ちなみにここらへんから色々ネタが酷くなっていくます。ご注意を。
クラス代表決定戦から数時間後、指導室でこってり絞られたシンはフラフラした様子で出て来た。今なら確実に死ねる。十字架の書いてある魔法カードでも使わないと魂が天国に召される。
そんなアホなことを考えてるとシンはあることに気づく。
「あ、もう食堂開いてねえ……」
食堂の開いている時間は7時から8時まで、そして今は10時である。今日はインスタントのカップ麺で済ますしかないと判断し、溜め息をシンであった。
ふと空を見上げればそこには満月が夜空を照らしていた。その美しさと雄大さを誇る月の姿を見て、どうしても今の自分が惨めに感じてしまう。
「俺は……」
そう呟くシン。その心の内ではあの言葉が繰り返される。
――お前は何の為に『力』を手にしたんだ!!!!――
その言葉はかつてアスランが言ったのと同じ言葉だ。あの時反発したそれはしかし、シン自身がこの世界に来て、デスティニーを動かしてから何より求めていたものであった。
――戦う為の理由が、俺が守りたいと思えるものがここにあるのなら…………――
今はどうだろうか? 守りたい者も見つからず、守るための力ではなくただ怒りのままに力を振るう自分。このままただ自分という存在を見いだせぬまま朽ち果てていくのだろうか?
分からない。
何も、分からない。
その失意のままシンは自室へ戻っていった。
クラス代表決定戦が終了して数時間後、食事を終え寝室についた一夏を待っていたのは箒の辛裂な説教であった。
「全く! いくらオルコットが危険だったからだったとはいえ下手したらお前も同じ目に遭うところだったぞ!」
「……」
箒が一夏にさらに非難の言葉をかけるが、当の一夏は箒とは別のことに意識を傾けていており箒の話は全く耳に入れていない様子である。
「お前と言う奴は……って聞いているのか!」
「っ! わ、悪い! ちょっと考え事していて!」
話を聞いていない一夏に気付いた箒が怒りのボルテージを上げ、それでやっと気づいた一夏はまた殴られては構わんと言わんばかりに箒に平謝りする。それが効いたのか箒はまだ「私はお前のためにやっているのにお前ときたら……」とぶつぶつ呟く。
「とにかく! もうあんな無茶をするな! 少しは自分の力量をわきまえろ!」
最後にピシャリと箒が一夏に厳しい言葉をかけると、そのままシャワールームに消えていった。寝室に残るのは一夏ただ一人。一夏は暫く視線を虚空に彷徨わせると、ふと言葉を漏らす。
「……何のために戦うのか、か……」
そう呟く一夏の脳裏には、クラス代表決定戦の時のセシリアが言葉が延々と繰り返されていた。その言葉を何故にシンではなく一夏に言ったのか、それは一夏には分からない。しかしその言葉は一夏に今までに無い程の戸惑いと迷いを作り出していた。一夏の戦う理由、それは自分の愛する者を守るため、その筈であった。しかし、あの戦いで感じたもの
――お前も……お前もあの人と同じことを言うのかあ!!!!――
シンの悲しき叫び
――いなければよかったのに!!
セシリアの悲しき心の吐露
それらを前にして一夏は自分の戦う理由が酷く薄っぺらいものに感じてしまった。
故に一夏は悩む。己が真に何がために戦うのか。戦う理由を。
「…………」
一夏は無意識の内に前髪を掻き上げる。その額には前髪に隠され見えなかった縦に伸びた傷跡があった。それが何を意味するか、それはまだ語る時ではない。
シャワーから湧き出る湯が重力に従い体を伝って流れ落ちる。普段ならそれで気分も晴れる筈が、その日のセシリアには何の意味ももたらさなかった。そのセシリアの心の内では今日の出来事が延々と続いていた。
(織斑一夏……)
何度も心の内で繰り返される少年の名前。自分より遥かに力量が劣っていながら決して諦めずセシリアに立ち向かう、強い意志の宿った瞳を持つ少年。
(何故わたくしを助けたの……?)
そして思い出すもう一人の少年――シン・アスカとの試合。今でも記憶に焼き付いているあの憎悪に満ちた瞳。あの鬼神の様な戦い。正直今でも体が震えてしまいそうだ。それでも彼女は気になる。同じ家族を失った者同士、なのに何故ああも自分と彼は違うのか。彼の過去に何があったのか。
いつしか彼女の口からその二人の名前が洩れていた。
「織斑一夏……シン・アスカ……」
知りたい。何故、
知りたい。
そうしてセシリアの夜は更けていった。
夢を見た。久しぶりに、そして辛い思い出が浮かび上がるあの悪夢を。
目の前に立ちはだかる壁の様に巨大な機体――デストロイ。破壊の名を冠するその巨大MSはその足元に存在する街を、人を、その全身に装備された武器で消滅させていった。
その様子を見たシンは怒り、駆ける。
いつの間にかMSデスティニーに乗り込んでいたシンは何故自分がデスティニーに乗っているのかということを気にする間もなくデストロイに接近し、両手のアロンダイトでデストロイを切り裂く。その黒い装甲が破片となり宙を舞い、機体の各部から炎を上げ……
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
その時シンの耳にあの少女――守ると約束した少女の非命が聞こえてくる。シンはたった今切り裂き、倒れようとするデストロイのコックピットを覗き込む。その中にはあの少女――湖に水葬した少女の姿があった。
「ステラ!?」
何で!? ステラがあそこに!?
そのシンの問いは、コックピットでシンに向けて手を伸ばすステラの姿を見て霧散する。そのステラの口から言葉が発せられる。
『シン……ステラ……まもる……』
その途端、デストロイの足元が崩れ、そこに出来た底の見えない深い穴にデストロイが落ちていく。それに気づいたシンはデスティニーを駆けデストロイを近づこうとする。
「待ってろステラ!! 今度こそ助ける!! 絶対!!」
シンはそう言ってデスティニーの腕をデストロイへ向け思いっきり伸ばす。あと少し、あと数メートルといった所で突然景色が変わる。
「っ!?」
訳が分からないといった表情でシンは周りを振り返る。そして後ろを振り返った時、そこにはあの湖があった。その中心には水浸しのステラが。
「ステ……!」
ステラの名前を呼ぼうとしたところでシンは気づく。ステラの体が砂となっていく様子に。ふとステラが顔を上げる。しかしその表情には何も映し出されていない。その能面の様な表情にシンは思わずゾッとしてしまう。ステラが体が砂になっていきながらもシンに近づいてくる。
「シン……」
「ステラ……」
「どうして……
どうして……ステラ……守って……くれないの……?」
「っ!?」
その言葉にシンの息が止まる。ステラはそんなシンに手を伸ばす。
「どうして……どう、して……」
「や、止めろ……止めてくれ」
ステラの体が砂になり顔の半分が崩れていく。
「どう、して……」
ステラの手がシンに触れようとしたとき、ステラの体が砂となって崩れ去る。その砂は突如吹き荒れた風によって舞い、わずかな量の砂がシンの手にこびりつく。
「あ……ああっ……」
シンは目の前で失った少女を目の当たりにして泣きたかった。叫びたかった。しかしシンの思いと裏腹に口から洩れるのは呻き声に似たナニカ。心が押しつぶされる。心が引き裂かれる。
――これが……俺の罰なのか……――
そう思ったのが最後、シンの視界は暗転した。
景色が再び変わる。次にシンが気がついた時、シンは地獄にいた。いや、違う、とシンの記憶がそれを否定した。忘れる筈がない、この場所はシンの人生を狂わせた地。
「ここは……オー、ブ?」
何故自分が二年前のオーブにいるのか、その疑問はしかしシンの瞳に映った一人の少年とその傍に転がる少年の家族の無残な姿によって打ち消される。心臓の鼓動が早くなる。今すぐここから逃げたいと頭の中でナニカが叫ぶ。しかしシンは震える足で前に進む。その先にあるのは絶望だと知りながらも。シンは自身の前にうずくまる少年――過去のシンを見つめる。体から引き裂かれたマユの小さな腕を抱きしめるシンの瞳からはボロボロと涙があふれていく。それをシンは見つめるだけであった。否、何かしようにも金縛りにあったかのようにシンの体はそこから動くことが出来なかった。
『うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』
目の前のシンがマユの腕を抱えながら天に向かって泣き叫ぶ。目の前で繰り返される過去の悲しき追想、シンの心はもう悲しみ、怒り、憎しみの複雑な感情の渦で爆発しそうであった。
「もう……もうやめてくれ! こんな……こんなっ!」
思わずシンはその場で叫ぶ。誰に対してではなく、心の奥から膨れ上がる感情を吐き出すようにシンは叫ぶ。
「なにがこんな、だよ? アンタもその一人のクセに」
「っ!?」
その時、突然シンの叫びに答えるかの様に後ろから声をかけられる。思わず後ろを振り返るシンだが、その瞬間目に飛び込んだ姿に言葉を失ってしまう。何故ならそこにいたのは
黒い髪
白い肌
血の様に紅い瞳
ザフトの制服を着た
シン・アスカがいた。
「お、れ……?」
「上をよく見ろ。アンタの罪ってやつをな」
目の前に現れたもう一人のシンにシンは呆然としてしまう。一方目の前のシンは平然とした様子でいる。そしてシンは目の前のシンに言われるがままに上を見上げる。ビームとミサイルが飛び交い、所々で爆発の起きるオーブの空、そこにたたずむのはシンにとって馴染みのあるあの機体であった。
「デスティニー……?」
シンの愛機であるデスティニーがそこにいることでシンが驚愕する。デスティニーは紅いラインの走るツインアイでシン達を見つめる。太陽を背にしたその姿はまるで赤い翼を広げた悪魔であった。そのデスティニーに二機のMSがビームを連射しつつビームサーベルをもう片方の手に持ち襲い掛かる。
「デスティニー!」
シン達を見続けるだけで微動だにしないデスティニーにその光刃が振り下ろされ、シンは思わず愛機の名を叫ぶ。
それと同時にデスティニーが動く。
その野太い両腕で左右から肉迫しようとするMSの腕の思い切り掴む。二機のMSはデスティニーの腕から逃れようとあがくがそれもむなしく、次の瞬間デスティニーのマニピュレーターがMSの腕を握りつぶした。メキャ、という嫌な音、砕かれた装甲から噴き出すオイル、その一つ一つがまるで生物的な嫌悪感をシンに抱かせる。しかしデスティニーは止まらない。
そのままデスティニーは瞬く間に二機のMSの胴体をそのマニピュレーターで捕縛すると、その掌に仕込まれた鎖の拳――パルマ・フィオキーナを発動、二機のMSを上下に両断させる。数瞬の時をおいて起きる爆発がデスティニーを覆う。暫くして爆炎の中からデスティニーが這い出る。爆発の業火に焼かれ目元に血涙の様な紅いラインを走らすその姿はもはや悪魔そのものと言わんばかりのものであった。
「これが……デスティニー……? 俺の……力……?」
「ああ、そうさ。アンタの力。人の憎しみの連鎖をつなぎ続ける悪魔の力」
「っ!?」
シンが気が付いたとき、再び景色は変わり、暗闇の中にシンはいた。そしてシンの周りを何人ものシンが囲んでいた。
「お前は悪魔だ」
「アンタは生きていちゃいけない人間だ」
「アンタは人を殺すだけの化け物だ」
「お前は人に厄災をまき散らす存在だ」
「お前は」
「アンタは」
「お前」
「アンタ」
「君は」
「あなたは」
「貴様は」
ザフトの制服を着たシンが、パイロットスーツ姿のシンが、子供のシンが、シンが、シンが、シンが、シンが……
「や、やめろ……やめてくれ!」
たまらずシンが叫ぶ。視界がぐるぐると回り、自分が今地面に立っているのかも分からない。しかし、シン達の言葉は延々と、壊れたレコードの様に続く。やがて数多のシンの姿はまとまり、1つの姿となり、その姿は
デスティニーとなった。
「あああああああああああああああああああああっ!!!!」
「止めろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
シンが悲鳴を上げ、ベッドから跳ねる様に起き上がる。体にまとわりつく汗が気持ち悪い。時計を見れば時刻は6時を回っていた。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
粗くなった呼吸を整え、シンは何とか落ち着こうとする。しかしその表情と心は深い悲しみと苦しみに満ちていた。
俺はこれからどうすればいい?
俺は何をしたらいい?
分からない
もう、何も、分からない
「俺は……俺は……」
シンは何度もその言葉を繰り返す。しかし答えてくれる者もいない自室でその言葉はただ虚しく反芻するだけであった。
「と言う訳で、一年一組代表は織斑一夏に決定です! あ、一繋がりでいい感じですね!」
何がと言う訳で、なのかさっぱりな感じで朝のSHRに真耶が昨日のクラス代表決定戦の結果を報告した。それにクラスの女子は各々反応する。が、ただ一人、織斑一夏は納得していない。
「……山田先生、質問です」
とりあえず現在頭の大部分を占める疑問を解消すべく一夏が手を上げ質問する。
「はい、織斑君」
「俺、昨日の試合で負けたのに、何でクラス代表になってるんですか?」
一夏の疑問は最もだ。本来なら一夏に勝ったセシリアを倒したシンがなるのが妥当な筈だ。
「えっと、それは……」
「私が決めた」
「千冬姉?」
織斑先生だ、と訂正し毎度の出生簿アタックをぶちかます千冬。そして千冬の説明が始まる。
「本来ならアスカがクラス代表を務めるべきだろうが、また生徒を半殺し寸前にされては困るのでな」
やや皮肉の混じった千冬の言葉にシンは視線をそらす。あの時は怒りのままにやってしまった訳であるが、一晩経ってやり過ぎたと反省している様子である。
「だったらセシリアがやったら……」
「オルコットのISは修理中だ。通常の授業に支障はないが、微調整を含めると、来月のクラス対抗戦に間に合わん」
話はそこまで、と言わんばかりに千冬が説明を終える。言いたいことはあるがどうせ無視か出生簿なので何も言えない一夏。
「そういう訳でクラス代表は織斑一夏。異存はないな」
千冬の確認の言葉に一部除いたクラス一同が返事をする。すでに退路がないと悟り、思わず溜め息をつく一夏であった。
「アスカさん。すいませんでした」
「?」
SHRも終わり、一時間目の前の休み時間。シンの元にやってきたセシリアが急にシンに対して謝罪の言葉を述べた。いきなり言われたからか、シンは訳が分からない様な表情になる。どちらかと言えば昨日あれだけボコボコにしたこっちが謝るべきな気がするが、と内心シンは思う。
「えっと、何で謝んの?」
「それは昨日、あなたの御家族のことを……」
それを聞いてシンの胸に鈍い痛みが走る。忘れた訳ではない。ただ、気にしない様にしていただけだ。また、あんな怒りに任せて人を傷つけたくない。また、あの悲しみを呼び起こしたくない。ただそれだけだ。
「過去にあの様なことがあったなんて……わたくし……」
「……別にいいよ」
「っ!? ですが!」
「いいから。それにあんま触れてほしくない。ほっといてくれ」
「……分かりましたわ」
では、と言ってセシリアが離れる。それを見てシンは溜め息をつく。ふと周りを見れば、今までシンとセシリアのやり取りを緊張した様子で見ていたクラスメイトが一斉に視線をそらす。
「はぁ……」
再度溜め息をつき、シンは机に突っ伏する。そのまま重く沈んだ気持ちのまま、シンは授業の準備を始めるのであった。
あれから日にちも過ぎて4月の下旬、IS学園グラウンドにて。今日は外でISを使用した授業である。とは言え生徒全員がISを使用するのではなく、教師や専用機持ちがISを動かすのを見て学ぶと言った内容である。
「ではこれよりISの基本的な飛行訓練を実践してもらう。織斑、アスカ、オルコット。全員に手本を見せてみろ」
千冬の指示を受けて三人共自分の機体を展開する。セシリアは白、シンは緑の光に包まれ瞬時にISを展開した。ちなみにセシリアのブルー・ティアーズは大まかな修理が終わっているが、まだ非固定浮遊部位が取り付けられていないと言った状態である。
「早くしろ。熟練したIS操縦者は展開まで一秒とかからないぞ」
千冬に急かされる一夏を見れば、まだ慣れていないかISを展開出来ていない様だ。少し遅れて一夏も白式を展開し終える。
「よし、では飛べ」
千冬が言い、三機とも飛び立つ。しかしながら一夏だけ妙にフラフラした危なっかしい飛び方である。速度もシンのデスティニーやセシリアのブルー・ティアーズと比べて大分遅い。
『何をやっている。スペック上の速度では通常時のデスティニーと同じだぞ』
通信回線から千冬の注意の言葉が流れてくる。それを聞いた一夏はうへえ、と言葉を漏らす。
「とは言え、飛ぶイメージがまだなあ……」
「織斑さん、イメージは所詮イメージ。自分がやりやすい方法を模索する方が建設的でしてよ」
そんなことを呟く一夏にセシリアがアドバイスする。あのクラス代表決定戦以降セシリアの一夏やシンに対する態度は大分変わった。シンに対してはクラス代表決定戦のことが後を引いている様だが、以前と比べて少なくとも男だからと言って見下す様な態度は取らなくなった。
「なあ、シンはどうなんだ?」
「……」
一夏がシンに声をかけるがシンは返事をしようとしない。この間のクラス代表決定戦以降一夏の横やりの件によるものか、シンの一夏への対応が冷たくなっている。一夏は積極的に話しかけてはいるものの、当のシンは何も返そうとしない状態である。最も、今の七組もシンといういつ爆発するか分からない爆弾を抱えてクラス全体の空気が淀んでいる様な状態である。
「織斑さん、宜しければ放課後に指導して差し上げましょうか?」
「おお。助かる。シンもどう……」
そこにセシリアが訓練の手伝いを申し出る。最近はこうして一夏の訓練に付き合う様になっている。そのまま一夏はシンにも声をかけようとするが、そこに別の声が割り込んできた。
『一夏っ! いつまでそんなところにいる! 早く降りてこい!』
「箒?」
「何やってんだアイツ?」
ハイパーセンサーを用いて見てみれば、箒がインカムで怒鳴り声をだしている。その隣ではインカムを盗られてアタフタしている真耶の姿が。教師から分捕るなど、どこぞの戦争ボケのネクラ軍曹でも非常時以外やりそうにないだろう。ちょうどやっぱりというか、千冬の出席簿が後頭部に直撃したのが見えた。
『織斑、アスカ、オルコット、急降下と完全停止をやってみせろ。目標は地表から10cmだ』
「了解です。では織斑さん、アスカさん、お先に」
千冬の指示に従い先にセシリアが実践する。流石は代表候補生、完全に修理が済んでいない機体で急降下と完全停止をそつなくこなす。続いてシンも急降下と完全停止を行うが、若干イメージがズレたかやや行きすぎてしまう。
「地表10cmといった筈だ。2cmずれている」
「……すいません」
千冬から指摘を受け反省の言葉を述べるシン。次は一夏の番ではあるが、ここで期待を裏切らないのが彼の良いところである。
空を切り裂く様な音と同時に軽く地面が揺れ、グラウンドの土が舞い上がる。急降下はしたものの、完全停止を忘れた一夏君。猛スピードで地面と感動のご対面と言った感じに激突する。舞い上がった煙が晴れてみると……
「…………」
一同絶句。そりゃそうだ。何をどうしたら上半身が地面に埋まるだろうか。どうやったら地面でリアル犬神家ができるのだろうか。
「何やってんだよお前……」
「うう……面目ない」
あまりに酷い状態の一夏の姿に流石のシンも思わず突っ込みを入れる。地面から抜け出した一夏は情けない声で返す始末である。ISの機能で汚れ1つついていない装甲と、流石にそこまでカバーできないのか、土まみれの顔面との対比が余計に情けなさを醸し出す。
「情けないぞ、一夏。昨日私が教えてやっただろう」
色々な意味で瀕死状態の一夏に箒が追い討ちの言葉をかける。しかしなんだろうか。教えるというところでえらく不安を感じてしまう。
「大体だな一夏、お前という奴は昔から……」
「篠ノ之。今は私の授業だ。お前がでしゃばる必要はない」
まだ言い足りないのかさらにぶつくさ言おうとする箒だが、授業の邪魔に感じた千冬は箒の頭を押しのけ前に出る。
「織斑、武装を展開しろ。それくらいは出来るようになっただろう」
「は、はあ……」
「返事は『はい』、だ」
「は、はい!」
千冬に急かされ一夏は武装を展開する。意識を集中させ、右腕から光が放出され、それが刀の形状になる。一秒程経過して、一夏の右手には白式の武装『雪片弐型』が握られていた。
「遅い。0.5秒で出せるようにしろ」
成功したものの千冬の口から出たのは厳しい言葉だった。もう少し優しい言葉をかけられないものか。いや、千冬に限ってそれはないだろう。
「オルコット、武装を展開しろ」
「はい」
今度はセシリアの番だ。左腕を肩の高さに上げ、真横に腕を突き出す。一夏と違い一瞬光が爆発したかの様に放っただけで『スター・ライトMk-Ⅳ』が展開されていた。
「さすがだな、代表候補生。ただし,そのポーズは止せ。正面に向けて展開出来る様にしろ」
「う、了解しました」
しかしそれでも千冬の言葉は厳しい。まあ、今の状態では銃口がシンに向けられているのでしょうがないだろう。
「オルコット、近接用の武装を展開しろ」
「え、あ、は、はい」
一瞬反応が遅れてセシリアが返事をしスター・ライトを収納、近接用武装『インター・セプター』を展開しようとするが、うまく展開できず光のまま宙をさ迷っている。
「くっ……」
「まだか?」
「す、すぐです……ああ! もうっ! インター・セプター!」
中々展開できずにイライラしたか、武器の名前をヤケクソ気味に叫び展開する。しかしこのこの方法は教科書の始めに載っている様な初心者用の方法である。
「……展開に何秒かかっている。お前は実戦でも相手に待ってもらうつもりか?」
「じ、実戦では近接の間合いに入らせません! ですから、問題ありませんわ!」
「だが、この間の試合ではズブの素人の織斑に簡単に懐に入られたようだが?」
「うぐっ!」
そう切り返され、セシリアは言葉を詰まらせる。それを片目に流し、今度はシンの方を向く。
「次はお前だ、アスカ。ライフルとブレードを展開しろ」
「了解」
言われてシンはデスティニー格納領域内に収納されているビームライフルを展開、すぐにそれを収納し続けてアロンダイトを展開する。
「ふむ、織斑よりマシだが展開速度がまだ遅い。精進しろ」
「……了解」
それでも相変わらず千冬の言葉は厳しいことこの上ない。まあ、ボロクソ言われるよりはまだマシだとシンは強引に自分を納得させる。
「はあ……時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑、グラウンドを片付けろよ」
千冬の言葉を合図に生徒の面々は着替えに教室に戻っていき、シンも更衣室に行った。
皆帰っていった。いや、一夏だけグラウンドに開いた穴を塞ぐのにただ一人残っている。
「…………」
誰か助けてくれないかと思ったが誰一人も進んで手伝おうという奴がいない。
「……土、探そう」
結論、結局は自分でやるしかないということだった。
「織斑君、クラス代表決定おめでとう!」
『おめでと~!』
パパパパーン!
クラッカーの鳴る音が食堂に響く。現在食堂では一組による『織斑一夏クラス代表就任パーティー』が開催されていた。一組によると言ったもののちゃっかり他の組の生徒が混ざっているが、まあ気にしないでおこう。
「いやあ、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」
「ホントホント」
「ラッキーだよねー。織斑君と同じクラスになれて」
「ホントホント」
などと皆が騒いでる中このパーティーのメインである織斑一夏はというと……
「人気者だな、一夏。」
「……本当にそう思うか?」
何でこんなことになったのかと一人沈んでいた。気がつけば世界で二人だけの男性IS操縦者、気がつけばクラス代表とズルズルと物事の中心に引き込まれてる気がする。
そう思い悩む一夏の思考をシャッターの切る音が現実に戻す。虚を突かれた一夏が思わずシャッター音のした方向を見ると、カメラを構えたメガネの生徒がボイスレコーダーを構えていた。
「はいはーい、新聞部でーす! 話題の新入生、織斑一夏君とシン・アスカ君に特別インタビュー……ってあれ? アスカ君どこ?」
その新聞部の生徒――ネクタイの色からして二年だろう――が本場の新聞記者顔負けの勢いで一夏に迫ろうとするが、もう一人の取材対象がいないことに気付き辺りを見渡す。すると本音が手を上げる。
「は~い、アッスーはね、一緒に行こうって言ったんだけど、どっか行っちゃった~」
その本音の言葉を聞いてか、どこかほっとするクラスの一同。
「? まあ彼はあとでいいや。あ、私は二年の黛薫子。宜しくね。新聞部の部長やってまーす。はいこれ名刺」
クラスの反応に不思議そうな顔をするも気にしないことにし、薫子はそう名乗り一夏に名刺を渡す。
「ではずばり織斑君! クラス代表になった感想をどうぞ!」
そう言うなりボイスレコーダーを一夏に向けてどんな言葉がくるか期待する薫子。
「えーと、まあ、なんというか、頑張ります」
「えー。もっといいコメント頂戴よ~。『やぁぁぁぁぁぁってやるぜ!!!!』とかさあ!」
「いや、なんですかそれ?」
ここでシンがそれを聞いたら「おいこら、獣戦機隊の台詞パクってんじゃねえよ」なんてツッコミが来そうだが、生憎離れたところにいるシンの耳には届いていない様であるし、うちのシンは多元世界から来たわけではないので多分ツッコむことはないだろう。
「まあ、自分、不器用ですから」
「うわー、前時代的!」
しょうがないのでそう答えたら、随分ヒドいことを言われた。そんな感じでセシリアも含めたインタビューは進んでいった。途中「まあ、そこは適当に捏造しとこう」など不穏な発言があったが気にしないでおこう。
「あ~! アッス~! やっほ~!」
「っ!?」
そんな和気藹々とした雰囲気の中、本音は食堂に入ってきたシンを見て大声で挨拶をする。しかしクラスの女子はそれを聞いた途端ビクッと反応するなり、食堂の入り口を見る。そこには確か食券を購入しているシンの姿があった。
「アッスーアッスー! 何で来るのが遅いのだ~!」
「……別にいつ飯に行こうが俺の勝手だろう」
「ぶ~! アッスーつれないぞ~!」
シンを見るなり子犬の様にパタパタ走り寄る本音。そのままシンに詰め寄るが、シンの方は気のない返事を返すだけであった。一方のクラスの女子は「大丈夫なの本音?」「てか何であの子あんな普通に会話してるのよ!」とヒソヒソ話をしだす。
しかしそこで行動に出た者がいた。薫子だ。何しろ行方の分からないもう一人の取材対象が今目の前にいるのだ。ここで彼女が動かぬ筈がない。
「はいはい、シン・アスカ君! 新聞部の黛薫子でーす!」
「……何か用ですか?」
一目散にシンの目の前に駆け寄るなりボイスレコーダーをシンに向け、始めにそう切り出す薫子。しかし当のシンはメンド臭げに薫子を見るだけで大した興味もない様子である。
「うん! ちょっと君にインタビューしたいの! どう? IS学園に入った感想は? 何か出会いでもあった? そこら辺包み隠さず教えてくれない?」
「……すいません。そういうの嫌いなんで」
それでもめげない薫子はさらにボイスレコーダーをシンに向け迫るも、シンは相変わらずの調子で食器を下げにいこうとする。
「そ、そこを何とか! 一言だけ、一言だけでいいんで!」
「……いい加減にしてくれませんか? 嫌いだって言ってるんですけど」
なおも食いつく薫子、仕舞いにはシンの腕にしがみつく始末。一方のシンはそんな薫子がうっとおしくなったのか、若干苛立った様な目で薫子を睨めつける。
と、その時、シンの制服からピンクの携帯――マユの携帯が零れ落ちた。
「っ!」
「ん? なにこれ?」
携帯が落ちたことに気付き動揺するシン。同じく携帯に気付いた薫子が携帯を拾う。
「携帯? ピンク色の? 意外とファンシーな趣味……」
「触るなっ!!!!」
そう叫んだシンは薫子から携帯をひったくるように取り返し、それだけで射殺せるような視線を薫子に送る。しかし、直後に怯えた様子の薫子を見てはっとする。
「ご、ゴメン……
何か……大事なものだった……?」
「っ!?」
その言葉を聞いてシンは思い出す。アカデミーに入りたての頃、ルームメイトの間で同じ様なことがあったことを、その時ルームメイトに言われた言葉を。
『わ、悪い……何か……大事なモンだった……?』
「……くそっ!」
居心地の悪くなったシンはそのまま逃げるように食堂を去って行った。後には何が起きたのか分からず、呆然としている一同。
「……何よ? 感じ悪い」
ふと誰かがもらした言葉、それを皮切りにあちらこちらから声が上がってくる。
「大事なものなんだろうけど、だからってあそこまで怒る?」
「大体男なのにピンクの携帯とか気持ち悪いよね!」
そう周りがシンの悪口を言う中、一夏はシンが去った方向をじっと見つめていた。その瞳にはシンに対する困惑の感情があった。
――お前もあの人と同じことを言うのかあ!!!!――
先日のクラス代表決定戦の際のシンの台詞がよみがえる。一夏にはシンが何故あそこまで激昂したのか、分からない。分かってもシンの過去に何かあったという曖昧なことくらいである。一夏はそんなシンに対してどうしていいのか分からない。そしてシンに対して何もできない自分が悔しかった。シンの苦しみを分かってやれず、何も助けてやれない。そしてそのシンに頼ってもらえない自分の弱さに一夏は歯がゆい思いをかみしめていた。
「シン……」
一夏は只シンが去った方向を見つめる。それしか、今の一夏にはできなかった。
あれから食堂を抜けたシンは一目散に走り、気づけば外庭に出ていた。乱れた呼吸を整え、食堂での出来事を思い出す。思いだしたところで、シンは悩む。この間からずっと迷い続けていることにぶち当たる。
――お前は何の為に『力』を手にしたんだ!!!!――
――戦う為の理由が、俺が守りたいと思えるものがここにあるのなら…………――
「っ! ……一体、一体どうしろって言うんだ! 守るものも無い、信念もない、そんな俺にこの世界で一体何をしろって言うんだよ! あんたは!」
それが誰に対してのものなのか、それはシン自身にも分からない。いるかも分からぬ神という存在に対してなのか。本来ならC.E.で朽ち果てる筈だった自分を生かせたこの世界に対してなのか。
空に向かって叫んだシンはそのまま力尽きたかのように庭の段差に腰掛ける。一陣の風が吹き、シンの頬を撫でる。これからどうしていけばいいのか、迷い続けるシン。
そこに――
「ねえ、アンタ。ちょっといい?」
――一人の女子が声をかけてきた。その声に気付いたシンはゆっくりと声にした方向――後ろを振り向く。
後ろにいたのはやはり女子だった。といってもこの学園にはシンと一夏を除き全員が女なので当たり前なのだが。
10代半ばの女子にして小柄な方で、ツインテールの髪が特徴的だ。改造された肩の空いたIS学園の制服を着ているところから見て、ここの生徒なのだろう。
ところで話は変わるがその少女はシンの後ろに立っていて、上段に立っている為に後ろを振り向くと、まあ……
「……ピンク」
「っ!? な、何見てん……って男!?」
スカートの中が見えたシンはぼんやりと色を言い(何の色かは言うまでもないだろう)、それに少女は慌てながら噛みつくも、男だということに気付いて驚いてしまう。正直面倒に感じたシンは少女のことを無視して部屋に戻ろうとする。しかし、次の少女の発言に立ち止まってしまう。
「何であいつ以外の男がここに……ん? おと……こ?」
「……ちょっと待て」
何か一瞬妙な間があったような……。嫌な予感がしたシンだが、次に少女の言った言葉に嫌な予感は的中した。
「あ、ホントに男だ!」
「おい! 何だよ今の反応!? 俺は男だぞ!」
「いやぁ、肌の色白いし、てっきり女かと……」
「ふざけんな! 公式でも散々弄くられたネタ持ち出してんじゃねえよ! 豆女!」
「ちょっと! 誰が豆よ!!」
「お前だお前!」
「なんですって!!」
そうなってはもはや売り言葉に買い言葉、シンと少女はギャーギャーと言い合いをしだす。ちなみに公式が気になる方は『たねきゃら劇場』でお調べください。かなり酷いです。
それはともかく、一通り言い終わった二人は肩で息をしながら睨めつけあう。それは正に一触即発、目線から火花どころかビームでも出てきそうな感じだ。
先に折れたのは少女の方だ。ふん、と鼻を鳴らすとシンに問いただす。
「それよりIS学園の受付ってどこよ? アンタ案内しなさいよ!」
「はぁ!? 何で俺がそんなことしなきゃいけないんだよ!」
「人のこと豆って言っておいて何よその言いぐさ! 反省しなさい!」
「先に言ったのはお前の方だろ! もう一回女扱いしたらぶん殴るぞ!」
そしてまたギャーギャー言い合う二人。どうにもどこか馬が合わない様である。そして再び疲れて息を荒くする二人。今度はシンが先に口を開く。
「ほら、向こうの角曲がった先だよ! さっさと俺の前から消えろ! このタコ!」
「ふん! 言われなくても!」
シンがそう言って指を指した先に早足で行く少女。いなくなったところではぁ、と息をつき部屋に戻ろうとする。と、そこで少女が再び戻ってくる。
「どこよ、受付! 全然分かんないじゃない!」
「言った傍から出てくんな! あと何であの説明で分かんないんだよ!」
結局その後バカ親切に受付まで少女を案内することになったシン。正直無視して置いていこうと思ったのだが、少女が「案内するまで地獄の果てまでついていくわよ」と言い出したので仕方なく案内することになった。そして二分もかからずに受付に到着する。ホント何で分からないのやら。
「ほらっ、着いたぞ。さっさと行ってさっさと門前払いされてこい」
「そっちこそ、覗きか何かで捕まって追い出されなさいよ!」
「ぐぬぬぬぬぬぬ……」
「ぎにににににに……」
「……あの、さっさと受付すましてもらえませんか?」
「……ふん!」
「……けっ!」
受付の女性に言われてか、お互い悪態を尽きながら目を逸らす。
「じゃあな! 笹でも探しに山にでも行ってろ! んでもって俺の目の前に出てくんじゃねえぞ!」
「そっちこそ、二度と目の前に出てくんな!」
「いいからさっさとしてください。受付占めますよ」
シン・アスカ、凰鈴音、二人はこうして出会った訳だが、その第一印象は二人とも最悪としか言いようの無いものであった。
どうも。パクロスです。「え? アンタ誰だっけ?」と言われかねないぐらいの時間が経過したパクロスです。
いやはや、前書きでも書いたけどスケジュールがきっついきっつい。おかげで最近寝不足気味ですね~。まあそれもあと二週間……二週間!? ……死んじまいそう……。
今回はクラス代表決定戦後日談と言う訳で皆さんが気になっていたその後のシンを書いてみました。やっぱシン、やさぐれ気味になりました。シンの苦悩はまだ続く……というかこの作品自体がシンの苦悩を描いていこうと言った感じですからね。そのせいでドーンと暗く……あれ? なってないな? ネタ発言を入れすぎた感が。
それともう1つ書きたかった一夏君。やたら嫌われてる彼ですが、この作品ではシンとのダブル主人公をこれから書いていきたいところ所存です。なので今回は改めて自分の戦う理由を探す一夏、を書いてみました。これまでただ漠然と家族を守ると言っていた一夏ですが、真に何のために守るのか、何故戦うのか、その理由をよりしっかりと書いていきたいものです。あと一夏の頭の傷ですが、これはまた後ほどのストーリーで書いていきます。こうご期待。
久しぶりの執筆で上手く書けたかどうかわかりませんが、皆さんが楽しめたのなら幸いです。
ではまた次回に。今度は以前にじファンで投稿した時色々と問題作になった回なので色々大変です……。