【書籍化&コミカライズ】逆行の英雄 ~無才の少年は、幼馴染の女勇者を今度こそ守り抜く~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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20 街での戦い

「凄い……」

 

 ファルゲンの街にて突如起こった魔族との戦闘。

 それを見て、戦士達の回復役として駆り出されていたリンは、思わずといった様子でそう呟いた。

 

 始まりは本当に突然だった。

 迷宮の方から何の前触れもなくゾンビの大群が現れ、あっという間に街の防壁を破壊。

 破壊の限りを尽くさんと街の中へと進撃した。

 現地の兵士達も奮戦したが、いかんせん迎撃準備も何も整っていない所への、下手したら小国くらい落とせるような大軍勢の襲撃だ。

 一瞬足りとも耐えられる筈もなく、あっさりと全滅して、何とか逃げ延びた兵士が情報を伝えるのが精一杯だった。

 

 その情報を受け取った者達が即座に迎撃へと出撃。

 しかし、事は一刻を争う事態だ。

 部隊の編成などやっている暇はなく、作戦を練っている暇も、敵戦力の情報を共有する暇もない。

 とにかく動ける者が駆けつけるしかないという、およそ戦略としては最悪の部類の命令しか出せなかった。

 

 リンもそんな最悪の命令に従って、他の教会戦力と共に戦場へ赴いた。

 心中では「怖い、行きたくない」という気持ちと、「でも街の皆が心配」という感情が激しくせめぎ合っていたが、どっち道行かないという選択肢はない。

 教会は人類の守護を目的とする組織。

 それが守るべき人々を見捨てて逃げ出す事など許されないのだから。

 故に、リンは腹を括った。

 もっとも、敵戦力の情報共有がきちんとされていれば、貴重な癒しの加護持ちのリンをこんな死地へと送り込む事はなかったかもしれないが……それはリンの預かり知らぬ事である。

 

 そうして戦場へと駆けつけながら、リンの心中は不安と焦りに支配されていた。

 リンの所まで伝わってきた情報は、とんでもない数の魔物が街を襲撃し、防壁が破壊されたという事だけだ。

 敵がどれだけの規模なのかはわからないし、街がどれだけ破壊されているのかもわからない。

 だが、とてつもない戦闘音が伝令が来る前から聞こえていた事を考えるに、どう考えても街の対応は後手後手だろう。

 そうなると、こちらの戦力が到着する前に、いったいどれだけの人が殺されてしまったのか見当もつかない。

 この街には、リンと仲の良い知り合いが多い。

 そんな人達が沢山死んでしまったかもしれないと考えると、リンの顔は真っ青に染まった。

 

 そんな悲壮な思いを抱えながら到着した戦場でリンが見たのは……一人の大英雄による華々しい戦いの光景だった。

 

「オォラァアアアアア!」

 

 身長2メートル近くある巨漢の青年が、自身の身の丈以上の大きさを持つ大剣を振り回して、魔物の群れを蹂躙していた。

 青年が一度大剣を振るえば、そこから極大の衝撃波が放たれ、一撃で何十もの魔物が消し飛ぶ。

 それを耐え抜いたいかにも強そうな魔物や、目にも留まらぬ速度で動く人型っぽい魔物の攻撃は正面から受け止め、圧倒的な力でガードの上から両断する。

 そんな青年を避けて街へ進行しようとした魔物は、彼の後ろを守る騎士達や、駆けつけた街の戦力達によって駆除されていた。

 おかげで魔物は街の中へと進軍できず、被害は防壁の破壊までで済んでいる。

 

 それは、まさに王道の英雄譚だった。

 敵の戦力は絶望的と言える程に凄まじい。

 この街の兵士や冒険者だけなら、束になってもあっさりと蹴散らされてしまうだろう。

 そんな魔物達を殆ど一人で相手にし、圧倒的な力を持って逆に蹂躙する。

 これぞ、人類が長きに渡って紡いできた英雄譚の一節。

 人類の希望の一角を担う者の力。

 

 彼の名は、━━『剣聖』ブレイド・バルキリアス。

 

 人類の守り手『聖戦士』の一人にして、剣聖の加護を持つ男。

 神に選ばれた者達の中でも更に特別な、世界に認められし真の大英雄である。

 

「オオオオオオオオオオオオッ!」

 

 雄叫びを上げながらそんな剣聖に立ち向かうは、人類の天敵である魔族の一人。

 ブレイド以上の巨体を誇る、全身ツギハギだらけの怪物だ。

 フランケと呼ばれたその魔族は、魔族の中でもそれなり以上の実力を持っている。

 操るゾンビ達の力を含めれば、魔王軍最高幹部である『四天王』にすら次ぐだろう。

 しかし、それが今や完全にやられ役と化していた。

 

 フランケがその豪腕でブレイドを殴り飛ばそうとする。

 その拳をブレイドは真っ向から迎撃し、大剣の一撃によって粉砕した。

 だが、大剣を振り抜いた隙を突いて、短剣を持った小柄な影が後ろからブレイドの首筋を狙う。

 その影もまた、かつては英雄と呼ばれた『短剣の加護』を持つ男の成れの果てである。

 そんな短剣の攻撃を、ブレイドは咄嗟に大剣から離した左腕で受けた。

 ブレイドの纏った手甲が切り裂かれるも、それで勢いを削がれた刃は、ブレイドの腕に浅い傷を刻むだけに終わる。

 反撃に残った右腕で大剣を振るい、回転して振り返りながら薙ぎ払えば、それだけで短剣の加護を持つゾンビは真っ二つになり、塵へと帰った。

 

 ブレイドはそのまま一回転して正面のフランケに向き直ると、大剣を振り上げて絶死の一撃を放つ。

 それをフランケの横合いから現れた盾を持つ男が防ぐも、あまりの威力に耐えきれず、盾はひしゃげながらそれを持つ左腕と共に破壊された。

 彼もまた、かつて英雄と謳われた『盾の加護』を持つ男の亡骸。

 先程の短剣使いと同じく、とある老婆魔族が数百年をかけて集めたコレクションの中でも屈指の強さを持つゾンビだった。

 それが手も足も出ない。

 フランケからすれば悪夢のような光景だろう。

 

「ナンナンダ、オ前ェエエエエ!?」

 

 奇しくも老婆魔族と同じ絶叫を上げながら、フランケは残った腕を使って自棄っぱちの一撃を繰り出す。

 しかし、やはりそれも小細工無用とばかりの真っ向勝負で吹き飛ばされるだろうという確信がフランケにはあった。

 その確信が現実のものになる寸前、ブレイドが口を開く。

 

「俺は『剣聖』ブレイド! てめぇら魔族をぶった斬る男だ!」

 

 どこかの剣鬼と似たような台詞。

 だが、彼の言葉が決意の言葉であったのに対し、ブレイドの言葉には世界全てに肯定された絶対の自信が込もっていた。

 自分は『剣聖』ブレイド。魔族を倒す者であるという絶対の自負が。

 

「俺の名を魂にまで刻んで死ね! 『破壊剣』!」

「グァアアアアアアア!?」

 

 剣聖の必殺一撃がフランケを切り裂き、剣身に乗った衝撃波がその体を木っ端微塵に消し飛ばす。

 ゾンビを操っていた者が死んだ事により、彼の魔力で維持されていたゾンビ達が塵に帰った。

 迷宮内で従えたゾンビのように、術者に存在を依存していた訳ではないゾンビは残ったが、数は当初の十分の一以下に減っている。

 全てのゾンビを討伐し、この街での戦いに決着がつくまで時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

「あ、あの! お疲れ様です! 今傷を治します!」

「お、サンキュー……って、ええっ!?」

 

 戦闘終了後、リンは短剣使いをはじめとした何体かのゾンビにやられたブレイドの傷を治そうと駆け寄ったのだが、何故かブレイドはリンを見て驚愕していた。

 

「マジかよ……!? なんでお前みたいな奴がこんな田舎の街に……!? おい、お前。名前はなんて言うんだ?」

「へ? り、リンと申します」

「そうか。じゃあ、リン。お前、俺について来い!」

「……………………ふぁ?」

 

 尚、この街での戦いは、とある未来の大英雄の始まりの物語として語り継がれる事になるのだが……それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 だが、この戦いに関わった全ての者達は知らない。

 本来であればこの街は壊滅し、勝利こそしたものの、夥しい数の死者が出た忌まわしい戦いとして記憶に残っていた事を。

 剣聖は天災のごとき竜の相手で手一杯になり、他の戦士達は尋常ならざる力を持った過去の英雄が率いるゾンビの群れに蹂躙されてしまったという事を。

 

 そのせいで剣聖は後悔に苛まれ、後に勇者の仲間として魔王討伐の旅に同行するも、余裕を失って無茶な戦いを続けたせいで戦死。

 リンもまた心に消えない傷を負い、若くして命を散らす事になる。

 

 それを防いだ小さな英雄の存在を。

 己を勇者の友と名乗る、剣の小鬼と呼ばれた少年の活躍を知る者は誰もいない。

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