【書籍化&コミカライズ】逆行の英雄 ~無才の少年は、幼馴染の女勇者を今度こそ守り抜く~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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47 剣聖の系譜

 獣王との最悪のエンカウントを終え、俺達はジャムールの街の中に入った。

 モグラ魔族襲来によって閉じられ、その後迅速に開かれた門を通って街の中へ。

 この時、勇者一行である事は明かさず、ステラが取り出した、そういう時の為に持たされたという仮の身分証を使って通った。

 まあ、勇者が街に訪れたとなれば、大騒ぎになりなねないからな。

 大々的に正体を明かして共闘を呼び掛けたかったエルフの里の時と違い、この街には物資の補給の為に寄っただけだ。

 無用の騒ぎは面倒なだけだし、混乱の元だろう。

 この仮の身分証を用意した人の判断は正しい。

 

 だが、さっきモグラ魔族の周辺で獣王と揉めるという目立つ事をしたせいか、わかる奴には勇者が来たと伝わっていたようだ。

 

「勇者様、長旅お疲れ様です。ようこそ、ジャムールの街へ」

「あ、お久しぶりです」

 

 停留所に馬車を止めた時、一人の騎士がやって来て頭を下げながら、周囲には聞こえない程度の声でステラを労った。

 城壁からこっちの姿が見えたから、一応挨拶しに来たってところか?

 勇者の来訪を知ってたのに無視するっていうのも、なんか角が立ちそうだしな。

 

 現れたのは、筋骨隆々の若手の騎士だ。

 年齢は20代半ば辺り。

 腰に剣を差している以上、剣士だろう。

 佇まいから結構な強さを感じる。

 恐らくは、『剣の加護』を持つ英雄ってところか。

 しかし、この人、どこかで見た事があるような……

 

「誰だったか……」

「シリウス王国最精鋭騎士団所属! 『剣の英雄』ドッグ・バイトだ! 貴様に二度に渡って屈辱を味わわされた因縁の男だぞ!? 顔くらい覚えておけ!」

「あ、思い出した」

 

 その煩い声で思い出した。

 そうだ。この人はルベルトさん達が村にステラを迎えに来た時にいた、犬っぽい名前の騎士だ。

 確かその時、色々あった末に俺が急所を蹴り上げて悶絶させた覚えがある。

 あとは、勇者の出立式の時にも会ったか。

 式典に乱入した俺の迎撃に、加護持ちの英雄の中で真っ先に乗り出し、これまた急所を蹴り上げて悶絶させたような気がする。

 だが、あれは男と男の真っ向勝負の結果だから謝る気はない。

 

「まったく! 貴様の無礼さは相変わらずだな! だが、まあ、いい。今の貴様は勇者様のパーティーメンバーだ。位こそ無いに等しいとはいえ、その立場は聖戦士に極めて近い。不本意ながら、俺にとっては目上の存在だ。強くは言わん」

「あはは……アランがごめんなさい」

「勇者様が謝る事ではございません」

 

 そうして、犬っぽい名前の騎士改め、ドッグさんは引き下がった。

 正直、少し意外だ。

 今までの態度からして、もう少し噛みついてくるもんだと思ってた。

 加護のない雑魚だのなんだの言われたような気がするし、てっきり頭の固い加護至上主義者か何かかと思ってたんだが、そうでもないのか。

 

「それで、ドッグさんはどうしてここに?」

「私はこの街の防衛を担当する守護騎士に着任していますので。それと、勇者様がお見えになったという事でもう一人連れて来たのですが……ほら! いつまでの隠れてないで、ご挨拶しろ!」

「……はい」

 

 その時、ドッグさんの後ろからひょっこりと一人の子供が現れた。

 騎士団の鎧を纏った、俺より二つか三つ程年下に見える小柄な少年だ。

 どうやら、大柄なドッグさんの後ろにすっぽりと隠れていたらしい。

 今もおどおどとしながら、ステラの様子を伺っている。

 気が弱いのかもしれない。

 

 だが、そんな見た目と雰囲気に反して、俺の戦闘経験に基づく直感は、第一印象とは真逆の感覚を訴えていた。

 ……強いな。

 ドッグさんに近い力を感じる。

 まず間違いなく加護持ちだろう。

 しかし、同時に少し妙な感じもする。

 直感が微妙に狂ったように、どのくらい強いのかが今一わからないのだ。

 ドッグさん以下な気もするし、フィストみたいな英雄上位クラスのような気もするし、下手したらブレイド以上のような気さえする。

 直感が複数の答えを提示してきて役に立たない。

 そう。

 これはまるで、初めて見るタイプの敵と遭遇した時のような……

 

「あー! レストくん!」

 

 そんな俺の思考は、隣で大声を上げたステラによってかき消された。

 ステラは神速でレストくんと呼んだ少年に向かってダッシュし、その手を両手でガシッと掴んで上下にブンブンと振る。

 

「レストくんもこの街に居たのね! 久しぶり! 元気にしてた?」

「は、はい……」

「そっかそっか!」

 

 …………ステラ、お前いつもとテンション違くないか?

 やけに嬉しそうだし、楽しそうだし、なんか見ててモヤモヤする。

 いや、そういえばこいつ、故郷の村でも年下連中には結構甘かったな。

 あの頃は自分達もガキだったから、そこまで考えが及ばなかったが、ステラは割と子供好きなのかもしれない。

 だからと言って、胸のモヤモヤが消える事はなかったが。

 ステラに詰め寄られて顔を赤らめてるレスト少年の様子もまた、胸のモヤモヤを加速させる。

 

「ステラ、誰だその子?」

 

 少年を構い倒す幼馴染に声をかけて、こっちを向かせた。

 決して、ヤキモチ的な気持ちに駆られた行動ではない。

 

「この子は王都で訓練受けてた時に、よく一緒になってルベルトさんにシゴかれてた子よ。レスト・バルキリアスくん。アランも会った事ある筈だけど」

「こんな気配に覚えはないんだが……ん? バルキリアス?」

 

 聞き覚えのある家名に俺が反応すると同時に、

 

「おお! 誰かと思えば弟じゃねぇか!」

「……兄上」

 

 馬車の中からブレイドが現れ、レスト少年を弟と呼んだ。

 レストの方もまた、何やら複雑そうな顔でブレイドを兄と呼ぶ。

 ああ、やっぱりブレイドの弟か。

 ブレイドのフルネームは、ブレイド・バルキリアス。

 ついでに、ルベルトさんのフルネームも、ルベルト・バルキリアス。

 つまり、この子は剣聖の系譜に連なる者って事になる。

 

 しかし、あの複雑そうな顔を見るに、兄弟関係は上手くいってないのか。

 と思ったが、ブレイドはのしのしと歩いていき、レストの頭を乱暴に撫で回した。

 その顔は、ここ最近のどこか張り詰めたような顔ではなく、豪快な笑みだ。

 少なくとも、ブレイドの方は弟を可愛がっているらしい。

 対する弟は複雑な顔のままだが、思春期、あるいは反抗期というやつなのかもしれない。

 

「あ、ホントだ! レストくんがいます!」

「おー、レス坊ではないか。少し見ない間にまた大きくなった気がするのう。ほれ、飴をやろう」

 

 勇者パーティーの残り二人、リンとエル婆も出てきてレストを構い出す。

 ま、まさかウチのメンバー全員を虜にするとは……!

 弟キャラ強すぎる。

 多分、王都に居た頃に虜にされたんだろうな。

 ステラやリンが王都へ行った頃、レストは更に幼かった筈だし、慣れない土地でちっちゃい子供に癒しを求めても不思議ではない。

 エル婆の場合は、年寄りが幼子を構いたくなる本能的なやつだろう。

 そんな魔性の弟レストだが……俺とだけは仲良くなれないかもしれない。

 

「アランだ。よろしくな」

「……はい。よろしくお願いします」

 

 構い倒されてるレストに近づき、声をかける。

 レストも返事はしたが、お互いに握手の為の手は差し出さない。

 代わりに、敵を見るような視線を互いに交わし合った。

 尚、先に敵意の視線をぶつけてきたのはレストの方だ。

 

 ……確定だな。

 ステラに手を握られた時と、エル婆やリンに構い倒されてた時で、レストの態度は微妙に違った。

 どっちも照れを含んだ複雑そうな顔だったが、ステラ相手の時は照れの割合が大きかった気がする。

 そして何より、ステラに対する視線には、俺みたいな同類相手だと隠しきれない熱があった。

 

 こいつは俺の敵だ。

 綺麗な言葉を使えばライバルだ。

 当然、負けるつもりはない。

 俺達はバチバチと交わす視線で火花を散らした。

 

「え? なんで二人とも、そんな刺々しい感じになってるの?」

「気にするな。ちょっと、こいつをライバル認定しただけだ」

「えぇ……?」

 

 ステラは困惑したような顔になったが、リンとエル婆は察したのか、いつもより輪をかけて酷いニヤニヤとした顔になった。

 小さな声で「修羅場じゃのう」「修羅場ですねぇ」とか聞こえてくる。

 ウザイ。

 微妙な顔しつつも何も言わずに見てるだけのブレイドや、我関せずを貫いてるドッグさんを見習え。

 

「ほう。随分と賑やかな事になっているな」

 

 その時、レストを中心に良くも悪くも賑わっていた俺達に話しかけてくる人物がいた。

 聞き覚えのある、威厳に満ちた老人の声。

 全員がバッと声の方に振り向くと、そこには隣に停まった大型の馬車から降りてきた、一人の老騎士の姿が。

 

「休息に訪れただけのつもりだったが、まさか勇者様達とかち合うとは。私も中々タイミングが良いようだ」

「「「ルベルトさん(様)!」」」

 

 現れたのは、かつて俺が絶対に超えなければならない壁として背中を追いかけた、往年の大英雄。

 『剣聖』ルベルト・バルキリアス、その人だった。

 俺の知るバルキリアス一家が、全員このジャムールの街に集結した瞬間であった。

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