入学式の片付けに上条のクラスもかり出されたあと、簡単なHRを済ませピンク髪の謎だらけ教師・月詠小萌が砂糖菓子のように甘い声で通り一遍の連絡事項を伝えていく
「はーい。今日の授業はここまでなのですよー。週明けからは本格的な授業に入りますからねー。連休前の半ドン授業だからって遊び疲れて、月曜日にダウン!なんてしちゃってたら先生泣いちゃいますからねー。分かりましたか?先生とのお約束なのですよ!」
いかに見た目が若かかろうが言動の端々に歩んできてた道のりの長さは現れてくるもので、絶賛ティーンエイジ中の高校生たちの脳内を
(…半ドンってなんだろうか?)
に染め上げっていった。
教師の言葉の尻を見ると同時、教室全のあちらこちらから喧騒が湧きたち、その多くはこの後の遊ぶ算段を立てる声であった
(あそこのスーパーが特売だったし帰りに牛肉でも買って帰るか?今日はちょっと贅沢に白滝三割増のすき焼きパーティーじゃい!インデックスが食い足りないようならうどん玉をスタート同時にぶち込めば…ガハハㇵ勝ったな)
などと上条家の主婦、上条当麻は今晩の食卓を夢想していると素っ頓狂なイントネーションの関西弁が、
「おいっすカミヤン!連休中は元気してたんか?」
「相も変わらず胡散臭い関西弁だな?そういえば長期連休中は実家の秋田に帰省したのか?青髪ピアス」
その滑稽さに似合わない長身と常識はずれで不自然な青い髪の色、上条当麻のクラスメイト・青髪ピアスである。
「ちちちち、違うわ!アホか!ボクは小麦粉とお笑いの国からやって来た。っていっつも言うてるやろがい!うちの家庭には魚醤文化なんか根付いてません!だいたい秋田ではしょっつるのお値段高すぎて観光地用の飲食店位でしか使ってねえよ!」
「誰もそこまで秋田のトピックスなんて聞いてねえよ…」
「そ、そうかいな。それはそうとカミやん、せっかく二年生で新しいクラスになったわけだし。ここは固めの杯代わりにみんなでこのあとパーッと遊ばないか?そんでそのあとは焼いたお肉なんかを突っついたり苦いソーダと一緒に突っついたりなんかしてさ!」
「おお!そりゃいいなインデックスとオティヌスも呼んでいいか?」
「ああかまへんかまへん、美少女?シスター?大歓迎やないですか!んなもんお金払ってこっちが呼びたい位ですわ!…あとカミやんボクはええけど大声で美少女フィギュアの名前を呼ぶのは控えた方がええよ?変態であっても紳士であれが僕らオタクの生きる道ですわ」
上条の貧乏すき焼き計画は頭の端っこに蹴飛ばされたことはさておき
秋田県民の提案は野火のようにクラス中へ広がり
「遊び倒して焼肉?いいじゃねーか」
「えーまたお肉?去年もすき焼きだったじゃない!もっとヘルシーな魚介とかさ」
「ほかの学校の奴も似たようなこと考えてるだろうしとりあえ店抑えとくぞ?」
「ジンギスカン鍋なら野菜たっぷりだし女子でもいいんじゃね?」
(今日は。上条君の横を必ず。キープしてみせる)
「姫神ファイト!」
「え。私の心を…怖ッ」
「土御門君は今日どうしたのかな?」
その火を広がるたびに勢いを増していく。なんだかんだでこいつらは似た者同士なのである
「つかさやっぱこの人数で遊ぶってなるとカラオケ?」
「曲全然まわってこないな」
「上条のとこのインデックスちゃん可愛いよね」
「でもでもカミやんとどういう関係なのかな?知りたい知りたい!」
「上条、貴様は絶対アルコール飲んじゃ駄目だからね!」
そしてその火の熱量が最高点に達したところで
「あ、上条ちゃんはこのあと補習ですからちょっと残っておいてくださいー」
消された。
午前上がりということで生徒たちはさっさと市街区にでも繰り出したのであろう先ほどまでとはうってかわってガランとした校内の廊下を並んで歩く上条と月詠
よくやってくれやがったな…と恨みがましそうな視線を向ける留年生(仮)に教師は
「だ、だいじょーぶなのですよー今日はそんな時間とるようなことはないですから、すぐにみんなと合流出来ますよー」
「ほんとにほんとですね?お肉食べ損ねたら先生に文句言いますからね?こういうとこからクラスの孤立やいじめは生まれていくんですからね!」
「ああ殴りたい!教師という肩書がなければこの馬鹿を殴りたい!」
そうこうするうちに一年生の教室が並ぶフロアからはだいぶ離れ、去年までは倉庫代わりに使われたいた一室の前で足を止め、上条にここで待つようと伝えた月詠は扉を開け、教壇へ歩を進め馬鹿みたいに明るい声で
「はじめましてー!こんにちはー!みんなの人生の先生になる月詠小萌なのですよー!小猫ちゃんたち!」
「……よろしくお願いします」
だだっ広い教室の中でたった1人反応した舞殿星見の極小の返事が妙に響いた。
オーディエンスの反応の悪さを気にするそぶりも見せず月詠教諭は続ける
「今日から一年みなさんの青春の手助けをさせてもらいます。皆さんの貴重な一年が実りあるものになるよう尽力していくつもりなのでみなさんも分からない事など気軽に私に声かけてくださいねー」
待っていろと言われたものの手持ち無沙汰に飽いたのか、上条は月詠が開けっ放した扉から頭をのぞかせ教室の中を観察してみると
(教室の中に机は7つ、生徒は5人…一つは俺の席として…休みなのかな?)
チンアナゴのように頭だけ出してキョロキョロしてる上条がいい加減目障りになったのか呆れた声で
「待ってろって言ってるのにー…いいですからもう入ってきてください。えー小猫ちゃんたち喜ぶがいい!青春の一ページに花を添える憧れの先輩の登場だ!ほら早く上条ちゃん入ってきて挨拶しちゃってくださいね」
おやつを待ちきれずに母親に叱られた子供のような紹介をされてバツが悪そうに入室する上条。
それを見た舞殿はおかしくて堪らないといった顔でいたずらっぽく小さく上条に手を振ると、
妙な紹介をされた緊張と4人のクラスメイト達の品定めをするような目線が気になって、上条は油が切れたブリキ人形のような不自然な会釈を舞殿に返す
「えーあーただいま紹介に与かりました…」
「いや…上条ちゃん出馬するじゃないんですからもっと気楽に」
「あーそうかはいはい、えーと俺は一年転生チート同級生上条さんですのことよ。分からないことがあったら何でも聞いてくれよな!だって俺二回目だから!」
滑った。いや舞殿は1人声を殺して笑っていた。
(殺して!誰か俺を殺してってば!大型トラックで跳ね飛ばして!もう一回やりなおさせてよお願いよ神様)
北欧の女神でもお断りしそうなお願いをリフレインしている上条を見かね
悪い夢でも見た後のようなげっそりした顔で月詠小萌はチート勇者に着席を促す。
「もういいですから上条ちゃん…そこの席に座ってください」
とぼとぼとなんとか席までたどり着いた上条当麻。
隣の席の無言で苦しそうに笑い転げてる小柄おかっぱ頭
「頼りにしてますよ、先輩」
なんとなく腹が立ったから無言でわき腹に貫手をしてやると、何故か顔を真っ赤にして黙りこくったのだが鈍感な上条当麻はきっと気づかない