秋だった。
薄い青色のペンキを溢した空に、鰯雲が浮いている。気温は低く、白く輝いている街には長袖を着る人が多くなっていた。
山は赤く色付いている。青々とした緑に混じった、炎のような赤色は、山を美しく飾っている。
カイリは今日、ある公園で待ち合わせをしていた。時計は9時を指していて、鳥の鳴き声が響いている。カイリはベンチに座り、本を読んでいた。それはファンタジーを題材とした児童小説で、最終章の第7巻だった。カイリは集中して読んでいる。指が最後のページを捲り、目がじっくりと文字を追う。そして、深く息を着いて、カイリは本を読み終わった。
トントン。
その瞬間、カイリは肩を叩かれて飛び上がった。一気に鼓動が早くなり、冷や汗が出る。しかし、肩を叩いた人物をカイリは知っていた。
「おはよう。……待たせたか?」
「ぃいや待ってない、おはよう。……ねぇ、わざと背後とってる?」
今日も、灰色のパーカーにフードをすっぽり頭から被ってる。褐色の少年が首を傾げるのを見て、カイリはため息を着きたくなった。
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図書館の一件以降、カイリはこの少年に並々ならぬ感謝と尊敬の念を抱いていた。しかし、カイリはこの少年の名前を知らないことに気付いた。1週間近く会っているのに名前を聞こうともしなかった自分が恥ずかしくなったが、生憎なところ入れる穴はなかった。
そのため、カイリはいつも通り図書館に訪れると、少年に礼を言い、名前を聞くことにした。
顔が見えない少年は、なんとなくしょっぱい顔をしていた気がする。けれど、すぐに口元を緩ませて答えた。
「……俺はジャック・ラングトン。改めてよろしく。君の名前は?」
「カイリ・ウォルグ!あの、それでなんですけどもね………。」
カイリは言葉を続けようとしたが、カイリが言葉を紡ぐ前に少年───ジャックは言った。
「……それでなんだが。自己紹介したし、友達になってくれないか。」
ジャックは困ったように俯いている。カイリは目が丸くなった。しかし、すぐに笑顔になった。ジャックがカイリに頼んだことは、カイリが頼もうとしたことだったからだ。どうやら、2人共口下手らしいことに気がついて、そしてジャックが照れているらしいことにも気がついて、カイリは即答した。
「いいよ!!!!」
そして、しばらくして2人の間に敬語はなくなった。カイリはジャックとよく遊ぶようになり、母親はそんなカイリを見て笑顔になった。しかし、カイリがジャックと遊ぶようになるにつれて、カイリには疑問が湧いて出てきた。他の友達───近所の子どもや、学校のクラスメイト達───が中々カイリと遊ばなくなったのだ。これにはカイリもほとほと困り果てた。友達とあまり遊んだことがないというジャックのために、大人数で遊ぼうと思っても全く人が集まらないのだ。例えば、街の中央の公園にはいつも10数人程の子どもが集まって遊んでいる。しかし、そこへカイリがジャックを連れて遊ぼうと言うと、決まって「今日は用事があるんだった」と言っていなくなるのだ。30分も経てばまた遊んでいるのに。
もしかしたらと思って、ジャックに「何かした覚えがないか」と聞いたが、ジャックは何処吹く風と聞き流した。
───フードが悪いのか……?
そうは思っても、顔に怪我でも隠していたらジャックは困るだろうと考え、フードについては触れないことにした。
そして結局、カイリはジャックとしか遊ばなくなった。
そんな日々が続いたある日、カイリとジャックが山の原っぱに的を作って的当てゲーム───投石のことだ───をしていた時に、ジャックがポツリと呟いたのをカイリは聞き逃さなかった。
「カイリって、ハンターになりたいんだっけ。そういえば、俺の保護者がハンターだって言ってたよ。」
これを聞いたカイリは絶叫した後、ジャックに何とかそのハンターに会ってアドバイスが貰えないかと詰め寄った。了承は得たが、ジャックが終始、目を白黒させていたことには反省した。
斯くして、冒頭に戻る。
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「こんにちは。君が…………………………………ハンター志望の子か?」
反応が失礼だとカイリは思った。しかし、カイリはちゃんと自分の年齢を知っていたため、すぐに補足した。
「はいそうです。でも、今じゃなくてもっと年重ねてから受けたいんです。」
安心したように、あぁなるほどと呟いている女性が、ジャックの保護者のハンターらしい。長い金髪をポニーテールにし、黒いフォーマルパンツに白いワイシャツを着ていた。
場所はジャック達が宿泊しているホテルの一室だった。長いこと居座っているようだが、従業員がこの女性にヘコヘコと接待しているのを見て、カイリは改めてハンターという職業を理解した気がした。
一室には、ハンターの女性と、女の子───年下だろうか───と、質問に来たカイリ、案内したジャックが集まっている。
カイリは女性に促されて、テーブルを囲んで4つあるイスの1つに座り、女性はカイリの対面に座った。ジャックはカイリの隣に、女の子はお茶を入れてから女性の隣に座った。
「さて、自己紹介をさせていただこう。私は幻獣ハンターのアルフレッド・アルジャーノン。……本名は違うがな。この街には密猟者を追って希少な動物の保護に来たんだ。仕事は終わっているが、しばらく滞在していると思う。……それで、君は何を聞きたいんだ?」
女性にしては低く落ち着いた声で、アルフレッドは聞いた。カイリは幻獣ハンターという言葉に一瞬、あの肉食獣が頭に浮かんだが、すぐに背筋を正した。
───男性名繋げてないか?語呂が良かったのかな。
「私はカイリ・ウォルグです。あの、ハンター試験の詳細というか……やるべきことと、気を付けるべきことについて聞きたいんです。」
アルフレッドは顎に手を当てて考え込むと、カイリに言った。
「やった方がいいことなんて山ほどあるが……。まぁ長話も何だし、お茶でも飲んでじっくり聞いて行くといい。」
それを聞いたカイリが、一言ありがとうございます、と言って目の前のお茶に口をつけた。
「アウト。」
───え?
「気を付けるべきことは……、そうだな。人から物を受け取らないことだ。」
「はあ?」
「それから、話の裏を読むこと。言われたことをそのまま鵜呑みにするバカは失格だな。考えるのが苦手なら、まずは相手の行動を見ることに注視した方がいい。または、他の人間の行動をな。
───そら、見てみろ。私と、そこにいるジャック、隣のコイツもお茶に手を付けていないだろう?」
カイリはお茶を吹き出しそうになった。急いで席に着いている人間を見た。ジャックは口元に苦笑いを浮かべているが、お茶に手を付けてはいない。他の2人も同様だ。
「……え、お茶に何か入れたんですか。」
「いいや?何も
カイリは震えながら尋ねたが、この女はニヤニヤと楽しそうにカイリに言った。カイリは一気に背筋が冷えた。
───まてよまてよまてよ?
話の裏ってことはこの人本当にお茶に何か仕込んだの?
カイリの心情はもはや嵐のように吹き荒れていたが、カイリはふと気付いたことがあった。
「いや、
そうだった。アルフレッドはお茶を入れてなんかいないのだ。お茶を入れたのは───隣の女の子だ。
「
「ちなみに、何も入れてないのは本当だ。ちょっとしたドッキリだな。でも、この方が覚えるだろう?」
そう言って、アルフレッドはニヤリと笑った。悪ガキみたいな笑顔に、カイリは睨まずに居られなかった。
しかし、やはりカイリは聞きに来たのは正解だと思った。ハンターから直接話を聞くことは、確かにカイリの血肉になって命を生かすだろうということが、カイリには分かっていた。
第7話 完
先輩から助言を貰うのはどこの世界でも大事。
この体験はきっと生きるだろう。