……ここは……俺は一体……
シン・アスカは沈んでいた意識があがってきたのを感じた。段々と意識が覚醒するのを感じながら、シンはふと自分が今どこにいるのかと思い、辺りを見回した。
そこは不思議な空間だ。周りは白く光り輝き、所々に様々な靄がかかっているというような空間。上下左右の感覚は無く、どこにもコロニーや地球、月等、見慣れたものがどこにもなかった。
そんな不可思議な空間にいるのに、不思議とシンは焦らなかっった。混乱もしていない。むしろ今までのどの時よりも落ち着いている。そして不思議なことに……安らぎすら感じる。まるで、ここが本来自分のいる場所だったような……
――目が覚めたか……――
声が聞こえた。あの異形からの声では無い。
あの時、デスティニーを動かそうとした時に聞いた声だった。
「なあ……ここは一体……」
先程から考えていた疑問をその声に問いかける。突然あの声が聞こえたのに、相も変わらずシンは落ち着きの中にいた。
――さあな……ここは多くの世界を包括する場所……とでも言うべきか……――
ソレの答えは歯切れの悪いものだった。もしかしたらソレにもこの空間のことが分からないのかもしれない。或いは分かってはいるのだが、言葉にするのが難しいのかもしれない。
――まあ、別に気にしなくてもいいか。そろそろお前も流れ着く様だしな
ソレの言葉にシンは再び疑問を抱く。
流れ着く……?
「ちょっと待ってくれ。流れ着くって何の話なんだ? それに一体どこに?」
しかし返ってきた答えは……
――あ? どこだかなんて知らねえよ――
と言ったものである。シンは余りにバッサリした答えに脱力しかけた。
「知らないって、おい……」
――……しゃあねえだろう。知らねえモンは知らねえんだから――
何かを知っている様な素振りを見せておいてそれはないのではないかとシンはそう思わずをえない。
――ま、ここに来たのは、お前に会うためだしな――
その中、またその声は意味深な言葉をシンの脳内に届かせる。
会うために?何の為に?
そのことについてシンは再度聞こうとしたが、突如シンの体は光に包まれだした同時にシンの意識は再び遠ざかり始める。
――ちっ。もう行っちまうか……おい! シン・アスカ! よく聞け!!――
ソレが舌打ちをし、まるでこの果ての無い様に思えるこの空間の隅々にまで届かんばかりの大声で叫んだ。
――戦え!! 誰かに強いられてでもない、自らの意志で! 運命でも、正義でも、自由でもない! 己の意志で戦え!!――
そうソレが言う頃にはシンの意識は底辺へ沈もうとしていた。その中、かろうじて返すことができた言葉は酷く儚い声だった。
「……まだ……戦うのか……俺には……もう……守るものも無いのに……」
そしてシンの意識が途切れ、完全に光に包まれる。やがて光が消えるとその空間にシンはいなくなった。
ここは日本某所にある国立IS操縦者育成機関、IS学園。この世界では最強と言われるパワードスーツ、IS<インフィニット・ストラトス>のパイロットを育成、教育するために建てられた学園である。
その学園の職員室で、二人の女性がー今は休憩時間なのだろうかー茶を一服しながら雑談をしていた。
一人は黒いスーツに身を包んだ女性で、美人と言えるが、その凛とした表情や身のこなし、身に纏う気迫など、多くの人間は彼女のことを『武人』だと言うだろう。彼女の名前は織斑千冬、IS業界ではその名を知らない人間などいないと言わしめる女性だ。
もう一人の方は千冬と比べるとほんわかしたような女性である。スーツ姿の千冬と違い、こちらは黄色いワンピースを着込み、緑のショートカットに眼鏡が印象的である。こちらの女性は山田真耶という。
二人共、このIS学園で教師を勤めている人間である。
彼女達の話題は、最近世界を賑わせた大きなニュースへ移っていた。
「しかし驚きですよね。まさか織斑先生の弟さんがISを動かしたなんて」
「全くだ。あいつめ。次から次へと問題を起こしおって……」
「それにして何で動いたんでしょうね? 織斑先生の弟だからでしょうか?」
真耶は世界に名だたるIS操縦者である織斑千冬の弟だからという仮説を建ててみるが、千冬によってバッサリ切られる。
「馬鹿をいうな。それなら他に何人かいてもおかしくないだろう」
「うっ……。ですよね~」
そんな何気ない会話。このまま続く退屈でありながらも満足した日々の日常。
しかしそれは突如起きた轟音と、激しい揺れによって遮られた。
「キャァァァァァァァ!!!!」
「な、何!?」
「地震!?」
真耶及び職員室にいる数名の教師の聞こえる。その中千冬は揺れに耐えながら、状況を把握しようとした。
(地震だと? これは何かが落下したときのものだ!)
少し時間が経ち、揺れの衝撃から回復した他の教師をよそに千冬は直ぐに側にあった学園内の通信端末に手を伸ばし、管制に繋げた。
「こちら織斑。管制、一体何があった?」
『お、織斑先生! わ、分かりません! 突如学園上空に熱源反応が発生したと思ったら猛スピードで墜落して…………』
途中で千冬はそのやり取りが他の教師にも聞こえる様、端末をスピーカーモードにして聞いていた。
「何が落ちたか分からないのか?」
『グラウンドに落ちたようですが落下時に生じた粉塵で……! こ、これは……』
管制にいる担当の教師が何かを見たようだが、その声は驚きに満ちていた。
「? 一体どうした? 何が見えた?」
何か違和感を感じた千冬はその教師に問い詰めだした。
『えと、それは……。今そちらに映像を送ります』
そう慌てて言い、管制から職員室にある大型モニター――主に職員会議等で使用されている――にリアルタイムの映像が流れる。そこには……
「こ、これは……」
「なん、だと……」
映像を見た真耶や他の教師達は驚きの声を上げた。そこには滅多なことでは驚かない千冬も含まれる。彼女達を驚かせている映像には
鉄灰色の装甲
朽ち果てた四肢
輝きを失った瞳を持つ頭部
背に背負う半ばで砕けながらも巨大さを誇る翼
全長18mに及ぶ巨大なロボットが横たわっていた。
ここは……俺は生きているのか……?
急に浮上した意識の中、シンはふとそんなことを考えていた。まぶたが開けるのさえ辛いほど重く感じる。そんなまぶたの状態を無視し、シンは勢いよく目を開ける。開いた目に最初に飛び込んだのは、真っ白な天井だった。ほかの景色を見ようと首を動かす。
「っ!? ぐぅ!?」
しかし動かした瞬間、凄まじい痛みが全身を走り、シンは思わず呻き声を上げる。丁度その時シンのいる部屋に人が入ってきた。
「あ! ちょ、ちょっと大丈夫ですか!?」
入ってきた女性はシンの呻き声を聞いたらしく、すぐに駆け寄ると手首の脈を測ったり、側にある機器をいじったりしていた。
そこでほとんど覚醒しきったシンは今の自分の状態を確認する。
大分酷い状態の様だ。腕には包帯が巻かれており、今は入院着を着ているがその隙間からも包帯が見えてる辺り、胴体も腕とそう変わらないなと思った。頭はどうか知らないが、頭の感触からしてそちらにも巻かれているようだ。
そこで機器――多分医療関連だろう――から女性は目を離し、ほっとした様な表情でシンに話した。
「良かった~。ここに運ばれたときは死ぬんじゃないかと思いましたけど、無事で良かったです。あと二週間もすれば退院なので安心して下さいね!」
完全に聞き手に回ってたシンはここはどこなのかと聞こうとしたが、起きたばかりかかすれたような声しか出ない。
「今織斑先生を呼びますね。少し待って下さい」
そんなシンの様子に気づかなかったか、女性は一方的に話を切ると、その『織斑先生』を呼びに行ったか部屋を出てしまった。
「…………」
再び一人だけになった部屋でシンはとりあえず現状を整理、把握しようとした。
今いるこの場所は病院だろうか。とすれば先の女性は看護師か何かで、女性が呼びに行った『織斑先生』は自分の担当医師なのだろう。ということは............
「死に損ねたか……」
「やれやれ。そう言われては治療した甲斐も無いな」
「っ!」
思わず呟いたその言葉に横から割り込まれる若い女性の声。シンは思わず声のした方に顔を向けると、入り口に黒いスーツ姿の女性が立っていた。
「誰だ!」
「人の名前を聞く前に自分の名前を言ったらどうだ?」
「……シン・アスカ」
有無を言わせぬその言動にムッとしながらも、今の状態では反論できようがないと思ったかシンはとりあえず名前を言った。しかし体はいつでも動けるように準備する。今の体でどこまで抵抗できるかは分からないが、警戒心を緩めようとはしない。
「そうか。私は織斑千冬。このIS学園で教師をしている」
その女性――織斑千冬の言うことから、ここは学園であるようだ。しかしISなど自分の知識にそんな存在しなかった。
(何かの略称か?)
シンはそう考えISについて聞こうとしたが、その前に千冬の方から話を切り出してきた。
「さて、まずアスカ。お前は一体何者だ。何故この学園に来た」
「……え?」
「所属はどこだ。何らかの意図があって来たのなら目的を言え」
「お、おい! ちょ、ちょっと……」
突然矢継ぎ早に出された質問に思わず慌てるシン。しかし次に千冬が発した言葉に思わず耳を疑ってしまった。
「あの人型のロボットは何だ? あれは一体誰が作ったんだ?」
(MSを知らない!? どういうことだ!?)
MSはC.E.を代表する兵器だ。人型のボディに四肢を用いた宇宙空間でのAMBAC機動、マニピュレーターによって多くの武装が使用が可能な汎用性など、宇宙戦闘機を超えるスペックから現在では戦争における主力兵器となっている。またその汎用性の高さから、土木作業にも使われており、その認知度は民間にまで及んでいる。そのMSを知らないなんて……
「それと突然上空に反応が現れたが、一体どんなステルス装備を「ちょっと待ってくれ!」? 何だ?」
「いきなりそんなに言われても分かるか! 第一俺にも何が何だか……ここはコロニーか!? 戦争はどうなった!? 月は!? レクイエムは!?」
余りに一方的な質問続きでシンもイライラしてきたか、積を切ったかのようにこちらの疑問をぶちまけた。しかし返ってきた答えと言えば……
「待て。コロニー? 月? レクイエム? 一体何の話だ? それに戦争だと? 戦争なんてここ数年起きてなどいないぞ」
……どうやら両者の間には相当な食い違いがあるようだ……
その後いくつか言葉を交わす内にいくつかのことが分かった。
まず年号が違っていた。シンは今の年号はC.E.73だと言い張るが、千冬は今は西暦2015年だとそれを否定した。それにシンは再び慌ててしまった。シンからすれば西暦の年号などC.E.より前の年号で未だにその年号を使う者などシンは見たことが無い。そしてそれぞれの現在に至るまでの歴史も大きく異なっている。シンのC.E.では人類は既に宇宙進出を果たし、宇宙に居住空間であるコロニーを建設、おまけにその宇宙で戦争までしているものである。
一方の千冬は、こちらでは宇宙はある程度進んでいるもののある出来事が原因でそれもここ十年は停滞気味であり、今でも組み立て中の宇宙ステーションや人工衛星を打ち上げてるレベルだという。
余りに違う認識、そしてシンの持つ携帯端末などの技術体系の違いにデスティニーという名のMS、それらの要因から上げられる結論は…………
「まさか異世界だとか……どこの三文小説だよ……」
ここが異世界だと言う事実を叩きつけられたシンはあまりに現実から離れたそれに思わず頭を抱えてしまう。
「全くだ。私も信じたくはないがMSの存在はこの目で見た以上否定はできん。おまけにあんなことまで起きてしまってはな……」
「あんなこと?」
「いや、気にするな」
千冬の方もこのことに頭を悩ませてるが、こちらは受け入れが早いようだ。最もその後に言った『あんなこと』が少し気になったが、千冬は話をそらす。シンは訝しげに千冬を見るが、千冬はそれよりも、と話を切り替える。
「お前が異世界人というのは理解したがこれからどうする? 元の世界に戻るか? そんな技術、どこにも無いが一応探してみるか?」
「……いや、いい。元の世界に戻る気は無い」
「……いいのか?」
「良いも悪いも、もう向こうの世界に居場所なんてどこにも無いし、元々俺は死んだ身だ。死人は蘇るべきじゃないさ」
それは今のシンの正直な気持ちだ。デスティニープランのために多くの命を奪った。今更どの面下げて戻ればいいのだか。それにレクイエムに突っ込んだ自分は恐らくMIA――戦闘中行方不明に認定されてることだろう。あの状況から無事に向こうに戻りにでもしたらそれこそホラーものである。
「……そうか」
千冬もシンの表情から何かを感じたか、それ以上何も言わなかった。
「ところでこの世界って一体どんな世界なんだ? それにさっきから気になってたんだけど、ISって何のことなんだ?」
少し暗くなった部屋の雰囲気を変えようと、さっきから気になっていたので疑問をシンは口にする。
「む、そうだな。ISのことについて少し説明する必要があるな」
そう話を切り出し千冬はISについて説明を始めた。
IS――正式名称インフィニット・ストラトス。これ今より十年前に篠ノ之束によって発表された宇宙空間での活動を想定したマルチフォーム・スーツのことである。宇宙空間での活動を想定というが、様々な要因により兵器、そして現在ではスポーツ用飛行パワードスーツへとその姿を変えた。
その兵器としてのスペックはこの世界の頂点に存在しており、ISの前に既存の戦闘機や戦車などの兵器は鉄クズで等しいという。
そのような高いスペックを持つISであるが、ただ一つーしかしそれがこの世界を形成しているー欠点がある。それは……
ISは女性にしか使えない
この事実は必然的により多くのIS操縦者を揃えようという各国家群の動きに繋がり世界は女性優遇社会になり、『女尊男卑』の社会を作り出すに至ったという。最も多くの女性は男の社会的地位を認めており、それ程酷いものではないとか。
「ということだ。分かったか?」
説明を終えた千冬はシンを見てみる。
「……マジかよ。それってホントにパワードスーツなのか?」
今までの説明を聞いてシンがまず思ったことがそれだ。明らかにスペックがMSと変わらないだろう。パワードスーツ自体C.E.の世界にも存在するが、それにしてもMSの登場後はメビウスなどの宇宙戦闘機同様旧世代の遺物と化しているものだ。
しかしこのISというパワードスーツはC.E.のパワードスーツは愚か、MSに匹敵するのではないかと思える。
PIC――パッシブ・イナーシャル・キャンセラーによる空中での浮遊・加速機能、シールドバリヤーと絶対防御による強固な守り、さらには高感度センサーのハイパーセンサーなどMSには無い機能が大量に詰め込まれている。さらに恐ろしいのはそれだけの機能を3m程の大きさの中に集約しているところだろう。スペックだけならザフトの量産型MS『ジン』を上回るのではないかと思えてきた。
「私からすればMSの方が不思議に思えるがな」
千冬はそう言ってこの話をまとめた。そしてシンは次に気になっていたことを口にした。
「なあ俺のデスティニーはどうなったんだ?」
千冬の話を聞く限りではデスティニーもこの世界にあるようだ。いくら元の世界に戻る気は無いとは言えデスティニーだけが唯一C.E.を結びつけるものだ。何か思うところがあるのだろう。しかしその話題に触れると千冬は若干苦虫を潰したような表情になった。
「あー、お前のMSのデスティニーとか言うのだが……少し面倒なことになっていてな」
「面倒なこと? 一体何のことだよ?」
「むう......口で説明するのは難しいな。とりあえず今は体の治療に専念しろ」
千冬はシンの体中に巻かれた包帯を見ながら、おもむろに立ち上がった。
「え? お、おい!? どういうことなのか説明しろよ!!」
余りに少ない千冬の答えに一瞬憤慨しかけるシン。しかし理不尽なことに千冬はそれを無視し部屋を出ようとする。
「お、おい!? 待てよ!」
「お前は少し落ち着け。まず体の回復だ。それが終わったら見せてやる」
千冬はそう言うと今度こそ部屋を出てしまった。
「……」
腹立たしいことこの上ないことだったか、余りに多くのこと聞いたためか、シンは再び眠気の中に巻き込まれていく。完全に眠りにつく前にシンはこれからの自分について考えた。
自分が知ってる人間など誰もいない世界。
誰も自分を知らない世界。
右も左も分からぬこの世界で俺は……
「……俺は……これからどうして生きればいいんだろう……何のために生きていけばいいんだろう……」
その答えを出すまえにシンの意識は完全に底に沈んでいくのであった。
どうも。パクロスです。「セラフィムガンダムってグレンラガンのガンメンだよなー」って友達が言って大爆笑したパクロスです。
言われてみるとホントガンメンですよね、セラフィム。放送した時期的にもドンピシャですしアレ。まさかセラフィムの真相は.......なんてこと、ないですよね?
今回はIS世界にやってきたシンと千冬のお話です。一夏達が絡んでくるのはもう少しです。シンのISですが、以前読んでた人なら分かりますけどデスティニーです。やっぱシンといえばデスティニーだな、ってのは私の持論です。ハイネ専用? なにそれ?
で、デスティニーですが、単純にISになるのはつまらないので、オリジナル設定を加えたひねりを入れてISデスティニーにします。その辺の描写、そして戦闘シーンは次回に。戦闘シーンを書くのはホントに大変。いや全く。
ってな訳で短いですけど(何? 作者の後書きなんていいからさっさと書け? おっしゃる通りでサーセン)次回は明日辺りに投稿します。ではまた次回。