とある魔術の留年生(仮)   作:ブッシュ

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ふたりぼっち その後

突然手を握られ恥ずかしいやら困惑するやらで抵抗する弓箭を引きずり、4月とはいえまだまだ寒さを覚えるロンリュウムの廊下を行く上条。

 

「わわわわ、分かりましたから!自分で歩けますから!手を放してくださいよ!というかですね、歩いて大丈夫なんですか?やったわたくしが言うのもなんなんですが?」

「手を離したら逃げるだろうが、お前は!傷の方はまあ気合だよ気合。自慢じゃないですが上条さん、こういう傷にはなれてるんでございますよ…まあ俺を気遣ってくれるなら暴れないで貰えたら助かるかな、正直脚と肩の傷がさっきから痛すぎて感覚無くなってきてる」

 

弓箭は平然とした口調で階段をずんずんと登る上条の顔を慌ててのぞき込むと、額にはじっとりと脂汗をにじませ顔は苦悶に歪んでいた。

 

「ばばば馬鹿じゃないですかね?あなた。なんでこんな状態で歩こうとか思ったんですか?」

「いやだから平気なんだって…それにお前が俺に話がありそうだったから…あの部屋で話するのもなんだろ?インデックスも舞殿起こしちゃうしお前も誰かに聞かれたくないだろうし」

「わたくしなんて無視すりゃ良かったんですよ…あなたを殺そうとした相手なんですよ。ああもういいですよ、ほら、肩!」

 

弓箭は強がる重病人の左脇に頭を潜り込ませ、肩を貸す形となった。

そして肩を借りることとなったツンツン頭は、

 

「女の子に肩借りるのって男のプライドとかそういうものが成り立たんのですよ、姫…」

 

上条の非合理でくだらない男の意地や理屈なんて一切合切無視して階段を登る弓箭は、ぽつりぽつりと口を開く

 

「わたくしなんか…無視…してくれれば良かったんですよ…今更どの面下げて上条先輩に会って…どんな言葉を伝えたら良かったんですかね?」

「それでもアンタは俺に会いに来てくれた。どんなに顔を合わせるのが辛くたってどんなに言葉をかわすのが億劫だってこうして俺に会いに来て、話そうとしてくれたんだ」

「だって…あれで…お別れじゃやっぱり寂しいじゃないですか…せっかく先輩・友達・恋人になってくれる人が…ようやく現れたって思ったのに」

 

茶色のツインテールを揺らし、いたずらを思いついた子供のような顔をする弓箭。

彼女の言葉の意図が分からず上条は黙って聞いていた。

 

「上条先輩は昨日わたくしにどうして人との関わりを嫌がるんだって言いましたね?それでわたくしは『妹に裏切られ、暗部に身を落としたから』って答えましたよね。」

「ああ、そうだったかな?」

 

弓箭はちょっとだけ口を尖らせ拗ねたように抗議する。

 

「駄目ですよ、女の子は男の子に自分との会話はちゃんと覚えていて欲しいもんなんですよ。特にわたくしみたいなぼっちにはそういうのとってもとっても効きます」

「そそそそ、そりゃ済まなかった。悪い!この通りだ」

 

上条は右手で拝むようにして弓箭に許しを請う

そんな上条の様子がおかしくてたまらないというように少女は顔をほころばせる

 

「プププ、なんですかそれは。わたくしじゃないんですからそんなどもらなくたって。…で、話を戻すと実はあの時の話でちょっとだけ嘘ついてたんです。わたくしが他人と正面から関わらない理由」

「?」

「怖かったんですよ」

 

 

昨日彼女が上条に本当に告げたかった懺悔

 

「妹がわたくしの所から消えていって、肉親の妹にすら見捨てられるわたくしは何なんだって。そんなわたくしが他人に好かれるはずないって、きっと嫌がられるかまた見捨てられるかどっちかだって。だったら誰とも深く関わらず生きていこうってそしたらあんな辛い思いをしなくたっていい。そうだ暗部に関わってるから自分は友達出来ないんだ!上手く話が出来ないのだって仕方ないんだ!って境遇のせいだと思うようにして!」

 

弓箭の語気は少しずつ荒く、そして隠していた想いがさらけ出されていく

 

「空気読めないふりをしてごまかそう!相手から一方的に憧れられる存在になればいいんだ!なんて都合いいこと夢想して。そんなことしてるうちに嘘と本当の区別が付かなくなって」

「弓箭…」

「でも上条先輩に言われて思い出したんです。誰かと関わることは傷つくことなんだって。わたくしが他人を信用しない誰とも心を開こうとしない、だから誰もわたくしを信用しない。そんな当たり前のことすら認めれなかったわたくしの弱さのせいです。ずっとずっと分かってたんですよ、でも認めたくなかった…認めてしまうのが怖かったから…誰かのせいにしていたほうがずっとずっと楽だったから。それでも…それでも上条先輩にだけは嘘つきたくなかったから…本当のことを覚えていて欲しかったから」

 

自分の中で貯めこんでいたものを吐き出して吹っ切れたのか、それとも何か別の理由なのかは分からないが弓箭は底抜けに明るい声で階段の先を見つけ声を出した

 

「ほら上条先輩!がんばりましたね屋上にとうちゃーく。ですよ」

 

階段を登り切り屋上のドアを開けると、

 

「弓箭猟虎!首輪計画参加要項違反で逮捕じゃん。」

 

上条の目に飛び込んできたのは銃。銃銃銃銃銃じゅうじゅうじゅう

防弾用のジャケットにベストと各部に取り付けられたプロテクター、そしてその両の腕には学園都市の科学の粋が詰め込まれた最新式の自動小銃が握られたアンチスキルと武装ヘリが屋上と闇の明けきらぬ空を埋め尽くし、その砲口は扉の先、一人の少女に向けられていた

 

「両手をあげてゆっくりこっちにこい。抵抗はしてくれるなじゃん…総員、銃口は下に向けろ!相手は私たちが守るべき生徒じゃん!」

 

一群の中から上条当麻の学校教師でアンチスキルの部隊長を務める黄泉川愛穂が進み出て、弓箭の投降を呼びかける。

弓箭は上条をそっと降ろし、壁にその身を預けさせると上条に別れの言葉を告げる。

 

「上条先輩、お別れです。出会って一日足らずでしたけどわたくし…貴方に出会えて嬉しかったです。いつかまた出会えたその時は…その時は今度こそ本当のお友達になってくれますか?」

「おい、待てよなんだよこれ!弓箭!」

「舞殿が言ってたじゃないですか、私たち特別クラスの生徒たちは計画の一環で釈放されただけ…問題を起こせば当然統括理事長は許しはしない…」

 

言い終わるや両手を上げ黄泉川の元へ歩みだす弓箭

上条はそんな少女の後ろ姿を見てメキメキメキとありえない力で右こぶしを握る

 

「…んな」

 

悲鳴を上げる全身を気合で黙らせ立ち上がる。無理やりふさいだ傷口吹き出る血なんて意にも介さず弓箭よりもはやく黄泉川の前に立ちふさがって吠えて見せる

 

「ふざけんな!勝手に捕まえて勝手に放り出して意に沿わないからもう一回檻に放り込む!?お前ら何様のつもりなんだよ!」

「上条、気持ちは分かるがこれは計画で決まってることじゃん!ここは抑えてくれ」

「クラスメイトが捕まるって言ってんのに黙って見送るほどこっちは人間が出来ちゃいないんだよ!だいたいなんだ?たった一人の女の子連れてくるのにこんな大仰な人数と武器をもって!一方通行が決めたことなのかよ!?」

「……」

「気に食わない意に沿わない奴は暴力で押さえつける…それじゃあ暗部使ってた時と何も変わらない…そんなことも分からなくなってんのかよ一方通行は!」

 

上条と黄泉川…鼻が当たるのではないかと思うほど詰め寄る上条のきつく握った右手は四色…七色…いや白金の輝きを帯びだす。

 

「上条先輩、もういいですから大丈夫ですから」

「弓箭、お前逃げてんじゃねーよ!さっき言ってたじゃねーか友達になりたいって!いつかなんて未来になんかの話じゃない、あるかどうかもわからない仮定に身を任せてんじゃねえ!お前がどうしたいのかをお前の言葉で教えてくれよ!お前が望むんなら俺は学園都市と逆らってだってお前を守ってみせる」

「わたくしは…わたくしは…一人はもう嫌です!みんなと上条先輩とお友達になりたい!おしゃべりしたり休日遊んだり、恋をしたりしたいんです!」

「了解だ!後輩!」

 

弓箭の想いを受け取った少年は凶悪な笑顔でアンチスキルの大軍に向き直る

 

「黄泉川先生、これは俺たちの我儘だって分かってる。ルール違反なんだってことも知ってる…それでも俺はこの我儘だけは貫き通すぞ!」

「上条、自分が言ってる意味が分かってるじゃん?統括理事会への反逆すればこの街の殺意がお前を削り殺すじゃんよ?」

「分かってる」

「弓箭猟虎は殺しの味を覚えた人食い虎じゃん?それでもお前はその娘を守るって言ってるんだな?」

「ああ」

「あの一方通行に逆らっても?」

「たった一人の少女も守れない生なんてこっちから願い下げだ」

 

少年の決意を聞き黄泉川愛穂は呆れた顔で重たい息を吐く。

 

「馬鹿みたいな青春野郎にはかなわないじゃん…総員、撤収準備!予定通り順次ヘリに乗り込むじゃん!」

「黄泉川どういうつもりだ!許可なく上の命令を破棄するなんて正気じゃないぞ!」

 

アンチスキルの一人が予想外の黄泉川の命令に噛みつく。

統括理事会の意を現場が無視するという異常事態なのだから当然と言えば当然の行動であった。

 

「もともと気が乗らないじゃん、生徒に銃を向ける命令なんて」

「そういうことを言ってるんじゃない!大体また弓箭猟虎が暴れ出したらどうするんだ!」

「その時は私たちが止めるじゃん…何度でも何度でも…不穏分子だから殺処分してめでたしめでたしなんて結末は認めるわけにはいかないじゃん!だから今日は撤退じゃん!」

 

それから一刻、アンチスキル全部隊は散を乱さず規律を保ったまま病院屋上から撤収し、最後の兵員が消える頃には空に日の明かりがちらついていた。

 

「弓箭、もうお別れなんて悲しいこと言うなよ…」

「すすすすすみませんでした上条先輩!」

「あ、でも俺も一つお前に嘘ついてたわ」

「へ?」

「友達になるじゃなくて俺とお前はもう友達だろ?」


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