ギャンブルの沼を泳ぐシャチ   作:なっち様

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プロローグ

 ポーカープレイヤーなどのギャンブラーが身に着く手癖でチップで遊ぶというものがある、チップトリックと呼ばれるそれに憧れて練習する奴は多い。俺も初めてカジノに行ったときに目にしたそれに憧れてカチャカチャと練習したもんだ。別にそれが出来るようになったからといってギャンブルの腕が強くなるというわけではないが覚えておいて損があるわけではない。例えば、

 

「オールイン」

 

 俺は自分のチップの束を指で一束にする通称シャッフルと呼ばれるチップトリックをした後に手持ちのチップをすべて賭ける。

 五人の参加者の内、三人はすでに最初の手札で降りていてゲームに参加しているのは俺とあと一人しかいない。

 

「フォールド」

 

 そしてその一人もいま降りた。最終的にゲームに残ったのは俺だけなので自動的に勝者も俺になる。ディーラーが俺のテーブルに勝ち分のチップを配った。

 

 俺が覚えていて損がないと言ったのは脅しの小道具に使えるからだ。最後まで残っていた男は明らかに初心者だった。俺がそうだったように初心者はチップトリックなんかの手癖をしている人間を強いと感じやすい、そう思っていなくても常連くらいには見える。そんな強い人間がオールインをしてくるとAAなどのよっぽど強い手でもない限り初心者はだいたい降りてくれるのだ。

 

 つまり初心者狩りなんだけど、初心者に自分を強く見せるためにチップトリックは結構使える。

 

 ポーカーに限らずギャンブラーが賭け事で生活するには極端な話、弱い金持ちとだけ勝負することなので弱い人間から勝つ技術というのは大事だ。

 例えば今勝負した男は金持ちというでもなくポーカーが強いわけでもないのでさっきみたいに大きくレイズ(掛け金を上げる事)すればフォールドするし、他の三人は金持ちの享楽でやってるといった感じで大体コール(ゲームに参加する事)してくるので勝てそうな手札の時だけ参加する、このときはあまり露骨にゲームに参加しなさ過ぎてもだめだ。そうやって状況に応じて勝負することで初心者相手の勝率はぐっと上がる。

 

 

「今日はここまでにしときます」

 

 さっきの一人が握れるほどになった自らのチップをもって席を立つ。そのまま精算しにキャッシャーに向かう男の背からは勝負の熱がすっかり引いていた。

 

 なんだか俺も今日は此処まででいいかという気持ちになり席を立った。

 

 カジノから出ると外は真っ暗だった、朝からカジノに入り浸り十時間以上ポーカーをしていたのだから当然だ。肩も痛い。

 

田舎の実家と比べてここ東京は夜でも明るいし人と全く会わないなんて事はない。こんな夜更けまで働いていたのか、帰りのタクシー待ちするサラリーマン、これからが本番といった夜の男女たち。そんな人間とすれ違ったり遠目で見たりしていて思う。

 

「俺このままでいいのかなー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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