ToLOVEる~もしもデビルーク家の長兄がチャーム人の性質を強く受け継いでいたら~   作:カイナ

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【注意】
これは二話連続投稿の後編です。
もしも前編を読んでいないまま間違えてここに飛んできた方は前編への移動をよろしくお願いいたします。


後編

 ある日、自分達が10歳の誕生日を迎えて少し経ったくらいの頃。デビルーク星に連れてこられ、婚約者として決められていた男――キラと初めて顔を会わせられた時だった。

 だがキラは仮面をつけて顔を隠していた上に必要最低限の挨拶を行ったらすぐにどこかに去っていくという具合で、お付きをしていたザスティンが慌てて「これもキラ様が貴女様を魅了させないために~」と慌てて言い訳していたほどだ。

 だが仮面をつけていて顔も分からない相手では好意のようなポジティブな感情を抱けるわけもなく、私はお父様がデビルーク王と政治の話をし始めるのを見届けるとこっそりその場を抜け出したのだった。

 

「あ、ルンちゃん。遊びに来たの?」

 

「ええ。あなたの弟がどっか行って暇になっちゃったんだけど」

 

 その道中でララと偶然合流、開口一番嫌味を漏らすとララは「あはは……」と頬を引きつかせて笑った。

 

「ま、まあ、キラも悪気があったわけじゃないから……」

 

「どーだか……」

 

 仮面越しにチラリと一瞥して頭下げて最低限の挨拶だけして退室。これで悪気がない方が驚きだ。

 大体チャーム人の美貌を継いでいるなんていう噂も眉唾、実際に素顔を見た事がある女性は家族程度という話だ。もしかしたら実はなんの力もないからそう言って誤魔化しているのではないかという噂さえ出ている。もちろん口に出してしまえばデビルーク王の怒りを買うのは間違いないから誰も表立って口にはしないが。

 あーえっとーと目の前でどうしようかと困っているララを見て、まあ八つ当たりで困らせるのも悪いかなと思った時だった。

 

「そ、そうだルンちゃん! これから暇?」

 

「……え?」

 

 慌てたように汗ダラダラと、しかし名案を思い付いたとばかりの言葉に私は呆けた声を返すのが精一杯だった。

 

 

 

 

 

「どゆこと?」

 

 思わず半目になってぼやく。ララに「さあさあ」と連れられていつの間にかお城を抜け出して連れてこられていた。ララは「少しくらいなら大丈夫だよ」と言っていたのだが。

 

「ほらほら、お詫びに遊びに連れてってあげるから!」

 

「え~……」

 

 デビルーク王から受け継いだ怪力というのはあながち嘘ではないのだろう。抵抗していないからとはいえずりずりと引きずっていかれてしまう。そのまま連れてこられたのはデビルーク王と近郊の森だ。

 

「ナナとモモに教えてもらったんだけどね、この辺可愛い動物や綺麗な花があるんだよ!」

 

「あー、うん……」

 

 ニコニコ笑顔でそんな事を話すララに相槌を返すのが精一杯。ホントにいいんだろうかとか考えてしまう。

 

「あれ~? でもおかしいなぁ、動物さんの姿が見えない……おーい!」

 

 私から手を離して数歩先を歩き、両手を口元に当てて呼びかけるララだが何も出てくる気配はない。まるで()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな事を考えた瞬間、私の身体は後ろから何者かに抱き上げられたかのように宙へと浮かぶ。いや、抱き上げられたかのようにではない。抱き上げられた。

 

「動くな!」

 

「ルンちゃん!?」

 

 抱き上げられたせいで耳元から聞こえてくるうるさい男の声に、ララもはっとしたように振り返る。

 

「誰!? ルンちゃんを離してよ!」

 

「そうはいかねえな、ララ・サタリン・デビルーク……お前には人質になってもらうぜ」

 

 深くフードを被って顔を隠しているせいで体型的に自分達と同じヒューマンタイプの異星人、というくらいしか分からない。さらにララと自分(を抱き上げている男)を囲むように無数の異星人が森の影から現れる。

 

「お前もメモルゼ星の王女様みたいだな。お前も一緒に連れていけば人質くらいの価値はあるだろ」

 

「ひっ!?」

 

 ニヤァと口元が裂けるように笑ったのがフード越しに見え、同時に感じる誘拐されるという恐怖から目に涙が浮かび、背筋に怖気が走るのが分かる。

 

「そうはいくかよ」

 

「が!?」

 

 だがそこにそんな声が聞こえると共に、自分を抱き上げていた男が何かの衝撃を受けたように吹っ飛ばされ、同時に自分もその男の手から離れて地面に倒れ込んだ。

 

「な、なんだ!?」

 

 誘拐犯の一味の一人が叫び、私も倒れ込んだ身体を起こして前を見る。

 そこにいたのは黒みがかったピンク色の髪をした、背後からでも仮面をつけていると分かる、自分と同い年の少年。

 

「黒みがかったピンクの髪の、仮面をつけた少年……こいつ、キラ・ゼパル・デビルークか!?」

 

 誘拐犯の一味のまた別の一人が叫ぶ。すると少年──キラは呆れたかのようにララに向けて声を発した。

 

「ララ姉ぇ、出てくならザスティン達に一言言っておかないと」

 

「あはは、ごめんね……」

 

「まあいいや……こいつらは俺がなんとかするから、ララ姉ぇはルンさんを守ってて」

 

「は、は~い……」

 

 流石に勝手に城を抜け出した挙句に私が捕まりかけたという弱みがあるのか、ララは気まずそうに笑って私に駆け寄り、立ち上がらせると私と一緒にテキトーな木の上に避難する。

 

「ちょうどいい! デビルーク王家の長兄であるコイツの方が人質としての価値は上だ!」

 

「デビルーク王の息子っつってもたかがガキだ、この人数に敵う訳がねえ!」

 

 誘拐犯の一味も私達よりキラの方を捕まえた方がいいと判断したか、一斉にキラへと向かう。

 

「え、ちょ、これ助けなくていいの!?」

 

 噂が本当ならキラはデビルークの怪力よりもチャーム人の魅了の力を受け継いでいるはず。もしそうなら腕力とか身体能力は純正のデビルーク人より劣るはず。だというのにララは心配していないかのようにニコニコと微笑んでいた。

 

「大丈夫だよ」

 

 

「な、なんだ!?」

 

 ララがそう言うと同時、木の下から大人の男達の困惑の悲鳴が聞こえてくる。

 

「な、なんだこれ、なんで巻き付いて!?」

 

「じ、地面がいきなり凍ってふぎゃ!?」

 

「遅い!」

 

「がは!?」

 

 木の下を見下ろすと、そこには屈強な男達がロープに縛られて行動不能になったり突然凍った地面に足を取られて滑ってこけたりして行動を封じられたり、それらをかわしても単純に格闘能力で負けて腹部を思い切りぶん殴られて吹っ飛ばされ、その先にあった木の幹に叩き付けられてその衝撃だけで木をへし折るほどの破壊力に耐えきれずに気絶する光景があった。

 

「つよ……」

 

 思わずポカンとしてしまう。それからキラは転んだ男や縛られた男達も一人ずつ殴ったり蹴ったりして意識を刈り取りつつ、私達が避難していた木の上を見上げた。

 

「二人とも、もう大丈夫だよ」

 

「うん。ありがとー」

 

「え、きゃあああぁぁぁぁ!?」

 

 ひょいっと持ち上げられたかと思うとこっちの意志は無視で飛び降りられ、思わず悲鳴を上げてしまったが私は悪くないだろう。

 

「そういえばキラ、どうしてここに?」

 

「あ~……ララ姉ぇ達が城抜け出すの見かけて大慌てで追いかけてきたんだ。とりあえずザスティン呼ぶけど、ララ姉ぇは説教を覚悟しといた方がいいよ?……ルンさんは、まあ、どうせララ姉ぇに無理矢理引きずってこられたんだろうし、俺から許してあげるよう言っとくけど」

 

「なにそれ~!? 元はといえばキラが悪いんじゃん! ルンちゃん、不愛想にされたって怒ってたから私こうやって森に連れてきたんだから!」

 

「や、だって……しょうがないだろ、ララ姉ぇ達並に可愛い子なんて初めて見たんだから……

 

 顔を逸らして呟いたせいで何を言ったのか聞こえなかったが、気まずそうな雰囲気を見せているのは間違いなく、思わず首を傾げてしまう。

 

「!」

 

 だが直後キラは何かに反応したかのように私の背後に立つ。同時にパァンッという破裂音やビシィッという衝撃音が辺りに響いた。

 

「チッ、勘がいいねぇボウヤ」

 

「誰だ?」

 

 森の奥からそんな声が聞こえ、キラが腕で顔を守るような体勢をしながら問うと森の奥に広がる闇の中から一人のヒューマンタイプの異星人が姿を現す。

 赤褐色の肌に、銀色の髪を伸ばしている途中なのかセミロングにして下ろしている。その右手には長い鞭を握っていた。

 

「冥途の土産に名乗ってやるよ。あたしは新進気鋭の殺し屋、アゼンダ様だ。ホントはあんたらを人質にしようとして、デビルークの外交の要セフィ・ミカエラ・デビルークを暗殺しようとしたんだがね。こいつらがあまりにもふがいないから手を貸してやるってわけさ……よお、追加料金はしっかりいただくぜ? ま、聞こえてねえか」

 

 異星人──アゼンダはそう言い、依頼主が聞いてないのをいい事に勝手に手助けに入って人質を捕まえたという実績から料金割り増しを後付けさせるというセコイ真似をしようとしていた。

 

「さて、大人しく捕まってくれりゃあ痛い思いはしなくていいよ? そこのキラとかいうガキは噂によればセフィ・ミカエラ・デビルークのチャームとかいう力を受け継いだとか聞いてるけど、そんなホントかもわからない噂話に踊らされる程このアゼンダ様は甘くないんでね」

 

「……ララ姉ぇ、ルンさんに俺の顔を見せないよう注意して。ララ姉ぇもね」

 

「え……あ!?」

 

 アゼンダの言葉を聞いたキラがララに指示。ララもその意味が理解できてないように首を傾げるも、直後ある一点を見て声を漏らし、それにつられて私もその視線の方に目を向ける。

 

(……仮面?)

 

「やば! ルンちゃん、今キラの顔見ちゃダメだよ!」

 

「へ!?」

 

 地面に落ちているのは一個の仮面、そういえばキラがつけていたやつに似ているような。そこまで考えたところでララはさっと彼から背を向ける。だが私は困惑で動けない。

 

「ハハハ! デビルークの王女たって所詮はガキか! 怖くてうずくまって震えるしか出来ないってか!?」

 

「……相手がこっちに敵意を向けてるのなら、思い切り殴っても問題はないな」

 

「……ハァ?」

 

 ララが行った行動の意味が理解できないのか(私も理解できなかったのだが)嘲笑うように声をかけるアゼンダに対し、そんなキラの声が耳に届く。続いてアゼンダの困惑の声も。

 

「アンタの言った噂、その身で試してみるといいよ」

 

 その言葉と共に、私達に背を向けているキラはゆっくりとまるで顔を守るように……違う、顔を覆うように隠していた腕をどける。たったそれだけの行動に、何故か私は目が離せられなかった。

 

「…………」

 

 それを目の前で見ていたアゼンダが硬直、彼女の頬が赤く染まっていく。

 

「か、かっこいい……」

 

 その口から出てくるのは戦いの場に相応しくないと分かる言葉。ふらふらとまるで吸い寄せられるように歩みを進める彼女の右手から武器である鞭がずり落ちるも、それに気づいていないような虚ろな目で、アゼンダは両手を前に伸ばしながら、まるでゾンビのようにふらふらとキラの方へ歩み寄る。

 

「ハァ……ハァ……ま、待ってな、今あんたを捕まえて、連れて帰って……一生あたしのペットにしてやるからさぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 突然虚ろな目に興奮の色を宿し、頬を赤く染めてだらしなく開いた口からは涎を溢れ出させながら無防備に飛びかかる。

 

魅了(チャーム)にはこういう使い方もあるってわけさ」

 

「ぎゃふん!?」

 

 完全に正気を失った様子のアゼンダがフェイントも何もなく単調に飛びかかってくるのにタイミングを合わせた全力の回し蹴りがアゼンダの首に直撃、アゼンダはそんな声を上げて吹き飛び、木に叩き付けられると目にハートマークを浮かべたままがくりと気を失った。

 

「……」

 

 だけどそれは私の目に入らない。ハイキックの勢いでチラリと見えた顔、半分も見えなかったけれどもそれだけでも間違いなく整っている、絶世の美丈夫と言っても過言ではないと分かる程。その顔の周囲がキラキラと輝いているような錯覚さえ感じる。

 

「かっこいい……」

 

 思わず口から出た感想。しかしそれは顔だけの話ではない、自分達を追いかけてきて颯爽と助けに入って来てくれた。その行動自体がかっこいいし、誘拐犯を一網打尽にしたのもかっこいい、殺し屋を文字通り一蹴したのだってかっこよかった。

 自分がこっそりこっち見てるのに気づいていないのか、キラは落ちていた──今にして思えば私をアゼンダの攻撃から庇った時に弾き落とされたのだろう──仮面を拾い上げて付け直してから、私達の方を向き直した。

 

「ルンさん、大丈夫? 怪我はなかった?」

 

「え? あ、あぁ、うん、大丈夫だよ!」

 

 突然声をかけられ、慌てたように手をパタパタさせながらの返答になってしまうが不自然に思われなかったのか、よかったと口元を緩めて微笑むだけで終わる。

 

「待ってて、今ザスティン達呼んで、こいつら全員連れてってもらうから」

 

 そう言ってキラは連絡用の機械を取り出して連絡を開始。程なくしてザスティン達王室親衛隊が到着し、誘拐犯の一味やアゼンダをこれから銀河警察に引き渡すと言って、それまで捕まえておくために連行開始。

 それから「ララ様もルン様もキラ様も、お城に帰ってからお説教ですからね」と、城を抜け出した元凶のララはもちろん、結果として何も言わずに城を抜け出した事になる私とキラまで巻き込まれて説教決定。私達も城へと連行される事になったのだった。

 

 

 

 

 

「ふふ……」

 

 もしかしたらその時に魅了されちゃったのかも。だけど、それはきっとチャーム人としての魅了(チャーム)だけじゃないはず。

 

「……なんだよ?」

 

 突然笑われたのが気になるのかキラが声をかけてくる。相変わらず仮面のせいで表情は口元から以外は読み取れないし、素顔を見たのだってあの時の事故とさえ言えない時だけだ。

 

「キラ」

 

 だから私は今は魅了されていない。でも、彼に対するこの感情はあの時から燃え上がって消えないままだ。

 

「私はずっとあなたの婚約者。あなたが嫌だって言っても解消はしないしさせない。それから絶対、あなたのお嫁さんになってみせるんだから!」

 

「っ……」

 

 口元がにやけている。仮面で顔を大部分隠していると油断しているせいかこういうとこは意外と分かりやすく、キラの方も自覚があるのかティーカップを口につけて誤魔化す。しかし紅茶はもう少なく、飲むフリで誤魔化すというのも長くは通じない。

 私がニコニコと笑顔で圧を送ってやればついに観念したのかカップを下ろす。

 

「ん、まあ……ありがとう」

 

「どういたしまして♪」

 

 キラの言葉に私も満面の笑顔で返す。

 いつか絶対に、私の方も彼を魅了させてやる。その想いを込めて。




 思いついたので、「もしもデビルーク長兄がいてデビルーク星人ではなくチャーム人の性質を強く受け継いでいたら」というネタで短編一本書いてみました。
 本作は氷炎の騎士とは別の世界線なのでこっちの世界にエンザはいませんが、もしいたらキラの友人でもし今回のモモみたいな感じで女性が魅了された時に止める専属護衛みたいな感じでいそうだなと思ってます。

 そしてそのヒロインはルン・エルシ・ジュエリア……というか、ララ達三姉妹除けば使えるのこの子しかいない。流石にこれでヤミちゃんをヒロインにするのは難しいし……。
 で、後編の方はルンがキラに惚れた理由を書いてたら、完全に視点とか主人公が入れ替わってしまいました。(汗)

 まあ要はこの二人
 キラ:セフィから美貌を受け継いだ三姉妹をずっと見てきてたせいで美人に慣れていたところに、ララ達並に可愛いルンを見て一目惚れ
 ルン:最初は(キラの方が一目惚れして照れてたとはいえ)不愛想な態度に怒っていたものの、自分達の危機を助けてくれた事や、その時に今まで家族以外誰も見たことない彼の素顔をチラリとだけど見た事がきっかけにある種の一目惚れ
 という感じの設定になります。そしてお互い相手が自分に惚れてる事に気づかず
 キラ:自分は次期デビルーク王という立場で婚約者がいるけど、こんな素顔も晒せない奴を好いてくれる人なんていないよな……
 ルン:相変わらず私の気持ちに気づいてないみたい。私は次期デビルーク王とか関係なくキラが好きなのに!
 って思ってる感じです。

 では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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