東方Exproject   作:もずもず

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第一章


「昨日、変な夢見たのよね」

 

 縁側で茶をシバいていた霊夢が、突然口を開いた。

 

「へー、どんな夢だ?」

 

 興味なさげに聞く魔理沙に、霊夢は気にもとめず、昨日見た夢の内容を語りだした。

 

「いつもどおり、暴れまわる妖精や、妖怪を退治していく夢なの」

 

 霊夢の口から語られた夢は、ちょっと小石を小突いたら出会えそうな、そんな別世界の話だった。

 

「一つ違う事があってね」

 

 だが、そんな話が現実にはありえないことは分かりきっている。けれど、その話はとても魔理沙の好奇心をくすぐった。

 

「いつもは、殴って蹴って退治するじゃない? でも夢の中では、何ていうか、弾幕を張ってたのよねー。それを躱して、相手に弾幕を当ててっていう……ゲームみたいだったわ」

 

 霊夢は、生まれつき霊力やそれに準ずる力を持たず育ってきた。つまるところ、『程度の能力』の恩恵で空は飛べるものの、それ以外の人外が持つような特殊な力などはなく、生身の人間でありながら、『博麗の巫女』として幻想郷の治安維持という大役を担っていた。

 母の顔も覚えておらず、幼い頃は魔理沙と、半分幻想のような妖怪の顔しか見ておらず、およそ教育というものは何一つ受けていないが、戦闘的センスだけは一流で、幻想郷でも粋を集めた強さだった。

 それ故に、幻想郷の治安維持を生業としている博麗の巫女の仕事も務まるのだ。

 

 

「へーそりゃ面白い」

 

 ミニ八卦炉を弄びながら、魔理沙が相槌を打つ。

 

「だけど、私、空飛ぶ以外何も出来ないじゃない。弾幕なんて張れないし。不思議な感覚の夢だったわ……」

 

「じゃあ、その感覚とやらを忘れないうちに、やってみようぜ」

 

 唐突な話題の切り替えに、一瞬困惑する霊夢。そんな霊夢をまた無視して、境内に立ち上がる魔理沙は箒を手に取った。その姿を見て、霊夢は掃除でもしてくれるのかと淡い期待を張り巡らせたのだが、現実はそう甘くなく……魔理沙は、境内を見渡して、

 

「お前の弾はそれだ。私は、大人気なくバリバリ魔法を使わせてもらうぜ!!」

 

 手入れされていない境内には、数え切れないほどの小石が落ちている。魔理沙はそれを拾い上げ、霊夢に向かって渡すように投げつけた。

 

 霊夢は手に飛んできた小石を見つめ、先程言われた言葉を反芻していた。これが、弾? つまり、魔理沙の言いたいことは、霊夢は小石で戦って、魔理沙は魔法で戦うと?

 

「はっ? ちょっと待ちなさ――」

 

 理解した時にはもう遅く、魔理沙は箒に跨って、その背後には魔法――弾幕が待ち受けていた。

 

「待ったなし、降参するか墜落したほうが負けだぜェ!」

 

 突風を巻き起こしながら高く飛び上がる。

 

「行くぞっ! 霊夢。スターダストレヴァリエッ!!」

 

 吹き上げる風に帽子を奪われないように強く抑えながら、魔理沙は既に出来上がっている弾幕を霊夢に向かって放つ。

 

「ちょちょちょ、こんなの、どう避けろって――」

 

 一瞬の間も与えず、目の前に迫りくる弾幕に対処が追いつかず神社手前で爆発した弾幕の衝撃をその身に受けた。

 轟音と、砂埃が立ち込めて。数旬の平穏が魔理沙に訪れた。

 

「不意打ちが過ぎたか? 霊夢はそんなタマじゃないと思ったんだが……」

 

 魔理沙の弾幕を避けることも相殺することも敵わず、霊夢は倒れてしまったのだろうか。

 予想外の結果に、魔理沙は困ったふうに頭をかく。

 

 だが、魔理沙の幻想をぶち壊すように砂埃の中から霊夢の姿があらわれる――霊夢を視認した瞬間には霊夢の手に持ったお祓い棒が魔理沙の頭上に掲げられていた。そしてそのまま振り下ろされる。

 魔理沙はとっさに、手に持った箒を頭上へ。既のところで防御をする。木と木の触れ合いとは思えないほどの鈍い音が鳴った。

 

「おいおい、ちょっとしたじゃれ合いじゃないか……そんな怒ることないだろ?」

 

 魔理沙の冗談めいた物言いに相反するように、霊夢の振り下ろしたお祓い棒にはどんどん力が込められる。

 殺意の籠もった目で、霊夢は魔理沙を見つめる。

 過去を遡って思考を巡らせても、どの行動が逆鱗に触れたのか分かりもせず、魔理沙はただ折れそうにミシミシと鳴っている箒で耐え続けていた。

 

「あんたのせいで、私の家が崩れそうになったじゃない!」

 

 開幕に撃った魔理沙の弾幕は、どちらかといえば霊夢を攻撃するという目的ではなく開戦の合図の代わりに撃ち出した。それ故、博麗神社の縁側に座っていた霊夢の少し前、境内に向けて撃った。だから神社に被害は無いまでも、寸分でも目測を誤れば神社はたちまちに半壊していただろう。

 そのことに激高しているらしい霊夢に、魔理沙は驚きと、呆れを感じられずにはいられなかった。

 

「はぁ~? 全く、お前の衣食住に対する熱意はもっと別の場所に向けるべきじゃないか!?」

 

 箒とお祓い棒での鍔迫り合いが長く続いた。業を煮やした魔理沙が、先に動く。

 

「くっそ、そっちが本気なら、私だって……ブレイジングスタァーーーーッ!!」

 

 全く力を弱める気のない霊夢を、魔法で箒をブーストして、振り払う。

 大ぶりで霊夢を押しのけたので、スキが生まれた魔理沙の顔に、小石が飛んでくる。

 

「夢想封印!(物理)」

 

 霊夢が夢想封印と称した小石を食らって、一瞬目を閉じてしまう魔理沙。その一瞬で、霊夢は魔理沙の箒に手をかける。そしてそのまま魔理沙を足で踏みつけ落下させ、顔面から地面へ打ち付けようとする。

 

「――ッそ、負けるかッ」

 

 魔理沙が視界を取り戻す、しかしすでに魔理沙と地面の距離は人一人分。押し返すことも間に合わず、霊夢も勝ちを確信したその瞬間。

 霊夢の横に箒を持ち上げて、何をするかと思えば箒に魔力を込めて空気に刺す。その場で鋼鉄の壁に突き刺さったかの如く静止した箒を支点にして、魔理沙はするりと霊夢の下から脱出し、今度は魔理沙が霊夢の上にのしかかる。霊夢の背中に乗り込んで、地面に衝突させる。衝撃と轟音が鳴って、地響きと土埃が立ち込める。

 

 砂埃が晴れたとき、魔理沙の目の前には霊夢がおらず、地面。魔理沙が地面に突っ伏していた。

 霊夢を押しつぶした感触もなく、相打ちではないことが分かると、魔理沙は縁側を見る。

 

「……ふぅー」

 

 そこには、湯呑を持って一息ついた様子の霊夢がいた。

 

 立ち上がって、砂を払ってから、霊夢の横に座る。

 

「……やめさせてもらうわ」

「ありがとうございましたー」

 

 ひどい負け方についこれまでが冗談だったのかのような締め括りをしてしまった。

 

 

 

 

「で、なんで私が噛ませになったんだ?」

 

 魔理沙の言いたいことは何となく分かるので、ツッコミも入れず簡潔に述べる。

 

「同じことしただけよ。簡単なこと」

 

 魔理沙がいつの間にか、地面とキスする自体になっていたことに対しての説明を求めているので、湯呑にまた中身を注ぎながら、簡単なことだと口にする。

 魔理沙が箒を使い霊夢の下から脱出した時と同じことを、霊夢も落下のさなか魔理沙の身体をつかって、上下入れ替わった。ただそれだけのことだと、霊夢は言った。

 

「……あーそうかい」

 

 答えを聞いても魔理沙は、不服そうな顔をして、霊夢が注いだ湯呑を奪い取って飲み干す。

 魔理沙が上下を入れ替えた時は人一人分の隙間があった故に、不意を付けば簡単に行えた。

 だが、霊夢が下になった時。地面との距離はもう数センチとなかった。その状態で同じことをやってのけたと。

 同じことだとしても、魔理沙の時とは制限時間も難易度が段違いだと。言ってやりたかったが、言ったら負けを認めることにもなるのでやめた。

 

「これで勝ったと思うなよ!」

「勝手にどうぞ」

 

 一つしか無かった湯呑が、魔理沙の手にあるので、渋々立ち上がる霊夢。もう一つの湯呑を持ってこようと奥へ引っ込んでいった。それと同時に神社へまたもや常連の珍客がやって来た。

 

「れいむ! アタイと勝負しろぉ!」

 

 ひんやりと涼しい風が、境内を吹き抜ける。

 

「ようチルノ。久しぶりじゃないか」

「あっ、まりさもいる! まりさも勝負だ!」

 

 また珍客が来たと、霊夢は額に手を当て、ため息をつく。氷の妖精。チルノ。魔理沙と並び立つ面倒くささを持つもう一人の常連客だ。茶は嫌うが、気づくとお菓子を食い漁っているので霊夢の中で害獣に指定されている。

 

「お、いいぜ。ちょうどヒマしてたところだ」

 

 立ち上がって、どこに仕舞っていたのか手品のようにニミ八卦炉を出現させる。

 

「いいどきょうだな! 今日こそアタイにひざまづかせてやる!」

 

 チルノは立ち上がった魔理沙に、狙いを定めて息を吐き出す。

 

「アイシクルフォール!」

 

 無数の氷の刃が集合して、魔理沙に向かって飛び交った。

 

「へっ、数ある攻撃はバラけさせないと――」

 

 セリフ途中、魔理沙に無数の刃が接近し、爆発する。砂埃を巻き上げて、無傷の魔理沙が姿をあらわす。

 

「意味ないぜ?」

 

 チルノの氷の刃が集弾するので、魔理沙は極限まで近づけて爆発させた。

 

「次はこっちの番だぜ――喰らえッ。マスタァーーーー」

 

 そうしてさっきの霊夢戦の憂さ晴らしか、いつになく全力の魔力を溜め出す魔理沙に、

 

「やめなさい。余波で神社が崩れたらどうするの」

 

 霊夢が湯呑で魔理沙をスコーンと撃ち落とした。

 

 

 

「さっきは無粋な邪魔がはいっちまったな。ノーコンテストだぜ」

「アタイ、またまりさにいどむから!」

「いつでも挑戦待ってるぜ」

 

 魔理沙はチルノの頭を撫でながら、帽子の鍔を人差し指で持ち上げて。

 

「来いよ、高みへ……」

 最近香霖堂で立ち読みした本の内容を真似してみた。

 その魔理沙にチルノは目を輝かせ、

「か、かっこいいー……」

 見惚れていたようだった。

 

 

「ねぇ」

 

 台所から戻ってきた霊夢が、湯呑を乱暴に置く。

 

「いつまで居座る気よ」

 

 いつも、約束もなしに突然神社に上がりこんでは神社を荒らして、時には破壊して帰る魔理沙。そんな魔理沙に霊夢がそう言うのは当たり前でもあった。だが、

 

「まあまあそう言うなよ霊夢」

 

 言われてもなお魔理沙はしぶとく居残るので、すでにただのお約束と化していた。

 

「ほら見てみろ、今日は雲ひとつ無い青空だ。お前もこの青空のように広い心を持つといい」

 

 そう言って空を指差す魔理沙の指の先には確かに、雲ひとつ無い青空が広がっていた。

 いや――

 

「ちょっと曇ってるわよ。あの……霧の湖の方――」 

 

 魔理沙の言葉に言い返すだけのつもりだったのだが、指差した方向に魔理沙が「そんなバカな」と振り返る頃には――雲が広がって、息を呑むヒマも無く幻想郷中を覆ったのだった。

 

 

「何だこりゃ。夕立にしては特殊な雲だな」

 

 二人は広がった雲を眺めながら、幻想郷が危機にさらされるであろう、予兆を。

 

「確かに雲、いや……霧?」

 

 異変の胎動を感じていた。





【あとがき】

ここで本編の尻拭いをしていきたいと思います。本編で説明不足な単語やキャラ設定独自設定などを垂れ流す場所です。

今回は……特に無いかな?
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