「というわけなんですよ、はい」
後輩兼同級生達×5と常盤台レベル5×2の邂逅で、一悶着があったりなかったり上条の右手が動員される羽目になったのだが、上条と遅れて合流してきた黒子たちの必死の制止によりなんとか両者を引き剥がし。
自身とその後輩たちの現状について、怒り狂うお嬢様たちに説明する留年生(仮)上条当麻。
「ちょっと!なんかずいぶん端折られたような気がするんだけど!」
「あらあ?御坂さん野暮なことはいいっこなしなんだゾ。それにしても…」
食蜂は怪訝な視線で対面に座る5人の少女を一瞥すると
「元暗部とはいえ女子高生5人を男子寮に放り込むってのも随分乱暴な話よねえ。しかも八重桜にいたってはあなたと同居……まったく新統括理事長はどうかしちゃってるんじゃないのかしら?」
「あん?あの一方通行がどうかしてるってのは昔からじゃない。シスターズをレベル6シフト計画を名分に1万人以上殺したようなやつよ」
「それについては御坂さんに全く同意見なんだけどお…ここまでメリットが無いような真似をする男だったかしらって意味よ」
酷く物騒な話を織り交ぜつつ人指指を眉間に押し付け可愛らしく小首をかしげる食蜂に揉み手の上目使いでお伺いを立てる
「えへへ、そういうわけでしてですね。ええ上条さんはこいつらの新生活を快適に送らせるためにお買い物に来たわけでしてね、やましい事とか一切無いわけですよ。それじゃこの辺で我々はお暇させてもらうでげすね?」
「先輩。先輩は何もやましい事をされていないのでしたらそんなにへこへこされる必要もないのではないでしょうか?」
「こら舞殿!せっかく上条さんがこの場を穏便に収めようとしてんだ!大人しくしてろ!大体お前等と御坂たちは喧嘩っぱや過ぎるわ!俺の右手だけじゃ対応しきれねえんだよ!いらない事言うんじゃありません!って…あれ…」
ちゃっかり上条の隣に陣取っていた舞殿星見の言葉でいらぬトラブルを引き起こしかねないと判断した上条は彼女の口を押えよと手を伸ばしたものの、神のいたずらかはたまた万有引力の乱れか勢い余ってその異能を破壊する右手の行方は狂い舞殿の慎ましやかな胸板に
「ひゃっ!先輩は私のどこ触ってるんですか!馬鹿なんですか!」
「ああもう不幸だ…」
「不幸ってなんなんですか…私の胸はそんなに忌むべきものなんですか……御答えになってくださいな?」
上条の胸倉を鷲掴んでグワングワンと新手の健康器具のように揺らす舞殿。
半べそこそかいているがまんざらでもなさそうに見えたのは上条の見た胡蝶の夢に違いない。
「御坂さんも照れ隠しは電撃を飛ばすんじゃなくてえ、あれくらいマイルドにやらなきゃ駄目じゃないいかしらあ?」
「うっさい、私のはそういうんじゃないから!つーかこんな説明じゃ納得が全然いかない。あの一方通行がわざわざ莫大な人員と資金を投入して実行したオペレーション=ハンドカフスをなんで今さら覆すようなことすんのよ?」
目の前の馬鹿騒ぎを余所に御坂は上条が説明によって分かった情報をもう一度吟味しだす。
「さっき上条さんが言っていたように暗部解体によって失われた利権、防諜・治安上の優位の回復じゃあ納得できないのかしらあ?」
「ノーね。それじゃあ辻褄が合わない。食蜂もさっき言ったように一方通行は狂人だけどそこまで無意味な事はやらないわ。オペレーション=ハンドカフス実行後の損益を織り込まずに行う馬鹿じゃない」
「それもそうねえ…じゃあ人道上の観点から未成年者の長期拘留を嫌って…とか?」
ずいと身を乗り出し二人の会話へ割り込むように弓箭はそれを否定する。
人見知りをする彼女には非常に珍しい事であるのだが、それでもこの話題は無視出来なかったのであろう
「ご冗談。そ、それこそありえませんよ。お、お二人もあの計画で暗部、警備員両サイドにどれだけの血が流れたかご存知なのでは?あああ、あれだけのことをやっておいて今さら未成年だから学校に通わせて更生を狙うなんてお優しい感性をあの化け物がお持ちになっていらっしゃるとは思えませんから、フヒ」
「なるほどねえ。まあ私もあれにそんな感情があるなんて思ってはないわあ」
「そ、そもそも上条先輩に私たちが預けられた意味は何なのでしょうか?い、今となっては嬉しいというか、その恋の予感というか、運命の出会いって想いがあふれ出してですね…計画名『首輪』ってのもな、なんかいやらしいというか、いあやそのへんな事意味じゃなくてですね、なんというかそのうんえへへ」
「ああこのコミュ症スナイパー結局ぶっ壊れちゃったわけよ、長々と初対面の相手と喋るから!」
((こいつもか…))
弓箭が頭のネジがはじけ飛んだのは良いとして確かにそこが鍵になってくるのだろう。
上条当麻…昨年の世界を巻き込んだ数多の大乱。そして常にその中心にいた少年。
(結局またこの馬鹿が血を流して、身を削って、骨をきしませなきゃいけないの?)
きっとこの少年を巡ってまだまだ世界は揺らぐ。軋む。歪む。
その時に自分は彼の隣に立っていられるのだろうか?彼と同じものを見てあげられるのだろうか?
そう考えると御坂の手には自然と力が入り握った掌に爪が食い込み、皮を破る
「お、お姉様…?」
「……」
御坂の露払いを自称する少女はパートナーの異変に気付く。そしてもう一人
「なーにしょぼくれてんだ御坂」
「へ?」
「お前らしくもない。上条さんお前から電撃が飛んでこなくて調子狂っちゃいますよ」
「あんた、私は今そんなこと言ってるんじゃ!つかあんたの事なのよ!もっと真剣に…って!へっ!」
上条は御坂の肩を掴み御坂を自身へ向き直させる
「ありがとうな、俺の為に色々悩んで心配してくれてんだよな。上条さん馬鹿だからそういうの苦手でさ、いつもお前には助けて貰いっぱなしで」
「いや、その、私は別に、そういう、つもりじゃ、なくて、でも」
瞬間湯沸かし機のように自身の頬の火照りが増していくのが分かる御坂は、しどろもどろとまるでいたずらのバレた子供のようにあわてふためく。
「俺には一方通行が何を考えてるか何を俺にやらせたいのかなんて分からない。ひょっとしたらもう一遍アイツと殴り合わなきゃいけないかもしれない。この街を敵にしなきゃいけないかもしれない…それでも俺はやっと表の世界で生きていきたいと思ってる舞殿たちの手助けをしたい」
「うん」
「もしお前が良かったらでいいんだ。もし俺がドン詰まって失敗してどうにもならなくなった時はまた俺に力を貸してくれないか?」
「よ、喜んで。て、ていうかまたいつもみたいに置いてきぼりにしたら許さないわよ!なんかあったら連絡してきなさいよね!」
「うわ、馬鹿ですか!御坂!ホントに電撃飛ばす奴があるか」
統括理事会から押し付けられた厄介事。本来であればこの少年が負う必要など一切ない重荷。
それでも彼はきっとそれを笑って背負うに違いない。御坂が好きになった上条当麻とはそういう人間なのだ。
ならば、自分は彼の荷を少しでも軽くしたい。彼が傷つかなくて済むような道を模索してあげたい。
これは御坂美琴が背負うべき荷などではない。
なるほどつまりは彼女も同じ。御坂美琴とはそういう人間なのであった。
「あらあらお姉様ったら。殿方に良い役割あげ過ぎちゃいましたかしら?まあいいですわ幸せそうですものお姉様」
「あらあ、白井さんは愛しのお姉様を取られちゃってもいいのかしらあ?」
「その言葉そっくりお返ししますわ、クイーン」