている薬品の入った瓶からここが医務室だというのが分かる。
「ここは……あの後私は……?」
ラウラが最後に覚えているのは一夏と白式が繰り出した零落白夜の一撃を受けた所までである。そこから先は覚えていない。どうやらそれからずっと気絶していた様だと結論づける。
しかしなんだろうか、ラウラの心の内には何かしこりのようなものがあった。あの後何かがあり、ラウラの中で何かがあった、そして何か大切なことを誰かから言われたような気がしてならなかった。
「漸く気がついたか」
「っ! 教官! ……っ!」
その言葉でラウラは、自分に割り当てられたベッドの脇に座る人間の存在に気づき、そしてそれが自分の恩師であることに酷く驚く。慌てて姿勢を正そうとするラウラだが、その身体を鈍い痛みが走る。無理をするな、と千冬はラウラを寝かせつかせる。
「筋肉疲労で暫くは動けん。大人しく寝ていろ」
「……一体何があったのですか?」
ラウラの言葉に千冬はどう言うべきかと悩む様な素振りをみせ、最終的に当事者に話すべきと判断した。
「詳しくは分からん。モニタリングは出来ず、お前達のISからデータを吸い上げて解析したが今の所は原因不明としか言えん」
「そう、ですか……」
千冬の返答はラウラが求めるものでは無かったが、それでもはっきりしていることはあった。
(私は、負けたのか……)
そこに、負けたことに対し自身に対する憤りや悔しさは沸き上がってこなかった。只、今まで自分が追い求めていたものが、自分にとって唯一の生きる動機だったものが呆気なく終わってしまったことに現実味が無かった。
「とにかく、この件については学園が調査する。お前は大人しく治療に専念していろ」
余計な詮索はするなよ、と加え千冬は席を立つ。そのまま医務室を出ようと扉の方へ進もうとするが、ラウラの呟く様な一言が千冬を留まらせた。
「……もうどうでもいい……」
その言葉に千冬は怪訝そうにラウラの方を振り向くが、ラウラにはそれすらどうでもよかった。所詮自分はどこまでいこうが、どれほど足掻こうが、自分に課せられた運命から逃れなかった。あの仮面の男に唆され、この身を賭してまで自分という影を生んだ者達に復讐を果たそうとしたが、結局何も変わらなかった。変えられなかったのだ。ラウラにはもう何もする気がしなかった。ラウラの心は疲れ果てていた。
それきり、何も発しないラウラを千冬は静かに、しかしその瞳に言語化出来ない感情を灯しながら医務室の扉に手をかける。
「……もし、お前の迷いを聞き、答えられる者がいるのなら--」
そこで一度言葉を切り、千冬は何か物思いに耽る様に視線を虚空にさまよわせる。そしてその言葉の続きをラウラではなく、扉の向こうにいる人間に向け直した。
「それは私ではなくお前だろうな、アスカ」
その言葉を最後に千冬は医務室から出て、入れ替わりにそこで待っていたシンが入ってくる。手荒な真似はするなよ、と言い残す千冬にシンは応ぜずラウラを見つめる。その瞳は真っ直ぐラウラを見つめており、まるでラウラがどれだけ糾弾しようと、殴ろうと、受け入れると語っていた。
「……座っていい、か?」
「好きにしろ」
僅かばかりの言葉のやり取りの後、シンとラウラ、近い存在である二人が対座するが、二人共何も口にせず、居心地の悪い静寂が医務室を支配する。
最初に口を開いたのはシンだった。
「織斑先生から聞いたんだけど……その、お前の生まれとか、どう育ったとか……」
「そうか……ならば分かるだろう、この身に刻まれた忌むべき刻印が何か……『呪い』だよ」
ラウラは紅と眼帯が外され露わになった金色の瞳をシンに向ける。その瞳は奈落の底を彷彿させる様な暗い色、絶望の色であった。
「私達に施された不完全な遺伝子調整、定められた運命を受けて生まれた私達に元々生きる意味も無かった……多くの姉妹達がこの体に刻まれたに喰い殺され、残った者達もいつ朽ちるかも分からぬ我が身に絶望し生きながらにしてその魂を腐らせてゆく……私が出来る唯一の選択はお前達完全なコーディネイターを倒して私達という存在を肯定することだけだった。死のうが構わない。只、私達には自分達の存在意義を証明したかったんだ……しかしそれもお前達に敗れた今、何の意味も為さかったようだな……」
自嘲気味に話すラウラにシンは何も返さず、只聞き続ける。
コーディネイターが世界にもたらしたのは人類の新たな可能性だけではないというのをシンはC.E.で学んだ。連合のエクステンデット、レイの様なクローン、そしてラウラ達コーディネイターのなり損ない。世界という壁を超えた出来事とはいえラウラという存在を生み出してしまったのは他ならぬシン達コーディネイターなのだ。だからシンは何の一言ラウラの言葉を聞き続けた。どの様な非難も受け入れる、それが自分達コーディネイターの責であるからだ。
それでも、次にラウラが放った言葉にシンは激しい怒りを感じざるをえなかった。
「所詮は只滅びゆくだけの運命、ならば今ここで死んだ方が楽か? ふふふ……」
そう嘯くラウラを、次の瞬間シンは思い切り殴りつけていた。何故ひっぱたかずに殴ったのだろう、と頭のどこかで思いながらもその激情は止まらず、殴られたことに実感が掴めていない様子のラウラの胸元を掴み上げる。
「甘ったれたこと言ってんじゃねえぞっ!! この馬鹿っ!!」
シンのその余りの剣幕に状況についていけず呆然とするラウラに構わず、シンはそれでも尚続ける。
「お前が何を言おうが構わない……どれだけ俺のことを貶そうが構いやしねぇ……けど、アイツらが心から望んでいたものを捨てるなんてふざけたことぬかすんじゃねえっ!!」
ステラ--死と隣り合わせの世界の中で死を恐れ生きたいと願った少女、レイ--限られた命の中で生きようとしていた、彼等を知るシンにとってその言葉は何よりも耐え難い、彼等への侮辱の言葉であった。
「『どんな命だろうと生きられるなら生きたい』……お前だってそうだろう! だったらあの時、生きたいなんて言わないだろう! お前だって生きたいって願ったんだろう! それを諦めようとなんてするな!」
シンの言葉は、僅かだがラウラの暗い瞳の中に光を灯し出し始めた。それはあの時、『ラウラ』にその身を支配されながらもシンの叫びに必死に応えようとしたラウラの瞳と同じ、生を求める瞳だった。
そしてラウラは、吠えた。それは今の今まで己の弱さを見せまいと心を堅く閉ざしていたラウラにとって初めてのことだった。
「だったら、だったらどうすればいい! もう私には何も無い! 何の為に生きればいいか……生きる意味すら失った私に、何を求めて生きていけばいいんだ!?」
瞳に涙をも浮かばせながらシンに今まで自分の内に溜め込んできたものを吐き出すラウラはあまりにか細く、そして弱々しかった。シンは気づいた。こんなにもラウラが気にかかるのはその境遇がレイに似ているからだけではない、過去のシン自身と同じだからだ。考えることを止め、戦うだけの存在と化した自分、C.E.の地で全てを失い、何の為に生きるのか分からない自分、そして今目の前にいる少女は過去の自分そのものであった。
自然、笑みが浮かぶ。涙を流すラウラを掴んでいる腕を降ろしベッドに座らせる。そして片膝をつき、シンはラウラに告げる。嘗ての自分でもあるラウラへのシンの答えを。
「だったら探しにいくぞ、ラウラ。誰かに示された道じゃない、お前だけの道を」
人は自分で考え、見つけた道を進まなければならない。そうでなければ例え生物学的に生きていてもそれは生きているとは言えない。誰かが示した道に只従うだけの人等、それはもう人とは呼べないだろう。
自らの頭で考え、自らの『意志』で前を進む。それが人なのだ。
「探す……?」
「ああ。どんなに大変でも、探していこう。誰か示された道に従うんじゃない、自分で考え、自分で進む、それが生きているってことだよ」
自分の足で前に進み、自分の意志で行く先を決める、それは難しいだろう。困難が続くだろう。しかしそうして見つけた道こそ他の何にも代え難いものなのだ。
言いたいことを言い終わったのか、じゃあな、とシンは立ち上がり、医務室から出ようとする。そんなシンをラウラは溜まらず引き留める。
「待ってくれ! 何で……何でお前はそこまで私のことを! 私はあれだけお前を倒そうと、憎んでいたのにお前は笑っていられるんだ!」
ラウラは分からなかった。何故目の前の男はここまでラウラのことを気にかけてくれるのか、ラウラには理解出来なかった。そう疑ってしまうのは今まで利用され、蹂躙され続けられてきたラウラには無理からぬことだった。
シンは立ち止まり、数瞬程そうしていたのか、ラウラの方を振り向く。微笑を浮かべながらも、そこには僅かな悲しみが見え隠れしていた。
「……お前に似た友達がいてな、ソイツのことを思い出したらお前のこと、放っておけなくて、な」
言ってから、シンはふと世界という垣根を超えて離れた友のことを思い出す。もうあの世界へは何の執着も無かったが、それでも己を省みずシンを想ってくれた友は別である。もう会うことは出来なくとも、この思いが届かずとも、シンはレイという少年に祈りを捧げる。
そしてシンは不安そうに見つめるこの世界のレイと言うべき少女に言う。
「心配するな。不安なら俺が支えてやる。
お前は
俺が守ってやる」
全ての迷いも消えてしまいそうなその姿は、『影』をも打ち消す『真の光』であった。
それを最後にシンは医務室から消え、ラウラは呆然とその後ろ姿を追ってしまう。
――お前は、俺が守ってやる――
そんなことを言われたのは初めてだった。今まで自分に自由等、自らの意志等認められぬものだと思っていた。でも、違う。自分は自分の道を自分の意志で決めていいのだ。
それを理解した時、ラウラの頬を涙が流れた。後から止め止めなく流れるそれを、ラウラは拭おうとしなかった。
もう我慢しなくていい。
全ては、自分の意志で決めるものだから。
~~~~~~~~~
IS学園地下特別区画、一部の人間しか入ることを認められていないそこで千冬と葵は会議用電子モニターに映る世界地図とその上に浮かぶ多数のモニターを見つめていた。その各所に投影されているモニターに映し出されているのは葵がここ数ヶ月の間に摘発してきた反IS勢力、そのアジトの所在地と規模、さらにはそれらを裏で支援していた闇企業や武器商人等の金や物の流れまでもであった。
「よくここまで調べ上げられたな」
「動きが目立つ様になった分、後を付けるのは簡単だったよ」
千冬と軽く言葉を交わしながら、葵はモニターを絶えず動かしモニターの情報を整理していく。
「中東、アフリカ、アメリカ、ロシア……半年でここ数年に起きたテロ、クーデター、ゲリラ的攻撃の数を超えたな」
「ああ……そしてこれか……」
悩ましげにしわを寄せる千冬の視線はモニターに現れたいくつもの画像--いくつかの反IS勢力アジトで発見、押収されたMSに向けられていた。機体は先日IS学園を襲撃したザク・ウォーリアのものもあれば、青い機体--グフ・イグナイテッドもあった。
「初めにこれを見た時には驚いたよ。IS以外でここまでの性能値のパワードスーツは初めてだ。が、これが異世界のものなら納得できる。既存の技術では無理がある」
「お前は信じるのか? アスカがC.E.から来た異世界人だというのを」
「まあな。最初にお前が廻してきた彼の身辺報告書を見た時は目を疑ったがな。だが、彼の作成したMSに関する報告書の精度を見たら信じられるよ」
人間という生き物は平和という変化の無い時に力を働かせる人間がいれば、その逆の常に状況が変わりゆく乱世に烈腕を振るう人間もいる。そして千冬も葵も後者に当たる人間であり、今の不安定になりつつある今の世界情勢において最も力を発揮出来るであろう存在である。
「それで? 機体の出所は?」
「ある闇商人から購入したものらしいが、そこから先の足跡はつかめていない。恐らく私達の動きに気づいて姿をくらました様だ」
「実機の解析はどうなっている?」
「コートニー技官からの報告では随所にMGやISの派生技術が使われているが、大部分は技術体系の異なるものだそうだ」
情報の共有と状況の整理が着いたところで二人会話を切る。それぞれの内では今起こり得る可能性への懸念が募っていた。
「ISが世に出て十年……初期の混乱も収まりISが世界の一つとして認識されてきている今、反IS勢力も焦りを感じえているか……」
「ああ。各所で発見されたMSが全て同タイプの機体であるということは恐らく既に量産体制は整っているだろう」
この状況が示す先、それを二人共敢えて口にしない。しかしながら確実にその危険性――MSによる反IS勢力・国家による全面戦争――は増していっている。
「兎に角、こうなった以上、こちらも本格的に行動せねばなるまい。委員会の方でも対MS特殊部隊を国連と連携して設立することが決定した」
「だろうな。むしろ遅いくらいだ」
MSという兵器の脅威が明らかになった以上、それに対処するための特殊部隊が必要となるのは至極当然のことである。
しかし続く葵の言葉に流石の千冬も驚きを表面に出さざるをえなかった。
「おいおい、何を他人事の様な顔をしているんだ。お前が隊長の部隊だぞ」
「……は?」
告げられた言葉に反応しきれず千冬が滅多にみせない呆気に取られた表情と間の抜けた返事を返す。
「正式な通達はまだだが、織斑千冬は特務少佐から正規少佐に昇任、IS学園と兼任して新設される予定の対MS特殊隊の指揮官も努めてもらう」
話についていけていない様子の千冬の前に葵は持参したアタッシュケースを置く。
「戦闘隊員の候補リストだ。どれも選りすぐりの連中だ。選別はお前に任せる。それからこれもだ」
軽い金属音と共に葵が開けたアタッシュケースの中にある平べったい楕円形のそれ--日本刀の装具の鍔に千冬は思わず目を見張る。その鍔に描かれた紋様は嘗て千冬が大空を駆けた機体のものであった。
「これは……虎徹……」
第一世代IS『虎徹』日本製量産IS『打鉄』の試作機三機の一つであり、ITTCに所属していた時の千冬の愛機であり、そして千冬にとって忌まわしき記憶を思い出させる機体であった
「お前の為に新しく打ち直したものだ。かなり振りづらくなっているが何、お前なら振りこなせるさ」
「……余計な真似を……」
葵を睨みつけながら千冬は自分にあてがわれた待機形態のIS『虎徹』をじっと見つめる。そこには幾ばくかの葛藤、迷い、そして弟の一夏も見たことの無いもの--恐れがあった。
微動だにせず睨めつける様に虎徹を見つめる千冬に葵は思わず苦笑する。彼女には--あの時の事故を知る彼女には今の千冬の心の内が痛い程理解できた。それは嘗てITTCに所属していた者同士にしか無い繋がりである。
「千冬、いい加減自分を許したらどうだ? 幾ら悔やんだ所でアキはもう--」
「……簡単に言うな。何が世界最強だ。只『力』に溺れた愚かな女だ、私は――」
「ならばどうする? ここで教師としてあの様なことが起きない様操縦者を育てるのもいいだろう。だが今は皆がお前を必要としている。《ブリュンヒルデ》のお前の力を必要としているのにお前は過去に怯えここに閉じこもるのか?」
「……」
千冬は何も答えない。その瞳は過去の記憶--彼女にとってあまりに愚かで、そして思い出すだけあの時の古傷に鈍い痛みが走るあの時の記憶が映し出されていた。
葵はそんな千冬を一瞥すると千冬の脇をすり抜けエレベーターの開閉ボタンに手をかける。
「答えは次に聞かせてもらう。だがな、千冬……お前が迷っている間にも時は流れ、世界は動き、人が死んでいっていくぞ」
それを最後に葵の姿はエレベーターの扉の奥へ消えていく。残された千冬は呆然と葵が去ったエレベーターを見続ける。そして数分したか、千冬の瞳はアタッシュケースに仕舞われた虎徹に向けられた。その心中には何が渦巻いているのか、それは千冬自信も理解し難いものであった。只これだけは言える。千冬の内で止まっていた時計が千冬の意志と関係無しに回り始めている。
「……虎徹よ、お前はまた私の手を人の血で汚させるつもりなのか……」
手に持った虎徹に千冬はそう呟くが、物言わぬそれは当然何も発せず、只鉄の冷たさと硬い感触、そして千冬の血塗られた過去を物語っていた。
~~~~~~~~~
一時期は混乱の中にあったIS学園も現在はその落ち着きを取り戻し皆それぞれの時間を過ごしていた。
その中、生徒も粗方食べ終わり閑散とした食堂で事情聴取等で長い時間拘束されていた一夏とシャルロットは皆よりも遅い夕食を取っていた。
『トーナメントはアリーナ内の事故の為中止となりました。ただし個人データ指標と関係する為、全ての第一回戦は実施されます。場所と日時の変更は学園支給の携帯端末で確認の上--』
「え? それじゃあ、デュノア社はIS開発から手を引くのか?」
大型モニターから流れる放送とテロップを横目に、一夏はシャルロットのその言葉に驚く様な表情を露わにする。シャルロットは一夏の反応に頷いてから口を開く。
「うん。既存のラファール・リヴァイヴとかのデュノア社がライセンス生産している量産機や全機体共通規格装備は引き続き生産するけど、新規のIS開発は取り扱わないらしいの。今本社の方で今後の方針について考えてるんだって」
「まあ、元々軍需産業だったんだからそのまま元に戻るんじゃないか?」
炒飯を勢いかき込みながらシンが現実的な感想を述べるが、それよりも気になることが一夏にはあった。デュノア社の経営方針がシャルロットにどう影響するかだ。
「そうか……それで、シャルはどうなるんだ? デュノア社がIS開発を止めるんだから、こんなことする必要は無いし、ここにいる必要も……」
その先を一夏は言えなかった。それはつまりシャルロットが国に帰るという意味であった。一夏の元からシャルロットがいなくなる、それを考えただけで一夏の理性と関係なしに感情がそれを拒否していた。
そんな一夏の複雑な心情が伝わったのか、シャルロットは一夏を安心させる様に優しく言う。
「デュノア社はIS開発から撤退するけど、今後の為にも技術面でのアドバンテージは欲しいからここにいろって。デュノア社テストパイロットじゃなくなるけど一応僕、フランスの代表候補生だし」
「そう、か」
シャルロットの言葉に一夏は浮かびかけた腰を落とし思わず安堵すつ。本来ならまだスパイ紛いのことをやらされることに対し憤りでも感じるべきなのだろうが、一夏の中の言い表せない感情が一夏自身の心をかき乱していた。
(俺はどうしたいんだ……? 俺はシャルに……)
何とも言えない、もやもやしたものが一夏の中でくすぶってしまう。そんな一夏の微妙な心境に気づいたのか、シンが何やら悪巧みを考えた様な笑みを浮かべ、一夏の耳元でそっと囁く。
「ククク……良かったな、一夏。大事なお姫様がお前の所から離れずに済んで」
「ぶっ!? し、シン!? な、何言ってんだよ!? 別に俺は--」
「『別に俺は』? 何だよ? 言って見ろよ」
「うぐぅ……」
そう言われては何も言えずじまいの一夏をシンは面白がる様に陽気に笑う。そこで何か思い出したのか、シャルロットの方を振り向くとシンは唐突に気がついた疑問をシャルロットにぶつける。
「そう言えばシャルル、少し聞きたいことがあるんだけど」
「うん、何?」
「ああ、ISって通常の
「特殊通信? うーん……確かISの情報交換ネットワークの特殊現象の一種で近いものがあるかな? 操縦者の波長が合うと発生する相互意識干渉、多分それのことじゃないかな?」
「操縦者の波長? 何だそれ? コアの個体差とかじゃないのか?」
よく分からず首を傾げるシンにシャルロットも微妙な表情を浮かべながら説明を続ける。
「そこまではちょっと……ISにはまだよく分かっていない部分が多いからね。開発者の篠ノ之博士は全機能を公開していないし、ISには自己進化機能が備わっているから十年経った今では博士本人も全てを把握出来ないそうだよ。以前ISの戦術・技術の標準規格統合の為の特別チームが調べたことがあるけど、結局大して解明出来なかったって」
シャルロットの説明にシンはふーん、と相槌を打ちながら結局分からずじまいの疑問に悶々としてしまう。
「ひょっとして、ボーデヴィッヒさんと何か?」
「ん? ああ、ちょっとな」
「ちょっとな、って何よ?」
「ぶっ!?」
スプーンをくわえ物思いにふけていたシンがあの時の現象を説明しようとするが、それは隣のテーブルに座っていた鈴からの横槍で中断される。
「おま……いつからそこにいたんだよ!」
「今さっきよ。それより何があったのかいい加減話しなさいよ!」
「だからが正式な調査結果が出るまでは口外禁止だって言ってんだろ!」
「あー! さっきからそればっか! いい加減ゲロりなさいよ!」
鼻息も荒く鈴はシンの首根っこを掴むなりズルズル引っ張り始める。シンが喚いているのもどこ吹く風である。
「一夏! アタシの食器片付けといてね! じゃあね!」
「……行っちゃった」
「相変わらずあいつらが揃うと騒がしいよな」
嵐の様に現れシンをかっさらった鈴の早業にシャルロットはキョトンとし、一夏は普段と変わらないシンと鈴の漫才の様な息のあったやり取りに苦笑する。
「さてそろそろおいとまするとしますか」
「そうだね。僕もうクタクタ--」
「あ、織斑君! デュプレ君!」
名前を呼ばれ一夏とシャルロットが声が聞こえた方向を見るとタブレット端末と大量の紙の資料を脇に抱えた真耶が一夏とシャルロットに手を振っていた。トーナメントの後処理にずっと走り回っていたのか、かなりボロボロの状態である。
「山田先生? 何ですか?」
「というか、大丈夫ですか?」
「あ、アハハハ~……だ、大丈夫大丈夫。このくらい先生へっちゃらですよ」
そう言いつつも、眼鏡がどんどん下へずり落ちていくその姿には一夏もシャルロットもご愁傷様、と心の中で思わず呟いてしまう。
真耶もそれに気づいたか慌てて眼鏡をかけ直し周囲をキョロキョロ見渡す。
「と、所でアスカ君は? 今どこにいるか織斑君知っていますか?」
「ああ、シンならさっき鈴に引っ張られてどっか行きましたよ」
「何か大事な話でしたら捜してきましょうか?」
「ああ、それでしたら着替えを取りに行く前にお願いします」
「着替え?」
着替えという単語にシャルロットがオウム返しに聞き返すと、そこで真耶は得意気な笑みを浮かべる。
「はい! ようやく織斑君達が使える様調整がついたんです! IS学園自慢の
大浴場!」
真耶は満面の笑みを浮かべながらそう告げた。
~~~~~~~~~
IS学園の生徒が使う大浴場は、金を取っても十分だと言える程豪華かつ広大なものである。
何十人もの生徒が使用することを想定して設計された浴場は豪華な装飾があらゆる所に施されている。そしてその種類も異常なまでに豊富であり。入学して2ヶ月でそこそこ慣れたつもりだったが、改めて国営の学園の底力を見せつけられた気分の一夏だった。
清めた体を湯船に沈め、体中に力を抜く。湯から伝わる温かさと共に全身の筋肉が弛緩し溜まっていた疲労が溶けさってゆく感覚に一夏は満喫していた。
「はぁ……生き返る……」
入学してから今まで、張り詰めていたものから解放された気分になり、思わずその様な言葉を一夏は漏らす。只でさえ女子の中に男二人だけという心苦しい状況の中、ほぼ毎日の様なISの訓練と授業、おまけにクラス対抗戦と学年末トーナメントで起きた異常事態とあまりにも慌ただしい日々が続いていたのだ。2ヶ月の間でこれだけの出来事が起きたのかと、一夏としては正直俄かに信じがたい気持ちである。
「くぁ~……やっと一息つけた感じだぜ……」
『一夏ぁ? 大丈夫? 逆上せてたりしてない?』
「ん? ああ、大丈夫。後五分ぐらいしたら出るからもう少し待っててくれ」
『う、うん。分かった……』
更衣室から一夏が逆上せていないか心配そうにしているシャルロットの声がエコーがかかりながら一夏の耳に入ってくるとろけ気味の脳を動かして
(こういうやり取りとか、まるで新婚夫婦みたいだな、俺達……)
普段なら瞬時に首まで赤くしてしまいそうなことも、湯船に身を委せきって思考力が大分低下している一夏には全く影響が無くそれだったらいいなぁ、と言い出し幸せそうな顔であれこれ妄想し始める始末である。
そんなどうしようもない状態の一夏だが、ガラガラ、と誰かが浴場に入ってくる音、そして反射的に振り返った先にあった絹の様にきめ細かい肌と普段の男装した姿に慣れたせいか、見た目以上のボリュームを感じさせる肢体のシャルロットの姿に一気に寝ぼけ気味の頭が叩き起こされる。
「しゃ、シャル!? な、何やってんだ!?」
「あ、あまりこっち見ないで……」
面積の少ないタオルで必死に身体を隠しながらシャルロットが言うが、それは今の一夏には難しい話だった。
目を逸らせ、としきりに理性が言い続けているが、元々湯船の心地よさで大分鈍くなった思考に加え、身体を隠そうと捩らせるその仕草や恥ずかしさで染まった頬、そして全身から漂わせる発育途中の未成熟な『女』の甘酸っぱい香りやどこか艶のある表情が一夏の脳髄を刺激し続けていた。
「は、恥ずかしいよぉ……一夏ぁ……」
「っ! ご、ごめん!」
半ば涙目になりかけたシャルロットからの懇願も入った言葉に一夏はやっと理性がまともに働きだし釘付けになっていた視線を引き剥がし慌てて顔をシャルロットと反対の方向に戻す。あまりに早く戻したせいで首から嫌な音が聞こえたが今はそれどころじゃない。
「ほ、ホントにごめん! まさかシャルが入ってくるなんて全然思ってなかったからつい……」
「う、うん……こっちこそごめんね。いきなり入ってきたら普通びっくりするよね」
「い、いや! シャルは全然悪くない! 悪いのは俺だ!」
シャルロットが素肌を晒して一夏の傍にいるというあまりに現実味の欠けた現実に一夏が狼狽える中、シャルロットが湯船に入る音が聞こえ、一夏の背にシャルロットの背中が触れる。間に挟むものもなく直に背中合わせになったことに一夏はますます落ち着かない状態になる。一応は二人共落ち着きを取り戻すが、何を話せばいいか分からぬまま二人の間に気まずい静寂が訪れる。
だだっ広い浴場で何の言葉もなく、水滴の落ちる音が時折虚しく響く。これに最初に耐え切れなくなったのは一夏だった。おずおずと向かい合わせに湯船に浸かるシャルロットに言葉を向ける。
「えぇと、その、シャル?」
「な、何? 一夏?」
一夏から唐突に話しかけられたことにシャルロットは思わず裏声で返してしまう。自身の裏返った声にシャルロットも気づいた、カァ、と赤くなっていくのが顔を見ずとも背中越しに伝わり、一夏は思わず苦笑する。場の空気が柔らかくなるのを知覚し、一夏は改めてシャルロットに聞きなおす。
「急にどうしたんだ? その……一緒に風呂入ったりして……」
「……一夏に聞いて欲しいことがあるから、一夏にありがとうって言いたいから、じゃ駄目かな?」
「俺に?」
シャルロットの言葉に一夏は思わずそう聞き返してしまう。シャルロットはそうだよ、と言いその言葉の続きを紡ぐ。
「一夏がいたから、一夏があの時僕を守るって言ってくれたから、僕はこんなに幸せなんだよ。こんな風に心から笑ったり泣いたり……フランスを発った時、こんな気持ちるなんて全然思ってなかった……」
「シャル……」
シャルロットの過去を知る一夏にとってそれがシャルロットの偽らざる思いだというのが自分のことのように感じられた。シャルロットの背中から伝わる温もりから一夏に教えてくれている。シャルロットの優しい心が一夏に伝わってくる。
「お母さんが死んでから、一人ぼっちだった僕に、一夏は居場所くれた……それが僕にとって何より嬉しい」
チャプン、と湯が跳ねる音と共にシャルロットがこちらを向き返すのが感じられた。そしてシャルロットの細い腕の首に廻されたのを認めた時、一夏は自分が抱きしめられたのだと理解した。
「だから言わせて……
ありがとう……一夏……」
その言葉は一夏の心にこの上なく溶け込んでいく。シャルロットの心から感謝している、その優しい心が体の温もりと共に一夏に伝わっていく。
そして一夏は気づく。自分の本当の思い、自分が為したいと願う、その心に。
咄嗟に一夏はシャルロットの腕を掴む。痛くない程に、それでいてまるで一夏の手から離れない程度に力強く、握られていた。
「いち、か……?」
手を握られたことにシャルロットは戸惑う様に一夏を見つめる。一夏は今度は振り返らずどこか遠い地を見つめる様にその瞳--まるで汚れを知らぬ者が持つ様な、澄んだ瞳を細める。
「……礼を言いたいのは本当は俺の方だよ」
そう言って一夏は静かに目を閉じる。その瞳の奥では2ヶ月という短く、しかしながらあまりに多くの出来事があった期間を思い出す。
「偶然ISに乗れて、白式を貰って、俺はやっと力を手にしたって思った。皆を守る力を」
今までどこにでもいる普通で、無力な少年だった一夏にとってそれが--自分だけの機体を手にしたその時が、初めて力を手にした時だった。
「でも、俺が手にした力は使い方を間違えれば只の暴力になるのを、俺は初めて知った。頭では分かってたつもりでも、シンの戦い方を見て、俺は教えられた」
戦いとは如何なるものかを知らない一夏から見て、シン・アスカの戦いはそれ程までに強烈だった。誰かを守る為では無く、只ひたすら敵を討ち砕き、蹂躙し、破壊する。当時に怒れるままに力を振るうシンの戦い、一夏の望んでいたものを意図も簡単に潰した。
「シンの戦いを見て、俺は何のために力が欲しいのか、俺の本当に守りたいものは何なのか、迷ってたんだ」
一夏は、自分が求めている力とは守りたい人々を守るために振るうものだと思っていた。そう信じていた。しかし本当は違った。一夏が求めていた力は無力な自分の弱さを誤魔化す為のものだった。あの時、モンド・グロッソで抵抗虚しく連れ去られた時、何も出来ぬまま千冬に助けられた時に味わった己の弱さを払拭する為の、そんな自己満足的なものだった。
「でも、それをシャル、お前が教えてくれたんだ……お前と出会って、お前の泣きたい気持ちとか、そういうのを知って、俺はお前を守りたいって思ったんだ。俺に何の為に戦うのか、何を守りたいのか、それをお前が教えてくれたんだ」
今この時、一夏がどんな表情をしているのか、シャルロットには見えない。しかし見えずともシャルロットにはよく理解できた。一夏の肌からその思いがシャルロットに伝わってきた。
「ありがとう、シャル、俺に大事なことを教えてくれて、ありがとう……」
それを聞いて、シャルロットは嬉しかった。今まで実の父親に疎まれて生きてきた彼女にとって、ありがとうという言葉は何よりも嬉しい言葉だった。誰かに頼られ、感謝される、そんな当たり前の言葉を貰ったのが何よりも嬉しかった。そして、その言葉をくれた一夏をシャルロットはほんの少しだけ、でもぎゅっと強く抱き締めた。
どれぐらいそうしていたのか、一夏はポツリと呟く。
「なあ、シャル……」
「ん……何?」
一夏は気恥ずかしそうに頬をかきながら、少しの間を開けてそれを口にする。
「お前のお母さんって……どんな人だったんだ?」
「一夏……?」
突然聞かれたその疑問にシャルロットは思わずキョトンとする。それに気づいてか、一夏は言う。
「俺の親って小さい頃いなくなったから、どんな親だったのか全然知らなくて……」
その声は段々と小さく、聞こえづらくなるがシャルロットには今の一夏の気持ちがよく分かる。母親が死んでから、心に空いた隙間を埋めてくれる何かを求めていたシャルロットと同じ様に、ポッカリと心に空いた空虚なその思いを埋めてくれるものを求めているのだ、ということを。
寂しい、その湿った心をふるい落とす様に、一夏は声を少しだけ大きくする。
「だから知りたいんだ。シャルのお母さんがどんな人なのか、そういうのを、さ。いいか? シャル」
「……うん!」
シャルロットは眩いばかりの笑みを一夏に見せ、そして母親との限り無い思い出を一夏に話し始める。
一緒にご飯を作ったこと。
初めて海を見に行った日のこと。
怖い夢を見た日、一緒に寝てくれたこと。
もう戻らない、しかし忘れることはないだろう優しくて、温かい過去をシャルロットは一夏に伝える。一夏は口を挟まず、まるでシャルロットの思い出を自分のことであるかのように楽しげに聞き続けていた。
素肌を晒して心を通わせる二人のその姿に二人が背負わされている男のIS操縦者や親に愛されていない子供といったものは何も無く、自分でも気づかぬ内に互いを想う少年と少女というありのままの姿であった。
~~~~~~~~~
とてつもなく濃厚な日であった学年別トーナメント初日の翌日、毎日の様に騒がしい一組の教室はしかし、今この教室内で起きている出来事に反応できず唖然としていた。そしてその渦中にいるシンも自分の首に腕を回して後ろから抱きついているラウラに困惑を隠しきれずにいた。
「なあ、ラウラ……」
「何だ?
「いや、その『兄様』ってなんだよ……」
昨日の試合であれ程ボロボロになったのにも関わらず今朝何食わぬ顔で教室に現れたラウラはシンの姿を見つけるなり「今日から『兄様』と呼ばせてもらう!」と何の脈絡もない宣言をクラス全体に響く声で言い放ち、それ以降シンにべったりくっついているのである。
「何って聞いての通りだ。今日から私は兄様の義妹になるということだ」
「いや待て。まるで意味が分からん! 何でそういうことになるんだ!?」
会話のキャッチボールというよりドッジボールになっているこの状況、そもそも何故義妹なのだ、と皆が思わざるを得ない。シンとラウラの間で何かがあったのは想像に難くないが、そのシンにしても何故こうなったと言いたい所である。
「何故って昨日あの台詞を言ってくれたではないか」
「嫌、あの台詞ってどの台詞ってどの台詞だよ?」
「日本の文化ではそういう言葉を言われたときは義兄弟の誓いだとクラリッサは言っていたぞ」
「それ違う! それ腐った女子の妄言だから!」
「おい誰だよ! こいつに妙なこと吹き込んだ
相当ロクでもないことを吹き込まれているラウラに一夏とシンが思い切り突っ込む。そして今度そのクラリッサに会う機会があったら一発ぶん殴ろう、とどうでもいい決意をするシンだった。
兎に角、誤解に解かなければこの先の学園内での自身の立場とかそういうのが危なくなりそうなのでラウラにしっかり言い聞かせなくては、とシンはラウラを見る。しかしシンのどうでもいいぐらい固い決意は、上目遣いでシンを見つめるラウラによって早速崩れ出す。
「な、なんだよ? ラウラ・・・・・・?」
戸惑い気味に訪ねるシンに構わず、ラウラはその紅い瞳を潤ませながら次の瞬間その場にいる人間全員の脳髄に豪速球を叩き込みだした。
「イヤ、なのか・・・・・・? 私が妹なのでは・・・・・・?」
まるで親に叱られてシュンとなった幼子の様なラウラの姿に一組全員思ったことは只一つである。
(何この小動物!? めっちゃ抱きしめたい!!)
全員抱きしめたいという衝動を抑えようと身を捩らせて目も当てられぬ状態である。特にシンに至っては目の前でそんな雨の中段ボール箱に捨てられた子犬の様な目を向けているラウラに対し指先がピクピクしている有り様である。
「い、嫌、そういうことじゃなくてな・・・・・・そもそも『兄妹』って単語に『義』なんてついたら背徳的な匂いが・・・・・・」
震える声でよく理解していないラウラに必死に説明するシンだが、完全に頭がオーバーヒートしてかえって訳の分からない説明となっている。
パンク寸前の頭で未だ潤んだ瞳をキラキラさせて見つめるラウラをどうしようか必死で考えるシンだが、ふと周りの視線を感じて見回すとクラスの女子が皆シンに向けて空気読めよ的な目線を向けているではないか。無論皆が待ち望んでいる言葉は一つだけである。
(早く! 早く!)
(まさか女の子のお願いを無碍にするんじゃないよねぇ?)
何も言わずとも言いたいことが痛いほど伝わってくる。嫌な汗をダラダラかきながらシンはチラリと目だけをラウラに向ける。
「義兄様ぁ・・・・・・」
完全に兄に甘える妹の様な響きでシンの心の奥の何かをガンガン揺さぶってくるラウラにシンは自分に残された選択肢がガラガラと無慈悲な音を立てて閉まっていくのが脳内でハッキリと現れた気がした。
「~~~~~~!!!! あ~分かったよ! 義兄さんでも何でもやってやるよチクショー!!」
「! 義兄様ぁ!!」
数秒のよく分からない心の葛藤の後、半分ヤケクソ気味に言うシンにラウラはパッと表情を輝かせるとシンに思い切り抱きつく。周りから黄色い悲鳴が上がるのを無視しながらな何故かシンはガルナハンの狭い抗道を通り抜けたことを思い出す。どっちを選ぶかと言われたら、多分今なら迷うことなくガルナハンと言うだろう。
そんな朝から神経がガリガリ削られる思いのシンを、今教室に来たばかりで状況が掴めていない鈴が呆然と見つめる。
「何、それ・・・・・・」
「嫌、その・・・・・・」
「ふにゃ~ん、義兄様ぁ・・・」
それを見た瞬間、鈴から『ブチッ!!』と何やら嫌な音がシンの耳には聞こえた様な気がした。恐る恐る鈴を見ると、先程まで呆然としていた姿は無く、代わりにどことなく恐ろしい空気を纏った鈴がそこにいた。目は完全に座っていて、かつ全身から負のオーラが沸き上がっているのがありありと見て取れた。
「え、えとぉ、鈴さん? 一体どうしたの?」
「自分の胸に聞け! このバカ!」
瞬間、鈴の鋭い蹴りがシンの臑を思い切り突く。人体急所の一つを諸にやられたシンが呻き声を上げて座り込む中、鼻息も荒く鈴はシンから離れていく。そして教室の出入り口で一度立ち止まると、奇しくも以前一夏に言ったのと同じ台詞を吐き捨てる。
「馬に蹴られて死ね!」
それを最後に鈴は荒々しく教室を出て行き、後にはそんな鈴の後ろ姿をニヤニヤ見る生徒のクスクス笑う声と「義兄様!? 衛生兵! 衛生兵~!」と場違いこの上無いラウラの叫び声だけが残っていた。
「い、一体何だってんだよ……?」
シンのそんなぼやきは周りの騒ぎに消え、IS学園一年一組の教室はいつも通りの様相へ戻っていくのだった。
どうも。パクロスです。来週公開の『アイアンマン3』が楽しみなパクロスです。
アベンジャーズから一年経っての『3』ですけど、色々楽しみですねぇ。一年前はナノマシンがスーツになるって仮面ライダーみたいな感じになるらしいって噂がありましたけどPV見る限りじゃそんな感じじゃないですけど、アイアンマン大集合のシーン見たら、ああ……確かに仮面ライダーだな、って思いました。
これでやっと第二章は完成です。いやぁ、疲れた・・・・・・。何しろこの章の途中まででにじファン終了でしたから、相当久しぶりの新規投稿でしたよ。
とりあえず今回は第二章のまとめ的な感じです。ラウラ編も何とか終了。一夏×シャルも自分的に納得のいく仕上がりになりました。ラウラは最初は原作通りの予定だったんですけど、途中で急にコーディネイター化したために心理描写がものすごく難しくなってしまいました。ああ、疲れた。
で、それよりも最後のあの豹変ですけど・・・・・・うん、反応が怖いです。最初は親友というポジションにしようと思ったんですけど、何か気がついたら妙なノリが働いてこんなんに・・・・・・まあ、下手に惚れさせるよりは面白いかと。只問題は『義兄様』と書くべきか『ニイサマ』とカタカナで書くべきか・・・・・・(←どうでもいいわ)
千冬さんが本格的に活躍するのは次章からです。その時に専用機『虎徹』の初披露の予定となります。この作品の千冬さんは大人なりの辛さとかそういうのを表現させてみたいと思ってます。
で、白『式マ改造計画(またスパロボネタなタイトル……)』ですけど、皆様のおかげで大分いい感じに纏まってきました。どうも、ありがとうございます。期限は第三章の四回目辺りに予定している白式大破回までなんでよろしくお願いしま~す。
ちなみにデスティニーはどうなるのよって思ってる方いらっしゃると思いますが、当然第二形態移行しますよ。お楽しみに~。
てな訳でどうもありがとうございます。次回は久しぶりの登場ゼロ・エニッションがメインのEXTRAシリーズでございます。その後は第一章第二章登場機体・キャラの設定回をやって、第三章となります。皆さん、これからも覚醒伝をよろしくお願いします。