【書籍化&コミカライズ】逆行の英雄 ~無才の少年は、幼馴染の女勇者を今度こそ守り抜く~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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30 里を脅かす者

 魔王討伐の旅に出てから数週間。

 俺達は連携の訓練を重ねながら、勇者パーティーに与えられた最上級の二頭の馬を走らせ、最短距離でエルフの里を目指していた。

 シリウス王国の王都からエルフの里までは、普通の馬車であれば二ヶ月はかかる距離だが、この二頭立て馬車を引く馬達の力と、疲れる度に全回復させるリンの治癒魔法があれば、移動時間は大幅に短縮される。

 そして、遂にエルフの里が見えそうな所まで来た今、俺は御者台で馬の扱いをエル婆から教わりながら、エルフの里についての知識のおさらいをしていた。

 

 ちなみに、馬の扱いについては、普段はステラが隣に乗って教えてくれるんだが、今日みたく、たまに別の奴と一緒になる事がある。

 メリハリがどうのと言ってた気がするが、詳しくはわからん。

 

「エルフの里の象徴は、なんと言っても里の中心にそびえ立つ『神樹』じゃ。昔々、遥か昔、それこそ勇者と魔王の戦いが始まるより前から存在すると言われておる巨大な樹でのう。一説では神が植えた樹とまで言われ、不思議な力を持っておる」

 

 エル婆が、もう何度目になるかもわからない説明を続ける。

 この神樹とやらについて語る時のエル婆は、まるで教典を読み聞かせようとしてくる熱心な聖神教の教徒のようだ。

 神樹に対して、畏敬の念を持って話してるように感じる。

 聞くところによると、神樹は全てのエルフの信仰対象なんだそうだ。

 俺は宗教にさして興味はないが、この後に続く神樹の特性を聞けば、なるほど、崇めたくなるのもわからんでもないとは思った。

 

「神樹の持つ不思議な力。それは神樹の力の及ぶ範囲内におる、魔族や魔物などの魔に属する者達の力を大幅に弱体化させるというものじゃ。ワシらが『神樹の加護』と呼んでおるこの力のおかげで、エルフは人類の中で最も数の少ない種族でありながら、今日(こんにち)まで生き永らえておる。無論、エルフが強力な魔法使いを多く抱える列強種族である事も大きな理由の一つじゃがな」

 

 何故かドヤ顔のエル婆。

 果たしてこれは、神樹の力を誇ってのドヤ顔なのか、それともエルフの力を誇ってのドヤ顔なのか。

 正解は両方だ。

 何せ、話に聞くエルフの力もまた、それはもう凄まじい。

 

「エルフは数の少ない種族じゃが、その分一人一人の生まれ持った力が強く、寿命が長い。肉体面はそうでもないが、魔法関係は他の人類と比べても断トツじゃぞ。数百年の時を生き、経験を積み上げたエルフの魔法使いなど、そこら辺の加護持ちにすら劣らぬ力を持っておる」

 

 加護を持つ者に持たざる者が勝つ事はできない。

 エルフはこの常識を、限定的な条件下での話とはいえ覆しているのだ。

 凄まじいとしか言いようがない。

 

「おまけに、魔法系の加護を持つ者も、他の人類に比べれば多く生まれてくるしのう。エルフとしての力と加護の力。この二つをあわせ持った者は、聖戦士の足下くらいには到達できる可能性を秘めておるのじゃ。そんなエルフ達を統べる族長は、ワシと同じく『賢者の加護』を持った聖戦士。その総合戦力は、決して他の人類に引け劣らん」

 

 エル婆がドヤ顔のまま、今度は鼻を高々と伸ばす。

 元族長として、かつてエルフを率いていた者として誇らしいんだろう。

 エルフの里の人口は数万人程度。

 非戦闘員を除いた戦える者の数は一万にも満たないらしいが、確かに他の人類に劣らないだけの力を持っていると言える。

 神樹の力も含めれば、エルフの里が人類屈指の要塞都市と呼ばれるのもわかるというものだ。

 

 だが、そんなエルフの里が今、四天王の一角に襲撃を受けている。

 それ即ち、たかだか四天王の一体くらいで、魔王軍はエルフの全てを相手にできてしまうという事に他ならない。

 そんな化け物と戦いになれば、間違いなく過去最大の激戦になるだろう。

 気を引き締めておかないとな。

 

 そうして闘志を研ぎ澄ましている内に、遠目にエルフの里が目視できる距離までやって来た。

 神樹と思われる、やたらとデカイ樹が見える。

 同時に、里を脅かすとんでもない連中の姿も見えた。

 

「あれは……!」

 

 そこにいたのは、エルフの里へと殺到する竜の群れだ。

 ざっと見ただけでも千はいると思われる、竜の大群。

 その殆どは最下位の竜と呼ばれる、竜の中では比較的小柄な翼竜、ワイバーンだが、中には、俺がかつて倒せなかったあの(・・)ドラゴンゾンビと同格っぽい奴まで何体か交ざってやがる。

 ワイバーンだって、竜の中では最下位というだけであり、魔物全体の中では中の上くらいの力はある大物だ。

 

 そんな連中が、群れを成してエルフの里に襲いかかっていた。

 普通であれば絶望する光景。

 だが、さすがは列強種族エルフと言うべきか。

 竜の大群にも怯まず、里の周囲を結界魔法で囲って侵入を防ぎつつ、結界の中からいくつもの攻撃魔法を放って、確実に竜の数を減らしていた。

 竜どもの動きもどこか鈍い。

 どうやら、神樹の加護とやらも正常に作用してるようだ。

 

「やっておるのう……! ステラ! リン! ブレ坊! 戦いの時間じゃぞ! 準備せい!」

「「「了解!」」」

 

 エル婆が御者台の扉を開けて中のステラ達に声を掛け、その後、竜の群れの方に視線を向けたまま、俺に話しかけた。

 

「アー坊、このまま馬車を最速で走らせてくれ。できるな?」

「無論だ。で、エル婆はどうする気だ?」

「ワシはここから魔法で狙撃して竜どもを蹴散らす。そうすれば、竜どもはワシらに気づいて、いくらかこっちに来るじゃろう。アー坊も戦闘準備は整えておくんじゃぞ」

「了解」

 

 腕が鳴る。

 俺は馬の手綱を操り、旅が始まってから覚えた馬術で馬車の速度を上げた。

 馬達は、さすが勇者パーティーに与えられる馬だけあって、竜の群れを見ても怯む事なく突撃してくれる。

 そんな俺達の様子をチラリと見て満足したのか、エル婆は杖を構えて魔法の発動に集中し始めた。

 

「魔導の理を司る精霊達よ。燃え盛る炎、渦巻く水流、鳴動する大地、吹き荒れる風、凍てつく冷気、鳴り響く雷鳴、破壊の闇、魔を打ち払う光の力よ。賢者の名の元に合わさり、混ざり合い、強大な一つの力となって現出せよ。焼き払い、押し流し、押し潰し、荒れ狂い、凍てつかせ、轟き、壊し、輝け」

 

 エル婆の口から魔法の詠唱が紡がれる。

 俺が辛うじて使える下級の治癒魔法とは次元が違う、長く複雑な詠唱文。

 エル婆は魔法使いの最高峰たる賢者、その頂点に位置すると言われる『大賢者』だ。

 即ち、人類最高の魔法使いである。

 当然、上級の魔法技術である無詠唱魔法が使えない訳がない。

 それでも、あえて詠唱をする理由は一つ。

 その方が威力が高いからだ。

 

 しかも、今エル婆が使おうとしてる魔法は、彼女の持つ魔法の中でも威力だけなら最強と言っていた大技。

 完全詠唱にて放たれる、大賢者の最強魔法。

 どんな、とんでもない結果が出るのか、俺ごときでは計り知る事もできない。

 

 それが今、放たれる。

 

「『全属性の裁き(ジャッジ・ザ・エレメント)』!」

 

 エル婆の杖から放たれたのは、常軌を逸した破壊の極光。

 かつてドラゴンゾンビが放った極大ブレスですら比較にならない、圧倒的な威力と大きさ。

 それが竜の群れを飲み込み、これだけ離れた距離からの攻撃であるにも関わらず、一瞬にして竜の半数を跡形もなく消し飛ばした。

 ドラゴンゾンビと同格っぽい奴まで一体倒してる。

 人類が出していい火力じゃないな……。

 これが大賢者の力か。

 

「「「ギュァアアアアアアアア!!!」」」

 

 しかし予想通り、今の一撃でこっちに標的が移ったらしく、残る竜の大部分が俺達の方に向かって飛んで来る。

 この分だと、エル婆が次の一撃を放つより、接近される方が早いだろう。

 それに、移動の途中で神樹の加護の効果範囲から抜けたのか、竜どもの動きが目に見えて良くなった。

 どうやら、弱体化状態のまま倒させてくれるような、甘い展開にはならないらしい。

 

「さて、やるか」

 

 勇者パーティーとしての最初の戦い。

 相対するは、空を埋め尽くすような竜の群れと、恐らくはそれを率いているだろう四天王。

 正直、初陣でぶつかるような相手じゃないような気もするが、どうせいつかは倒さなければならない相手だ。

 なら、今倒そう。

 修業の成果を存分に見せてやる。

 

 そうして、俺達と魔王軍との戦いの、始まりとなる一戦が幕を開けた。

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