東方Exproject   作:もずもず

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 幻想郷中に赤い霧が広がっていく。その霧は太陽さえも飲み込んで、幻想郷から陽の光を奪った。霧を晴らさなければ幻想郷はこれから永遠に陽の光を拝めなくなってしまう。

 

「とりあえず……調べなきゃいけないのかしら」

 

 この霧が偶然発生したものなのか、それとも作為的に発生させられたものなのか、もし後者だったら面倒なことになるとか様々な思考を巡らす霊夢。とは正反対に何も考えていない魔理沙は、最初に霧が見えた方へ向かって、箒に跨り、

 

「霧の湖の方から発生してるらしいな! 行くぞ霊夢!!」

 

 一気に彼方へと飛んでいった。既に米粒程度のサイズになった魔理沙を霊夢も追いかけようとしたその時、

 

「アタイも連れてって!」

 

 これから遊園地に行くと思っている子供のように、目を輝かせながらチルノが言い出す。

 

「駄目」

 

 袖を掴んでいたチルノを払い除けて、赤空へと飛び立つ。しかし。

 

「つーれーてーけー!」

 

 チルノが手を振ると、霊夢の両手が氷塊に捕らわれる。

 

「ちょっと! 外しなさいよ!」

 

 博麗神社の柱に氷塊を壊そうとぶつけながら霊夢が言う。そんな霊夢にチルノは舌を出して下まぶたを引き下げた。

 

「べ~! やぁだよぉ!」

「こんの、悪ガキジャリ妖精!」

 

 霊夢とチルノが激闘を繰り広げている間に、既に霧の湖に接近していた魔理沙は赤い霧が渦巻く霧の発信源を見つけた。

 

「あそこか……」

 

 霧の湖の少し奥に、この前までは見なかった赤く大きい洋館がそびえ立っていた。

 

「どうやら、あそこから霧が放出されているみたいだな」

 

 饒舌な説明口調だったことに気づき、口を噤む。心まで噛ませ犬になってしまうことに恐れたのだ。

 口を閉じて、目も閉じる。竹箒に魔力を込める。

 目測では五十メートルほど。目標は赤い洋館前に構えた門。それを突き破りながらスタイリッシュに訪問してやろうというイメージが魔理沙の脳裏に映っていた。

 アタリをつけて、溜めた魔力を放出――一気に流星のごとく飛び出す。

 風も置き去りにするほどの速度で、目標まで残り五メートル。するといきなり、魔理沙と門の間に人影。――チャイナ服の少女が現れる。

 

「ここから先は進ませない! 私こそが、ここ紅魔館番人!」

 

 急ブレーキで箒を止めようと思ったが、突然現れたことと、箒が魔理沙の抑えきれない速度まで加速していたことから、激突は必至だった。

 

「んなっ、危ないぞッ! どけどけ、どいてくれー!!」

 

 魔理沙必死の訴えも、紅魔館門番の紅美鈴には届かない。

 

「ふっ、その程度。この紅魔館門番、紅美鈴の敵じゃあないよ!!」

 

 迫りくる箒を真っ直ぐ見据えて、拳法を思わせ構える。スローモーションにも見える動作で箒に照準を合わせると、箒先端に掌底を当てて箒の軌道を逸らす。ということを妄想していた美鈴は、魔理沙の箒との距離が一メートル以内に接近した際に悟る。

 

(あ、駄目だこれ)

 

 そう確信はしたが、一応箒の先端に掌底は当てた。しかしそこからは予想通りに美鈴は箒に押し負け轢かれ、魔理沙は操縦不能になった箒と共に紅魔館の庭園を荒らし回って、館に大穴を空けながら墜落した。

 

 

 

「っう~……ここはどこだ?」

 

 玄関からお邪魔するつもりだったのに、壁を突き破って入ってしまった。痛みが響く頭を抑えながら、近くの瓦礫をどかして立ち上がる。

 そこには、右も左も本。本。本。どこもかしこも本だらけで、目がくらむような光景が広がっていた。魔理沙にとっては宝島のような感覚で、近くの本棚から一冊を抜き取って、懐にしまい込む。

 その瞬間、魔理沙の立つ床にヒビが入り、そこから水が吹き出してきた。うねって魔理沙の体にまとわり付いてくる。気持ち悪い水を跳ね除けようとするが、そもそも水であるので掴むことはおろか触れることさえ出来ない。

 

「くそっ、離れろ!」

 

 肩まで侵食してきた水を、魔法の熱で蒸発させる。じゅうじゅうと音を立てて、襲ってきた水が水蒸気になり宙に浮かんで、消える――かと思えば、水蒸気が一斉に魔理沙の体の上に落下してきた。

 

「痛っ――――ぐっ!?」

 

 その水蒸気は、羽虫のように小さく、しかし針のように鋭く、そして岩のように重い。水蒸気ならと、風で飛散させようと試みるも、その重量も痛みもどこにも消えなかった。水のような性質を持つのに、質量密度ともに水とはかけ離れすぎていた。

 

「くそっ……誰だ、こんなことしやがるのは!」

 

 水が体に突き刺さっている感覚に、それならと魔法で体表温度を限界まで上げる。水が蒸発して体の自由を手に走り出す。しかし一瞬でまた水に体を拘束される。また熱で体の自由を取り返す。

 一瞬だけ動いて、すぐに捕まる。何度もこれを繰り返して、敵を見つけ出すというゴリ押し戦法も考えたが、水の拘束を解くために魔理沙は一瞬自らの体表を水が蒸発するほどまでに熱している。こんな芸当、普通の人間である魔理沙に、そう何度も出来ることてはなかった。

 もってあと、五回ほどだろう。限界尽きる前にこの水の消し方。もしくは元凶を突き止めてぶっ飛ばす。

 

 魔理沙は熱した身体とともに頭を冷やす。そしてある違和感に気づく。さっきから魔理沙の身体を捉えるこの水は何度も同じ魔法ばかりだ。少しぐらい対応して別の魔法でも良いはずなのに、そんな素振りは少しも見せない。つまりこれは範囲の中にいる者を何らかの方法で選別し攻撃する結界なのだと推測する。

 

 今、突き刺さっている水の魔法は何かをターゲットに魔理沙を追っている。この図書館に入ったものを攻撃するという結界なら手出しが出来ないが、例えばそう魔理沙の持ち物に反応して攻撃を仕掛けてきていると考えると一つ、魔理沙の懐には最初に仕舞い込んだ本がある。

 それが魔理沙を敵と判定する印となっているのだ。それなら捨ててしまえば良いと考えるのが普通だが、魔理沙は拒否する。

 

「私は、一度手にしたものは絶対に手放さないと決めてるんだ!」

 

 魔理沙は、本を強く握りしめる。水が肉に食い込んで、貫きそうになっていく。

 もう一度、体温を上げる。突き刺さっていた水が水蒸気になる。しかしそれも一瞬のこと、すぐに水の針となって降り注ぐ、その一瞬の間、水蒸気が水に変わる前、ミニ八卦炉を上にかざして火をつけた。

 

「――これで、水蒸気は熱波に押されて上に留まり続ける。勤勉なまりちゃんの勝利だ!」

 

 ミニ八卦炉の上で、水が蒸発して戻ってを繰り返している。

 

「よし」

 

 この結界を張った張本人を探す。返事も無ければ痕跡も残っていないので、闇雲に図書館の中を歩き回る。

 道中何度も結界に踏み入り足止めを食らったが、その都度に攻略し脱出していく。

 

 そして――図書館の最奥地に踏み入れる。その時、

 

「ただの人間が、ここまでこれたことは褒めてあげる……だからそこから先には踏み入らず、とっとと帰りなさい」

 

 本棚の奥から、か細い声が聞こえて来た。

 声に反応して一瞬でミニ八卦炉をその方向に向けるが、今の所敵意は感じられなかった。中立の雰囲気。しかし、本棚の奥から膨大な魔力を感じる。この先に居るのは確かに魔法使いだった。

 

「もし、この本棚をぶっ壊して、そっちに行こうとしたらどうなるんだ?」

 

 自分以外の魔法使いなど見たこと無い魔理沙が、興味を抱くのは至極当たり前のことだった。

 魔理沙の言葉に、一瞬間を置いて、ため息をつくのが聞こえた。

 

「帰りなさい……と言ったのが悪かったかしらね。死にたくなければ、帰れ。人間」

 

 脅しのような口調に、鳥肌立つ。その瞬間。

 本棚から本が散弾銃のように飛び出る。

 

「あだだだだっ」

 

 厚く、重い本が息継ぎするまもなく魔理沙の身体に打ち当たる。

 痛いだけで目くらまし程度にしかならない本の拡散弾は、攻撃ではないと察する。事実、魔理沙に当たった本は魔理沙の背後に集まり、自ら勝手に整頓されていく。本を傷つけることを恐れて逃したらしい。

 本が一冊残らず整頓されると、待ってましたと言わんばかりに魔理沙はミニ八卦炉へ魔力を込めた。

 

「マスタースパークッ!」

 

 もぬけの殻となった本棚を破壊と併せて声のする方向へ向けた一撃必殺の魔法を放つ、不意打ち。

 だが、本棚を壊したと同時に、マスタースパークが虚無に消える。かき消されたとでもいうように。

 

「……さすが、上から目線で話すだけはあるな。私は霧雨魔理沙。普通の魔法使いだぜ。名前ぐらいなら聞いてやってもいいぜ」

 

 強大な敵の出現に、思わず口角が持ち上がる魔理沙。視線の先には紫と薄紫で染まった少女。魔理沙を前にしてもなお、本を読む手を止めない少女が座っていた。

 

「――私はパチュリー・ノーレッジ。そう、あなたとは違う。本物の魔法使いよ」

 

 名乗った少女は本物の魔法使いと言った。そのことに引っかかり、魔理沙はまた一つ質問をする。

 

「魔法使いに違いがあるのか? みーんな同じようなナリしてるくせに」

「それは貴女が言えたことでは無いと思うけれど……そうね、貴女みたいな

魔法を使う者が魔法使いだと思っている人間は多いわね」

 

 本を閉じて、その辺りに置くと、魔法に包まれ、宙を舞ってさっき整頓された本たちの一部になった。

 

「教えてあげるわ。そして貴女も本物の魔法使いへ――」

 

 パチュリーが言い切る前に魔理沙が飛びかかる。その瞬間、パチュリーの周りに水の壁が飛び出して、魔理沙の攻撃を防ぐ。

 その水はさっきのように魔理沙の身体にまとわり付いて、離れない。魔理沙も同じように身体の熱を放出し、水を蒸発させる。

 水の壁が蒸発し、パチュリーまでの道が開く。

 

「喰らえッ! マスタースパーク!!」

 

 至近距離から放つ、全力のマスタースパーク。これが防がれれば、魔理沙の攻撃は全て相手に効かないということになる。

 閃光と轟音で図書館に土煙を発生させた。

 煙が晴れたとき、そこにパチュリーはいなかった。消えた? 倒した? 魔理沙が考えた二つの予想はどちらも外れて、

 

「プリンセスウンディネ」

 

 魔理沙のマスタースパークを躱して、背後に回り込んでいたパチュリーの水魔法が、魔理沙を穿つ。

 

「ッああァァ!!」

 

 水の槍が魔理沙の中心を貫く。身体に穴はあかなかったが、それ以上のダメージを負ったように感じた。

 

「痛え……」

 

 打たれた腹を抑えながら、ふらつく足で立ち上がる。

 

(水があそこまでの硬度を得るのが甚だ疑問だが……今はそんなこと考えている場合じゃないぜ)

 

 今、注視するべきはパチュリーが魔理沙のマスタースパークを躱した理由。深く考えずとも、そのマスタースパークはかき消せないとパチュリー自身が察したからに違いない。つまり、魔理沙の全力を、至近距離で当てることができれば、パチュリーを倒せるかも知れないということだ。

 そのためには、もう一度パチュリーに近づかないとならない。だが、水が蠢いてパチュリーの足元に集まる。魔理沙が近づけばすぐにでも飛びかかってきそうだった。

 飛びかかれない、距離を取っての魔法はかき消される。魔理沙から動くことが出来ない。攻めあぐねていると、パチュリーの周りを取り囲んでいた水が、一気に地面に引いていった。

 

「そういえば教えてあげると言ったわね。貴女が途中で飛びかかってきたから有耶無耶になってしまったけれど。一度、正しい魔法使いの定義を話してあげましょうか」

 

 そう言って、引っ込んだ水がパチュリーの前に集い現れる。なんてことはない、ただの水に見えた。

 

「貴女と、私の体内に存在する『魔力』それを放出することによって現れる『魔法』そこまでは猿でも理解し発動出来る、簡単なこと」

 

 パチュリーの前の水がうねる。二つに分かれたり、球体になったり、様々な形に変わる魔法。

 

「そして、魔法使いの本意はこのただの魔法に属性を付けてあげること」

 

 ただの水が四角の形に変わっていく。

 

「火水木金土日月。私は七つの属性を扱える。そのいずれかの属性をこの水に付与する。例えば、金を混ぜるとすると……」

 

 そう言って、四角の水にパチュリーが両手をかざすと、水に光沢が現れて、地面に落ちた。鈍い音がして、落ちた地面にはヒビが入っていた。

 鋼鉄ように硬く重い水。

 

「魔力に属性を与えることが出来て初めて魔法使い。魔法使いは皆、独自の属性で、独自の魔法を持っているの。ところが貴女は体内にある魔力を、ただ徒らに身体の外に放出しているだけ」

 

 それが、魔法使いとして不完全な理由だと、パチュリーは語った。

 

「……ややこしい話は嫌いだ。お前の講釈聞きたくもねえが、一つだけ分かったことがある」

 

 敵に塩。というより、犬に芸を教える程度のパチュリー。魔理沙も重々承知で聞いていたが、単なる自慢だと思って、最後まで聞いてなかった。

 

「結局、沢山の属性の魔法を使える魔法使いが最高だって言ってるんだろ? つまるところ、自分が一番ってそう言いたんだな。それだったら私だって得意分野だ」

 

 どころか、何一つ聞き入れていない様子の魔理沙に、パチュリーは青筋を立てる。

 

「……人間がッ」

 

 一瞬頭に血が上ったパチュリーのスキを見逃さず、魔理沙は至近距離へ。

 

「自分が一番強ぇって思うことが、魔法使いってワケだな! よーく理解したぜ! それなら私は大魔法使いさ!」

 

 魔理沙の掌が白く光る。

 

「マスタァーースパァーーーークッ!!!」

 

 特大の閃光がパチュリーをとらえる。

 躱せない、かき消すことはおろか、相殺もできそうにない。

 自分が一番強いと思う。それだけでここまでの魔力をひねり出せるのは、ハッキリ言って異常だ。

 

「っ、賢者の石!」

 

 赤、青、緑、黄、紫。五色の人間大の石がパチュリーを囲む防御結界。パチュリーの持つ中でも最上級といって差し支えない魔法だったが、それでも半分のマスタースパークしか防げなかった。

 

「プ、プリンセスウンディネ!」

 

 残り半分のマスタースパークはその体で迎え撃つしか無かった。ギリギリで水をクッションにして壁に激突することは免れたが、それでもパチュリーの身体は満身創痍一歩手前まで迫っていた。

 

「流石、魔法使いさんだぜ。あのマスタースパークを受け切るとは……」

「自分の最大魔法が防がれて笑っていられるの。やっぱり貴女は魔法使いらしからぬわ」

 

 魔理沙のマスタースパークの四分の三それがパチュリーが受けきったマスタースパークの総量だった。賢者の石で四分の二。パチュリーのその身で四分の一を受けきった。ではあとの四分の一はどこへ消えたのか。

 それは、パチュリーの体内。パチュリーがマスタースパークに撃たれている最中その魔力をとにかく吸収し続けた。

 マスタースパークの四分の一吸い取るだけで、既にパチュリーの元あった魔力より多くなっていた。パチュリーの中で、魔理沙の異常度が急上昇を続ける。

 

「賢者の石ッ!」

 

 先程と同じ石が五つ現れる。今度は防御ではなく攻撃に使う為。

 

「アグニシャイン! プリンセスウンディネ! シルフィホルン! レイジィトリリトン! メタルファティーグ!」

 

 パチュリーが魔法の詠唱を重ね、五つの石から、色と属性の対応した魔法が撒き散らされる。

 五方向から五属性の攻撃。

 

「空に逃げればシルフィホルンが、地面に逃げればレイジィトリリトンが追うわよ。そのまま立っていたら、アグニシャインとプリンセスウンディネとメタルファティーグの餌食になるけれどね」

 

 魔理沙に近づく五つの石が光って回っていた。

 

「さぁ、貴女が一番強いって、この窮地でも同じことが言えるかしら?」

 

「いや、まああれは戯言と受け取ってくれ。私が強い必要は無いんだ。一番力があるべきは私じゃない」

 

 まるで命乞いのように、手のひら返しをする魔理沙だが、よくよく考えれば魔理沙自身が強くあるべき必要は無いのだ。それに気づいた。

 

「スターダスト――レヴァリエッ!!」

 

 魔理沙から、一つ。巨大な彗星が放出される。

 五つに割れた彗星がそれぞれのパチュリーの五つの石を割る。

 

「力が必要なのは私じゃあない。弾幕だ」

 

 そして彗星が爆ぜる。爆ぜた後、散り散りになって満天の星空の如く魔法の弾が弾け飛ぶ。散り散りになった魔法の弾――弾幕がパチュリーに襲いかかる。

 

「――弾幕は力だぜ!」

 

 結界を張るが、圧倒的火力で破壊される。避けようとしても圧倒的質量で逃げ道が塞がれている。かき消そうとしても、追いつかないほどの弾幕がパチュリーに圧倒的なダメージを与える。

 

「私が使う魔法が一番強ければ、それは私が一番強いことになるからな」

 

 倒れたパチュリーに背を向けて、空に浮かぶまんてんの弾幕をうっとりと眺めていた。







【あとがき】

最後の「まんてん」は図書館上空に残った満天の弾幕っていうのと魔理沙がこれまでにない最高の弾幕を撃てたという満点がかかっててぇ……
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