青空めざせ!   作:みのるん

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山の中にはロマンがいっぱい。




第4話 確実な一歩

そこは山の上だった。山中には開けた空間が多くある。若草の絨毯が敷かれたその広い原っぱは、山に登るための舗装道路を逸れた所にあった。その場所は風の通りがよく、海と白い街が重なる絶景を見ることができる、地元民にとっての穴場だった。

夏の湿気をはらんだそよ風が若草を撫でる。カイリは、原っぱの隅っこに立っていた。

時刻は午後を過ぎ、もうすぐ夕刻に差し掛かるところだ。太陽は西に傾き、空は薄桃色に照らされている。

 

カイリの手には、長い紐が握られていた。その紐は、カイリの両手を広げた程度の長さで、中心には長方形の革がくくりつけられている。片方の紐の先は輪の形に結ばれていて、ちょうど指1本が入るようになっていた。

カイリは結ばれた輪に右手の中指を通し、もう片方を同じ手にしっかり掴む。紐を垂らし上皿の形になった革に、拳より一回り小さな石を挟み込む。そして紐を回し始めた。

風を切る音がカイリの耳元で響き始める。挟み込まれた石は遠心力によって飛ばされることなく革に収まっている。右側で一回転。左側で一回転。正面でバツ印を描くように紐を回転させてから、カイリは掴んでいた紐の先を手放した。

 

カイリの右手の中指に紐を通してあったことで、その道具(・・)は飛ぶことなくカイリの手元に残り、代わりに革に挟んだ石が、カイリの正面、的を取り付けた木に向かって飛んでいく。

 

バン、と音が鳴った。

 

「当たった!!!」

 

その石は見事に的を貫いた。紙でできた的を容易く貫いたことにカイリは笑顔になった。

 

 

###

 

 

投石器、という飛び道具がある。

これは石を遠くへ投げるために発明された紐状の道具であり、害獣の駆除や戦闘で使われてきた最も原始的な飛び道具だ。

また、旧約聖書ではダビデが巨人ゴリアテを討伐する際にこれを使用したことが記述されている。石以外の物を投げることも可能であり、弓矢よりも製造、弾丸調達、習得のしやすさにおいて優れている。安価であり、対象に気付かれにくいという利点から現代でもいまだ現役の武器だ。

さらに、威力においても申し分ない効果を発揮する。投石の非習得者が投げても弾丸は時速100kmを超え、熟練者が投げると最低でも骨折や重度の内出血、最悪の場合即死する。打撃武器であるため、兜や甲冑の上からでも軽くない負傷を負わせることが可能だ。飛距離も長く、歴史上のバレアレス諸島における戦場では、投石兵が投げた弾丸は200m以上飛んだことが分かっている。

 

 

###

 

 

カイリはこの日、平日の放課後にまっすぐこの場所に来ていた。木に囲まれていて、学校のグラウンド程の広さがあるこの場所は、投石器の練習に最適だった。

子ども達が野球に夢中になっていた所を見たカイリは、ピッチャーが投げるボールの威力に目をつけた。実をいうと、カイリは前世、野球のボールに当たったことがある。カイリがブランコで遊んでいた時、ブランコが前方へ向かって上がりきったところにちょうどボールが飛んできたのだ。ちなみに、ボールは足のくるぶしに直撃した。これが本当に痛かったことをカイリは覚えていた。

 

よって、カイリは人間が物を投げる威力に着目した。ボールを投げても相当な威力に上るということをカイリは身をもって知っていた。では、このボールを石に変えるとどうなるのか。カイリは図書館でパソコンを借りて調べることにした。そして、カイリは新しく知ることになったのである。古来から使われてきた武器、投石器の存在と想像以上の攻撃力を。

 

 

###

 

 

すっかり日が暮れて、空が暗くなってきた頃。カイリは足早に帰路に着いていた。

───夢中になりすぎたなあ。

石を投げるのが思った以上に楽しかった。武器の練習ではあったが、的当てゲームのようでカイリはドキドキとした緊張があった。そのため、時間を忘れて楽しんでしまったのは痛かったが。

ピョンピョンと木々を伝って駆けていく。時間があまりにも遅くなってしまったので、カイリは山を突っ切ることにした。正規の道路に戻って街を通って家に帰るのでは時間が掛かりすぎる。山を通るのは慣れたもので、カイリの足取りに不安の色はない。

───今日の夕飯は何かなあ。

ぼんやりと考え事をしながら木を伝い歩く。辺りに太い木がなくなった所で、飛び降りてカイリは地面に足を着いた。

 

───。───。

 

その時、カイリの耳に何か(・・)が聞こえた。

なんだ?オオカミか?

確かに、それは遠吠えの様であった。遠くから何かが聞こえる。

 

───。

また、聞こえた。さっきより近い。

オオカミだったら、ちょっと不味いかもしれない。カイリが早く山を抜けようと、走ろうとしたところで、左からガサゴソと音がした。驚いて左を向くと、黒い何かがいる。暗闇に染まってよく見えない。カイリが警戒して後退りながら目を凝らす。すると、その何かがカイリに寄ってきて、その姿が月に照らされた。

 

それは、イノシシだった。まだ若い。牙が見えないことから、恐らくメスだろう。

 

───オオカミじゃ、ないな?

 

イノシシだって十分、危険だが。

イノシシは耳が立っていて、忙しなく鼻をならす。カイリの姿を確認すると、用はないと言わんばかりにカイリの横を素通りして行った。

 

───。

 

またしても遠吠えが聞こえた。すると、先ほどイノシシが出てきた草むらから今度は鳥やタヌキ、それらが押し潰されそうなイノシシの大群が現れた。

「は!?」

途端に騒がしくなった山に気圧されるようにカイリは後退るが、動物はカイリを綺麗に避けていく。目もくれずにカイリを置いていく。

 

そしてカイリは気が付いた。何か(・・)が近づいている。

───こいつら、逃げてるんだ!!!

 

 

────!!!

 

 

カイリが理解した次の瞬間、轟音が訪れた。

 

 




第4話 完

轟音の正体は次回。

ちなみに、ブランコのくだりは体験談から。
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