IS×GUNDAM~シン・アスカ覚醒伝~   作:パクロス

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『アイアンマン3』あれはヤバい。いや、面白いっていう意味とがっかり的な意味が合わさってヤバいって感じですね。
面白いのと言えば、やっぱトニーの苦悩シーンとかですね。ぶっちゃけ『2』からずっとトニー苦しんでばっかだけど。只あのシーンは良くてこの作品でもやっちゃおうかな、って思いましたよ。あとスーツもすごいがっちょんがっちょん動くんで正直小説書いてる身としてはネタの倉庫ですよ。アイアンマン。
残念な部分はヴィラン(敵役)。すげえ裏切られた感が……どれぐらいかって言うとあれですね、『ダークナイト・ライジング』のベインレベルっていえば分かる人には分かると思います。
後去年ネットとかで『次のアイアンマンはナノマシンで仮面ライダーみたいに装着するぞ』ってありましたけど全然違った感じですね。只予告とかでもありましたけど、アイアンマンが一気に集まるシーンとかは明らかに最近の仮面ライダー(全ライダー集合系)とかと通じるものがある感じですねぇ。

まあだらだら書きましたけど久々の更新です。どうぞ。



EXTRA-02:交錯する思惑、さらなる戦乱の序幕

 女は嫌いだ。

 そう言う男は数多い。

 彼らに女が嫌いな理由を聞けば、返ってくる答えは大体同じだ。

 女は狡賢い。

 女は良い男が見つかればすぐそっちに乗り替える。

 女は男の築き上げてきたもの全てを掠り取ってしまう。

 そんな女を嫌う男達だが、それでも気がつけば女を愛して止まない自分達がいるのもまた事実だ。

 嫌う心と愛する心、矛盾した二つのこの思いが混じり合ってしまうのは、男というのは本質的に女を追い求めてしまう生き物だからだろう。

 例えるなら暗い夜の闇の中、太陽の様に強い光を放つ電球、そしてそれに寄りつく蛾といった所だろう。光に惹かれながら、触ればその強い光に熱せられたガラスによって己の身が焼きただれる。男と女というのは正にそういう生き物なのだ。

 かく言う俺はどうなのかと言われるとどうなのだろうか。女が嫌いかどうか、と聞かれれば、苦手だと言うだろう。それは上に上げた男達の言い分とは少し違う。

 

 

 

 

 

 

 どれほど燃える様な熱い恋をしても

 

 

 

 

 

 

 女とどれだけ忘れさせない、熱い夜を過ごしても

 

 

 

 

 

 

 俺が生きる刻の中ではその時間は、あまりに短く、そして儚く散っていくからだろう……

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 連邦アメリカ地区デトロイト、かつてアメリカ有数の工業地帯として繁栄していたその都市も1世紀近い時の流れとその間に幾度となく行われた大戦による世界の変化に乗り遅れ、街に立ち並ぶ巨大な工場の多くは稼働を停止し、寂れた空気を漂わせている。

 その様な町の一角にある寂れたバー、閉店時間をとうに過ぎた店のカウンターでは男――ゼロ・エニッションが手持ちの装備の確認を一人静かに行っていた。

 分解された銃のスライドに潤滑油を指し、使い込まれた布で余計な油分を拭き取る。くたびれたバネや欠けたピンを新しいものと交換しながら整備の終わった銃を組み立てていく。パーツの状態から元の黒光りする異様に銃身の長く太いそれを外から不具合が無いか確かめ、銃を構えて違和感が無いのを認める。

バーのカウンターには銃の整備道具の他、コンバットナイフやライターの様な形状の小型手榴弾、用途は不明だが明らかに物騒なものがずらりと並べられ、まるでこれから激戦地に赴くのかと思うものであった。

 手に持った銃をカウンターに置き、傍に置いてあった炭酸水の入った瓶を口にする。普段着ている黒いコートは隣の椅子に無造作に掛けられ、黒いノースリーブのシャツから鍛え上げられた右腕が剥き出しになっていた。

 喉を潤し瓶をカウンターに置いたその時、カランカラン、という小気味の良い音共に厨房の小さな扉が開く。ゼロが顔を上げると、年老いたバーテンダーが脇に布で包まれた細長いものを抱えながらカウンターまで歩いてくる。

 

「ほらよ。直せるとこ全部直しといたぜ」

「すまない。片腕では流石に直しづらくてな」

 

 ドカッと重たげな音を鳴らしながら包みがカウンターに置かれ、ゼロはバーテンダーに礼を言いながら包みを広げる。包みの中から出たそれを左腕に装着し、肘を何度か曲げ不具合が無いかどうか確かめる。

 

「どうでぇ、具合の方は?」

「悪くない。腕は落ちていない様だな、機械医師(メカニク・ドクター)サイモン」

「当たりめぇだ。軍追い出されようと、こちとらまだまだ現役でぇ」

 

 豪快に言い放つかつて軍の整備士の間でその名を轟かせた男、サイモン・バーダックにゼロは苦笑しながら、隣の椅子に掛けたコートを手に取り身支度を始める。

 

「行くのか?」

「ああ、お前には世話になった」

「へっ、いいさ。連中にゃ憂さが溜まってたもんだからひとつ頼むぜ」

 

 サイモンはそう言うと、ふと遠い目をする。その先にあるのは壁に留められた一枚の古ぼけた写真、そしてそこには若き日のサイモンと昔の仲間達、そして今と姿の変わらぬゼロ(・・・・・・・・・・・・・)が映されていた。

 懐かしげに写真を見つめながらサイモンは呟く。

 

「長いこと生きてきたが、お前さんと初めて会った日のことはよく覚えてるぜ」

「それは俺もだ。あの時お前達と世界中走り回ったのは忘れられん」

 

 ゼロは防弾・防刃仕様インナージャケットの上からコートを着込み、腰にコートを抑える為の硬質素材のベルトを巻きつける。無視している様に見えるが昔から無愛想な性格なのはサイモンもよく知っているので、そのまま続ける。

 

「あれからもう30年も経つか……つくづく年は取りたくねえな。気がつけば口から出てくるのは愚痴ばかりだ」

「そうか? 昔からお前の口から出てくるの全部ぐちだった気がするんだが……」

「うるせえ! 愚痴っつったて色々あんだよ!」

 

 ベルトの中の装備を確認しながらそう混ぜ返すゼロにサイモンは半ば八つ当たり気味に怒鳴り散らす。

 

「今の世の中自分の目先のことしか考えてねえ馬鹿共だらけだ。おまけによりによってお前さんを利用してデカいこと企んでんだぁ? 罰当たりもいいとこだぜ」

 

 言いたいことを一通り言い終えてサイモンがはぁ、と溜め息をつく。いくら愚痴を言ったところで何も変わりはしない、それは彼もよく理解している。しかしいつだってそうだ。いくら自分達が必死で動いても直ぐにろくでもない連中が必死に積み上げてきたものを

 気持ちが段々と沈み込んでいくサイモンを、コートのはためく音が起き上がらせる。はっと顔を上げたサイモンの先には、整備の終えた銃を右大腿部のホルスターに収めるゼロの姿があった。

 僅かに靡くコートの裾、黒一色で覆われた服装、左腕の鋼の腕甲は力強く、強い『意志』の籠もった紅い瞳に黒い髪の中に生える金の髪、その全てが、正に『威風堂々』であった。

 

「だったら、これからその罰当たりな連中に天罰叩きつけに行ってくるさ」

「……へっ! 言ってくれるじゃねえか」

 

 ゼロの言葉にサイモンは喜色を露わにニヤリと笑うと、カウンターの下のラックから埃の被った酒瓶を取り出すと、陶器製のジョッキに注ぎ始める。

 

「飲めよ。久しぶりに出会った剛友(とも)の無事を祈って」

「いいのか? それは確かお前の秘蔵品じゃなかったか?」

 

 ゼロの言葉にサイモンは馬鹿野郎、と軽く怒鳴り返しながら自分のジョッキにも注いでいく。

 

「こう言うときに飲まねえでどうする? 酒ってのは飲むためのもんだ。飾りじゃねえ」

「ふっ……」

 

 ゼロは軽く微笑むとジョッキを手に取り、じっとサイモンを見つめる。そこには刻の流れを大きく超えた強い絆が存在していた。

 

「連中に一泡吹かせな! 格の差って奴をきっちり叩き込んでやれ!」

「ああ。この町に一つデカい祭り興してやるよ」

 

 二人は豪快にジョッキをぶつけ合うと、そのまま中のアルコールを一気に飲み干す。そして静かなバーにジョッキが叩きつけられる音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

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 デトロイトに存在する多くの工場は時代の変化に対応しきれずその多くは何十年も前に相次いで倒産していったが、それでも幾つかの工場は細々とながらその煙突から排気ガスを排出しまだ稼働していることを示していた。

 その中においてその工場は周りと全く異なる雰囲気を醸し出していた。要所要所に配置された監視システム、そして侵入者がいようものなら容赦なく蜂の巣にするだろう自動防衛システムの数々に加え複雑に絡み合った工場同士をつなぐ鉄橋、正に鉄壁の要塞と言うべきものへとその姿を変えていた。連邦軍特殊部隊『アルカディア・ムーブメント』の拠点基地、それが現在のその工場跡地の肩書きであった。

 しかし軍隊というものは平時においては全く不必要な存在であり、戦時以外では日々税金泥棒と中傷を受ける日々を過ごさざるをえない。そして兵士達もまた平時においては暇を弄ぶだけの存在となり果てる。

 城の城門内の警備室ではそうした警備兵達が暇を潰すべく思い思いの時間を過ごしていた。本来なら侵入者がいないかモニターを監視するという職務を全うしなければならないが、平和真っ只中のこの田舎町の軍事施設でそれを真面目に行う者等多くはない。更に時刻は深夜帯、静まり返っているこの時間帯は職務に対する意欲を兵士達からことごとく削り取っていった。

 監視室で不寝番を務めるジョン・ブレックス軍曹とカルダス・ラッド軍曹もまた退屈極まりないこの時間をやり過ごすべく各々持参した娯楽用品で有り余る暇を潰していた。

 既に何十回回し読みされたのか相当くたびれたアダルト雑誌を机に放り投げ、耳元のヘッドホンを首に下ろしたジョンが凝り固まった体を伸ばしながら眠たげに隣でクロスワードに興じているカルダスにぼやきはじめる。

 

「あぁ、休暇明けの不寝番程だりぃもんはねえぜ」

「文句言うな。大体お前が報告書すっぽかしたのが悪いんだろ」

「それを言うな… …あークソ、」

「バーカ、んなことしてみろ、次は営巣入りだぞ」

 

 他愛もない会話を交えるものの、二人の間に漂う倦怠感は如何し難い。基本的に寝ずの警備等こうでもしないとまともにやってられないものなのだ。

 そのまま何も起きる筈も無く、夜が明けるのか、と二人共半分諦め気味に気のない溜め息をつくと鋼鉄製の古ぼけた扉が錆び付いた音を出しながら開く。上官が見回りにでも来たのかとジョンもカルダスも思わず身構えるが、現れた人物に思わず唖然とする。

 

「は~い。今夜暇?」

 

 監視室に入ってきたのは女だった。それもそこら辺のバーの女等の比ではない、かなりの上物だ。

整ったフェイスラインに黒く長いストレートの髪、大きくはだけた胸元はかなりのボリュームがあるだろう。寝起きなのか、下着の上から軍服の上着だけ羽織ったその姿は相当扇情的だ。

(こんな姉ちゃん、この基地(うち)にいたか?)

(89、いや、92はあるか?)

 カルタスとジョンはそれぞれ異なる感想を抱きながら、とりあえず女の扇情的な容姿を目に下賤な視線を送りながら女に尋ねる。

 

「なんだぁ、姉ちゃん? 何か用か?」

「どこの隊の奴だ?」

「別にいいじゃないの? それより私、今身体が『疼いて』仕方ないのよ……他の男は寝てるし……三人で『暇潰し』しない?」

 

 暇潰しの意味が分からない程二人共枯れてはいないし、ましてや男色家でもない。一瞬顔を見返すと下卑た笑いを浮かべると硬い木の椅子から立ち上がる。上官に見つかれば職務放棄で厳罰ものだがこんな片田舎の軍事拠点で緊急事態等起こる筈もない。二人共起こる筈のないリスクよりも折角のお誘いの方が大事だと共通の見解に至った。

 女の色香に誘われる様に男が部屋を後にした数秒後、監視室の直ぐ傍から鈍い殴打音と男の呻き声が聞こえてくる。それから直ぐ何かを引きずる音が聞こえ遠ざかってくる。静寂が訪れた無人の監視室を数分後、先程の女が入ってくる。その服装は先程の着崩したものではなく、黒いボディスーツ姿であり、腰には用途不明の道具がぶら下がったベルト、目元には奇抜なデザインのバイザーが掛けられていた。

 

「男ってホント馬鹿ばっか……張り合いってもんがないわね」

 

 そんなこと呟きながら女は監視室にある端末にアクセスする。途中で幾度かセキュリティロックがあったか、そのたびに女はあらかじめセットしたハッキングツールを使用しを潜り抜けた。そしてホストコンピューターへの侵入を始めて数分後、女は遂に目的のデータを探し当てる。

 

「……ふ~ん、中央塔の最上階司令室ねぇ……馬鹿と煙はなんとやらっていうけど本当そうよね」

 

 女はそう呟くなり早速行動に出る。猫の様にしなやかな動きで隣の10mはあろう弾薬庫の屋上を登りきる。月の明かりに照らされ青白い輪郭と黒く細いその姿はあまりに幻想的であった。

 その時、下から呻き声の様なものが聞こえてくる。女が声のする方向に目を向けると先程女が叩きのめした男達が目を覚ましつつあった。

 

「いい子で寝てなさいね」

 

 女はそう言うとベルトから何か引き抜くとそれを続けて男達に投げつける。鋭く投げつけられたそれ--猫の肉球のスタンプの押された金属製カードは寸分違わず男達の首筋に刺さり再び深い眠りの中に鎮める。

 

「ふふっ……バァイ♪」

 

 その言葉を最後に猫賊(マオゼイ)の二つ名を持つその女--ベルノート・フェニキスは闇夜の中にその身を眩ませた。

 

 

 

 

 

 

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 ベルノートが行動を開始したのと時を同じくして、地上十数mにある建物同士を繋ぐ橋また異変が起きた。後ろから突然廻された太い腕に反応する間も無く首を絞められ、警備兵が鉄板に覆われたの足場に倒れ伏す。それを認めたゼロはベルトに懸架していた幾つかの道具を組み合わせ、最後にスイッチを押し込むと出来上がったそれを目立たぬ橋の下の骨組み部分に埋め込んだ。

 

「粗方仕込みは終わったな……後は仕掛けるだけだが……」

 

 一度その呟きを着ると、目元に装着したゴーグル側面のスイッチを選択し熱探知モードに切り替える。一見只のゴーグルに見えるそれは内部に様々な機能を搭載し、現在使用している熱探知や暗視機能、精密射撃補助機能に加え更に小型端末と接続しモニターとして活用することも出来る優れものである。

 熱探知モードで周囲を見渡すが、先程と何か変わった様子は何もない。強いて言うとすればゼロが静かに闇の中に沈めた敵兵が倒れ伏している程度である。しかしその何も動きが無いということがゼロの中の疑惑を膨らませていく。

(そろそろ騒がしくなっても可笑しくない筈だが……罠か? 奴の性格から考えるに誰かに鍵を預けるとは考えにくいが……)

 しかし今さら引き返す訳にもいかない。『レゾリュート』へ繋がる手掛かりはほぼ探し尽くし、その全ては無に帰していった。これが最後の手掛かりなのだ。

 

「……兎に角、進む他あるまい……」

 

 ゼロはそう呟くと、目的地--わざと情報を漏らしてゼロをここまで誘導したのだろうあの男がいる中央司令塔に向け足を進めていった。

 

 

 

 

 

 

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 ゼロとベルノート、二人の狩人が闇の中を静かに動いていたその頃、会議室から軍服姿の男達が荒々しい足取りで立ち去っていた。その後ろ姿を会議室に残った男--連邦軍中将でありこの特務隊『アルカディア』の司令アーセナルト・ベルセウスは詰まらないものを見るように見つめていた。中世のヨーロッパ貴族の衣装に似た軍服と黒い丸眼鏡のミスマッチがこの男を胡散臭くさせていた。

 遠くでバタンと乱暴にドアの閉まる音で彼らがいなくなったのを認めるとマクシミリアンは小さく呟く。

 

「うちが嫌われ者なのはいつものことですが、相変わらずですね……」

 

 後ろで待機していた部下--マクシミリアン・グラシアスに合図し会議室を出ると、外の通路で待機していた部下達が一斉に敬礼をする。それに返礼を返して通路をゆっくりと歩くアーセナルトにその直ぐ後ろについている副官--マクシミリアン・グラシアスがそっと耳打ちする。

 

「しかしどういたしましょう、司令?」

「どう、とは?」

 

 何が言いたいのか大体予想はつくが敢えてアーセナルトはすっとぼける様な表情で尋ねる。それにマクシミリアンは苛立ちを隠しきれない様な口振りで答える。

 

「あの様子では上層部の意志は固いということです。ましては我々外様の部隊です。切り捨てようと思えば切り捨てられます」

「ふぅむ、それは困りましたね。さてさてどうしましょうか?」

「何を悠長に言っているのですか! 早く手を打たなければ……」

 

 呑気そうなアーセナルトに思わずマクシミリアンは怒鳴り出すが、それをアーセナルトは人差し指を上げて制する。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、彼らには死んでいただきましょうか」

 

 

 

 

 

 

 アーセナルトから放たれたその提案に思わず普段から彼の奇行に振り回されているマクシミリアンも言葉を失う。

(しょ、正気なのか、この男……?)

 マクシミリアンの疑念は黒眼鏡から僅かに覗くその瞳--冗談でもハッタリでもなく本気で殺す気なのだろう、狂気に満ちた瞳を見て萎縮してしまう。同時にマクシミリアンはアーセナルトの副官

 

「? どうしたんです、マクシミリアン君?」

「そ、それは……」

「ほらぁ、東洋の諺で『赤信号、皆で渡れば怖くない』とかそういうのがあるでしょう? そんな感じですよ」

 

 不思議そうな表情のマクシミリアンに副官はどう反応を返せばいいのか口を濁す。エレベーターに乗り込み、二人だけとなった空間でマクシミリアンはアーセナルトから漂う危険な臭いに冷や汗を流す。

 

「ん~? いけませんね、それでは。世の中何があるのか分からないのですからもっとクールに、もしくは余裕を持たなくては」

「は、はあ……」

「そんなんだからこの間ゼロ君に一杯喰わされたんでしょう?」

「っ!」

 

 痛い所を突かれたのかマクシミリアンは苦虫を噛み潰した様な表情になる。アーセナルトとマクシミリアン、二人の間に不気味な静寂が訪れるが、それはエレベーターが司令室に到着しドアが開いたことであっさりと霧散する。

 

「まあ、取り敢えず打てるては一通り打ってますので心配しなくてもいいですよ」

「……はっ」

「それに僕の予想では今日ゼロ君がここに来ると思いますので汚名返上のチャンスですよ、マクシミリアン君」

 

 アーセナルトの驚く様な発言にマクシミリアンは思わず目を見開き、それはどういうことばのか、と聞き返そうと口を開きかけた。しかしアーセナルトが訪れたことに気づいた士官の一人が駆け寄ってきたことで

 

「し、司令!」

「どうしました? 何者かに侵入されたとか、ですか?」

「っ!? は、はい。現在司令の指示された通りの対応を行っていますが……」

 

 その会話の内容にマクシミリアンは俄に信じられない思いであった。目の前のこの男は今日この時間帯にあの男--ゼロ・エニッションが来ることを予測していたのか、マクシミリアンは目の前の男のデタラメさに改めて薄ら寒いものを感じてしまう。

 そんなマクシミリアンの心情に気づかないアーセナルトは大型モニターに映る基地の電子図を見つめ、何か思案に耽る様な素振りを見せる。

 

「う~ん? 何だか妙ですね……」

「みょ、妙とは……?」

「少し僕の知ってる彼の動きと違うのが混ざってる……どさくさに紛れてネズミが一匹紛れ込んだみたいですね」

 

 そう呟くアーセナルトの瞳には黒眼鏡で見えないが物騒な色--人殺しを楽しむ者が持つ薄暗い色が混じり始めていた。パンパン、と手を叩いて司令室にいる士官全員の注目を集めるとアーセナルトは声高々に言い放つ。

 

「さてさて、皆さん、お仕事の時間ですよ。就寝中の皆さんには全員起きてもらって警戒態勢に移行、侵入者の退治をお願いします。あ、そうそう、相手は多分ちょっとやそっとじゃ逆に返り討ちになるので発見したら他と連携して囲い込んでジワジワ殺っちゃって下さい。遠慮は要りませんよ」

 

 最後にでは、と締めくくって敬礼するアーセナルトに全員が了解、と返礼を返してそれぞれの仕事に専念する。間もなくして施設全体に警戒態勢を知らせる警報が鳴るのを認めたアーセナルトは傍にいた士官の一人に声をかける。

 

「あ、君、ちょっといいですか?」

「はっ! 何か?」

「嫌、何ちょっとお願いがありまして……」

 

 アーセナルトはそう言うとその士官の耳元に口を寄せて小声で何かを言い渡す。すると何を言われたのか、その士官は顔を真っ青にして恐ろしげにアーセナルトを見返す。

 

「ほ、本気でそんなこと--」

「ええ、本気ですので抜かりなくお願いしますよ」

 

 口調こそ丁寧であるが有無を言わせぬアーセナルトの瞳に士官は逆らえず、その場から急ぎ足で立ち去る。その姿はアーセナルトから逃げようとしている様に見えなくもない。一体何を命令したのか、聞くのが恐ろしいと感じる反面気になってしまうが、その前にマクシミリアン君、とアーセナルトに呼ばれハッとしたマクシミリアンは意識を思考の海から引き戻した。

 

「君は私に付いてきて下さい。大方彼の狙いは『鍵』でしょうから先に待っていましょうか」

「は? 『鍵』……ですか?」

 

 唐突に会話の中に現れた『鍵』という単語にマクシミリアンは戸惑う。そのマクシミリアンの様子にアーセナルトは何か含みのある笑みを浮かべながら司令室の隣に位置するアーセナルト個人の執務室のドアノブに手を掛ける。

 

「ああ、そう言えば君達は『鍵』については何も知ってないのでした」

「司令、その『鍵』とは一体……?」

「その名の通りですよ。宝箱を開ける為の『鍵』、そしてその中には--」

 

 続く筈のアーセナルトの言葉はしかし、ドアを開けた瞬間横から突き出された拳によって遮られた。そこには黒いボディスーツに身を包んだ女--ベルノートがいた。

 

「司令! 貴様--」

「はぁい、そこまで」

 

 マクシミリアンは銃を引き抜き、ベルノートに向けるが、ベルノートは軽やかな動きでマクシミリアンが引き金を引く前に銃を右手から引き剥がし、その勢いのまま強烈な回し蹴りをマクシミリアンの顎に叩きつけた。激痛にマクシミリアンが悶える中、ベルノートは仰向けにひっくり返ったアーセナルトに銃口を向ける。

 

「おやおや、ネズミが入り込んだと思ったらネコでしたか。ミルクでもあげましょうか?」

「黙ってなさい、二度と口がきけない様にするわよ」

 

 銃を向けられても尚変わらぬ表情で冗談を口にするアーセナルトの顎にベルノートは銃口をめり込ませる。流石にその状態では喋れないか、アーセナルトは大人しくする。そのまま強引にアーセナルトを立たせるベルノートの耳に複数の銃を構える音が入る。見ると痛みから復活したマクシミリアン他数名の士官が銃をベルノートに向けていた。それを見て咄嗟にアーセナルトを盾に、そして銃をアーセナルトのこめかみに突きつける。

 

「動くんじゃないわよ! こいつの頭が吹き飛ばされたくないなら大人しくしてなさい!」

「と言ってますけど、マクシミリアン君、どうにかなりません、これ?」

「くそっ……」

「あらら、打つ手無しですか。いつも『こんなこともあろうかと!』って言えるように奥の手とか用意しなさいって言ってるんですがねぇ」

「黙ってなさい、って言ったの忘れた?」

「すいませんすいません、謝りますからグリグリするの止めて下さい」

 

 ふざけてるのか、それとも只の馬鹿なのか形容しがたいアーセナルトにベルノートは内心苛つきながら後ろに下がっていく。そして窓の傍まで下がった所で後ろに銃口を向けると数発撃ち、窓ガラスを粉々に粉砕する。

 

「降りるわよ」

「えぇ? 命綱無しでそれは流石に--」

「四の五の五月蝿い!」

「って、ああぁぁぁっ!」

 

 この状況でも尚飄々とするアーセナルトを有無を言わさずベルノートはアーセナルトを抱えたまま窓から飛び降りる。

 

「し、司令! くそっ!! 何としても奴を捕らえるぞ! 巡回中の部隊は--」

 

 そこでマクシミリアンは執務室のデスクの上に無造作に転がっているものに漸く気がついた。円筒形のそれはその表面に化学兵器を示す独特のマークを見せつけていた。マクシミリアンは自分の表情が青ざめていくのが鏡を見ずとも実感していた。この状況でマクシミリアンが言うべきことは只一つである。

 

「そ、総員退避ぃっ!!!!」

 

 マクシミリアンの甲高い叫びと毒ガスが軽い音を立てながら嫌に白い煙を巻き出し始めたのはほぼ同時であった。士官達が我先にと執務室から慌てて飛び出し、最後にマクシミリアンが被害を留める為にドアを閉める。たちまち執務室の中は死の煙で充満し何人たりとも入れない魔の領域と化した。

 しかしそこに、先程ベルノートが破った窓から入る人影があった。ゼロだ。吸ったら最期、数十秒間に渡る苦しみを経て死に至る毒ガスの中、ゼロは平然と、そして悠然と歩く。致死量の毒ガスがゼロの肺を満たしていくが、ゼロにとってこの程度の毒は効果を持たないも同義である。部屋の中を見渡し、そこで何かに気づいたか、ゼロは壁に触れる。一見何も無い様に見える壁だが、ゼロは直ぐにそこに隠されたものの存在を知覚する。ベルトから振動ナイフを取り出すと壁に突き刺し、四角に壁紙の下のレンガ造りの壁を切り抜く。切り出したレンガを裏返すると、そこは中身がくり抜かれ中に目的のものが入っていた。

 

「……これか」

 

 チェーンに通されたスティック、一端にデータスティック、もう一端に凹凸のついた金属製の棒のそれが二つ、これこそゼロが追っていた『レゾリュート』への道を示す『鍵』であった。

 腰に巻いたベルトの収納ケースに『鍵』を仕舞い込みながらゼロは状況の急激な変化に訝しげな表情になる。

 

「どうやら俺以外にも狙っている奴がいる様だが、一体何者だ……?」

 

 ゼロは掛けていたゴーグルを外し首元まで下ろし、状況を確認するべく窓から外の状況を見渡した。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、こういう仕掛け(おもちゃ)があるんでしたら前もって言って下さいよぉ。流石の私もビックリしちゃいました」

「黙ってなさいって言ったのが分からないのかしら……?」

 

 衝撃吸収用の緊急バルーンによって落下の衝撃から守られたアーセナルトは相変わらずの表情でペラペラ喋るが、先にバルーンから降りたベルノートは無情にブーツの先端から飛び出たナイフをバルーンに突き刺す。一回きりの使い捨てのバルーンは一気に萎み、上に乗っていたアーセナルトはコンクリートの地面に背をしたたかに打った。ぎゃっ、と間の抜けたアーセナルトに意も関さずベルノートはアーセナルトの上に跨がると先程マクシミリアンから奪った銃をアーセナルトに向けた。

 

「そろそろ本題に入るわよ。『刻渡りの扉への鍵』はどこ?」

「はてさて、何のことやら--」

「惚けたって無駄よ。あんた達が」

「しかし君がそれを手にしてどうするおつもりで?」

「……あんたに話す必要でもある?」

 

 僅かだが言い淀むベルノートの様子にアーセナルトはどこか危険な感じを与える笑みを浮かべる。僅かに眉間に皺を寄せるベルノートにそれにしても、とアーセナルトは口にする。

 

「私は結構記憶力は良いのですが、君と以前どこかでお会いしませんでした?」

「……」

「その様子ではお会いしたことがある様子で。……所でこんなダラダラしちゃってていいんですか? もう皆さん準備出来てますけど」

「っ!!」

 

 その言葉にベルノートははっとする。同時に30近い武装した兵が雪崩れ込む様に現れる。

 ベルノートは再びアーセナルトの腕を後ろに廻しながら盾にし、距離を詰めてくるライフルを持つ兵士に対し後ろへ、後ろへと下がってくる。

 

「『鍵』はどこ? こっちは時間無いんだから吐かないと指一本ぐらい吹っ飛ばすわよ」

「おやおや、先程と比べると余裕が無いようですが?」

「いいから早く--」

 

 

 

 

 

 

「無駄だ。『鍵』なら俺の手の中だ」

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 その場の全員が咄嗟に声の源--屋上に設置された給水タンクの上に立つ男、ゼロの姿を追う。満ちた月を背景に、風にコートの裾をはためかすその姿はまるで御伽話《ファンタジー》の一風景にも見えるものであり、ベルノートは自身が置かれている状況も忘れ、ゼロに見入ってしまう。

 しかしそれを遮る、甲高い笑いがベルノートの傍から屋上一帯に響き渡る。アーセナルトだ。

 

「お久しぶりですねぇ、ゼロ君! 元気にしてましたかぁ?」

「……アーセナルト……」

 

 先程より調子の外れた声でアーセナルトはゼロに挨拶する。顔全体を歓喜で満たすアーセナルトにゼロは僅かに表情を険しいものにする。そこには確かな嫌悪感があった。

 

「いやぁ、今日来るんじゃないかと色々準備したんですけど、見事に全部かわされてしまいましたよ。相変わらず君はすごいですねぇ!」

「……」

 

 ゼロは何も応せず、淡々と、そして確実な動きで引き抜いた銃をアーセナルトに向ける。その銃口からは明確な殺意が伺える。

 

「貴様には三年前の借りがある。この場で返させてもらう」

「あらあら、随分とご立腹の様ですね。でもいいんですかぁ? そこのマクシミリアン君とか今にも君に仕返ししたがってますけど」

 

 その通り、突入した兵の中にはマクシミリアンがおり、ゼロに以前受けた屈辱を返さんと殺意に満ちた瞳と銃口をゼロに向けていた。それはマクシミリアンだけでなく兵の殆どが手に持つライフルをゼロに向け、引き金に掛ける指に力が籠もっていた。

 正に一触即発、何か一つでも動きがあれば一気に状況が変動するその緊迫感の中、ゼロはそこで初めてアーセナルトに銃を向ける女--ベルノートに瞳を向けた。先程からゼロに視線を向けていたベルノートは当然それに気づく。

 

 

 

 

 

 

 その時、ベルノートの頭の中で、『声』が聞こえた。

 それが何を意味するのか、何故その様なものが聞こえたのか、ベルノートには分からない。

 只気がついた時には、その声に従ってアーセナルトに向けていた銃を傍の隊員に向け、引き金を引いていたのだった。

 一秒にも満たない時間、その間に放たれた弾丸は傍の兵士のアーマーを、皮膚を、臓器を撃ち抜き、穿たれたそこから大量の血飛沫をまき散らせた。

 

「がはぁっ!!」

「なぁっ!? くそっ! このクソ女が--」

 

 最初の犠牲者となった兵士の横にいた兵士が怒りを露わに銃口を向ける。それに一瞬全員が気を取られ、その瞬間、ゼロが動き出す。

 給水タンクから飛び出したゼロが立て続けに連射し、たちまち数人を撃ち倒す。反応が遅れた兵士が慌てて照準を定めようとするがゼロの動きはそれを上回る。ベルトから取り出した小型手榴弾計八基をばらまき敵の連携を分断させる。そしてベルノートも盾にしていたアーセナルトを思い切り前に蹴り出し、慌てて受け止めようとする兵の顎に裳底を叩き込み、軽やかな動きでベルノートを狙う相手の銃撃を避けながら重い蹴り一発喰らわせる。

 たちまち屋上は混戦の様相を呈し、兵士達は次々とゼロとベルノートの餌食となっていく。

 

「何をしている! 囲い込んで逃がすな!」

 

 ふんどを露わにマクシミリアンは叫び上げるが、撃っても交わされ、まるで亡霊の様に実体が掴めずにいることに恐怖を抱き始める兵士達の耳にそんなものは全く入らない。辛うじて理性を保っている兵士にしても、身体能力で遥かに上回るゼロとベルノートに翻弄される始末である。

 次々と敵兵を倒すゼロだが、しかし次第に押し寄せてくる物量の数にそろそろ潮時だ、と判断する。いくら初期の攪乱と速度で敵を掻き回しても、圧倒的な物量には適わない。その前に次の手を、と考えた所でゼロは銃床で頬を殴りつけるベルノートと一瞬目が合う。

 

「「っ!!」」

 

 二人がそれに気づいた瞬間、同時に駆け抜けた。同時に、二人は互いに狙いつけほぼ同時に撃った。それをゼロは顔を横に、ベルノートは上半身を仰向けに倒しながら堅い床上を滑りながら避け、放たれた二人の弾丸は後ろから近づいてきた兵士にそれぞれ諸に直撃したのだった。

 

「わおっ♪ お見事」

「……」

 

 ゼロの股下をすり抜けゼロと背中合わせになったベルノートが軽く微笑むが、ゼロはそれに答えず何かを待つ様な素振りを見せる。その時ゼロのゴーグルから軽い電子音が定間隔で短く鳴り始めた。

 

「? 何よそれ?」

 

 ベルノートは怪訝そうにゼロの首元のゴーグルを見るが、ゼロは答えない。ベルノートを見つめ数瞬黙考する素振りを見せると、唐突にベルノートの細い手を掴んだ。

 

「え? ちょっと何--」

「付いて来い」

「え? って、あ、ちょっと!?」

 

 突然の出来事にベルノートが戸惑うが、それに意に関せずゼロは強引にベルノートを引くと屋上の端に向けてかけ始める。気づいた兵士がライフルやコンバットナイフを用いてきりかかるが、ゼロはその全てを避け、或いは逆に銃で叩き返した。

 

「ゼぇロくぅん? 逃げないで下さいよぉ!」

 

 これまで陰に隠れて指揮を執っていたアーセナルトが逃げ去るゼロに銃口を向けようとするが、その瞬間、巨大な爆発がアーセナルト達の後方で起きた。それも一つではない。十数はあるだろう爆発の光が工場施設内で満ち溢れ、盛大に燃え上がっていた。

 

「見た目より随分派手な性格してるわね、アンタ」

「……来たか」

 

 立て続けに起きた爆発の炎にベルノートは驚かずにはいられないが、ゼロの呟きと同じくして前方で起きた爆発にベルノートは視線を向けなおす。

 爆煙で覆われる一角、その中から低いプロペラ音を鳴らしながら黒いカラーリングのカブトガニに似た何かが現れた。

 否、それはカブトガニではない。小型の戦闘機だ。小型車二台分の大きさの胴部の後端から内部にプロペラ垂直乗降機構を内蔵した巨大な可変翼を生やした戦闘機がゼロのベルノートの目の前で滞空し、キャノピーを開いて二人の搭乗を待っていた。その機首には『YFX-M27 CORE FLYER』という刻印が彫られ、炎の中でその名をはっきりと示していた。

 ゼロは躊躇することなく飛び乗り、機体機首部に足をつけるとベルノートに向け手を差し伸ばしながら短いながら、鋭く叫ぶ。

 

「乗れ」

 

 その言葉にベルノートは一瞬どこか逡巡する様子を見せたが、他に選択肢が無いと判断したか迷わずに飛び出し、ゼロの胸元に飛び込みながら何とか足をつける。

 

「ふふっ、これがきっかけで二人の危険な恋が始まる、とか?」

「……後ろのシートに座れ」

「あら冷たい。ムードの分からない男は嫌われるわよ」

 

 からかうベルノートだが、それでも大人しく複座の操縦席の後部席に収まる。それを認めたゼロはふと炎の向こう側を見ようと振り返ったその瞬間、炎の中から飛び出してきたナイフがその切っ先をゼロに突き刺さんと襲いかかる。

 

「っ!」

 

 寸での所で鋼の腕を盾にナイフを弾くが、ゼロは咄嗟に炎の奥を睨めつける。『因子』の力によって常人より遥かに優れた視覚能力は炎の向こう側にいる男--アーセナルトを捉えた。爆発の影響で巻き上がる炎や崩れていく建物に巻き込まれ兵士が悲鳴を上げる中、アーセナルトは全く動じた様子も無く、ゼロがいる炎の向こう側をじっと見つめていた。見えていない筈のゼロをしかしアーセナルトはまるで爬虫類の様にキュッと細まったその瞳で捉えているかのように燃え盛る炎を見つめていた。

 

「……アーセナルト……」

 

 数秒の間ゼロはその薄ら寒い笑みを浮かべるアーセナルトを睨めつけ、そしてシートに座るとキャノピーを閉じ操縦桿を握る。キャノピーに遮られているものの徐々にプロペラの回転数が上がり、ゼロとベルノートを載せたコアフライヤーは一気に浮上した。気づいた兵士達がライフルを連射するがその時点で既に200mの高さにまで浮かび上がったコアフライヤーに当たる訳も無く、機体背部のスラスターの光を放ちながらコアフライヤーは工場施設から高速で飛び去っていった。

 徐々に炎も収まり、混乱から立ち直った工場内の隊員が消火活動を行う中、アーセナルトは既に米粒程の大きさになったコアフライヤーの機影を追っていた。

 

「やれやれ、戦闘機(あんなもの)持ち出してくるとは流石に想定外でしたね」

「司令!」

「あぁ、マクシミリアン君、無事でなりよりで、と言いたいですけど君、お風呂入った方がいいですよ」

 

 言われてみると成る程、爆発の粉塵にまみれてマクシミリアンは全身煤まみれ、軍服も所々焦げて酷い有り様である。それを言うならアーセナルトも同じなのだろうか、どう言う訳か全てを焼き尽くす爆発の炎もアーセナルトも不気味な雰囲気に恐れをなしてか汚れ一つ無い状態でいた。

 

 

「それよりも司令! 奴の追撃を早く! 許可を下されば直ぐに--」

「無理ですよ。さっきの爆発で多分航空機格納庫(ハンガー)もやられてると思いますし、出撃(だせ)ても撃ち落とすどころか逆に撃ち落とされるのがオチですよ?」

「何を悠長なことを言っていられるのですか、司令!」

 

 この非常事態にも関わらず緊迫感の欠片も感じられず呑気そうなアーセナルトにマクシミリアンも怒りを露わにする。ここまで基地を破壊された上に、今回ゼロの狙いである『鍵』なるものまで奪われたと言うのに何故この上官はこうも飄々としていられるのか、特に二度も屈辱的な目に合わされたマクシミリアンはアーセナルトの態度に怒りを爆発させてしまう。

 アーセナルトはまあまあ、とマクシミリアンを宥めながら屋内に戻るべく歩き出す。

 

「一応手は打ってありますので御安心を。流石にこのままやりたい放題という訳にはいけませんしねぇ」

「そういうことではありません! ここまで屈辱的な目にあってあなたは--」

「マクシミリアン君、少し黙ってなさい」

 

 瞬間、マクシミリアンの全身を強烈な悪寒、そして次元の異なる存在に威嚇された様な凄まじい恐怖が支配する。

 全身から冷や汗が際限なく汗腺から噴き出し、まるで毒の沼に浸かったかの様な錯覚に陥る。

 恐怖に縛りつけられた身体は思う様に動けず、徐々に新鮮な空気を求め痙攣し始める。

 震える身体を必死に動かし、恐ろしくもありながらアーセナルトを見つめる。先程と変わらぬ佇まいにアーセナルト、しかしマクシミリアンの目にはそれが獲物を喰らう直前の肉食獣のそれを連想してしまう。

(この男は一体何者なんだ……!?)

 呆然とマクシミリアンは以前から疑問に思っていたことが浮上する。アーセナルトの副官になってから三年、その間にマクシミリアンは幾度となくこの上官が持つ常人離れした能力の数々に度々恐怖を感じずにはいなかった。

 気がつけば片膝を床につけていたマクシミリアンを一瞥しながらアーセナルトは三日月形に口元を歪め、静かに言う。

 

「ふふふ……既に手は打ってあると言ったでしょう。君が心配することなんて一つもないですよ」

「し、司令……」

「マクシミリアン君、君には参謀本部に向かい、『アレ』の使用許可を総督に『お願い』して下さい。多少手荒い真似をしても構いませんよ」

「っ!? しかしそんなことをすれば上層部が--」

 

 マクシミリアンが異を唱えようとしたその時、アーセナルトの端末に通信を知らせる電子音が鳴り始める。失礼、と言いアーセナルトが耳元に当てる。何度かのやり取りを交えた後端末の電源を落とすと、マクシミリアンの方に向き直したアーセナルトが芝居がかった、わざとらしい程に悲しげな表情を見せる。

 

「なんということでしょう、マクシミリアン君。彼等、先程の爆発に巻き込まれてお亡くなりになった様ですよ」

 

 白々しい台詞だが、マクシミリアンはそれに先程の--司令室での士官とのやりとりを思い出す。

 そしてあの時の士官と同じく顔を真っ青にしたマクシミリアンが恐る恐る、伺う様にアーセナルトに尋ねる。

 

「っ!? 司令、先程の司令室でのあの命令は真逆--」

「ああ、なんて非道いことを! この仇は必ず我々の手で討たなければ!

 

 

 

 

 

 

ねえ? マクシミリアン君」

 

 そうマクシミリアンに言うアーセナルトの顔は、これが人の顔なのかと疑いたくなる程、歪に歪んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 工場から脱出してからどれほど経ったのだろうか、操縦に専念するゼロの背をベルノートは物思いに更けながら見つめていた。

 不思議な感じだ、ベルノートはそう思わずにはいられなかった。出会ってわずかしか経っていない、しかし気がつけば目の前の男--ゼロに対しベルノートはどこか安らぎの様なものを感じていた。それは彼女にとって--十数年もの間、人を決して信じず、常に周囲を警戒し、時に人を裏切り、生きてきた彼女にとって久しく忘れていたものであった。

 そんなことを想っていたベルノートに唐突にゼロが後ろを振り返りながら短く告げる。

 

「そろそろ降りるぞ」

 

 その言葉通り、ゼロが操縦するコアフライヤーはスラスター推進を停止、滞空するためのプロペラの回転数を落としながら徐々に高度を下げていく。暫くして軽い衝撃と共にデトロイトの工業地帯から離れた位置に属する高層ビル群の内の比較的低いビルの屋上に着陸した。

 

「じゃあね。楽しいデートだったわ」

「礼も無しか」

 

 キャノピーが開くのと同時にひらりと軽やかな動きで降りたベルノートが立ち去ろうとするが、それをゼロが押し留める。

 

「何よ? 女性に優しくが紳士ってものでしょ?」

「何故『鍵』を狙っているのか答えろ」

「言う必要あるの?」

「俺には重要だ」

 

 ベルノートは暫し不満げな表情でゼロを睨めつけるが、一歩も引く様子の見られないゼロの態度に折れ、手をひらひらさせながら。

 

「別に大した話じゃないわよ。『時代を自由に行き来出来る鍵』なんてオカルトめいたもんに軍の特殊部隊が血眼になってるんて聞いたら多少は本気(マジ)になるもんでしょ?」

「……それを手にして、何を望む?」

「そうね……誰も私を知らない世界、かしら……」

 

 その一瞬、ベルノートの表情にどこか悲しげなものが混ざったのにゼロは気づいた。しかしそれも直ぐに消え、再びベルノートの口元には先程と同じ魅惑的な笑みが戻っていた。

 

「とりあえず今日はありがとね。これはそのお礼」

「何を--」

 

 ゼロの言葉の先は、ベルノートの柔らかい唇に重ねられ遮られてしまう。突然のキスにゼロは面食らった顔でベルノートを見つめる。瞳を閉じ、口づけをするベルノートの表情には何も伺えなかったが、触れ合う唇の感触、そして細身ながら起伏の激しい肢体から伝わる温もりにゼロは思わず。

 数分はしていたのかと思えるキスの時間は、しかし実際は一秒にも満たなかった。そっと自身の唇をゼロの唇から離したベルノートは華やかさと艶やかさの混ざり合った笑みをゼロに向ける。

 

「それじゃあ、また機会が会いましょうね」

 

 それを最後にベルノートは軽く駆け出すと猫の様にしなやかな動き瞬く間にビルとビルの間を飛び移り、その身を眩ませていった。

 その様子をゼロは目で追うだけであった。聞きたいことはまだあるが、キス(あんなこと)をされた後に追いかける程彼も無粋な性格は持ってはいない。

 コアフライヤーの機体に背を預け、ゼロはベルトから手に入れた『鍵』を確認しようとケースを開き--そこで二つの内の一つが無くなっていることに気づく。ケースから残った片方の『鍵』を取り出してみれば、チェーンに通された『鍵』は取り外され、代わりに端に穴の空いた一枚のカードが通されていた。恐らく先程のキスの時にスリとったのだろう。

 

「俺を出し抜くとは大した女だよ……」

 

 そう言いながらもどこか楽しむ様な素振りを見せるゼロはカードを見つめながらベルノートの柔らかい唇の感触の残る自身の唇をそっとなぞるのだった。

 




どうも。パクロスです。最近寝つきが悪くて30分に一度起きるレベルのパクロスです。

今回は久しぶりのEXTRA回、シンキャラ(シンが主人公の作品のせいでワードでしんって打つと最初にこれに変換されてまう……)も二名程登場で多分本編の方でも出張りそうな予感ですよ、はい。

とりあえず内容は読んだ通りでキャラ説明です。

・ベルノート・フェニキス
オリキャラ……と言いたいところですけど、実は彼女、あるISキャラと密接な関係にあるんですよ。一体誰でしょう? ムフフ……(←気持ちが悪いわ)結構分かりやすいヒントがありますけどねぇ。
キャラのモチーフはあれです、キャットウーマン。バットマンに出てくるヴィラン(適役)の一人で『ダークナイト・ライジング』にも出たんで結構認知度はそこそこあると思います。他にはジャンプの『暗殺教室』に出てくるビッチ先生とか、ですかねぇ。

・アーセナルト・ベルセウス
モチーフはあれです。スパロボOGのアーチボルト。最近あんな感じの外道キャラが結構はまってましてね、私的には書いてて楽しいです。
今後の彼らの活躍をお楽しみにしていてください。

さてさて、次回は前に予告した通り設定集回となります。新装版のISでISの設定がすごいことになっているので正直ありがたい限りですわ。次の投稿はそんなに時間はかからないのでお楽しみに。では。
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