でもあることに気づきましたよ……
一夏とヒロインズが横に並ぶ挿し絵があるんですけど……
奥から
一夏
箒
セシリア
シャル
鈴
ラウラ
…………
ぜってぇ乳のデカさ順に並べたろCHOCO先生!?
はいー、下世話な前書きはここまでにして本編始めますよー
PHASE-15:過去の記憶、置き去りにしたモノ
ヨーロッパ北西に位置する立憲君主制国家イギリス。国土は小さけれどヨーロッパの主要国家の一つであるこの島国の首都ロンドン、そこから数km離れた郊外にオルコット財閥傘下IS企業『ウイングナイツ』の研究所はあった。
横に広い研究施設と併設されているドーム状のアリーナ、他にも幾つもの施設が建てられているその研究所内は今、謎の勢力による襲撃の真っ只中にあった。
あちこちで火の手が上がり、時折断発的に爆発が起きる。逃げ惑う研究員と彼らの命を刈り取る不気味な形状のヘルメットと戦闘服に身を包んだ襲撃者、そしてそれらを押し止めるべくライフルの応射を繰り返すイギリス軍の兵士の怒号と悲鳴がそこを支配する。
その中、研究所の中央に位置する第一研究所の壁面が内部からの爆発によって吹き飛ぶ。開いた穴から燃え盛る炎が轟々と吹き荒れる中、ほぼ同時にそこから二つの影が飛び出した。二つの影はその勢いを落とさぬまま、研究所に隣接するIS試験飛行のグラウンドをそれぞれが脚部裏のフックを立てて脚を着け、硬い床面をそれで削りながら勢いを落としていく。
「ちぃっ! やってくれるじゃねえかっ!!」
影の一つーーIS『和泉守兼定』の操縦者オータムは苛立った口調で、バイザーに隠された瞳を歪ませながら相対する相手ーーIS『則宗』の操縦者の西條葵に向ける。
「こんな所で待ち伏せなんて真似するたぁ……何者だ!!」
「相手の名前を聞きたいのならまずは自分から名乗るのが礼儀だろう。それと君には聞くべきことがある。素直に答えてくれると有り難いのだが……」
「はっ! 言う訳ねえだろ! 聞きたきゃ力尽くでやって、みやがれぇっ!!」
「結局はそうなる訳、かっ!!」
言葉を切ると葵とオータムはほぼ同じタイミングでグラウンドを蹴り、互いの得物で切り結んだ。甲高い接触音が響くが、その時点で両者既に二撃目を繰り出していた。
「おらおらおらぁぁぁぁっ!!!!」
「ふっ!!」
ビームフィールドを纏った拳がオータムから突き出される。
葵はそれを上体を反らす、身体を前に倒す、膝を曲げる等、最小の動きで全て避ける。思わず舌打ちするオータムは蹴りも加えたより複雑な動きで葵を翻弄しようとするが、それをも葵は避け切り、逆にカウンターの要領で剣先の突きを繰り出す。
一糸たりとも乱れぬその姿、しかしその心の内は驚愕に満ちていた。
(寸分違わぬ急所狙い……! 余程人体の構造に精通、実戦での経験が無ければこうも逝くまい……!)
そう思いながら、葵は出来上がった隙を逃さず、続けて近接ブレードを振り下ろす。
狙うは装甲に覆われず絶対防御の発動する生身の部分だが、オータムもまた分厚い手甲でそれを弾く。
相変わらず獣の様なほうこうで威嚇するが、内心では葵の正確な
(迷いの無い剣戟……! 少しでも反応が遅れたら腕を落とされてた……!)
僅か数合の攻防、しかしそれだけで葵もオータムも理解する。
((こいつはーー))
互いの周囲で空気が僅かに揺らぐ。瞬間、二人は自分達でも驚く程近くまで肉迫していた。
((相当な手練れっ!))
瞬間、葵の視界を光ーー胸部装甲内蔵荷電粒子咆の光が埋め尽くそうとする。それに気づいた葵の判断は早かった。
「っ!! 切り裂け!!」
「ちぃっ!?」
オータムが驚くも遅し、葵が新たに展開したビームサーベルは発射寸前の荷電粒子咆を潰し、二人の間に爆発の衝撃を引き起こした。
「カカカ……随分遣り手の様だな。が、あたしも中々だろう?」
「ああ、確かにな」
オータムの言葉に同意しながら葵は自身の左腕ーー則宗のマニピュレーターの砕かれた左腕をしげしげと見つめる。
「もっと……もっとだ! もっとあたしを楽しませろ!! もっとあたしを昂らせろ!!! もっとあたしをーー」
オータムの言葉はしかし、上空から割り込んできたレーザーの一射によって中断される。否、一射だけではない。視界を覆い尽くさんよばかりのレーザーの嵐が葵に向け降り注いできた。
「っ!! これは……」
葵は即座に回避行動を取り、高エネルギーレーザーを凌ぐ。上空を見上げれば、月に照らされた蒼い機影が葵にレーザーライフルを向けていた。
「サイレント・ゼフィルス……奪取されたのか……?」
ISGB-03XBT02『サイレント・ゼフィルス』、イギリスのBT兵器搭載第三世代ISの二号機であり、今回の襲撃の主たる理由である機体であった。
恐らくオータムはこちらの注意を引く為の囮であり、本命は今サイレント・ゼフィルスに乗る少女なのだろう。身動きの取れぬ正確な弾幕に葵歯痒い思いに駆られながら、葵はオータムの元までするすると降下するサイレント・ゼフィルスに手を出せずにいた。
「おいM!! サシでやってる所邪魔すんじゃねえ!!」
「目的は果たした。オータム、帰還するぞ」
「ああぁっ!? てめっ!! こっちはまだ暴れ足りてねえぞごらぁっ!!」
「貴様の下賤な趣味に付き合う気などない。やるなら私が今この場で貴様を刻んでやろう、『劣等種』め……」
「はっ……言ってくれるじゃねえか、『人形』が……」
オータムのその言葉にMと呼ばれた少女は微かに口元をひくつかせるも、撤退すると事短く告げるとそのままスラスターの光を灯し飛翔する。オータムは苦い表情をするも長居するのは危険だと判断したのか、ビームフィールドを消すと葵をじっと睨めつけながら言い放つ。
「おい、鎧女! あたしの名前はオータム! しっかりと頭の刻んどきな!」
そのままオータムはMに続いてスラスターを全開にしサイレント・ゼフィルスの跡を追う。
「逃がすかっ!」
当然ながら黙って見逃す葵ではなく、展開したアサルトカノン『ガルム』を向けようとするが、その瞬間横から鋭角に折れ曲がりながら空を走るレーザーに銃身を撃ち貫かれる。
「っ!? 偏光制御射撃!?」
BT兵器の高起動時に発動するレーザー屈折多方面射撃技術『偏光制御射撃』、しかしそれを扱う為には高いBT適正値とが必要である。間違っても奪ったばかりの状態で扱える筈が無い。
しかし目の前の現実は紛れもないものであり、また葵自身上下左右あらゆる方向から放たれるレーザーを避けるのに疑う余裕は無かった。
十数秒程して漸くレーザーの連撃が収まるが、その時点で既にサイレント・ゼフィルスと和泉守兼定の機影は米粒程の大きさとなってしまっている。ここまで離れてしまった以上追撃は無理だと判断葵は今回同伴させた部下の黒崎悠哉に通信を繋げる。
「悠哉、聞こえるか? 私だ」
『少佐! ご無事でしたか!』
「ああ。連中には逃げられてしまったがな……そっちはどうだ? ネズミが数匹入り込んでいたが……」
『ああ、こっちの方も大丈夫です。所員の方も幸い数人軽傷者が出た程度ですし、少佐が相手してたのとは別に忍び込んだネズミも取り押さえました』
最も今はかなり騒がしいですが、と言う通信機越しの悠哉の報告は確かに騒音と混乱した所員の悲鳴でかなり聞きづらくなっている。直ぐそちらに戻る、と言い通信を切った葵は最後にオータムとMの飛び去った方角の空を見つめる。
「オータムと言ったか……あの戦い方、どこかで見覚えが……それにあのゼフィルスの操縦者……似ているな……」
誰かに尋ねる訳でもないその呟きは未だ消えぬ研究所各所の炎の音にかき消される。やがて葵はその答えを求めるのを中断し、研究所に戻るべくその場を後にするのだった。
~~~~~~~~~
第三章:運命との決別、意志の鳴動
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俺と千冬姉の前から両親がいなくなって、もう何年になるんだろう。顔には出さないけど千冬姉はずっと俺の想ってくれた。まだ親離れ出来ていなかった俺に母親の様に接してくれた。ISの操縦者になったのも、日本代表になったのも、
でも、時々思ってしまう。もし、父さんと母さんが俺達の前からいなくならなかったら、こんあ風に生きなくても良かったんじゃないか。俺達に親がいてくれたら、千冬姉もISなんか知らない、ごく普通の、当たり前の人生を送れたんじゃないかって。
それを思うと、胸が苦しくなる。悲しみが際限なく溢れてくる。
そして、俺達の人生をメチャクチャにした親が、世界が、狂ってしまうそうな程に、憎くなる。
俺の中で溢れてくるその感情を千冬姉に言ったことも、見せたこともない。そんなこと千冬姉が知ったら、きっと悲しい顔をするだろう。そんな千冬姉を俺は見たくない。だから俺は悲しみと憎しみの混ざったその感情を心の奥にしまい、千冬姉が心配しない様に笑っていた。家事も元々得意じゃない上IS関連で忙しい千冬姉の代わりに俺がやる様になったし、千冬姉に心配かけ過ぎない様に、身体も鍛えた。喧嘩があっても負けない様強くなった。
全て千冬姉ーーたった二人の『家族』の為に。千冬姉が俺ーー唯一の『家族』にしてくれた様に、俺もまた千冬姉の為に生きてきた。
そうやって俺達姉弟は生きてきた。
そうやって、俺達『家族』は生きてきた。
でも何だろう……
時間が経つ程広がっていく
何かが抜け落ちていくこの感覚は……
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「ん……」
カーテンの隙間から射し込む朝日が瞼に覆われた目を刺激し、眠りの中にいた一夏を覚まさせる。
「夢、か……」
どういう夢なのかはぼんやりとしか覚えていないが、不思議な夢だった、と一夏は微睡みから覚めたばかりの頭の片隅で感想を述べる。
時計に目を向け時刻を確認する。7:00、まだ授業が始まるまで時間は有り余っているが、早寝早起きを心掛けている一夏からすれば相当な遅起きである。
取り敢えず早いところ今日の準備を整えよう、そう思い一夏が体を起き上がらせようとした時だった。
「ん……」
「? なんだ……!?!?!?」
胸元辺りから突然聞こえた艶のある声に一夏は顔を下に向けーーそこで一気に意識が覚醒した。
「しゃ、シャル……!?」
一夏が視線を向けた先、そこにシャルロットが無防備な寝顔を晒していた。遅れてその細い腕が一夏の背中に廻され抱きついているような状態になっていることに気づく。同じベッドの上で一夏の胸元に顔を埋めて抱きついているこの状況、恐らく夜中に一度起きて寝ぼけて移ったのだろうが、今の一夏にそこまで考える余裕は無かった。
「ん……一夏ぁ……」
寝言なのだろうか、シャルロットが一夏の名前を呟きながら幸せそうな笑みを浮かべる。そのあどけない姿と布越しにも伝わる少女の体温と肌の柔らかさ、そしてほんのりと漂う甘い香りに一夏は既に赤くなっている頬が更に赤くなってしまう。
(ちょ、ちょっと待ってくれ! これじゃまるで恋人同士が寝てたみたい……って何考えてるんだ俺はぁぁぁ!?)
一瞬不埒な方向に行きかけた自身の思考に今度は首まで赤くなった一夏だが兎に角このままではマズい、と緊張と沸騰しそうな程熱くなった血液で正常に機能しなくなっている頭を何とか回して、ベッドから抜け出すべく足を動かす。が、二人分の重量を支えているベッドのスプリングは一夏が足を動かした瞬間、ギシギシ、といつもより大きめの音が鳴ってしまう。
慌てて一夏は動きを止めるも既に遅く、モゾモゾとシーツからシャルロットが顔を出してきた。
「んん……もうちょっと寝させて……!?!?」
目を擦りながら眠たげにそう言うシャルロットだが、同じベッドの上で自分と一夏が横になっていたことにキョトンとすること数秒、そして先程の一夏同様頭が一気に覚醒した瞬間バッと跳ねる様にベッドから起き上がる。二人分の重量を支えていたスプリングがギシギシ音を立てている中、シャルロットは見る見る内に顔を赤くしていく。
「い、い、一夏!? こ、これはその……」
「……えと、その……おは、よう……」
ギギギっと音が出そうな動きでシャルロットの方に顔を向けた一夏は務めて平静そうな声で挨拶する。取り敢えず落ち着かなくては、と一夏は思うものの未だに心臓はバクバクと鳴りっぱなしであり熱を持った頬は赤みが消えずにいる。一方のシャルロットはと言えば、寝ぼけて自分がしたことを思い出したのかボフン、という音が聞こえそうな程に一気に顔を赤らめてしまう。
「おはよう……じゃなくて! こ、こうなってのは、べ、別に一夏とそういうことしたかったんじゃなくて……って違う! 違うから! えっと、その……たまたま! たまたまベッドを間違えたんだよ!」
「と、取り敢えず落ち着けシャル! へ、変な事はしてないからまずは落ち着こう! そうしよう!」
必死に一夏に説明をしようとするシャルロットだが、あまりの恥ずかしさから言うことの要領が得ていない。軽いパニック状態のシャルロットに同じ様にパニックになりそうな心を鎮めながら一夏はシャルロットを止めようとする。が、変な事、というフレーズがまずかったのか、具体的な想像をしてしまったシャルロットは更にアタフタしてしまう。
「へ、変な事って何!? え、エッチなこととか!? エッチなことしちゃったの!? 僕達!?」
「エッ……!? ち、違う! そういう、えと、あの性的な行為とか話じゃなくて! って何言ってるんだ俺は!?」
「ふえぇぇぇぇぇぇ!? ど、どうしよう!? え、えっとこういう時は、ひ、避妊? 後織斑先生にご、ご挨拶?」
「避妊!? ご挨拶!? お、落ち着けシャル! 飛躍し過ぎだ! 何ステップ超えすぎだから! 落ち着いてくれ!」
ますます混乱していくシャルロット。それを止めようとする一夏もシャルロットの爆弾発言の連続投下に同じく頭がオーバーヒートしてしまう。
カオス真っ只中な1025室、二人が落ち着くのに結局たっぷり一時間かかるのだった。
~~~~~~~~~
朝早く起きると気分がいいとか一夏が言ってたけどどこがだろうか、そんなことを思いながらやつれ気味な顔を仏頂面にしたシンは今の自分の気持ちとは嫌みなぐらいに正反対な真っ白い天井を睨めつけていた。
時計を見ると朝の6:00、二度寝したい所だがこの気分では無理だと判断したシンは夢のせいで疲れの残った身体を軋ませながら起きあがろうとする。しかし朝っぱらから機嫌の悪いシンの耳に更に機嫌を悪くする声が入ってくる。
「う、う~ん……」
「……おい、またかよ……」
シンの隣から突然聞こえた眠たげな声、聞き覚えのあるそれに瞠目したシンは次の瞬間、げんなりとした表情でいつの間にか二つに増えたシーツ、それにくるまった少女を見る。
ラウラ・ボーデヴィッヒ、ドイツ代表候補生にして現役ドイツ軍人、現在はIS一年一組に在籍する生徒であり、そしてつい先日シンに向け『義妹』宣言をしたここ最近のシンの頭痛の種である。
周囲の無言の圧力と、例の『雨の捨てられた子犬の様な目』に屈したシンが不承不承ラウラは義妹と認めてから数週間、食事は毎食同席、移動する時も常に隣にひっつき、果ては着替えや入浴時までついてくる程シンにべったりとなってしまっていた。夜な夜な部屋に忍び込んでベッドに潜り込むのも一度や二度ではない。正直転校当時の氷の様な印象を持っていたラウラと、今の兄様、兄様と自分に甘えまくるラウラが全く結びつかないというのがシンの気持ちである。
織斑先生に見つかったら只ではすまないな、と思いながらシンはラウラを起こすべくシーツの端を掴む。
「おいラウラ、さっさと起きろ……ってぬおおおおおおおおおおっ!?」
勢い良くシーツを引っ張り中でくるまっているラウラをベッドから叩き落とそうとするシンだが、シーツを乱暴に引き剥がした瞬間白い肌の塊に素っ頓狂な声を上げ思わず尻餅をついてしまう。同時にシンのその間抜け気味な奇声にラウラはむくりと起き上がる。
「ふぁ……まだ6時か……もう少し寝かせてくれ……」
「『もう少し寝かせてくれ』じゃねえよ! 人散々振り回しといてよ! てか服! 服どこにやったんだドアホゥ!」
瞼を擦りながら目ぼけ気味に言うラウラに起き上がったシンは思わずヤケ気味に突っ込む。シンの言う通り、シーツから転がり出たラウラは自身の専用IS『シュヴァルツェア・レーゲン』の待機形態ーー黒色のレッグバンド以外何も見つけていない状態であった。これまで何度か寝床を侵入されたことはあるが何も着ずに、というは完全に予想外だった。
今のシンの叫びで完全に目を覚ましたラウラは、妙な格好で固まるシンを見るなり、満面の笑みを浮かべながらシンに物凄い勢いで抱きついてきた。
「兄様~♪」
「だーっ!! 引っ付くなお前!! 後服着ろよ!!」
半ば突っ込む形で抱きつかれ床に背中を打ってしまうシンを余所に甘え声で思い切り抱きついてくるラウラ、何だかんだ言いながら兄と呼ばれることを少し嬉しいと思う心の一部を懸命に振り払いながらシンは頬をすり寄らせてくるラウラを引っ剥がす。
「お前なぁ! 寝てる時まで俺ん部屋入ってくるなって前にも言っただろ! 何回言えば分かるんだよ!」
「嫌だ! 私は兄様の為なら例え火の中だろうと水の中だろうと添い寝をするぞ!」
「~~~~~~!!!! あぁもう面倒くさい!!」
のれんに腕押しとはこのことか、以前聞いた日本のことわざを思い出しながら優雅独尊この上無いラウラに頭を抱えるシンであった。
「大体お前、何で裸!? 服はどうしたんだよ!?」
「無論着ていない! 義妹というのは義兄と一緒に寝るのが当たり前なのだろう?」
「お前どっからそんなアホな情報仕入れてきてるんだよ?」
またあのクラリッサとか言う奴か、とシンはラウラの間違った知識を吹き込みまくった大元の名前を思い出す。
普段はタンクトップに下はドイツ軍戦闘服というミリタリー色バリバリなラウラだが、今日は何故か左目の眼帯と待機形態のシュヴァルツェア・レーゲン以外何も身につけていないという極めて刺激的な格好であった。普通なら目を逸らして顔でも赤くする所だろうが、これまでの奇行に振り回されたシンとして恥ずかしさよりも怒りの方が上回り、そんなこと気にしてなどいなかった。
しかし返ってくるラウラの答えはシンの予想と大きく異なり、意外と近くにあった。
「ん? そうなのか? てっきりベッドの下の本の様なことをしてもらいたいのかと……」
瞬間、シンの思考回路は一気に断線し数秒フリーズする。ベッドの下の本、思い当たるものと言えば一つしか無い。
「お、おい、ラウラ……その本ってのは一体……」
「ええと、確か『あたしを昇天させて♡ お義兄ちゃんとラブラブエッーー」
「お願いだからそれ以上言わないでーー!!」
意味をよく理解していないからか、凄まじい棒読みでタイトルを読み上げるラウラに思い切り男の大事なナニカを粉砕されたシンは涙を流しながら何とも情けない声を上げてしまう。
「? 何かマズかったのか、兄様?」
「うるせえよ! 人の純情踏み潰して何が楽しいんだよアンタはっ!!」
キョトンとした表情で見つめるラウラにぶわっ、と涙を漏らしながらシン、そこにかつてのザフトエースの面影などどこにも無かった。次から次へと面倒起こしやがって、とブツブツ呟くシン、しかしその呟きが耳に入ったのかラウラが対
「……迷惑だったのか、兄様?」
「うっ……」
途端にシュンとなりながら瞳を潤ませてラウラは小首を傾げる様に見上げ、シンは言葉を詰まらせる。何度かラウラに対してキレカケたことがあったが、その度にこんな表情でシンを見つめてくるのでシンにしても対応に困り結局なあなあに収まってしまうのである。
そしてそれは今回もそうだった。少しばかり悩む様子を見せたシンだが、最終的にボソッと口にする。
「……別に嫌って訳じゃないけど……」
「! 兄様~!!」
「あーっ!! 兎に角お前服着ろよ!!」
涙混じりの表情から一変、花の咲いた様な笑顔に戻ったラウラが再び抱きつき始める。今更止めろと言えないシンは胃がキリキリ痛むのがはっきりと感じられた。
兎に角早いところ着替えて部屋に帰らせよう、と思った時だった。
『シン? 起きてる? 朝ご飯食べに行かない?』
扉越しに聞こえる声、それは間違い無く鈴の声だ。同時にああまずい、とシンは気がつき扉のある方向に振り返った。やはりと言うべきか、ラウラがピッキングした扉は鍵が開けっ放し、おまけにこの状況、間違い無く誤解される。
「お、おい! 鈴! 今ちょっと部屋にーー」
『あれ? 開いてる……もう! 鍵ぐらいちゃんと閉めなさ……い……よ……」
途中から扉越しでなくなった鈴の声は最後の部分は尻切れトンボになってしまっていた。
現在のこの状況、何の誤解もなく説明出来る奴がいるなら今すぐして欲しい、確実に気温が下がっただろう部屋の中、シンは冷や汗を垂らしながら表情の消えた鈴を見るしか無かった。
「む? 鈴か。私は今兄様との兄妹愛を深め合っているのだぞ。用が無いなら出て行ってくれ」
状況を全く理解していない様子のラウラがいけしゃあしゃあに言うが、その瞬間気のせいか鈴の肩がだらりと下がる。やばいやばい、とシンは頭の中で生存本能と書かれたランプが身の危険を知らせようと必死に点滅しているのが嫌に鮮明にイメージ出来てしまった。
「あ、あの、鈴? と、取り敢えずまずは俺の話をーー」
「アンタねぇ……」
シンの言葉はしかし、鈴の怒りの滲み出る言葉に遮られてしまう。そして鈴は傍に転がっていた鉄アレイを拾い上げると思い切り振りかぶる。
「そんな格好で言ったってねぇ……」
「ちょっ!? 待て鈴!! それシャレになってないから!! 下ろせってーー」
「説明もへったくれもないでしょうがっ!!」
「ドゥヒンっ!?」
最後の言葉と同時に腕を振り下ろし、鈴は鉄アレイを一直線に投げつける。真っ直ぐに飛んだそれはものの見事にシンの頭に直撃した。
「うごぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
「この節操無し! そのまま死ね!」
呻き声を上げながらひっくり返ったシンを冷たく一瞥すると、鼻息も荒く部屋から出て行く。ラウラの「に、兄様!? 衛生兵! 衛生兵!」と場違いな悲鳴をBGMにこの数週間の受難の数々を思い出し、俺が一体何をしたって言うんだ、ともの悲しい気持ちになりながら憎たらしい程真っ白な天井を仰ぐのだった。
~~~~~~~~~
IS学園には学年毎に分かれている学生寮一階、そして昼食時に全生徒他教師も利用する本校舎一階合わせて四つの食堂が存在する。その内の一つである一年寮の食堂で身支度を整えた生徒達は和気あいあいと楽しげに会話を交えながら朝食を取る中、その一角の丸テーブルでシンは早くもぐったりと疲れた様子になっていた。
「あぁ……」
「どうしたのだ、兄様? 食欲が無い様だが……」
「誰のせいだと思ってんだよ……?」
「よし。では私が食べさせよう、口移しでーー」
「喧しい。黙ってさっさと食え」
早速行動に移りかけるラウラの頭をシンは手元のお盆で思い切り叩く。そもそもお前が原因だの、心配するならまずお前の行動振り返って自粛しろだのと言いたい所だが、それでまたぐずられても困るのでどうしようも無い。
「はぁ……」
再度疲れた様な声を出したシンはもう一人の悩みの種に目を向ける。向かい側に位置するテーブル、そこでセシリアと一緒に食事をしながら、ジト目でシンを睨めつける鈴がいた。
朝の一件から分かる通り、どうにも鈴の機嫌は凄まじく悪い。原因は間違いなくラウラにあるのだが、何故かシンに八つ当たりするのでシンとしては何とも言えない気持ちである。おまけに鈴のことになるとラウラまで機嫌を悪くするので両者の板挟みにされているシンはかなり居心地の悪いところである。
まだ朝早いというのに本日何度目かの溜息をつくシンだが、その様子に溜まりに溜まっていたものが爆発したのか、鈴がガシャン、と食器を片付け、荒々しく食堂から立ち去っていく。それを同じテーブルで食事をしていたセシリアは何を思ったか、シンに対して早く追いかけろ、というジェスチャーをシンに送る。
何で俺が、と内心思いながらも何だかんだで鈴を追おうとシンは腰を上げ出す。
「兄様? もう行くのか? だったら――」
「お前まだ全部食ってないだろ。残さず全部食べろ」
「でも――」
「でも、は無しだ。ちゃんと噛んで食べろよ。いいな?」
「うん……分かった……」
そうなるとラウラは基本素直である。そのまま残ったサラダをしっかりかみながら食べるラウラを置いてシンは食堂を出る。何だかんだで
「おい鈴! ちょっと待てよ!」
後ろから声をかけたシンに鈴は意外にも素直に動きを止めた。一瞬と甘い考えになるも、振り向くと同時に向けられた怒りの籠もった視線にあっさりと崩れ落ちていく。
「……何よ?」
「いや、何って……」
「この際はっきり言っとくけど! アンタがナニやってようとね、アタシには関係ないから!」
「あのなぁ、関係ないなら意味もなくキレて八つ当たりなんかし――」
「うっさい!! アンタなんか知らない!!」
とりつく島も無いとは正にこのこと、気のせいか荒っぽく揺れるツインテールを横目にシンは荒々しく去っていく鈴を見送るしか無かった。はあ、と溜め息をつきながら、どこかで今と似たようなことあったなぁ、とシンはなんとなく昔の記憶を探して、該当する記憶を思い出して思わずげんなりする。
「よりによって
そう呟くシンの脳裏には整備クルーの間であの頭はヅラか地毛かと賭の対象になっていた元上官の姿が浮かび上がっていた。
その頃のC.E.
ヅラ「ヅラじゃない! 地毛だ!」
メイリン「あ、アスランさん? どうしたんですか?」
ヅラ「ああ……誰かが俺の悪口言った気がしてな……」
メイリン「もう、アスランさんは少し髪の毛のこと気にしすぎですよ。はい! 気分転換にランチにしましょう!」
ヅラ「ん、ああ、持ってきてくれたのか。すまない。今日のランチは何だ?」
メイリン「今日はワカメスープにワカメサラダ、ワカメパスタのワカメ尽くしですよ!」
ヅラ「ナイテイイカ、オレ?(´・ω・`)」
一瞬妙なものが見えた気がしたが気のせいだろう。多分疲れから来ているものに違いない。重い足取りで教室に入ったシンは挨拶してくるクラスの女子に適当に挨拶を返しながら自分の席にどっかりと腰を下ろす。
「なあ、一夏とシャルルの奴どうしたんだ?」
「あれ? そう言えばまだ教室来てないね。もうすぐHR始まっちゃうのに……」
「てか今日織斑先生がSHRやる日じゃ――」
シンの言葉は徐々に大きくなってきた外から聞こえるスラスターの推進音に遮られる。何があったのかとシンが廊下の方を見ると、そこには専用機『ラファール・ラヴァイヴカスタムⅢ』を部分展開したシャルロットが一夏を抱えた状態で廊下に着地しようとしていた。階段を使ったのでは遅刻すると判断したのだろう、しかし今回はタイミングが悪かった。
「おうおう、朝からご苦労なことだな」
「あ……」
「げ……」
到着した目の前にいた鬼の存在に気づきそれぞれ声を漏らすシャルロットと一夏に鬼こと千冬の出席簿が連続で炸裂する。
「敷地内で許可無くISを展開、使用は禁止されているのは知っているな、馬鹿者共」
「「は、はい……」」
「では放課後教室を掃除しておけ。二回目以降からは反省文の提出と特別教育室の生活させるからそのつもりでいろよ」
無情に千冬が通告し終わると同時に席に着け、と急かされる一夏とシャルロットだが、二人共どこか様子が可笑しい。一瞬目が合った途端二人共視線を逸らし、気まずそうに互いのことを見ないようにしているのがよく分かる。
何かあったのか少し気になったシンだが、SHRを始めるぞ、千冬が一組全員に告げるのを耳にし意識をそちらに戻す。
「さて、知っていると思うが二週間後に校外実習特別期間が控えている。初日は自由時間だが、あくまでISの非限定空間での運用と各国の開発した新型装備のデータ収集が目的だ。初日は自由時間だが羽目を外すなよ」
最後に千冬が釘を刺すも、女子生徒のほとんどは来る校外実習特別期間――臨海学校に興奮を隠しきれず、教室内は水着をどうするかやら何して遊ぶやらと黄色い声が所々から上がっていた。
(そういえばデスティニーのパッケージの奴どうなってるんだろう? コートニーさんは何とか間に合わせるって言ってたけど……)
初日の自由時間に皆目が行きがちだが、この校外実習の目的は千冬が言った通りISの非限定空間での運用と各国の開発した新型装備のデータ収集が主な目的となる。ISアリーナと違い空間制限の無い場所でのIS運用の他、海際ということで水中におけるISの潜水訓練等普段の授業では出来ない様な訓練が数多く用意されている。他にも新型装備に関しては専用機持ちは専用パッケージ『オートクチュール』の稼働データの収集等一般生徒よりも作業が多くなっている。かくいうシンのデスティニーも専用のオートクチュールがもうじき完成間際で臨海学校にて稼働データを取る予定である。
通常の授業も非限定空間内戦闘理論やパッケージの特性講義等の臨海学校を視野に入れた内容となっており、一年全体の意識が臨海学校に向いてきている様である。
(けど、臨海学校の前にアイツのことどうにかしないとなぁ……)
アイツーーこの所機嫌の悪い鈴のことを思い出しシンは一つ溜息をつく。臨海学校にまであの調子でいられたら流石にたまらない。どうしようか、と思いながらシンはSHRの終了を告げる千冬の声を片耳に入れていた。
~~~~~~~~~
ISの操縦者を育成を目的とするIS学園において教室の清掃は基本的には業者が行っている。その為教室の清掃を生徒が行うというのは基本的には生徒の罰則等で課せられるものである。
放課後、夕暮れ時の教室にて教室清掃の罰則を課せられた一夏とシャルロットは作業をそれぞれ分担しながら教室の汚れを落としていった。
「ごめんね、一夏」
「ん? 何がだ?」
雑巾で窓の縁を拭いていたシャルロットが唐突に謝る。謝れた一夏モップを動かす手を止め、シャルロットを見る。
「その、僕のせいで一夏も教室掃除やらされちゃったから……」
「ああ、別にいいよ、それぐらい。大体俺、掃除とか家事全般好きだからさ」
「で、でも! やっぱり謝らないと! それに朝のことも……」
「あ……」
その言葉で朝の一件を思い出して一夏は頬を赤くする。遅れて自分の言ったことを思い返してシャルロットも同じ様に頬を赤らめてしまう。
「ご、ごめんね! 変なこと言っちゃって! えと、僕バケツの水替えに行くから!」
「あ、おい! そんな慌てて走ったら危ないーー」
一夏の制止はしかし一歩遅く、モップ掛けをした床でシャルロットは足を滑らせてしまう。ひゃっ、と可愛らしい悲鳴を上げながら前に倒れかけるシャルロットを一夏は咄嗟に抱き抱える。
「っと! だから危ないって言っただろ。怪我無いか?」
「う、うん……その、大丈夫」
そう言うシャルロットだが、その頬は先程より赤くなっている。どうしたのか、と思った直ぐに自分達の今の体勢ーー一夏の胸元に飛び込んでシャルロットが一夏に抱きついている様な体勢に気がつき一夏もまた頬が熱くなっていく。
「わ、悪い! 直ぐに離すからーー」
「ま、待って! ……もうちょっと……このままでいさせて……」
「しゃ、シャル……?」
「一夏は……嫌、なの……?」
シャルロットの一夏は言葉を詰まらせる。女の子とこうして触れ合い嬉しくないのか、答えはノーである。一夏とて嬉しくない訳がない。けど違う、と一夏は心の奥に隠された自分の本当の気持ちに気づく。嬉しいと思うのは女の子とこうしていることではない。シャルロットとだから嬉しいのだ。
それに気づいた瞬間、一夏は自分の中で何かが急に熱を帯びるのを感じた。シャルロットが口を開く。真っ赤に燃える太陽に横から照らされた顔、金から赤に染まる髪、その全てが一夏の目に鮮烈に映し出され、美しいと思えた。
「僕は、嬉しいよ……こんな風に、一夏に……僕を守るって言ってくれた人に抱き締められて、嬉しいよ……」
「シャル……」
その後の二人に言葉は必要無かった。一夏を見上げる様に顔を上げたシャルロットは瞳を閉じる。それが意味するものは一つだけだった。
気がつけば一夏も言葉ではなく行動でシャルロットに返答を返そうとする。
顔を徐々に近づけながら、一夏は気づく。
俺は、俺はシャルのことが……
その先に続く言葉、思いがはっきりと後少し、後少しでお互いの唇が重なる、その時だった。
『でも彼女も、君のことを裏切るよ』
聞き覚えのある、幼い声に、一夏は動きを止め、。
そして見つけた。否、見つけてしまった。一夏の『恐れ』を。7才程の背丈、着ているTシャツと短パンは一夏が子供の頃よく着ていたものと同じであり、その容姿は幼い頃の一夏そのものであった。唯一違うのは二つの瞳であり、まるで帰る居場所を失い、永遠にさ迷っているかの様であった。
その子供ーー子供の一夏はその暗い、奈落の瞳を一夏にじっと見据え、そっと告げる。
『彼女だって、いつか君を捨てて居なくなるよ。そう……
あの人達みたいに』
瞬間、一夏の中で正常に動いてた何かが狂いだす。
一夏は自分の奥深くに埋められていたものーー思い出すまいと蓋を閉めていた記憶が吹き上がっていく。
ある日を境に消えた者達
だだっ広い家の中、只一人残された孤独
誰にも見てもらえず、孤独にその身を、心を喰い殺される日々
そしていつしか抱いていたーー今の今までひた隠してきた、果てのない憎ーー
「っ!!」
「きゃっ!!」
気がつけば一夏は、その時が訪れるのを心待ちにしていた少女を突き飛ばしていた。シャルロットの軽い体を突き飛ばした感覚、よろめいたシャルロットの足がバケツを倒す音が一夏を引き戻した。
「一、夏……?」
シャルロットが戸惑い気味に尋ねるが、一夏はそれに気づかず、只一点、一夏にしか見えないその過去の亡霊から目を離せずにいた。
そして当惑を隠せないシャルロットの後ろで
それは不気味にその口元を歪に歪めた。
「っ!!」
気がつけば一夏は逃げ出す様に教室を飛び出した。「一夏!」とシャルロットの声が後ろから聞こえるも、一夏はそれからも逃げる様に、一心不乱に走り続けた。
どれだけ走っていたのか、一夏が気がついた頃には日は沈み、電灯の光が暗闇の中で煌々と白い光を発していた。
「はぁ……はぁ……」
日が落ちるまで走っていたせいか、息が荒い。身体が喉の渇きを訴え、一夏はたまたま目に止まった給水所に近寄る。蛇口から出る水を口にし、喉を潤していく。荒れていた心が落ち着きを取り戻す中、一夏は自分に言い聞かせる様に何度もその言葉を呟く。
「……丈夫、大丈夫だ。俺は大丈夫だから……皆だってそうだ……もうあの頃と違うんだ。あの頃とーー」
『本当にそう思ってるつもりなの?』
先程と同じ、幼い声色の言葉が再び一夏の頭に響く。弾ける様に顔を上げる一夏だが、蛇口の上に張られていた鏡、そこに映るモノに瞬間、心臓が不規則な鼓動を鳴らす。一度は引いた筈の汗が重力に従い再び身体を伝っていく。
「あ……あぁっ……!」
口から言葉にならない呻き声を上げる一夏を余所に、鏡に映るそれーー子供の一夏が再び口を開く。
『分かっているでしょ? 本当は心から信じられる人間なんていない。それはあの時知った筈だよ。もうーー』
「うるさい!」
延々と続くそれを遮り、喉が張り裂けんばかりに悲痛な叫びを上げながら、一夏は鏡を殴りつける。握り締められた拳が脆弱な鏡を、そこに映るもう一人の一夏を砕き消す。しかし一夏は尚も拳を撃ち続ける。残った鏡の破片が拳を切り裂き、突き刺さるが、まるで痛覚が抜け落ちたかの様に一夏は拳を撃ち続けた。
「あいつは! シャルは違う! 俺のことを裏切ったりなんか絶対しない! あの人達みたいに、絶対に……」
最後の言葉は掠れる様なものしか出て来なかった。いつの間にか動きを止めた拳から血が垂れる中、一夏は砕け散った鏡の砕片を見つめる。同じだ、と一夏は砕けてもその性質を失わずその表面に一夏の姿を映し続ける鏡の破片に対し思う。幾ら掻き消そうとも、幾ら砕き消しても、その姿を変え、あれはーーあの『一夏』は再び一夏に憑き纏い続けていく。どこまでも、どこまでも……。
その瞳に迷いを含ませながら、一夏は行き先を失ったかの様にその場に佇んでいた。
嗚咽を鳴らすものの涙の流れぬ一夏のその姿は、余りに痛々しい姿であった。
~~~~~~~~~
この世界のどこかに隠されている、黒を基調とする豪奢な装飾の施された広間。入る者を選別し、力を持たぬ者を拒む圧倒的な威圧感を四方から発していた。
その広間の奥、上座と言うべき段差で区切られたそこに置かれている巨大な台座、その上に一人の男が座っていた。全てを虚無に帰する現世から解き放たれた黒き躰、その上に羽織るは既に虚ろなるその身を形作る為の白いマント、瞳を隠す異様の仮面は彼という存在を彼たらしめている象徴である。その仮面の男ーーラウ・ル・クルーゼは己を示す仮面の奥の瞳を閉ざし、一人静かに思考の海に沈んでいた。
思い返すのはラウが自らの操り人形として使役した少女。彼女に施した術があそこまで早く解けるのは予想外だが、相手が資格者となれば致し方がない。それよりラウが気にかけるのはもう一人の資格の因子を持つ者とそれにであった。あの二人から感じた奇妙な感覚、膨大な力を秘めながらも組み合わさねば成り立たぬ小さき力の門、それに当てはまるもの等ラウは一つしか知らない。
「やはり調べる必要があるか……」
誰かに同意を求めている訳でない、一人呟いたラウは、自身の前に跪く
暗紫色の上下一体のスーツの上に同系色のコートを羽織った金と銀の入り混じった髪の少年、血の様に赤いドレスに自身の未成熟な肢体を包み込んだ銀髪の少女、それらはまるでラウに忠誠を誓う騎士の如く頭を垂れ、ラウのそれを只待っていた。
徐に台座から腰を上げたラウは、ゆっくりと歩みを進めながら、色の薄い唇を開く。
「破界の使徒、そしてその対となる姫君、逝って私の疑念を確たるものにするのだ、レイル」
「はい、ラウ様……」
ラウの言葉にレイルと呼ばれた少年は伏せていた顔を上げ、ラウに恭しく述べた。レイルの反応に満足したラウは、続けてラウを見つめる少女の方に仮面に隠されたその瞳を向ける。
「ラウ、テスラは……?」
「ああ、テスラ、君にはお使いを頼もう」
ラウはそう言うと、テスラの手に黒光りするそれーー一丁の銃を持たせた。
銃、というにはその銃は奇妙な形状をしていた。
それを受け取ったテスラは不思議そうにそれをじっと見つめ、ラウに視線を戻した。
「誰に……?」
「翼をもぎ取られた身で、空を目指して足掻くあの男ーー
ゼロ・エニッションにだよ……」
そう告げるラウの口元は、不気味な程に歪んだ。
どうも。パクロスです。新装版3刊のカラーページで「あれ?ラウラの水着何で白?黒じゃなかった?」って思ったパクロスです。
これ第二版刷るときどうするんですかね?地の文修正するのか絵の方修正するのか、微妙なラインですね。しかし水着回は良いですね。皆ポヨンポヨンって揺れてるのがよく分かる絵ですねぇ(止めなさい)上も良いですけど下、太腿もええですわ。あ、今気がついたんですけどアニメ二期の告知ポスターの箒、太腿がすげえムチムチしてるなぁ。だってニーソ食い込んでまっせこれ!ヤバいでっせこれ!
……前書きに続いて下衆い話をしてしまいすいませんでしたー。
今回から第三章突入……なんですけどしんどかった……何か今回いつもより書き直しの回数が多かったんですよねぇ。最初のサイレント・ゼラフィス強奪のシーンも本来は無くて代わりに何故かエジプトで葵とオータムが戦ってるシーンだったんですよ。まあ、エジプトで意味もなく戦わせるより今のバージョンの方がしっくりきますしサイレント・ゼラフィス強奪も纏めて書けたのでいい感じになった訳でした。
改めて見返すと今回すげー微妙だな、って感じします。なんと言いますか、地の文の表現がすげえカチコチになってるって言いますかね、書いててかなりきつかったです。
というのも今回一夏の心の闇みたいなの書こうとしたからだと思います。うちの一夏種側の設定が大分入りまくってる感じですし、作中でもありましたけど親との関係についても掘り下げて書きたいと思ってます。朴念仁な理由も自分なりに考えたりもしましてね、今回の最後らへんで勘のいい人はピンと来たんじゃないかな、と思いますけど。そこら辺は次回一夏の口から直接言ってもらう予定です。
と、まあ、気がつくとシンの出番が減ってねえか、って言われそうですけど、大丈夫!量より質ですから(違うだろ)。一応次回はシンと鈴、一夏とシャルのダブルデート回となってますのでお楽しみに。
以上でございます。今回は出来が大分微妙なので皆さん良ければ改善点等の指摘を宜しくお願いします。PHASE-16書きながら15の修正をちょくちょく行いますので。では。