時に西暦2015年7月30日。その日、全人類の運命は変わった。四国でも、諏訪でも、旭川でも、そして神戸でも。これは神戸に住む少女勇者の物語である。
7月29日、時刻は5時。
「ねえねえ、帰ろーよ!」
帰宅勧誘を元気よくするこの少女の名前は
「いいけど。」
眠そうに勧誘を受ける少女は
「久しぶりに星、聞きに行かない?」
と三人を勧誘する。
「いっつも思うけどほんとパワーワードよね。逆にすごいわ」
といつものごとく感心してしまうのは同級生の鷹村ゆい。
「だーって本当なんだもん!」
星音がグッと握りこぶしを作って目をキラキラさせている。
「ほんっといつもの如し、よねー。」
と呆れているのが原田みのり。
「悪いけど私はパスだね。」
と愛衣が断った。
「うーん私もかな」
「流石に夜更かしはまずいっていうか。」
とゆいもみのりも断った。星音は不満げな表情ではなく、不思議そうにしている。
「明日ってそんな重要だっけ・・・」
「ほしねぇ・・・」
愛衣は呆れツッコミをかました。そして
「「「明日は旅行初日でしょ!?」」」
三人声を揃えて言われてしまった。
時は経ち、夜9時。ヴィーナスブリッジにて
「今日も綺麗・・・」
と座りながら北のほうの宙を見上げるこの星音。昔からよく一人でここに来て星空ウォッチングを楽しむ。そんな生活が10年続いていた。
「そういや今日はあんま聞こえないけど、どうしたのかな?」
星音には、星の音を聞くことができるのだ。キラキラ、ザワザワ、中にはザザーっという波の音まで聞こえる。だが、今日はやけに静かなのだ。
「なんかやな予感するな・・・」
星音は帰ることにした。明日はもっと早く起きて、朝にヴィーナスブリッジに来ようと思っていた。
〜朝4時40分〜
「今日はみんなと旅行日でしょ?5時半までには帰っておいでなー」
と叫ぶ星音の母。玄関の星音は
「わかってるよ!」
と返して靴紐をぎゅっと締めた。
「行ってきまーす」
と言って家を出た。夏で唐突に思い至った日にはこうして朝にヴィーナスブリッジまで行く。
「明けの明星見えるかな・・・」
走りながら呟く。空は既に少し橙色になってきていた。
走ること20分。星音はようやく到着した。するとそこには普段は見かけるが早朝には見慣れない人がいた。
「愛衣、かな?」
「おっ星音だ!明けの明星みにきたの?」
と星音のことを見つけるや否や、星音に話をかけてくるこの少女。愛衣だ。
「うんそうだよ。愛衣こそ明けの明星を?」
「そうそう。なんか夢に出てきてなぁ。明けの明星に声かけられたんよ。」
星音の顔がパアッと明るくなった。
「愛衣も・・・遂に星の音がッ!」
「いや夢だし。しかも話しかけられたし。」
と即座にツッコミを入れた。
「んーまぁ、それでね。ほんとに聞こえないかと思ったけど・・・」
星音の目がまだ輝いている。
「やーっぱなにも聞こえないのよなぁ・・・」
星音はがっくりきた。
「私も最近聞こえなくってさ。なーんでかなって思ってたんだけど・・・」
愛衣と星音は見つめあった。
「聞こえないの?」
「聞こえないの」
ふぁぁぁぁ、っと大きなため息をついた。すると
「あっ、明けの明星!」
と星音が輝く星を指差しながら叫んだ。
「おお・・・」
愛衣は感動していた。
「それで、聞こえた?明星さんの声」
星音は尋ねた。
「声らしきものは聞こえるんだけどなぁ・・・はっきりとは分からん。」
星音はきょとんとした。
「声ってわかるのに何言ってるのか分からん・・・?」
愛衣はぼーっとしている。そして目を瞑った。
「ちょ、どうしたの?」
すると手で制止したのだ。星音は驚いたが、その制止に従った。
しばらく経って、星音は愛衣に話しかけようとした。その時だった。
「愛衣!?」
たじろいで倒れそうになったのだ。星音は咄嗟に受け止めた。
「だ、大丈夫・・・ちょっとクラっときただけだから。」
星音には大丈夫ではないことが、手が震えているのを感じているのことから理解できた。愛衣は星音の手から起き上がった。
「ほんとにどうしたの?」
愛衣は少し考えた。
「なんか、怖いものが・・・」
途端であった。
「地震ッ!?」
大地が揺れたのだ。そして、
「・・・なにあの白い怪物は?」
空から白い不気味なものが出現してきた。星音は恐れた。
「な、なに?なんなの?」
恐るし混乱もする。そして白い怪物は三宮の方に向かって・・・
「まずい!あいつら、人を食べる気だ!」
愛衣がそう叫ぶ。
「なんでわかるの!?」
と星音はすごいものすごい剣幕で愛衣に詰め寄った。
「なんとなく!」
さらに怪物はこの小さな街にも降りてきて、手当たり次第に破壊し始めた。
「このままじゃ、みんな死ぬ・・・!」
星音はこの状況を切り抜ける為の力を欲した。すると愛衣は星音に
「人を守りたい?」
と聞いてきた。
「とにかく今は欲しい!」
この叫びが天に届いたのか、未だ輝き続ける明けの明星は一層輝きを増した。
「力を感じる・・・」
そして、なんとなくだが、力が湧いてきたのだ。
「星音。祇園神社に行こう。そこであの怪物の対抗手段がある筈。」
本当はなんの根拠もない提案である。だが、星音には不思議とその言葉が信じられた。
「わかった。それじゃ失礼して・・・」
星音は愛衣の足と腰に手を回してお姫様抱っこをした。
「ひとっ飛びで行くから。」
愛衣の頷きを確認して大ジャンプした。
「ほんっとにひとっ飛びだっ・・・!!」
着地すると、既にそこは祇園神社の前だった。
星音は愛衣を下ろすと、そのまま走って行って本殿の御神体を確認し始めた。
「まだ、やられてないよね・・・」
星音も近づいていった。すると力の行き先が星音には理解できた。
「感じる・・・」
そして星音の手は遂に、一本の刀に辿り着いた。
「星音、呼んであげて。『星切』って。」
星音は愛衣に向かって一つ頷いた。
「私に力を貸して、『
すると星音の身体が光り出し、星の装束に身を包んだ。
「おお・・・さっきよりももっと力が湧いてくる・・・」
と感動している星音をよそに、愛衣は
「ここにはそんなに怪物はいないから、まず三宮に出てきたやつの対処をして。ここの避難誘導は私がやるから!」
星音は微笑んで愛衣に言った。
「死なない程度にしてね。」
「わかってる。」
星音は超跳躍で三宮まで跳んだ。
だが、既にそこは惨状だった。
「酷い・・・」
星切を強く握るその手は震えていた。底知れぬ『恐れ』と『怒り』を抱いた。少し力を抜き再び力を入れ直し、星切を上段に構えた。
「あったまきた・・・」
足を踏み込むと星切が光を放ち始めた。
「ハアッ!」
という掛け声とともに光力を纏った星切を一撃、怪物の集団めがけて切り払った。怪物はその光の斬撃波に切り裂かれた。
「これなら行ける・・・ッ!?」
頭に激痛が走った。激痛のせいで思考はできない。だが、立ち上がる。
「全部斬り伏せてやる」
痛みを噛み締めながら静かに決意を呟いた。
その戦いぶりはまさに、鬼神の如しであった。切って切って、また切っていく。
「だいぶ、斬ったな・・・」
星音の努力もあって、かなりの数が減っていたのは事実だ。
「アイツらが逃げていく、か」
星音は残りの怪物が街から離れて飛び去っていくのを見届けて、力尽きて倒れてしまった。
「ほしね!ほしね!」
自分を呼ぶ声に気づいてようやく星音は眼を覚ました。天井より覗き込んでいる愛衣の方が先に視界に入った。
「死んだかと思ったよ・・・」
「私は大丈夫。ついカッとなって力使い過ぎちゃった。」
そして周りを見渡すと、少し広めだが殺風景な小部屋にいた。
「あーそれで・・・」
愛衣星音が尋ねようとしたことを汲み取って先に答えた。
「大丈夫。みんな無事だから。」
星音はホッとした。
しばらく経つと、部屋の殺風景さを彩るかのように神官の服を着た人が入ってきた。そしてひれ伏してしまった。
「だれ、ですか?」
星音は尋ねた。すると
「畏れながら、勇者様。我ら神戸大社の者にございます。」
と妙に畏まってくるので
「やめてください。そういうのは慣れていなくって。」
と断っておいた。
「いえ、神様のお力をお受けになったお方のことを尊敬しないということなどありえないのでございます。」
とあっさり跳ね返されてしまった。星音は考えた。この地位をうまく使ってやろう、とも考えた。
「わかりました。では、一つ聞かせて欲しいのですが、三宮での生存者は?」
「1万3091人、全員が地下に避難しております。」
星音は少しクラっときた。少なすぎるのだ。
「手遅れだったってことかな・・・」
と落ち込んでいると、
「いえ。ほかの地域に比べて比較的多くの命を勇者様のお力によって御守りできました。」
と神官の一人が励ましてくれた。
「それでも失われた命はあります。これからは誰一人として失わない、絶対。」
と宣言したが、身体の感覚がほぼ一切ない。だが、少しずつ回復はしている。そこでようやく首に南京錠付きの首輪がつけられていることに気づいた。
「なにこれ!?」
とビックリして叫んでしまった。
「お、お、落ち着いて!人の身に余る力を縛るために星神さまから受け取ったものだから。」
と愛衣が説明すると
「いや、どんな趣味なの!?もっといいデザイナなかったの!?」
神様どうこうの話ではなく、デザインに問題があるらしい。
「制御システムが完成すればつけなくて済むから!」
「いつなの!?」
「わかんないよ!」
と言い合っているが愛衣は少し落ち着いて言った。
「ともかく、星音は星神さまから力をもらった『勇者』で、私が星神さまの声を聞く『巫女』なんだ。」
「そんなの知ってるけど。今更なにを・・・って、アレ?」
星音はようやく自身が勇者であるということ自覚した。順番がおかしくなっているのだ。
「ああ。わたし、最初っから勇者だって勘違いしてたな・・・」
と愛衣には聞こえないように呟いた。
「どうしたの星音?」
「あ、いや、なんでもないよ。」
愛衣はほっとして星音に伝えるべきことを淡々と言い始めた。
「まずは、
聞き慣れない単語がいくつかあるが特に聞き慣れない単語があった。
「『バーテックス』ってなに?」
と尋ねた。
「あの怪物のことだよ。あらゆる生物種の頂点、という意味で付けられたんだ。」
あの力を考えれば納得するしかない。
「あとね、星音の活躍を見てた人がいっぱいいるんだ。それで、なんだけど・・・」
と愛衣が星音に手を握って言った。
「神戸のみんなに演説して欲しいんだ。」
星音はまたもやクラっときた。神官たちの表情を伺ってみる。しかし
(あーだめだ。やるしかない。)
と悟ってしまった。こういう性格なのだからしょうがない。
「わ、わかったけど・・・」
「ありがと〜」
と愛衣が即座に頭を下げて来たので
「ま、まぁ仕方なく、だけど。」
と返した。
「で、原稿はどうしよっか・・・」
と星音は神官たちに目をやった。
「既に出来ております。内容の確認をしていただきたく・・・」
なんと仕事が早いことか、と感服してしまった。
「じゃあ、確認しちゃおっかな。」
あとひとつ、確認しなければならないことがあった。
「愛衣、みんなは?」
すると愛衣は俯いてしまった。表情に霧がかかったこともわかった。
「ゆいもみのりも大丈夫だった、けど・・・」
「けど?」
「國塚家はめちゃめちゃになってた。血しぶきもあったし、多分もう・・・」
星音の頭が真っ白になった。何気ない会話が最後の言葉になるなど、誰が想像しようか。
「星音・・・」
「・・・私だけじゃない。私だけじゃないんだ・・・」
と自分に言い聞かせている。
「そう。星音だけじゃない。でも、」
愛衣の手の中に星音の頭が収まった。
「そんなことがあって泣かない人は冷たすぎるよ。だから泣いて。せめて、今だけは亡くなったお父さんやお母さんのたったひとりの娘として、泣いてあげて。」
すると愛衣は胸が物理的に熱くなって湿ってきたのを感じた。その部屋には普通の少女の泣き声が、ただ響いた。
この日、
はい不定期投稿にします。抱えてるものが多すぎてどーしよーもないのです。ほんっと思いつきで書いてたので。でも今回はあらかじめプロット先に用意してるから大丈夫だと思います。多分。何卒お付き合いくださいませ・・・