取り残された少年少女は、お構い無しに生きていく   作:凡人EX

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めちゃくちゃ悩んだ末、文字数が割と少なくなってしまいました。申し訳ありません。


煽り屋な少年とヤンキーな少女の場合

「あれあれあれあれ、こんなところでうずくまってどうしたんですかぁ? おねんねですかぁ?」

 

 白い半袖シャツに青い短パンという様相の少年が、建物の前で蹲る、白いポロシャツと黒いスカートの少女に話しかけている。

 

 しかし、少年の言葉の端々にはバカにしたような態度が見える。というか、恐らく全力でバカにしかかっている。

 

 少女は顔を上げることもせず、威圧的な声で返事をする。

 

「……何か用かよ」

 

 が、どうもその声は弱々しい。毒気を抜かれたらしい少年は、その隣に座る。

 

「オイオイ、何時もの元気はどこ行ったんだ? 元気と面倒見の良さぐらいしか取り柄ねぇのに」

 

「余計なお世話だよ、ほっといてくれ。てか座ってくんじゃねぇ」

 

「え〜、湊良ちゃんが一人で寂しそうだったから一緒にいてあげようと思っただけなんだけどなぁ」

 

「テメーがいたって腹が立つだけだっての……」

 

 湊良と呼ばれた少女は、細々と話す。

 

「てゆーか、よりによってお前かよ……しぶといだろうとは思ってたけど、お前じゃねぇんだって……」

 

「そりゃボクちゃん、生命力あの黒いアレ並ですから? 高々街が燃えてる程度で死にはしないと言いますか?」

 

「…………もう、さ。黙れよお前」

 

 ……………………沈黙。先程までテンション高めに喋っていた少年も、何も言わなくなってしまった。

 

 少女、鹿屋蔵湊良(かのくらみら)はこの少年、比喜嶋弥一(ひきじまやいち)が何とも苦手なのだ。幼稚園の頃から付き合いはあるものの、言動がウザい弥一には何度もイライラさせられてきているのだ。いわゆる腐れ縁というやつである。

 

 とはいえ、お互いをよく分かっているのもまた事実。実際、弥一は湊良の感情の機微を感じとって、彼なりに元気づけたりする事もよくあるし、湊良も弥一が割と繊細で、今も強がっているのは筒抜けである。

 

 そういうわけで、湊良は言い過ぎたかもしれないと思い、先程まで声のしていた方を見ると……

 

 

「なになに? 心配してくれてんのぉ? 湊良ちゃんやっさし~~」

 

 

 少年はニタニタと笑って湊良を見ていた。近い。

 

「ぎゃぁぁ! キモイってマジでやめろお前!!」

 

「ぐほぅ」

 

 湊良は反射的に少年の鼻っ面を殴る。声からして少年は割と余裕そうなのが何とも言えない。少なくとも、湊良にとっては腹立たしい。

 

 鼻血を出しながらも、少年はまたニタニタ笑って湊良に話しかける。

 

「ほっほっほ、パンチの威力と精度がダダ落ちですわよ湊良ちゃま? C区画最強の女番長はそんなものでおじゃるか? んん?」

 

「うっせぇ! てかお前そういうとこだぞ! そんなんだから友達できねぇんだぞ!?」

 

「ええ! ボクちゃんと湊良ちゃん友達じゃなかったんですか!?」

 

「~~~~っ、弥一、おま、お前っ!」

 

「嘘でも友達じゃないって言えない湊良ちゃんやっぱや~さしぃ~~」

 

 左拳をワナワナと震わせながら睨む湊良と、ケタケタと笑う少年こと弥一。

 

 一応言っておくが、二人がいるのは図書館前。その図書館も、中の本と共に盛大に燃えているが。

 

「ほら、元気になったところでここからトンズラしようぜ。色んなところが燃えてて危険が危ないっていうか?」

 

「……………………はぁ~~、弥一の言う通りだよ全く。さっさと行くぞ」

 

「ハイハイ、従いますよお嬢さぶげぇ!!」

 

 立ち上がった二人。おちゃらけた態度の弥一に、湊良の振り向き腹パンが炸裂。利き手の左手である事や、振り向いてのパンチであるために遠心力が加わっており、威力がかなりのものなった。

 

「お嬢様呼びすんな、次は蹴り入れるぞ」

 

「ゴホッゴホッ……イエスマム……うぅ、超痛い」

 

 

 ───────────────────────

 

 すぐ近くのビル街を歩く二人。ふと湊良が立ち止まり、つられて弥一も立ち止まる。

 

「お? どうした湊良ちゃん?」

 

「……何か、変じゃねぇか?」

 

「何が? 湊良ちゃんの頭が?」

 

「炎の中にぶん投げんぞお前……違ぇよ、人気が少なすぎねぇ? って話だよ」

 

「あ〜。少ない、というかもう無いよね、うん」

 

 図書館からここまで結構な距離であったにも関わらず、その道中で人っ子一人見当たらなかったのだ。代わりにだが、

 

「ゾンビ見つけちゃった時は思いっきり叫んでたよね湊良ちゃん」

 

「いや、あんなもん見つけたら誰だってビビる……って、アンタは笑ってるだけだったな……」

 

 ということだ。初めて見かけた時は遠目だったので、駆け寄って話しかけようとした湊良だったのだが、近づいてみれば所々腐っている人型だったため、全力で悲鳴を上げたのだ。

 

 弥一も驚いたのは驚いたのだが、それ以上に驚いている湊良を見て、面白くなってしまったらしい。

 

「ふぇっふぇっふぇっ、あの時の湊良ちゃんの悲鳴ったら……めっちゃ可愛かったなぁ~。キャーだもん、キャー! 女の子みたいな悲鳴。普段のキャラと違いすぎでしょ」

 

「よく喋るなこの状況で……段々アイツに似てきてない? あと、アタイれっきとした女ね?」

 

「普段が男勝りすぎんのよ湊良ちゃんは! んで、アイツって誰? もしかしてあのサイコパス? ボクちゃんあそこまでアレじゃ無いからね?」

 

「いいや、むしろアニキがいると鳴りを潜めるアイツより厄介だよアンタは」

 

「うーん、ぐうの音も出ない正論だね!」

 

 カラカラ笑う弥一。呆れた顔の湊良。閑散としたビル街には、弥一の笑い声だけが響く。

 

 車も、自転車も、二人以外の歩行者もいない。普段ならサラリーマン達が忙しなく動くビル街が、正しくゴーストタウンと化している。

 

「ん〜? 大騒ぎしても誰も何も言わないなぁ? ホントに誰もいないんじゃないの?」

 

「今……11時ちょっと過ぎたとこ。仕事とかならとっくに始まってんだけどね……」

 

 ふと、弥一が思い出したように話し出す。

 

「そういえば、ウチのママンとシスターが何処かに行っちゃったっぽいんだよね。パパンは単身赴任中なんだけど、今日起きたら家にはボクちゃん一人だったんだ。湊良ちゃんとこもそうじゃない?」

 

「……確かに、おと……オヤジとお袋は本部に行ってる……あれ? 使用人達を今朝見てない……」

 

「……湊良ちゃん、これ、偶然だと思える? ボクちゃんは思えないし、言いたくもないね。特に湊良ちゃん家、あんな大豪邸を一中学生の湊良ちゃんだけ置いて出てくなんて有り得る?」

 

 そう言う弥一の顔からは、いつもの軽薄で腹立たしい笑みが完全に消えており、目がマジである。

 

「…………アタイの家、無駄に広いからまだ見つけられてないだけかもしれないよ?」

 

「……湊良ちゃん」

 

 弥一の呼び掛けに、湊良はただ頷く。

 

「弥一、アンタも手伝ってくれない? 家に戻って使用人の誰かを捜す」

 

「湊良ちゃんの頼みだ、モチのロンだとも」

 

 

 二人は来た道を駆け出す。ビル街、そして図書館の更に向こうに、湊良の住む家はある。

 

 日が昇りきる前の出来事。湊良の家で、二人を何が待っているのかは、まだ語れない。

 

 

 

 

 オマケ

 

「そういえば、湊良ちゃん何で図書館にいたの?」

 

「……アタイとアニキが初めて会ったのが、あそこだったから。アンタともあそこだし、人も普段多いし、何となくあそこに行けばって」

 

「要は寂しかったんだって事だねぇ? かわいいなぁもぉ〜!」

 

「うっさいキモイ! じゃあアンタは何であんなとこに来たんだよ! 普段本読むわけでもないしさぁ!」

 

「ボクちゃんのことよく見てるんだねぇ? 嬉しいよ「そういうんじゃないから! 質問に答えろ!」……湊良ちゃんがいるかなぁって思ったから」

 

「…………」

 

「あ、照れた? ねぇ照れた?」

 

「…………いや、なんか、アンタ……キモイ……」

 

「うーん、手厳しい!」

 

「……顔が良いだけに言動が残念なのがね……」




弥一君以上に湊良ちゃんの口調が分からなくなるや〜つ。

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