喫茶店での長い長い小休止の後、食蜂の提案によりこの後揃ってで買い物をすることとなった。
とはいうもののこの大人数、しかもそれぞれが趣味も嗜好も経済力もてんでバラバラの為に、結局は思い思いの店舗に散らばっていく。
そして我らが心の兄貴上条当麻はお財布事情が一番近しい佐天・初春となんとなく同行している真っ最中。
居並ぶセンス良く並べられた雑貨や衣類、レジャーグッズを手にとっては値札を見てびっくりするというウィンドウショッピングを楽しむこととなったのだが
「ほら見てくださいよ。これなんて私に似合いそうですかね?上条さん」
「いや可愛いとは思うけどよ、なんで春にわざわざスキーウェアなんて見てんだよ佐天」
「やだ上条さん、今学園都市で流行ってるんですよ?屋内型ウインタースポーツ施設って。ってウェアだけで11万円って、うへーこりゃ駄目ですねえへへ」
「はーそういうもんなんですかね」
マーブル柄のスキーウェアを体に押し当てて、こちらに感想を求めてくる佐天涙子に圧倒されてたじたじになりながら毒にも薬もならないような感想を繰り返す上条当麻。
全部同じようなもんだろ?と舞殿に答えて危うくダイヤノイドの染みと化すところであった数時間前の反省が生きていた。
「あの!上条さん!私も男性の感想とか欲しいんですけど!み、見てもらってもだ、大丈夫ですかね!?」
男性と話すのが緊張してるのか変に大声になってしまっている初春を見て、悪いなと思いながらもその様がおかしくなって笑いをかみ殺しつつ初春の声がする方に行くと
「こ、これなんてどうでしょうかね?上条さん」
そういって見せてくるのは、この少女の年齢と体型にはいささか不釣り合いな派手で露出度の高い真っ赤で金属やらがジャラジャラ付いたビキニ水着。
上条当麻はフリーズする。魔術師の仕業ではない。
「えーと…その…」
「へ?どういう事ですか?上条さん」
(これを見せてどういう感想を求めているっていうんですかね、この娘は?うーん君によく似合ってるねなんて言ったらとんだセクハラ高校生じゃねーか!)
言葉に困り悶々と考えていると救いの神が上条当麻のポケットから小声で呼びかける
「おい、ソフトオンデマンド!その手の映像を見すぎでおかしくなってるんじゃねえのか?女子中学生からエロ水着の感想聞かれるなんてそんな面白おかしいシチュエーションが現実であるわけないだろうが!あの小娘の手元をよく見てみろ」
「オティヌスてめぇ、人をなんつう呼び方で!つかお前と戦う直前で似たような事あったわ!…って手元?」
初春の手元には可愛らしいワンピースタイプの水着が
「あーうーん、そうね、うん。そういう感じなんだなああハイハイ分かったわ。完全に分かった。上条さん分かってしまいましたよ」
「ふえっ!どうしちゃったんですか?突然」
つまりはこうである。
男性と喋るのに慣れていない初春は緊張のあまり上条に感想を聞こうとした本来の水着と手元に会ったスケベ水着を取り違えてしまったというわけである。
本当にこんなことあるのかどうかなんてどうでもいい、本当に起こってしまったのだから仕方ないのである。
ネタが割れてしまえばあとは簡単、初春にそれとなく取り違えを伝え本来の水着の感想を伝えてしまえばいい。
「初春さん…あの」
「初春なにそれ!無茶苦茶エッチじゃん!そんなの選んじゃうなんて冒険し過ぎじゃないの!」
「何言ってるんですか?佐天さん…ってはわはわわああああああ」
店内に響き渡るノンデリカシーのオーケストラ。
何の騒ぎかと他の来店客も上条達の方へと視線を向けだし、それに気づいた初春は顔を真っ赤にして思考を停止させた
「おい!佐天何やってんだ!初春さん連れて他の店に行くぞ!」
「ええ~でも私はもうちょっとこの店で見たいものが…」
「うるせー!ほら、ささっと行きますの事よ」
「ああもう、ちょっと待ってくださいってば!上条さん!」
比喩でも何でもなく文字通り逃げるように店を後にし、その店からだいぶ離れたところで上条達は
「酷いですよ!佐天さん!あんな大声であんな…あんなこと言わなくなったっていいじゃないですか?」
「いやー初春も成長したもんだって嬉しくてついね」
「ついね!じゃないですよ!も~もうあの店行けないじゃないですか!まあどっちにしろ高くて買うのは無理なんですけど」
「ほらでもさ上条さんはエロいの喜んでたみたいだし結果オーライじゃない」
突然爆発寸前の爆弾を上条に放り投げてくる佐天
やはりこの彼女にはデリカシーというものは無いようで
「喜んでねえよ!お前はいったい俺をどういう目で見てんだよ!」
「上条さんはウチの初春がエロ水着着ちゃいけないっていうんですか?そんな薄情な人だって言うんですか」
「佐天さん!もうやめてください!余計恥ずかしいですってば!ううう」
◇
それから数十分後、初春は隣を歩く上条に問う
「それはそうと上条さんは私たちと一緒に来て良かったんですか?御坂さんや食蜂さん、あの高校生の方たちと一緒に居た方が良かったんじゃないんですか?いや私はその男性とこういうとこ歩くのって新鮮で楽しかったんですが」
いくらか不安そうな顔でこちらを気遣う花飾りの少女に上条の答えは簡潔だ。
「来るなだってさ。」
「へえ?」
素っ頓狂な声を出す初春。それは彼女が思っても無いような回答だったからだ。
だって御坂や食蜂からすれば、この少年とデートが出来る願っても無いチャンス。
あの女子高生たちにとってもそれは同じだろう。
それを自分たちに上条を預けるというのはなんとなく腑に落ちない。
「御坂と黒子にあのキラキラ中学生もなんか俺に進級祝い買ってくれるみたいで。そんな大層な事じゃないから大丈夫だって言っても聞かなくて…だから自分たちが何を選ぶか見て欲しくないって」
「それはまた難儀というか御坂さん、白井さんらしいというかですね…」
「舞殿たちもなんかそれに向こう張っちゃって、そもそもお前らは新入生で後輩なんだからむしろこっちが買う側だっつうのに上条さんの言う事なんか一切無視ですよ」
「アハハ、それは上条さん慕われてるんですよ」
なんとも微笑ましい理由で自分たちにお鉢が回ってきたんだなと思い、初春の顔がほころぶ。
それならば今日一日彼女たちの代理としてこの少年を自分たちが楽しませようと初春は上条の手を取り
「だったら上条さんもみなさんにお返し選ばなきゃですね!ほらあっちの方は比較的お手頃なお店が並んでるって白井さん言ってましたしあっち見てましょう。ほら佐天さんも!」
「ああ、うん…あ、上条さんと初春は先行ってて。私もうちょっとだけまだこっち見たいから」
そういうと佐天は初春の指差した方とは真逆の方向に足早に駈け出し、キラキラと光る装飾と廊下のせいだろうか?あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「どうしたんでしょうかね?佐天さん」
「さあ?まあまた合流するって言ってたんだから先にあっちの店をチェックしてようぜ、初春さん」
「そうですね!それじゃあ行きましょうか」
と歩きだした矢先に後ろから馬鹿みたいに明るくて特徴的な声が響いた
「ちょっと待つ訳よ!」