とある魔術の留年生(仮)   作:ブッシュ

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スウィートホームに帰ろう!

アンチスキル撤退から2時間後の午前8時、上条当麻はビジネスホテルで朝食を食べ終えた旅行客のように慌ただし気に退院の準備を整えていた。

 

「何度も言うようだがね…君の右肩のトンネルは無理やり止血用ジェルをねじ込んでふさいでるとはいえ、学園都市の医療技術でも通常は数週間かけて治療していくもんなんだよ。そのへん君はどう思うんだね?」

 

それを呆れた様子で眺めているのはいつものカエル顔の医師。

その界隈では死体以外なら冥界から無理やりでも患者を連れ戻す冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)なんて異名で謳われた凄腕医師であるのだが、そんな専門家の忠告なんてなんのその我らが主人公、上条当麻はこう言って憚らない

 

「え?嫌ですよ。入院代いくらかかると思ってんですか?」

 

人の命は地球よりも重く貴重なのは議論の余地もない事実だが、さりとて人の命では明日の晩御飯は買えないというのもまた動かざる真実…流石は右腕が勝手に生えてくる男の面目躍如といったトンデモ理論である。

 

「いやはや君の身体の不思議さは十分理解してるつもりだったが、一番の不思議は君の思考形態だね…脳みそをもう一度調べてみる必要があるのかもしれない。ああ気休め程度だが鎮痛剤と止血チューブを渡しておくよ、なに心配するな、これはお得意様への私からのサービスだよ」

 

返す言葉を失ったのか冥土帰しは紙袋を上条に押し付け「君は血の気が多すぎる。健康な時にすこし献血に協力してくれないか」などと皮肉交じりの言葉を残しさっさと病室から出ていってしまった。

 

「まさか医師が患者に金がないからこんなとこにいられるか!などと言われるとはいささか同情の念を禁じ得ないな」

 

上条の服のポケットに隠れていた知恵の神様はそうぼそりと呟いた。

 

 

 

                    ◆

 

 

「おーインデックス、舞殿、弓箭待たせたな!」

 

一階受付フロアで清算を済ませ、正面玄関から手を振って出てくるツンツン頭の少年。

彼の後ろでは看護師たちが塩を撒くなどという科学の都においては忌避すべき習俗を行っているのは知らぬが仏。兎にも角にも馬鹿は今日も元気であった。

 

「とうま!うけつけっていうのはもう終わったのかな?病院内のレストランの品ぞろえは豊富だし私としてはもうちょっととうまが入院してても良かったかも。え、その紙袋何かな?お菓子?それともお肉かな?」

「先輩、経済事情が苦しいのでしたらわたくしが少々お貸ししましょうか?無理をされてお身体を崩されたら本末転倒ですので」

「おおおおお金がないのでしたら、わわわたくしがお支払いしますよ。なになに心配しないでくださいよ。わたくしたちのお財布は将来的には一緒になるんですから、えへへ」

 

上条の持っている紙袋をさっさと取り上げ中をガサガサ漁るインデックスに、なぜだか知らないがお互いにメンチ切りあう後輩たち。

 

「弓箭、元はといえば貴方がやったこと…先輩に四の五の恩着せがましく言うまでもなくあなたが支払いをすべきでは?あと財布が一緒になるなどという妄言は今すぐ取り下げなさい」

「舞殿、上条先輩が言うならまだしも他人のあなたが口出しすることじゃねーんですよ!あと貴方とわたくし若干お嬢様キャラ被ってんですよ!さっさとヤンキー口調にでも鞍替えしやがりなさい!」

「ねーとうまーこのチューブ食べられるの?クリーム?ジャムかな?えーお薬?つまんないんだよ!」

 

舞殿がそこら中の車を持ち上げだし弓箭はどこからともなく拳銃を取り出しインデックスは犬歯をむき出しこちらに走りかかってきた。

どうにもこうにも病院の前で血を見そうな展開にあたふたする上条を理解者はくつくつと笑う。

 

「クククなるほどなるほど、これは愉快な光景だな人間。今からでも入院しておいた方がいいのではないかな?」

「何余裕ぶってんですかね?この妖精さんは!あーーーーもう不幸だーーーー‼」

 

 

 

どうにかこうにか暗部屈指の実力者たちの争いを拝んで願って有体にいうなら土下座してなんとかおさめた上条当麻。

弓箭に撃たれた傷よりもインデックスに噛みつかれた頭の傷の方が深刻なのはココだけの秘密である。

そんなこんなの病院からの帰り道、昨日舞殿が漏らした一言が気になり舞殿に質問してみる…

 

 

「そういえば舞殿、昨日下宿先に届いた荷物を片づけたいって言ってたよな。なんか悪いな…こんなことになっちゃって…この連休もし手伝えることがあるなら何でも言ってくれよな」

「いえどうせ大した荷物もありませんしほんの一時間もあれば済む話ですよ、お気になさらず。でも、先輩がそういって下さってることですし少し甘え…」

「舞殿もこう言ってることだし上条先輩はぜーんぜん気にしなくていいんじゃないですかね?それよりも上条先輩はこの連休なにか予定があったりしますか?わたくしは上条先輩以外友達いないからすっからかーんなんですけどね!」

「先ほどは先輩の顔立てましたが余程死にたいんですかね?弓箭は?」

「そっくりそのままその台詞をお返しいたしますよ、舞殿」

「ああもうわかったから!上条さんが悪かったから二人ともいい加減仲良くしようよお願いよ!」

 

一難去ってまた一難、仲がいいんだか悪いんだかのこのコンビの一触即発に上条は勢いとオネエで乗り切ろうとするが、そういえばそもそもの根本的な質問をもう一度繰り返す

 

「てかさお前ら、さっきから俺らと一緒に歩いてるけどうちの女子寮全然違う場所だぞ?大丈夫なのか?」

 

上条の質問に二人の後輩は顔を見合わせ何すっとぼけたこと言ってやがんだこいつと言わんばかりの顔をしこう答えた

 

「先輩、まさかですが何も聞いてないんですか?」

「いやなんも知らんが」

「上条先輩、わたくしたち5人の下宿先って男子寮ですよ?」

 

時が止まった…男子寮に5人の美少女をぶち込む。学園都市の非常識ぶりは散々理解してきたつもりだった上条だがまだまだ彼の認識は甘かった。

なにせこの街はあの変態魔術師アレイスター=クロウリーが生み出した最高傑作。そしてその後継者も恐らく常識などとは程遠く、そもそもそんなもの意に介さない人間に違いない。

男女の垣根などはなから問うのがナンセンス。学園都市の闇はなお深く濃いのであった。

 

「「さあ帰りましょう私たちの家に!」」」

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