とある魔術の留年生(仮)   作:ブッシュ

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幸せなら荷を解こう その荷

八重桜の荷解きと収納はほんの30分足らずで全てを終えた。しかし未開封の段ボールがあと2つ…

収容所から出て来たばっかりだから荷物なんて殆どないけど、よくよく考えたらいらないものもあるし明日捨ててきちゃいますね。と本人は笑っていたが、それでも女の子ならもうちょっと物入りなのではなかろうか?などと考えを余所に、八重本人はインデックスと一緒に引っ越し蕎麦を絶賛料理中であった

 

「さくら、なんで引っ越ししたらご近所さんにお蕎麦を配るのかな?」

「僕も詳しくは知らないんだけど、私と細く長く近所付き合いしましょうみたいな理由だったと思うよ?」

 

台所から聞こえるぐらぐらと湯が煮え返る音、それと共に日本人とイギリス人の引っ越し蕎麦についての異文化交流。

リビングで何ともふわふわと煮え切らぬ二人のやり取りを聞きながら、上条当麻は困惑していた。

 

(あれあれ?なんにもないまま日が落ちちゃいましたよ?これはどういう事なんですかね?上条さんの事だからここらで一発ドイツあたりに招聘されて同棲騒動なんて有耶無耶になると思ってたんですけど、神様は何でこういう時だけトラブル持ってきてくれないんだよ!あー不幸だ)

 

「……い」

 

なにせ女子高生と同棲なのだ。ちょっと考えただけでも困りそうな案件が山積みである。

ここでうひょー!ラッキー!なんてのんきに喜べる奴はよっぽど幸福な人生を送ってきたに違いない。

 

「……ぱい」

 

そもそも論ではあるが男子寮に女の子を住まわせるってどうなんだ?一方通行の野郎殴り過ぎて頭がおかしくなったんじゃないか?

今度会ったらもう一発くらい殴ってやれば正常に戻るだろうか?

なんて愚にもつかない実行不可能な想像が浮かんでは消える。つまり末期症状。完全に呆けていた。

 

「当麻先輩!」

「っ!ふぁい!」

 

不意に耳朶に響く自身の名前。

たわいもない思索は途切れ意識は現実に舞い戻る。

 

「当麻先輩、ひょっとして寝てました?すいません起こしちゃって」

「あ、いやーちょっと寝てたかな…でも気にすんな。で、どうしたんだ?」

 

意味もない嘘をつく上条。視線はきょろきょろ定まらず、何故か声が上擦る。

 

(落ち着け!落ち着け!上条当麻。アリサがこの家に泊まった時は平気だっただろうが!つまり経験者、こんなことぐらいで動じる必要なんか全くない!)

「おい童貞、お前ちゃんと起きてただろうが、つまらん嘘つくなよ」

「おいオティヌス!」

 

上条の上着のポケットからひょこりと顔を出し、狸寝入りを八重にチクる陰謀の神オティヌス。

なんとなく恰好がつかなくて変な笑いが込み上げる。

 

「はははは、そうだっけ?ああそういえばそうね上条さん起きてたねうん」

「ええええええええなんですか当麻先輩!この人形!凄い精巧な上に今喋りましたよね!?」

「え?そっち」

 

あらためていうまでも無い事だが、普通の高校生だのなんだの言ってる上条当麻の常識もだいぶズレている。

そりゃそうなのだ。上条当麻の狸寝入りより15センチ前後の美少女人形がよどみなく動き、喋ることの方がどう考えてもインパクトが強いに決まってる。

八重は上条のポケットからひょいとオティヌスを持ち上げる

 

「工科標本(アナトミーメカトロニクス)ですか?それにしてはサイズが少々小さいし、あの計画って蜂の女王様がぶち壊したんでしたっけ?はーよく出来てるなー」

「おい!何をする!コラ離せ!気安いぞ小娘!おい理解者、わたしの危機だ!どうにかしろ!」

「すまん、詳しい事は後で話すからオティヌスを離してやってくれないか…それに人形じゃないんだ」

「あ、はい!すいません」

 

上条のお願いに八重は素直にオティヌスを床に降ろす。

 

「ぜーぜー、愛玩動物の寿命が短い理由が分かった気がするぞ…」

 

息が切らしながら全能の神はいそいそと安全地帯(上着のポケット)に潜り込んでいき、頭も見えなくなった。

上条はその様がなんとなくおかしくてくすくすと笑う。

笑ったのと魔神様から「覚えていろよ」などとありがたい言葉を頂戴したので妙な緊張もほぐれ、上条は八重桜が自分の名を呼んだ理由を尋ねる。

 

「で、お前は俺になんか用があって呼んでたんじゃなかったのか?」

「そうだったそうだった!すいません僕忘れっぽくて。お湯も沸騰してあとはお蕎麦を茹でるだけなんで、その前にアイツ等誘ってこようと思うんですけど?インデックスちゃんも行きたいっていうし申し訳ないんですが当麻先輩、お留守番しててもらえませんかね?」

「とうまも行く?」

「うんにゃ…お前らだけで行ってきな。あと八重これからずっと一緒に住むんだから、そんな俺に気を遣わなくてもいいんだぞ?」

「ずっと一緒に…うん…はい、そうですね!了解しました!それじゃ行こうかインデックスちゃん」

 

右手で軽く敬礼のポーズをとったかと思うと素早く身を翻し、インデックスの手を取り部屋を出た

その背中を見送る上条当麻も気を取り直し、

 

「よっしゃ!いっちょ上条さんも姫神直伝サクサク天ぷらでも作りますか!明日の昼飯にもなるしね!ッ!痛った!なんか蹴った!」

 

いつもの不幸を通常運行し、上条は八重の持ってきた廃棄予定の段ボールを足の小指で見事に引っかけた段ボールは無残ひっくり転げ、梱包が十分でなかったのか中のモノが床に散乱する

 

「あー不幸だ―。八重が帰ってくる間に詰め直さなきゃな…」

 

床に散らばってる多くは紙の束…いや多くは手紙だろうか?

悪いとも思いつつも自然と上条の視線は文面の捉えた。

 

「狸寝入りの次は手紙の盗み見か、随分と趣味がよろしいことで」

「分かってるよ!」

 

先ほど人形扱いされたことに腹を立てた妖精さんはポケットのなかから皮肉交じりの言葉をぶつけてくる。

それを無視し、文面に目を戻すとそこにあったのは八重がかつて在籍したであろう学校のクラスメイト達からの惜別の手紙。一つも二つも同じ事とばかりに他の手紙も盗み見るがまた同じような内容。次も次も次もその次も…

ぶちまけた段ボールに目を戻すと手紙だけではない多数の寄せ書きの色紙の束。

 

「これが二箱全部かよ…」

「そんなに不思議がることは無いだろう?お前の後輩たちの素性と任務の性格を考えたらひと所に留まってる方がありえない。普通に考えたら転校と入学を短期間に繰り返すに決まってる。小娘の異常な私物の少なさもそのあたりが原因と言ったとこだろうか?」

「オティヌス、あいつこの段ボール箱2つとも捨てるって言ってたよな」

 

オティヌスの言葉を頭では理解しても心が納得しようとしない。

あの八重桜という少女はいったいいくつの別れを体験したのだろうか?いったいいくつの諦観を味わったのだろうか?暗部だから…任務だから…人を殺したから…そんな機械的な理由ですべてを割り切れるような人間であったならばよかったのだろう。学校など一時の止まり木に過ぎないと渇いた意見を言えるような人間なら良かったに違いない。ただ彼女がそんな味気ない人間でないことはこの2つの段ボール箱が証明していた。

 

「それを決めたのはあの小娘だぞ?そこに介入するのは親切のつもりかもしれないが大きなお世話でしかないと思うが?」

「でもオティヌスは俺がどうするのかなんて最初から分かってるんだろ?俺の理解者だもんな」

 

小さな魔神は口の端を持ち上げて不敵に笑う。

 

「違いないな、人間」

 

 

 

それから10分後、インデックスと八重桜は玄関のドアを開け快活な声で帰宅の挨拶をして。

 

「ただいまなんだよ~とうま!」

「ただいま戻りました、当麻先輩。あいつらあと10分ぐらいで来るそうですよ!全くフレンダの奴には困っちゃいましたよカレーサバ蕎麦にしろって…あれ当麻先輩?また寝ちゃいましたか?」

 

返事がないことに不信がり、リビングに上がるとそこには段ボールの中身をぶちまけて中身の手紙を収納棚にぶち込んでいる上条当麻とオティヌス。

 

「あー悪いな。インデックス、八重ちょっと手が離せなくてな。あれ?これサイズ合わないぞオティヌス」

「全くお前は粗雑すぎるこうやって…マジか?入らんぞ!」

「ちょ!無理やりこじ入れようとすんな!オティヌス。前から思ってたがお前は魔術も性格も力ずくすぎるぞ!こりゃ駄目だな、明日新しい棚でも買ってくるか?」

 

色紙いっぱいに書かれた別れの寄せ書きがを相手に悪戦苦闘するおせっかい二人組。

 

「このお馬鹿とうま!女の子の荷物勝手に開けちゃったの?マナー違反なんてもんじゃないんだよ!」

「見ちゃいましたか…あはは…いやだなー当麻先輩…もういいですって、それ捨てちゃいますし。どうせ邪魔でしょそんな物」

 

八重桜の顔から笑顔が消える。

 

「それでも捨てれなかったからここにあるんだろ?家財なんかより衣服や宝飾なんかより、ずっとずっと大切だってお前は思ったから捕まろうがどうなろうがお前はこれを抱えてたんだろ?」

「でもきっと邪魔ですって、そんな大量な思い出」

「いいじゃねーか邪魔だって。きっとそれも含めていつか美しく感じる時だって来るよ。俺にはお前の過去なんて分からない、それでもお前がここまで抱えてきた過去も含めてお前と一緒に暮らしたいよ、俺もインデックスもオティヌスも」

「忘れちゃった方がきっと楽ですよ…」

「そうかもな。それでも面倒抱えて喧嘩して泣いてそして笑って……ああやっぱ駄目だこりゃ、八重明日みんなでお前の買い物いくぞ!ここにある収納じゃ全然足りねーよ!」

「どうして…そこまでするんです…捨てるって言ってるんですよ僕は」

 

八重桜の顔は泣いていたのか笑っていたのか。

 

「知ってたか八重?家族ってのはめんどくさいもんだよ…今日から俺らの家族だろ?お前も」

 

 

彼らは知っているだろうか引っ越し後の隣人に配る蕎麦の意味を

貴方の「傍」に細く長く一緒にいたい

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