青空めざせ!   作:みのるん

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HUNTER×HUNTERにしては危機じゃないかも。

しかし、山に登る人なら絶対に気を付けた方がいいこと。




第2話 危機一髪

その瞬間、カイリは硬直した。

 

───…………、………!!!!

 

頭が真っ白になって思考が働かない。目に入り込んだ恐怖の存在にカイリはどうにか手を握りこみ、硬直状態から脱しようと試みた。

 

黒く、大きな生き物だった。太く力強い四肢を地面に着けてのそのそと歩いている。地面に四肢を着けていても、カイリの背丈より高かった。犬のように鼻が飛び出し、その耳はひょこりと小さく頭の上に着いている。黒い毛皮に覆われたその体躯の生き物は、およそ時速60kmもの速度で走り、人間の頭を前足による横殴りの一撃で吹き飛ばすような力を持っている。

その生き物を、カイリはよく知っていた。

 

 

───クマだ……!!!

 

 

硬直した体にゆっくりと、血が巡り始める。思考がやっと働いてきたことをカイリは感じ取った。

 

カイリは前世、田舎の出身であった。青々と茂る山が子どもの遊び場として選ばれるような田舎である。そんな田舎だから、カイリの両親、学校の先生、ニュースからクマの恐ろしさをよく学んだ。クマというのは臆病で、だから基本的には人間に近づかない。山に登るとき、クマ避けの鈴を持つのは、鈴の音があることでクマが人間の存在に気付き、離れていくからだ。しかし、それはクマが人間より弱いということではない。実際、空腹を覚えていたり、なんらかの興奮状態に陥ったクマは人間を襲うことがある。そして、人間の血の味を覚えたクマは学ぶのだ。この山の麓に、狩るのが簡単で栄養がある上質な餌があることを。

 

 

###

 

 

カイリはこの日、狩猟交友会という大人の団体に着いて回り、山に来ていた。カイリの友達である1つ年下の男の子も一緒である。

狩猟交友会といっても、今日は狩に来ていたわけではない。たまの休日に皆揃って山菜採りに来ていたのである。カイリはたくさん山菜を採って母親に料理を振る舞うつもりだった。

そうして朝から山に入り、大人についてずんずん山奥に進んでいたところ、友達がいつの間にか姿を消していたことにカイリは気づいた。カイリは真っ青になり、その場で大人に友達が居なくなったことを告げ、友達を探しに来た道を走って戻ったのである。着いてきた友達はカイリが誘って山に来てくれたため、その友達に何かあったらと思うとカイリはいてもたっても居られなかったのだ。

そうして、制止する大人の声も聞かずに走って戻り、木々の間で隈無く探していた。背丈の高い草を掻き分け、倒木をひらりとかわして木に手をついたところ、

 

カイリの目に真っ黒い何かが映りこんだ。

 

 

 

###

 

 

もし、クマに出会ったら。

 

 

クマは、鼻をひくつかせながらじっとこちらを見つめている。

 

 

───背中を向けてはいけないよ。クマの目を見て、ゆっくり後ろに下がるんだ。

 

カイリは前世で学んだことを頭に諳じた。心臓の音がバクバクと、クマに聞こえそうで怖かった。ほんの短い間の出来事に背中は汗でびちゃびちゃに濡れている。赤い頬を冷や汗が流れた。

 

大きく手を広げ、ゆっくりと後退する。生憎、クマ専用スプレーは持っていなかった。

 

クマはこちらを見つめている。

 

カイリは側に倒れていた倒木のあたりまで下がった。

 

クマはゆっくりと顔を背けて回れ右をしはじめる。

 

カイリは倒木の後ろに回った。

 

クマがこちらに背中を向けた。 ───その時、

 

「クマだあ!!!!!!」

 

───声、が……。

 

背後から聞こえた大声にカイリは頭が一気に沸騰するのを感じた。

 

 

あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!!!!

 

 

「下がれ!!!!」

カイリが思わず声をあげるのと同時に、クマが身を翻して警戒体制をとった。

 

クマは興奮状態にあった。その凶悪な足で地面を打ちならし、唸り声をあげて威嚇している。突然現れた新たな人間、恐ろしい大声でこちらを威嚇してきた(・・・・・・)人間にクマは興奮していた。

 

ゆっくり下がる!!ゆっくり下がる!!

 

カイリは血が上りきった頭でなんとか走り出さないように自制した。悲鳴を圧し殺した喉がじりじりと焼けつくような気がした。

そして、突然現れた友達に努めて、穏やかに声をかける。

「おちついて聞いてくれ。絶対にさけぶんじゃないぞ。走ってもダメだ。いいか、私の真似して下がるんだ。」

「ご、ごめん……」

 

そして、ゆっくり木の後ろまで下がり、

 

直後、

クマが突進してきた。

 

叫んだ。今度は自制できなかった。

カイリと友達が背中を向けて走り出したのは同時だった。友達が5、6歩程後ろに立っていたのを初めて確認した。

 

「木に登れ!!!飛び移れ!!!」

 

クマが草木を薙ぎ倒すような音が聞こえて、カイリは足が震えて力が入らなくなるのを感じた。そうして涙が出てくる。

カイリは無理やり口角を上げて笑顔を作り、腹から叫んだ。

 

悲しくて涙が出る。怖くて足が震える。

そうではない!

涙が出るから悲しい!足が震えるから怖い!!ならば!泣いてても笑顔だったらそれは楽しいってこと!!!怖いんじゃないの!!!!!楽しくて!!!足は!!!震えない!!!

 

泣き叫んで地面にへたりこみそうな己を叱責しながらカイリは心で叫んだ。無理やりに笑顔を作り、何とか恐怖から逃れようと足掻く。

 

カイリと男の子は同時に別々の手頃な木に飛び登った。スルスルと木の中腹近くまで登り、そして同時に地面を見た。

 

クマが木に突進し、そして登りはじめるのを見た。

 

───友達の木に。

 

カイリは腹の底から叫んだ。

 

「飛び移れ!!逃げろ!!」

 

カイリはクマが木登りを得意とすることを知っていた。

 

クマは器用に足を使ってズンズンと()に向かって進んでいく。

男の子は震える手で木にぶら下がり、勢いを着けてすぐ隣の木に飛び移った。カイリも同じようにして別の木へと飛び移る。

男の子もカイリも、毎日のように山で遊び回っていたため、木から木へと飛び移ることなど朝飯前だった。

今度こそ、2人は背後に目もくれずにピョンピョンと木々を伝って逃げ出した。まさに手に汗握るような逃亡であり、2人はいつ手が滑って───もしくは足が滑って───落ちるかと思って心臓が握り潰されそうな幻覚さえ覚えていた。

 

この時の動きは、きっとチンパンジーにも劣らなかったとカイリは思う。地面に落ちた猿でもなければクマは捕まえられなかっただろう。

 

実際、カイリもその友達もクマに追い付かれずに生還した。

狩猟交友会の大人たちと合流する頃には、日が暮れ始めており、クマも見あたらなかった。

 

もちろん、カイリ達は盛大に叱られた。

勝手に居なくなった男の子は頭に拳骨を落とされたし、勝手に探しに行ったカイリは恐ろしい形相の叱責にボロボロ泣いた。カイリは前世から叱られるのが大の苦手であったため、この説教はカイリにとって効果覿面であった。

 

しかし。と、

カイリは思う。

 

───クマじゃなくて、魔獣だったら死んでたな。

 

クマでさえ、盛大にビビり散らかした。もちろん、クマを舐めてはいけないし、魔獣だって下手を打てば死んでしまう。

 

実地訓練は、役に立った。本当に。これで引きこもってばかりの生活をしていたのなら、きっと今頃クマの腹の中だっただろう。食い荒らされて、適当なところで残されて他の野生動物に摘まみ食いされるのが落ちだった。

 

───対策が必要だ。

 

カイリは考えた。最低限、自分を守れるだけの戦闘力が必要だと。自分の武器を考える必要があるのをカイリは学んだ。

また、知識も必要だ。クマだって、目を見て下がる以外の方法があるかもしれなかった。逃げるためには知識がいることを、カイリは知った。

 

 

ハンター試験に受かるためには、もう少しよく考える必要がある。

 

カイリは深く頷いた。

 

 




第2話 完

楽観的思考の修正回。ただし、本質的な楽観さと怠惰は直らない。ハンター試験は受かりますように。

クマ対策
1.鈴か何か、音が出るものを装備したうえで登山する。
2.遭遇した場合。
こちらの存在を知らせ、穏やかに声かけしながら、大きくてを振ってゆっくり後退
3.近づいてきたら、リュックを囮にして後退。
クマは威嚇の時、突進して寸止めすることがある。しかし、威嚇が攻撃になることがある。

ジェームズ・ランゲ説
刺激→身体変化→情動 の順で感情が成り立つとする説。
悲しい映画見た→涙が出た→だから悲しくなった
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